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誰がために鐘は鳴る――拠点構築・廃坑


ストーリー Story

 調査報告書を机に置き、【エイデン・ハワード】は目を閉じた。もう何度と繰り返した行為だが、何度でもせずにはいられなかった。
 ハワード先生が直面している問題――それは以前、校外授業とした坑道での出来事である。
 閉じた坑道に低級な魔物が棲みついたため、それを排除するという簡単な討伐のはずだった。しかしそこには、作為的に閉じ込められたと思しき人物がいた。そしてその人物は、リバイバルとなってその場にいた……。
 これは由々しき事態だった。リバイバルというのは、誕生時の記憶を失っている。思い出す可能性は無いと思った方が良いし、また思い出させることも酷なことであろう。リバイバルとなってなお、『シニタクナイ』と強い思念を持っていた彼女にとっては。
 リバイバルの少女――彼女をどう扱うべきか。記憶に混乱をきたし、今も学園内の医療機関で静養中の彼女を今後どうするか、それについてもハワード先生は決めかねていた。まずは回復を待つ以外はないのだが。
 そして、あの坑道――。
「お? それについてはチミに任せるよ〜! よきに計らってくれたまえ!」
 学園長直々の、その有り難く手軽な一言で、この事案はハワード先生に一任された。
 考えるべきこと、やるべきことは多くある。彼が行えることもまた多いが、どうせやるのであれば、己一人で行う理由はないのだ。

●拠点を作ろう。
「それでは、授業を始める」
 真紅の瞳で生徒たちを見据え、ハワード先生は静かに始業を告げた。
「本日の授業は、調査のための拠点作りを行う」
 ハワード先生はそう言って、黒板に簡素な地図を書いた。
 山の斜面にいくつもの坑道があり、それぞれの坑道にはトロッコレールが敷いてある。その坑道の入り口から約1kmほど離れたところに、廃坑となる前に作業員たちが住んでいたのだろう小さな村があるようだ。
「調査対象は、この坑道だ」
 いくつもある坑道のうち、最も奥まった坑道にハワード先生は星を付けた。
「この坑道を調査するにあたり、拠点を作る。また、調査がスムーズに行えるよう、坑道内にある落とし穴などの罠を解除する必要もあるし、坑道内に広間があるのでそこも中継基地として使えるように整える必要がある」
 話をまとめると、こうだ。
 拠点作りを行うにあたり、やることは大きく分けて5つ。
 1つ、坑道内の広間を中の活動拠点として整備すること。
 2つ、坑道内の落とし穴や罠を解除すること。
 3つ、魔物の襲来に備えて警備を行うこと。
 4つ、廃村を外の活動拠点として整備すること。
 5つ、生徒たちがいない状態でも、この拠点を維持できるように手を回すこと。
「廃村には幸い、枯れていない井戸がある。荒れてはいるが、畑も作る事ができそうだ。つまりこれは、拠点としての基地を作り上げるという、一大プロジェクトになる」
 故に、今後長期的に展望を持つ者は、畑を持ちたいものは作っても良いし、家を建てたいものは建てても良い。よほど突拍子のないものではない限り、自由に作って良いとする予定だ。
 もちろん、宿舎の建設も進めていくし、仕事として調査を請け負ってくれる者たちへ向けて、公営(といいつつ、ハワード先生が個人管理)の宿舎も完備していく予定だ。病院や訓練場なども充実させていく予定だ。
 チョークを置き、ハワード先生は生徒たちを振り返った。
「今回、君たちに主にして欲しいことは、1と2だ。この坑道内を活動拠点として使えるように整えることを、手分けして行って欲しい。もちろん、坑道内の活動において魔物を警戒する必要はある。全て討伐はしてあるが、この坑道はまだ懸念がある」
 前回の調査で、ゴブリンたちが坑道の外からではなく、坑道の中からわいてきたことが分かっている。すでに退路は立たれているため、新しく魔物が現れることは無いと思われるが、『そういう場所である』という意味での警戒が必要だ。そのための拠点作りなのだ。

