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土斑猫 GM 

初めまして。土斑猫と申します。
物書きを趣味とする、人畜無害の外れものです。
妖怪やモンスターが好きで、情景描写には定評があります。
それが高じて、たまにくどいと言われる事もありますw
そんな自分ですが、どうぞよろしくお願いします。

担当NPC


《後輩》チセ・エトピリカ
  Lv4 / Rank 1
「初めまして。【チセ・エトピリカ】と申します。至らぬ者ですが、よろしくお願い致します」 【身長】 :150cm 【体重】 :48kg 【髪】  :烏の濡れ羽色。気持ち長めのショートヘア。 【顔つき】:大き目の目。細面で、幼さと可憐さが同居する。 【体型】 :華奢で細身。凹凸は少なめ。サイズはBカップ。 【基本衣装】  学園では制服。普段着は着慣れた民族衣装。 【基礎ステータス】  頭脳は明晰。山奥の孤立した環境で暮らしていた為、それなりの生活力や体力もある。ただ、存在意義が非常時の『贄』であった為、戦闘や抵抗の術は意図的に教えられていない。 【性格】  大人しく、優しく、常に自分より他人を優先する。と言えば聞こえは良いが、実際には育つ過程で植えつけられた『贄』としての自己犠牲思想と自己評価の低さが根底にある。  それでも、かの事件を経て本当の『人の為』と言う事を知り、淡いけれど確かな想いを得る事で、自身に対して良い意味での執着を覚えた。 【シキテ】  チセが入学する際に、こっそり着いてきた白狼の式神。  縁を結んでいた村が滅び、残滓であるチセに縁が移ったが故。  基本、守神的な位置付けではあるものの、チセの成長を促す為によっぽどの事がない限り介入はしない。  普段は魔力供給がてら、学園敷地内をフラフラしてる。見た目がまんまデカイ狼なので、ビビる生徒多数。でもメメたん、面白いからと絶賛放置中。 ■公認NPC □担当GM:土斑猫 ※規約により、以下のことはお誘い頂いてもできません。  予めご了承ください。 ・フレンド申請(受けることは可能です) ・公式クラブ以外への参加/発言

メッセージ


この様な仕事に携わるのは初めてで、至らないところもあると思いますが、良い物語を綴れる様、頑張りますので長いお付き合いをお願いいたします。

作品一覧


”ヤツ”を追え! (ショート)
土斑猫 GM
「頼むよ! 何とか手を貸しておくれ!」  地面に深々と平伏して願う級友に、あなた達は大きな溜息をついた。  ここは、『魔法学園フトゥールム・スクエア』。そこの一角で、ちょっとした騒動が起ころうとしていた。  事の起こりは、数刻前まで遡る。  この学園の生徒、【アルフィー・アバネシ―】は、とある施設のバックヤードを一人歩いていた。  フトゥールム・スクエアには様々な施設がある。生物園、『アニパーク』もその中の一つだった。件の施設、簡単に言うと動物園。凶暴性の少ない様々な生物を飼育・展示していて、その役目を『生物委員会』の学生達が請け負っている。アルフィーは、その生物委員会のメンバー。生来の生き物好きである彼にとっては天職に等しい役目であり、毎日充実した日々を送っていた。  しかし、多くを得ると、さらに多くを欲してしまうのは人の性。実は、彼には一つの秘密があった。とてもとても、いけない秘密が。それは、生物好きの彼にとってはまさに禁断の果実。その果実との蜜月の時を夢想して、アルフィーは一人ほくそ笑んでいた。  向かう先は、飼育用の器具が収納される準備室。  彼がニタニタしながら部屋のドアを開けようとした、その時――  バターン!  突然中からドアが開き、アルフィーの顔面を強打した。 「ギャフッ!」  ひっくり返る彼の視界に、部室から飛び出してくる何者かの姿が映る。  パタパタと羽ばたく玉虫色の羽根に、小さな身体。  『エリアル』。それも、フェアリータイプ。  知った顔だった。同級生の【チェリー・エイベル】。校内でも名の知れた悪戯者である。 「ご、ごめんねー!」  チェリーは尻餅をついているアルフィーに向かって両手を合わせて謝ると、そのまま一目散に逃げて行った。  ああ、あの調子だと何処かで力尽きてひっくり返るな。などと呆けた頭で考えていたアルフィー。ハッと我に返り、青くなって飛び起きる。 「まさか!」  慌てて覗き込んだ部室。そこにあったのは、ロッカーから落ちてひっくり返った水槽と、窓ガラスに空いた大きな穴。  ロッカーの鍵を、かけ忘れていたのだ。  それを見つけたチェリーが、好奇心から開けてしまったのだろう。  窓ガラスの穴から吹き込む風の中、アルフィーは茫然と佇んでいた。 「……で、モノは何?」  あなた達に訊かれたアルフィーは、しばし躊躇った後、ボソリと呟く様に言った。 「……『タッツェルブルム』……」 「タ……タッツェルブルムゥ!」  ――「タッツェルブルム」――。原生生物の一種で、魔物の様な敵対的存在ではない。とは言うものの、気が荒くてすぐに噛みかかってくる。その上、牙には毒を持っていて、噛まれれば死にこそしないものの、一週間は麻痺してうなされる。そんな訳で世間では危険物扱いされている生物だ。  別段校則などで飼育が禁止されている訳ではないが、流石に危険生物をペットにしてたとなると体裁が悪い。と言うか、間違って誰かが噛まれたりしたら非常にまずい。 「お前なぁ……。いくら生き物好きだからって……」 「頼むよぉ! 誰かが噛まれたりしたら、流石に『プリズン・スクエア』送りになっちゃう! 目玉焼きにソイソースしかかける事を許されない生活なんて、耐えられない! 被害が出る前に、一緒に探しておくれよ!」  そう嘆いてもう一度地面にオデコを擦り付ける、アルフィー。  あなた達がやれやれと、二度(にたび)の溜息を吐いた時―― 「キャアアアアアアアッ!」  青天の下に響き渡る、絹を裂く様な女性の悲鳴。 「…………」  場の皆が、ギギギギッと首を巡らす。  向けた視線の先にあったのは―― 「……にゅふふふふ。なるほどなるほど~。あのタッツェルブルム、『リリー・ミーツ・ローズ』に逃げ込んだか~」  妙に楽しげな声が、部屋の中に響いた。  そこに立っていたのは、いかにも魔法使いと言った格好をした(見た目は)若い女性。彼女は部屋の中心で、ニヤニヤしながら何やら覗き込んでいる。見れば、それは大きな水晶を思わせる透明な球体。それを見つめ、女性はうむうむと頷く。 「タッツェルブルムは土属性の生き物だからな~。土の肥えたそこでは、なかなかに手強いぞ~。さてさて、どうする~? 生徒諸君」  光る玉を愛しげに撫でながら、彼女は言う。 「いい機会だ。これは課題扱いにしよう。上手く捌けば、評価してあげる。だからせいぜい、頑張りたまえ~」  共鳴魔法石(ウーツル)の大玉に映るあなた達の姿を眺めながら、フトゥールム・スクエア学園長、メメたんこと【メメ・メメル】は楽しそうにほくそ笑んだ。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-02-05
完成 2019-02-21
夜闇の双風 (EX)
土斑猫 GM
「『ジーナフォイロ』ですか……」 「はい……」  対応した女教師の前で、カリナ村の村長は深く溜息をついた。  カリナ村は学園から北に数十キロ離れた場所にある、小さな村。そこの村長が、フトゥールム・スクエアを訪れていた。  彼は語る。  カリナ村は地理的に水資源に乏しい場所にあり、慢性的な水不足に悩まされている。僅かな河川も夏は日照り、冬は凍結によって使えなくなり、都市部から水を運ぶために毎年多くの労力と金銭を消費している。それでも村を廃棄しないのは、ひとえに住民達が先祖が途方もない努力の果てに作り上げた村を愛しているから。事実、どんなに厳しくとも、村を出ていこうとする者はここ百年、いないのだと言う。  そんな住民達の、心の支えになるものがある。  それは、『神の掌』と呼ばれる泉。  季節に寄る事なく、こんこんと水が湧き出るそれ。夏に干上がる事もなく、冬に凍る事もない、村の最後の生命線。  水が乏しければそこから汲み、食料に窮すればそこで魚を獲って凌ぐ。  長い年月、そうやって皆を助けてきた泉は名実ともに村の守り神。どんな苦難でも、この泉があれば乗り越えられる。ささやかな信仰心すらもって、村は泉と共に歩んできた。  しかし、ある日それが一変した。  一ヶ月ほど前から、件の泉に夜な夜なつがいのジーナフォイロが現れるようになったのだと言う。  『ジーナフォイロ』。  蝙蝠の身体と翼に、人と豚を足して二で割った様な顔をくっつけた様な姿をした体長2メートル程の原生生物。  あまり研究が進んでいない生物で、進出鬼没。生息環境も分からない。せいぜい夜行性らしいという事くらい。  空飛ぶ巨大ドブネズミとでも思えばいいのかもしれないが、ネズミにはない特性がある。それは『毒気』。これが、生物学的な研究が進まない最大の理由。身体から常に異臭と共に毒気を発していて、周囲の生物・環境に影響を及ぼすのだ。  所謂『魔物』ではないのだが、場合によってはそれの方がいくらかマシなんじゃないかと思える様な迷惑生物。  そんな輩が、村の希望である泉に居着いてしまったのだ。  件のジーナフォイロ達は日暮れと共に泉に現れては水を飲み、水浴びをする。その度に、身体から出る毒気が水に溶けて混じっていく。  結果、泉の水は毒水と化し、住む魚は死に絶えてしまった。  このままでは泉は死泉となり、村の生命線は絶えてしまう。  幾度か村の者で追い払おうとしたものの、自分達の強さに自信があるのだろう。全く逃げようとしないばかりか、逆に関わった村人が毒気にあてられて寝込む始末。  ここに至って、噂に高い学園の関係者に協力を仰ごうと言う意見が村人の総意となった。  村人が持ち寄ったなけなしの財産。それを依頼料としてテーブルの上に置きながら、村長は頭を下げる。  その頼みは、一つ。  何とか、ジーナフォイロがこれ以上泉に近寄らない様にして欲しい。ジーナフォイロさえ来なくなれば、泉は自らが吐き出す湧き水によって浄化され、いずれは元の姿に戻る筈。そうすれば、今は消えている魚や他の動物達の姿も帰ってくるだろうと。  確かに。  女教師は考える。  ジーナフォイロは、一般人でどうにかするには些かハードルが高い。とは言え、真性の魔物の様に敵対的存在でもない。関わりあっても、命に危険が及ぶ可能性は低い。正しく、これは勇者の修行課題として相応しい。そして、彼女がそう思う理由はもう一つ。  村長は、こうも言っていた。  件のジーナフォイロ達。追い払っては欲しいが、命までは取らないで欲しいと。  