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春、うららかなれど風高く


ストーリー Story

 すうっと立った紅色の傘が、同じ色の敷物にやわらかな影を投げかけている。
 風炉に籠もる火はコトコトと、鉄瓶の湯を沸かしていた。
 しゃくしゃくと茶筅(ちゃせん)をめぐらせ碗を手にすると、
「春よのう」
 着物姿の【メメ・メメル】は楚々とした微笑を浮かべた。着物の柄は、菖蒲に金魚という華やかだが派手すぎない組み合わせ。髪も珍しく結いあげている。ワインボトル片手に大口あけて居眠りしているような姿との落差がすごい。陶器の碗をあなたに手渡し、抹茶を飲むようにうながした。
 どうもとかなんとか言って受け取り口にした。
 苦い、ようでいて甘い。クリーミーに泡立っていて口当たりも悪くない。緑色の薫りに包まれるような感覚があった。
 ただ問題は正座の姿勢だ。そろそろ、いや、もうとっくに足がしびれている。下手に立ちあがろうものなら感電したように動けなくなりそうだ。
 足のことはさておき、なんともうららかな春の午後だった。
 本日は『教養』の特別授業ということで、こうして屋外でのお茶会――野点(のだて)なるものにあなたたちは参加しているのだった。はるか異国の風習だという。風雅とは、こういう状況を言うにちがいない。
「――あ、言うのを忘れていたが」
 新たな茶を点てながらメメルは言った。
「膝は崩していいぞ♪ 正座のままじゃきつかろう☆」
 なんだー、とか、うわーと安堵する者あり、それでも平然と正座のままの者あり。
 茶菓子も行き渡りしばし歓談ののち、
「話は変わるがな」
 メメルは胸元を直しながら言った。(たぶん苦しいのだと思われる)
「怪獣王女とかいう者がいたろう?」
 あっ! とすぐにわかる生徒も少なくなかった。
 フルネームは長いので略して【ドーラ・ゴーリキ】、別名【怪獣王女】とは、魔王復活の鍵となるというアイテム『コズミックエッグ』なるものを求めほうぼうで小さな騒ぎを起こしてきた怪人物だ。といっても十歳前後の少女、ピンクのガウンに王冠という珍妙な服装をのぞけばそれなりにかわいらしいトカゲのルネサンス族である。
 先日、ダンジョンで怪獣王女と遭遇した数人の学園生たちが、意外な展開によって彼女とともにゴールするという結果を迎えた。
「色々あって、あの者とは一時停戦状態に入った。オレサマの政治力がなした偉業だゾ、褒め称えるがいい♪」
 どうせたいした手段じゃないでしょう……と思った生徒も少なくなかったが口にはしなかった。
「あの怪獣王女がな、学園都市レゼントを案内しろとか申しているらしい。まだコズミックエッグだかなんだかを探す気のようだな。誰ぞ案内してやるがいい」
 要は、上京したて(?)の世間知らず王女様の観光ガイドだ。
「忘れるな、停戦したとはいえ怪獣王女はまだ、魔王復活という考えにとりつかれとる。だが……これまで学園に立ちふさがってきた真に邪悪な連中とはかかわりがないようだ。むしろ、邪悪な者たちが接触をはかり敵側にまわってしまうほうが不安だ。なぜに魔王復活にこだわるのか聞き出すことができれば一番だが、とりあえずフトゥールム・スクエアへの敵対心だけでも減らせればいいと思っている。できるか? まあ正式な依頼ではないから、志願者だけやってくれればいいぞ☆」
 これまでの言動から推測すると、怪獣王女は魔王と結婚するなどと考えているようだ。そんなの夢物語だとわかってもらう、もっと格好いい僕に惚れるがいいと誘導する、そもそも魔王のことわかってる? と聞き出すなど、工夫が必要だがやりようはあるだろう。
「それと、先日の元・未踏破ダンジョンな」
 やはり足が限界だったらしく、メメルも膝を崩していた。
「最奥部へのルートは確保できたが、まだまだ不明瞭の部分が残っとる。とりわけ南方面な! なんか若返りの泉があるとかいう碑文だけ見つかった。こっちの道は平坦で前ほど危険じゃなかろうが、もし本当に若返りの泉だとしたらすごいぞ☆ 誰ぞ調べに行かんか♪」
 こちらは何度も探索されたので危険はかなり減じている。ダンジョンに下りるまでの斜面は、もう岩オオアリよけルートが確保されているのであとはダンジョンをしらみつぶしに調べていくだけだ。
「若返りの泉なぁ……どうにも眉唾だしオレサマのようなヤングには必要ないが」
 ヤング……。
 ちなみに探索メンバーには【ヒノエ・ゲム】がいちはやくエントリーしているそうだ。ダンジョンの最奥部は判明したので賞金額はずいぶんと減ったものの、ヒノエは単身でも挑むつもりらしい。
「あの娘どうも危なっかしいからな、手の空いている者は手伝ってやるがいい」
 あと、とメメルは続けた。
「これも正式な依頼ではないが――ラビーリャたんから伝言が入っとる。オレサマが頼まれたのだがちょっと所用があってな……」
 ゲホゲホと妙な咳をしてメメルは言った。
「かわりに行ってくれる人がいれば嬉しいなあ♪」