●広間の活動拠点を整えよう。
「この広間は、廃坑となる前にも鉱夫たちの休憩所として使われていた」
 ハワード先生は新しく坑道の見取り図を書いていく。
 広間まで続く坑道はほとんど一本道で、小さな分かれ道はあるものの、深さは無い。罠を解除しておけば、一時的な資材置き場などとして活用できそうだ。落ちると火が吹き出す罠の仕掛けられた大きな落とし穴もあるので、罠を取り除いた上で、しっかり埋める必要があるだろう。
 そして広間。ここはドームのような円形をしており、ちょっとした運動場くらいの広さをしている。魔物たちは藁などを敷き詰めて布で仕切り、寝床としていたようだが、坑道の安全性が確保されるまで、この広間はあくまでも中継地点という扱いだ。
「さて、諸君。この広間にある坑道の1つが入り口と繋がっており、そしてもう1つが調査対象の坑道となっている。便宜上、AとBと呼ぶが、Aが入り口、Bが調査対象だ。これらを踏まえた上で、この広間を活動拠点として使えるように整えたまえ。なお、Bの坑道は今回、立ち入り禁止だ。いたずら心を起こした者は、処罰の対象とするので覚えておきたまえ」
 ほんの一瞬、ハワード先生から強い覇気を感じる。誰かの喉がゴクリと鳴った。
「今回、この拠点を作成するにあたり、諸君らの手を借りることにしたのは、今後の私のカリキュラムに影響を及ぼすであろうことからだ」
 ハワード先生は静かに覇気を収め、淡々と語り始めた。
「君たちは各々、それぞれの思惑を持ってフトゥールム・スクエアへ入学したことだろう。コースは多岐に渡るが、それぞれの立場によって、思うことがそれぞれにある」
 そこまで言って、ハワード先生は大きく息を整えた。
「君たちは君たちのために生きている。その命をどう使うかは、君たち次第である。そして、この学園に所属する生徒として、伝説の勇者に近い存在となること、そしてこの学園で学んでいることの意義を、私の講義では体現して欲しい」
 ただ学ぶだけではない。目の前の事件を解決するだけではない。
 その1つ1つの行動に、己の生き様、生きる理由、力を行使するその意義を、いつでも胸に抱いて物事に当たって欲しい。
「その己の生きる理由が、課題へ向かう己の姿勢を変える」
 真紅の瞳が生徒を見回した。
 その瞳に威圧の色はなく、ただ生徒たちを案じ、慈しむ光がわずかに見えたような気がした。
 最適解を出すことだけが重要なのではない。
 最適解を探すこと、時に悪手と思われるかもしれないことを選んだ己の信念に従うこと。そして、もしその悪手を選ぶのであれば、その悪手をどうやってカバーするのか。カバーすることができるのであれば、その時の悪手は、悪手ではなくなるだろう。終わりよければすべてよし、という諺(ことわざ)もあるように。
「各々の理想を表現する場として、存分に考え、行動で表してくれたまえ」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-11-13

