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母が鳴く夜


ストーリー Story

 気づくと、『チセ・エトピリカ』は地獄の中にいた。
 赤黒く濁った色の空間。眼下に広がるのは、血の彩に染まった泉。鉄錆の香は馴染みの深いそれよりも、より生々しく滑りつく。
 覚えがあった。
 故郷で暮らしていた頃。
 森の奥で、妊婦が山猫に喰い殺された。
 畜牙による死は穢れ。下層の民だったチセに、弔いは任された。
 引きずり出された胎児。満ちていた匂い。
 忘れられる、筈もない。

 果たせず、流れた羊水。

 逸らした視線の先。
 泉の中央。小島の様な何か。細いモノが絡み合う頂上に、うずくまる影一つ。
 人丈程もある、鳥。
 ならば、此れは巣だろうか。
 違和感に、目を凝らす。
 響いた声。
 泣き叫ぶ、女性。
 鼓膜を裂き、底までつん裂く。鳥の鳴き声と気づくと同時に、羽撃く音。
 翼を広げる鳥。飛び立つのだと思った。
 更なる音が、鳥の慟哭を塗り潰す。
 嬰児の泣き声。
 何百何千もの、母を求める声。
 鳥がもがく。
 飛び立とうとするのに、飛び立てない。
 手。
 巣の中から伸びた無数の手が、鳥の脚を掴む。
 巣を形造るのは、枝などではなく。
 骨。
 山と積もるは、黒く爛れた嬰児の骨。
 カタカタカタと肉も舌も無い口で泣き叫び、鳥の脚を掴んで離さない。
 まるで、去る母に行くなとすがる幼児の様に。
「此れは……何……?」
 吐き気に抗いながら、呟く。
『『呪い』さ』
 聞こえた声。振り向いた先、陽炎の如く揺れる影。覚えがあった。
「『渾沌(こんとん)』様……?」
『やあ、我が巫女の一欠片』
 正しく、其は覇王六種が一柱。『滅尽覇道・饕餮』の臣下にして端末。
 『三凶・渾沌』。
「此れは……あなたが……?」
『半分当たりで、半分外れだ』
 嘲笑う様に、声が揺れる。
 三凶の中で最も感情の発露が顕著。故に、最も油断がならぬ相手。
 そのつもりであれば、感情の帳その闇に。真実を隠すも容易い筈。
『此処は。此の世界は、ある『呪い』の根源。そしてかの鳥、『姑獲鳥(こかくちょう)』はその呪いの主さ』
「呪い……ですか?」
『ああ、かくも哀しく悍ましい。生物の業が生せし真の『毒』だよ』

 曰く、此れは『母』の妄執によって生まれた呪い。
 子を成したい。産みたい。育てたい。愛したい。
 其を望み、されど叶わなかった母の無念。
 余りに強き念は残留し、呪いと化して顕界に干渉を始める。
 人の手を媒体とし、女性の身へと根を下ろす。
 媒体となった者の望みに従い、望んだ属種、絶対受胎の理を女性の身に刻む。
 其れは対価。
 己の妄執を達する為の手駒。彼に対する、せめてもの。
 女性が懐妊し、出産した時。呪いの真の歯車は回り始める。

 まず一つ。
 生まれた子は、決して母たる女性との絆は保てない。
 遅かろうと早かろうと。
 離別であろうと死別であろうと。
 母子は別れる。
 例え、如何に互いを愛していても。
 根源は、嫉妬。
 己は叶わなかった。なれば、誰にも叶わせない。 
 全ての母に、己と等しき悲しみを。
 苦しみを。
 愚かしきも浅ましく。そして空しき嫉妬。

 もう一つ。
 生まれた子は、死して天に昇れない。
 変性し、リバイバルとして顕界に留まる事も出来ない。
 不遇の死であっても。天寿を全うしたとしても。
 呪いの爪痕を刻まれた子らの魂は、死した瞬間輪廻の理から引き剥がされる。
 呪いの根源の元へと引き込まれ、かの者の愛児として囲われる。
 悲しみと憎悪をほんの束の間に癒す、永久の愛玩として。

 そしてかの者もまた、その対価を払う。
 かの者の下に積み上げられた愛児達は、母を求める。求めて泣いて。かの者へと縋り付く。
 かの者は飛び立てない。
 己が集めた幾多数多の子の妄執に絡められ、終わりも始まりにも至れない。
 だから、かの者はまた呪いを散らす。
 永久に潰えぬ悲しみと憎悪。
 其を束の間癒す為。
 延々、延々と子を集める。
 子は増える。
 すがる手もまた。
 飛び立つ術なく。
 また集める。
 狂々、狂々。
 因果を回す。

「……何故ですか?」
 震える口で、チセは問う。
「子を生せず亡くなる方も、子と望まぬ別れに至る方も大勢います。わたしも、村で幾つも見ました。悲しい事ですが、どうしても失くせぬ世の理と存じています。ソレが、この様な呪いに至ると言うのであれば、此の世はもっと怨嗟に塗れる筈。そうならぬと言う事は、相応の救いがある筈です。なのに、何故この方は……」
『簡単さ』
 嗤う気配。嘲りとも、自嘲とも。
『あの鳥の、母としての在り様を絶った……喰らったのは、饕餮だからさ』
「!」
 息を飲むチセを、また哂う。
『何を驚く? 饕餮が君達に誑かされたのは、ついこの間の話だろう? その前の饕餮は知っての通り、単純な剪定システムだ』

 また曰く。
 かの鳥の前身たる母たる者の種族。過ぎた繁栄と搾取の果てに、饕餮に『対象』と認識された。
 産みの痛みも。抱く温もりも。与える愛も。貰う愛も。そして、見送る明日も。

 ――その全てを、たった一刻。一口の元に――。

『かつての饕餮はただ『過ぎた』存在を刈り取るだけのモノ。その過程・結果における『副産物』なぞ、まあ』

――知ったこっちゃないからね――。

 含み嗤う声。かつて在った、深淵の理。
 そして、ソレは今もきっと。
「何を……」
 震える声を、引きずり出す。
「何を、わたしに……?」
『聡明で、結構だね』
 見初めた者の察しの良さに、少しだけ。
『先に断言しよう。此の呪いは、『些事』だ』
 些事。この地獄を、些事と言うのか。
『完成し、『免疫』となった饕餮はこの呪いを世界に対する『毒』と認識した。程なく、捕食に動く』
 ああ、また喰らうのか。喰う事によって生じた地獄。其れを、また。
『けど、その前に君達に『此れ』を任せる』
「え……?」
『饕餮が、知りたがってるのさ。此の地獄を、己を変じさせた君達が如何様に捌くのかを』
 絶句するチセに、滅尽の端末は語る。
『選択は自由だよ。饕餮が動く事が確定した時点で、詰みは決定している。介入するかは、君達次第』
 感じるのは、その言葉の奥に。
「……お伺いしてもよろしいでしょうか?」
『何だい?』
「わたし達が、拒んだら……?」
『饕餮が、喰らうだけ』
 全てを見越した、悦の気配。
『かつての母たるかの鳥も、累々広がる子らの御霊も』

 ――回帰叶わぬ、滅尽の奈落に根こそぎ――。

 饕餮による剪定。其は、此の世に害悪無用なモノと言う断定。
 饕餮の性質が毒を排する免疫抗体となった今、成される決定は更に絶対。
『饕餮は、世界と己の理に準じるのみ』
 笑いながら、渾沌は問う。
『さて、君達ならどうする?』
 沈黙するチセに、追い打つ様に。
『あまり、悩む時間は無いよ?』
 彼は告げる。
『碌でもない、『クソ蟲』が狙ってるから』
 その呼称に、今度こそチセは息を飲んだ。

 ◆

「……ウッソでショー……」
 妙な胸騒ぎを感じ、その場所を調べていた道化の魔女『メフィスト』。
 果てに見つけた存在に、流石に心底呆れた声を漏らす。
 ソレは、静かに地を這う黒い霧。
 触れた草花を枯らし、逃げる鳥を落として進む。まるで、何かを求める様に。
 優れた術者であるメフィストの感覚は、先に在るモノを見通す。
「……『呪い』、デスネ……」
 看破するのは、真理の向こうに到達した者の英知。
「あの呪いを取り込んで変性し、饕餮の『特効』を抜けるつもりデスカ……」
 悍ましき執念に哀れみまで感じながら、息を吐く。
「そんなにも、『妬ましい』のデスカ……? この世界の、歩み続ける命が……」
 かのモノは、すでに生けるモノにあらず。ただ、怨念破滅の衝動のみにて蠢く現象。
「『人形遣い』……」
 其は悪意。
 かつて負念の赴くままに世界を喰らおうとした悪魔。その、残滓。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 8日 出発日 2022-06-08

