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contraband


ストーリー Story

 木の根にでも乗り上げたか、馬車は縦に大きく跳ねた。
 幌車の内も無事では済まない。積み上げられた木箱がかしぎ、ひとつが【ルガル・ラッセル】の足元に落ちている。
 この世のあらゆるものを罵る言葉を短くつぶやくと、ルガルは額の脂汗をぬぐった。
 ますます効きが悪くなってきやがった。
 少しでも気を抜けば一気に戻ってしまいそうだ。
 ――獣(けだもの)の姿に。
 手を伸ばせば届く場所に例の仮面はある。白く、穏やかな表情をした聖女をかたどったものだ。あれを顔につけ数呼吸もすればたちまち、この苦しみから解放されることをルガルは知っている。
 だが仮面に頼りたくはなかった。
 かつて仮面の効果は高く、一度かぶれば数日は穏やかな気持ちでいられた。なのに現在ではもって半日、下手をすれば数時間せぬうちに新たな発作が襲ってくる。
 少しずつ、少しずつ仮面に異存せざるを得なくなっているのだ。
 待ち構えている運命はおそらく二つしかない。
 獣か。
 隷従か。
 燃えさかる石炭の上を素足で歩くがごとく、破壊衝動に灼かれつづける獣人に逆戻りするか。
 人の姿ではあれど仮面――それはとりもなおさず仮面の作り手【ナソーグ・ペルジ】とイコールである――に隷従するか。
 いずれかを選ぶしかないのだろう。
 吐き気を抑えるようにしてこらえる。仮面に伸びそうになる右手首を左手でつかむ。汗がしたたり落ちた。いましばらくだ。いましばらくこらえれば衝動は消える、そう信じながら。
「ルガル」
 音もなく幌をめくり、小男が馬車に這い入ってきた。
 御者台から器用につたってきたようだがルガルはとくに何も言わない。
「顔色が悪いな。大丈夫か」
「……じき収まる」
「そうは言われてもな」
 小男は片目をすがめた。
 小男はヒューマンだ。中年というより初老、頭はまことに髪が少なく山芋のようにこぶだらけ、目ばかりぎょろついていて歯並びもひどい。ずいぶんな悪相だ。着ているものも麻の粗衣で風体のあがらぬことこのうえなかった。しかしどことなく愛嬌があるのも事実だった。
「肝心なところで役に立たないようじゃ困るぜ」 
 男――【アーチー・ゲム】は言うも、ルガルは無造作に手を振る。
「給金に見合う働きはする」
 ようやく発作が鎮まりはじめた。ごろりと横たわってつづけた。
「蛟(ミズチ)が数体と言ったな。その程度なら案ずるには及ばん」
「けどよ……」
 不審顔のゲムを片手を挙げて制し、ルガルは言った。
「ずいぶんあるな」
 背後の木箱を眼で示す。ぎっしりと積み上げられたものだ。これを輸送することが旅の目的である。
「中身は薬草だぜ」
「よく言うぜこの悪党が」
 苦み走っていたルガルの顔に皮肉な笑みが浮かんだ。
「ただの薬草運びにこんな危ねぇルートを使うやつがいるかよ。しかも俺みたいな男を用心棒に雇って」
 禁制品だろうが、と断じるもそれ以上ルガルは追求しなかった。破格の報奨金に口止め料も含まれていることは百も承知だ。
「悪党? 俺は商人、求められて荷を運んでるだけだ。需要あるところに供給ありさね」
 ゲムもクックと喉の奥で笑って、
「それに薬草って言ったのはある意味嘘じゃない。常用性はねぇが痛みや憂さを晴らしてくれる。どうだルガル先生よ、ご所望ならひとつ、格安で譲ってもいいが」
「いらん」
「病気なんだろ? 少しはマシにしてくれるぜ」
「俺の『病気』には効かねえ」
 そんなものでごまかせるのであれば苦労しねーよ、と言いながら無意識のうちに、枕代わりにしているザックに手が伸びている自分にルガルは気付いた。
 舌打ちして手を引っ込める。
 仮面を取り出そうとしていたのだ。
 またひとつ、大きく馬車が跳ねた。
 しかも斜めに傾いて制止する。
「ちっ……!」
 なんだ、と立ち上がろうとしたゲムにルガルは鋭い一瞥をくれた。
 人差し指を立て唇に当てる。
「父様(とうさま)!」
 ばっと幌がはためき少女が飛び込んできた。剽悍(ひょうかん)と表現したくなる鋭い目つきに赤い髪、よく日焼けしている。右手には弓、背に矢筒があった。
「罠です。車輪が沼に……包囲されています!」
「包囲!?」
 娘を押しのけてゲムは幌をはね上げて首を突き出し、すぐに首を戻した。
「マジかよ……やつら、待ち伏せしてやがった」
 おい、とゲムが目を向けたときにはすでに、ルガルは片膝立ちの姿勢となっていた。腰の剣も払っている。
「ゲム、てめぇ言ったよな。蛟が出る地域をかすめるかも、って。……なにがかすめるだ馬鹿野郎! 生息地のど真ん中じゃねーか!」
「早く着くにはこれしかなかった」
 ゲムは蒼白だ。ルガルは返事を待たずゲムの娘に言った。
「小娘、やつらは何匹だ」
「小娘ではない。あたしには【ヒノエ】って名がある」
「うるせぇ! 何匹だ!」
「三十……はいる。もっとかも」
 蛟(ミズチ)は爬虫類から派生したと思しきモンスターだ。顔はトカゲそのもので鱗に覆われ、鋭い牙、そして長い爪を有する。沼沢部に生息し二足歩行し身長は150センチ程度、黒ずんだ灰色でずんぐりとしており、亀のような甲羅を背負っている。
 ゴブリンよりは知性があるがコミュニケーションを取るのは不可能に近く、性質はきわめて残忍とされている。
 五、六体の小規模集団で行動するのが常だというが、今回ばかりは例外のようだ。複数の部隊が待つところに飛び込んだだけかもしれないが。
 ひゅ、と音がして馬車の車体に何かが突き立った。矢だ。
「相手が多すぎる。しかも馬車は動かねぇと来たか」
 厄日だな、とつぶやいてルガルは幌に手を掛けた。
「娘、てめえはオヤジを守れ。俺が突破口を切りひらく。そこを抜けて走るんだ」
「積み荷は」
 ゲムが口を挟んだ。ルガルは即答する。
「あきらめるんだな」
「やつらを追い払おう! あたしも戦える!」
 ヒノエが意気込むもルガルは大喝した。
「くたばる気か! 相手の数を考えろ!」
 わかったな! と言って車外へ飛び出さんとしたルガルだが、幌から半身を出したところで身を強張らせた。
 ミズチたちが動揺している。一角では戦闘が始まっていた。
 見覚えのある制服姿。きらめく刃と魔法。
「フトゥールム・スクエアかよ……積み荷を追ってきたのか」
 疫病神め、とルガルは毒づくとゲムに顔を向けた。
「雇い主はお前だ。選べ」
「選べ?」
 そうだ、とルガルは言った。
「先に蛟を始末するか、亀どもに乗じてフトゥールム・スクエアを始末するか」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2020-10-28