難易度 普通 報酬 少し 完成予定 2020-11-23

登場人物 4/8 Characters
《枝豆軍人》オルタネイト・グルタメート
 リバイバル Lv15 / 魔王・覇王 Rank 1
■性別■ えだまめ(不明) ■容姿■ 見た目:小柄で中性的 髪:緑のショートヘア 目:深緑色 服:生前の名残で軍服を好む。 あとなぜが眼帯をしてる。 ※眼帯に深い理由はない。 ■性格■ 元気(アホの子) 意気揚揚と突撃するが、結構ビビりなのでびっくりしていることもしばしば。 ■趣味■ 枝豆布教 ■好き■ 枝豆(愛してる) ■苦手■ 辛いもの(枝豆が絡む場合は頑張る) ■サンプルセリフ■ 「ふはっはー!自分は、オルタネイト・グルタメートであります。」 「世界の半分を枝豆に染めるであります!」 「枝豆を食べるであります!おいしいのであります!!怖くないのであります!」 「これでも軍人さんでありますよ。ビビりじゃないであります!」 「食べないで欲しいでありますー!!自分は食べ物ではないであります。」
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《イマジネイター》ナノハ・T・アルエクス
 エリアル Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
フェアリータイプのエリアル。 その中でも非常に小柄、本人は可愛いから気に入っている。 明るく元気で優しい性格。天真爛漫で裏表がない。 精神年齢的には外見年齢に近い。 気取らず自然体で誰とでも仲良く接する。 一方で、正義感が強くて勇猛果敢なヒーロー気質。 考えるよりも動いて撃ってブン殴る方が得意。 どんな魔物が相手でもどんな困難があろうと凛として挑む。 戦闘スタイルは、高い機動性を生かして立ち回り、弓や魔法で敵を撃ち抜き、時には近接して攻め立てる。 あまり魔法使いらしくない。自分でもそう思っている。 正直、武神・無双コースに行くかで迷った程。 筋トレやパルクールなどのトレーニングを日課にしている。 実は幼い頃は運動音痴で必要に駆られて始めたことだったが、 いつの間にか半分趣味のような形になっていったらしい。 大食漢でガッツリ食べる。フードファイター並みに食べる。 小さな体のどこに消えていくのかは摩訶不思議。 地元ではブラックホールの異名(と食べ放題出禁)を貰うほど。 肉も野菜も好きだが、やっぱり炭水化物が好き。菓子も好き。 目一杯動いた分は目一杯食べて、目一杯食べた分は目一杯動く。 趣味は魔道具弄りで、ギミック満載の機械的な物が好き。 最近繋がった異世界の技術やデザインには興味津々で、 ヒーローチックなものや未来的でSFチックな物が気に入り、 アニメやロボットいうものにも心魅かれている。 (ついでにメカフェチという性癖も拗らせた模様)
《1期生》アケルナー・エリダヌス
 ローレライ Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
目元を仮面で隠したローレライの旅人。 自分のことはあまり喋りたがらない。適当にはぐらかす。 ふとした仕草や立ち居振舞いをみる限りでは、貴族の礼儀作法を叩き込まれてるようにもみえる。 ショートヘアーで普段は男物の服を纏い、戦いでは槍や剣を用いることが多い。 他人の前では、基本的に仮面を外すことはなかったが、魔王との戦いのあとは、仮面が壊れてしまったせいか、仮面を被ることはほとんどなくなったとか。 身長は160cm後半で、細身ながらも驚異のF。 さすがに男装はきつくなってきたと、思ったり思わなかったり。 まれに女装して、別人になりすましているかも? ◆口調補足 先輩、教職員には○○先輩、○○先生と敬称付け。 同級生には○○君。 女装時は「~です。~ですね。」と女性的な口調に戻る。

解説 Explan

●今回の校外授業について:
坑道遺跡群を活動拠点として構築すること。

●坑道について:
・構造:水平坑道。毒ガス、浸水などの心配はない。暗いので灯りの準備が必要。
・道中:罠の解除、落とし穴の埋め立て、灯の設置などが必要。
・最奥:正方形になった体育館くらいの広さの広間。立ち入り禁止のB坑道がある。

●広間の中継地点について:
1:簡素なだだっ広い空間にすることも可能
2:物置を設置したい(何を置くかなどもプランへ盛り込むこと)
3:坑道B、そして坑道自体への警備体制についての案を述べよ
4:食料などについての案を述べよ
5:その他

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●開拓村について:
山の斜面を利用した三段構造。
▶︎1段目:神殿/2段目:坑夫たちの住居施設・畑など/3段目:放棄された農村

1:現状、家などは傷みが激しいため、神殿以外の全てを建て替える。
2:神殿を活動拠点とするべく、整える。
3:村の開拓に際し、学園生徒には特別区画が用意されています。よほどのトンデモじゃない限り採用されます。
  特別区画は、2段目にあります。ここで畑を作るもよし、研究所を作るもよし。

そのほか:調査隊となる・調査隊を支える開拓村の住人募集予定

●その他特記事項:
・今後、当坑道の調査などは、今回のシナリオで作成された拠点の意図を汲んでの展開となっていきます。
・当シナリオに参加したからといって、今後もこの坑道に関わらなければならないという縛りはありません。
安心して楽しく拠点作りをしてくださいね!