難易度 難しい 報酬 多い 完成予定 2022-06-18

登場人物 6/8 Characters
《光と駆ける天狐》シオン・ミカグラ
 ルネサンス Lv14 / 教祖・聖職 Rank 1
「先輩方、ご指導よろしくお願いしますっ」 真面目で素直な印象の少女。 フェネックのルネサンスで、耳が特徴的。 学園生の中では非常に珍しく、得意武器は銃。 知らない事があれば彼女に訊くのが早いというくらい、取り扱いと知識に長けている。 扱いを知らない生徒も多い中で、その力を正しく使わなくてはならないことを、彼女は誰よりも理解している。 シオン自身の過去に基因しているが、詳細は学園長や一部の教員しか知らないことである。 趣味と特技は料理。 なのだが、実は食べるほうが好きで、かなりの大食い。 普段は常識的な量(それでも大盛り)で済ませているが、際限なく食べられる状況になれば、皿の塔が積み上がる。 他の学園生は、基本的に『○○先輩』など、先輩呼び。 勇者の先輩として、尊敬しているらしい。 同期生に対しては基本『さん』付け。  
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《真心はその先に》マーニー・ジム
 リバイバル Lv18 / 賢者・導師 Rank 1
マーニー・ジムよ。 普通のおばあちゃんとして、孫に看取られて静かに逝ったはずなんだけど…なんの因果か、リバイバルとして蘇ったの。 何故か学生の時の姿だし。 実は、人を探していてね。 もし危ないことをしていたら、止めなければならないの。 生きてる間は諦めてたんだけど…せっかく蘇ったのだから、また探してみるつもりよ。 それに、もうひとつ夢があるの。 私の青春、生涯をかけた行政学のことを、先生として、みんなに伝えること。 これも、生前は叶える前に家庭持っちゃったけど、蘇ったいま、改めて全力で目指してみるわ。 ※マーニーの思い出※ 「僕と一緒に来てくれませんか?」 地方自治の授業の一環でガンダ村に視察に行ったとき、そこの新規採用職員であったリスク・ジムからかけられた言葉だ。 この時点で、その言葉に深い意味はなく、そのときは、農地の手続きの案内で農家を回る手伝いといった用件だった。 「よろしくお願いします。」 これ以降、私たちの間では、このやり取りが幾度となく繰り返されることとなる。 その後、例のやり取りを経て婚約に至る。 しかし、幸せの日々は長くは続かない。 結婚式の前夜、リスクは出奔。著作「事務の危機管理」での訴えが理解されない現状に絶望したとのことだが… 「現状の事務には限界がある。同じことの繰り返しじゃ、世界は滅ぶよ」 結婚前夜の非道な仕打ちよりも、消息を絶つほど思い詰めた彼の支えになれなかったことを今も後悔している。 ※消滅キー※(PL情報) リスク及びリョウに感謝を伝えること 片方に伝えると存在が半分消える(薄くなる) メメ・メメル校長はこのことを把握しているようで、これを逆手にとって消滅を遠ざけてくれたことがある。 (「宿り木の下に唇を盗んで」(桂木京介 GM)参照)
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」

解説 Explan

【目的】
 呪いの根源を断つ事。
 方法は問わない。

【フィールド】
 呪いの絶界。
 胎血の泉。深さは腰まで。ねっとりと重く、まとわりつく。
 底は、嬰児の骨が敷き詰められた大地。母を求めて泣き叫び、縋りつく。
 大気はむせ返る程の血臭に満ちる。
 以上の条件により、強さ・素早さは基本値より-10の修正(回復不可)
 毎ラウンド、体力・気力が-10の修正。

【エネミー】
【姑獲鳥(こかくちょう)】
【格】
 無
【属性】
 無
【習性】
 呪いの根源。体長2m程の血に塗れた黒鷺。
 彼女が骨山に座す限り、呪いは昇華しない。
 人語は解さず、意識は朦朧。延々と夢を見続ける。
【戦闘スタイル】
 攻撃はしてこない。
 接触を図る度に体力・魔力・気力を-10。
 物理攻撃は無効。魔法及び魔法効果持ちの武器でのみ受け付ける。

【悪意】
【格】
 6
【属性】
 無
【習性】
 蠢く黒い霧。呪詛を呟く無数の口や目がある。
 『人形遣い』の悪意が具現化したモノ。特効を得た饕餮から逃れる為、呪いを喰らっての変性を望む。
 自我や知性はない。
 物理攻撃は無効。
【戦闘スタイル】
 霧状の体でまとわりついて来る。
 一度の攻撃で全PCを捕捉する。
 物理防御は無効。
 ダメージ判定なし。
 2分の1の確率で2ラウンド行動不能に陥れる。

【NPC】
【チセ・エトピリカ】
 先の戦いで饕餮と接触・変性に関わった事で『巫女』としての資格を得た一人。今回の橋渡し。
 場所が場所なので、本来の魔力ブーストに制限がかかる。
 各1回、PCの魔力をフル回復。
 彼女を通して、饕餮と会話が可能。
 何なら饕餮の召喚権限も有しているが、流石に巫女が一人だけだと無理。

【滅尽覇道・饕餮】
 絶界の外側から全てを観測している。基本的には不介入。

【※】
 PC全員の体力が0になると失敗判定となる。
 その場合、饕餮が『捕食』を発動。呪いを嬰児達もろとも滅してしまう。
 悪意が存在する状態で失敗すると、呪いを取り込んで変性。新しい災厄と化してしまう(その場合、次エピソードへ持ち越し)


作者コメント Comment
 こんにちは。土斑猫です。
 今回は、とある方の設定にインスピレーションを受けて制作しました。
 基本的には失敗しても大事には至らない設定となっていますので、お気が向いたらどうぞお気軽に。

 ※追記

 今回はかなり自由度が高く、ほぼPC皆様の提案で物語が動きます。どうぞ、色々なアイディアを。

 なお、解説における情報はチセとメフィストさんから通達済みとなっています。
 状況を把握した前提でPCを動かしていただいて結構です。

 では、ガンバ!


個人成績表 Report
シオン・ミカグラ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:513 = 171全体 + 342個別
獲得報酬:18000 = 6000全体 + 12000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:10
獲得称号:---
姑獲鳥を……いえ、あの呪いを、祓いましょう
父とも……そして母とも私は死別を経験しました。こんな苦しみ、一人でも多く、できれば誰にも知ってほしくはないんです

悪意へはオクタルヴァにPnNを装填し発動して妨害してみます
他の方が何かを試みているときは、聖鎖陣で動きを止めておけないかやってみましょう


私は姑獲鳥を染める血を聖水で洗い流してみます
まるで油の海に落ちた鳥と似ますが、これを落とすことで少しでも呪いの負荷を軽くできないか試してみたいです

それでも、巣に足を掴まれるなら……この血の泉に潜ってみて、呪縛を解くことを試みます
野生の勘ですが、見えていない泉の底に何かあるかもしれないと思ったんです
泉の底まで全身まで潜ったら赤児達へと手を伸ばし、復活呪文を応用して死せる肉体へと声と祈りを届けたいです
精神が壊れてしまうかもしれません。引きずり込まれ同じになってしまうかもしれません。けれど、それでも救いたいから

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:205 = 171全体 + 34個別
獲得報酬:7200 = 6000全体 + 1200個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:10
獲得称号:---
人形遣いの最後の置土産ってやつだな
最初から最後まで本当に厄介なやつだな

さて、最悪を回避するためにもオレは【悪意】への対処をしようと思う
最初のうちはヒ17、繋りの意味で牽制とある程度相手を削っていこう
魔力がある程度消耗したら漆黒の大鎌の効果を発動、エトピリカくんに魔力を回復させてもらってヒ20、繋りの意味、ヒ21、刹那の支配をうまく使って攻撃していこう

不可侵の覇道、窮地からの僥倖もうまく使って対処していこう
魔力の実、桃花酒の使用順位はは魔力消費での回復手段持ちの味方→自分
少しでも戦闘継続できるように使う
自分の体力へのスリップダメージはダイヤモンドレッドストーンで対処

アドリブA、絡み大歓迎

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

獲得経験:205 = 171全体 + 34個別
獲得報酬:7200 = 6000全体 + 1200個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:10
獲得称号:終わりなき守歌を
◆目的
呪いの根源を断つ

◆行動
基本的には、リーライブで傷ついた仲間の傷を癒しつつ、魔法感知、海底の精の直感Ⅰを活かし、呪いの根源が濃い場所を探し、呪いの根源のひとつであろう……哀しみを、少しばかり肩代わりを

どこの世界の親も、泣いて縋る子を慰めるのは……やることは同じでしょう
赤子ひとり分位の骨を抱え抱き、泣き止むように抱き締めましょう

母はどこにも消えたりしませんよ
お出掛けしても、ちゃあんといい子にしてたら、お土産もって帰ってきますから

だから、泣かないで

あなたのことは、ひとときでも……忘れたことはないから

姑獲鳥のことを、そろそろ解放してあげませんか
互いの愛で、互いを縛り合うだなんて……哀しすぎるから

マーニー・ジム 個人成績:

獲得経験:205 = 171全体 + 34個別
獲得報酬:7200 = 6000全体 + 1200個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:10
獲得称号:咎の御魂を抱く者
人形遣い、本当にしつっこい。大っ嫌い!!
・・・っとと、はしたないところをお見せしたわね。
落ち着いて、冷静に作戦を立てれば、きっとうまくいくわ。

【事前調査】
姑獲鳥、人形遣いの残滓「悪意」についてプロローグより深く調べ
・まずは【悪意】を退場させる
・彼女が骨山に『座さない』
以上の状況を作ることを念頭に【総合計画】を立て
【教導の才】で仲間に共有

リーラブによる回復
仲間と連携して味方の体力を保つ
リーソルと魔気変換で自分の気力と魔力を保つ

シーソルブで
姑獲鳥の精神と
魔力的に深く接続し
チセさんの伝達能力と連携して
みんなのメッセージをより効果的に伝えた上で
【悪意】の囁きが
姑獲鳥の精神を汚さないようシャットアウト!

