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学園生の日常 その4


ストーリー Story

 今日も今日とて、学園では学生たちの日常が続いている。

「うおぉぉ、年末が近いせいで忙しい」
 学食で、かっ込むように昼食をとる友人に学園生は声を掛ける。
「どしたん?」
「聞いてくれるか」
「いーよ。どーせ、それが目的で相席したんだろ?」
「まーな。てか聞いてくれよー。学園長が変わるじゃんか」
「そだな」
「それの玉突き事故で事務仕事が増えて借り出されてるんだよぉぉ」
「あー……お前、教職目指してるから良いんじゃね?」
「そりゃまぁ、コネとか出来るからそこは良いよ。でもさー、事務仕事はしつつ単位も落とすなってのは厳しくない?」
「普段から授業出てたら余裕だろ」
「……出席日数ギリギリなんだ」
「アホなん?」
「しょうがないじゃんかー色々あったんだからさー。で、物は相談なんだけど――」
「手伝えってんならバイト代は出せ」
「えー金取るのかよー……って、金出したら手伝ってくれんの?」
「今月金欠なんだよ。で、どうする?」
「おねがいしやす!」

 などという話が、学園では見られます。
 他にも学園生ごとに、それぞれの目的に沿った日常を過ごしています。
 中には、邪悪な何かと戦う者もいるでしょう。
 あるいは、力なき人々に手を差し伸べるため奮闘する者もいる筈です。
 ひょっとすると、過去の因縁にまつわる何かの決着をつけるため動いている人もいるでしょう。
 そうした重苦しいことだけでなく、明るい日常を送る者もいるのです。
 日常と一口に言っても、人によって千差万別。
 その日常を守るために、学園は力を貸してくれるでしょう。
 
 そんな中で、アナタ達は、どう未来を進みますか?
 自由に、好きなように、アナタ達の物語を進めてみてください。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2022-11-14

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2022-11-24

登場人物 3/8 Characters
《新入生》神鵺舟・乕徹
 ドラゴニア Lv10 / 芸能・芸術 Rank 1
 文字通りの意味で流れ着いてやってきた、異国の侠客。  用心棒や刺客、はたまた小間使いや芸子としてあらゆる手段で食い扶持を稼いできた苦労人。切った張ったの世界に居座り続けていた為か、思考が少々短絡的。  それだけに本来はそれなりの実力を持っていたが、エイーア大陸の魔物や勇者の戦技は祖国とは勝手が違うため、経験や知識から学び直し、自らの流れに取り入れている最中である。  元の世界では、『戮妓』と呼ばれる剣闘士のようなものをしていた。屈強な戦士や魔物を舞の如き動きで殺め、強さと美しさを見世物にする、絶望の時代ならではの卑賎な稼業である。だが、滅びを求めている魔族や権力者には強く支持されており、人気のある戮妓にはパトロンが付くこともあったという。  人気はあったものの、それ以上に悍ましき本性が勝っていたからか、彼女には誰も寄り付かなかったため、生活には結構苦労していたらしい。  また、過去の果し合いにより、左目の下に裂傷を負い、更に角をねじり折られた後遺症で枯れ木の枝のような醜い角が生えるようになってしまった。が、本人は名誉の負傷としている。  尚、今の名前はかつて愛用していた脇差から借りた偽名である。  話に聞いたエイーア大陸は、魔王の居城があるとされる場所の筈だった。人などが到底住める土地ではなかったとずっと信じていた。  ようやく大陸や学園での生活に慣れてきたものの、今度は平和ボケで腕が鈍りそうになることを恐れている。  また、同性でも自分より背の高い人が多く(というより元の世界の国ではこのくらいが平均だった)、少しだけ気後れしている。  油断すると稀に訛りが強く出てしまうらしい。非常に荒っぽくまるで喧嘩腰のように聞こえるため、極力出さないようにしている。(広島弁や播州弁に似ています。難しいと思いますので、用意された台詞以外はあまりリプレイに反映しないで大丈夫です) 『何だか、妙なとこに来たみたいじゃねえ』 『消えた後に地獄でも待っとるとしたら、そんなのでも救いになり得るのかのぅ?』 『そりゃ誰もが全て見えてりゃ苦労せんわい。目を逸らせるなら、都合のいいものしか見たくないじゃろ』 『えぐい化生共がぎょうさんと。あー邪魔くさいのぅ。わっち、せっせと帰にたい』 出身地:極東の島国 身長:五尺 体重:十貫(よりは少し重いらしい) 実年齢:数え年で二十二 好きなもの:粋な音楽、刃物 嫌いなもの:説教や小言 特技:剣舞、推察 読み:カヤフネ・コテツ
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て