難易度 難しい 報酬 通常 完成予定 2020-11-07

登場人物 6/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《甲冑マラソン覇者》ビアンデ・ムート
 ヒューマン Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
●身長 148センチ ●体重 50キロ ●頭 髪型はボブカット。瞳は垂れ目で気弱な印象 顔立ちは少し丸みを帯びている ●体型 胸はCカップ 腰も程よくくびれており女性的なラインが出ている ●口調 です、ます調。基本的に他人であれば年齢関係なく敬語 ●性格 印象に違わず大人しく、前に出る事が苦手 臆病でもあるため、大概の事には真っ先に驚く 誰かと争う事を嫌い、大抵の場合は自分から引き下がったり譲歩したり、とにかく波風を立てないように立ち振舞う 誰にでも優しく接したり気を遣ったり、自分より他者を立てる事になんの躊躇いも見せない 反面、自分の夢や目標のために必要な事など絶対に譲れない事があれば一歩も引かずに立ち向かう 特に自分の後ろに守るべき人がいる場合は自分を犠牲にしてでも守る事になんの躊躇いも見せない その自己犠牲の精神は人助けを生業とする者にとっては尊いものではあるが、一瞬で自分を破滅させる程の狂気も孕んでいる ●服装 肌を多く晒す服はあまり着たがらないため、普段着は長袖やロングスカートである事が多い しかし戦闘などがある依頼をする際は動きやすさを考えて布面積が少ない服を選ぶ傾向にある それでも下着を見せない事にはかなり気を使っており、外で活動する際は確実にスパッツは着用している ●セリフ 「私の力が皆のために……そう思ってるけどやっぱり怖いですよぉ~!」 「ここからは、一歩も、下がりませんから!」
《人たらし》七枷・陣
 ヒューマン Lv18 / 賢者・導師 Rank 1
異世界:情報旅団テストピアという所に住んでいたが、とある仕事の最中に、この世界に強制転移してしまった。 普段は一人称おじさん。真面目、シリアスな場合はオレ。 本来は50手前のアラフィフおじさんだが、何故か30歳以上若返ってしまった。強制転移した経緯が原因と思われるが真偽は不明。 普段はいかに自分の得意分野だけで楽出来ないかを考えているダメ親父的な人間。 自分や同行する仲間が危機に陥ると気合いを入れて打開しようと真面目モードに。 厄介事に巻き込まれるのは嫌い。お金にならない厄介事はもっと嫌い。でも一度関わってしまったら何だかんだ文句言いながら根気よく取り組む。 やれば出来る人。でも基本ダメ人間。 恋愛事は興味をあまり示さない枯れ気味な人。超若返っても現状は変わらず。 どうにかして元の世界へ戻る為、フトゥールム・スクエアに入学。 転送、転移関係の魔法や装置を徹底的に調べる事が目下の目標。 魔法系の適性があったらしいので、雷系を集中的に伸ばしたいと思っている。自前で転移装置の電源を確保出来るようにしたいのと、未成熟な体躯のフォローとして反応速度メインの自己強化が主な理由。理想は人間ダイナモ。 転移直前まで一緒にいた仲間の女性3名(マナ、マリア、マルタ)の安否を心配している。 「はぁ~…どうしてこんな事になったんだ?…おじさん、ちゃんと元の世界に戻れるんだろうか…こんな厄介事は前代未聞だよ…トホホ」
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

 禁制品(contraband)を密輸する業者を追い、みなさんは沼沢地帯に到着しました。
 標的の馬車は一台きり、メンバーは【アーチー・ゲム】とその娘【ヒノエ・ゲム】だけです。
 ですが彼らが【ルガル・ラッセル】という用心棒を雇っていることを皆さんはまだ知りません。