シキア・エラルド 個人成績:

獲得経験:205 = 171全体 + 34個別
獲得報酬:7200 = 6000全体 + 1200個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:10
獲得称号:---
この光景は…見てられないな

・行動
事前にマーニーさんから子守唄を聞く
他のメンバーにも、うろ覚えでもいいので子守唄が記憶にないか
「こんだけいるんだから、バリエーション多い方が良くない?」

到着すれば【演奏】で子守唄を
自分の記憶、仲間の記憶、あとはアドリブで演奏し続ける
彼らの悲しみが、寂しさが少しでも癒えて
安らかに眠れるようにと

「悪意」がやってきたなら【マド】と【シスイノシ】
あーもう鬱陶しい!邪魔すんなテンポが崩れる!
『邪魔するなって言ってんだろ余所者が!!』


全てが終われば鎮魂歌を
どうか、彼らが、彼女が
会うべきひとの下へいけますように

タスク・ジム 個人成績:

獲得経験:205 = 171全体 + 34個別
獲得報酬:7200 = 6000全体 + 1200個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:10
獲得称号:---
饕餮様を味方として受け入れた時点で、遅かれ早かれ、
過去のこういうことと向き合わなければいけない状況は、覚悟していました
同時に、これは饕餮様からの問いかけでもあるようなので、
しっかり対応していきたいものですね

マーニーの【事前調査】に
自分の【事前調査】と【勇者司書】で連携
メフィスト様や桃山令花から人形遣いについてより詳しく話を聞き
【悪意】対策を練る

可能なら出発前に饕餮様にご挨拶
直接会えないなら内心思いを馳せる形で
今回の件に決着をつけることを誓う

【強者の定義】
日々のルーチンは特に内観に力を入れる
「慈雨の奏でる鎮魂歌」「進撃の驟雨」(七四六明GM様)で得た鎮魂の剣技
これで【悪意】=人形遣いと向き合う

リザルト Result

――ΓΔΕБГДЪЫЬЭЮЯб……――。

 意味の知れない怨嗟を呟きながら、闇色の霧が地を這いずる。蠢く中に、見え隠れするのは赤く光る無数の眼球。その禍しい狂気を帯びた輝きに、【タスク・ジム】は小さく呻いた。
「あの目……確かに……」
 忘れる筈も無い。あの無間の隔離世の中、狂った哄笑と共に見下して来たモノ。
 唾棄すべき忌憶。でもきっと、永遠に忘れる事は叶わない。かの者が遺した、呪いの様に。
「人形遣いの最後の置土産ってやつだな……」
 ただただ怨嗟をばら撒きながら彷徨う闇の霧。破滅の悪魔『人形遣い』の残滓。
 ――『悪意』――。
「最初から最後まで、本当に厄介なやつだ……」
 そこに、かの魔王とはまた違った脅威。悍ましいまでの執念を感じ取り、【仁和・貴人】は悪寒を噛み潰す。
「人形遣い、本当にしつっこい! 大っきらい!! ……っとと、はしたない所をお見せしたわね。落ち着いて、冷静に作戦を立てれば、きっと上手く行くわ」
 普段は見せない激情。ポカンと見つめる【シオン・ミカグラ】と【シキア・エラルド】に笑って誤魔化すと、【マーニー・ジム】はオホンと咳払いなぞして見せる。
「まあ、仕方ないよね。俺も正直、ウンザリだからさ」
 わざとらしく身震いしながら、シキアが見やる先。
 何も無い様に見える草原で、霧は歩みを止める様に滞留を始める。
 地を覆っていた草花は尽く枯れ果て、緑の大地は瞬く間に死した土地へと変わって行く。
「……余所者め」
 吐き捨てる言葉は、ただただ嫌悪に満ちる。
「霧が、地面に滲みていきます」
 動向に注視していたシオンが気づく。
 悪意の目的は知れている。と言う事は。
「はい。かの『呪い』は、その先に……」
 声に振り向いた先には、【チセ・エトピリカ】。そして……。
――ああ、やっぱり来るんだねぇ。どうせ饕餮が喰らって終いだと言うのに。物好きな事だよ――。
 少年の様な声に、嘲る気配。チセの隣。明確な型は成さず、けれど絶対的な存在感。
 『三凶・渾沌』。
 『滅尽覇道・饕餮』の代弁者たる厄神の一柱。
――まあ、良いか。色々と治まった今、退屈なのは確かだからね。こんな些事でも、余興には違いない――。
 ケタケタと笑う。
 伝え聞いたアレを些事と、余興と言い切る。今は味方とは言え、覇王六種の中でも異端。やはり、人の立つ場所からはまだ遠い。
 タスクは思う。
 此度の件。饕餮を味方として受け入れた時点で覚悟はしていた事。かつての饕餮の役目と方法論を鑑みれば、それが多くの歪みを生み出していた事は『宿儺』の存在からも明白で。彼と歩みを共にするのであれば、その責を分け合うもまた当然の道理。全ては、遅かれ早かれ。ソレだけの事。
 そして、これは同時に饕餮からの最後の問いかけ。
 かの呪い、人たるモノの可能性は何とする?
 この業を知りて、なお『滅尽』と共に在るか?
 後者に対して、結論はもう出ていた。魔王との決戦において、彼が成してくれた加護を忘れはしない。六種の覇王は、そして饕餮は共に在るべき仲間。
 ならば、その覚悟が確かに在る事。それを、この呪いの昇華を持って。
「饕餮様……」
 渾沌は饕餮の端末。その向こうに座する彼に向かって、語り掛ける。
「見ていてください。僕達の、答えを……」
 饕餮は答えない。ただ渾沌が『ま、気楽にやっときな』と揶揄った。
「……事に及ぶ前に、お聞きしたい事があります」
 横から割った声に、視線を上げる。
 チセと渾沌の前に立っていたのは、【ベイキ・ミューズフェス】。
 いつも穏やかな彼女。その顔に、微かな鬼気を感じた気がした。
 チセの頭越しに、渾沌へと問い掛ける。
「饕餮様は人形遣いを喰らった事で、ソレに対する『特効』を得たと聞いています」
――そうだよ――。
「では、何故今すぐあのクソ蟲を滅さないのです? そうすれば……」
 淡々とした口調に垣間見えたのは、確かな怒り。
「少なくとも、呪いに囚われた子等が狙われる事はないでしょうに」
――ソレも含めて、饕餮が観たがってるのさ――。
 答えは酷く簡単で。酷く無情。
――変性を果したとは言え、饕餮が完全な『免疫』となるには、まだデータが足りない。特に、自然理から外れた『人心』は以前未知の領域――。
 確かな事。神ですら計り知れないと言われる人の心。濃密だったとは言え、あの一時で全て理解出来る筈もない。
――故に、饕餮は知りたがっている。今ケースに関しては特に……――。

 ――人心の根源の一つたる、親の情と言うモノを――。

 ベイキの顔が、険しさを増す。オロオロするチセを置き去りに、もう一つ。
「……かの呪いは、母子双方に罹るとか。もし、そのどちらかの呪いが浄化されたなら……」
 視線が渾沌を見据える。
「もう片方は、どうなるのでしょう?」
 偽る事は、許さないと。
 けど。
――知ったこっちゃないよ――。
 返ってきたのは、予定調和の空っぽ。
――先にも言っただろう? 饕餮は、僕らは理に準ずるのみ。その後の事なぞ、関係ないのでね――。
 ベイキの発する気配が、ピリと強張る。明らかな敵意に、息を飲む皆。けれど、肝心の渾沌は気にかけようともしない。
 しばしの、間。
「……そうですか……。なら、仕方ありませんね……」
 息を吐き、踵を返す。
 所詮、人の理に沿う存在ではなく。此処で争ったとしても、利に繋がる事もない。
 今は、ただ。
 ベイキがそう納得しようとした、その時。

『解かれる事、能わず』

「!?」
 振り向いた先には、チセ。本人にも訳が分からないのだろう。己のモノではない言の葉を綴った口を両手で押さえて、またオロオロ。
――口を貸しな、巫女――。
 渾沌が言う。
――饕餮が、話すってさ――。
 瞬間、空気が変わる。
 ピリピリと肌が泡立つ感覚。体感温度が、確実に数度下がる。
 強大な、滅尽の畏怖。
「……饕餮様……」
 かつて間近に感じたマーニーとシオンが呟く。
 縁を結んだ者の言霊を道にして、其は降りる。

『旅守りの加護を持つ者』

 チセの声を借り、紡がれるのはかのモノの意思。
 向けられるのは、怯える事も無く見据える儚き水精。

『問いに解を答す』

 ベイキが、薄く唇を噛む。与えられる事実を、全て受け止めようと。
 例えソレが、心を朽ちさせる絶望であったとしても。

『媒体となりし儀が一つとあれど、母子双方に刻まれし呪いは別筋。故、片割れの呪が溶けようと、もう片方の呪までが溶ける道理は無し。即ち』

――『かの子ら』は、今だ、かの呪いの底に沈みたる――。

「!?」
 事情を知らぬ者達が、目を見開く。
 声を貸すチセも、その一人。真っ青な顔でベイキを見やる。その視線に、薄い微笑みで答える。『大丈夫』と言う様に。
 薄々、覚悟していた事だから。
『其方に刻まれし呪いは、既に昇華している』
 そう。自分の呪いは、消えている。だけど。
『其方の縁は、既に無く』
 違う。
『接する利は皆無』
 違う。そうじゃない。
『接すを望むは、相応の苦痛有り』
 だから?
『如何?』
「愚問ですね」
 意味のない問答。費やす時間が、ただ惜しい。
 再び踵を返し、歩き始める。
「さっさと道を開いてくださいな」
 もう、振り返る理由は無い。
「それが、お望みなのでしょう?」
 迷う理由も、在りはしない。
「愚かで白痴な覇王様」
 待っているのだ。泣いているのだ。
「存分に、御覧なさってくださいな」
 子供達が。あの子達が。
「母と言う生き物。その堕ちた想いが、如何に悍ましくも浅ましいかを!」
 そう。終わらない。終わってなどいない。
 終わりにする事など、出来はしない。
 あの子らが、あの血溜りで泣く限り。
――ああ――。
 渾沌が哂う。
――怖いねぇ。『母の執念』と言うヤツは。なら――。
 空間が歪む。溢れ出す、生臭く湿った空気。
 腐った、胎盤の臭い。
――魅せておくれよ。存分に――。
 そして。
 暗転。