解説 Explan

●概要

全校集会後の、ゆうがく世界での、アフターストーリーです。

何をしても自由です。

魔王後の世界を、のんびりと満喫するも良し。
自身のまつわる因縁に関わるも良し。
この世界だけでなく、他の世界と関わっても良し。

好きに動いてみて下さい。

●舞台

学園でも、他の地域でも、または異世界でも可能です。

公式に出てきた異世界だけでなく、PCの自由設定に出て来る異世界と関連づけてもオッケーです。

また、ゆうがく世界でも、PCの故郷とか、自由に出せます。

これまでの結果を破綻させない範囲であれば、自由に出せます。

●NPC

PCに関連するNPCでも、自由に出せます。

自由にどうぞ。

●内容

自由です。

PCの設定に関する話を進めてみるのも良いですし、これまでのエピソードから話を進めても構いません。

以上です。


作者コメント Comment
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回は、今まで他のエピソードで進めたお話の続きでも良いですし、全く関係ない個別の話でも大丈夫です。

基本的には、連作のノベルにご参加いただくような内容になっています。

自由度が高いですので、それぞれ個別にPCの物語を進めていただいても構いません。

PC達の物語に区切りをつけるような進め方でも良いですし、他にも、何か思いついたことがあればプランにお書きください。

それに沿って進行し、描写されます。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。


個人成績表 Report
神鵺舟・乕徹 個人成績:

獲得経験:135 = 112全体 + 23個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
姉に会いたいが、どの面下げたものか。わっちのことなどとっくに忘れておろう。覚えとったらビビる。
一先ず屋敷に顔でも出すか?追い払われたら、まあ適当に歩いとる奴から話でも聞くか。
然し聞きたいことの方が多すぎる。単身で魔王を平らげただの、神殺の力だの。
そのようなふざけた存在は認めとうない。あの魔王は、多くの犠牲と準備の末にやっと討てたのじゃからな。
しかし、結局認めたくないような話を聞かされそうじゃの。もはや荒唐無稽なまでに無茶な話をな。
だとしたら、やはり受け入れられんな。あれは一時の平和に満足する器ではない。新たな魔王になり得る女じゃ。
どの道、もう暫く様子を見る。人に仇を為すなら、刺し違えてでも…。

アンリ・ミラーヴ 個人成績:

獲得経験:135 = 112全体 + 23個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
奉仕科担当教諭【ユリア・ノイヴィント】先生と久しぶりにお話しをする。
暖かい日を選んで、ココと一緒に放課後、ユリア先生を校内で探す。
「先生。お久しぶりです。お元気でしたか?今、少しお話できますか?」
雑談をしたくて、と伝える。
まず先日の戦いで先生が無事だった事を改めて喜ぶ。
自分は一度死んだけれど、仲間のおかげで復活出来て、また先生の授業を受けられます、と目を細め笑って話す。
戦後の先生はお忙しかったですか?など先生の近況と尋ねながら、自分はココが精霊王の候補だと知って驚いた話などする。
ココがとても可愛らしくて、とにかく大事にしたい。
何かあれば先生にも時々は相談をしたいのですが、良いですか?と尋ねる。

シキア・エラルド 個人成績:

獲得経験:135 = 112全体 + 23個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
紆余曲折あって父親との再会を決心
コトノハ様、イケメン見たいって言ってたよね?
俺の父さんが来るんだけど、見てみる?
…実をいうと、その、凄く緊張してて
多分俺すっごい情けない姿見せると思うけど、誰かに一緒にいてほしい

やってきた父親に開幕早々胸倉掴んで
「遅い」
「遅いんだよ、もう魔王討伐したよ?」
「そっちは何処行ってたのか知らないけど、旅は楽しかったかなこの野郎」
理不尽な文句のオンパレード、ひとしきり気がすんだら離す

まぁいいや、聞きたいことは沢山あるし
…話したいこともたくさんある。
コトノハ様、これが俺の父親。顔はあんま似てないと思うよ、俺は母さん似だし。
父さんも『これは使えるんだっけ?』(シスイノシ)
どこで知った、と聞かれればいつの間にかと

何も知らなかったよ、どうして教えてくれなかったの
「…そんな呪いは、私で終わらせるつもりだったんだよ」
……そう、ごめん。
俺はもう、たくさん使ってるよ

リザルト Result

 皆は、それぞれの日常を過ごしていた。

●姉との再会

 異世界転移門があるセントレア。
 そこに訪れた【神鵺舟・乕徹】は、研究所所長である【ハイド・ミラージュ】からアイテムを渡された。
「緊急避難用として、前の指輪以外に、この簪にも世界転移用の術式を組み込みました」
「ふむ」
 簡素な飾りのついた簪は、ありふれていて目立たない。
「これなら気付かれまい」
 そう言うと乕徹は、他につけている簪と同じく無造作に髪に刺す。
「必要なければ、それが一番じゃが、なにやら向こうの世界はキナ臭いからの」
 乕徹が用心深くなっているのは、故郷の世界に戻った時に知ったことが原因だ。
(姉上が、独りで魔王を下した……とは言っておったが……)
 とてもではないが信じられる話ではない。
(確かに姉上は強かった……じゃが、魔王を倒せるほどとは……)
 こちらの世界の魔王の力を知った今では、信じられるものではない。
 いや、認められない。
(単身で魔王を平らげただの、神殺の力だの……そのようなふざけた存在は認めとうない)
 魔王を倒すため、どれほどの年月と犠牲が積み上げられたか、学園で過ごした乕徹は知っている。