 ◆ ◆ ◆

 カウンター席の【ラビーリャ・シェムエリヤ】の前に、湯気を上げるボウルが置かれた。
 いや、『ボウル』という表現は似合わないだろう。陶の食器であり、オリエンタルな装飾のほどこされた丼なのである。
 盛られているのはヌードルの入ったスープ、いわゆるラーメンというものだった。豚の骨からとった白いスープだ。わかりやすくいえば豚骨ラーメンだった。スライスした焼き豚、刻みネギ、ジンジャーの酢漬けを刻んだものも入っている。
 レゼントにある創作料理店『くたびれたウサギ亭』はその名に反して気鋭の食堂であり、ラーメンのような珍しい料理、とにかくひたすら辛いカレーなどエクストリームなメニュー、カエルの唐揚げやサーモンの臓物パイといった、あまり店にならばないたぐいの皿などが出る色々挑戦的な店だ。ただ、おしなべて低価格ではある。
 店主の【ラビット・ウー】は前頭部を剃り上げ、残った髪を長く伸ばし三つ編みに編んだ大男である。たしかにウサギのルネサンスではあった。
「……今日もかい?」
 緊張の面持ちでラビットはラビーリャに尋ねる。
「うん……やって」
 額に浮かんだ汗をハンカチでぬぐい、ラビットは小皿を取り出す。小皿にはデザートのプリンが載っている。カラメルもきれいにかぶされており、ぷるぷると震えて甘そうだ。
 ラビットは、そのプリンを滑らせて丼の中にそっと落とした。
「ありがとう……いただきます」
 ラビーリャは箸を取ってプリンをぐるぐるとかき混ぜる。
 ラーメンのプリントッピング、別名『プリンラーメン』。『くたびれたウサギ亭』が最近導入した新メニューだ。甘さとしょっぱさの究極の融合、相反するのか両立するのか。その味は謎である。
 黙ってつるつるとラビーリャはラーメンを食べている。
 このメニューを出すのはレゼントの街でもウサギ亭だけだ。なお、ラビーリャが注文するのはこれで三度目である。
「どうだい? おいしいかい?」
 ポジティブな返答をラビットは期待したのだが、
「……わからない。私、味音痴、だから……」
 抑揚のない口調でラビーリャが回答したので肩を落とした。
「じゃ、じゃあ誰か友達を誘ってきてくれないか」
 自信メニューなんだよ、とラビットは言う。この至高の(とラビットが信じている)メニューを試してくれた客はいまのところラビーリャひとりきりなのだ。なお、単体の豚骨ラーメンは人気である。
「でも私、友達、いない……から……」
 上司ならいるけど、とラビーリャは甘い香りの湯気を見上げた。
 最初にラビーリャが思い浮かべたのはメメルの顔だった。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 4日 出発日 2021-05-06

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2021-05-16

登場人物 5/5 Characters
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《人間万事塞翁が馬》ラピャタミャク・タラタタララタ
 カルマ Lv22 / 魔王・覇王 Rank 1
不気味で人外的な容姿をしたカルマの少女。 愛称は「ラピャ子」や「ラピ子」など。 名前が読み難かったらお好きな愛称でどうぞ。 性格は、明るく無邪気でお茶目。 楽しいと面白いと美味しいが大好き。 感情豊かで隠さない。隠せない。ポーカーフェース出来ない。 そしてちょっと短気なところが玉に瑕。 ギャンブルに手を出すと確実に負けるタイプ。 羞恥心を感じない性質で、露出度の高い衣装にも全然動じない。 むしろ前衛的なファッション格好いいと思ってる節がある。 戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法。 昔は力に任せて単純に暴れるだけだったが、 最近は学園で習う体術を取り入れるようになったらしい。 しかしながら、ゴリ押しスタイルは相変わらず。 食巡りを趣味としているグルメ。 世界の半分よりも、世界中の美味しいモノの方が欲しい。 大体のものを美味しいと感じる味覚を持っており、 見た目にも全く拘りがなくゲテモノだろうと 毒など食べ物でないもの以外ならば何でも食べる悪食。 なお、美味しいものはより美味しく感じる。Not味音痴。 しかし、酒だけは飲もうとしない。アルコールはダメらしい。 最近、食材や料理に関する事を学び始めた模様。 入学までの旅で得た知識や経験を形に変えて、 段々と身に付いてきた…と思う。たぶん、きっと、おそらく。
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《タイダルウェイブ》クラン・D・マナ
 カルマ Lv10 / 黒幕・暗躍 Rank 1
異世界:情報旅団テストピアという所に住んでいたが、とある仕事の最中に、この世界に強制転移してしまった。 正式名称「Clan Destroyer 07」 本来はスレイブと言うヒューマンに近い種族の女性の筈だが、何故かカルマの種族属性を持った状態でこの地へ降り立つ。強制転移した経緯が原因と思われるが真偽は不明。 感情の起伏は非常に少なく、淡々とした物言いの為、冷徹な印象をもたれがちだが本人はどこ吹く風。 「かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね」と言わんばかりの冷たい目で見られている!と他人が思っていても、実際には今日の食事は何にすべきか?と思案してる状態だったりすることもしばしば。 本人は無自覚で感情にも表さないのだが、可愛い物が好き。 旅路では探し求めていた己のマスター(陣)、家族と言うべき女性達(マリア、マルタ)を見つけ出す事は出来ず、新たな可能性を求めて魔法学園フトゥールム・スクエアに入学することになる。 「私と同じ世界に飛ばされている。…希望的観測も甚だしいですが、見つけ出すにしろ世界間移動するにしろ、まずは体で行動するしか方法はありませんからね」 首に元いた世界から持ってたロケットを常にかけている。中身は、自分と家族の女性2人、マスターである男性が写っている写真

解説 Explan

 日常シナリオです。学園生活について描きます。基本個別を想定していますが、もちろんパーティを組んで活動していただいても描写させていただきます!
 導入部には、

 1.怪獣王女と『レゼントの休日』を過ごす
 2.ヒノエとともに若返りの泉を探す
 3.ラビーリャとプリンラーメンに挑む

 という展開の三つを用意していますが、

 4.メメルと野点(のだて)を楽しむ

 といった展開や、

 5.春の学園生活を満喫する(休日でも平日でも)

 といった展開を選ぶことも可能です。

 各展開について
 1.怪獣王女とのいきさつは拙作『迷宮探索競技☆Dungeon&Damn』などをご参照下さい。王女が停戦に応じた理由をメメルは明かしていませんが、本人に訊けばあっさり明かしてくれるでしょう。
 2.岩オオアリの回避方法はすでに判明しており、南方面は敵の数も減少するので先日のシナリオ『迷宮探索競技☆Dungeon&Damn』ほどの危険はありません。
 3.本当にこういうメニューがあるそうです。GM(桂木京介)も実際に作って食べてみます。
 4.実はメメルはお茶の作法に詳しくありません。かなりテキトウです。
 5.フリーシナリオになりますので、どんなことをしたいか提案してみてください。日常展開であれば基本、どんなものでも対応したいと考えています!