 ◆

 開かれた視界は紅の闇。
 肺腑を満たすは朽ちた血の香。
 耳朶を覆うは数多の泣く声。
 五感を犯す呪いに挫かれ、ぬかるむ足元に体勢を崩す。
 思わず着いた手と膝。一斉に縋り付く、小さな手。
 抱いて。綾して。愛してと。
 血溜まりの底は、じゃらつく感触。
 そう、この地を成すのは……。
 恐怖と嫌悪と悲しみが、狂気と共に心を毟る。
「気をしっかり!」
 一度経験していたチセが、声を限りに叫ぶ。
「緩めては、引き込まれます! どうか、意志をしっかり持って!!」
 言われるままに。
 皆が、修羅場を潜った勇者達。振り絞った精神力に悲しみの呪詛は遠くなり、掴む手もまた緩む。
 その儚さに、やはりこの子らは無垢なのだと。また痛みが刻まれる。
「大丈夫、皆?」
 真っ青な顔で訊くシキア。
「何とか……な……」
 立ち上がる貴人。
「お前こそ、大丈夫か?」
「まあ、楽じゃないけど……」
 『耳の良い』シキア。この呪詛は、より深く刺し込む。それでも。
「この光景は、見てられないからね……」

「シオンちゃん、大丈夫?」
 口を手で覆いながら咳き込むシオンの背をさするマーニー。
「大、丈夫、です……」
 えづきながら、血混じりの羊水を吐き捨てる。
 伸びてくる小さな手。ソレを、そっと握り返して。
「この呪いを、祓いましょう……。あっちゃいけないんです……。こんな、事……」
 譫言の様に呟く目には、異様な程に強い光。マーニーは察する。
 ああ、この娘にも思うモノがあるのだと。

 気を緩めれば、飲み込まれる。立っているだけで、消費していく。
(長くは、持たない……)
 滲み出る汗を拭い、タスクは前を見る。
 ベイキが、立っていた。響く泣き声も。縋り付く手も。
 全てが痛い筈なのに。
 ただ真っ直ぐに。前を。
 彼女が見据える先には、小島があった。骨が絡み合った、蠢く鳥の巣。その頂に。
 真っ黒な羽毛を、血で濡らした鳥。
「アレが、『姑獲鳥』とやらの様ですね」
 振り向く事無く、ベイキが言う。
 響き渡る絶叫。女性の慟哭を上げながら羽ばたく鳥。けれど……。
「飛び立てない様ですね。聞いてはいましたが」
「アレがあそこに座している限り、呪いは昇華しないと……」
 話すタスク達の前で藻掻く鳥。掴まれた脚が放される事は無く、ただ虚しく羽根と血飛沫だけが散る。
「何で飛び立ちたいんだろうね。自分で集めた子供達だろうに」
 血と手をかき分けながら近づいてきたシキアが、不思議そうに。
「……まあ、『人を呪わば穴二つ』……。呪いなんざ、そんなものか……」
 呟いて『ここ最近で呪言たくさん使ってる俺が言えた口じゃないけれど』などと。
「事の発端が発端だし。滅するだけなら、普通に饕餮様がバックリいけば良いだけだし……」
 彼女達が呪いと化したのも、元はと言えば饕餮の剪定が発端。けれど、ソレは何より饕餮自身が理解している。責務を放棄した訳でもない。
 事実、自分達が関与を拒めば彼は即座に。
 でも。
(それはあまりにも、無慈悲なんじゃないかな……)
 少なくとも、『子供達』だから。
「そうです」
 思考を読んでいたかの様に、ベイキは言う。
「この子らに、罪はありません。あるとすれば、在らぬ希望に惑い、己が身に呪いを受け入れた……」
 上がる手。細い指がその身体をなぞる。
「愚かな母にこそ、あるのでしょう」
 鳥が鳴く。子らが泣く。
 まるで、その愚かさと罪禍を詰る様に。
「……哀しみを、少しばかり肩代わりを。ソレが、根源の一つでしょうから」
「ベイキさん……いるの……? 貴女の子供達が、この中に」
「お話通りなら、そうなるでしょうね。でも、この有り様では……」
 マーニーの言葉に薄く笑って、骨と羊水の果てを見回す。あまりにも広く、あまりにも多い。それだけ、自分と父の過ちを繰り返した者が在ったと言う事。
 ひょっとしたらとも、思ったけど。
「そも、あの子達が私に会いたいなどと思ってくれるでしょうか……」
 自分達を、こんな地獄に産み落とした咎人になど。
「責めるな」
 貴人も言う。
「それでも、アンタは……」
 言葉が、続かない。此の悲しみを埋めるに値する言葉など。
「ありがとう」
 ベイキは笑う。それだけで、十分だと。
 そして、その優しさはこの子らにも与えるモノと。
「どこの世界の親も、泣いて縋る子を慰めるのは……やる事は、同じでしょう?」
 身を屈めて、手を伸ばす。伸びてくる手の一つを掴み、引き上げる。
 まろび出たのは、小さな骨の赤子。黒く爛れた身体を血に濡らし、カタカタと。
 腕に収められるは、幾百幾千のたった一人。それでも、せめて抱き締める。胸にしがみつく枯れた背を、優しく愛しく撫で摩り。泡沫であっても、安らかに。
 泣き声が止む。
 昏い眼孔から流れる涙。伸ばした指で、そっと拭って。
 向ける視線。先には、此方を見つめる赤い焔。嫉妬と憎悪と、渇望と。
「ええ……そうでしょう」
 憎々しげに嘴を鳴らす鳥に向かって。
「貴女が、望み焦がれて。けれど、叶わない事……」
 魔法感知と、海底の精の直感。探った呪詛の根源。示されたのは。
「その執念が、全てを縛っているのです。貴女を。そして、この子達を。でも……」
 見れば、彩る赤は眼孔を満たす鮮血の赤。黒の羽毛を濡らすのは、溢れ零れる血の涙。己の情念が、穢れと化して。
「その目では、己を見つめる事も出来ないでしょう……」
 言って、踏み出す。
「私が、拭いましょう。同じ罪を持つ、私が」
 答える様に、鳥が鳴く。

 ◆

 歩んでいくベイキの姿を、皆は息を飲んで見守る。
「強いな……」
 貴人の横で、マーニーが『そうよ』と呟く。
「子供の為なら、母親は何処までも強くなるわ。神にも……鬼にもなれる程に……」
「おばあちゃま……」
「そうです……」
 喘ぐ息を吐きながら、シオン。
「私にも、分かります……。でも……」
 何か思い詰める様な声。
 タスクが、『どうしたの?』と訊こうとした時。

――бвгжзи殺йноп怨руфх滅滅цч……――。

 響いてきたのは、また別の呪詛。降り仰いだ先。
 真っ赤な空に、滲み広がる黒。
 蠢く黒霧。ギョロギョロと覗く、無数の目。
「人形遣い……」
「来たか……」
 武器を構える、タスクと貴人。
「タスクちゃん……」
「ええ、分かってます。おばあちゃま」
「可能な限り、回復の手は回すから……」
「はい。そちらも……」
 事前に立てていた計画。呪いを払う者と、悪意を阻む者。それぞれが、得手とする術を。やれる事、全てを。
 仲間の為に。子供達の為に。そして、『彼女』の為に。

 ◆

――БВ呪ГЕШёжзиЩ滅ЪЁ憎……――。

 ジワジワと広がっていく悪意。ギョロギョロと動く目は、けれど何を見ているのかも分からない。ひょっとしたら、何も見えていないのかも知れない。
 ひょっとしたら、昆虫の方がまだ自我を持っているかもしれない。そんな事を思わせる、目。
 けれど、その動きは確実に呪いを目指す。
「……そうまでして、この世界を破滅させたいのか……」
「救いようの無さで言えば、魔王の方が余程マシだな」
 どんな筋を辿ったとしても、決して安寧の地は在り得ない。
 その安寧そのものが、憎悪の対象だから。
 憐憫の意を抱かなくもない。それでも、先にもたらすモノが破滅でしか在り得ないのなら。
「今度こそ、決着を付ける……!」
 タスクが刃に構えるは、いつか得た鎮魂の剣技。荒ぶる御魂を鎮めるこの技を持って、今度こそこの終末装置との決別を。
「悪いが、もう大舞台の幕は降りてるんだ。余計な追加ストーリーは蛇足なんでな……」
 漆黒の大鎌に闇の魔力を纏わせ、貴人も告げる。
 大災は去った。ようやく辿り着いたグッドエンド。無粋などんでん返しは御免被る。頑張って、頑張り抜いた皆の為。そして、何より大事なあの人の為。
「取り敢えず、邪魔なお前はぶちのめす」
 舞い上がるマドーガの光が、白い仮面を雄々しく照らす。

 ◆

「皆様……」
「こら!」
 皆に向かって魔力のブーストを始めようとしたチセの頭を、シキアがムンズと掴む。
「ぴぇ!?」
「この状況下じゃ、君だっていっぱいいっぱいだろう? 魔力ブーストなんて消耗が激しい真似は、しちゃ駄目だ」
「で、でも……」
「駄・目・だ」
 睨む目に甦る、いつぞやのお言葉。魂に直接放り込まれたソレは、色んな意味でとっても怖かった。
「シキアちゃんの言う通りよ。貴女も、もう一人の身体じゃないんだから」
「ぴ!!?」
 続くマーニーにそんな事を言われ、また吃驚する。まあ、別にそっちの意味ではないが。
「『悪い癖』は終わりにした筈だ。『アイツ』の為にもね」
「必ず、必要になる時が来るわ。それまで、温存しておいて」
「ふぁい……」
 『彼』の事を出されると、どうにもならない。
「それと、別にお願いがあるの」
「何でしょう?」
「貴女の伝達能力を貸して。連携して、皆のメッセージを子供達や姑獲鳥に効果的に伝えられないか試して見たいの。それに……」
 空を見上げて。
「悪意の囁きが、姑獲鳥をこれ以上汚さない様に……」
「……はい」
 頷いて、チセもまた空を見上げる。