 恐怖を食らい力をつける魔王の特性を封じるため、アークライトは寿命を捧げ続け、光の精霊王は心を殺し続けた。
 特性を封じた魔王を殺すため、精霊王に祝福された九人の勇者達が命を懸けて戦い、叶わず魂を核として封じるに留まった。
 それから千年以上の年月が過ぎ、魔王との最終決戦。
 幾つもの街が魔王の軍勢に壊滅させられる中、復活したばかりの魔王を、霊玉と精霊王による結界でさらに弱体化。
 その上で、学園生達の力を大きく引き上げ、まさしく決死の戦いを繰り広げたのだ。

(あの魔王は、多くの犠牲と準備の末にやっと討てたのじゃからな)
 冗談ではない。
 そうした想いが表情に滲んでいたのか、ハイドが声を掛けてきた。
「なにか、気になることでもありますか?」
「……いや、すまぬ。戻った所で、笑い話にもならぬ戯けた話を聞かされそうだと思ってな」
「……魔王を、独りで倒した……というんですよね、貴女のお姉さん……」
 ハイドも苦い表情をする。
「正直、信じられませんが、それが本当だとしたら……とんでもないですね。神殺の力……恐ろしいとさえ感じます」
「そーですねー」
「うわっ」
 にょいっと現れた【メフィスト】に驚くハイド。
「相変わらず、いきなり現れますね」
「なんかヤバそーな話してましたから来ましたー」
「……何の用じゃ?」
 胡散臭そうな視線を向ける乕徹に、メフィストは言った。
「単独で魔王をどうにかしたと聞いたのでー、気になってるのでーす」
「どうやって倒したか知りたいのか?」
「それもありますがー、倒したとしてー、殺したんですかねー?」
「……どういうことじゃ?」
「一時的に封印したとかならー、まぁ可能性はあるかもとは思うのですがー、そちらの世界の『魔王』はー、殺したぐらいで死ぬ程度の存在なんですかー?」
「……どういう意味じゃ?」
 不穏なことを言うメフィストに乕徹が聞き返すと――
「殺したぐらいで死ぬ程度の存在なら良いんですがー、そうじゃない場合はどうなってるのかが気になってまーす」
 メフィストは説明した。
「魔王や神と呼ばれる存在にも格の違いがありますがー、少なくともこの世界の魔王はー、この世界があり続ける限りは本当の意味で死にませーん」
「……倒したはずじゃが?」
「無害にしただけでーす。憑代になってる赤ん坊と共にー、今度は正しく学んで成長しまーす。もし本当に死なせたかったらー、この世界そのものを滅ぼさないと無理でーす」
「……つまり、どういうことじゃ?」
「殺したら死ぬ程度の魔王ならいいんですがー、そうじゃない場合はー、何か絡繰りがあると思いまーす。気をつけて下さいねー」
「……随分と、他所の世界のことを気に掛けるんじゃな」
「他人事じゃないですからねー。貴女がこの世界に辿り着いたということはー、そちらの世界と繋がる可能性もあるってことですしー。警戒はしときたいでーす」
「……なるほどの。その危惧は、正しかろうな……」
 メフィストの話を聞いて、今まで以上に警戒しながら、乕徹は故郷の世界に戻ることにした。そして――

(やはり、違和感があるの)
 平和そのものを享受する故郷に、言いようのない不安を乕徹は覚えていた。
 活気のある街中を歩いていく。
 人々の顔には恐怖は微塵もなく、今日と変わらぬ明日がこれからも続くのだという安穏とした表情を浮かべている。
(平和ボケ、というヤツじゃろうか?)
 乕徹にとって、今の状況は気持ちの置き所が無い不安定さがあった。
(姉上が魔王を平らげてから、まだそれほど月日は経っておらん筈じゃが……それでここまで腑抜けるか?)
 あまりにも『平和』過ぎる。
(あちらの世界じゃと、魔王の脅威が無くなったとはいえ、ここまで腑抜けてはおらぬ)
 新しい時代に希望や期待を抱く者は多かったが、それでも戦乱の傷跡を引き摺る者は少なくない。
 なにより、これからの新時代で力をつけようというギラギラとした野心を持つ者も大勢いた。だというのに――
(……姉上を讃える者しかおらぬな……)
 街のいたる所で、姉を讃えるための興行が成され、それを皆が楽しんで受け入れている。
(姉上の治世を、誰も疑っておらぬのか?)
 誰も彼もが当然の『理』だというように、姉を讃え受け入れていた。
(……言論統制でもされておるのか?)
 気になった乕徹は、裏街を目指す。
(あそこであれば、本音も聞こえてこよう)
 かつて慣れ親しんだ場所に向かい――
「……どういうことじゃ」
 薄ら寒い感情を覚え、思わず呟いた。
 そこには、何も無かった。
 雑多な汚濁が入り混じり混沌とした、だがそうであるからこそ活力に溢れた場所は、痕跡がないほどに綺麗さっぱり無くなっていた。
 代わりにあるのは、小奇麗で整然とした街。
 まるでそれは、人の汚濁を上っ面の理性が塗り潰しているかのように思えた。
 気になった乕徹が聞いて回ると、姉の治世になってから消えてしまったようだ。
「姫大将の世に、要らないでしょう、あんな場所」
 平然と応える街の住人は、どこまでも姉のことを讃えていた。
(どうやら姉上の思うが儘になっておるようじゃな……だとしたら、やはり受け入れられんな)
 それは彼女の気性を知っているからだ。
(あれは一時の平和に満足する器ではない。新たな魔王になり得る女じゃ。どの道、もう暫く様子を見るつもりじゃったが……人に仇を為すなら、刺し違えてでも……)
 ざらつく決意と共に、それをより確かな物にするため、姉に会いに行くことにした。