作者コメント Comment
 桂木京介です。
 春の日常シナリオとなります。
 色々導入を用意していますが、これにとらわれずご自身のすごしてみたい一日を自由にご提案ください。
 公式NPCや桂木担当の公認NPCであれば誰でも自由に呼び出せます!(プリンラーメン体験に【リーエル・アムフィリム】を引っ張り込むなど)

 それでは次はリザルトで会いましょう! 桂木京介でした!


個人成績表 Report
エリカ・エルオンタリエ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:180 = 60全体 + 120個別
獲得報酬:4800 = 1600全体 + 3200個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
1.怪獣王女と『レゼントの休日』を過ごす

目的:怪獣女王と交流し、相互理解を深める。

魔王復活には危険を感じざるを得ないけれど、
即座にお互いを否定して戦いや暴力という手段でねじ伏せるのではなく、
膝を突き合わせて交流することで、
一方的にどちらかがどちらかの犠牲になるのではない解決方法を導き出せれば。

真偽はともあれ、王女を名乗っているからには王女様として丁重にもてなし
町の名所や名店を案内・エスコートする。
今回怪獣王女が戦いを目的としない訪問を選択してくれたことに感謝。
過去に学園の教師と何か諍いがあったような話があったので、
非礼や損害を与えていたのなら謝罪や償いが必要かもしれない。

アドリブは大歓迎です。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
5.春の学園生活を満喫する(休日)

春の麗かな陽射しを浴びながら街をプラプラと食べ歩き
用事や目的は無くただただプラプラとまったり過ごす予定

ただ、予定ってうまく行かないよね

アドリブA、絡み大歓迎

ラピャタミャク・タラタタララタ 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
プリンラーメンを実食

■行動
くたびれたウサギ亭でプリンラーメンを食すのじゃ。
ちなみにあちきは味音痴ではないぞ?
ただ、食べ物であれば何でも美味しいと感じるだけなのじゃ。

プリンラーメン…
麵料理に出来合いのデザートを乗せてしまうというのは、
中々に摩訶不思議で挑戦的な組み合わせじゃ。
はてさて、どんな味なのか?いざ、実食じゃ♪

おおっ、これはっ!?
スープの尖った塩味がプリンで和らぎ甘みが加わってなめらかになり、
さらにカラメルの苦みがコクとなって深みを与え、
そして互いの旨味が合わさって絶妙な味わいの新感覚が味わえる。
そう、まさに、味のブレーメンなのじゃーーーっ!!!

クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---


ヒノエくんについて行き、その若返りの泉とやらに向かってみよう
手柄は君のものでいいよ、元々ただの暇つぶしだ

とりあえず南に向かおう。けどまあ、彼女がしたいようにさせるか
以前ほどの苦労はなさそうとはいえ用心はしておこう
暗い場所ではキラキラ石やランタンを状況に応じて使い分け、暗視順応と動作察知で道中も注意して進もう
見たところ彼女はこう、がさつなタイプなのだろう。なら俺がその分丁寧にならないとな

そうだ、この前は怖がらせてしまってすまなかったね
悪かったよ。2割くらいは


ヒノエくんが罠や落石など、何らかの危険が及ぶ場合は彼女を引っ張り寄せて助ける
また、以前のように麻痺や毒の罠に掛かるようなら、デトルを使おう

クラン・D・マナ 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
ラビーリャとプリンラーメンに挑む

【行動】
本来は己のマスターが出向く予定だったが、所用の為頼まれて代理で参戦
人手が必要で、手伝って欲しい程度の概要しか聞いてないので実際の現場へ到着してから内容を把握
…実物を見て表情変えずに内心やや後悔。食べ物で遊ぶのはどうかと思います
とは言え頼み事を放棄するのは忍びなく、戻ったらどうやってマスターをいびり倒すか思案しつつ意を決して食す
…意外と悪くない?アリナシで大別するなら割とアリ…ですね
名称と実物のビジュアルはかなり手を出しにくい印象なのがネックですが

他のお客様にも広めたいのであれば、改善の余地ありですね
淡々とズケズケと改善案を提案して行きます

リザルト Result

 天日にさらした麦穂のような、薄茶色の岩山を登る。
「おい」
 前を向いたまま【ヒノエ・ゲム】は言った。竜の舌みたいな赤い髪、いわゆる猫目で目尻は尖っているが、鼻の低い童顔のせいか近寄りがたい印象はない。背に矢筒、腰には小弓、着古した赤革のチュニックを着ている。
「本当に分け前はいらないんだな?」
 ああ、と【クロス・アガツマ】は紅玉のような瞳を細めた。
「ぜんぶ君のものでいいよ、元々ただの暇つぶしだ」
 変なやつだ、と言わんばかりにヒノエは短くうなった。
「なら交渉成立だ。私には金がいる」
 ダンジョン入り口に到達すると、ヒノエは背嚢(ザック)より火口箱を取り出した。火打ち石を打ち合わせ、細長い固形燃料らしきものに火をつけた。
「それは?」
「干したヨモギと菊の葉を練って松ヤニで固めたものだ」
 ヒノエは火を吹き消す。一条の煙がたなびいた。いぶすような独特の香りがある。
「なるほど、蚊除けだね」
「岩オオアリにも効く。こいつを焚いている限り連中は近寄ってこない」
「ヒノエくんが発見したのかい?」
「いや、メメルに聞いた」
「なるほど」
 さすが学園長だねと思う反面、ひょっとしたら前の探索競技のときも知っていたのに黙っていたのだろうか――ともクロスは考えた。
 入り口をくぐる前に、ヒノエは来し方を振り返った。
「どうした?」
「……あのエルフ女たちとか、来ないのかと思って」
「今日の同行者は俺だけだよ」
「そうか。ならいい」
 素っ気なく告げるとヒノエは身をひるがえした。キラキラ石を取り出しクロスも追う。
 ヒノエは斜面をひょいひょいと下りていく。オオアリもないせいか前回の苦労が嘘のようだ。あっという間にダンジョンまでたどり着いた。
 クロスはマッピング用の手帳を開いて、
「南に向かおう」
 一歩踏み出した。
「そうだな」
 さりげなくヒノエは一歩引いている。
 ……警戒されている?
 ヒノエはつねに、クロスから一定の距離をたもっているのだ。
 前に皆と一緒になったときは、こんなことはなかったとクロスは思う。
 男性と二人きりという状況を意識しているんだろうか。
 これでも紳士なつもりなのだけどね。
 あっ、とクロスは声を上げた。
 ヒノエは西方向へと歩き出している。
「そっちじゃないよ。南は、こっちだ」
 照れ笑いでもするかと思いきや、ヒノエはまるきりの仏頂面で、
「そうか」
 と方向転換しただけだった。しかし急転換したせいか片手を勢いよく石壁にぶつけている。顔にこそ出さなかったが、あれはけっこう痛かったはずだ。
 見たところ彼女はこう……がさつなタイプなのだろう。
 クロスは考えた。
 なら俺がその分、丁寧にならないとな。