作者コメント Comment
こんにちは、鶴野あきはるです。
コンセプトは『開拓村を作ろう』です!
なので、第一弾がこの「廃坑編」。第二弾が「廃村編」となる予定です。

これらの目的はエピソードに記載した通りですが、
このエピソードを利用して、生徒さんたちの自己実現の場になって行ったらいいな。
という願いを込めた、拠点構築授業となっております。
皆さま、面白おかしく、楽しく拠点作りをしてください!
(ハワード先生に喋らせると、妙にシリアスになって困っている私もおりますです……)


個人成績表 Report
オルタネイト・グルタメート 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
心情
「ふふふ、ここは一度きたであります。任せるであります。」

メイン目標
坑道内の落とし穴や罠を解除すること。

行動
行動開始前に、前回坑道にあった罠の内容を共有。

トラップ解除に勤しむ。
【危険察知Ⅰ】や【事前調査】で罠の位置を共有。
一つ一つ解除をする。
暗い場合は「ピカピカ腕輪」か「キラキラ石」で光源確保。



※立ち入り禁止には入らない

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
坑道内の広場に拠点構築か・・・
まぁ、いろいろ考えてみるとしようか

まずは事前調査で坑道の周りの地形の調査や拠点構築のための資材の確認だな
資材はなければ調達して貰う

実際に広場に行かないとな
キラキラ石で光源を確保しつつ
葦の杖、危険察知、罠設置、推測で罠を警戒しながら先に進もう

広場に着いたらBの坑道への入り口に扉、出来ないようならバリケードを設置
安全に拠点構築するために魔物襲撃の最低限の備えを作ってしまいたい

扉かバリケードの設置後は悠々と拠点構築が出来るはずだ
出来れば食料調達以外は生活が成り立つようにある程度の設備が欲しいとこだな
・・・坑道前に畑でも作れれば多少は食料も大丈夫か?

アドリブA 絡み大歓迎

ナノハ・T・アルエクス 個人成績:

獲得経験:78 = 52全体 + 26個別
獲得報酬:2400 = 1600全体 + 800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
坑道の道中を整備する。

■行動
ランタンを明かりに、スコップ大を構えて落とし穴を埋めていくよ。
埋めたところを固めて崩れないにするのも忘れずにね。

火が吹き出す罠も、修理と設計の技能を応用して仕組みを解析しながら解除。
この罠は回収しておきたい。
火は危ないけれど、同時に生活に欠かせないもの。
上手く利用できれば便利になるかも。
ボタン一つで明かりが付いてくれる灯とか…まぁ、まだ想像だけど。

あとは、トロッコレールの状態も確認したり修理して、使用できるようにしておきたい。
入口と広間は結構距離がある。
トロッコが使えれば、移動も荷運びも楽になるはず。
中継拠点とするのであれば、なおさら必要だと思うんだ。

アケルナー・エリダヌス 個人成績:

獲得経験:78 = 52全体 + 26個別
獲得報酬:2400 = 1600全体 + 800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
◆方針
私は拠点設営中心に活動

◆準備
坑道内の光源としてキラキラ石を用意

◆拠点整備
坑道内の魔物を食い止める前線基地的な面もあれば、補給物資を備蓄する補給の拠点としての面も考えないといけないのかな
体育館程の広さだそうだし、扉を抜けてきた敵を迎撃できるよう、坑道B側に柵や土塁なんかが欲しい

物置には食料等以外にも、坑道の光源維持を考えると油や松明なんかは備蓄したい
坑道の補修に使うスコップやツルハシ、土嚢袋なんかも欲しい

それ以外にも、負傷者を手当できるような医療スペースと薬品等の備蓄があれば、急を要する際に助かりそうだし、もし廃村側からの襲撃等があっても……ここに後退して凌ぎきることができるかもしれない

