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さよならは、言わない


ストーリー Story

◆現在◆

「学園長!」
 ドアごと蹴倒す勢いで部屋に飛びこんできたのは【コルネ・ワルフルド】だ。
「……なんだね?」
 執務机で書物をひろげていた【メメ・メメル】は顔を上げ、大儀そうに首をかたむけ肩をもむ。なんとなく仕草がフクロウっぽい。眼鏡をかけているせいだろうか。
「ご覧の通りオレサマ仕事中なもんでな、手短に頼むぞ」
「留学生アルバさんがですね……」
「あー」
 またかとメメルはため息をついた。【アルバ・アロンソ】、押しかけ同然にリーベラントからやってきた留学生である。留学生といっても若者ではなく、むしろはっきり老人と言える風貌かつ年齢の者だ。リーベラント名門貴族の長で、かの国では貴族院議長という立派な肩書きも持っている。
 リーベラント王族の結婚相手がふさわしい者か見きわめる! と息巻いて、先日アルバはフトゥールム・スクエアに乗りこんできたのだった。リーベラント国王ならびに王妹が婚約中の相手はともに学園生なのである。だが同時に彼は、学生としての身分も忘れていない。従者もつけず単身、似合わないのに学園制服まできっちり着ているところにはメメルも舌を巻いた。
 見きわめミッションは早々に終わった模様だが、アルバはいまなお学園にとどまって慣れぬ学生生活に不平ばかり並べている。文句が多い割に立ち去る様子がなく授業も熱心に受けているあたり、もしかしたら彼なりに学園ライフをエンジョイしているのかもしれないが。
「今度は何だね」
「いつまでたっても学食で、ウェイターが注文を取りに来ないことにご立腹のようで……」
「セルフサービスという言葉を知らんのかあのじーさん」
 まあ知らんだろうなとメメルは苦笑いする。勇者元年の時点で十四才だったメメルは、当然『あのじーさん』より実年齢は上なのだがそこは言うまい。
「用が済んだらとっととリーベラントに帰ればいいのになぁ……」
 と言ってメメルは腕組みした。
「まーテキトウに相手してやってくれ。その程度のことでオレサマの仕事の邪魔をするでない」
「でも議長ってばアタシの話聞いてくれないんですー」
 蜂にでも刺されたような顔をするコルネだ。相当手を焼いているのだろう。
「しっかりせいよコルネたん、もうあと一ヶ月もせんうちに学園長交代だろうが」
 まったく、と腕組みするメメルの肩に、シャボン玉のようなものがふんよりと乗った。
「……なんです、それ?」
 コルネは片眉をあげ顔を寄せる。手のひらサイズ、ふるふるとした透明の半球体だ。内側に黒い煙のようなものがただよっている。
「わ!」
 球体の表面に大きく丸い目がふたつ、ついていることにコルネは気づいたのだった。まばたきしたのである。にわかには信じがたいが生物らしい。
「これか? ガスペロだよ」
「ガスペロ? ……ガスペロ……って!」
 コルネの髪が逆立った。目を吊り上げて牙を剥く。
「あの【ガスペロ・シュターゼ】ですかっ!?」
 魔王軍幹部ガスペロは実体を持たぬガスのような存在だった。人間の体を乗っ取っては、魔王軍に邪悪な命令を下していたものだ。
「そうとも♪」
 メメルは楽しげである。
「魔王決戦の舞台、おぼえとるか? 最近また西方浄土に行って見つけたのだ。こやつ、滅びたと思いきや魔王の一部になって生き延びていたようだな。魔王の下で恐怖とかネガティブな感情を吸いつづけて邪悪な存在になっておったが、初期化された現在ではこの通りだ。もともと、こういう無害な魔法生物だったのだよ☆」
 ふっとメメルが息を吹きかけると、小鳥のような声で魔法生物は鳴いた。ふわふわと宙に浮かんで、今度はコルネに近づいてくる。
「そ、そうなんですか……といっても……ねえ」
 浮かぶガスペロをコルネは手で扇いだ。重さは限りなくゼロに近いのか、魔法生物は上下逆になってまたふよふよと飛ぶのである。

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◆過去(一人称)◆

 最初、【ネビュラロン・アーミット】という名前には馴染めなかった。
 ……そもそも、この世界にも馴染むことすらできなかった。
 片腕を切り落とされ虚無(アビス)へと落下した私が、なんの因果か新たな生を得てこの地に転生し、メメ・メメルなる人物の庇護を受けることになった。
 メメルは私に、自分が運営する学園の教師をやれと言った。それが私にとって、拾った命を役立てる道だというのだ。
 単なる思いつきなのだろうか。ここに来た当初のように、私が自暴自棄にならないよう手元に置いて見張る意図なのかもしれない。そもそも、利き腕を失った私に何が教えられるというのか。
 それでも私はメメルと過ごすうち、この人物が世間的に見せている顔とは異なり深い洞察力の持ち主であると気づくに至った。いつもふざけているようで、彼女の選択が誤っていたことはない。
 もしかしたら――。
 ふと思った。
 もしかしたら、いつの間にか私はメメルの術中にはまっているのだろうか。
 しかし、
「で、考えは決まったかい? 【リン・ワーズワース】」
 その日、メメルに問われた私は首を縦に振った。
「お引き受けします」
 いいだろう。
 なら術中にはまるとしよう。どうせ一度は失(な)くした命だ。
 メメ・メメル、私はあなたの策(て)に乗ろう。