 先に遭遇したのは蛟(ミズチ)の集団でした。
 蛟はみなさんを見るなり襲いかかってきました。皆さんが反撃を開始したところからリザルトノベルはスタートします。

 戦闘のさなか、みなさんは目的とする馬車を見つけることになるでしょう。
 そして馬車からは旧敵のルガルが現れます。

 本エピソードの目的は2つです。
1.蛟を討ち取るか追い払う
2.大量の禁制品を押収する

 ゲム親子も捕らえたいところですが、これは絶対条件ではありません。乱戦の結果ふたりとも死亡したとしても成功とします。親子も捕まりたくはないので必死で抵抗するでしょう。
 ルガルの身柄確保を狙いたいかもしれません。しかし彼を苦しめる発作は終わっており、目的1と2を達成してさらに……となると相当の難易度となるでしょう。

◆敵について
【蛟(ミズチ)】
 沼沢に住むモンスター、立ち上がったリザードマンといった印象で、甲羅をもつので体重は重いことでしょう。棍棒や槍、単純な弓などで武装しています。鎧は着ていませんが外皮には鱗があります。
 知能は低く魔法への耐性はないようです。
 最低でも三十はいる集団で援軍もあるかもしれません。こちらと同数程度まで減らされると逃げ出す可能性があります。

【ルガル・ラッセル】
 フトゥールム・スクエアにとって因縁浅からぬ相手です。ぶっきらぼうながら義理堅いところもあるので、雇い主の密輸団のために尽力します。

【アーチー・ゲム】
 密輸業者で蛟より小柄なヒューマンです。短刀で武装しています。
 
【ヒノエ・ゲム】
 アーチーの娘で弓の名手です。ルガルのことはよく思っていないようですがその実力は信用しています。


作者コメント Comment
 桂木京介です。

 戦闘シナリオです。枯れたような木が点在するほかは、最低でも足首までは埋まるような沼地が舞台です。
 蛟(ミズチ)という名の敵は沼地が得意地形、しかも数が多いのでてこずりそうです。剣で、魔法で、あるいは知恵や技能を活かして戦って下さい。

 戦いは三つどもえの構造をとっています。
 蛟とみなさん、そして密輸業者です。
 密輸業者にはルガルという超強敵、そしてヒノエという弓の名手がいることもお忘れなく。
 現時点では密輸業者側の行動方針は伏せております。こちらの方針はこれから決めることになりそうですね。
 ゲム親子&ルガルに共闘を持ちかけるか、逆に蛟と一緒になって業者を滅ぼすか、あるいは……?
 ただ闇雲に戦うだけではなく少々戦略的な行動も必要になるかもしれません。

 それでは次はリザルトノベルで会いましょう。
 桂木京介でした!


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●作戦と分担
禁制品の押収、ルガルと対決

●事前準備
共通方針:禁制品は押収。アーチーたちは見逃す
方針が割れた場合は多数決でに従う。

●行動
まずは蛟に襲われた救援に。
『勇者原則』を掲げて飛び込み、『正義一迅』
親子を襲う敵を優先して倒し『その積荷を置いて、早く逃げなさい!』と。
『その積荷』を強調し、捨てれば情状酌量してやると察せられるように。
その後は『ウィズマ・アーダ』で攻めつつ、受けて返す『通常反撃』スタイルで駆逐。

ただしルガル、お前はダメだ(断言)

蛟との決着寸前にルガルまで取り付き、あらゆる手段で追いすがり
今のルガルを聞き出してやる。一人で抱えてなにができる。
無駄でも寄り添うくらい許させろと、迫る。

ビアンデ・ムート 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
*目的
禁制品の回収。可能ならゲム親子の捕縛

*行動
●方針
まずは蛟の撃退を優先
そのためにも親子やルガルさんに共闘してもらいたいところです

●戦闘
蛟の数が多いので、囲まれたり各個撃破されないために、盾役として最前線に立って『挑発』してなるべく攻撃が来るように仕向けます

敵の攻撃は【防護魔力】を展開した『太陽の盾』で【全力防御】をして耐えます
一気に攻撃を受ける事になりますが【不屈の心】で耐える、『グロリアスブースター』で加速をかけた押し返しで距離を空けてから『特急薬草』で回復するなどして持ちこたえます

死角からの攻撃には【危険察知Ⅰ】で事前に察知する、『身代わりうさぎ』で備えるなどして対応します

七枷・陣 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
蛟を撃破し、禁制品を押収する

【行動】
蛟の弓に注意しつつ箒で飛んでゲム親子の傍へ先んじて近づく
その傍でヒドガトルを蛟の群れへ乱射し
蛟のヘイトを生徒とゲム親子&ルガルへ絞らせ
共闘せざるを得なくするように行動

箒で上空から蛟へ各種魔法攻撃をお見舞いして近接戦闘をする味方を援護

禁制品押収後
ゲム親子&ルガルの逮捕に対しては消極的放置
味方の確保行動に対しても邪魔はしないが助けもしない
ただしゲム親子達が禁制品取り返そうとするなら返り討ちにするよう試みる
あくまで依頼の禁制品を返すべきところへ返す事に尽力する
ルガル達に因縁無いし、こちらとしてはお仕事だからね、仕方ないね

エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
全体方針
・蛟を倒すために親子・ルガルとの共闘を了承させる【説得】【会話術】
・禁制品は押収する
・可能であれば親子の捕縛(蛟撃破後も抵抗が続いた場合)
・それ以上は無理をしない(親子やルガルが逃走してもやむを得ない)

最初は自分たちに向かってくる蛟のみ撃退し、ルガルたちに向かう蛟は放置し、
「禁制品を置いていくなら後は追わない」と、蛟の撃退の為の共闘を要請する。
共闘を断られた場合は父親>娘>ルガルの優先度で捕縛を狙い、逃亡は見逃す。
共闘を受け入れた場合は約束は守る。逃亡しなければ自首を勧める。