「姉上にお会いしたい。乕徹が来たと伝えてくれ」
 まずは探りを入れるため、あえて真正面から会いに行く。
(馬鹿正直に会えるとは思ってはおらぬが、反応から読み取れることはあろう)
 少なくとも周囲が止めに入る筈だ。そう思っていたが――
「こちらに。御会いになられるそうです」
 高官と思しき男が、乕徹を姉――【神鵺舟・燐禰】の元へと案内する。
 あとをついて行きながら、尋ねる。
「なぜ会わせる? わっちは妹とはいえ腹違いの、それも反乱を起こした時には国から逃げた女じゃ」
 すると男は、亀裂のように薄い笑みを浮かべ応えた。
「どうやら思い違いをされておいでだ」
「……何をじゃ?」
「貴女が何処の誰であろうと変わりませぬ。全ては、あの御方の望むがままに。会えば、解りましょう」
 その言葉は、ある意味真実だった。
「もう、心配してたのよ」
(……なんじゃ、これは……)
 見た瞬間、怖気が走った。
 姿形が変わったわけではない。
 宗家育ちの奥ゆかしさと、常に物静かな抑揚の無さも変わっていない。
 ただ圧倒的な『力』を持っている事だけは、否応なしに理解させられる。
(馬鹿な……)
 血の気が引く中、燐禰は玉座に座したまま言った。
「一度はこの世に帰ってきたのに、また消えるなんて」
「――! 気付いていたのか……」
「何を驚いてるの? そのぐらい、当たり前でしょう?」
 息をしたら吐く、その程度のことを訊かれたかのように、不思議そうに返す。
(すべてお見通しということか……)
 それは何かしらの『力』か、あるいは張り巡らせた情報網ゆえか?
 どちらにしろ、全て知られているなら面倒な回り道をする必要はない。
「神殺の力で魔王を倒したと聞いた。本当か?」
「ええ、本当よ」
 童女のような無邪気さで、燐禰は応えた。
「だって、精霊王も宝玉も役に立たないのだもの。だったら、やることは一つしかないでしょ?」
「……何をした?」
「神様を殺したの。役に立たない神様なんて無駄だから。そう難しい事じゃなかった」
(……殺した? 神を?)
 燐禰の言葉で浮かんだのは、恐れよりも疑問。
 それはメフィストが言った言葉。

 そちらの世界の『魔王』はー、殺したぐらいで死ぬ程度の存在なんですかー?

(……神を殺し、魔王を滅ぼす……)
 嫌な予感が湧き上がる中、燐禰は料理のレシピを教えるような気軽さで言った。
「殺した神様の力を有効活用したから魔王にも楽に勝てたの。簡単な話でしょ?」
「……本気で言っておるのか?」
「? 当たり前でしょう。それより疑問に答えたんだから、ひとつ教えてくれない?」
「何をじゃ?」
「しきちゃんが飛ばされた世界ってどんな感じ?」
「……聞いてどうする?」
「ふーん?」
 値踏みするように燐禰は乕徹を見詰めたあと、言った。
「気になるから連れていってほしいのだけど、ダメ?」
 それを聞き、即座に乕徹は帰還用の術式が刻まれた指輪を起動――するより早く砕け散る。だが――
「あら……残念」
 燐禰が目を細める中、緊急避難用の簪に込められた術式で乕徹は姿を薄れさせ、おっとりとした声が耳に残る。
「怖がらせちゃったかしら……」
 その言葉に言いようのない感情を混ぜ合わせたまま、乕徹は帰還するのだった。