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◆未来◆

「ああ、ここですか……!」
 少年は目を輝かせる。ずっと憧れていた場所、伝説の場所、フトゥールム・スクエアに自分がいるという事実が、まだにわかには理解できないでいる。
 真新しい制服に身を包み、少年がまっさきに訪れたのは学園の片隅にある資料館、通称『メメ・メメル記念館』だった。本当はれっきとした名前があるのだが、初代学園長の名を取ってこう呼ばれることが多い。
 百五十と数年前、勇者歴2022年の魔王決戦と、それに至る数年の黄金期を今の世に伝えるものがこの資料館である。この時代にあった冒険や戦いの記録、勇者たちの肖像画、所持品や獲得した宝物などがところ狭しと収められているという。
 現在ではもうメメルも、その後を継いだコルネも世にない。ごく一部の例外はあれ、記念館に姿をとどめる勇者たちもすでに歴史上の人物だ。けれども彼らのありし日の姿を、しのぶすべならこの場所にある。それも大量に。
「僕は――」 
 受付で名を聞かれ、少年はいくらか照れくさそうに、けれども胸を張って名乗ったのである。
「あの人の子孫です」  
 彼のまなざしは、入口そばにならぶ肖像画のひとつに向けられている。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2022-12-20

難易度 簡単 報酬 なし 完成予定 2022-12-30

登場人物 7/7 Characters
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」
《幸便の祈祷師》アルフィオーネ・ブランエトワル
 ドラゴニア Lv23 / 教祖・聖職 Rank 1
異世界からやってきたという、ドラゴニアの少女。 「この世界に存在しうる雛形の中で、本来のわたしに近いもの が選択された・・・ってとこかしらね」 その容姿は幼子そのものだが、どこかしら、大人びた雰囲気を纏っている。  髪は青緑。前髪は山形に切り揃え、両サイドに三つ編み。後ろ髪は大きなバレッタで結い上げ、垂らした髪を二つ分け。リボンで結んでいる。  二重のたれ目で、左目の下に泣きぼくろがある。  古竜族の特徴として、半月型の鶏冠状の角。小振りな、翼と尻尾。後頭部から耳裏、鎖骨の辺りまで、竜の皮膚が覆っている。  争いごとを好まない、優しい性格。しかし、幼少より戦闘教育を受けており、戦うことに躊躇することはない。  普段はたおやかだが、戦闘では苛烈であり、特に”悪”と認めた相手には明確な殺意を持って当たる。 「死んであの世で懺悔なさい!」(認めないとは言っていない) 「悪党に神の慈悲など無用よ?」(ないとは言っていない)  感情の起伏が希薄で、長命の種族であった故に、他者との深い関りは避ける傾向にある。加えて、怜悧であるため、冷たい人間と思われがちだが、その実、世話焼きな、所謂、オカン気質。  お饅頭が大のお気に入り  諸般の事情で偽名 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを胸に、学園での日々を過ごしている
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。

解説 Explan

 桂木京介最終エピソードとなります。

 現代、過去、未来……あなたのご希望の時代の、ある一場面を描きます。
 自由度は最大です。いつも通りご指定の内容で話を膨らませるのは当然可能として、シチュエーションとキャラ名だけ指定して『話はお任せ』でも大丈夫です。

 さらに今回は、以下[1]~[3]の特別ルールもあります。

[1]一人称視点可能!
 これまでのリアクションは常に三人称視点で描いてきましたが、本作に限り一人称視点での描写が選べます。
 たとえばメメルなら、
>オレサマは【メメ・メメル】、今日はオレサマのある一日を紹介してやろう。
 ……といった風に彼女の口調での語り口になります。
 ただし他のキャラクターさんとかかわる場合、三人称のパートを作って調整する場合があります。

[2]自分のプレイヤーキャラクター(PC)以外を選ぶことも可能!
 簡単でいいので『アクションプラン』欄に【キャラクター名】と、どんなキャラクターなのかを書いて下さい。現在のキャラクターの子孫なんていうのもいいですね。
 しかし血縁関係は必須ではありません。PCの養子はもちろん、弟子や婚約者などPCを見守っていた人物、PCに憧れて学園入りした生徒などでも可能とします。

[3]既存の公式NPC、公認NPCも可能!!
 三人称はもちろんのこと、もう最後なので、[1][2]を組み合わせて『【コルネ・ワルフルド】から見た自分のPC』なんていうのもありとします。死者などさすがに難しいものは夢オチとかになるかもしれませんのでご了承下さい。また、そのNPCらしくない行動と判断した場合は制限や修正がかかる場合があります。
 ※ 公認NPCは桂木が管理しているNPCだけとします。【ミゲル・シーネフォス】【ドーラ・ゴーリキ(怪獣王女)】など、桂木が描いてきた未登録NPCも大丈夫です。


作者コメント Comment
 桂木京介です。
 ついに本作が最後のエピソードとなります。いままで本当にありがとうございました。

 特別ルールをお使いの場合は、アクションプランに[1]から[3]のうち使うものをご指定ください。もちろん[全部]も可能です!

 時代設定も幅広く設定可能です。
 魔王大戦期(勇者歴元年より前)から勇者歴2222年あたり(二百年後)までを目安に、どの時代でも構いません。
 2022年現在のリアルタイムでも、十年後の未来でも、逆に自分の入学前、遠い先祖や子孫の物語でもOKです。シチュノベのさらに先、あるいは過去のイベントの舞台裏等々、どんなアクションプランをいただけるのか本当に楽しみですね。
 ただし複数時代の場面を一つのアクションに書くのだけはNGとさせてください。指定はひとつに限ります。文字数が足りなくて中途半端になりそうなので……。
 
 それでは、最後のリザルトノベルでお目にかかるのを楽しみにしています。
 桂木京介でした。


個人成績表 Report
エリカ・エルオンタリエ 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
一人称
【ドーラ・ゴーリキ】
魔王決戦から15年後

ズェスカの議員を目指していた彼女はそれなりの成果を上げ
「会いに行く」とした約束を果たすために
タスクが始めた学園の魔王戦役展を訪れる。

ドーラは【エリカ・エルオンタリエ】の展示の前で
真新しい学園制服に身を包んだ【レミール・エル】と出会う。
熱心な視線にエリカを知っているのかと聞くドーラだが
レミールは彼女は自分の恩人なのだが、自分が幼かったために覚えがないと答える。

そこでドーラは、自分の知るエリカと魔王決戦を戦った仲間たちのことを
レミールに聞かせるのだった。

学園の新しい仲間と旧友たちと語らった後
ドーラは改めてエリカの展示に向かってこれからの決意を表明する。

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
藍香・拝。朱璃の妹。華奢で小柄な銀髪ショートヘアのルネサンス。12歳

入学早々藍香はコルネ学園長に勝負を挑むです。姉様に一歩でも近づく為には避けて通れない道なのです


受けてくれた学園長に感謝しつつ攻撃を仕掛けるですが当然一瞬でのされてしまうです

それでも藍香は諦めないです。今日が駄目でも明日。明日が駄目でも明後日。村の皆は藍香は姉様と違って拳士の才は無いというですが、藍香は姉様の言った事を信じているのです。だからきっと姉様も学園長も超える武闘家にだってなれるのです!