 前に探索したときと比べると天と地だ。落ち着いた道のりだった。
 石像兵士を見かけることはほとんどなく、あったとしても遠くに一体見かける程度だ。石像は足が遅く追いつかれることはなかった。そもそもあまり熱心に追いかけてこない。
「こう楽だと拍子抜けするな」
 道中退屈になってきたのでクロスはしばしば呼びかけたものの、ヒノエはほぼ応じない。まったく聞き流しているか、手短に返すのがせいぜいだった。
 嫌われているようだな。思い当たる理由もないが――。
 ふとクロスの頭に浮かんだ記憶がある。
 もしかしたら、いや、きっとそうだな。
「そうだ、この前は怖がらせてしまってすまなかったね。悪かったよ。二割くらいは」
 迷宮探索競技でカビモンスターおよびヒノエと相対したクロスは、ヒノエにプチミドをぶつけ水びたしにし、湿気を好むカビを彼女にけしかけたのだ。
 意外にもヒノエは首を振った。
「別に……過ぎたことだ。不意打ちをしかけたのは私だからな。怒ったら逆恨みだろう」
 しおらしいことを言う。
 なら不機嫌そうな理由は? というクロスの疑問はまもなく氷解した。
 ヒノエの足先に、きらっと光る金属製のプレートがあったのだ。これがトラップというのは経験済みだ。やはり麻痺か。それとも落とし穴か落石か。
 いずれにせよ、踏めば愉快なことにはなるまい。
「おっと危ない」
 クロスは反射的にヒノエの肩に手を伸ばす。幽体ゆえ実際に触れられはしないが注意をうながす効果ならあった。
「きゃああ!」
 むしろクロスが驚いた。ネズミでも見た少女のような怯え声、文字通りヒノエは飛び上がったのだ。
 罠があったとクロスは眼で示す。ヒノエも理解はしたようだが顔はひどく青ざめている。
「すまない……男性に触れられるのが嫌だったとか」
「違う! わ、私は、フトゥールム・スクエアに来るまで、その……リバイバルを見たことがなかったっ!」
 今度は顔を真っ赤にしていた。
 クロスは笑った。
「するとヒノエくんはずっとびくびくしていたわけか。考えてみれば前は、人呼んで『幽霊王女』くんもいたな。大変だったろう」
「忘れた!」
 耳まで赤い。嘘がつけない体質らしい。
「触れてみてどうだった? 魂を取られそうに思ったかい」
「……いくらか違和感はあったが、恐れていたようなものではなかった」
「ではあとの道中は手でもつないでいこうか?」
「それは断る」
 ヒノエが腰の弓に手をかけたので、クロスもここまでにしておくことにした。

 まもなく目的地を見つけた。
 たしかに『若返りの泉』はあった。
 といっても単なる温泉だ。適温の湯が湧きだしている。古代文字で効能が記されていたが、せいぜい肩こりに効く程度の話でしかなかった。
「気持ちの上で若返るような気がするだけ、ということだね。ありそうなことだ」
 効能を読んでいるクロスの隣で、もうヒノエはブーツを脱ぎ、もぞもぞと鎧を外しはじめている。シャツ一枚になったところでようやく気づいたらしく、
「おい!」
 逆三角にした目を向けてきた。
「あー! いやん!」
 今度はクロスが驚く番だった。


 待ち合わせ場所に指定されたのは、噴水広場の中央だ。
 学園都市として知られるレゼントだけに、学生や学園職員がいるのはもちろんのこと、色とりどりの水晶をならべる露天商、磨いた技を披露する大道芸人や、荷馬がわりに大型爬虫類をつれた交易商など、外ではあまり目にしないタイプの人々が行き交っている。
 だけど彼女の姿はいささか目立った。
 もこもこ飾り付きのピンクのガウン、金色のベルトにブーツ、おまけに頭には黄金の王冠をのせているという珍妙な姿だったから。ふんぞりかえるようにして――いや実際にふんぞりかえって、【怪獣王女】は腕組みしている。
「お待たせ」
 すぐ見つかったわ、と【エリカ・エルオンタリエ】は呼びかけた。
「見つかってやったわえ」
 無闇にえらそうだが、この子はこういうキャラだとわかっているので気にしない。エリカは名乗って、
「学園長からの依頼よ。今日はわたしがレゼントを案内するわ」
「ヘイボーイ! そちがか?」
「ええ……ところで、前から思ってたんだけどその『ボーイ』っておかしくない?」
 む? と王女は片眉を上げた。
「呼びかけの言葉ではないのか?」
「そういう風につかうこともあるけど、相手が女性なら『ガール』のほうがいいと思う」
「知らなんだ! ではヘイガール!」
「むしろエリカと呼んでほしいところね」
 エリカは肩をすくめる。
「呼び方といえばあなたの名前ね。『ドーラメイア・アレクサンドラ・デイルライト・ゴーリキ』ってフルネームで呼びかけるのは大変」
「よく覚えたなあ」
「おかげさまで。『王女様』と呼ぶのがいいのかもしれないけれど、それじゃ他人行儀な気もするわ」
「他人……ジョージ?」
 エリカは一計を案じた。
「学園では愛称で呼び合うのが敬愛のしるしよ。『ドーラ』とか『アレックス』って呼べばいいかしら?」
「ふぅむ、奇妙な風習じゃのう。ならばエリカ、そちにはドーラと呼ぶことを許す」
「仰せのままに」
 案外素直ね。エリカはにっこりする。
「ところでドーラさん、そのガウン暑くないの?」
「暑い」
 あ、やっぱり。