●これからの未来
 放課後、アニパークに【アンリ・ミラーヴ】が訪れると、足音で気付いたらしい魔法犬【ココ】が駆け寄ってきた。
「アンリ~♪」
 嬉しそうに駆け寄るココの背中には――
「ぴっ」
 何故か【シメール】が乗っていた。
「一緒に遊んでたの?」
 アンリが腰を落とし尋ねると、ココは応えた。
「うん! バスごっこしてたのー」
「ぴっ!」
 どうやらココがバスの役で、シメールがお客さんらしい。
「ぴっ」
 ココの背中に乗っていたシメールは跳び下りると、咥えていたどんぐりを差し出す。
 乗車賃の代わりらしい。するとココは――
「大きいどんぐりだから、おつりで小さいどんぐりあげる。いまは持ってないから、あとでさがしてくるね」
 運転手さんの役を続けていた。これにシメールは――
「ぴっ」
 一声鳴くと、何処かに走って行った。
「どうかしたの?」
 気になってアンリが訊くと、ココは応える。
「あのね、ボクおつり持ってなかったから、シメールがさがしに行ってくれたの」
 何故かお客役がおつりを探しに行ったらしい。
「戻って来るまで、待ってる?」
「ううん。ばんごはんになるまでおうちに戻ってこないから、アンリと一緒にいるー」
 どうやらシメールが行方不明になるのはいつものことらしい。
 晩御飯にはココの住んでいる小屋に戻って来るのが日課らしいので、探しに行かなくても良いようだ。
「アンリ、おさんぽするの?」
 期待感いっぱいに尻尾を振りながら、アンリを見上げるココ。
 お行儀よく待ってはいるが、すぐにでも一緒に歩き出したいのは、尻尾の動きを見ていればよく分かる。
 これにアンリは微笑ましげに苦笑すると、ココに言った。
「ココを、会わせてあげたい人がいるんだ。一緒について来て、探してくれる?」
 それは奉仕科担当教諭【ユリア・ノイヴィント】教師のことだ。
 何度か課題を受けたことのある彼女に、アンリはココを会わせてあげたかった。
「うん! いっしょに行くー」
 おすわりをしていたココは、アンリの足元に近付き見上げながら言った。
「アンリ、行こー」
「うん。それじゃ、一緒に探そう」
 そしてアンリとココは、つれだって歩いていく。
 アンリもココも、一緒に歩くのが嬉しいのか、ゆらゆらと尻尾を揺らしていた。
 アニパークから離れ、植物園に向かう。
 11月にしては、ぽかぽか日和で、のんびりとした気持ちで2人は歩いていた。
 そうしてしばらく歩いていると――
「ユリア先生」
 アンリは授業帰りらしいユリアを見つけ、声を掛ける。
「先生。お久しぶりです。お元気でしたか?」
 これにユリアは、顔をほころばせて応える。
「久しぶりね、アンリくん。お茶会の時以来ね。私は、もちろん元気よ。あなたは、どう?」
「色々あったけど、元気です」
「そう、よかった――あら」
 話の途中で、静かにおすわりしているココに気付いたユリアは、腰を落として声を掛ける。
「かわいいわね。こんにちは」
「ひゃん!」
 元気よく鳴き声で応えるココ。
 魔法でアンリとは人の言葉でやり取り出来るが、そうでない人には犬の鳴き声にしか聞こえないのだ。
「あら、お返事してくれるの? おりこうさんね」
「わふ」
 褒められながら頭を撫でられ、ココは嬉しそうに尻尾を振っている。
 大人しく頭を撫でさせてくれるココに、ユリアは折角なのでしばらく撫でさせて貰う。
 十分に堪能したあと、立ちあがってアンリに言った。
「大人しくて頭の良い子ね。アンリくんが世話をしているの?」
「はい。色々あって、ココと出会えたんです」
「そうなの? どんな風に出会ったのかしら?」
 アンリが話を繋げ易いよう、興味ありげにユリアは尋ねてくれる。
 会話のバトンを繋げるように、アンリはユリアに言った。
「話せることは、一杯あります。もし良かったら、今、少しお話できますか?」
「ええ、ぜひ聞かせてちょうだい」
 ユリアは笑みを浮かべながら応えた。
「ちょうど授業も終わったから、私の研究室で話しましょう。今日は他に授業もないし、落ち着いて話せるわ」
 そしてユリアの研究室に向かう。
 他愛のない会話をしながら歩いていき、部屋に招いてくれる。
「どうぞ」
 部屋に入ると、整然と整えられた書籍類の他に、幾つか書類が目に留まる。
 それは各地の復興に関する物だった。
「復興の、手伝いをされているんですか?」
「書類仕事が主だけどね。現地に赴いている職員の報告をまとめてるの」
 ユリアは応えながら席を勧め、アンリが座ると、ココは足元でおすわりした。
「本当に、賢い子ね」
 ユリアが感心したように言うと、アンリは嬉しそうに返した。
「はい。ココは、とても賢いんです。それにとてもかわいくて……お蔭で夢が叶っています」
「夢?」
 不思議そうに聞き返すユリアに、アンリは応えた。
「以前ユリア先生の授業で、仔犬のお世話をしましたよね」
「ええ。あの時は、助かったわ。ひょっとして、それがきっかけ?」
「はい」
 アンリはココに視線を向けながら言った。
「あの時、仔犬達がとても可愛くて、いつか飼いたいと思ってました」
 アンリは、ココの頭を撫でてあげると――
「今は、ココと出会えて本当に嬉しいです」
 そう言って、優しくココを抱き上げた。
「わふ」
 嬉しそうに鳴くココに、くすりとユリアは笑みを浮かべる。
「好い出会いがあったようね」
「はい。この子がいつまでもしっかり生きていけるよう、出来るだけ育ててあげたいと思ってます」
「好いことよ、それは。最後まで、面倒をみてあげてね」
「……」
 アンリはココを膝に乗せ撫でながら、言葉を選ぶように沈黙する。
 それが気になったユリアが声を掛ける前に、アンリは言った。
「先生は、魔王との最終決戦で、怪我はされませんでしたか?」
「私? あの時は、後方支援を担当させて貰っていたから。前線で戦ってくれたみんなのお蔭で、怪我も無くすんだわ」
「好かった。あの戦いは、激しかったですから。怪我をされてないか、不安だったんです」
「ありがとう、心配してくれて。あなたは、どうだったの? 元気そうだけど……」
 気に掛けるように尋ねるユリアに、アンリは穏やかな声で応えた。
「今は、大丈夫です」
「……それって、戦って怪我をしちゃったってこと?」
「一度、死んじゃいました。あ、でも、大丈夫なんです」
 ユリアを不安にさせないよう、できるだけ平然とした様子で話す。
「あの時は、仲間のおかげで復活出来ましたから。また先生の授業を受けられます」
 落ち着いた声で目を細め笑って話すアンリに、心配する必要はないと判断したのか、ほっと息つくような間を空けてユリアは返した。
「色々と、大変だったのね……ありがとう」
「?」
 不思議に思うアンリに、ユリアは応えた。
「だって、あなた達のおかげで、助かった人は大勢いるはずだから……ありがとう」
 笑みを浮かべるユリアに、照れたように笑みを浮かべるアンリだった。