敵へはフドを使用して戦い、とどめを刺すより負傷者を増やすことで、撤退を促す。
負傷した味方はリーラブ・薬草で回復。

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:270 = 90全体 + 180個別
獲得報酬:6000 = 2000全体 + 4000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
◆方針
蛟討伐と禁制品回収は必須
可能であれば、蛟廃除まで親子との共闘を狙う
親子が共闘を飲むなら共闘し、蛟討伐

共闘を飲まないならば、こちらも援護はやめ防戦寄りに動いたり、こちらに被害がなければ傍観気味に動く等、親子が音を上げるまで逃げられない程度に放置
その後、改めて共闘の申し出があれば共闘

◆応戦
後方から戦況を注視しつつ仲間の援護
基本は負傷者へリーライブで回復したり、毒・麻痺を受けた者をデトルで治療

散り散りになったら敵の数に押されて、こちらが各個撃破されかねないかも
ある程度はまとまって動いて、互いの死角をフォロー

蛟が避ける場所は深く埋まるかも
そういうところは避け、逆に蛟を深みに追い込む等し動きを制限

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
禁制品の確保か
なかなかに大変なことになりそうだな

共闘とかの問答は面倒なので取り敢えず蛟の相手をすることにしようか
基本的に襲いかかって来た個体優先で
絶対王セイッ!、基本鎌術Ⅳ、マド、ウィズマ・アーダを使用し戦闘不能にしていこう


ゲム親子は共闘するしないにしろ警戒しておく
オレが向こうの立場だったら乱戦中にこちら側を害してスキを作って逃亡を試みるからな

攻撃してきたらプチシルトで自分や味方を守り、オーパーツ・レンズのビームで相手の馬車の車輪を破壊しよう
余裕があるなら相手側の誰かにあぶないおくすりを投擲しよう
逃亡の妨げ、禁制品の確保の一助にはなるだろ