リザルト Result

 秋晴れの空が高いその日。
 魔法学園フトゥールム・スクエアの生徒たちは、廃坑前へと集合していた。
「ふふふ、ここは一度来たであります。任せるであります」
 枝豆の着ぐるみという緑の暴力を着込んだ【オルタネイト・グルタメート】は、同じく深緑の瞳をキラリと輝かせてニヒル(?)に笑った。
「それは心強いね! 一緒に頑張ろー!」
 【ナノハ・T・アルエクス】がスコップを振り上げて笑う。
 ナノハのスコップは、フェアリータイプのエリアルであるナノハにはサイズ的に合っているようには見えない。しかし、華奢に見えるこの体のどこにそんな筋力があるのか、まるで重さを感じさせない動きだ。
「おっと危ない。まぁ、気合が入ってるのはいいことだね」
 スコップをサッと避けて、【アケルナー・エリダヌス】が苦笑する。【仁和・貴人】(にわ・たかと)がそれに軽く肩を竦めて、廃坑を振り返った。
「それにしても、至れり尽くせりだったんだな」
 廃坑の入り口に積み上げられた土嚢や木材、さらには屈強な工員たちがいるのを見回して、貴人は仮面の下で満足そうに笑った。資材がなければ話にならないところだった。
 そのあたりは流石フトゥールム・スクエアの教師といったところか。用意周到だ。
「大掛かりで大変そう。って思ってたけど、心強いね! それにやりがいもある」
 ナノハはピンク色に輝いて見える翅をはためかせて、坑道を見上げた。
 そもそもは考えるよりも動く方が得意だし、ヒーローなるものが大好きなナノハなので、秘密の拠点と聞けば期待も高まるというものだ。
「どんな拠点も、道が繋がってなきゃ始まらない。僕は坑道の整備をメインに動こうと思うよ」
「私は広場をメインに構築したいと思う。件(くだん)の坑道については、早く対処した方が良いだろうしね」
 アケルナーが言うと、貴人も頷いた。
「同感だな。ある程度の堅牢性を持たせた上で、防御拠点としての設備を充実させよう」
 まずは持っていく資材を検討し、工員たちと共に速やかに運び込むところからだ。
「それじゃ、グルタメートくんとアルエクスくんが坑道の罠解除。オレとエリダヌスくんが拠点構築をメインでやっていく。ということでいいか?」
『はぁーい!』
「であります!」
 元気な返事を返して、4人はそれぞれに持ち場へと向かった。

●罠を解除していくのであります!
「前に来たとき、罠がある場所には印をつけたのであります。気をつけて欲しいのであります」
「わかったよー! まずはジャンジャン罠を解除していこー!」
 ナノハはスコップを振り上げて、チョークで印の付けられている罠の周りをザクザクと掘り出す。
 オルタネイトもナノハも小柄なので、手の届かないところは派遣された工員たちが、二人の指示でどんどんと罠を解除していった。
「うーん、それにしても暗いよね」
 ナノハはランタンをかざしながら、周囲を見渡す。
 坑道は屈強な男たちが通れるように、かなり大きく削られている。剣を振り回すことも可能な広さなのだから、ランタンの灯りだけでは当然足りない。おまけに、ランタンは発光元が強い光を放つせいで、陰がより色濃く出てしまう。
「貴人もアケルナーも、キラキラ石を光源にする、って言ってたっけ」
「キラキラ石を壁に埋め込むでありますか?」
 オルタネイトが言うと、ナノハは『それだ!』と笑った。
「ボタン一つで明かりが付いてくれる灯とかあればいいかな、って思ったけど、キラキラ石を使ってもいいよね! 油もいらないし、安全だ!」
 定期的に取り替える必要はあるが、出火などの危険がなく、安全性を確保した上で使用するならキラキラ石はとても使い勝手の良いアイテムだろう。
「高い位置に取り付ける分は、工員さんたちにお願いするとしよう!」
 ナノハがツインテールを揺らしながら振り返ると、作業着を腕まくりした工員たちが、たくましい上腕二頭筋を盛り上げながら、ニッカと笑った。
「おう! 任せときな、嬢ちゃん」
「ついでに、足元もちゃーんと見えるように低い位置にも設置しとくか」
「それはありがたいね。トロッコも、うまく使いたいところだし」
 まだ落とし穴を塞いでいないせいで、広場組は板を渡して資材を担いでいったのだ。
 トロッコを使えるようにしておけば、これからも役に立つだろう。
「それじゃあ明かりはお任せして、僕は、あの落とし穴の火の罠を取り外したいんだけど」
「それなら自分が案内するでありますよ。こっちであります」
 ランタンをかかげて小柄な二人が駆けていく様は、工員たちの表情や心をほんわかと和ませたという。