所で学園には最初の勇者がいると聞いたですがまだいるですか?姉様が自分の師匠だと言っていたですから挨拶して、できればお友達になりたいのです








仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
未来(約15年後の)とある家族のの学園一日。
アドリブA、絡み大歓迎。

フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
[2]PC以外のキャラクターで参加
【ヴァニラビット・レプス】
(黒兎のケモモ(ルネサンスに相当する獣人)/外見年齢20~30代/女性/172cm/左利き)
口調:明るい女性(私 / キミ / ~よ、~ね、~かしら?)
設定:
空挺都市世界(のとそら)世界の宅配業者『『サンタクロース運送』で現場監督を務める獣人の女性。
その正体は義賊『ヴァニラビット空賊団』の長であり、かつて闇に落ちたネビュラロン=リンの利き手を落とし、転生の直接原因となった元戦友
現在は『ゆうがく』世界を行き来して移住者の荷物運送やトラブル解決を手伝っている。
フィリンとは世界が繋がった際に知り合い、顔見知り程度に縁を持っている


●行動
フィリン卒業の数年後に突如来訪、ネビュラロン先生に荷物を届けにくる

「こっちじゃ普通の宅配は受け付けてないんだけど、どうしてもって頼まれてね」

「ネビュラロン…って、キミ? あなたの教え子からよ」

荷物は武具などお礼の品と手紙、幸せそうな一家のポートレート
『私は『私』として生きられそうです。先生の未来はどうですか?』

タスク・ジム 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
15年後の未来
フトゥールムスクエア広報館に建てた銅像の除幕式に、妻マルティナと双子の子供を連れてくる。

双子を授かったのは魔王戦役から五年後なので登場時の双子は十歳

フミ・シーネフォス【「文」書事務】
マルティナ様の体質とタスクの気質を受け継いだ娘。口調は敬語。

シオン・シーネフォス【文「書」事務】
タスクの体質とマルティナ様の気質を受け継いだ息子。口調は関西弁。

魔王戦役後のタスク・ジム改めタスク・シーネフォスは、リーベラント王家に入り、マルティナ様の王家の勤めをサポートしながら国際貢献活動と学園教師の二刀流。
剣技、軍略、行政学、歴史などを担当しながら魔王戦役を乗り越えた団結の歴史を風化させないための啓発に力を注ぎ、犠牲者やこの世界から旅立った人の銅像建設を企画。
覇王六種さんたちの力を借りれば15年と言わず一瞬で出来るだろうが、そうではなく、15年かけて、戦った人が英雄と称えられるように啓発教育に力を入れ、多くの人を巻き込んで進めた。

そして今日の除幕式に至る。
双子を妻にお願いし自分は式典の進行する

アルフィオーネ・ブランエトワル 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
[1]

時代:200年後

「さよならは、言わないわ。また、会いましょう」そう言って、元の世界に帰ったが、彼の地で大戦争が勃発。戦争終結に200年の時を要した

元世界で所属している組織、CGF(コズミック・ガーディアン・フォース)と、学園とはずっと協力関係にあったが、常に最前線で、治療士として従事していたので、訪れることはおろか、連絡を取ることすらできなかった

ようやく、戦後処理も一段落つき、既に周知済みではあるが、戦争終結の報告と、学園生も参戦し、多大な戦果をあげたため、その謝意をしめすべく、全権大使として、学園に訪れ、学園長との会談に臨む

この会談の中で、学園の教師への就任を打診される。実は100年以上前から、CGFに要請していたが、戦争を理由に却下されていたらしい。後は、本人の意思次第とのこと

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

獲得経験:0 = 0全体 + 0個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【メルセデス・シーネフォス】
ミゲルさんとベイキの娘
母親似で瞳も髪の色も同じなせいか、父ミゲルからは過保護すぎる程溺愛されている

◆目的
王宮から抜け出して、ゆうがくに入学する
私だって、もう14歳です

◆時代
15年後の未来

◆根回し
家督を子に譲って悠々自適なアルバ爺やや、昔から助けてくれたアントニオおじさまとロドリーゴおじさまに相談して、学園行きの船に乗せて貰う手筈

◆学園へ
船に乗って大海原へ
軍艦だし、海賊に襲われることはないでしょう
大船に乗った気持ちですね!