アドリブA、絡み大歓迎

リザルト Result

 湿った土の匂いが立つ。砕けた木片が舞い散る。
 木の根を削っただけという無骨な、ごつごつした棍棒が襲ってきたのだ。
 不意打ちだが【ビアンデ・ムート】は盾でしのぎ、
「……っ!」
 全身をばねのように使って押し戻した。
 泥の飛沫が上がる。のけぞった敵は沼に転倒した。
 跳ねかかった泥に構わずビアンデは敵対者を観る。
 顔はトカゲに似て細かな歯がびっしりと生え、背中には甲羅らしいものを背負っていた。針のように細い瞳孔が見えている。
「なんだこいつら!?」
 おじさん聞いてないよと【七枷・陣】が言った。今回は禁制品を運ぶ密輸業者を追うという話だったからだ。
「蛟(ミズチ)ね、沼沢地を好むモンスター。実際に目にするのははじめてだけど」
 即答したのは【エリカ・エルオンタリエ】である。
「本で読んだ通りだとすると蛟は」
 単独行動はしないはず――とエリカが言う必要はなかった。
「囲まれている!?」
 鞘走りの金属音。鉄粉を撒いたような冷ややかな香。【フィリン・スタンテッド】が剣を抜いたのだ。
 フィリンの行動は早かった。【仁和・貴人】と連携を取って【ベイキ・ミューズフェス】ら後衛職を守る位置どりを終えている。
 沼地だ。枯れ木がまばらに生えており物陰、あるいは透明度の低い水面下から次々と蛟が姿を見せたのである。
 蛟は前からも左右からも、背後から現れた。ざっと見て十数体、もっとあるかもしれない。
 打撃武器をたずさえているものが大半だったが、粗末ながら弓矢を構えている蛟もいる。金属製の武器を持つものは少ない。あったとしてもまるで手入れができていない。殺害した人間より奪ったものだろうか。
 多くの蛟はシューッと蛇のような掠れ声を発している。
「あそこに」
 ベイキが指さした。貴人もうなずく。
「例の業者だな。オレたちと同じく、ワニガメ集団のお客さんになってるみたいだが」
 少し先だ。沼地に車輪をとられ、傾いたまま立ち往生している幌馬車が見えた。二頭の馬は怯え汗を飛ばし身をよじっているものの、よほど深くはまっているらしく馬車は動かない。幌の内側はこの位置からはうかがえなかった。
 ベイキは目を凝らす。
「馬車にいるのは二人……いや三人でしょうか」
 貴人が応じた。
「わかるのかミューズフェスくん」
「勘です。荷を運んでいてあの大きさの馬車なら、それくらいが妥当でしょう」
「たしかにな」
 もともと蛟たちは馬車を狙っていたものらしい、車体には矢が数本突き立っている。
 エリカは両手で杖を握りしめていた。陣に告げる。
「蛟は文献によっては『沼ゴブリン』と表現されたりもする。ゴブリンとは全然系統が違うんだけどね」
「つまりそれくらいの強さってことか。おじさん安心したよ」
 数が多いので本当は『安心』じゃない、わかっていてあえて陣は強がったのだ。
「乗り越えてみせよう」
 陣は袖をまくる仕草をした。オーバーテクノロジーの産物たるグロリアスボディは、身体に密着する形状でまくれるような袖はない。しかし気持ちのうえでは落ち着く。
 方針を決めましょうとフィリンが言った。
「あの馬車を守るか、見捨てるか」
「あなたの中では答は出ていますよね?」
 ビアンデは微笑んで答えた。
「私も同じです」
 と。
 うなずくとただちに、泥を蹴立てフィリンは駆け出していた。
 密輸業者であっても人命であることにかわりはない!
「フィリン・スタンテッド、参る! スタンテッド家の、いえ、フトゥールム・スクエアとしての誇りを守り使命を遂行せん!」
 フィリンは刃をふるい馬車を狙う蛟に挑みかかった。剣の描く軌跡には、一毛の迷いすら含まれていない。
 散発的に矢が飛んできた。矢羽根すら整っていない粗悪品なので狙いは正確ではないが、それゆえ軌道が読めない。
「いだっ!」
 陣はうずくまった。味方をくぐり抜けた矢が膝に突き立ったのだ。とっさに引き抜くも火がついたように痛む。あふれた血がすねを伝い沼を赤く染めている。
 だがまもなく、ミントティーを口に含んだときのような清涼感とともに陣から痛みが退いていった。
「大丈夫ですか」
 ベイキが治療魔法をほどこしたのだ。細長い指先から冷たく心地のよい波動が出ているのがわかる。ベイキの透き通った深緑の瞳が輝きを増していた。
 痛みはまだ残っているものの急速に陣の体は楽になる。
「サンキュな」
 冷静さをとり戻すと陣は馬車までたどり着いた。背を幌車に向けている格好。
 不安だ。幌馬車の内側からの反応がまだないのだから。
 最悪、密輸業者が飛び出してきて背後を襲われる恐れもある。
 同じ気持ちなのだろう、ちらっとエリカが幌に目を向けた。
「よし、おじさんにいい考えがある」
 司令官風に言い切ると陣は、ぴったりと幌車に身を寄せて、
「お届け物でーす、亀のヘイト宅急便ですよー……セット!」
 投げろ投げろと火焔球、手当たり次第に投げつけた。灼熱の赤が音を上げて飛ぶ。蛟に当てることが目的ではない。もちろん当たればいいがそれよりは、幌車のすぐ前の人間が攻撃しているのだとわからせることが狙いだ。
 効果てきめんだ。蛟たちが怒りをあらわにしたのがわかった。陣と馬車に向けて。
「あービビって亀さんたちに魔法ブッパしちゃったよー」
 あえてしらじらしく聞こえるように、陣は幌に向かって告げた。
「まぁこれで一蓮托生になっちゃったんだし、この場限りだろうけどよろしく頼むよ」