●広場を拠点にするんだが。
 キラキラ石を山積みにして、貴人とアケルナーは広場を照らし出した。
「やはりまずは、あの出入り不可の坑道をなんとかすることだな」
 何かが出てきても迎撃できるよう、土嚢や柵を立てることは、二人の一致した意見だった。
「扉かバリケード……どっちがいいか」
「塞いでしまうことで安心もできるけど、それだと調査の時にいちいち崩さないといけない」
 かと言って、岩をくり抜いただけの坑道に扉を設置するとなると、まずは木枠から用意する必要がある。
「まぁ、資材はあるし……やるか」
 めんどいけど。
 貴人はそんな心の声を飲み込む。志願した以上、めんどいなどと言ってられない。そう、これも魔王になるための一歩だ。
 さて、木枠を作るにはどれが良いか……と木材を眺めていると、それが横からヒョイと持ち上げられた。振り返ると、工員がにこやかに笑っている。
「あんたたちは、他のところやってくれよ。こういう時間がかかるのは、俺たちに任せな」
「そうそう、そのために来たからよ」
 貴人は仮面の下で目を見開く。
 なんということだ。指示とすら言えないような意図に、こんなにもスムーズに動いてくれるなんて。とんでもなく優秀な手下となれる素質がこの工員たちにはあると言えよう。
「お前たち……欲しいな」
 ポツリと呟くと、工員たちが一瞬固まる。
 その横で、アケルナーが肩を震わせていた。
「よし、扉作りだ」
「ああ、そうだな」
「他に作って欲しいものはないか?」
「そうだな、柵で坑道とこの広場を区切れるといいな」
 それに頷いて一斉に作業を始める工員たちに、貴人はますます感激する。
 なんて楽なんだ。重労働を覚悟していただけに、ますます欲しい。
「おい、エリダヌスくん。どうした?」
「あ、いや、ごめん。なんでもないよ……私たちは土嚢袋を運ぼうか……ククッ」
 笑いを噛み殺しきれず、アケルナーは吹き出してしまう。
 貴人は何がそんなに可笑しいのか分からず、ただ首を傾げた。

●炎の罠を取り外す
「よいしょー!」
 炎が噴き出す位置を探りながら、オルタネイトとナノハは落とし穴を埋めていた。
「でも、どうしてこの罠を外したいでありますか? 埋めてしまえば楽でありますのに」
 オルタネイトが聞くと、ナノハは『そうなんだけど』と黄色い瞳で笑った。
 使えるものは再利用するべきだ。うまく利用できれば、センサーで火が吹き出すなんて便利なものはない。まぁ、その仕組みももっとじっくり解析してみないと分からないことだらけではあるのだが。
「それに、うっかりここで爆発なんて起こったら、坑道が崩れて危ないじゃないか」
 もちろん、そんなことが起こらないようにするための広場の拠点作りであるし、この坑道の整備だ。この落とし穴もきっちり埋めて固める必要がある。
「火は危ないけど、同時に生活に欠かせないものでしょ? あったかいものも食べたいしね」
 こういう前線基地では、食事が疎かになることがよくある。
 携帯食で補うのはあまりに味気がないし、温かい料理が食べられないのは精神的にきついものがあるだろう。
「ああ、そう言えば。だから近くの村も再興するのでありますね」
 ナノハが首を傾げると、オルタネイトが穴に土をかぶせ入れながら続けた。
「坑道に入る前に、仁和殿が畑を作るのはどうかと言っていたのであります。だけど、近くに廃村があって、そこを再興する計画があるから大丈夫だと、エリダヌス殿が言っていたのでありますよ」
 村が再興すれば日帰りも可能であるし、温かい食べ物を差し入れすることも可能だろう。
 もちろん、詰所として機能するように、ある程度の居住性は広場に確保しておきたいところだ。しかし、トーブ(転送魔法石によるワープ)以外の方法でこの坑道に来る拠点があることは大きな意味を持つ。
 まず、食糧の心配がない。そして、坑道などという圧迫感のある穴蔵で暮らし続けなくて良いというプレッシャーが消えることは、警備をする者たちに余裕を与えるだろう。もちろん緊張がまったく無くなってしまっては困るが、そこはプロの仕事としてこなすことだろう。
 何せ、この坑道の先は魔物の巣窟と繋がっているかもしれないのだから。
「そうか、それならますます張り切って行こう!」
 炎の罠を入念に観察しながら、いよいよ罠を取り外すべく、二人は穴の中へと降りた。