 和解したわけではないからな、とドーラは言う。
「一時停戦しとるだけじゃ。コズミックエッグが見つかればいつでも争奪戦を再開するぞ」
 はいはい、などと聞き流したりはしないエリカである。軽んじた対応をすればドーラは怒るだろうし、軽んじていい相手とは思わないからだ。
 街の名所や名物を見せて回り、クイドクアムに連れて行く。
「すごいな!」
 ドーラが目を輝かせたのは鞄店だ。トランクから通学バッグまで大量に並んでいる。たしかになかなかの光景だが、レゼントならとくに驚くほどのものでもなかった。
「ドーラさんの国には、こういったものはなかったの?」
「氷と雪におおわれた地じゃからな」
 あの厚着もゆえあってのことらしい。なお現在、王女はガウンを脱いで小脇に抱えている。
「お父様やお母様、あるいはご家族や臣民は立派な鞄を所持してなかった?」
「ないな。そもそも王国民は女王のママ上と、王配のパパ上だけじゃ」
 やはり特殊な環境で育ったもののようだ。
「ご両親はご健在で?」
「ふたりとも死んでしもうた」
「ごめんなさい……」
「気にするな。さびしくはない。わちきには魔王様がおるからなっ」
「それよ!」
「これか?」
 ドーラはチョコレート色のリュックサックを手にしてエリカに見せた。
「似合うか?」
「いえ、そうじゃなくて……ドーラさんは魔王とは面識があるのかなと思って」
「ないのじゃ」
 リュックを棚に戻して言う。
「伝説でしか知らぬ。ずっと昔に封印されたというからな。じゃがママ上は、魔王様の復活は近いとわちきに教えてくれた。魔王様は世界一強くて格好いい男なのじゃ。魔族の末裔として、わちきは魔王様の花嫁になるのじゃ!」
 魔の眷族だったということね――卵からモンスターを召喚するというあの能力、普通じゃないとは思っていたけど。
「じゃあコズミックエッグというのは」
「そちたちは『霊玉』と称しておるそうじゃな。メメルに聞いたぞ☆」
 口ぶりに屈託がない。
 わかっているの? 霊玉は世界の命運を左右する存在だということを――。
 今から二千と二十一年前、魔王大戦という戦いがあった。闇と光、まさしく世界を二分する決戦を制したのは人類だ。九人の勇者は魔王を倒し、自分たちの魂を犠牲にして八つの霊玉に封じたという。
 長き年月を経て霊玉は散逸したものの、現在、うち三つは人類側が保持している。失われた霊玉は魔の側にあると考えられているのだが……。
 いずれにせよ、彼女が魔族だとわかったからにはここで手を打っておくべきではないか。
 ドーラは無防備な背をエリカに向け、また鞄を色々と手に取っている。
 いま襲えば、さしもの怪獣王女であっても容易に仕留められることだろう。学園の敵、すなわち人類の敵を始末できるのだ。
 でも。
 わたしは……わたしたちは、そんな道を選ぶべきじゃない。
 気に入ったカバンがあったら教えて、とエリカは言った。
「プレゼントするわ、学園長からお小遣いをもらっているから」
「ほんとか!」

 学園が見える高台で、涼しい五月の風を浴びた。
「絶景じゃのう☆」
 ドーラはご機嫌だ。背には、最初に手にした新品のリュックがある。
「わたしは魔王とは相容れないと思っているけど……でも、人を愛するということはとても貴い気持ちだと思ってる。あなたの気持ちは尊重するわ」
「愛する? ようわからんが、わちきは世界一の男の花嫁になりたいだけじゃて」
 そうだったねとエリカは微笑む。
 もしかしたらドーラの『世界一』を変えることができれば、彼女とは戦わずにすむかもしれない。
 しかし、戦いは避けられないかもしれない。
 食事に行かない? とエリカは呼びかけた。


「グルメと聞いてあちきが来たのじゃ~!」
 のじゃ~、のじゃ~……とエコーがかかるほどの勢いで【ラピャタミャク・タラタタララタ】は店の戸口を開いた。
 店、それは創作料理店。空きっ腹をかかえよろよろ歩くウサギの前方から、何やらいい香りがただよってきているという看板。レゼントの隠れた名店『くたびれたウサギ亭』だ。
 安くて美味いというだけで学生街の食堂にはじゅうぶんであろう。けれどもレゼントはその手の店に事欠かないのだ。裏通りにありフトゥールム・スクエアからも遠いという立地の不利を克服せんがため店は、よそにはない特殊メニューをつぎつぎと創造するという攻めの姿勢をとった!
 軽く例をあげるなら、辛さ五十倍カレー、チョコレートうどん、特大マッシュルームステーキなどである。このあたりは成功してレギュラーメニューとなったものだが、もちろん歴史の闇に葬り去られた失敗メニューも数限りないという。
 風を受けてラピャタミャクの雪色髪が、獅子のたてがみのごとくひろがった。
 グルメのあちきとしたことが、かような店の存在をキャッチしそこねていたとはのう。
「いざ尋常に勝負、なのじゃ!」
 もともと赤いラピャタミャクの目が、期待と気合いで溶鉱炉のごとく燃えている。
「いらっしゃいませ」
 ムフ、と謎めいた笑みを浮かべ筋肉質の巨漢が出迎えた。頭は弁髪、長い三つ編みの先には黄色いリボンが揺れている。店主【ラビット・ウー】である。
 昼食時をすぎているせいか、店内には客がひとりしかいない。
 唯一の客がふりむいた。カフェオレ色のつややかな肌、黒みをおびた銀の髪。【ラビーリャ・シェムエリヤ】だった。菫色の瞳を向け、
「待ってた……」
 と手をふる。
 ラピャタミャクは、厨房の前にさがる『お品書き』に目を向けた。
 一般的な料理もある。しかし気になるのはやはり、カエルの唐揚げやムカデの姿焼き、五十倍激辛カレーなどのチャレンジングなメニューだった。言うまでもないがメニューには、本日の主目的も掲載されている!
「グルメとしては実に興味深い店なのじゃ。今から非常に楽しみなのじゃ♪ 例のものを出す用意はいいな!?」
 弁髪のラビットは、ムフッとつぶらな瞳でうなずくと、
「新規二名様ごらいてーん!」
 と宣言したのである。
「二名様じゃと?」
 ラピャタミャクは視線を動かし、自分の隣にアナザーなチャレンジャーを見出して声を上げた。
「おおっ!」
「……マスターが出向く予定でしたが、所用があるとのことで代役に来ました」
 光沢のある藍色の髪、ショートにしているが前髪は長く、右目はすっかり隠されている。はっとするほど整った顔立ちの美少女で、理知的であると同時に、どこか冷めた眼差しをしているのが特徴的だった。
「よろしくお願いします」
 いつも夢の中にいるようなラビーリャとは異なるが、根底に流れる無感情さから、彼女もカルマ族ということがわかる。
 ラピャタミャクも面識だけはあった。黒幕・暗躍コース所属の【クラン・D・マナ】である。口をきくのはこれが初めてだ。こちらこそよろしく、と手を挙げる。
「野点のときはおらんかったな? じゃがその話からすれば」
「目的は同じです。人手が必要で、手伝ってほしいとうかがっています」
「まさにそうじゃが、力仕事ではないぞ」
「そのようですね。ラピャタミャク様と店主様の会話から推測すると、どうやら、何かしらのメニューを実食するというミッションと見受けました」
「うむっ♪ しかし茨の道なのじゃ! 覚悟はいいか!?」
「どのような料理であれ完食する決意です。地獄は道連れ世は情け、といったところでしょうか」
 にこりともせずスラスラと言っているが、なかなか茶目っ気のある言葉じゃなとラピャタミャクは好意を持った。
「その意気やよしっ! ではともに挑むのじゃ!」
「とはいえいささか不安ではあります」
 全然不安そうには聞こえないが、おそらくこれはマナの本心であろう。