 馬車内の業者たちを強引に共闘に持ち込んだということだ。
 貴人も同じ考え。よしと一声泥水をかき分け、馬車を背に大鎌を振り上げる。
「密輸業者さんよ、面倒だから問答はしない! 死にたくなかったら協力しろ!」
 同時に貴人は黒豹のように、押し寄せてくる敵迫る敵、その先頭から順に横薙ぎを浴びせかけたのである。
 六人は円陣の隊形を組み、馬車を守るようにして蛟と対峙した。なし崩し的に馬車と六人、これに敵対する蛟たちという構図が完成した。
 モンスターはひるんだがごくわずかなことだ。即座に逆襲に転じた。戦略というものはないらしい。ただ大声を上げ数に任せ押し寄せてくる。反り返った刃で、あるいは木の枝を削っただけの槍で。
 エリカの背後で弓鳴りの音が聞こえた。
 射られた? と身構えたがそうではない。矢はエリカの頭上を越え、ビアンデと交戦中の蛟の側頭部に突き刺さったのである。ばしゃっと水飛沫たてて蛟が斃(たお)れる。その屍体を乗り越えて新手が来る。
「あなた密輸業者ね……女の子!?」
 エリカは目を丸くした。
 眼帯の荒くれ男でも出てくるのかと思いきや、矢筒を担ぎ馬車から飛び出したのは、フィリンやビアンデと同年代の少女だったのだ。毛皮に体を包みバンダナを頭に巻いている。
「フトゥールム・スクエア! よくも我々を巻き込んだな!」
 さらに一矢ひょうと蛟に放つ。臂力(ひりょく)があるのだろう。小弓ながらかなりの勢いだ。
「ご挨拶ね、先にピンチになってたのはそっちじゃない」
 エリカが言うも、ふんと鼻で笑い少女はさらに矢を継ぎ引き絞る。
「あたしの足を引っ張るな。都会育ちが!」
 エリカは少女に返事せず息を吸い意識を集中した。一点に集めた精神の力を解放する。風の球に変えて放つ。魔法弾の名はフド。高速回転しながら蛟の肩に食い込み悲鳴を上げさせた。
「都会育ち? おあいにく様、わたしは学園育ちよ」
 そもそも学園に入るまではどこで育ってきたかなんて覚えてないけどね――とまでは言わない。
 少女はエリカを観て鼻を鳴らしたがもう不平は口にしなかった。
 正義一迅フィリンの突きは、蛟の喉(のんど)を刺して貫く。
「敵対するなら容赦はしない!」
 突き倒して叫ぶ。馬車の中にはまだ人がいる。そのことをフィリンは意識していた。
「積荷を置いて早く逃げなさい!」
 積荷という言葉を強調した。禁制品さえ捨てれば叙情酌量すると言外に告げている。
 馬が暴れたせいで馬車がさらに傾いだ。
「ひぃい!」
 頭をかかえ馬車から転がり落ちたのは貧相な見た目の中年男だ。
「救え! 救えルガル! 俺と娘を!」
 泥まみれになって叫ぶ。
 ルガル!?
 フィリンは我を忘れ振り向いた。
「危ない!」
 ベイキが叫んだが遅かった。
 油断した。フィリンの隙をつき左右両方から蛟がくらいついてきたのだ。一匹は棍棒、もう一匹は大槌のようなものを振り回している。
 剣で棍棒を受け流したものの槌を横腹に食らう。
 息ができない。それほどの鈍痛だった。
 しかしフィリンにそれ以上の被害はなかった。
「させません!」
 盾が泥に取られ間に合わない。ならばとビアンデは我が身を使い、肩から先に蛟に体当たりした。棍棒を握ったまま蛟は大きくはね飛ばされ枯れ木に激突している。
 大槌の蛟がたどった運命はもっと悲惨だ。
「邪魔だよ」
 熱したナイフでバターを切るように、いともたやすく【ルガル・ラッセル】の剣に両断されたのだから。
 魔か。
 人か。
 ルガルの足元から瘴気のようなものが立ちのぼっている。
「ルガル……やっぱり!」
 腹部をかばいつつフィリンは立ち上がる。
「どうしてここに」
「聞いた声かと思えば」
 だがルガルは彼女を一瞥しただけで、空いた手で【アーチー・ゲム】のベルトをつかんでもちあげた。
「うろたえんな大将。給金分は働く。てめぇの娘も守る」
 ルガルの登場は瞬間的に、戦場に巨石を落としたような効果をもたらした。一瞬だが蛟たちは息を飲み戦いの手を止たのである。後じさるものまであった。
「あなたが」
 ビアンデはルガルを見上げた。話には聞いているが、ビアンデがルガルを目にするのはこれが初めてだ。
 巨(おお)きい。堂々たる偉丈夫、痩せた全身は鞭のようだ。首は太く肩の肉が盛り上がっている。獰猛な顔つき、狼の耳、変身していなくても野獣のようだった。
「こんなところで……何をしているのルガル!」
 ルガルに向かいエリカが声を上げていた。エリカを見やりもせず、
「仕事だ」
 とルガルはアーチーを馬車に戻した。
 そこでじっとしてろとアーチーに告げ、小弓で戦う【ヒノエ・ゲム】の横に立つ。
「学園生ども、てめえらも仕事をしろ!」
 言うなりルガルはヒノエの前にいた蛟を蹴り飛ばした。
 とたん、止まっていた時間が動き出したかのように蛟の襲撃が再開されたのである。
 黒い姿が宙に舞った。
「蛟か。どうやら無抵抗な旅人なんかを襲ってたみたいだが」
 貴人だ。
 跳躍する。大きく跳ねて幌車の台を蹴りさらに高く。
「オレたちみたいな相手には慣れてないだろ?」
 蛟の槍も棍棒も貴人には届かない。慌てて貴人に矢を放った蛟がいたが、彼のマントをかすることすらかなわない。
「覚えておくんだな。これが魔王の鎌さばきだ!」
 両腕でふりあげた鎌に、体重をかけ振り落とす。ガードしようと横にした棍棒ごと相手を叩き切った。
「さあ次だ!」