船を降りたら、馬車で学園へ

道中、アクシデントがあったりしたけど、姉様の知人?
と言う方が、生徒を引率し救援に駆けつけてくれ、事なきを得るとか

拐われ属性ではない

◆入学
遂に学園へ
丁度、銅像の除幕式に鉢合わせ

私も、あの英雄達のようになれるかしら

リザルト Result

 白に近い薄灰色の空を、銀色の髪が反射する。吐息すら凍りそうな寒い朝だ。
 暦のうえでは春のはずだが、ほんとうの意味で息吹きがおとずれるのはもう少し先なのだろう。
 けれど【藍香・拝】はなんとも思わなかった。胸の内に、溶鉱炉のような炎が燃えていたから。
(ついに来たのです。フトゥールム・スクエア……!)
 ガーゴイルが配された左右の門。正面にそびえ立つ巨大な学舎。学園は一国に匹敵するほどの敷地をほこるという。うずくまった巨人のような円形闘技場も、てっぺんが雲のなかに消えている塔も、大口を開けた竜のごときダンジョンの入り口すら、すべて学園の施設なのだ。故郷を出たことのほとんどない藍香には圧倒的すぎて、理解できる範囲を超えている。
 でも萎縮してはいられない。なぜって今日から数年間、ここが藍香の居場所となるのだから。胸を張って最初の一歩を踏み出そう。
(姉様だってきっと、そうしたはずです!)
 冴え冴えとした空気を深く吸い込み、藍香は肩をそびやかして門をくぐった。
 藍香は十二歳、魔王決戦に名をはせた勇者【朱璃・拝】の妹である。朱璃によく似た銀髪、耳の形も同じだ。紅玉のような瞳も姉を彷彿とさせるものがある。けれど髪型はショートボブで、全体的に小ぶりというか華奢なところも姉とはちがっていた。
 姉の朱璃がフトゥールム・スクエアを卒業したのは十年ほど昔のことだ。当時すでに藍香は世にあったが、赤ん坊といっていいほどの年齢だったため決戦や、これにまつわる一時的な避難などの記憶はまったくない。藍香からすれば朱璃は勇者というよりは、死んだ父親のあとをついだ一族の長としての認識のほうが強い。
 十二歳となった今年、思い切って藍香は姉に申し出たのである。
「姉様、フトゥールム・スクエアへの入学を許可してほしいのです!」
 朱璃はいいとも悪いとも言わなかった。かわりに彼女は、どの専攻に進みたいのか藍香に尋ねた。
「それはもちろん」
 藍香は左右の拳をかためて宣言した。
「武神・無双コースなのです!」
 諸手を挙げてとまではいかずとも、朱璃が即賛成してくれるものと藍香は期待していた。
 ところが朱璃は直接回答をせず、あらためて藍香に質問したのだった。村の皆が藍香のことをなんと言っているか知っているかと。
「……」
 朱璃ならばわかっているはずだ。わかっていてあえて訊くのだ。ならば藍香もこたえるほかない。
「知っているのです。藍香は姉様とちがって拳士の才はないと言われていることを」
 藍香が朱璃にくらべ体格的に見劣りがするのは事実だ。朱璃は細身のシルエットながら均整のとれた体つきで、二の腕や腿に厚い筋肉がついていることは一目瞭然である。首もがっしりと安定している半面、拳や膝には鋼のような力強さがある。ところが藍香はもっとずっと若草的というか、肉付きも薄く緩急に乏しい。かわいらしさという意味では人形のようだが、それゆえか弱いようにも見えた。
「でも!」
 藍香は臆しない。何年も、それこそ魔王決戦後の姉が、世界をめぐり武者修行していたころから温めつづけた目標だった。
「藍香は姉様のような……いいえ、姉様を超えるような武闘家を目指したいのです!」 
「よく言いました」
 朱璃はにっこりと相好を崩した。
「最初の勇者【ルル・メメル】は決して、天賦の才にめぐまれた人物ではありませんでしたわ。天才だったのは彼の双子の妹、彼は妹に劣等感をいだきながらも不断の努力をかさね、ついに魔王を封印するほどの剣士となったのです。だから忘れないで、大切なのは――」
(大切なのは……努力しつづけること、そして諦めないこと)
 藍香は心のなかで姉の言葉をくりかえす。背中を押してくれた言葉を。
 
 学園講堂。入学式はつつがなく進行していった。
 現学園長【コルネ・ワルフルド】体制もすでに長く、かつて存在したぎこちなさはとうになくなっている。むしろなめし革のような円熟期にさしかかっていたといえよう。
「学園生としてスタートを切るみんなに一言だけあいさつさせてね」
 式のしめくくりとなる学園長祝辞がはじまったそのときである。
「はい!」
 藍香は右手を突き上げ立ち上がっていた。
「コルネ学園長! 藍香と勝負してほしいのです!」
 会場がどよめいた。だが壇上のコルネは怒ることもなく、
「今回はずいぶん、気の早い子がいるみたいだね☆」
 と目を細めた。
「でもちょっと待ってね、最後まで祝辞を言わせて。大丈夫、すぐ終わるから」
 教壇に両手をつくと、コルネははっきりと告げたのである。
「腕に覚えがある人はいつでもかかってきなさい。ワタシは誰の挑戦でも受けるよ!」
 大きな声ではないのに講堂を震撼させる響きがあった。これはここ数年、コルネが入学式のたびに告げている定番の祝辞なのだった。
「いつでも、なのですね!?」
 藍香は舞台上に駆け上がっていた。
「うん」
 コルネはすでに、教壇を足で舞台袖に追いやっている。
 直立し抱拳礼(ほうけんれい)を示す藍香に、抱拳礼を返してコルネは嬉しそうな顔をした。
「待ってたよ。そうしているとお姉さんそっくりだね♪」
「ありがとうございます学園長。この勝負は、姉様に一歩でも近づくためには避けて通れない道なのです」
「じゃ、はじめようか」
 勝負は十数秒とかからなかった。