「さて、始めようか? マーニーさん」
「ええ。体調は、大丈夫?」
 シキアの言葉に、マーニーはそう訊いて返す。
「大丈夫。呪いの類には慣れっこなんでね」
 強がりは見え見えなれど選択の余地はない。そも、指摘した所で聞く筈も無い。
 自分が、そうである様に。
「歌詞は覚えてる?」
「勿論。良い歌だね、アレ」
 言われて、嬉しそうに微笑む。
「夜泣きが酷かったタスクちゃんを、一発でおねんねに導いたとっておき」
「へえ、夜泣きしたんだ。タスク」
「ええ、凄かったわよ。文字通り、火が点いたみたいで」
「そりゃいいや。後で、からかってやろう」
 向こうで、本人がクシャミする。
「皆からも集めて来た。うろ覚えでも良いからってさ」
 『バリエーションは多い方が、良いよね』と笑うシキア。
 母が恋しい。それは、ごく普通の感情。
 それが呪いになんて、後味悪いにも程がある。
(……自分はどうだろう)
 少なくとも、二度と会う事は叶わない
「会うもなにも、俺の母さん。もう死んでるけどね」
「それでも、その人は確かにいたのよ」
 シキアの手を、マーニーが握る。
「貴方がいるわ。貴方がいてくれる事が、貴方のお母様が生きた証よ」
「…………」
「親孝行ってね、難しい事じゃないわ。貴方が生まれて来てくれた事。生きていてくれる事。それが全て、お母様が生きた意味。そして……」
 存在の半分が失われた手。けれど、とても温かい。
「貴方が幸せになる事。それが、最後の孝行で、願いよ」
 彼女の笑顔が、いつかの笑顔に重なる。
「さあ、届けましょう。この子達と、彼女が安らげる様に」
「……はい」
 歌が、流れる。
 沢山の想いと、愛が込められた子守歌。
 数多の呪詛が満ちる世界。
 それでも、その旋律は確かに響く。

 ◆

 延々と広がる血と骨の原を、ベイキは歩いていた。滑る羊水が衣装に染みる。縋る者達の手が重い。少しずつ。少しずつ。奪われていく体力と気力。仲間達に、リーライブの加護を渡しながら。
「母は、どこにも消えたりしませんよ」
 語り掛けるのは、腕に抱いた骨の赤子。
「お出掛けしても、ちゃあんといい子にしてたら、お土産もって帰ってきますから」
 触る感触は、枯れた骨のソレだけど。
 胸にひしと縋る感触が、いつかの記憶をなぞり行く。
「だから、泣かないで」
 そう。あの春の花園で。
 夏に光る明星の下。
 秋に燃える紅葉の中で。
 冬に舞う白雪の空。
 あの子を。
 あの子達を抱いて歩いた遠い日々。
 あの重さを。
 あの痛みを。
 あの後悔を。
『あなたの事は、一時でも忘れた事はないから』
 あの愛しさを、思い出す。

――理解に苦しむよ――。

 滲む声。
 混沌とした、神代の声。

――子など、生物の命題たる『保存』の為のシステムに過ぎない――。

 語るソレは、感情持たぬ機構(システム)のソレ。

――所詮は、己が存在の記録データファイル。作って存続叶えば其れで良し。叶わず壊れたなら、また作れば良い――。

 紡ぐのは、挟まる余地無き世界の絡繰り。

――遺されたデータはまた次を複製し、ソレがまた次を。より効率良く遺す為のバージョンアップは必須なれど、遺すべき種の形さえ保持が叶えば其れも些事――。

 世はすべからく、大いなる意志の造り上げたる箱庭。

――全ては種の記録を保存するが為の、世界が定めた『システム』だ。君達の役目は、君達の記録を遺していくだけで良い。もし異なるアクションが必要となるならば、其れはそのファイル作成が阻害・停止に追い込まれる可能性が生じた時のみ――。

 箱庭の管理者は諭す。中に泳ぐ魚は、あるがままに委ねよと。

――そして、其の不安要素=『魔王』は既に抹消された。君達自身の手によって――。

 囲いの中に湧いた油虫。己らの手で駆逐せしは、ソレだけで功績。

――直近の障害は、存在しない――。

 もう、苦しみを選ぶ理由はない。

――あの『悪魔』の残滓は、例え変異しようとも魔王程の障害には成り得ない。君達が手を引けば、饕餮が処理をする――。

 後に生ずる雑草は、管理者が除する。

――だから――。

 ベイキの足が折れる。かろうじて、片手で支える。
 抱いた骨は、放さない。
 渇々と、蝕まれる。
 例え、仲間の助けがあろうとも。

――苦しいか――?

 かけられた声は、それまでの無機質なモノではなく。

――なら、引け――。

 酷く、蠱惑的。

――引いて、戻れば良い――。

 巣に戻り、安寧を貪れ。

――君達にはもはや、不適作業を行う必然も義務も無い――。

 痛みを負う義務は、もう無いのだと。

「……あのクソ蟲はソレで良しとして……」
 ベイキが、口を開く。
「この子達は、どうなります?」

――先に言ったろう? この呪いは世界に対する毒と認定された――。

「だから、『滅する』でしたか?」

――そうさ――。

 よろめき、それでも立ち上がりながら。ベイキが、笑う。
「支離滅裂ですね。それならば、声などかけずに終わらせてしまえば良かったものを」

――…………――。

「出来た筈ですよ」

――…………――。

「性質が変わったとは言え、饕餮様の本質は『滅尽』のままなのでしょう? つまりは、『滅ぼす事しか出来ない』」

――…………――。

「だから、私達に賭けてくださった。誰の為でもない。この子達と、彼女の為に」

――我らはシステム――。

 渾沌が、奈落の意志が呟く。

――最適なるルートを、選択するのみ――。

 最適? それこそ、饕餮自身が全て滅してしまう事に決まっている。
 呪いも。
 悲しみも。
 悪意さえも。
 何もかも、消し去ってしまえばどんな遺恨も残りはしない。
 以前の饕餮であれば、何の躊躇もなくそうしただろう。
 でも、今の彼はそうしなかった。
 完璧な結果の代償に、可能性を葬るのではなく。
 例え不確定であろうとも、可能性に賭ける事を選んだ。
「幼子と、同じですねえ」
 揶揄でも皮肉でもなく、ただそう思う。
「求めるモノが有るのに、上手く表現出来なくて。困った挙句に思いがけない方向に突っ走る。全く、困った事です。でも、お礼は言っておきます」
 気配だけの彼に微笑む。
「理由はどうあれ、私達に賭ける事を最適解と言ってくれるのですね。私を……皆を信じてくれてありがとう。それと……」
 腕の中の赤子を、また抱き締めて。
「私に、もう一度機会を……ありがとうございます」
 そう。機会が与えられたのだ。あの時、腕から零してしまったあの子達。
 もう一度、抱き止められるかもしれない奇跡が。

――腕の中の子を、守りな――。

 意志が告げる。

――姑獲鳥も、骨の赤子達も、全てが『呪い』としての個。例え喰われても、一人が残っていれば免れる――。

「……承知しました」
 心からの謝意を伝え、足を止める。
 いつしか辿り着いた、呪いの巣。
 見上げた先。赤い赤い、泣き腫らしの目。

 ◆

 今でも、夢に見る。
 微睡みの中に、ソレを聞く。
 彼が、あの人に銃を突き付ける。
 いつも通りの、傲慢と悪辣に満ちた声。
 全てを受け止めて、あの人の目は私を見る。
 青く深い瞳。私と同じ、彩。
 私とあの人の、命の証。
 世界が止まる感覚。刹那の永遠。その中で、互いの顔を焼き付ける。
 永久に消えない、傷と想い。
 頬を伝う涙は、あの人の。そして、私の。まるで、流れ星の様に。
 あの人が、笑った。哀しく。優しく。そして愛しく。

――叶うなら、この瞬――。

 閃光。

 ずっとずっと。
 忘れないよ。
 お母さん。

「かふっ!」
 苦しい嗚咽と共に、シオンは幾度目かの嘔吐をした。吐き出したモノに、赤い色が混じる。浸食が酷い。多分、他の誰よりも。
 理由は理解していた。
 魂が、同調している。
 赤子達の嘆きに。
 分かっているのだ。
 私も、求めているから。
 あの時。
 欲しかったのに。
 届かなかった。
 あの人の温もりを。
 生温い、胎の熱。その奥から、彼らが招く。
 こっちへおいでと。
 一緒に泣こうと。
 母に、縋ろうと。
 だけど。
「……ごめんね」
 優しく拒んで、立ち上がる。
 胃酸と鉄錆の味。濁る唾を吐き出して、グイと拭う。
 ここで足を止めれば。
 ソレは裏切り。
 あの時、全てをかけて愛してくれた。あの人への。
「あなた達だって、同じでしょう?」
 そう。分っているのだ。
 だからこそ、呪いに堕ちてなお。
 求めるのだから。
 それでも、悲しみがあなた達を縛るのならば。
 同じ悲しみの傷を持つ私が。
「切り離します……」

――∈∋滅⊆⊇⊂呪呪∪∨ΣΤΥ絶Φ∀……――。

 呪詛が響く。
 振り仰いだ瞬間、雪崩落ちてくる黒い霧。
「!」
 纏わり憑かれた身体が弛緩する。再び傾く景色。先程から、幾度となく繰り返される『嫌がらせ』。
「この……!」
 倒れる寸前、まだ動く利き腕でオクタルヴァを向ける。
「邪魔、するなぁ!!」
 装填されていたPnNが空を裂き、霧の中へと。舞い散る赤い雫の中で、発動する魔珠の煌めき。ソレが功を成したかどうか。
 確かめる前に、シオンの意識はまた束の間闇に沈む。