 なにせ敵が多いので完全優位ではないが、それでも対等以上の戦いに持ち込むことはできたようだ。
 密輸業者と共闘するという策はうまくいった、ベイキは確信する。
 一時的にせよ、ルガルという強大な力を味方に引き入れたのは助かる。それにあの弓の女の子もなかなかの戦力だ。
 しかしにわか仕込みの同盟、望ましいことばかりでもない。
 後から後から蛟が出てくる。最初に見たものの倍以上はいるのだろうか。斬り伏せても泥に鎮めても新手が追加される。
「良くない状況です……」 
 各方面に対応しようとするあまり、味方勢とくに前衛が分離しつつあることにベイキは気がついた。フィリンなどほとんど孤立してしまっている。
 そればかりではない。
「いけません! 止まって下さい!」
 ベイキは声を上げていた。誰あろうルガルに対して。
「何だと?」
 次々数体をほふり追い込みをかけようとしていたルガルはうなった。
 だがもう遅い。
 戸惑いの声をルガルは上げた。突然落とし穴にでもはまったように、沼の深みに腰まではまっていたのである。
「畜生が!」
 その状態のまま刀を振り回すが、もともとルガルが得手とする武具は鉄爪だ。姿勢が悪いせいもあって使いこなせていない。罠にかかった巨獣のように、数体の蛟に包み込まれる。
 ベイキはエリカと陣に急を知らせ、つづいてビアンデに指示を飛ばした。
「フィリンさんと合流を!」
 そのときはもう、フィリンも複数の敵に包囲され四方から責め立てられつつあった。
 油断した。
 ベイキは唇を噛んだ。
 散り散りになってしまえば敵の数に押され、各個撃破されかねない。
 数で上回り地の利もある敵なら、当然とってくる戦法だった。蛟は計算ではなく、本能でこれを知っていたのだろう。
 ビアンデは息苦しさを感じている。分厚い布でくるまれているように。
「動きが……」
 盾で敵をおしのけ、ときに盾を投げて敵を退ける。
 行動が少しずつ遅くなっているのだ。見えない糸にからめたられたかのように。
 理由はわかっていた。
 泥。
 沼地の特性が少しずつビアンデの行動を制限しはじめているのだ。疲労も蓄積している。
「でも」
 ビアンデはまっすぐにフィリンの背を見た。
 このままではいけない!
 かかとに力を込める。盾を前方に構え祈るがごとく念じる。
 その真価を試すときが来た。
「グロリアス……ブースター!」
 身につけた異世界技術が、ビアンデの体に信じがたい変化を及ぼした。まるで猛牛、突進し蛟をなぎ倒していく。
 立ちふさがるものすべてだ。
 フィリンに襲いかかろうとしている蛟も!
「ありがとう。助かった」
 危険なところだった。フィリンは滝のように汗をかいている。
「先行しすぎたようです。後退して味方勢に合流しましょう」
「そうする」
 一人で戦っているのではない。フィリンは教えられた気がする。
 それは意外にもルガルにもあてはまった。
「お前さんを助ける義理はないんだけどなあ」
 でもこれが仕事ってやつだよと、陣が駆けつけルガルに手を貸し、
「あなたが抱えている問題について後で話しましょう」
 エリカも加わった。
 知ったことかと毒づいて、ルガルはようやく沼から這い出す。
 同じ頃、貴人はヒノエと並んで敵に対処していた。
 守るは馬車である。貴人にとっては押収予定品と容疑者、ヒノエにとっては商品と父親、守る意味合いは異なるが重要なことは同じだ。
「おいカカシ」
「カカシ?」
「お前だ。その面は案山子(かかし)ではないのか、畑の」
 貴人は顔の面に手をやった。カカシ呼ばわりははじめてだ。
「違う! これにはちゃんと意味があってだな……」
 意味を尋ねてくれるかと思ったがヒノエが口にしたものは全然別だ。
「今から背を見せるが、あたしを背後から攻撃したら殺す」
「オレはフトゥールム・スクエアの学生だ! そんな卑怯なことするか!」
「魔王とか言ってたろ」
「誇り高き魔王なの!」
 とっさに怒ったものの、内心しまったと貴人は思っている。蛟が減ってきたら『あぶないおくすり』で密輸団ないしルガルを拘束しようと考えていたのだ。これでできなくなった。
「あたしを守れ、カカシ」
 言い捨てるとヒノエは束ねた赤い髪を揺らし疾走した。連続で矢を放つ。そうやって道を作る。
「追ってこいってことか!?」
 そうよとエリカが告げた。
「その先、黒い兜を頭に乗せている蛟がいる! きっとリーダー格だわ!」
「さすがエルオンタリエくんは目が利く」
 任せろと言い貴人は赤い髪を追った。でも、カカシじゃないぞ。
 エリカの言った通りだった。黒兜を斜めにかぶった蛟が見えた。サイズが大きく似合っていない。号令を下しているようだ。
 ヒノエ、貴人に続いて。
「話は聞きました」
「突破しよう」
 ビアンデとフィリンも合流する。
 これを見て黒兜の蛟は仰天したらしく、他の蛟をけしかけるだけけしかけて逃走していった。だがこんなボスに従うのは損と、大半の蛟も戦意を喪失して散っていく。
 こうなってしまえば、いくら数がいようと烏合の衆だ。
「あとは追い払うにつとめましょう」
 ベイキはもう本気で攻撃したりしない。天界の戒律書を掲げるだけで、蛟は転がるようにして逃げ出した。
 ルガルは違う。
「てめえら甘ぇんだよ! 徹底的に恐怖を仕込んでおくんだ、こういうときはな!」
 刃をふるって蛟の殺戮をつづけた。
 いまも、逃げ遅れた一体に刀を振り上げたのだが、
「やめなさい」
 ルガルの腕にフィリンが手をかけた。鋭い目で制す。
「またてめぇかよ」
 チッとルガルが舌を鳴らすと、蛟は四つん這いで逃げていった。
「今日こそ聞かせてもらうわ。その仮面は何!?」
 フィリンの手はルガルの腰を指している。
 聖女の仮面だ。乱戦で袋が落ちたらしい。剥き出しで下ぶらがっていた。
「調べたの。その仮面、呪術に使うものみたいね。ストレートに言えば呪いの品」
 これはエリカだ。ルガルの眼前に立つ。
「オ……オレの仮面は違うからな」
 貴人がヒノエに言うも、ヒノエのほうは興味がなさそうだ。
 フィリンはさらにルガルに近づいた。
「聞くまで逃がさない! 殺されてリバイバルになっても張付いてやる! ヤリ捨て野郎! 人の仮面を剥がした責任とれよな!」
 待って、とビアンデはルガルとフィリンの間に割って入った。
「フィリンさんらしくありません、どうしたんですか? ルガルさん、あなたも、一時的でも共に戦ったのですから何かおっしゃっては?」
 けっ、と首を傾けたもののルガルは告げた。
「勇ましいもんだな。だがシールドの女(ビアンデのことらしい)の言うことも一理ある。この仮面は俺が生きる術だ。蝕まれたこの体は、こいつがないともたねぇ」
 このとき、そっと小箱を懐に隠してアーチーが立ち去ろうとしていた。だが陣にあっさりと捕捉されている。
「ダメだよ☆」
 密輸業者が箱を落とすと、陣はにこりと笑った。
「行ってよし♪」
「父様。ここは命があっただけでも」
 ヒノエは父に肩を貸し後退する。彼女は振り向いて、
「あたしはヒノエだ。カカシ」
「だからカカシじゃないって!」
 貴人が抗議するが聞き流し、
「次はその面を矢の的(まと)にしてやるからそう思え」
 宣言すると去っていった。
「禁制品は押収したからよしとしましょう」
 ベイキも見逃すことにする。罪を憎んで人を憎まずだ。
 ルガルはアーチーとヒノエの背を守るようにして、振り返り姿を消した。