(消毒液の匂いです……?)
 藍香が目を覚ましたのはベッドの上だった。ふらつく頭を振って身を起こす。額の中央がハンマーで殴られたみたいにジンジンと痛んだ。見よう見まねで姉の無影拳を試したはいいが、すべて見切られたあげく額に痛烈なデコピンを受けてしまったのだった。
「大丈夫?」
 ぎょっとして身をすくませる。ベッドサイドのかたわらにはコルネがいて、やっぱり屈託のない笑みを見せているのだ。どうやらここは学園の医務室らしい。
「だっ……」
 言うなり藍香はファイティングポーズを取る。
「大丈夫なのです! 今日が駄目でも明日。明日が駄目でも明後日、また挑戦させてもらうのです!」
 なのでと宣言する。
「学園長、明日は今日より強くなってる藍香を震えて待つのです!」
「それは楽しみ♪」
 コルネは気楽な口調だが、けっして小馬鹿にする口調ではなかった。藍香の宣言を頼もしく思っているのだろう。
 からりと戸が開き、とんがり帽子の女性が入ってきた。
「おー、朱璃たんの妹だったな。近くで見るとますますよう似ておる♪」
 すらりとした美女だが童顔で、太陽のような明るさがある。目を引くのは抜群のプロポーションだろうか。コルネ学園長もグラマラスではあるが、この女性はもっと華麗というかゴージャスだった。
「そうです、理事長」
 理事長と聞いて藍香の背筋がのびた。
「ということは、あなたが伝説の勇者【メメ・メメル】様なのですか!」
「『伝説の』なんてぇのはよせやい」
 メメルはぱたぱたと手を振った。
「勇者といっても『元』だよ『元』♪」
「といってもメメル様は姉様の師匠格ですから。ごあいさつさせていただきたいのです!」
 ぴょんとベッドから降り藍香は抱拳礼する。
「はじめまして、朱璃の妹で……」
 待った待ったとメメルは言った。
「元伝説の勇者ならもうひとりおるぞ。いまは現役学生だがな。年頃も同じくらいだろーて。せっかくだし友達になってはどうかな? 紹介しよう☆」
 メメルは入口のほうを振り返ったのである。
「お兄たま、そんなところで中をうかがってないで、さあさ中へ♪」
 藍香とルル、学園史に残る両者の出会いは、こうして訪れたのだった。



 接吻のような音を立て吸盤が肌に張りつく。ぬめぬめとした長く不気味な触手だ。もてあそぶように【メルセデス・シーネフォス】の腰に絡みつき、生ぬるい粘液をしたたらせながら彼女の白い肌を這いのぼる。蛇の舌ような尖端が首筋にからみ、メルセデスの胸元に割り入ろうとしたその瞬間、
「お嬢様ーっ!」
 勇ましい声をあげレイピアをひっさげた老従士が、船べりから巨大蛸(タコ)の頭部めがけて跳躍した。
「ぬおお! フトゥールム・スクエア卒業生【アルバ・アロンゾ】の剣さばきしかと見よ!」
 剣さばきと自称するほど華麗なものではなかった。老人はやたらめったら剣先を、蛸の頭部に突き刺しては抜き突き刺しては抜きをくりかえしたのである。
「野郎ども! 勇敢なじいさんに後れを取るんじゃねえぞ!」
 第四艦隊提督から大都督に出世したというのに、【ロドリーゴ・エスカランテ】は伝法な口調も、みずから先陣に立つ気概も変わっていない。このときもロドリーゴは銛をさかしまに構えるや、ずぶりと怪物のボディにくれてやったほどだ。
 つづいて護衛艦から怪物めがけ矢が飛ぶ。それも大量に。
 これはかなわじとみたかタコはメルセデスをつかんだまま逃げようとした。しかしメルセデスとて無力な少女ではない。
(私だって、もう十四歳です……!)
 勇者を目指すと決めたのだ。とらわれ助けを待つだけの存在ではいたくなかった。メルセデスは腰のバックルから短刀を引き抜くと、こすりつけるようにして触手を断ち切ったのである。
 メルセデスがスカートを手で押さえるのと、海に転落するのは同時だった。
「救え!」
 号令をかけるのは【アントニオ・シーネフォス】、メルセデスの伯父にあたる人物だ。王室の補弼たる立場だが、現在は任を休んで護衛艦に乗船している。
 アントニオの声にこたえて網が飛んだ。まもなくメルセデスは海から救助されたのである。蛸はほうほうの体で退散した。
 甲板で髪をぬぐうこともなく、メルセデスは船首に出て海を見る。数頭のイルカが波間に顔を出した。メルセデスは嬉しそうに手を振る。
 大蛸に襲われているイルカの群れを見て、メルセデスは救出を命じたのだった。自身モンスターの攻撃を受けることになったが、春先の潜水を味わった以外は無傷だ。船にも乗組員にも損傷はない。
「お嬢様、無茶はお控えくださいますよう」
 まもなくアルバも上がってきた。自慢のカツラはどこかへ流されたらしく、薄くなってきた頭をしとどに濡らしている。
「なーに、フトゥールム・スクエアを目指そうってお嬢様だ。これくらいのほうがいい」
 提督はニヤリと笑って、メルセデスにタオルを投げて渡した。
「ロドリーゴ殿、左様なことを!」
 それがしはお嬢様の教育係としてですね――と老アルバは抗議するのだが、
「カタいこと言うなよ、あんただって卒業生じゃねぇか」
 ロドリーゴは笑った。実のところアルバは学園にはほんの一ヶ月短期留学していただけなのだが。それでもこの老人にとって学園の記憶は相当重要なものらしく、口を『ヘ』の字にしつつも黙ったのである。
「ご迷惑をおかけしました。アロンソ元貴族院議長閣下、そしてアントン伯父、ロドリーゴ叔父、それに兵員のみなさんも」
 メルセデスがしおらしく頭を下げると、彼ら三人の後見人たちに寂しげな色が浮かんだ。
「もうそろそろですな……あとは学園にお送りするだけ」
 アルバが鼻を鳴らす。いよいよ対岸が見えてきたのだ。長かった船旅ももう終わりである。
「……すっかりたくましくなったな。あんなに小さかったのによ」
 ロドリーゴは目を伏せた。心なしか元気がない。
「優雅にして勇敢に成長したものだ。まるでお母堂を見ているようだ……」
 アントニオも感慨深いようだ。
 メルセデスはリーベラント王【ミゲル・シーネフォス】と、フトゥールム・スクエアの勇者【ベイキ・ミューズフェス】の間に生まれた正真正銘のプリンセスだ。悲しいことに母ベイキは、彼女を産んでまもなく天に召されている。ゆえにメルセデスは母の愛をあまり知らないが、その分ミゲルに溺愛されて育った。日に日にベイキに似た容貌になってゆくメルセデスの成長が、どれだけ王を喜ばせたことか。
 彼女は師にも恵まれた。元貴族院議長のアルバ、前代王にして宮廷補弼のアントニオ、父の異母弟で海軍指揮官ロドリーゴという三人が教育係を買って出たのである。アルバにいたっては、貴族院議長の座を引退してまでこの任についたという。素直なプリンセスに感化されるように、偏屈だったアルバは柔軟に、狷介な一面のあったアントニオは寛容になり、無骨だったロドリーゴにもある種の洗練が生まれたという事実も特筆すべきことだろう。
 十四歳を目の前にしたメルセデスは、母ベイキが学び、父ミゲルと出会ったフトゥールム・スクエアへの入学を希望した。父王は『せめて来年にせんか……』などとずいぶん渋ったそうだ。しかも政務を放置してこの船旅に同行したがったのを、皆で懸命におしとどめたものである。
 まもなく船は停泊した。
 碇が下りるのと前後して、前方から見慣れぬ騎馬部隊が船めがけ殺到した。
 思い思いに武装した賊徒のようだ。どうやら総勢できたものらしい。船の総員の倍はいるだろうか。首領らしき男が叫ぶ。
「命惜しくば人質と、金目のものを置いて行け!」
 三人の教育係は顔を見合わせた。怯えからではなく、むしろ楽しげに。
「これはこれは」
「さっきの蛸を含めて、いい土産話になりそうだ」
「もう一暴れといくかい?」
 しかし彼らが実力行使するタイミングはなかったのである。なぜなら、
「探したぜ沿岸盗賊団! フトゥールム・スクエアが相手だ!」
 メルセデスには憧れの、教育係たちにはおなじみの、紺色の制服に身を包んだ一団が卒然と姿を見せたのである。わずか十に満たぬ小勢ながら、逆三角形の陣形を組んで賊徒に突入する。火炎弾の熱に刃がきらめき、拳が巻き起こす旋風がうなりをあげた。
 学園生たちは多様な顔ぶれだ。カルマの少年がいる。メルセデスと同じ年頃のドラゴニアの少女もいる。半透明の彼はきっとリバイバルだろうし、音に聞くアークライトの翼もはためいていた。
「彼らに協力を!」
 血の沸き立つ思いに駆られメルセデスも味方勢を励ます。メルセデス自身、剣を抜いて飛び出していた。
「プリンセス! あいかわらず無茶をする!」
 言いながらロドリーゴは、なんとも嬉しそうなのである。
 たちまち賊徒は追い立てられ、全員縄をかけられるにいたったのだった。
「ふがいない、演習にもならん」
 学園の指揮をとっていた隻腕の豪傑が、メルセデスの前に膝をついた。
「無事ですかい? 学園長の命によりお迎えに上がった次第で」
 声も顔も強面(こわもて)だが、どことなく愛嬌のある語り口だ。メルセデスはいっぺんで好感をもって問いかける。
「あなたも学園生ですか」
「まさか! こんな老けた生徒はいませんや。講師の【カストル・ラストノート】と発します」
 カストルはつくづくとプリンセスを見上げ、懐かしそうな、そして嬉しそうな目をして言ったのである。
「どこか抜けてるのは、母上譲りですなあ」
 かくして学園生、そしてカストルを加えた一行は数珠つなぎにした盗賊をつれ、意気揚々と学園を目指すのだった。