 その後も、2人は会話を重ねる。

「今もそうみたいですけど、戦後の先生は、お忙しかったですか?」
「それはもう、あちこち走り回ったわ」
 アンリにお茶を淹れたあと、ユリアは応える。
「被害状況をまとめて、必要な物資と人材を派遣するための書類仕事が山のようにあったわ。おかげで植物園の植物が枯れないか心配だったけど、手の空いた人が交代で世話をしてくれたから助かったわ」
 アンリに自分の近況も含めて、学園の現状を伝えてくれる。
 それはアンリにとって役立つ内容があるかもしれないと思ったからだ。
(なにか、聞きたいことがあって声を掛けたのかもしれないし)
 ユリアは直接訊くのも不躾だと思い、アンリが話し易いよう、話せる範囲で知っていることを伝え続ける。その中で――
「最近は、忙しくないですか?」
 窺うように尋ねるアンリに、ユリアは返した。
「魔王戦後の処理は落ち着いたんだけど、大きな儀式魔法の準備で忙しくなってきてるわね」
「……それは、精霊王に関わること、ではないですか?」
 アンリの言葉に、ユリアは少し驚いたように応える。
「ええ。その様子だと、噂でも耳にしてるみたいね」
 ちょっとした秘密を教えるように、ユリアは言った。
「精霊王に関わる儀式魔法みたいよ。それも霊玉の力を使った、かなり大規模なものになるみたいね」
 これにアンリは静かに返した。
「新しい精霊王を、生み出す儀式魔法ですか?」
「ええそうよ……ひょっとして知ってたの?」
「そういうことが、近い内にあるとは、聞いています」
「そう……なんでも霊玉の力を使って、新しい精霊王を生み出すらしいんだけど……その候補者になれるとしたら、相当な霊格を持ってる筈なんだけど――」
「ココが、候補者です」
 一瞬ユリアは息を飲む。
「……そうなの? 驚いたわね」
「同じですね」
「同じ?」
「はい。俺も、ココが精霊王の候補だと知って、驚きました……」
 続ける言葉を迷っているのか、静かになるアンリに、ユリアは言った。
「納得したわ」
 くすりと笑みを浮かべ、ユリアは続ける。
「その子のために、私に話しかけたのね?」
「はい」
 アンリは願うように言った。
「俺は、ココがとても可愛らしくて、とにかく大事にしたい。でも、力になるためには、知識もいると思う。だから――」
 視線を合わせ、アンリは頼む。
「何かあれば、先生にも時々は、相談をしたいのですが、良いですか?」
 これにユリアは――
「ええ、もちろんよ」
 アンリを安心させるような晴やかな笑顔を浮かべ、受け入れてくれるのだった。

●再会
 それは、ある晴れた日のことだった。
 学園食堂のテラス席で優雅にお茶をしている覇王六種が一角、【コトノハ】を見つけた【シキア・エラルド】は、にこやかな顔で声を掛けた。