いかに有害な生物であろうと、自分達と同じ厳しい地で懸命に生きる者。無闇に殺める事は、忍びない。まして、件のジーナフォイロはつがい。何処かに、子供もいる筈。そうであれば、尚更。どうにか、追い払うだけで収めて欲しい。  それもまた、村人達の総意だった。  女教師はこうも、思う。  人の悩み苦しみを救うのは、勇者の努め。けれど、命を尊び、分け隔てなく守るのもまた勇者の努め。  この件は、それを学ぶにも相応しい課題となろう。 「頭を、お上げください」  彼女は、テーブルに置かれた金袋を村長に向かって押しやりながら言った。 「ご依頼、お受けいたします」  ジーナフォイロに関する案件。それに参加する生徒の募集が始まったのは、その日の午後の事だった。  それから数日後。国の北方、カリナ村は件の泉のほとりに、あなた達の姿があった。  本来は、澄んだ水で満たされているであろう泉。それは今、ドロリとした鈍色に濁り、異様な臭気を放っている。中を覗けば、漂うのは腹を見せて浮く魚と枯れて漂う水草の成れの果て。  被害は思いの外、甚大らしい。  視線を上げると、遥かな山峰に赤く染まった夕日が沈んでいく。  日が暮れる。じきに、『彼ら』の時間。  もう一度、持ってきた装備品を確かめる。  最後の視界を照らしていた、斜光が消えた。ゆっくりと、満ちていく闇。しばしの間。やがて、どこからともなく漂ってくる酢酸の様なすえた臭い。肌に感じる、チリチリとした刺激。空気が、澱んでいくのが分かる。そして、  聞こえた。  さほど遠くない、上空。羽が夜気を打つ音と、壊れたカスタネットの様な濁った声。  上を見上げる。掲げたランタンの、淡い光。その中を、何か大きな影が横切った。  道具を握る手が、汗で滑る。強くなる臭気。大きくなる羽音。身体を蝕む、不快感。  ゲタッ! ゲタゲタゲタッ!!  哄笑の様な鳴き声が、唐突に鼓膜を震わせた。  泉に舞い降りる、二つの影。赤く濁った眼光が、こちらを見て笑んだ様な気がした。  夜の宴の、始まりだった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-03-04
完成 2019-03-25
血塗れフルーツ大戦線 (ショート)
土斑猫 GM
 とても晴れた日だった。  これでもかと言うくらい、快晴の日だった。  サンサンと輝く太陽の下で、あなた達は広い敷地に集められていた。周囲には沢山の樹木が植えられ、甘酸っぱい果物の香りが満ちている。そう。ここは果樹園。魔法学園フトゥールム・スクエアから少し離れた、とある農家が営む果樹農園である。  そこにあなた達は、野良服に麦わら帽子、そして軍手と言うバリバリの農作業スタイルで集められていたのである。  おかしい。  あるつもりで来た、誰かさんが思う。  今回は、戦闘系の課外授業だった筈。何故自分達はこんな牧歌的な格好をして、こんなのどかな風景の一部に組み込まれているのだろう。何か、嫌な予感がする。  おかしい。  そのつもりで来た、誰かさんも思う。  今回は、農作業の実習だと聞いていたのに、何で手に剣だの槍だのを持たされているのだろう。って言うか、さっきから聞こえてくる『あれ』は何だろう。何か、嫌な予感がする。  おかしい。  そんなつもりで来た、誰かさんは思う。  何かとても美味しいものにありつけると聞いていたのに、何でこんな労働バッチこいな格好をさせられているのだろう。優雅なティータイムを過ごせる筈ではなかったのか。何か、嫌な予感がする。  あなた達がそれぞれ不穏な空気に不審な思いを抱く中、一人の男性が皆の前に進み出て来た。魔法学園フトゥールム・スクエア教師の【パグス・スティングレイ】である。ちなみに、彼もばっちり農作業姿。 「やあ、皆さん。ご苦労様。それでは、本日の授業の説明をしよう。後ろを見てごらん」  そう言って、示す先には遥か遠くまで植えられた果樹らしき木々の群れ。遠目に、赤や緑の丸い実がぶら下がっているのが見える。結構大きい。小玉スイカくらいあるだろうか。 「あれは、『ブラッディ・スイート』と言う果物さ。本日は、この農園をお借りして、あれの収穫実習を行うよ。それでは、近くに行ってみよう」  あなた達を引き連れ、果樹園の中に向かうパグス。近づくにつれ、強くなる香気。それと同時に、何かおかしなものが聞こえてくる。いや。さっきから聞こえてはいた。ただ、あまりにもアレだったので、風の音だろうと思い込もうとしていたのだが……。 「憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ……」 「死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ……」 「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス……」  呪詛である。  怨嗟である。  聞くのも耐え難い、マイナス思念の呟きが、夏の蝉の声よろしく果樹園の中を満たしていた。  見れば、大きな実の真ん中に大きな割れ目が入り、そこから幾重にも並んだ歯と長い舌が覗いている。それが甘い香りのする果汁を唾液替わりに垂らしながら、延々と恨み言を呟いているのだ。そんな実が、沢山の木にこれまた数え切れないくらいぶら下がっている。ユラユラ、ユラユラと揺れながら。  正直、目眩がする。  誰かさんが訊いた。 「こ、これ、何ですか……?」 「はい。これが、魔果樹・『ブラッディ・スイート』だよ」  怯えるあなた達に向かって、パグスはにこやかに言った。  曰く、時はまだ世界が魔王との戦いの中にあった頃。この地も当然の様に魔王の配下である、魔物の侵略を受けていた。それを迎え撃った勇者達との戦いは壮絶を極め、多大な犠牲の上に魔物達は討伐された。その時流れ出した、大量の魔物達の血。それが村の農業用水の中に混ざり込んでしまった。戦時と言う事もあり、資源は限られている。当時の農民達はやむなく、育てていたリンゴの木に魔物の血が混じった水を与えた。すると、どうだろう。魔族の血を吸ったリンゴの木は壮絶な変貌を遂げ、奇怪極まりない果実を実らせた。その凄まじい様相に、当時の農民達は思った。どうすんだ、これ……。と。しかし、時は戦時。食料もまた乏しい。贅沢は言えない。仕方なく、農民達はその果実を食する事にした。壮絶な戦いの末、収穫したそれを食べてみると……。  美味かった。  口から、感動が閃光となって迸る程に。  これは売れる!!  確信した農民達は、血まみれになりながら挿し木を行った。その努力は実り、『ブラッディ・スイート』と名付けられた果実はこの地域の名産となり、財政を支える要となって今に続くとの事。  何か、闇が深い。 「という訳で、皆さんにはこのブラッディ・スイートの収穫をしてもらおうと思う。お手本は、農場主の【ヘネミー・シュトルツァ】さんにお願いするよ」  進み出て来た男性が、帽子をとってパグスにお辞儀をする。 「先生、お久しぶりです」 「元気そうだね。今日は、よろしく頼むよ」  そう言いながら、パグスはヘネミーを紹介する。 「彼は、我が学園のOBだよ。勇者・英雄コースを卒業して、今はご両親のあとを継いでこの農場を切り盛りしているんだ」 「いやぁ。本当は勇者になりたかったんだけどね。親にどうしてもと頼まれて。まあ、ここなら勇者の技能も生かせるし、充実しているよ」  農作業で勇者の技能が? どういう事?  不審がるあなた達の前で、ヘネミーは一本の木に近づいていく。その手には、片手剣と小型盾。何か、物々しい。 「じゃあ、よく見ててね」  そんな事を言いながら、彼がさらに近づいたその時。 「死ニサラセェエエエエエ!!」 「憎イゾォオオオオオオオ!!」 「殺ッタラァアアアアアア!!」  絶叫と共に、漆喰の様な歯をガチガチ鳴らして、果実達が襲いかかってきた。 「はい。気をつけてね。この葉っぱのトゲトゲと吐き出す息には魔力があって、まともに受けると混乱したり気絶したりしちゃうから。あと、こいつら血が好きだから。噛み付かれると吸血されちゃうからね」  そんな事を言いながら、盾でもって襲い来る果実達をカカカッと盾でさばくヘネミー。そして――。  シュパァアン!  鋭く走った剣閃が、一つの果実を枝から切り離した。ヘネミーの手に落ちる実。それを持って、あなた達の元へ戻ってくる。 「ほら。切り離してしまえば、大人しくなるから」  そう言って、手の中の身をシャクリと齧る。 「美味しいよ。君達にも、ぜひ味わって欲しいな」  ニッコリと笑うヘネミー。  頷いたパグスも言う。 「要領は分かったね。ノルマは一人三個。単独で難しいと思ったら、チームを組んでもいいよ。採った実は、ここで食べたり料理したり出来るから。それじゃあ、始め!」  合図と共に、オズオズと木に向かうあなた達。迎え撃つ様に、実達が叫ぶ。 「来イヤァアアアアア!!」 「肥料ニシタルァアア!!」 「血ィ見ルカァアアア!!」  ほとんど、その道の方達のカチ込みである。相当怖いが、逃げる訳にも行かない。  そして、血塗れの農業実習の幕は開く。
参加人数
3 / 8 名
公開 2019-04-27
完成 2019-05-13
ワンダー・キャンディ・ミステリー (EX)
土斑猫 GM