「こっちよ」
 ラビーリャと同じテーブルにつく。ラビーリャの隣にラピャタミャク、正面はマナだ。
 何をオーダーするかはわかりきっているだろうに、うきうきした足取りでラビットが伝票片手にやってきた。
「ご注文は?」
「唐辛子スパゲティじゃ!」
 なにっ!? と戦慄が駆け抜けるが、なーんてなとラピャタミャクは大笑した。
「冗談じゃ♪ まあ唐辛子スパゲティも気にはなるがな。まず例のものをもらおう。プリンラーメン三人前じゃ!」
 大盛りで! と言い加えることも忘れない。
 異議なしとラビーリャはうなずいたものの、マナは黙ってまばたきした。
 まさか、本当に……ですか?
 もちろんマナとて、メニューに『プリンラーメン』という文字は見ていた。しかしまさか――と読み流していた。
 辛さ五十倍カレーとか唐辛子スパゲティでヒーヒー言ったり、カエルとかムカデとか未体験ゾーンを試すことになると思っていたのだ。辛口も謎食材も不安ではあるものの、食べられないことはないでしょうとたかをくくっていた。
 しかし、『プリンラーメン』ですか。
 主食とデザートではないか。論理的に誤謬のある組み合わせだ。
 プリンとラーメンの間に、一文字分のスペースを入れ忘れていたということでしょうか。タイピングミス――いえ、こちらの世界にはコンピューターはないのでした。ですが手書きでもありえることですよね? それとも、『ラーメンご注文の方にはサービスでプリン提供』というサービスであるとか……。
 マナはわずかな希望にすがろうとした。
 だがたちまち、マナの希望は砕け散った。
「来たのじゃ♪」
 まずは香り高い豚骨ラーメン、しかも麺1.5倍の大盛りが運ばれてきた。
 三つだ。各人の前に置かれた。スープは濃い白でストレートな細麺、チャーシューたっぷりネギもたっぷりだ。紅ショウガは別添えで、同じく別添えでゴマや高菜漬けの用意もある。脂の匂いが空腹を刺激する。
 白いスプーンがついている。レンゲというものだろう。箸も人数分置かれた。
 しかし、これで終わりではなかった。
 ムフッとマッチョ店長は笑った。
「今日は三つも注文が来た。嬉しいねえ。作った甲斐があったよ~」
 手作りのプリンらしい。小皿に載って運ばれてきた。ひらいた赤子の手くらいはあるだろう。ちょろっとしたサービス品ではなく、それ単体で間食となるようなボリュームだ。卵をふんだんに使っているらしく黄色みが強い。ほどよい弾力があるようで、皿の上でぷるぷると揺れていた。台形型をした山のてっぺんには、カラメルの黒い帽子がかぶさっている。
 プリンもやはり、三つあった。
「思っていたより大きいのじゃ」
 さしものラピャタミャクもたじろがずにはいられない。
 せっかくうまそうなラーメンだというのに、本当にアレをやってしまうのか。もったいないのではないか――。
 けれどもラビーリャは慣れたものだ。
「入れて……お願い……」
 ラビットにゴーサインを出す。
「!」
 マナは表情を変えない。しかし心の中では息を詰めていた。
 冗談、ですよね。
 食べ物で遊ぶのはどうかと思います……!
 でも冗談ではないらしい。ぽちゃ、と音を立てマナの眼前の丼に、つややかなプリンが滑り落ちたのである。
 プリンは投入された。ラピャタミャクのラーメンの上にも、ラビーリャのラーメンの上にも。
「はいできあがり! 当店自慢の新メニュー、プリンラーメンですよー! よーく混ぜて召し上がれ~。ムフッ」
 ラビットは元気いっぱいだがマナは内心、茹でられたもやしの気分だった。
「うわー、かき混ぜるとカラメルの匂いがするのじゃ~」
 大丈夫なのかこれ、とラピャタミャクは言いながらも興味津々の体である。
「いただきます……」
 ラビーリャが手をあわせたのでマナも、ラピャタミャクもならった。
 ラビーリャにためらいはない。もう食べはじめている。
「味はどう、ですか?」
「わからない……私、味音痴、だから」
 ただ食感はいいと思うとラビーリャは言った。
「あちきは味音痴ではないぞ? ただ、食べ物であれば何でも美味しいと感じるだけなのじゃ」
 だから大丈夫と自分に言い聞かせ、ぐるぐると麺をかきまぜラピャタミャクはプリンを解きほぐす。麺は卵とじのような見た目になった。
「摩訶不思議じゃのう。はてさて、どんな味なのか? いざ、実食じゃ♪」
 レンゲですくったスープを口に運ぶ。
 こうなっては騎虎の勢い、下りることはできないとマナも腹をくくり麺に箸を入れた。
「では……」
 このときマナの脳裏に浮かんだのはマスターの顔だった。
 戻ったらどうやってマスターをいびり倒しましょうか……。
 覚悟してくださいね、と心の中でつぶやく。
「おおっ、これはっ!?」
 スープを一口すすってラピャタミャクは目を見張った。
「スープの尖った塩味がプリンでやわらぎ、甘みが加わってなめらかになっておるのじゃ」
 悪くない。麺もすすってみてまた驚いた。
「なんと奇妙! カラメルの苦みもコクとなって深みを与えておるのじゃ! 互いの旨味が合わさって絶妙な味わいの新感覚が味わえるではないか」
 最高ではないが合格とは言ってやりたい。豚骨にプリン、互いの持ち味がケミストリーを産み出したのだ。
「これはまさに、味のブレーメンなのじゃーーーっ!!!」
 ラピャタミャクにマナも同意した。
「意外と悪くない? アリナシで大別するなら割とアリ……ですね」
 思ったほどカラメルの香りはしない。豚骨のギトギトした感じがまろやかになったように感じる。後味こそ甘いものの不快ではなかった。たとえるなら、甘めなポタージュスープ風味といったところだろうか。
「良かった……」
 ラビーリャはマナを見て笑みを浮かべた。もちろんラビーリャのことだから破顔一笑とはいかず、せいぜい目元を緩める程度だったが、それでも滅多に表情を見せない彼女からすればこれは、値千金のスマイルなのである。
「ふむふむ、好き嫌いはわかれそうじゃが、あちきは好みじゃぞ♪」
 ラピャタミャクは軽快なテンポで平らげてゆく。豚骨スープだと思うと驚くかもしれないが、最初からこういう味付けと思えばじゅうぶんいける味だ。
 かくして三人の丼は空になった。
「さすがに満腹ですね……」
 マナはため息をつくが、ラピャタミャクはまだまだ行けるらしく、
「甘味のつぎは辛口がほしいのじゃ。唐辛子スパゲティか、激辛カレーか」
 と早くもメニューを繰っている。
「どう……思う? このメニュー」
 ラビーリャが問いかけた。カウンターからラビットも顔をのぞかせている。
「裏メニューとしては面白いと思うぞ。じゃが、万人受けしないじゃろうから表メニューとしては微妙じゃな。プリンはスープの味を大きく変えてしまう諸刃の剣じゃからのぉ」
 麺との味わいのバランスが崩れてしまうし、と言うラピャタミャクの言葉にマナはうなずく。
「別々の皿で提供するセットメニューにしたらどうでしょうか?」
「ふたつ、セットで『プリンラーメン』……ということ……?」
「いえ、名称はプリンラーメンではなく、『甘旨(あまうま)豚骨ラーメン』を提唱します。プリンは固形そのものを乗せるのではなく、冷やす前の加熱済みな液状のものをトッピングソース扱いの小鉢で提供するとか。……最初は普通の豚骨ラーメンとして食べ、味変して二度美味しい、みたいな宣伝文句でも加えればかなりちがうと思われます」
「それか固形で提供してプリンだけデザートにするか、両方混ぜるかは客次第にするとかじゃな♪」
 意見の交換はつきない。
 このとき店のドアがバタンと開いた。