●拠点、仕上がる
「警備中に、ゆっくり休んでる人を視界に入るのはどうかと思うんだ」
「だからと言って、壁で区切れるわけでもない。だからこそベッドじゃなくて、テントや寝袋で良いんじゃないか?」
「それもそうだが……そうすると、炊事場や会議室はどうやって区切る?」
「うーん……広さは十分だが、部屋として区切られていないのはなかなか面倒だな」
 決して屋外ではないゆえに、さらにテントを張るというのは不思議な感覚に陥る。
 かと言って、炊事場をテントの中にするわけにもいかない。見えすぎず、開け過ぎず。配置は意外と慎重に進める必要がありそうだ。
「食糧庫をもういっそ外にしてしまうのはどうだ? 外と言っても坑道の外ではなく、広場の外の横道とか」
「なるほど。それは名案かもな」
 それならいっそ仮眠室も別の横道にしてしまおうかという案も出たが、予想以上に横道が浅いため、横道は倉庫として使うのみにしよう。と決まった。
 貴人とアケルナーが意見を交わす横で、出入り禁止となっている坑道の扉、柵、土塁の積み上げなどが着々と進んでいた。アケルナーの提案で、土塁には所々穴や窪みが作られ、銃眼の役割も持たせた。
「負傷者を手当てできるような医療スペースも欲しいな」
「これ、テントが幾つ必要になるんだ?」
「会議室、医療スペース、休憩用・仮眠用にいくつか……10には満たないぐらいだよ」
「それなら、まぁ、いいか」
 出入口はできるだけ広く取っておきたい。
 これは魔物の襲撃に備えるだけでなく、監視も容易にするためだ。魔物が襲撃してきたとしても、すぐにバリケードを作れるようにするためでもあり、ある程度の視野を確保するためでもある。
「おお〜! すごいであります! 拠点のようであります!」
「拠点だからね〜」
 明るい声が響いて、貴人とアケルナーは振り返った。
 緑色の暴力・オルタネイトと、ピンクの翅をはためかせたナノハが、トロッコで食料を運んできたところだった。
「それにしても、瓶詰めと乾物が多いね。これ、誰の案?」
 ナノハがトロッコの中を覗き込みながら聞くと、アケルナーが口元で笑った。
「私だ。洞窟や坑道というのは、暗くて環境が安定してるから、実は虫が多いのだと聞いてね。備蓄するなら、虫が付きにくい野菜の酢漬けや魚の油漬けなどの瓶詰めが最適だと思う。あとは塩蔵品……塩漬けの食品とかね」
「ヘェ〜!」
「環境が安定している、という意味では、ワインなんかも良い。そのために、わざわざ地下室を拵える貴族や豪商もいるそうだし」
「ふーん。あんた、貴族みたいなことを言うな」
「まさか。私はただの旅人さ」
 軽く肩を竦めて、アケルナーはトロッコを坑道へ押していく。先ほど、貴人と決めた食糧庫にする横道だ。罠はすでにナノハたちが解除していたので、あとはここに詰め込むだけである。
 その他にも、武具倉庫や、光源維持のために油や松明などを備蓄するための倉庫、スコップやツルハシなどの修繕用道具倉庫も確保した。
「うーん、秘密基地っぽくていいね!」
 広場に戻り、ナノハは大きく伸びをした。
 等間隔にキラキラ石を埋め込まれた坑道は、目に優しい程度に明るい。
 トロッコレールを修繕したお陰で、これからの資材や食糧の運搬は格段に楽になるだろう。
 広場はバリケードを中心に充実させた。購買で買えるテントは一人が横になれる程度の簡易テントだが、ここの担当者である教師に言えば、会議用・医療スペース用には特別大きなテントをしつらえてもらえるだろう。
 机や椅子なども、工員たちによって無骨ながら十分な数を揃えられた。炊事場も確保したことによって、居住性も高まった。
 封鎖した坑道を調査するための拠点として、十分な機能を備えた出来になったと言って良いだろう。
 ちなみに、落とし穴の炎のトラップは火力が強過ぎていろんな意味で危ないため、坑道外へ撤去することとなった。
 4人が坑道を出ると、外は秋の夕暮れであった。冷たい風が吹き始め、間もなく冬が訪れるだろうことを感じる。
 調査拠点は完成した。しかし、あくまでも前線基地。これから、本格的な調査が始まれば、この坑道はさらなる緊張感に包まれる場所となるだろう。
 その時が来るまでは、しばし美しい夕暮れに照らされ、今日の疲れを癒しておこう。
 そう――これはまだ、序章に過ぎないのだから。