 お菓子を作ろう コトコトコト。  お砂糖煮詰めて コトコトコト。  ルバーブ刻んで コトコトコト。  玉子はブクブク コトコトコト。  美味しくとろけるお菓子の行進。  とっても甘ぁいお菓子のお誘い。  さぁささぁさぁ いらっしゃい。 「これは、問題ですね……」  ここは、魔法学園フトゥールム・スクエアの保健室。そこに備えられたベッドを見下ろしながら、学園の女性講師【ルミナス・エルーニャ】は険しい顔でそう呟いた。  その日、あなた達は学園のとある教室へと招集された。 「よく、募集に応じてくださいました。皆さんの勇気に、感謝します」  その言い様に、皆が首を傾げる。はて、何の事だろう。今日は、敷地内にあるという、人手の足りない店舗。そこに、職業実習を兼ねて手伝いに行く課題の筈。相応の報酬も出ると言う事で、言わば学園公認のアルバイトの様なもの。アルバイトに、勇気もへったくれもないだろうに。  訝しがるあなた達を他所に、ルミナスは尚も神妙な態度。肘を机に着き、両手は組んで俯き加減の顔の前。部屋の灯りを反して、奥が見えない眼鏡。何か怖い。 「まずは、これを試して貰いましょう」  ルミナスの言葉に従う様に、メイド服を纏った少女達が教室に入ってきた。彼女達はあなた達の前に手早く皿を並べると、教室を出て行った。  皿の上に載っていたのは、ケーキが一つ。 「どうぞ、お食べなさい」  言われるままに、皿を手に取る。見た目は、普通のケーキ。いや。そこらで売っているモノよりも飾り気がなく、見てくれは質素である。  フォークで切ると、柔らかくて心地よい手応えと共に、甘い香りがフワリと鼻をくすぐる。いい匂い。素直に、そう思った。ひとかけ、口に入れる。途端――。 「!!」  皆が皆、顔を見合わせる。 「美味しいでしょう?」  ルミナスが訊く。反論など、ありはしない。美味しかった。絶妙だった。最高と言う言葉すら、不足だろう。正直、どんな言葉を使って表現したらいいのかすら、分からない。一口食べれば、優しい甘さに舌が蕩ける。二口食べれば、恍惚となって思考が揺らぐ。三口食べれば、幸福感で身体が痺れる。一種、危険ささえ感じさせる美味しさだった。 「最近、街の一画に出来た小さなお菓子屋の商品です。街ではもう大評判で、毎日12時間待ちの行列が出来ています」  だろうな、と思う。と言うか、この味が分からない人は人間として何か大事なモノが欠けていると思う。  皆が食べ終わるのを待つと、ルミナスは言った。 「察しは、ついているでしょう?」  一斉に頷く、あなた達。 「そうです。皆さんに出向いていただくのは、このケーキを販売している店、『ワンダー・キャンディー』です」  そう言って、彼女は手にしていた紙を配り始める。紙には、こんな印字がされていた。  『アルバイト募集。ワンダー・キャンディーでは一緒に働いてくれる仲間を募集しています。私達といっしょに、お客様に甘い夢をお届けいたしましょう。時給:1500G。勤務時間:AM9時~PM5時(週休二日・一時間の休憩有・残業手当て有)。業務内容:接客・レジ・品出し・店舗掃除。募集人数:来る者拒まず。いくらでもどうぞ。※勤務時間・賃金等、ご要望があれば相談に応じます。By店主』  なるほど。確かに、アルバイト募集している模様。無理もない。それだけの人気店なら、人手はいくらあっても足りないだろう。条件は良いし、ひょっとしたら試作品や残った商品のお相伴にも与れるかもしれない。ウハウハではないか。あなた達が心の中で歓声を上げたその時。 「続いて、これを見てください」  ルミナスの声と同時に、部屋の灯りが落ちた。すると、入れ替わる様に灯った光が部屋の宙に映像を映し出した。見れば、ルミナスの手には一つの共鳴魔法石(ウーツル)。それに映る光景を、魔法の応用で空間に転写しているのだろう。中々に高度な技術。流石、先生。  けれど、そんな事は些細な問題。皆の視線は宙に浮かんだ映像に注がれている。  何と言うか、形容に困る映像だった。  場所は、学園の保健室だろうか。そこに並んだ、六つのベッド。場所柄、そこには当然病んだ生徒達が横たわっているのだが……。  何か、様子が変だった。  彼らは、痛みに苦悶している訳でも、悪寒に震えている訳でもなかった。彼らは、笑っていた。その顔に、蕩けそうな笑顔を浮かべて、陸揚げされた烏賊の様にベッドの上で伸びていた。  何て言うか、見るからにヤバイ。  絶句しているあなた達に、ルミナスは言う。 「これは、現在街で多発している症例です。ありとあらゆる気力を失い、見ての通り腑抜けになって日がな一日ゴロゴロしています」  いや。これ、そんな悠長な表現じゃ収まらない気がするんですが。 「そして調査の結果、この生徒達が皆、例のワンダー・キャンディーのケーキを複数回に渡って購入している事が分かりました」  エェエエ!?  そんな得体の知れないもの、食べさせられたの!? 仰け反る、あなた達。しかし、ルミナスは平然と続ける。元来がクールな方なのだ。 「どうも、このケーキが原因である事は確かなのですが、それ以上の事が分かりません。まさか、美味しいという理由だけで営業停止にする訳にも行きませんし。そこで、あなた達に白羽の矢が立ちました」  あ、何か嫌な予感してきた。引きつるあなた達に、ルミナスは告げる。 「潜入捜査です。アルバイトとして店に入り込み、色々と探ってきてください。店主が何者かとか、お菓子がどの様な手法によって作られているかなど」  あの、ちょっと? 「心配はありません。官憲との連携は出来ています。と言うか、頼んできたのあっちですから。多少の無茶はもみ消せます」  いやいや、ちょっと待って。 「早く行かなければ、応募が締め切られてしまいます。人数に明確な限りはありませんが、向こうの気分次第と言う事も有り得ますので」  待って。せめて、選択の余地をちょうだい。お願いだから。 「よしんばバレたとしても、せいぜいケーキ漬けにされて脱魂するだけです。問題ありません」  いや、十分怖いんだけど。それ。 「ちなみに、得たアルバイト代は全て皆さんのものです。代価は十分ですね」  ……あ。そう言えばこの人、黒幕・暗躍コースの担任だったっけ……。 「説明は終わりです。それでは、皆さんの健闘を願います」  言葉の結びと共に、ルミナスがパチンと指を鳴らす。途端、辺りの光景がジジッと歪む。転送魔法石(トーブ)を利用した、移動魔法。前もって、仕掛けていたらしい。しまった。図られた。後悔しても、後の祭り。 「はい。いってらっしゃい」  声と共に、切り替わる光景。気づくと、あなた達は『そこ』に立っていた。  ワイワイと賑やかな街の中。目の前には、延々と並ぶ長蛇の列。その先に立つ、小さな店。それが、菓子店『ワンダー・キャンディー』。  行列を避けて、裏口に向かう。小さな扉。そこから漂ってくる、より濃密な香り。頭が、クラリとする。フルフルと頭を振って、扉に向かう。  ノックを数回。 「鍵はかかってませんよ。おいでなさい」  招く声。ドアノブに、手をかける。さてさて、どうなる事やら。  そして、あなた達はドアを開けた。  お菓子を飾ろう トテトテトテ。  小麦粉振るって トテトテトテ。  黄色い木いちご トテトテトテ。  真っ白メレンゲ トテトテトテ。  甘くてふんわり お菓子が歌う。  ほんわり甘ぁい お菓子が笑う。  さぁささぁさぁ おいでなさい。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-07-07
完成 2019-07-26
黒風は、清き乙女と月世に踊る (EX)
土斑猫 GM
 時は、草木も眠る丑三つ時。ゆっくりと、けれど確実に移ろいだ季節。あれほど肌寒く、木々が凍えていた夜も、今はすっかり過ごし易くなっていた。  そんな深夜の街路を、一つの人影が歩いている。  深夜の事、人の気は当になく。【ナディア・クローティア】は、ビクビクしながら家路を急いでいた。 「あ~あ、すっかり遅くなっちゃった。あのお客さん、粘るんだもんなぁ……」  ぼやく言の葉が、夜の静寂の中に消えて行く。彼女は酒屋の従業員。今日は最後の客が何か面白くない事でもあったのか大酒をかっくらい、閉店時間を過ぎてもグダグダと管を巻いていた。尻を蹴って追い出す訳にもいかず、愚痴に付き合った結果こんな時間に帰宅の羽目となった。 「まったく、最近、通り魔で物騒だって言うのに……」  そう。この街は、数週間前から起こり始めた不穏な事件に怯えていた。  深夜。街道を歩く者が襲われ、大怪我を負わされる事案。被害者は、全て若い女性。発見された時、彼女達は体中をズタズタに切り裂かれ、血の海の中に倒れていた。  傷は、鋭利な刃物状のモノによるもの。傷の多さは、尋常ではなく。されど、血溜りの中には足跡も髪の毛も。犯人を示す痕跡は一切なく。進まぬ捜査。今の所、死者が出てないのがせめてもの救い。  新聞の一面を飾る、凄惨な見出し。それが、凄惨な現場の光景を容易に妄想させる。背中を這う悪寒は、夜風や薄着のせいだけではないだろう。 「ああ、嫌だ嫌だ! 早く、帰ろう!」  歩く足を速めようとした時、仄かに明るかった世界が闇に沈んだ。空を見ると、それまで顔を出していた上弦が雲に隠れていた。落ちる月影の中、微かにそれが香る。  乾いた獣臭。  そして。  鉄錆の、匂い。 「え……?」  気配に振り向いた瞬間、昏かった視界がさらに深い黒に沈む。  飛び散る鮮血と悲鳴が、薄闇の世界を禍しく染めた。  ◆  世界に誇る勇者育成教育機関、魔法学園フトゥールム・スクエア。  難解な困難災難に見舞われた人々が、在籍する未来の勇者達の力に期待して駆け込む最後の拠り所。  今日、その門を叩いたのはとある地方都市の官憲。迎えた講師に伝えたるは、次なる内容。  現在、件の街にて起きている連続通り魔事件。先頃まで、被害者に共通するは若い女性と言う事だけと思われていた。  しかし、ある者が気付いた。被害者達が発見された位置。それを結ぶと、街を囲む巨大な魔法陣が現れる事を。  直ちに洗い直される、被害者達の身の上。詳細。  彼女達、親族達が了承する範囲。明らかになった事。  生まれ、経歴等、共通点はなし。  種族、職業、バラバラ。  重なる点は、たった一つ。  全員、異性との経験なし。  処女の血にて成される、妖しき法。愉快な代物である可能性は、限りなく低い。  かの魔法陣。複雑怪奇な幾何学。構成する星の内、今だ埋まらぬ角は四つ。残りの事件が、そこで起こる事は明白。  有志を募り、試みられる囮捜査。けれど、目論見は尽く瓦解。囮が襲われる事はなく、犯人が現れる事もまたなく。  次に打たれた手。凶行が、果てに望む法。その正体を、見極める。  当ては、一つ。  魔法陣を使用する術。結果が顕現するは、おおよそ陣の中心部。地図が示す場所。在するは、とある古家の建つ地。住人は、最後の血が絶えて久しく。  荒れた敷地。廃墟と化し古屋の中。入った捜査員達は見た。  屋内の空間に吹き荒れる、漆黒の風。渦巻く中に目を凝らせば、黒風を走る無数の獣影。意を決し、踏み込んだ捜査員が一人。瞬間、ズタズタに咬み裂かれて弾かれる。応急処置を受け、運ばれる途中。彼は告げた。黒い獣風。その群の向こうに見えたモノ。  妖しき気配を発す、一棟の小さな祠。  得られた情報。辿った先に、在りし答え。  かの存在、名を『黒眚(しい)』と言う。  風に化して群れをなし、人畜を襲って血肉を啜る異国の妖魅。  記録によらば、かの古屋の住人。その異国より流れ来る術士の筋。  推測。  かの術士。良からぬ企みを持ちて、祖国よりかの妖を呼びしも制す事叶わず。彼を喰らいし黒眚達は、異国の理に馴染む為、暫し眠りについたモノと。  相応の時が経ち、理を得たる黒眚。喰らいし術士の記憶に沿いて、己らを放つ術を講じる。  其が術こそが、かの陣。完成すれば、枷が解かれる。枷は、かの祠。中に封じられしは、黒眚の王。彼を縛りて、群を律するが術士の叶わぬ本懐。祠が陣の完成により砕ければ、王は放たれ、今に倍する数の黒眚を呼び込む。  そうなれば、自由と威を得た黒眚は災嵐となり、街の全てを喰らい尽くす。そして、街から餌が消えれば、恐らく次は……。  ◆  話終えた官憲が、頭を下げる。  力を、貸して欲しいと。  理由は二つ。  黒眚は、風の位相に在する魔。相応の魔力がなければ、こちらからは干渉すら出来ない。実戦レベルの魔力と、戦闘技術を両立出来る者。それが、多人数必要。  答えは、自ずと限られる。  そして、もう一つ。  警察が用意した囮が、黒眚の食指に触れなかった理由。  つい先日、判明した事実。  陣の完成に必要なのは、処女であるに加え、『ある程度の魔力を有した女性』である事。  その意を察した講師が、目を細める。  懇願と申し訳なさを伝えながら、官憲はただひたすら頭を垂れる。  溜息を、一つ。  拒否すれば、待つのは一つの街の崩壊。その先に待つ、更なる災禍。  どの道、選択支などある筈もなかった。  ◆  かくして、生徒達に出される求人の報。  志願者達に出されたのは、一つの選択。  ――此方に溢れた黒眚を殱滅し、一時なれど確かな平穏をもたらすか――。  ――敢えて王の顕現を誘い、危険なれども災いの根を永遠に絶つか――。  道は、一つ。  時は、僅か。  ◆  月が満ちる。  望月の光。  夜に在するモノ共が、最も存在の威に昂ぶる刻。  警察により、危険区域の住民達は避難済み。  かの場所を徘徊せしは、若き勇者達。  甘き血の気配に、ざわめき始める夜気。  ゆっくりゆっくり。  流れる獣臭。  鉄錆の香。  漆黒の風。儚き月夢。妖しく怖く。  ビョウビョウ、踊る。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-30
完成 2020-06-20
赤土の園に咲き散る華 (EX)
土斑猫 GM
 皆が到着した時、『彼女』はたった一人でそこにいた。  頭に巻いた布と、身に纏った巫女服。彩る紋様は、地の文化。故郷の彩に身を飾り、捧げられた彼女。  生きているとは、思わなかった。誰も、思わなかった。  彼女は贄。荒ぶる神への供物。  だから、誰も間に合わないと知っていた。  だって。  彼女を捧げた村はもう、滅んでいるのだから。 ◆  学園に、応援の要請が入ったのは三日前の事だった。  東の遠方。小さな自治体。魔物と思わしき存在が出現。多数の民が襲われた模様。勇者の、助力を乞うと。 ◆  険しい山岳沿いにある、かの自治体。そのコミュニティの中に、より山奥。ポツンと離れた小村がある。古く長く、独特の習わしを持つ村。名義上、件の自治体の一部として名は連ねているけれど、実の所は村は独立状態。距離が離れている事もあり、自治体本体との交流は商業以外ほとんどなかった。  そんな村には、土着の信仰が一つ。一柱の荒神を祀る、奇妙な神事。盛大な祭りと共に、贄を捧げる風習もあったと言う。  けど、過去の話。時が流れ、代が変わり。信仰は、薄れていく。祭事は絶え、生贄の儀式も絶え。古の記憶に包まれた村は、ゆっくりと歩み出そうとしていた。  そんな、矢先――。 ◆ 「『八束(やつか)』様が、現れたのです」  渡された水を貪る様に飲んだ少女は、一息つくとそう言った。  ある夜。森の奥から現れた異形、四体。大きさは、2m程。掲げる形相は、大型猫と昆虫を合わせた様な醜悪。痩身を包むのは、黄土色の剛毛と虎の如き縞模様。何より奇異なるはその脚。身長の三倍ほどもある曲がった脚が、二本だけ。それを、曲輪の様に動かして。彼らは村に襲いかかった。 「その夜の内に、多くの者が裂かれ喰われました……」  涙を浮かべ、震える手で華奢な身体をかき抱く。 「八束様は、『土蜘蛛』様の先駆けです。言い伝え通りなら、八束様が現れた一週間後……明日の真夜中、でしょうか。八束様が狩った血が滲みた山の赤土を苗床に、土蜘蛛様は顕現します。長老様はお鎮めする為に、長年絶えていた贄の儀式を行うとおっしゃりました。私は適齢で、身寄りがありません。だから……」  彼女が、皆を見る。黒真珠の瞳が問う。  ――どうなったのか、と――。  立ち込める、重苦しい空気。察した少女が、目を伏せる。『そう、ですか……』と。  誰かが、尋ねた。何故、君は助かったのかと。 「分かりません……」  答えには、届かない。 「苦しまぬ様、神酒をいただいて。後は……」  苦悩する様に頭を抱え、乞う眼差しで皆を見る。 「あなた方は……学園の……勇者様なのですね……?」  伸びる手。近くにいた者の手を、掴む。 「お助けください……」  か細い、声。 「この地は、既に染まりました。明日の夜には、土蜘蛛様が顕現します。かの方は、荒神にして祟り神。命を枯らし、枯らし続けます……。村の守人30人も、使いである八束様にすら敵いませんでした! もう、あなた方にすがる他に術がありません!」  握った手に顔を寄せ、少女は祈る。 「私にも、幾ばくかの知識があります! 出来得る事を、致します! だから、どうか! どうか!」  見合せる顔。選択肢は、なかった。  ◆  少女は【チセ】と名乗った。  チセは、言う。  『土蜘蛛』は、遥か遠い日に異国より渡り来た妖しの神。進む道行で命を枯らしながらこの地に至ったソレは、惨劇の果てにかの国より追ってきた武人の手により討たれた。 「その時に使われた神刀、『髭切之太刀』がこの山の奥に奉納されています。それを使えれば、或いは……」  何故最初にそれを? との問いに、チセは首を振る。 「腕に覚えのある若人が10人、取りに行きました。けれど、一人も……」  話を聞く度に増える、犠牲者の数。満ちる重い空気を振り払う様に、チセは言う。 「場所は、私がご案内します。勇者の術を知るあなた方なら、きっと……」  あえかな希望にすがる様に、贄の少女は頭を下げた。  ◆  チセを守る様に固まって歩く事、しばし。隣を歩いていた者に、チセが声をかけた。 「私とあまり歳差がない方が、いらっしゃるのですね。勇者と言う方は、もっと年配の方々と思っていたのですが……」  まあ、皆が皆ではないけれど。苦笑すると、ジッと見つめてきた。  何? と尋ねると、オズオズと言い出す。 「……私も、なれるでしょうか?」  向ける眼差しには、強い羨望。 「私は、孤児です。村の方々に、育てていただきました。けれど、御恩に報いる術がありません。贄に選ばれた時、此度こそはと思ったのですが……」  抱く、不信。贄なんて、喜ぶ事ではない筈。確かな、歪み。彼女は、孤児。ひょっとしたら、そう思う様に教育を。 「……人の役に、立ちたいのです。生きる意味が、欲しいのです。あなた方に倣う事が出来るなら、もしかしたら……」  ――その『人』の中に、貴女はいるの――?  誰かの言葉に、チセは顔を上げる。  ――勇者は、『人』を幸せにしなきゃいけない――。  また、誰かが。  ――そして、自分もその『人』の中の一人じゃなきゃいけない――。  そして、誰かが。  ――じゃないと、きっと泣く人を増やしてしまうから――。  問う。  ――貴女は――。  その想いを、計る様に。  ――出来る――?  と。 「………」  ほんの少し。ほんの少しだけ、戸惑って。  頷いた。  ――なら――。  皆が、手を差し出す。  ――行こう――。  微笑みと、共に。  ――一緒に――。 「………!」  綻ぶ、華。  恥ずかしそうに伸びた手が、触れ合った。 ◆  荒々しい呼気と共に、鋭い牙がチセに襲いかかる。  遮る様に振るった武器に弾かれたソレが、悲鳴を上げて転がる。  憎しみの篭った唸り声を上げて起き上がったのは、白毛の狼。明らかな殺気を受けながら、チセが『シキテ……』と呟く。  曰く、『シキテ』は村で育てていたはぐれ狼。村の者には、決して牙を向けない子だったのにと。  と。  風が運んだ、匂い。土臭い、獣の匂い。向けた視線。今まで通ってきた、山道。そこを、追う様に登ってくる異形の影三つ。 「八束様……」  怯えた声で呟く、チセ。  目を凝らすと、大きな異形に従う様に歩く人影も幾つか。 「……髭切を探しに出た方々です……。八束様は、糸を絡めて生き物を繰ります。恐らくは、手駒に……」  続けて、言う。 「八束様の数が少ない……。もう、『巣』も……」  土蜘蛛は、八束の一体が何かしらの生き物に憑いて『巣』に変性。それに残りの八束が同化する事で、顕現を果たす。 「誰が……」  見分ける術は、ない。  振り払う様に、チセは言う。 「行きましょう。髭切があれば、きっと……」  歩き出す、一行。末尾の者が、後ろを見る。  少しの距離を置いて、ついてくるシキテ。そのさらに後方に、異形の群れ。 (速い……)  程なく、追い付かれるだろう。そうなれば……。  武器を握る手が、汗で滑る。  皆、同じ。  思いも。  覚悟も。  希望を目指し、ただ進む。  鉄錆の香に染まった、赤土の園。  死の気配が、追って来る。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-06-14
完成 2020-07-04
蒼炎恋歌 (EX)
土斑猫 GM
 その客がフトゥールム・スクエアを訪れたのは、もう夜半も過ぎた頃。  来訪の知らせに担当の職員がブツブツ言いながら出た所、門に立っていたのは女性。見慣れない異国の衣装に身を飾った、若い女性だった。 「阿保が、おりゃんして」  害意はなさそうと判断され、応接間に通された彼女。ソファに座ると、唐突にそう言った。 「これが、随分な身の程知らずでありんしてねぇ。魔王とか言う古物に魅せられんして。同じ高みに上がろうと、巣を抜けたんでありんす」  唄う様な言綴り。漂う、奇妙な香。彼女が、纏う。 「そこな時、出がけの駄賃に幾つか持ち出しんして。『苗床』にするつもりだったんしょう。此方に来てから、あちこちにばら撒いた」  取り出す煙管。何もしないのに、焔が灯る。『ごめんなんし』などと言いつつ、返事が返る前に一吸い。吐いた煙は、ヤニではなく甘い薬草の香り。 「で、『そろそろ』と言う頃合いで。尻拭いにわっちが出張ってきた訳でありんすが……此れが、意外」  ポンと叩く手。どうにも大仰で、わざとらしい。胡散臭そうな職員の目など無視して、続けた話。 「もう、こちらの生徒さん方が、『風』と『土』を調伏済みでありんした」  それが、眠たげだった職員の目を覚まさせる。顔を上げた彼を妖しげな微笑みで見つめると、また煙管を揺らす。 「全く、大したモンで。『風』は封じた様でありんすが、『土』は見事に滅して見せた。実に、見事」  『風』と『土』。学園の生徒達が関わった事件。心当たりが、ある。 「それで、わっちも一つ悪心が湧きまして」  職員の問いを塞ぐ様に、にやける女性。 「『残り』も、お任せする事にしんした」  途端、女性の姿がユラリと霞む。察した職員が咄嗟に捕縛の魔法を発動するが、既に手応えはない。 