 ◆

「ほら、こっちだ! トンチキゴキブリ!!」
 タスクの声が、虚しく響く。
 空いっぱいに広がった悪意。気紛れの様に食指を下ろしては、皆を昏倒させていく。
 実体は無く、何かしらのエネルギー体でも無い。物理的に傷つける事は出来ず、侵す事も出来ない。
 けれど、居るだけで生気を削るこの空間においては最悪の特性。昏倒した間にも、疲弊は増していく。
 実体がないと言う事は、こちらの物理攻撃も無意味。魔力を帯びた攻撃なら干渉出来るが、行動を阻害するに至らない。
 そんな悪意に対し、タスクは罵倒を繰り返していた。悪意の前身である人形遣いは、中傷に酷く敏感だった。
 アレは、彼女が抱いていた劣等感の発露。云わば、後天的に得た数少ない感情らしい感情。
 悪意だけとなった今はそれすら失い、正しく『悪』と言う概念だけの化け物と化している。
 感情を揺さぶって動揺を誘う手。有効だった筈のソレが尽く空ぶる。
「もう、煽られて怒る事も出来ないのか……」
 歯噛みするタスクの前で、幾つもの食指が呪いを吸い上げる。
 泣く赤子、諸共に。
「――っ! やめろ!!」
 飛ばしたウィズマ・アーダが食指の一本を抉る。けれど、痛みを感じない悪意は意にも介さず。
(これじゃ、駄目だ……)
 手詰まり感に揺らいだその時、一つの言葉が脳裏を過ぎる。

『拒むな。理解しろ』

 かつての戦いで、偉大な先達より刻まれた術。
 正しく、自分は悪意を。人形遣いを忌避し、拒絶している。破滅の具現たるソレを拒むのは、一生命として当然の本能。けれど、それでは確かに人形遣いの本質には届かない。
 それなら。
 息を整え、心を平面に。
 記憶を思考で整理し、探すのは人形遣いと言う悪意の根源。
 きっと、切っ掛けはその中に。

 ◆

(……何か、考え始めたな……)
 長考の姿勢に入るタスクを見て、貴人は理解する。
 彼の頭の良さは折り紙付き。必ず何かしらの手を見つけ出す。
「なら、精々時間を稼がせて貰う!」
 繋がりの意味で調整したマドーガを、連続で撃ち込む。適正化された魔力に穿たれた霧は霧散するが、悪意の動きは止まらない。
「全く、膨大に過ぎるな……。これ全部がヤツの悪意だと言うのなら、ホントに虚しいヤツだ!」
 また、悪意の食指が降りてくる。呪いに、そしてついでの様に皆に向かって。
(オレ達に対する敵意だってないだろうに。命の破滅を願う本能故って事か)
 触れられれば、高確率で昏倒してしまう。すでにギリギリの体力と気力。
「無駄遣いする訳にはいかないんでな!」
 不可侵の覇道、窮地からの僥倖を発動。捌きながら、チセに向かって。
「エトピリカくん、頼む!」
「はい!」
 待ってましたと放たれる、魔力ブースト。一気に充填されるソレを、漆黒の大鎌に満たす。
 ふと流れた視線。その端に、『彼女達』が映った。
 子を求める母。
 母を求める子。
 その姿が、重なった。
「……子や母を求めるのは間違ってもいないし、止める事ではないと思う」
 呪詛の底に、届くのかは分からない。それでも、言わなければならないと思った。
「ただ、君達はあの悪意に良い様に使われようとしている」
 アレに呑み食われる事で、彼女達がどうなるのか分からない。けれど、決して救われる事がないのは確定で。
「このままでいいのか?」
 だから、呼びかける。
「救いは求めてないのか?」
 こんな行く末を、望んでいたのかと。
「もし、少しでも救いを求めているのなら。オレ達に、少しばかりでも協力してくれないだろうか?」
 君達は、決して悪意(あんなモノ)と同列にされるべきモノではない筈。
「オレはただのヒューマンで……」
 答える声はないけれど。それでも、何処かに届くと信じて。
「いずれ愛する人との間に、子を儲けることになるだろう。と言うか、そう言う存在も、既にいる」
 思い出す。紆余曲折の上、辿り着けた彼女。
 そして、戦いの果てに手繰り寄せた彼女の大切なモノ。
 共に愛し、守ろうと決めた。
「君達の様な存在がいると知っているのなら、オレと愛する人と我が子。そして、『アイツ』が本当の幸せになる事は叶わないかもしれない」
 今の命と、いつかの命。其処に差など在りはせず。
 全ての幸福は。全てにその権利が在るモノ。
「だから」
 叶わず泣く者達があるのなら。
「今この場では、全力で君達を救おう!」
 高らかな宣言と共に、漆黒の刃が複数の食指をまとめて叩き切った。

 ◆
 
「あー、もう鬱陶しい! 邪魔すんなテンポが崩れる!」
 纏わり憑こうとする食指にガチキレるシキア。シスイノシでいなして、マドで蹴散らす。
「邪魔するなって言ってんだろ、余所者が!!」
 それでも、射程外の食指は何処吹く風で捕食を続ける。
「駄目……どんどん奪われて……」
 焦るチセの隣りで、マーニーが決断する。
「チセちゃん、ブーストをお願い」
「は、はい! でも、何を……?」

「シーソルブで姑獲鳥と私の母性を融合させて、子供達の夢にアクセスするわ」
「え……?」
「母親として接して、育てて、愛して、この子達の魂を満たすの」
「で、でも! こんな数……」
「やるわ。一人一人、全部に」
「な……!?」
 チセが、今度こそ目を剥く。
「無茶です! こんな途方も無い数の呪いにそんな事をしたら、魂が爛れ落ちてしまいます!」
 止めようとする彼女を押し留め、笑う。
「でもね、コレはきっと私にしか出来ない事なの」
「でも……」
「子供達が泣いてるわ」
「!」
 優しく、けれど強い声。
「大丈夫、言ったでしょ? 子供の為なら、母親はいくらでも強くなれるわ」
「マーニー様……」
「貴女にも、いつか必ず分かるわ」
 その未来の為にも。
「心配要らないさ。チセちゃん」
 シキアも、言う。
「マーニーさんなら、分かってるさ。子供の為に犠牲になれば、泣くのはやっぱり子供だって事」
 そう。母の想いは決して一方通行ではなく。
「ね、マーニーさん」
 子もまた等しく、母を想うのだから。
「ええ、そうね」
 一本取られたと言う顔で微笑むマーニーの手を、チセが握る。
「……御武運を」
 今にも泣きそうな顔を見て、思い出す。
(そう言えば、この子も……)
 じゃあ、もうそんな思いはさせられないか。
 そう決めて、彼女の髪を撫でる。
「行ってくるわ」
「はい」
 絶対に、破れない約束。

 ◆

 パシャリとかけた聖水は、少しの血糊も溶かせずに流れて堕ちる。
「駄目なんですね……」
 自分を見つめる、血塊に埋まった双眸。ソレを見て、シオンは小さく息を吐く。
 黒い羽毛を穢す血は、己の目から流れる血の涙。それは、己で己にかける呪い。己の闇は、例え神の力であっても祓えない。
「やっぱり、貴女は……」
「そりゃ、そうでしょう」
 隣りに立つ、ベイキが言う。
「如何に子らの悲しみが強かろうと、その子らに悲しみを強いた己への憎悪。其れこそが、結局は一番強く母を縛るモノですから」
 語る口調は、自嘲に満ちて。その響きが、シオンの胸をヂクリと刺す。
「……そんなの、違う」
「え?」
 ポカンとするベイキの前で、身を翻す。
「ここを、お願いします!」
 言い残し、巣を滑り降りる。向かうのは、血色の水面。
 シオンの種族は、野生の獣の性質を色濃く残す。その勘に、触るモノがあった。
(泉の……底!)
 満たされた羊水の泉。底に積まるは、数多の骨。けれど。
 その、さらに奥。呪いの、底の底。其処には、何がある?
 いくら呪いが古く、数え切れない数の魂を絡め捕ったとて。所詮は無尽の命の一握り。
 無限ではない。
「ごめんね! 痛いかもしれないけど、見せて!」
 言うと同時に、水面に潜る。真っ赤な視界の向こう。蠢く骨が、待ちかねた様に。
(きっと、この奥に……)
 辿り着く、水底。伸ばした手を、骨が掴む。
(そう、連れて行って!)
 群がる骨が、応じる様にシオンを引きずり込んだ。

 ◆

「……皆、お人好しですね……」
 視界の果てで奮戦する皆を眺め、ベイキは苦笑する。
 呪いによる浸食は不可避。悪意の嫌がらせは拍車をかけ。さて、自分含め皆の残りは如何程か。
「ねえ、そう思いますでしょう?」
 視線を戻した先には、赤く燃える血の眼。けれど、先まで自分を見ていると思っていたソレは。
「……全く、呆れたモノです」
 近寄って、分かった。爛れた母の妄執が、憎悪を持って見ていたモノは。
「……憎らしいのですか?」
 視線から守る様に、抱く腕に力を。
 そして、ありったけの侮蔑を込めて。

「自分以外の者に抱かれる、『子』が!」

 絶叫が響く。
 真っ赤な、雫が舞う。

 ◆

 シオンは、沈み行く。
 滑る感触は、赤く輝く羊水のソレ。
 鼻腔を満たすは、鉄錆と言うにはあまりに生々しい死臭。
 耳朶を覆うは、泣きじゃくる赤子達の声。
 生温い、胎の熱。悍ましくも愛おしい、安らぎの毒蜜。
 気を許せば、溶けて二度と戻れない。
 消耗しきった気力を振り絞り、正気にしがみつく。
 数多幾多那由他。
 現実の経過は数分に足らず。けれど、感じ経た刻はソレに等しく。
 堪える気力が尽きて。意識が溶けようとした時。
 突然注ぎ込まれた魔力が、溺れる手を引き上げる様に正気を戻す。
(チセ先輩……)
 ソレが、察した彼女のせめてもの助力と理解する。そして、同時に注ぎ込まれた思念が他の皆の姿を示す。
 ソレに心を奮い立たせ、前を向く。
 伸ばした手が、何かを抜ける。