 この世界を訪れるようになった当初は、エスバイロを使っていた。
 空挺都市世界ではごく一般的な乗り物だ。原則ひとり乗りの空飛ぶマシンで、かの世界では足がわりとして広く使われている。軍事用のエスバイロもあるし、単なる移動手段をこえ美術品としてあつかわれるエスバイロもあった。
 物理法則の異なるこの世界では、当初エスバイロは使用できなかった。だが技術者たちの創意工夫の結果、いくらかのチューニングをほどこせば魔法力をエネルギー源に変換した航空が可能となったのである。
 しかし【ヴァニラビット・レプス】は現在、魔法世界ではエスバイロを使っていない。グリフォンを試したこともあるが、もっぱら小型の騎竜を気に入り利用している。
 郷に入っては郷に従えという考えからではない。
 端的にいって、魔法駆動のエスバイロは乗り心地がちがうのだ。エンジンのリズムが異なるし、曲がるタイミングにも特有のクセがある。せいぜいコンマ数秒の差とはいえ、制動が遅れがちなのも気になった。それにアニマ――飛空世界の住民が共生するパートナー――にマシン制御を任せられないのは致命的だ。遊覧飛行するなら現状でも十分だが、業務につかうにはいささか心もとない。
 それよりは竜のほうがいい。生物ゆえ直感には信頼がおけるし、気心が通じれば人騎一体、加算ではなく乗算に近い能力を発揮してくれるのだから。
 したがって本日も、ヴァニラビットは鞍を置いた竜にまたがっているのである。真冬の寒さはあの世界もこの世界も同じだ。刃みたいな風が頬をなで、長く黒い兎耳も凍てつくが、むしろこれぞ空ゆく醍醐味と満喫する。
 風にはためく制服は真紅、背には大きな白いずた袋、これがヴァニラビットが代表を務める『サンタクロース運送』のトレードマークである。宅配業者数あれど、異世界まで配達可能な業者は他にはない。いまもヴァニラビットにとどまらず多数の社員が、荷受けに配達に大活躍していることだろう。表の顔は運送業者、しかし真の顔は弱きを助け強きをくじく義賊『ヴァニラビット空賊団』である。信義を果たさなかったことは一度もない。いまや彼らは、両世界を結ぶ架け橋なのだった。
(さてさて久々のおでまし。たっぷり稼がせてもらおうかしら)
 世界の接続線はいまだ不安定で、前回の来訪から数ヶ月がたってしまった。けれど竜はヴァニラビットを覚えており、たちまち以前に劣らぬ働きを見せてくれた。のんびりしているといつまた両世界の往来ができなくなるやもわからない。できるだけたくさんの配達先をまわろう。
 砂漠を渡り密林に降り、岩山の街に飛来して、南海の孤島にも足を伸ばした。
 やがてヴァニラビットは竜の首を、辺境の伯爵領へと向けたのである。
「元気だった?」
 配達の依頼だった。荷主の若き伯爵は旧知の女性である。ヴァニラビットと外見が似ているわけではない。性格だってきっと異なるはずだ。けれども魂の匂いというか、相通じるものを感じる女性だった。ともにした時間はそれほど長くない。だが彼女には生き別れの姉妹のような、縁(えにし)があるように思えてならない。
「……そうまで頼まれちゃ断れないよ。大丈夫、任せて」
 荷を引き受けて袋にしまうと、ヴァニラビットは竜とともに空に舞った。
 去り際に二度、ヴァニラビットは伯爵の頭上を旋回した。
(また会おうね。今度は、もっとじっくり話したいな)
 心の中で告げ、飛び去る。
 