「差し当たり、『火』の鍵を解きんした。後、半刻程で動き出しましょうか」  揺らぎ溶けていく、彼女。哂う声が、言う。 「何、『火』は『風』や『土』程に荒んくはございせん。此方のわっぱ達でも、十分でありんしょう。それと……」  ポトリ。  何かが、テーブルに落ちる。 「代価くらいは、置いていきんす。使ってくださんし」  見れば、そこには幾つかの指輪と符。  声だけが、言う。 「差し当たり、滅するが近道ではありんしょう。けど……」  また、笑い。チラつく、悪意。 「急くのも、考えモノでありんしょなぁ。何のかのと、『哀れな娘』ではありんすから」  どういう事かと問う職員の前に、『読みんし』と落ちる一冊の古書。 「入り用な事情は一切合切、書いてありんす」  遠のく、声。 「ではでは。此方自慢のわっぱ達の手際と心意気、存分に愉しませて貰いんす」  消える、気配。  後に残るは、白い煙と甘い薬香。  ◆  正しく、異変は程なく起こった。  東に広がる、のどかな田園地帯。農民達が穏やかに暮らすその中心で、突然異常な魔力反応が起こった。次いで、周囲の気温が異常上昇。『暑い』ではなく、『熱い』。耐えかねた住民達は我先にと逃げ出した。  地元の有志が集まり、耐熱魔法を使って灼熱地獄の中に侵入。熱感に耐えながら、魔力の元を探る。  行き着いた先。そこは、住民達の話では古い祠らしきモノがあったと言う林。燃え尽きた木々の残骸の向こう。彼らが見たモノは、見上げる程に巨大な青い火球だった。  原因は明白。正体の解明は後回しにされ、大規模な消火活動が行われた。浴びせられる、大量の水。  けれど。  無意味だった。  いくら水をかけようとも、衰えない炎。それどころか、明確に熱量が増してくる。  ――只の炎ではない――。  皆が、そう思い始めた矢先。 「何方か、居られますか……?」  声が、聞こえた。  途端、火球が焔柱となって天に向かう。驚く人々。その中に在ったモノに、再度驚愕した。  青白く燃える地獄の中、座していたのは蒼く焼け付く巨大な鐘。そして、其れに巻き付く半人半蛇の少女が一人。  ルネサンス? 否、そうではない。異形。魔力。明らかな、『人外』。 「ああ、何と言う僥倖……」  絶句する隊員達に、少女は場違いに静かな声音で語り掛ける。 「そこな方々、今世の人方と存じます……。こうして来たれりも、何かの縁……。無礼は承知で、お頼み申します……」  願いは、簡潔だった。  ――やつがれを、殺めてはいただけませぬか――?  息を呑む皆に、少女は続ける。 「やつがれでは、どうにも出来ぬのです……。己で滅ぶ事も……。この忌しき鐘を壊す事も……。『この方』から離れる事さえも、叶いません……」   瑠璃色の燃える眼差しから落ちる、燐火の涙。鐘に巻き付く蛇体で弾け、きらりきらりと散って溶ける。 「このままでは、いずれやつがれは己を失いましょう。この地に住まう、全ての方々を共連れにして……」  ズルリと蠢く蛇体。灼熱する鐘を、愛しく抱く。 「時が、ありませぬ……。どうか、どうか……我が浅ましき情念を、滅ぼし下さいませ……」  鐘の上で両手を突き、平服する少女。長い髪がサラサラと泣いて、火粉を舞う。  青焔の煉獄で泣く可憐の様を、美しいと思った事は罪だろうか。 「どうか……」  呆然と見守る皆の前。  最後の懇願を遮る様に、炎の柱は蒼珠と閉じた。  ◆  明らかに、超常と思しき存在起因の災禍。当然の様に伝えられた学園では、教師達によって奇妙な女が残していった品物の検分が行われていた。  そこに伝わった異形出現の報。出現の時刻。『火』と言う関連語。聡明な教師達が気づかぬ道理はない。  急ぎ開かれたのは、例の古書。  果たして、そこに事の真相らしき事が記されていた。  ◆  かの半蛇の少女の姿をしたモノは、名を『清姫(きよひめ)』と言う。  時は、遠い昔の頃。  彼女は遥か遠東にあるらしい異国、その下級貴族の娘だった。  生まれつき身に『火乃蛇』と言う霊獣の加護を得て、齢12歳にして稀なる炎術師の才を観出されていた彼女。階級の低い家の希望として、大事に育てられていた。  当の本人は優しく大人しい性格で、幼くして想いを寄せた同い年の少年以外は何もいらないと、静かに嫋やかに日々を送っていた。  けれど、災いは突然に起こった。  何処からか現れた魔物の群れが、清姫の住む都を強襲。その数は多く、戦力の足りない都は瞬く間に蹂躙を許してしまった。事態を危惧した時の帝が下したのは、冷酷にして悍ましき邪法の使用許可。  白羽が建てられたのは、霊獣の加護を持つ清姫。  帝室付きの術者達は、高い位への昇級を餌に、清姫の父親と親族を説き伏せた。その後、都から清姫と恋人の少年を連れ出す。戸惑う彼女の眼前で、彼らは少年を斬った。  半死の状態になった少年を、呪法で生み出した大鐘の中に閉じ込める。鐘にすがり付き、泣き叫ぶ清姫。鐘の中で途切れ行く少年の声。ついに彼女の心は壊れ、内に秘められていた火乃蛇の権能が暴走を始める。意思なき業火は術師達に繰られ、魔物を一体残らず焼き滅ぼした。  全てが終わった後、術師達は火乃蛇の浸食によって異形と化した清姫を、しがみつく鐘ごと封印した。  憎悪と恋慕の炎。溶けた彼女は、もはや魔性。抱く憎念が、都に新たな災いを招かぬ様にと。  ◆  読み解き、沈黙する教師達。そこへ、新たな報が届く。  清姫が核となる火球の温度が、どんどん上昇している。もはや有志住民が持つレベルの耐熱魔法では対処不能。このまま上昇を続ければ、炎は大気さえも発火させる。燃えた大気は導線となって炎を伝播させ、大火災を引き起こす。  少なくとも、周辺の村は無事では済まない。  今のうちに、何とかしなければ。  時が、迫る。
参加人数
7 / 8 名
公開 2020-07-25
完成 2020-08-13
呼び声 (EX)
土斑猫 GM
 気がつけば、【白南風・荊都(しらはえ・けいと)】の前に奇妙なモノが浮いていた。  色は無く、不定形。4対の翼を持つ硝子玉。しげしげと見た荊都が、ニヤと笑む。 「おやまあ、『無彩の混沌』でありんすか? ぬし様にはまだ手は出してない筈でありんすが?」  ――わざとらしい態度はするんじゃないよ。女狐――。  聞こえた声に、荊都の顔から笑みが消える。 「……『渾沌(こんとん)』大君でございますか。『三凶』の御一人が、やつがれの様な木っ端に何用でございましょう?」 ――『饕餮(とうてつ)』を起こすよ――。  眼鏡の奥の双眸が、妖しく光る。 「『滅尽覇道』の御方を? これまた、御怖いお話で。さて、どの様なご都合でしょう?」 ――魔王が起きる――。  答えは、簡潔。 ――『アレ』は顕界の理にそぐわぬモノだ。鯨が田んぼで跳ね回っては、吹いた潮で稲が死ぬ――。 「滅尽の御方様も、似た様なモノでは? 起こしたは良いですが、事の後に腹ごしらえで軒並みペロリとやられては、他の方々もたまったモノではないでしょうに」 ――知ったこっちゃない――。  揶揄に返った答えは、話の流れとは酷い矛盾。けどまあ、コレが『彼ら』の通常運転。魔王を敵視するのも、『自分達以外の輩が世界(玩具)で遊ぶのが面白くない』程度の認識なのだ。 ――良い子ぶるんじゃないよ――。  荊都の意を読む様に、渾沌とやらが哂う。 ――お前とて、ボク達と同類だろう? 何せ……――。  ――『八彩災華(はちさいさいか)』を弄ろうとしてたんだから――。  歪に歪む、荊都の口。 ――残り六彩、手早く処理しておくれ。打ち釘が抜ければ、饕餮は勝手に這い出るから――。 「さて、どの様に……?」 ――今まで通りにやれば良いよ――。  答え。言われるが前提。そのつもりが前提。 「おやおや、それではまた『学校』の生徒さん方に頼みますか。この大事に、申し訳の無い事で……」 ――気に病む事はないよ。あいつらも、饕餮の力は必須なんだから。と言うか――。  ゲラゲラと、空気が揺れる。 ――悪いなんて、これっぽっちも思ってないくせに――。  嘲る声に、笑みを返す。 「畏まりました。それでは、易々と済ませましょう」 ――待ちなよ――。  立ち去ろうとした荊都の背に、もう一声。 「何でございましょう?」 ――饕餮が起きるのは良いけど、あの通り意地の汚いヤツだ。口寂しい時の『オヤツ』がいる――。 「其れは、三凶(あなた方)のお役目では?」 ――いい加減、付き合ってられないよ。戦になれば、ボク達だってなんなりと動かなきゃならない。駄々っ子の御守は別にいる――。 「お心当たりでも?」 ――目は付けてたよ。生粋の巫女気質。贄の才。既に品定めは終わってる。脆弱だけど、心と魔力は十分に強い。良い『噛み煙草』になるだろうさ――。  何かを含む声。邪ましい、音。 ――連れて来ておくれ。丁度、『其処』にいるから――。  しばし考えた荊都が、またニヤと。 「なぁるほど。それはそれは……」  外す眼鏡。異形の彩が、妖しく光る。 「まっこと、哀れでありんすなぁ……」  酷く酷く、愉しそう。  ◆  とても、星の綺麗な夜だった。学園の屋上。佇む人影が一つ。  『チセ・エトピリカ』。見上げる先に、散らばる星々と青い月。 「……こんな、夜でしたね……」  思い出す、いつかの夜。  それは怖く。  悍ましく。  けれど、とても大切な記憶。  荒ぶ祟り神の供物と成る筈だった自分を、こちらの世界へと引き戻してくれた人達。  かけてくれた声。握ってくれた温もり。そのどれもが、代えがたい。  その中でも、一際大きく輝く光。  暖かくて。  優しくて。  初めて、傍にいたいと思った人。  けれど、彼は今此処にはいない。  聞こえてくる、巨大な魔の鼓動。蠢き始めてる、眷属達の気配。世界のあちこちで、小さな戦火が上がり始め。  学園の有志達を集めた義勇隊。遠い旅路に向かうその中に、彼は名を連ねた。  自分は、医者を志す者だから。  きっと、行く意味があるからと。  ついて行きたかった。連れて行ってと、駄々をこねたかった。  けれど、ソレを通すには自分はあまりに未熟で。無力で。  立ち尽くすしか出来ない自分の手を、彼は強く握って。  ――帰ってきたら、伝えたい事が――と。  だから、待つ。  その日を待って。  その時を信じて。  けど、聞こえる災禍は日々勢いを増していく。  苦痛の声が。  悲しみの嘆きが。  絶望の叫びが。  怖い。  怖い。  いつその叫喚の中に、彼の声が混じるのか。  在り得ないと思いたい。  けれど、否定する根拠がない。  不安は悪夢となり。  悪夢は幻想となり。  ただただ、心を蝕んでいく。  何かをしたい。  彼の為に、何かを。  けれど、出来る事は何も無く。  抑える事も構わず、零れる雫。  せめても拭おうと手を上げた、その時。  響く轟音。ハッと前を向けば、遠くの方で上がる火の手。最も近場の街。何かが。  凝らした視線の先で、風が舞う。  黒い。黒い。影の様な風の群れ。  幾重も。幾条も。幾匹も。  朱染めの夜天に、咆哮が。  ◆ 「んふふふふ。イイ感じに染まってきんしたね」  壊され、火を上げる建物。逃げ惑う人々。そんな人々に、風に乗って襲い掛かる異形の黒犬達。  火の熱と血の匂いに満ちていく大気を愛しげに吸うと、荊都は座した塔の上から月を仰ぐ。 「さあ、舞台は整いんしたよ?」  手にした煙管を、スゥと飲む。 「おいでなんし。そいで、存分に吹き荒れなんし」  招く様に、天に向かって白煙を吹く。 「御用の在る方々は、すぐに来んすから」  登る煙が、月に消える。 「思う存分、お愉しみを」  瞬間、一面の星空が。月が。黒一色に。  雲ではない。其れは風。漆黒の暴風。  竜巻となって雪崩落ち、万物を吹き壊す。黒の中、妖しく猛る血色の眼孔。平伏し、崇める様に集う黒犬達。  嵐鳴纏い、響く咆哮。  その者、八つの災いその一つ。  『八彩災華・風の災』  『黒風の黒眚(しい)』、統べる『王』。  かつての屈辱晴らさんと、飢える魔群を引き連れて。  黒き災いが、月に舞う。