課題評価
課題経験:90
課題報酬:2000
contraband
執筆:桂木京介 GM


《contraband》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《人たらし》 七枷・陣 (No 1) 2020-10-24 00:06:45
賢者・導師コースの七枷陣だよ、よろしくねぇ。

とりあえず、おじさんとしてはまず三つ巴の状況を崩したいかな。
そうさなぁ…蛟と一緒に襲いかかって来る前にゲム親子に近づいて、その傍で蛟に向けて魔法乱発して、蛟のヘイトをおじさん達+ゲム親子にして共闘せざるを得ないようにしたいかな。どうかな他の人らは?

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 2) 2020-10-24 00:19:31
賢者・導師コースのエリカ・エルオンタリエよ。よろしくね。

「ゲム親子と共闘せざるを得ない方向に持っていければ」とは思うけれど、
そう簡単に向こうが受け入れてくれるかしら?
仮に共闘の姿勢を見せたとしても、隙を見て逃亡されそうな気もするわね。

荷物の押収まではできても、親子やルガルの確保まで考えると相当難しくなりそうね。

《人たらし》 七枷・陣 (No 3) 2020-10-24 00:47:45
あー、おじさん的には蛟の撃破と禁制品の押収に集中して、ゲム親子やルガルの確保は今回全く想定しない方向で行きたいからよろしく。
というか、寧ろ離脱するなら消極的放置(禁制品は見つかった。ここに”商人は”居なかった。いいね?)みたいなのすると思う。身柄確保は主目的じゃないし。ゴネて取り返そうとするなら返り討ちにはするけどね。
命あっての物種なんだ。これに懲りてくれればいいんだけどねぇ。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 4) 2020-10-24 20:02:59
勇者・英雄コースのフィリンよ。よろしく。

私も共闘、禁制品だけ処分の方向でいいかなと思う。
ルガルとは…思うところもあるし。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 5) 2020-10-24 22:10:15
教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。
禁制品の押収は必須ですね。常用性はないとのことですが、それを求めるのに大金が要るならば……良からぬ手で大金を得ようという輩も居るでしょう。

>共闘
まあ、先方が望むならば、こちらも蛟討伐がまずは優先ですし、脅威が去るまでは賛成です。
ただ、その後は互いに利害が不一致ですから……(ルガルはこちらの実力もわかってるでしょうし、まずはトンズラを親子に勧めて、拒否られたら義理堅く戦うんだろうな。とは思いますが)

《甲冑マラソン覇者》 ビアンデ・ムート (No 6) 2020-10-25 11:23:12
勇者・英雄コースのビアンデ・ムートです。みなさんよろしくお願いします

私も蛟の撃退と禁制品の押収に集中する方がいいと思います
親子は逃してしまうと再犯をする可能性が高いので、できれば捕まえたいですが状況的に難しいでしょうし……

>共闘
生き残るためなら一時的には力を貸してくれそうではありますね。状況的に戦闘中に不意打ちをしてこないでしょう
とはいえ、こちらが有利になってきたら気を配った方がいいかなとは思ってますが

どう転ぶかは本当にわからないですが、私は何があっても盾役として皆さんを守るために立ち回るつもりです

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 7) 2020-10-26 00:59:42
今のところは、

・蛟を倒すために親子・ルガルとの共闘を了承させる
・禁制品を押収する
・可能であれば親子の捕縛
・それ以上は無理をしない(親子やルガルが逃走してもやむを得ない)

という感じね。
わたしもその流れでやらせてもらおうと思うけれど、
共闘の提案を親子やルガルが素直に飲んでくれるかどうかが心配だわ。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 8) 2020-10-26 08:40:02
方向性はエリカさんの仰るような感じでいいと思います。
問題は共闘の飲ませ方ですね……まずは、親子を狙う蛟を攻撃したりと援護し、「まずは蛟をどうにかするのが先決。その間共闘しよう」等と持ちかけ、それで一旦共闘の流れになれば儲けもの。

拒否られたら、こちらも援護はやめて防戦寄りに動いたり、被害がなければ傍観気味に動いて、親子が音を上げるまで放置して、共闘の申し出があれば共闘の流れに持っていくとか。

相手の足元をみる手ですが、そのくらいこちらも強かに動かないと、すんなりいかないかもとも思ったり

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 9) 2020-10-27 06:19:13
まとめありがとう、エリカ。
方針はそんな感じでいいと思う。

>共闘
向こうも後ろくらいでしょうし、まず言葉より行動で共闘の意志と条件を見せていくべきでしょうね。

割り込んで救援し、荷物を捨てれば逃げられるような位置取りに持っていくとか…

ルガルの方は…考えはあるけど、うまくいくかな

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 10) 2020-10-27 08:09:42
>親子の捕縛
一応狙うなら、これもどうするか考える必要がありますね。
考えられるのは、ルガルの気を引いてる隙に、武器を壊したりして無力化し、ロープで縛って確保するとかでしょうか。
二人の捕縛が無理でも、ひとりでも捕まえておけば、色々聞けるでしょうし無駄ではないかと。

それに、禁制品との交換……という奥の手にも使えるでしょうし。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 11) 2020-10-27 08:24:00
>蛟
あと、こいつらを具体的にどう叩くかも考えないといけませんね。
数は30程で、増援もあるかも。
こちらが圧倒的なら、増援を呼ぶ暇もないかもしれませんが、こっちが不利なら嬉々として増援を呼んで、私らは色んな意味でおいしく頂かれるかも。

現場は敵のホームグラウンドですし、散り散りになったら敵の数に押されて、こちらが各個撃破されかねないかもしれません。
ある程度はまとまって動いて、互いの死角をフォローしたり、アタッカーは盾役の後ろから弓持ちや槍持ちの個体を優先し狙う等の分担も有効かも。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 12) 2020-10-27 18:03:03
>戦場
戦場は沼地で、足元は最低でも足首位まで埋まるようです。
あとは、枯れ木が点在するようですし、木の根元でも深く埋まる可能性がありそうですね。
木が生きてるなら、根が張ってる場所はしっかりしてたかもですが……とにかく、蛟が避ける場所は間違いなく深く埋まると思っていいのでは。

そういうところは避けて、逆に蛟を深みにはめれば、重い蛟は動きを制限されるかも。

>蛟
背中に甲羅があるとなると、背後からの攻撃は甲羅の隙間や手足、頭等を狙わないと効果が薄いかも。
その辺も注意でしょうか。