 紅色の傘の下、同じ色の敷物の上にいるのは学園長【メメ・メメル】ただ一人だ。
「……」
 何時間か前までは、メメルのほかに五人の生徒がいた。だがヒノエや怪獣王女との同行、はたまたプリンラーメンへの挑戦と、それぞれ使命を身に帯び出て行って、この場にはメメルのみ残される格好となったのである。
 生徒がいるころはまだ、膝を崩しつつも茶を飲むだけのメメルだったというのに、単身となるともう野点でもなんでもなくなっている。
 茶碗に手酌で、なみなみと清酒を盛っているのだった。かたわらには一升瓶、片膝立ててしどけないありさま、白いもち肌が桃色に染まっている。
 ぐいとひと椀ひと息で干して、ふうと熱い息を吐く。
「また酒に逃げてしまったなぁ」
 まぶたが半分おりていた。
 この場に【コルネ・ワルフルド】でもいようものなら、目を怒らせ即座に酒瓶を取り上げたことだろう。飲み過ぎですっ! という叱り言葉とともに。最近とみに酒量が増えていませんかと指摘もしたにちがいない。実際、メメルのアルコール消費量はこのところ急激に増加していた。
 黒い影がメメルの眼前にさした。
 コルネが来たと思ったのだろう。あたふたとメメルは酒瓶を背中に回そうとした。
「……何やってんですか。今さら隠そうとしたってバレバレですから」
 あ、なんだ~とメメルは安堵した。 
「貴人たんかや~」
 まったく、と言って【仁和・貴人】は敷物に腰を下ろす。黒いマントに黒服、対称的に白いのは、顔につけた薄笑みの仮面だ。
「どうした? 怪獣王女やらヒノエやらと遊んでやらんのか? プリンラーメンも」
「それぞれ少しずつ顔を出す予定でしたが、どうかかわろうかと決めかねて街をプラプラと食べ歩いていたら、いつの間にかここに戻ってきてました」
 予定ってうまく行かないよね、と肩をすくめる。
「それもいいものだな♪」
「メメたんはずっとここで野点を?」
「まあな。途中からはもっぱらこいつだが☆」
 メメルは酒瓶を指でチンとはじいた。
「まだ日が高いのに、もう酒ですか」
「そりゃあチミ、酒はオレサマの恋人だからな」
「飲み過ぎは体に毒ですよ。体を壊してしまったら、それは恋人じゃなくDVです」
「うまいこと言うなぁ。座布団一枚やろう」
「いりません。実際、最近のメメたんはなんだかずっと酔っ払っているような気がします」
「酔ってないって、オレサマはいつもこんな感じだって」
 へへへと笑いながらメメルは、ぐいと胸元を引いた。
 西日のもとで和服、しかも呑んでいるので暑いのかと貴人は思った。あるいは胸元のしめつけが窮屈なのかと。
 だとしてもいささか様子が変だ。
 膝をぺたっと下ろすとメメルは前のめりになった。赤い毛氈(もうせん)に這いつくばる。呼吸が荒い。
「メメたん!? 飲み過ぎで気持ち悪いとか!?」
「大丈夫、酒のせいじゃねーってばよ……ただ最近、ちょっと体力が……人を呼んだりするなよ。しばらくこうして休んでいれば……治るから……」
「でも」
「大丈夫だと言ったろ!」
 いつになく鋭い声だった。貴人はメメルの背に手を置こうとしたまま、硬直したように動けなかった。
 何秒、そうしていただろうか。
 やがてメメルは伸びをして、膝を崩した姿勢に戻って身を起こしたのである。
「……大きな声を出して悪かった。もう平気だ」
「メメたんもしかして」
「病(やまい)ではないぞ。まあちょっとアルコール依存気味だがそれはまた別の話だ」
 左右を見回してからメメルは言った。
「ここだけの話……オレサマの体は、このところガタがきている。ときどきだが自由がきかなくなるのだ」
 こんな昼間になるのは滅多にないが、と付け加える。
「えっ、ヤングなのに!?」
 貴人はおどけてみせたのだが、メメルは寂しげに笑っただけだった。
「そりゃタテマエだ。オレサマが何歳か知ってるのか?」
 ええと、と貴人は視線を外した。しばらく考えてから言う。
「え……永遠の十四歳……」
「気をつかってくれてありがとう。貴人たんのそういうとこ、好きだよ」
 メメルにとっては、何気ない一言だったのかもしれない。
 だけど貴人は、心臓に針を突き刺されたように感じた。といっても殺すための針ではなく、しびれるような甘さをともなった緋色の針だった。
 どうしたんだろう、オレ。
 目の下が熱い。メメたんの顔、なんでか正面から見れないや。
 仮面をつけていてよかった。
 貴人の葛藤に気づく様子もなく、メメルは静かに言葉を吐き出した。
「でもな本当は、その年齢に二千と二十一を足す……。おいこれ、あんま人に言うなよ」
「まさか」
 と言いかけた貴人に、
「ジョークだよジョーク☆」
 告げてメメルは立ち上がった。指を鳴らすと紅色の傘がぱたんと倒れる。
「さあて、それじゃ連中の様子を見に行くとするか♪ 喜べ、貴人たんの予定の帳尻あわせをこのオレサマがやってやる。しっかりつかまれよ☆」
 またメメルが指を鳴らすと、魔法のじゅうたんよろしく紅の毛氈はふわりと浮き上がったのだ。
 もちろん貴人とメメルを乗せたまま!