「コトノハ様、イケメン見たいって言ってたよね?」
「会わせてくれるん?」
「うん」
「わー、嬉しいわぁ」
 コトノハは笑顔で喜ぶと、その顔のまま続けて言った。
「それで、うちは何すればええんやろ? 保護者? それとも見届け人なん?」
「……」
 シキアは、にこやかな顔のまま沈黙していたが、力を抜くように息をつくと――
「ひょっとして、顔に出てた?」
 どこか気落ちしたような顔で言った。
「そういうの、出ないように気をつけてたんだけど……」
「顔もやけど、声にも出とったわ」
 愛でるように目を細めてシキアを見つつ、コトノハは言った。
「色々とぐちゃぐちゃなんを、取り繕っとるよぉに感じたわぁ」
 そこまで言うと、くすりと小さく笑ったあと続ける。
「そういう無理しとるんも、イケメンを際立たせる味になるんやけど、シキアはもう少し年取った方が、そういうのは深まってええと思うわぁ」
「……割とオジサン趣味なの? コトノハ様って?」
「何歳やろうと、イケメンはええもんやわぁ。そもそも、うちらからしたら、みぃんなよちよち歩きの赤ちゃんみたいなもんやからねぇ。100年ぐらいの歳の差は誤差やわぁ」
「……会わせたいのは、そこまで歳はとってないよ……ヒューマンにしては若作りだけどさ」
「そうなん?」
 尋ねながら席を勧めるコトノハに、シキアは向かい合うように座ってから応えた。
「もう40以上は行ってる筈なんだけどね」
「ふ~ん……その歳やと、シキアのお父さんなん? これから会いに行くん?」
「……うん」
 説明するための言葉を探すように、シキアは沈黙したあと応えた。
「手紙が来たんだ……会いたいって……いまさらね……」
「遅いってわけやね。でも遅すぎるわけやないんやろ?」
「……そう、なのかな……」
 自分自身の気持ちを推し量る様に目を伏せるシキアに、コトノハは言った。
「別にええんやない、会っても。会わへんかったら、文句も言えへんよ」
 いたずらを勧めるように茶目っ気を込めて言うコトノハ。
「言いたいこと、あるんやろ? やったら、会ったらええんよ。目の前におれば、文句言うんも手を出すんも、やりたい放題でお得やろ?」
「……そういうもんかな?」
「そういうもんやわ。どうせなら、すっきりした方がええやろ?」
「……まぁね」
 苦笑しながら、シキアは言った。
「それじゃ、コトノハ様……俺の父さんが来るんだけど、見てみる?」
「見る見る~。楽しみやわぁ~」
「そっか……よかった……」
「安心した?」
「うん……実をいうと、その、凄く緊張してて」
 震え出しそうになる手を、ぎゅっと握り、シキアは言った。
「多分俺すっごい情けない姿見せると思うけど、誰かに一緒にいてほしい」
「ええよ。それも、うちのするべき事やろうからね」
 コトノハは、遠い過去に想いを馳せるような表情を一瞬見せたあと、いつもと変わらぬ艶然とした表情で言った。
「シキアの先祖が、うちの力を得たんは、その時その時で、そうせんといけんからやったけど、その先どう転ぶかも、見ておきたいんよ。やから見届け人として、ついて行かせて貰うわぁ」
「……うん。お願いするね、コトノハ様」