 気づくと、真っ暗な世界に立っていた。
 羊水も。骨も。泣き声さえもない。
 無だけの、空間。
 何かを感じて、足元を見る。
 骨が、あった。
 他の骨よりも。ずっと、小さい。
 恐らくは、この世に生まれてくる事すら叶わなかった。
 泣く事も無く、闇の中にただ横たわる。
 ああ、そうか。
 答えは、一つ。

 ◆

「……トチ狂うにも、程があるでしょうに」
 唇を噛みながら、ベイキは気丈に呟く。
 赤子目掛けて突き下ろされた嘴。阻んだ掌を貫き、その切っ先をすれすれで止めていた。
「己の意に外れたからと言って、子に刃を向けるなど……」
 滴る血ごと、嘴を握り締める。コレまでにも増して犯され蝕まれる。けれど、怯む事もなければ怖気もしない。全てを些事とする憤り。
 もがく鳥。
 傷が悲鳴を上げるが、構いはしない。そのまま、グイと引き寄せた。
 間近に迫った、血塗れの眼に向かって。

「妄執に溺れ、有るべき様まで見失いましたか?」

 ソレは同じ母だった者として。
 絶対の。絶対の矜持。

「貴女はソレでも……」

 決して。
 決して、忘れてはいけない想い。

「母ですか?」

 目が、揺れる。
 とうに、枯れ果てた筈だったのに。

 ◆

 シオンが見下ろす中で、小さな骨は微塵とも動かない。
 膝を屈し、ソッと掬い上げる。
「う!」
 一瞬で溶けかける自我。沈黙に響く銃声。自分の太腿に向けて撃ったオクタルヴァを、ソッと下ろす。
「ごめ、んね……。ビックリ、させちゃった……ね……」
 上擦る声で、手の中に呼びかける。
「それでも、分かった……。貴女の、想い……」
 痛みで意識を戻す直前、感応した思念。

 結論から言えば、姑獲鳥の原型となった女性は子を産んではいなかった。
 身籠もり、もう少し。あと少しと言う時に、饕餮が全てを終わらせた。
 女性は焦がれた温もりを抱く事叶わず。
 子は夢見た世界を見る事叶わず。
 子は己を守れなかった母を怨み。
 女は母に至れなかった事を怨み。
 かくて縺れた怨みは呪いとなって。
 自分達が至れなかった世界へと向けられた。

「絶望したんだね……。お母さんが、守ってくれなかった事に……」
 饕餮の剪定は、天災に類するモノ。
 抗える者など、在りはしない。
 けど、産まれもしない赤子が理解出来る筈もなく。
「…………」
 ほんの少しの間の後、シオンはその子を胸へと抱いた。
 展開するのは、蘇生魔法の術式。
 勉強中で、死者の蘇生に至るには程遠い。
 それでも、魂に呼びかける事は出来る。
 せめても、届けたかった。
 この子が知るを叶わなかった、母の愛。
 あの時、命を賭して守ってくれた母の命の輝き。
 ソレを、この子に伝えたい。
 知らずに憎み続けるなんて、あんまりだから。
 君のお母さんも、必ず同じだったんだよと。
 暗闇に煌めく回帰の光。その中で、二人は姉弟の様に抱き合い。
 優しい優しい。
 夢を、見る。

 ◆

「正しく……私が言える事ではないでしょう……」
 ギリギリと、嘴と己の身が軋む。
 その痛みを己への罰とする様に、ベイキは刻む。
「それでも……違うでしょう……? ……違う筈です……!」
 腕の中、滴る血を受けた赤子が泣き始める。
 怨嗟ではない、悲しみの声で。
「泣いています……泣いているんですよ……? この子が……この子達が……」
 鳥の目が揺れる。確かな、痛みに。
「違うんですよ!」
 叫びが。悲しみが、突き刺さる。
「貴女が、私達が! この子達にあげたかったモノは!!」

――――!

 血染めの涙。その奥に。

 ◆

 その子の飢えは、際限が無かった。
 シオンの思い出を貪り尽くし、それでももっともっとと。
 無理と分かっていたけど、手を放そうとは思わない。
 求める事しか知らない無垢を、また一人にするなんて。
 全てが尽きる。せめて、最期の一滴をと思った時。
「大丈夫?」
 聞こえる筈のない声。支えていたのは、マーニーの意志。
「どうして……?」
「貴女の輝きが、教えてくれたの。頑張ったわね」
 言って、シオンが抱く子の頭を撫でる。
「頑張ったわね。後は、任せて」
 慈愛が満ちる。まだ未熟なシオンでは、埋め切れなかった愛への飢え。足りなかった分を、母として生きて来たマーニーの想いが埋めていく。
(ああ、温かいな……)
 懐かしい、あの人が微笑んだ。

 ◆

――УФХ死ЦцчшщъЧ怨滅ШЩ絶ЪЫЬЭ……――。

 悪意が、大きく動いた。
「ぐぅ!?」
「きゃあ!!」
 貴人とチセが、捻じ伏せられる。
 何とか昏倒を免れたシキアがシスイノシで縛るが、抑え切れない。幾条にも降りてきた食指が、凄まじい勢いで呪いを喰らう。
「こいつ、遊んでたのか!?」
 これまでとは明らかに違う猛攻。明確な意志は無けれど、悪質と加虐を好む本能はそのままだった。
「不味い!」
 もう一度シスイノシを放とうとした時。
「シキア!」
 声に振り向けば、駆け寄ってくるタスクの姿。
「僕の言葉を、シスイノシで!」
 投げ届けられた言葉に、不敵に笑む。
 受け取ったソレを、全力のシスイノシで放つ。

――――!

 瞬間、悪意の動きが止まった。
 無数の目が見開き、苦悶の呻きを上げる。
「よし!」
「やった!」
 タスクがシキアに届けたのは、一つの単語ではなかった。
 誕生。進化。愛。親子。絆。未来。
 命と言う概念を形作る、ありとあらゆる言葉。
 滅びそのものの悪意にとって、対極の概念であり禁忌。
 滅びの概念と生命の概念。究極の対は互いに喰い合い、硬直する。
「タスク、今だ!」
 渾身の力で束縛を引き千切った貴人が呼びかける。
「分かった!」
 ウィズマ・アーダ、マドーガ、同時展開。そして融合。セイズ・マ・バースト起動。全ての魔力を希望の剣に。
 貴人も動く。
 魔力の実、桃花酒と立て続けに飲み込み、回復。ありったけで、こちらもセイズ・マ・バーストを起動。精霊の信託、繋がりの意味の効果を大鎌に乗せる。

「月下白刃!!」
「刹那の支配!!」

 二人の必殺技が空を裂き、悪意に迫る。
 逃れようとした悪意を、更なるシスイノシが縛る。
 炸裂する、二条の剣閃。
 千々に散る悪意。
 けれど。

 その執念は、なお。

 ◆

「あぅ!」
 不意を突かれたベイキが、崩れ落ちる。
 悪意の一部が、彼女を襲った。
 力は無く、昏倒させるには至らない。
 けれど、ソレで十分。
「!?」
 息を飲む。
 飲み込まんとするは、今まで彼女が抱いていた骨の赤子。
 己を愚弄した者達の心に、傷を残す。ただ、ソレだけの為に。
 ベイキは動けない。
(私は……また……)
 雫が零れた、その時。

 漆黒の、羽が舞う。

「!」
 飛び立った姑獲鳥が、悪意の前に身を躍らせた。
 阻まれた悪意は鳥へ喰らいつく。呆然とする前で、羽毛の中から伸びる腕。
 赤子を抱き上げると、そっとベイキに向かって差し出した。
(この子を……)
 声が聞こえた。
 喰われる姑獲鳥の中に、若い女性の顔。
(お願い……)
 手を差し出し、抱き取る。安堵した様に、微笑む女性。
(ありがとう……)
 穏やかに。
(これで……私も……)
 とても。とても嬉しそうに。
(愛せたで、しょうか……?)
 闇が閉じた。
 飲み込んだ悪意の欠片が、また蠢く。
 身体はまだ、動かない。
 受け取った赤子を、抱き締める。
 もう、絶対に。
 この子の為に。
 そして、彼女の為に。
 嘲笑う様に、悪意が飲み込もうと。

 閃く剣閃。弾かれる悪意。

 ベイキの前に、立つ光。
 二人の若者。一人は剣を。一人は爪を。
 忘れてなかった。
 忘れられる筈などなかった。
 懐かしい、名を呼ぶ。
 振り返った二人が、微笑む。
 仲睦まじかった、あの頃のままの優しさで。
 気づけば、光が満ちていた。
 光の数は、泣いていた赤子の数。
 彼らは集う。ベイキの元に。力果てた勇者達の元に。
 強い意志。愛してくれた者。ソレを守らんとする、確かな雄姿。
 悪意が呻く。
 呪いはもう、呪いではなく。
 喰らう事は叶わない。
 ただ怯え、悪意は震える。
「……親子の愛は、一方通行じゃない……」
 ベイキの後ろに、シオンとマーニーが立っていた。
「母が愛した分だけ、子もまた母を愛すわ」
「母が子を守る様に、子もまた母を守りたいと願うんです」
 オクタルヴァを構えるシオン。足の利かない彼女を、マーニーが支える。
「さっきの話……お願い出来ますか?」
 願いに、頷く。
「ええ、私の『獄卒』としての初仕事。まだ、『一人分』しか無理だけど……」
 言って、オクタルヴァに手を添える。
「成功、させるわ」
 頷き合い、照準を合わせる。
 悪意が蠢く。せめて最期に。痛みを。傷を。呪いをと。
「もう、此処にお前の居場所はない」
 静かな宣告。
「去れ」
 上がる、撃鉄。そして。