 大きな水しぶきを立てて貴人は落ちた。お湯のなかに真っ逆さまだ。
 お湯? ここは温泉らしかった。広くはない。三人も入ればぎゅうぎゅうだろう。大理石でできた円形の湯船である。
 それ以外は殺風景だ。なぜって天井はむきだしの岩、あとは白い壁ばかりの地下迷宮だったから。
「なんだ一体!? ……あっ、学園長?」
 反射的にヒノエを背後にかばい、クロスは魔力球を放つ体勢のまま声を上げた。髪をなでつけて優雅に笑みかける。
「遅いご到着で。ちょうど帰ろうとしていたところです」
「いやあ、クロスたんどうも☆ 酔ってるから転移に失敗してな」
 メメルは湯につかったまま苦笑いした。着物姿だというのに、貴人同様水びたしだ。
「お前ら何しに……?」
 と言いかけてヒノエはじろりと貴人に目をやった。メメルと貴人は、広くない湯船で抱き合うような格好になっている。
「カカシ、お前……!」
 つかつかと歩み寄るとヒノエは問答無用とばかりに貴人の頬を張った。
 仮面越しだったが、すごい音がした。

 んー、と眉間にしわを寄せ、怪獣王女ことドーラは考え込んでいたがついに決断した。
「な、ならばあちきもそれをもらうのじゃ」
「決まりね!」
 エリカは手をあげ店主のラビットにオーダーする。
「新メニュー、甘旨豚骨ラーメン二丁!」
 エリカとドーラは『くたびれたウサギ亭』を訪れていたのだ。
 おおーとラピャタミャクが拍手する。
「よう決断した。安心するのじゃ、意外といけるぞ♪」
「ラピャタミャララララ……ええい名前言いにくいのう! そちはわちきのライバルじゃ! 魔人が平らげたものを怪獣が怖がったとあっては名折れよ!」
「変な対抗意識があるようですね……」
 隣のテーブルでつぶやくマナに、
「でも……メニュー名変えたの、正解だと思う……」
 頼みやすくなったから、とラビーリャが応じる。
 このときまた、店のドアがバタンと開いたのである。
 つづいて貴人の声がした。
「そのラーメンあと四つな!」



課題評価
課題経験:60
課題報酬:1600
春、うららかなれど風高く
執筆:桂木京介 GM


《春、うららかなれど風高く》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2021-05-02 01:00:17
賢者・導師コースのエリカ・エルオンタリエよ。よろしくね。

今のところ、【1】か【2】で行動しようと思っているわ。

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 2) 2021-05-02 20:24:05
グルメあるところにあちきありじゃ!
魔王・覇王コースのラピャタミャク・タラタタララタ、よろしく頼むのじゃ!

あちきはプリンラーメンなるものを食べに行くのじゃ。

《タイダルウェイブ》 クラン・D・マナ (No 3) 2021-05-04 04:00:45
クラン・D・マナと申します。
本日、私はマスターの代理でラビーリャ様の所へお邪魔させて頂きます。
それでは。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 4) 2021-05-04 12:54:05
賢者・導師コースのクロス・アガツマだ。よろしく頼む。
俺は2か4の予定かな。希望者がいなければ2、他に行きたい人がいれば4だろうか。

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 5) 2021-05-05 22:47:49
わたしは女王と交流してみるわね。