 いよいよこの日最後の配達である。
 ヴァニラビットはフトゥールム・スクエア内宿舎の、飾り気のないドアの前に立っていた。ノックするも、
「着替えの途中だ」
 ドアの向こうからは険のある声が返ってきただけだ。開く気配はない。
「届け物? 人ちがいだろう」
「まちがいないよ、【ネビュラロン・アーミット】先生……ってこの部屋でしょ?」
 ヴァニラビットはずた袋をさぐる。
「あなたの元教え子から贈り物。こっちじゃ普通の宅配は受けつけてないんだけど、どうしてもって頼まれてね」
 ヴァニラビットが告げた差出人名に、扉越しの声がやわらいだ。
「ああ――」
 ドアがほんの少しだけ開き左腕だけが出てきた。
「もらおう」
「受け取りのサインを」
 左手はヴァニラビットが差し出したペンを取り配達票に名を残した。左利きにしては動きも文字も生硬な気がした。右利きの人物が左手で字を書いているようでもある。
「確かに。はい、どうぞ」
「ありがとう」
「メリークリスマス」
 ネビュラロンは姿を見せないままだが、扉のむこうで戸惑っているのがわかった。ややあって彼女は、おずおずと告げたのである。
「……メリークリスマス」
 腕とともに荷物は室内に消えた。
 託された中身はヴァニラビットも知っている。武具などお礼の品と、幸せそうな一家を描いたポートレートだ。
 これで自分の役目は終わりだ。けれどヴァニラビットは、扉の前から動くことができなかった。
(変な感じね。ネビュラロンって人、話してると懐かしい人を思い出す……)
 警戒心をあらわにしたとげとげしい口調。尖(とが)っていないと傷つけられるのではないかと怯えているような。けれどまれに、照れたような素顔をのぞかせる。
 そんな人をヴァニラビットは知っていた。しかし記憶のなかの人物はすでに故人だ。
 彼女を殺した人物は、誰あろうヴァニラビットなのだ。あのときはそうするほかなかった。
 ヴァニラビットは現在でも、彼女の最期を夢に見る。
 ――絶望の表情を浮かべたまま、彼女は奈落(アビス)に墜ちていった。
 ありえない仮定もする。
 彼女が乱心するより先に、自分が支えていたなら。
 追い詰めることなく寄り添うことができていたなら。
 悲劇は避けられたかもしれないのだ。
(やめよう)
 結論の出ない問いだ。時間は巻き戻せない。戻すべきでもない。 
 立ち去りかけたヴァニラビットだったが、思い出して扉の前にとって返した。
「荷主からメッセージも頼まれてたんだった。聞いてもらっていい?」
 ドアは開かないままだったが、聞こう、という返事があった。軽く咳払いしてヴァニラビットは告げる。
「――私は『私』として生きられそうです。先生の未来はどうですか?」
 しばらく無言の時間が流れたが、やがて、
「フィリ……」
 ドアが開いたのである。
 首からタオルをかけ、ロングスリーブのTシャツという格好でネビュラロン・アーミットは凍り付いていた。
 ヴァニラビットも同じだ。動けない。
(まさかとは思ってた)
 だがそのまさかだったとは。
 彼女はネビュラロン・アーミットではない。少なくともヴァニラビットにとっては。
 ヴァニラビットにとっては【リン・ワーズワース】である。
 飛空挺世界の英雄。アビスの記憶に心を侵食され、テロに加担しようとした叛逆者。裏の顔を暴かれることのないまま、世界を救うため殉じたと信じられている虚構の人。
 リンを手にかけた贖罪のつもりでヴァニラビットは口を閉ざし、軍に戻ることなく空賊をつづけた。
 そのリン・ワーズワースが立っていたのだ。異世界に転生した姿で。彼女の頬の深い傷は、ヴァニラビットが残したものである。
「……会いたかった、ヴァニラビット」
 リンの目尻から涙が伝い落ちた。
「私も」
 リンはドアを大きく開ける。
「中で話さないか?」
「ええ」
 ヴァニラビットは言った。
「その前に教えて……リン。さっき、キミは送り主になんて返答しようとしたの?」
「希望」
 リンは静かにほほえんだ。
「私は未来に希望をいだいている、そう言おうとした」