「永遠に!」

 吼える銃声。放たれた銃弾は、漆黒の炎となって走る。
「何だ、アレは!?」
「オクタルヴァの銃弾じゃ、ない……?」
 困惑する貴人とシキアの横で、タスクはその意味を知る。
「……『黒炎』……」
 ソレは、地獄に燃える浄化の炎。罪を焼き、咎を滅する神威。
 地獄の使徒。『獄卒』だけが使える、奇跡の権能。
「そうか……。おばあちゃま……」
 愛しい人の選択に、タスクは静かに敬意を示した。

 漆黒の炎弾が、悪意を貫く。倣う様に、立ち並ぶ彼らからも光の軌跡。
 数多の命に押しやられ、悪意は果てへと消えていく。
 見送るチセが、ポソリと呟いた。
 『お願い致します』と。

 悪意を待っていたのは、羊角を頂く巨大な白龍。

――かの者達は、答えを示した――。

 滅尽覇道・饕餮。
 彼の意に倣い、三つの星が輝く。

――なれば我も、礼を示そう――。

 渾沌。
 窮奇。
 檮杌。
 三つの凶神が、則を敷く。

――免疫たる我が威を持ちて――。

 収束するは、奈落の天啓。

――『滅尽』――。

 降り落ちる極光。
 絶対の特効が、怯える悪意を瞬く間に無へと還した。

――喰らう価値も、無し――。

 呟く饕餮の前で、小さな光が瞬く。

 ◆

 見上げる皆の先で、輝く翼。
「あれは……」
 呟くシオンの後ろで、いつの間にか立っていた渾沌が言う。

――『カラドリウス』か。今生に見えるとは、思わなかったけど――。

 羽ばたく鳥から零れる光。受けた『彼ら』もまた、光に変わる。

――カラドリウスは、命の護り手――。

 数多の光を見送りながら、渾沌は説く。

――輪廻から外れた魂を、また輪廻に植え戻す。この子らもまた、転生の理に戻る――。

 ベイキの前で、二人もまた天へと還る。間際に聞いた声。儚いけれど、絶対の約束。
 迎える鳥が、チラリと。
 蒼い瞳。刹那の友愛を託した彼女。
「そうですか……貴女も……」
 ベイキの言葉に、皆が察する。黒炎が起こした奇跡かは、定かじゃないけど。
 光が昇る。新たな世界に、新たな希望となって降る為に。
 ベイキは誓う。
 あの子達との約束。
 叶う日まで、止まる事なくと。

――ねえ、母上――。
――いつか、また――。

 その夜、空を渡る光は絶えず。
 何処か遠くで、無邪気な声が。



課題評価
課題経験:171
課題報酬:6000
母が鳴く夜
執筆:土斑猫 GM


《母が鳴く夜》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《光と駆ける天狐》 シオン・ミカグラ (No 1) 2022-06-02 20:29:05
教祖・聖職コースのシオン・ミカグラです。よろしくお願いします!

今回は戦いというより、発想力の勝負といったところでしょうか……むむむ……
人形遣いの悪意を振り払いつつ、呪いを祓う。大変ですが、やらねばなりませんね。
私はとりあえず、姑獲鳥についた血を落とすことを試みてみます。
それから、説得……でしょうか。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 2) 2022-06-05 01:39:37
遅刻帰国、御無沙汰瘡蓋~!
賢者・導師コース、教職志望のマーニー・ジムです。よろしくお願いいたします。

人形遣い、本当にしつっこい。大っ嫌い!!
・・・っとと、はしたないところをお見せしたわね。
落ち着いて、冷静に作戦を立てれば、きっとうまくいくわ。

饕餮様を味方として受け入れた時点で、遅かれ早かれ、
過去のこういうことと向き合わなければいけない状況は、覚悟していました。
同時に、これは饕餮様からの問いかけでもあるようなので、
しっかり対応していきたいものですね。

取り急ぎ、参戦表明まで。期限まであと少し、私も一生懸命考えますね!

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 3) 2022-06-06 05:48:59
とても難しいのですが・・・出来る限り整理をして、可視化してみますね。

まず、失敗条件はPC全員の体力が0になること。
体力が減る条件は「毎ラウンド」「姑獲鳥との接触」
つまり、居るだけで減り、事態解決のため行動を起こすたびに減る。
全滅を防ぐためには、誰かが回復し続けることが必要です。

最悪の失敗条件は、【悪意】が残ったままの全滅。
つまり、最悪を避けるためには、まずは【悪意】を退場させることですね。

そして成功条件は、呪いの根源を断つこと。
おそらく、姑獲鳥に対して「接触を図り」「呪いを昇華する」ことのようです。
「彼女が骨山に座す限り、呪いは昇華しない。」とありますから、
「彼女が骨山に『座さない』」状況を作る必要がありそうです。引きずりおろすとか、説得するとか。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 4) 2022-06-06 05:54:52
以上より、私の推測込みで、ざっくりですが論点を上げ、役割分担を試みますね。
プランの参考にしていただけたら幸いです。

・事前調査 マーニー
・体力回復 マーニー(リーラブ)
・悪意撃退
・姑獲鳥接触 シオンさん(血を落とす、説得)、マーニー(シーソルブで精神交感)

※事前調査や姑獲鳥との交感はチセさんの尽力により可能な状態とプロローグに明記されてますが、さらに効果を深めるアクションとして記載するつもりです。

《熱華の麗鳥》 シキア・エラルド (No 5) 2022-06-06 12:29:52
はいはーい、毎度お馴染み芸能コースのシキアです。今回もよろしくね。

OP見る限り、飛びたくても飛べないって感じがしなくもないんだよね。
まぁ、呪いってそういうものだし。
ただそのせいでみーんな何処にも行けなくなってるのは、見てらんないよね。
俺的にはすごーく面白くない。

ってことで、まーだウゴウゴしてる【悪意】に適度魔法ぶっぱしつつ、俺は子守唄を演奏しようかな。
そういうことだからマーニーさん、子守唄おしえてー!

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 6) 2022-06-06 13:32:33
魔王・覇王コースの仁和だ。
よろしく。


【悪意】への対処をしていこうと思う。
具体的には腐食の付与だな。
あと魔法攻撃。
姑獲鳥への対処は声をかけるくらいになりそうだ

・・・武器の説明に『刃全体も常時闇の魔力覆い尽されている』とあるが魔法攻撃判定にならないよなぁ

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 7) 2022-06-06 23:24:23
ぅぉぅ……挨拶したつもりでしてませんでした。
教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。

さて……どうしましょうかね。
とりあえず、回復は用意しとこう。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 8) 2022-06-07 05:46:38
シキアさん、とても素敵なアイデアね!

(そういうロールプレイをプランに記載、ということで良ければ)
それじゃあ、夜泣きがひどかったタスクも一発でおねんねの、
とっておきを教えるわね。
一緒に歌いましょうね♪

貴人くん、その武器は、プランに改めて「説明参照」等と記載すれば
行けそうな気もするけど・・・
ウィズマ・アーダやセイズ・マ・バーストを載せる方が確実かもしれないわね

ベイキさん、回復、頼りにしてるわ。
よろしくお願いいたします。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 9) 2022-06-07 05:51:51
これまでのまとめをしてみます。
だいぶ充実してきたようね。

・事前調査 マーニー
・体力回復 ベイキさん、マーニー
・悪意撃退 貴人さん(腐食、魔法攻撃)、シキアさん(魔法攻撃)
・姑獲鳥接触 シオンさん(血を落とす、説得)、貴人さん(声かけ)、シキアさん(子守唄)、マーニー(子守唄、シーソルブで精神交感)

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 10) 2022-06-07 18:25:50
姑獲鳥……ふむ。
えっと、巣が骨で出来てて、その骨が姑獲鳥を掴んで放さないんですっけ。

ならば、その哀しみを少しばかり、肩代わりしてみましょうか。
と言っても、骨のみなさんの信じる教えや宗派とかは存じませんし、こちらの作法で手前勝手にやらせて貰いますが。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 11) 2022-06-07 22:15:38
悲しみを肩代わりする、というのは良いですね。
私も、そのような方法を考えてみました。
ベイキさん、ともに頑張りましょうね。

シキアさん、以前予告しました通り、
とっておきの子守唄をシキアさんに教えて、一緒に歌うというプランを書いてみたわ。
宜しくお願いしますね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 12) 2022-06-07 22:25:33
遅刻帰国、御無沙汰瘡蓋~~~!!
大変ギリギリで申し訳ありません。
勇者・英雄コースのタスク・ジムです。よろしくお願いいたします!

僕は、複合攻撃や種族特技で魔法攻撃化した剣技で、
ひたすら【悪意】にダメージを与えて退場させるよう頑張ります!

また、うまくいくかどうかは未知数ですが、
【悪意】を挑発してヘイトを僕だけに集中させることで、
皆さんの「行動不能」を防ぐ、ということもウィッシュプランに
書いてみようと思っています。

《光と駆ける天狐》 シオン・ミカグラ (No 13) 2022-06-07 22:42:01
時間ギリギリですが、聖水で血を落としてみる以外に、血の泉に潜って直接子供達に声を届けてみようと思います。
精神が保つかはわかりませんが……その時はその時ということで……!

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 14) 2022-06-07 23:38:10
シオンさん、奇遇ね!
私も、子供たちに働きかけるプランを書いてみたわ。
以前の課題での経験を生かした作戦で、うまくいくかどうかは未知数だけれど・・・
シオンさんが同じ目的の行動をしてくれるのは、とても心強いわ。

いよいよ出発ね。
良い「結果」(リザルト)になるよう、祈りましょう。
皆さん、ご一緒いただき、ありがとうございました!