参加人数
4 / 6 名
公開 2022-01-19
完成 2022-02-11
覚えてる (EX)
土斑猫 GM
 其はシステム。  一つの種が突出して繁栄し、調和を瓦解させる事を防ぐ世界の自己管理機構。  存在理由はただ一つ。  『喰らう』事。  飢えでもなく。  乾きでもなく。  美味による悦楽も。  捕食恐怖による君臨すら動機には無く。  ただただ、喰らい続ける永久機関。  永劫の時の果て。知恵を得、理性を得ても。その本質は不変。  乱れぬ思考と冷淡なる理の元、万物万象を喰らい続ける様は正しく『魔』。  恐怖と羨望。畏怖の果てに統べしは『奈落』。  強大なる魔王に傅かず、ただ我道を歩む六種の王が異端にて一柱。  示す号は『滅尽覇道』  名は。  ――『饕餮(とうてつ)』――。  ◆ 「ちょっと、いいかな?」  その声に、人気のない路地を歩いていた二人は振り向いた。  立っていたのは、一人の男性。黄昏に染まった眼鏡のせいで、その表情はうかがい知れない。 「怪しい者じゃない。証明する事は出来ないけど、どうか信じて欲しい」  顔を見合わせる二人。少年の方が、促す様に男性を見る。意図を察した男性は、『ありがとう』と言って切り出す。 「学園の生徒さんが連れ去られた。『饕餮(とうてつ)』の贄として」  少女の方が、目を細める。ソレだけで、全てを理解したかの様に。 「力を、貸してあげて欲しい」  此方もソレを理解し、話を続ける。 「件の生徒さんは、既に『混沌』の封印領域に取り込まれている。こじ開ける為には、止め釘である『八彩災華(はっさいさいか)』を倒さなきゃいけない。けど、八彩は強力だ。特に、残りの5体は……。だから……」 「ソレを成せば、饕餮が起きる」  遮る様に、少女が言った。 「饕餮は危険なモノ。他の六種の様に、人理に律した価値観を持たない。解放して枷が外れれば、最悪全てが捕食対象になる」  少年も言う。 「確かに、脅威の規模であれば魔王が強大。けれど、食われるウサギにとって相手が獅子であろうと狐であろうと、結果に差異はない」  全てを理解していると言う風に頷き、男性は返す。 「それでも、魔王を倒す為には必要な力なんだ」 「それなら……」  少女の瞳が、妖しく光る。青い、蒼い、炎の煌めき。 「贄と選ばれた娘を、そのままに」 「…………」  沈黙する男性。二人は説く。 「かの娘が選ばれたは、偶然ではなく必然」 「かの娘が身を捧げれば、正しく饕餮はその業を潜めよう」 「純たる相互利益の為に、敵たる魔王に牙を向けよう」 「其方達と共に」 「顕界全ての命運と、只一人の娘の未来」 「比べる意は?」 「犠牲無き平和は、空なる理想」  そして、二人はまた男性を見つめる。  しばしの沈黙。やがて、男性は再び口を開く。 「僕も、以前はそう思っていたよ……」  眼鏡の奥の瞳が、宙を仰ぐ。遠い、いつかを。 「平穏に溺れて、下らない身内の権力争いに終始する同僚達に絶望して……」  苛立つ様に、ガシガシと頭を掻く。きっと、今でも割り切れない感情。 「こんな事では本当の危機の時に対応する事なんて出来ないと思って……それなら、本当の危機に晒されれば真剣になってくれると思って……」  言葉は、ソコで途切れる。苦渋と後悔に満ちたソノ顔を、黙って見つめる二人。 「でも、気づいたんだ。気付かされたんだ。本当の危機の前には、ちっぽけな人間なんか散り屑同然の力しかなくて、ソレを招けば沢山の命が犠牲になって、そんなモノの上に成り立つ平和なんて、やっぱり屑同然の僕の、醜悪な自己満足に過ぎなくて……」  自身の言葉の意味を噛み締める様に目を閉じる。そして。 「でも、僕はまだ信じたい」  再び開いた目には、確かな意志の炎。 「道はあると。どんな悲しい犠牲もださす、辿り着ける答えがあると。そして僕は……」  見つめる空の先には。 「ソレを、彼らに託すと決めた」  そして、もう一度二人に願う。 「だから、どうか。対価が必要と言うのなら、僕が……」 「対価は、もう貰ってる」  遮った言葉に、男性がハッと目を見開く。  能面の様だった少女の顔は、優しく綻んでいた。 「あの子達は私達を助けてくれた。永の苦しみと悲しみから救ってくれた。対価を払うは、私の方」  そう言うと、隣の少年に問いかける。 「よろしいでしょうか? 『阿利人(ありひと)』様」 「『清姫(きよひめ)』を救ってくれた御仁方の為だ。何故、異など唱えようか」  秒の間すら置かぬ答え。笑い合う、二人。 「ありがとう。教えてくれて」  男性に御礼を言って、踵を返す。 「ありがとう……」  呟く声に、手を振って。  夕日の中に歩いて行く二人。手を繋ぐその影が、ユラリと揺れる。陽炎の様に溶け合う二人。その揺らめきが、朱日の中で尚蒼く燃え上がり。  蒼珠の焔玉が空へと昇る。夜天を駆ける流星となって、遠い彼方へと飛んでいく。いつか交わした、愛しい絆に答える為に。 (あの娘、好きな人がいたよ) (なら、返してあげないと) (貴方みたいに) (君みたいに)  星散る中に、聞こえたのは優しい誓い。  見送る男性の耳に、何かが聞こえる。何かが羽ばたく音。そして、『ゲタタ、ゲタタ』と言う壊れたカスタネットの様な『鳴き声』。  ハッと、仰ぐ。  夜に沈んでいく空を横切っていく、幾つもの飛影。大きいモノ。小さいモノ。幾つも。幾つも。先に飛び去った、蒼火の流星を追いかける様に。 「そうか……」  全てを察して、呟く。 「助けてくれるんだな……。君達も……」  感謝する様に、しばし目を閉じる。そして。 「そう……僕も、まだ……」  開いた瞳に決意を燃やし、男性はまた歩み出す。  彼の名は、【リスク・ジム】。  いつかの時代、歩むべき道を誤り。  生んだ歪みを正そうと足掻く者。  歩む先、微かに漂う酢酸の香。  絆の証。  贖罪の導。  ◆  目の前に現れた異形に、【チセ・エトピリカ】は息を飲む。  それは、巨大な硝子玉。綺羅綺羅と輝き、不定形に形を変える人智の外。  『無彩の混沌』。八彩災華は最後の一柱。『無の災』を司る生無き生命。 「さあ、お連れしんしたよ。『渾沌(こんとん)』大君」  チセの背後に立った【白南風・荊都】が呼びかける。 (ああ、ご苦労様)  無機質な、音の様な声。硝子玉が揺らめき、広がる。蓮の花が、夜の泉に咲く様に。  広がるのは、妖しの世界。蒼い闇。幾重もの朱い鳥居と、幾棟もの行灯の光。延々と連なる奥で、何かが招く。 「さ、お行きなんし。怖くはないでありんすから」  嗤いを含んだ声も、今は遠い果て。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、振り返って。  ひょっとしたら、なんて。  ああ、切れないなぁ。  切れないよね。  自分の弱さを、少し嗤って。  そして。 (後は頼んだよ。女狐)  閉じた混沌。淡々と告げるソレに『心得ていんすよ』と。  チャラリと鳴らす、2色の勾玉。一つは『白』。一つは『紫』。  ポォンと放り、呼びかける。 「さ、起きなんし」  フゥとかける、甘い白煙。巻かれた勾玉、パンと弾け。  一つは雷。真っ白な雷。轟轟と嘶いて、空の果てへと荒びて賭ける。  一つは水。紫に濁った汚水。ベチャベチャバチャと蠢いて、シュルリシュルリと後を追う。 「くふふふふ、『雷の災』に『水の災』。封印の打ち釘、しっかりと払ってくんなましな。もつとも……」  眼鏡の奥が、ニヤリと歪む。 「嫌と言った所で、大層な人死にが出るだけでありんすが?」  ケラケラケラと笑う声。伸びる影に、夜風が震えた。
参加人数
7 / 8 名
公開 2022-02-14
完成 2022-03-07
その、証明 (EX)
土斑猫 GM
「これは……」  自身を中心に広がった『陣』に、【リスク・ジム】は息を飲んだ。  最初は、何かしらの魔法陣だと思った。けれど、その認識は型を成す光の中で即座に否定された。  それは、『陣』ではなく『図』。赤い。朱い。紅い。黄昏より昏く。焔より深く。血よりも艶めかしい、深紅の『陰陽図』。 「協力してくれて、感謝デース」  リスクの背後に立った、髭の紳士が言う。おどけた道化の様な、けれど捉え処のない存在感。【メフィスト】と名乗った彼は、別の世界の。其処でなお異端とされる『道化の魔女』と呼称される存在。数多の理と過程を経て、此方の世界に協力する事になった彼。出会ったリスクに焦がれた失せ物を見つけた様な笑みを向け、こう切り出した。  ――その『罪』を、少々使ってみては如何デスかー? 世界の……否さ、若き勇者達の剣の足しに――。  断る理由はなく。  そして、むしろ望む事で。  だから、リスクは此処にいる。 「『饕餮』さんと、封印の止め釘である『八彩災華』の事は御存じデスネー?」  頷く。自分は、その件の為に動いているのだから。 「何ともメンドーな方ですが、今のままおネンネしててもらうには状況が悪すぎマース。魔王さんの件についても。そして……」  ――可哀想なロミオとジュリエットの件にしても――。  『放っておくつもりはないデショー?』と問われ、また頷く。  そう。自分が見たいモノ。如何なる犠牲もない、確かな未来。可能性。  『結構な事デース』。満足そうに言って、道化の魔女は続ける。 「饕餮の封印を縛る止め釘。八彩のうち『赤土』・『蒼火』・『黒風』・『白雷』・『紫水』の五彩が挫かれ、残るは『鈍闇(にびやみ)』・『金光(ごんこう)』・『無彩(むさい)』の三彩。けれど、これ等は特に強力。