課題評価
課題経験:52
課題報酬:1600
誰がために鐘は鳴る――拠点構築・廃坑
執筆:鶴野あきはる GM


《誰がために鐘は鳴る――拠点構築・廃坑》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《枝豆軍人》 オルタネイト・グルタメート (No 1) 2020-11-08 17:16:32
ふむ、あの子は、今は治療中…元気になったら、枝豆を食べさせてあげたいでありますな。

さてさて、オルタネイト、参戦であります!
どうなるか楽しみでありますが、まずは、人が欲しいであります…

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 2) 2020-11-10 03:04:42
魔王・覇王コースの仁和だ。

・・・坑道内の拠点か。
個人的にだがある程度居住性を持たせてB地点からの侵入を防ぐ扉か何かが欲しいな・・・

どちらにしろ人が集まらないと拠点構築するのは手が足りなくなりそうではあるよな。

《枝豆軍人》 オルタネイト・グルタメート (No 3) 2020-11-11 21:19:53
魔王・覇王コースしかいないでありますな←

人数的にはわなとか排除でありますかなー?

扉に関しては今日良くすればどうにかなりそでありますよ

《イマジネイター》 ナノハ・T・アルエクス (No 4) 2020-11-12 01:34:20
賢者・導師コースのナノハ・T・アルエクス、ギリギリの参加になったけどよろしくね♪

僕は道中の罠の解除をメインにしようと思うよ。

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 5) 2020-11-12 22:03:09
やあ。私は勇者・英雄コースのアケルナー。最終日の飛び入りだけどよろしく頼むよ。

まずは坑道内の拠点設営と罠解除か。
私は拠点設営を中心に考えるよ。

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 6) 2020-11-12 22:18:59
>拠点
坑道内の魔物を食い止める前線基地的な面もあれば、補給物資を備蓄する補給の拠点としての面も考えないといけないのかな?
体育館程の広さだそうだし、扉を抜けてきた敵を迎撃できるように、奥側に柵や土塁なんかがあってもいいかもしれないね。

それと、物置を置くようだけど、食糧とか以外にも、坑道の光源維持を考えると油や松明なんかは備蓄した方がいいんじゃないかな。
坑道の補修に使うスコップやツルハシ、土嚢袋何かもほしい。

それ以外にも、負傷者を手当できるようなスペースがあれば、急を要する際に助かりそうだし、もし廃村側からの襲撃等があっても……ここで凌ぎきることができるかもしれない。

他にも思い付くことがあったら書いておこう。