 そしてシキアは、父である【キーシクス・ジェンダート】に、コトノハと共に会いに行くことにした。

「……」
 緊張しながら、シキアは待ち続ける。
 待ち合わせ時間が過ぎているわけではない。
 ただ少し早く来すぎただけだ。
「……」
 待ち続ける間、シキアは無言のまま。
 顔を合わせ、何を言うべきか悩むも、ぐちゃぐちゃに感情が混ざり合い言葉が見つからない。
 いまシキアがコトノハと共にいるのは、学園の談話室。
 外に声が漏れ出ないよう、魔法が掛けられた場所だ。
 そこで待ち続け、約束の時間が近付いたころ――
「……」 
「……」
 静かに部屋に入って来たキーシクスとシキアは視線が合い、お互い無言になる。
 そのまましばし、2人とも無言でいたが、先に口を開いたのはキーシクスだった。
「――」
 それはシキアが、『シキア』の名を得る前の名前。
 耳にした途端、シキアはキーシクスの胸ぐらを掴み言った。
「今の俺は、シキアだ」
「……そう、か……」
 項垂れたように、キーシクスは目を伏せる。
 それが却って、シキアの心に怒りにも似た感情を吹き上がらせた。
「遅い」
 胸ぐらを掴み、無理やり視線を合わせるようにしてシキアは言った。
「遅いんだよ、もう魔王討伐したよ?」
「……」
 キーシクスは、何も言い返せず無言のまま。
「今まで何してたんだよ」
 苛立ちを抑えながらシキアが問うと、静かな声でキーシクスは応えた。
「……『旅』を、していた」
「……なんだよ、それ」
 高ぶる感情を無理やり抑え込み、シキアは言った。
「そっちは何処行ってたのか知らないけど、旅は楽しかったかなこの野郎」
「……」
「なんとか言いなよ。それとも話せないような旅だったってのか」
 なじるように言いながら、それでも何も言い返さないキーシクスに、シキアは感情を吐き出すように声を上げ続ける。
 それはどこか理不尽で、けれど縋るような必死さがあった。
 キーシクスが、ヒューマンにしては若々しく20代後半の外見をしているので、どこか兄弟のようにも見えたが――
(迷子が父親に文句言っとるみたいやねぇ)
 2人を見詰めるコトノハは、年の功でそう見える。もっとも口には出さないが。
(止めんでも、良さそうやねぇ) 
 シキアには吐き出させ、キーシクスには受け止めさせた方が良いと判断したコトノハは、そのまま2人を見守り続ける。そして――
「――まぁいいや」
 シキアは掴んでいた胸倉を離し、さばさばした声で言った。
「聞きたいことは沢山ある……話したいこともたくさんあるし」
 気のせいか、照れ隠しのようにぞんざいな口調で言った。
「コトノハ様、これが俺の父親」
「せやろねぇ、よう似とるわ」
「……顔はあんま似てないと思うよ、俺は母さん似だし」
 実際、キーシクスの髪は金の短髪で、見た目も優し気な風貌をしている。それでもコトノハは――
「そうなん? せやけど、翡翠みたいな綺麗な目ぇは同じやし、性根は、よぉ似とると思うわぁ」
「……似てないと思うけど」
 視線を逸らし応えるシキアに、くすくすとコトノハは笑う。すると――
「コトノハ、様……」
 キーシクスが驚愕したような表情で言った。
「まさか、本当に……封印からお目覚めになられたのですか……」
「コトノハ様のこと、知ってたんだ。まぁ、そりゃそうだよね。じゃあさ――」
 シキアは、『言葉』を使う。
「父さんも『これは使えるんだっけ?』」
「どこで知った!」
 必死な形相で尋ねるキーシクスに、何かがシキアの胸に、すとんっ、と落ちる。
(……こういう顔もするんだ)
 父親としてのキーシクスの顔に、シキアは今までよりも自然な声で応えた。
「どこで知った、と聞かれればいつの間にかと」
「そうか……」
 項垂れるキーシクスに、シキアは尋ねる。
「何も知らなかったよ、どうして教えてくれなかったの」
「……そんな呪いは、私で終わらせるつもりだったんだよ」
「……そう、ごめん。俺はもう、たくさん使ってるよ」
「……」
 無言でシキアの言葉を聞いていたキーシクスは、子を守る親の顔になりながら尋ねる。
「シキア。その『言葉』を使えるようになって、誰かの声が聞こえたことは無いか?」
「【オズマ】のこと? 今も騒がしく喋ってるよ」
 シキアが応えると――
「【いま、ここ、なら、話せる】」
 コトノハが『言葉』を使ったあと、言った。
「オズマも話せるようにしたわぁ。言いたいことがあるんやったら、話しぃ」
「はっ、ババア。余計なことしてんじゃねぇよ」
 突如響いた声は、オズマの物だった。そして――
「よぅ、わざわざ御苦労なこったな」
 キーシクスに揶揄するような言葉を掛ける。すると――
「黙れ。死にぞこないにすらなれない亡霊が」
 冷酷な声でキーシクスは返した。
「何故貴様がシキアの中にいる」
「テメェが使いモノにならなくなったからだろうが、もうその魂は使えない」
「寄生虫以下の害悪が囀るな」
「おーおー、懐かしいな。シキアの前で猫かぶりは止めたのか?」
 オズマとキーシクスは、お互い罵詈雑言をぶつけ合う。それに――
(……なんだか、新鮮な気持ちになるな)
 今まで知らなかったキーシクスの素を見たような気がして、シキアは小さく苦笑した。すると――
「……シキア」
 気付いたキーシクスはバツが悪そうにしたあと、シキアの目を見て本心を口にした。
「すまない」
「……なんで謝るの」
 眉を下げて微笑むだけのキーシクスに、きまり悪そうにシキアは視線を逸らす。
 そんなシキアに、キーシクスは提案した。
「旅をしないか、家族で」
「……え?」
 予想外すぎる提案に、シキアが戸惑っていると、キーシクスは続ける。
「もちろん学園を卒業してからで良い。一緒に、旅をしたいんだ」
「……なんで?」
「お前と一緒に、色々な場所を見て回りたいと思ったんだ。それに旅の中で、呪言の制御法を教えたい。私が今日……『シキア』に会いに来たのは、それを伝えたくて来たんだ」
「……」
 すぐには応えられないシキア。するとオズマが、悪態をつくように言った。
「家族旅行だぁ? ふざけんな。そんなもんしてる暇ねぇんだよ」
「煩い」
「黙れ」
 悪態で返すキーシクスとシキア。
 腹が立ったのか、さらなる悪態をつくオズマに、返すシキア。
 それに加わろうとするキーシクスに、彼にしか聞こえない声でコトノハは言った。
「なんで補っとるん?」
「……シキアには黙っていて貰えますか?」
「勝手なことは言わへんよ。やけど、何かあったら言い。貸せる範囲で、力を貸すわ」
「……はい」
 静かに返すキーシクス。

 そして悪態合戦が始まり、出し切ったあと――

「家族旅行……考えとくよ」
 視線を逸らしながら応えるシキアに――
「あぁ……待ってるよ」
 嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべ受け入れるキーシクスだった。



課題評価
課題経験:112
課題報酬:5000
学園生の日常 その4
執筆:春夏秋冬 GM


《学園生の日常 その4》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!