正味、学園の生徒さん達だけでは重過ぎるデース」 「……犠牲が、出ると?」 「イエース」  軽い道化じみた声。けれど、秘められる真摯さが事の危うさを如実に伝える。 「なので、『助っ人』を呼びマース」 「助っ人……?」 「そうデース。チョー強力な助っ人デース」  一体何を、と問いかけようとした声を飲み込む。メフィストの気配が一変していた。 「『死』は常に『生』と共にありマス」  語る声は厳かにして深淵。空気が、シンと張り詰める。 「故に、『死』を導くには道となる『生』が必要なのデス。絶対的な『死』に抗える、不変たる『生』が」  ザワリ、と揺らぐ。空気が。世界が。怯える様に。 「ミスター・リスク。貴方は正に適任なのデス。己が罪に、己の生を縛り付けた貴方は」  陰陽図が輝く。静かに。何かの存在を、示す様に。 「さあ、頑張ってください」  道化が、告げる。憐れむ様に。    リィイイイ……。    音が、聞こえた。  地の底の。此処でない場所。囁く様な、蟲の声。  視界が覆われた。漆黒の羽と、青い燐。舞い上がる、数多幾多、無数の『蝶』。  襲い来たのは、恐怖。絶望。そして、虚無。違う事なく、かつて身に受けたあの感覚。  心臓に。魂に。爪を立てて這い上がって来るソレは正しく。  ――命を引きずり込む、『死』の気配――。 ――あん――?  苦悶の中で、声が聞こえた。  酷く、不思議そうな。少女の声。 ――何で死なねぇんだ? コイツ――。 ――この人、自分の死を『定めてる』。魂が縛られて、ソレ以外では至れない――。  もう一つ、別の少女。 ――へぇ――。  幼い声が、笑う。 ――そいつは、難儀だねぇ――。  気づけば、舞い飛ぶ蝶の群の中に少女が二人。無羽のエリアルらしき、ツインテール。ルネサンスらしき、ショートカット。  荒い息をつくリスクを興味深げに眺める彼女達に、メフィストが語りかける。 「応じてくれて、感謝しマース。ミス・ディアナ。ミス・レム。そして……」  視線を向けず、恐怖に硬直するリスクの目も逸らさせながら。 「『黒死の虚神・イザナミ』……」  リィイイイイ……。  黒い死を纏った異形の神が、空ろな音で虚ろに答えた。  ◆ 「……此の期に及んで、饕餮の目覚めを促すか……。愚かなり、現世の者共……」  雷鳴の様に猛く、けれど金剛の様に厳かな声が地を揺らす。  目の前に座する異形の巨人を見上げながら、【白南風・荊都】はクフフと笑う。 「まあ、そんなに怒りんせんでくんなましな。あちらにもどうにもなりんせん事情とおっしゃるモノがあるのでありんす」 「……『魔王』の事か……」  『でありんすねぇ』などと言って笑う荊都を胡散臭そうに睨み、巨人は言う。 「脅威に相対するに、別の脅威を持ち出すなど、其れこそが愚の骨頂であろう。其れを手にした者が、悪しき心を持たぬとは言い切れぬ。そも、其の力が人の意に添うモノかすらも伺い知れぬ。何故、其れが……」  二つの顔。四つの眼差しが宙を仰ぐ。かつての惨劇を、憂う様に。 「幾星霜経つとも分らぬのか……」 「ま、其れが『人』とおっしゃるモノでありんすからねぇ」  ――果てに煉獄で嘆く様がまたオツで――。  黄金の眼差しが、ギロリと睨む。内を読まれる伝手はないが、一応体裁は整える。 「まあ、お気に入りんせんなら、しっかり査定して差しあげるがよろしいかと。かの方々が、滅尽の御方様と並ぶに足るかどうか。どの道、打ち釘の一本であるぬしを挫けねば、どうにもなりんせんので。ねぇ……」  眼鏡の奥の目が、クニャリと歪む。まるで、その信念の先に在る悲劇に期待する様に。そして紡ぐ名は、八つの災いにて最強の其れ。 「光の災・『金光の宿儺(ごんこうのすくな)』様――」 「是非も無し」  言って、地響きと共に立ち上がる巨体。四本の手に光が集約し、輝く黄金の剣と化す。背に負った光輪が眩く輝き、閃いた煌めきの落とした影が闇となって蠢き出す。 「来るが良い、今世の守護たる勇者達よ。その理と力を持ちて、此の宿儺を諭して見せよ。挫いて魅せよ。其れすら成せぬのならば……」  輝き渡る金色の光。称える様に、闇が騒めく。 「そも、饕餮と並ぶに足る望み、此れ無しと知れ!」  咆哮。迸る光が、道を造る。かの者達を、此の戦場へ導く運命(さだめ)の導。  鳴動する光と闇。その狭間で、幻想の様に何かが揺らぐ。  『混沌』と言う名の、幻想の扉。其れを見て。 「負ければ恐ろしい魔に喰われ、勝てば怖い魔が起きる。どっちに転んでも、まあオツな御話……。と、おっしゃるか……」  向こうにいる、少女を思い。 「勝てなきゃ、可愛いお姫様は助けられんせんけどねぇ?」  邪の妖女はまたクフフと哂う。  そんな彼女を女性の形成す闇の災、『鈍闇の飛縁魔(にびやみのひのえんま)』が胡散臭そうに斜め見た。  ◆ 「ねえ、レム……」 「何だよ?」  かったるそうな相方に、死憑きの巫女は語り掛ける。 「わたしは、わたしの世界が好きよ」 「知ってる」 「皆が命を賭して守った世界が、大好き」 「ああ」 「この世界の人達は、皆と同じくらい『綺麗』かしら?」 「知らねぇよ」 「わたし達の世界に、来るそうよ」 「だってな」 「汚されるのは、嫌だわ」 「…………」 「だからね、わたしはピエロのおじ様の召喚に応じたの」 「…………」 「見極めるわ。この世界の人達が、大丈夫なくらい『綺麗』かを。そう、例え戦うしかない相手でも……とか?」 「……気に入らなかった、どうすんの?」 「気に入らなかったら?」  クスリと、笑う。 「決まってるじゃない?」 「決まってる?」 「そう、決まってるの」 「……あー、そうだなー」  クスクスクスと、笑い合う。  二人を抱く様に舞う、黒く蒼い蝶の群れ。  リィイイイイイ……。  死が、唄う。
参加人数
8 / 8 名
公開 2022-03-08
完成 2022-03-28
目指す、世界 (EX)
土斑猫 GM
 ソレは、此処に来る前。  『彼』によって教えられた事。 「……『悪魔』、ですか……?」 「そうデース」  訊き返した【リスク・ジム】に、【道化の魔女・メフィスト】は自慢の髭を弄りながら説く。 「便宜上、最も適する上にほぼ全ての世界線に共通する概念である『その単語』を使用していマース。ちなみに固有名詞は【人形遣い】デース」 「人形遣い……?」 「そうですネー。創造神が創った者達を人形に見立てて、『君達、折角創られたのに放って置かれてますね? 捨てられました?? ゴミですね??? なら、私が面白可笑しく遣ってあげましょう。感謝しなさい。ゴミを、有効利用してあげるんですから』なんてノリで『人形遣い』なんて自称してるんデスヨあんちくしょうハ」  正味、聞くだけで嫌悪感が酷い。 「聞くからに碌でもないヤツですが、そんなにも危険なのですか?」 「生易しい表現デスネー」  浮かぶ嫌悪を隠しもしない。この何でもおふざけで煙に巻いてしまう道化が。それだけ危険な……否、『どうしようもない』存在と言う事。  曰く、ソレは創造神の成り損ない。  輪廻転生を複数の世界で続け、魂の格を創造神の領域まで高めた存在。されど、ソコから世界創造の高みに至る研鑽を『かったるい』と放った挙句『無から有を創る神』ではなく、『既に存るモノを貪る』事で高みに登るを選択した下卑たる『悪魔』。  単純な力の強さで言えば、『真の創造神』に及ぶ筈はなく。  されど、その概念故に存在力は世界より強大。  本体は神の目を隠れ、過去の自分を分割し数多の世界へ散りばめる。  全ての存在は見下すべきモノ。自分は諦めたから、諦めない存在は妬ましい。だから。  世界を壊したい。  喰い散らしたい。  世界は放って置いても何処かで生まれて滅ぶけど、ソレを拾うだけじゃつまらない。  自分の手で壊すから。  自分の手で縊るから。  楽しいのだ。  破滅を。  滅びを。  絶望を。  あらゆる世界の。あらゆる命。  その怨嗟と断末魔。悲しみの慟哭を。  ただただ、純粋な悪意の澱。    ソレが、『人形遣い』と言う悪魔の真理。 「私達の世界も、アレのお陰で随分と不要な血が流れマシター」  いつかの悪夢を想起して、道化の魔女は深々と息をつく。 「昔に八災を盗み出して撒き散らしたのも、同じ奴でショー。現在【白南風・荊都】として暗躍している個体と。何を企んでかは知りまセンガ」  そうやって、ジワジワと世界を蝕んでいた。  魔王と言う強大な脅威の影で、ヒッソリと。  いつか、世界の寝首を掻っ切る為に。 「……我々の手で、倒せるモノでしょうか?」  リスクの問いに、メフィストは『可能デス』と返す。 「各世界線で暗躍する連中は、あくまで『分身』デス。本体に比べれば弱いデス。実際、私達の世界でも何体か討伐していマス。厄介なのは傷つけても終わりなく再生し、斃しても次が湧いて来る普遍性。そして……」  ――成長する事――。 「ヤツは侵入した世界の物を取り込めば取り込むほど強くなりマス。学習し、レベルを上げる術を知る存在デス。本来、異物であるヤツが力を使えばこの世界が持つ防衛機能で弾き出される筈デスが、ソレをこの世界起源の術を吸収し行使する事ですり抜けているのデス」  『怠惰なクセして、そう言うトコはマメなんデスヨ』とつくづく嫌なヤツだとまた息を吐く。 「些か、時間を与え過ぎマシタ。今のヤツは、相応に危険なレベルに達していると考えるべきデショー」  最後に摘んでいた髭をピンと弾いて、彼は言った。 「恐らく、かの個体はこれまで私達が確認した中でも最強に近い力を得ていマース。どうか、そのつもりで……」 「人形遣い……破滅の、悪魔……」  饕餮の封印領域。通じる門の奥にいる筈の、その存在。  メフィストから伝えられた情報を反芻し、リスクは小さな悪寒に身を震わせた。  ◆ 「……よもや気づかれていたとはな……。些か侮り過ぎていたか……?」  封印領域。  数多の神門と幾多の灯火に縛られた空間に、憎々しげな声が響く。  声の主は、女性。面影はかつて【白南風・荊都】と呼ばれた妖術師のモノ。けれど、怠惰に着崩した着物から覗く肌は病的なまでに生白く、血色に光る呪言の文字が鱗の様に走る。解けた髪は足元まで伸び、時折り青白く輝いて翼の様に広がる。妖しくも美しいソノ様は、正しく人の形をした人ならざるモノ。 ――ソレが本性かい? 人皮を被った擬物より、余程良いじゃないか――。  揶揄する声に、紅く染まった目を向ける。 「気に入ったなら夜の相手でもしてやろうか? 逃してくれるなら、反吐も我慢してやるぞ?」 ――遠慮しておくよ。後が怖い上に、大事な所が爛れて腐れ落ちそうだ。それに――。 ――お前の相手は、『アイツら』だからね――。  その言葉に、荊都だったモノ――人形遣いはククと笑う。 「何故、この期に及んで人なぞに私の始末を任せる? お前達か饕餮が手を下せば良かろうに」 ――饕餮の意思さ――。 「ああ?」  眉毛を潜める人形遣い。 ――饕餮が試したがってるんだ。あの勇者とか宣う連中の『可能性』とやらを――。  どう言う事だ?  怪訝に思う人形遣い。  饕餮はシステム。その思考体系は何処までも機械に近い。あらゆる無駄を省き、最適解のみを選び出す。ソレが、『可能性』などと言う極めて不確定要素の高い概念に興味を示すなど。 ――さあね――。  読み取り、三凶は言う。 ――饕餮がそう判断したなら、僕は――。 ――朕は――。 ――妾は――。 ――それに沿うだけさ――。  ああそうだった、と思い出す。  コイツら『三凶』は饕餮の魔力の分体。端末に過ぎない。個々の思考こそ持つが、饕餮に反する・疑問を抱くと言う機能はない。  まあ、ソレならそれで。 「奴等が此処に来るのなら、私にとっても僥倖だ。奴等を丸め込んで、饕餮を殺してやろう」 ――……――。 「出来ないと思うか? 正直、奴等の地力には私も感嘆している。『可能性』はあるぞ? 饕餮がご執心のな?」 ――……――。 「奴等にとって私は厄介者だが、饕餮とて危険物である事に変わりはない。私が奴等の世代の間は休眠する事を約束すれば、矛先が向くは饕餮だ。当然だな。未来の憂いよりも、目の前にある不安を忌避する。馬鹿な奴等のお約束だ。今も昔も変わらず、な」 ――そしてお前は、『饕餮の力』も盗むのか――?  お喋りが、止まる。 ――其がお前が我らの筋に関与した目的だろう? 封印と解放の順を経て、お前は既に八災の力をコピーしている。加えて饕餮。そして、あわよくば魔王……――。 ――いずれ狙うは、お前自身が此の世を燃やす滅尽(メギド)の火と成る事――。 「お見通しか」  もはや隠す事もせず、哂う。 「では、どうする? やはりお前ら直々に私を殺すか?」 ――否――。 「何?」 ――『アイツら』が其を選ぶなら――。 ――『我』は、受けよう――。 ――饕餮は、そう判断した――。 「……どう言う、事だ……?」 ――知らない――。 ――僕は――。 ――朕は――。 ――妾は――。 ――饕餮に、従う――。  困惑する人形遣い。返る声は、もうなかった。  ◆  澄んだ麗水称える贄の間。  唄い終わった【チセ・エトピリカ】は、ずっと見ていた。  何もない空。  その何処かで、沈黙するその存在。  届いただろうか。  届いた筈。  自分が、そう在れた様に。  ただ、願う。  その旨に、瑠璃の想いを抱き締めながら。  静かに。  確かに。  アップデートは、進んでいく。
参加人数
8 / 8 名
公開 2022-04-01
完成 2022-04-24
母が鳴く夜 (EX)
土斑猫 GM
 気づくと、『チセ・エトピリカ』は地獄の中にいた。  赤黒く濁った色の空間。眼下に広がるのは、血の彩に染まった泉。鉄錆の香は馴染みの深いそれよりも、より生々しく滑りつく。  覚えがあった。  故郷で暮らしていた頃。  森の奥で、妊婦が山猫に喰い殺された。  畜牙による死は穢れ。下層の民だったチセに、弔いは任された。  引きずり出された胎児。満ちていた匂い。  忘れられる、筈もない。  果たせず、流れた羊水。  逸らした視線の先。  泉の中央。小島の様な何か。細いモノが絡み合う頂上に、うずくまる影一つ。  人丈程もある、鳥。  ならば、此れは巣だろうか。  違和感に、目を凝らす。  響いた声。  泣き叫ぶ、女性。  鼓膜を裂き、底までつん裂く。鳥の鳴き声と気づくと同時に、羽撃く音。  翼を広げる鳥。飛び立つのだと思った。  更なる音が、鳥の慟哭を塗り潰す。  嬰児の泣き声。  何百何千もの、母を求める声。  鳥がもがく。  飛び立とうとするのに、飛び立てない。  手。  巣の中から伸びた無数の手が、鳥の脚を掴む。  巣を形造るのは、枝などではなく。  骨。  山と積もるは、黒く爛れた嬰児の骨。  カタカタカタと肉も舌も無い口で泣き叫び、鳥の脚を掴んで離さない。  まるで、去る母に行くなとすがる幼児の様に。 「此れは……何……?」  吐き気に抗いながら、呟く。 『『呪い』さ』  聞こえた声。振り向いた先、陽炎の如く揺れる影。覚えがあった。 「『渾沌(こんとん)』様……?」 『やあ、我が巫女の一欠片』  正しく、其は覇王六種が一柱。『滅尽覇道・饕餮』の臣下にして端末。  『三凶・渾沌』。 「此れは……あなたが……?」 『半分当たりで、半分外れだ』  嘲笑う様に、声が揺れる。  三凶の中で最も感情の発露が顕著。故に、最も油断がならぬ相手。  そのつもりであれば、感情の帳その闇に。真実を隠すも容易い筈。 『此処は。此の世界は、ある『呪い』の根源。そしてかの鳥、『姑獲鳥(こかくちょう)』はその呪いの主さ』 「呪い……ですか?」 『ああ、かくも哀しく悍ましい。生物の業が生せし真の『毒』だよ』  曰く、此れは『母』の妄執によって生まれた呪い。  子を成したい。産みたい。育てたい。愛したい。  其を望み、されど叶わなかった母の無念。  余りに強き念は残留し、呪いと化して顕界に干渉を始める。  人の手を媒体とし、女性の身へと根を下ろす。  媒体となった者の望みに従い、望んだ属種、絶対受胎の理を女性の身に刻む。  其れは対価。  己の妄執を達する為の手駒。彼に対する、せめてもの。  女性が懐妊し、出産した時。呪いの真の歯車は回り始める。  まず一つ。  生まれた子は、決して母たる女性との絆は保てない。  遅かろうと早かろうと。  離別であろうと死別であろうと。  母子は別れる。  例え、如何に互いを愛していても。  根源は、嫉妬。  己は叶わなかった。なれば、誰にも叶わせない。   全ての母に、己と等しき悲しみを。  苦しみを。  愚かしきも浅ましく。そして空しき嫉妬。  もう一つ。  生まれた子は、死して天に昇れない。  変性し、リバイバルとして顕界に留まる事も出来ない。  不遇の死であっても。天寿を全うしたとしても。  呪いの爪痕を刻まれた子らの魂は、死した瞬間輪廻の理から引き剥がされる。  呪いの根源の元へと引き込まれ、かの者の愛児として囲われる。  悲しみと憎悪をほんの束の間に癒す、永久の愛玩として。  そしてかの者もまた、その対価を払う。  かの者の下に積み上げられた愛児達は、母を求める。求めて泣いて。かの者へと縋り付く。  かの者は飛び立てない。  己が集めた幾多数多の子の妄執に絡められ、終わりも始まりにも至れない。  だから、かの者はまた呪いを散らす。  永久に潰えぬ悲しみと憎悪。  其を束の間癒す為。  延々、延々と子を集める。  子は増える。  すがる手もまた。  飛び立つ術なく。  また集める。  狂々、狂々。  因果を回す。 「……何故ですか?」  震える口で、チセは問う。 「子を生せず亡くなる方も、子と望まぬ別れに至る方も大勢います。わたしも、村で幾つも見ました。悲しい事ですが、どうしても失くせぬ世の理と存じています。ソレが、この様な呪いに至ると言うのであれば、此の世はもっと怨嗟に塗れる筈。そうならぬと言う事は、相応の救いがある筈です。なのに、何故この方は……」 『簡単さ』  嗤う気配。嘲りとも、自嘲とも。 『あの鳥の、母としての在り様を絶った……喰らったのは、饕餮だからさ』 「!」  息を飲むチセを、また哂う。 『何を驚く? 饕餮が君達に誑かされたのは、ついこの間の話だろう? その前の饕餮は知っての通り、単純な剪定システムだ』  また曰く。  かの鳥の前身たる母たる者の種族。過ぎた繁栄と搾取の果てに、饕餮に『対象』と認識された。  産みの痛みも。抱く温もりも。与える愛も。貰う愛も。そして、見送る明日も。  ――その全てを、たった一刻。一口の元に――。 『かつての饕餮はただ『過ぎた』存在を刈り取るだけのモノ。その過程・結果における『副産物』なぞ、まあ』 ――知ったこっちゃないからね――。  含み嗤う声。かつて在った、深淵の理。  そして、ソレは今もきっと。 「何を……」  震える声を、引きずり出す。 「何を、わたしに……?」 『聡明で、結構だね』  見初めた者の察しの良さに、少しだけ。 『先に断言しよう。此の呪いは、『些事』だ』  些事。この地獄を、些事と言うのか。 『完成し、『免疫』となった饕餮はこの呪いを世界に対する『毒』と認識した。程なく、捕食に動く』  ああ、また喰らうのか。喰う事によって生じた地獄。其れを、また。 『けど、その前に君達に『此れ』を任せる』 「え……?」 『饕餮が、知りたがってるのさ。此の地獄を、己を変じさせた君達が如何様に捌くのかを』  絶句するチセに、滅尽の端末は語る。 『選択は自由だよ。饕餮が動く事が確定した時点で、詰みは決定している。介入するかは、君達次第』  感じるのは、その言葉の奥に。 「……お伺いしてもよろしいでしょうか?」 『何だい?』 「わたし達が、拒んだら……?」 『饕餮が、喰らうだけ』  全てを見越した、悦の気配。 『かつての母たるかの鳥も、累々広がる子らの御霊も』  ――回帰叶わぬ、滅尽の奈落に根こそぎ――。  饕餮による剪定。其は、此の世に害悪無用なモノと言う断定。  饕餮の性質が毒を排する免疫抗体となった今、成される決定は更に絶対。 『饕餮は、世界と己の理に準じるのみ』  笑いながら、渾沌は問う。 『さて、君達ならどうする?』  沈黙するチセに、追い打つ様に。 『あまり、悩む時間は無いよ?』  彼は告げる。 『碌でもない、『クソ蟲』が狙ってるから』  その呼称に、今度こそチセは息を飲んだ。  ◆ 「……ウッソでショー……」  妙な胸騒ぎを感じ、その場所を調べていた道化の魔女『メフィスト』。  果てに見つけた存在に、流石に心底呆れた声を漏らす。  ソレは、静かに地を這う黒い霧。  触れた草花を枯らし、逃げる鳥を落として進む。まるで、何かを求める様に。  優れた術者であるメフィストの感覚は、先に在るモノを見通す。 「……『呪い』、デスネ……」  看破するのは、真理の向こうに到達した者の英知。 「あの呪いを取り込んで変性し、饕餮の『特効』を抜けるつもりデスカ……」  悍ましき執念に哀れみまで感じながら、息を吐く。 「そんなにも、『妬ましい』のデスカ……? この世界の、歩み続ける命が……」  かのモノは、すでに生けるモノにあらず。ただ、怨念破滅の衝動のみにて蠢く現象。 「『人形遣い』……」  其は悪意。  かつて負念の赴くままに世界を喰らおうとした悪魔。その、残滓。
参加人数
6 / 8 名
公開 2022-05-28
完成 2022-06-24

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