 物心ついたころ、僕は妹に抱っこされるのが何よりも好きだった。
 字の書き方も妹に教わったし、おねしょをしたときも、いつも妹に下着を替えてもらったものだ。
 これがおかしな状況だとわかったのはもっと年とってからだ。かなりたつまで僕は、『妹』というのは友達の言う『おかあさん』と同じものだと思っていた。
 僕の名はルル・メメル。僕よりずっと『年長』の妹はフトゥールム・スクエア理事長のメメ・メメルだ。
 もともと、メメと僕とは双子の兄妹なのだそうだ。でもある事件がきっかけで僕は赤ん坊の姿になって、それまで二千年以上成長を止めていたメメは、年も取るし病気もする肉体へともどったんだ。
 ……うーん、突拍子もない話をしているという自覚はある。でもこれはまぎれもない真実らしい。『らしい』と書くのには理由もあって、このあたりの事情については、当事者中の当事者なのに僕にはまったく記憶がないのだ。(くわしく知りたいという人は僕なんかに尋ねるより、当時『魔王決戦』の場にいた人に聞くほうがよっぽどちゃんとした知識が得られると思います)
 運命の日から十五年近くがすぎた。
「おはよう」
 眠い目をこすってリビングに入ると、台所でメメがフライパンに向かっていた。
 メメが手首のスナップをきかせ親指と中指をパチンと鳴らすと、コンロにボッと火がともった。手際よく左右の手で卵をひとつずつ割って落とした。よりそった二つの黄身が、フライパンの中央でジュウジュウと音を立てる。右手の薬指と中指をこすって、メメは火加減を調節していた。朝食は目玉焼きらしい。
「歯はみがいたか? すぐできるからな♪」
 僕にとってはごく当たり前の光景なのだが、ときどきタカチはメメを見て、よくぞここまで――などと感慨をもらす。例の魔王決戦の影響で、メメは普通の人間になると同時に、魔法がまったく使えない身のうえになったのだそうだ。それからメメはフトゥールム・スクエアに入学し、数年間は理事長兼学生として勉強をつづけ、いまでは基本的な魔法程度くらいなら使いこなせるようになったのだという。
 あ、『タカチ』の説明を忘れていた。
 タカチというのはメメの夫だ。【仁和・貴人】というのがフルネームで、メメは『貴人たん』と呼んでいる。だけど甘えるときは語尾をうんと伸ばして呼び捨てにする。夫婦は連れ添ってもう十五年になるというのに、ときとして見ているこちらが気恥ずかしくなるほど仲がいい。
 言葉を覚えたてのころ、僕も『タカトタン』と言おうとがんばったそうだが、どうしても舌足らずで『タカチ』になってしまい、以来ずっとそう呼んでいるのだった。なお、メメ同様に『タカチ』も、世間でいう『おとうさん』と同じ意味だと僕は思っていた。
 そのタカチが、ミトンをはめた手でアツアツの鉄板を運んできた。
「今朝はうまく焼けたぞ」
 香ばしい丸パンがいっぱいにのっている。おいしそう! ぷっくりとふくらんでいて、見ているだけでお腹が鳴りそうだ。このところタカチはパン焼きに凝っていて、毎朝早起きして窯(かま)とバトルしている。勝率は六割をちょっと上回るくらいだ。
「ララとロロはまだかや? おにいたま起こしてきてくれ」
「うん」
 と席をたったところで、あいついでふたりが顔を見せた。
 名前は【ララ・メメル】と【ロロ・メメル】、僕からすれば姪と甥だ。でもララとは四つしか離れていないし、ロロだってせいぜい七歳差だ。だから姪甥というよりは、きょうだいだと思っている。実際僕らは仲の良い三人組だろう。バランスもとれている。ララとロロがケンカすれば僕が仲裁するし、僕とララが言い争いになるとロロがさりげなく取り直してくれる。そういえば僕とロロとが険悪になったことはないが、そのときはきっとララの出番となるはずだ  
 ララは黒髪で目鼻立ちもタカチに似ている。ロロのほうは銀髪でメメ似だ。けどふたりとも、両親の要素をちょっとずつ受けついでいた。ララは魔法が得意でロロはグリフォンの飼育に夢中なのだ。ララは初級魔法はほとんど覚えてしまったし、ロロのグリフォンは先日コンテストで一等賞をとった。自慢のきょうだいといっていい。
「また仮面つけてる~」
 ララが弟を見て眉をしかめた。若いころタカチは灰色の仮面をずっとかぶっていたそうだ。目は黒い円だけど口は笑っていて、かわいいような怖いような不思議な仮面だ。これをロロは気に入って、気がつくとかぶっていたりする。もちろん現在もロロは装着ずみで、
「ロロ様のお通りだ!」
 などと胸を張っていた。あきらかにサイズが合っていないというのに。
 タカチは魔王(どうやらそれは僕のことだったようだが、いまひとつピンとこない)との戦いでもこの仮面をかぶっていたという。そんな思い出の品だろうに、タカチは特に気にする様子もなく、
「食べるときは外せよー」
 とだけ言って、皆の皿にパンと作り置きのポテサラを盛り付けていった。歴戦の仮面はこのところ、血や火炎ではなくタルタルソースや、はねた牛乳で汚れるばかりだ。
 僕らが住んでいるのは学園郊外、レゼントの片隅にある小さな家だ。タカチとメメが新婚のころから住んでいるそうだ。ロロもフトゥールム・スクエア幼年科(何年か前にできた。小学校と呼ぶこともある)に行くようになり、学用品やら何やらで手狭になってきたので、そろそろ引っ越そうかとタカチは言っている。
 引っ越しには僕も賛成だ。もっと学園に近いほうがいい。というのも、僕の家にはルールがあって、朝食と夕食だけは家族全員でそろって食卓につくことにしているからだ。もちろんメメないしタカチが出張などで不在時は別だけど。まだ小さいララやロロはともかく、僕はもう十五なのである。友達と遊んだりしてつい時間を忘れ、遅い時間に帰宅することもある。ところがそんな場合もタカチやメメはもちろん、ララも幼いロロも黙って待っていたりするのだ。正直とても……気まずい。だから家が学園に近くなれば、外遊びの時間もいくらかは増えるはずだと思う。
 今日は休みだけど、とトロリ半熟の黄身にナイフを入れつつメメが言った。
「みんなで学園に行くゾ☆」
 タカチも笑顔でうなずいている。ララとロロ、それに僕の頭の上にはでっかい疑問符が浮かぶだけだ。
「……あッ」
 察しのいいララが最初に気がついた。
「ということは」
 でも僕とロロの頭上のハテナ記号はまだ溶けない。次にひらめいたのはロロらしい。
「完成したんだ!」
 完成――? 遅まきながら僕も手を打った。
「広報館の……!」
 こうしてはいられない。僕は大急ぎでパンの残りを口に詰めこんだ。

 最初の選挙には負けてしもうた。
 次もじゃ。
 それでもわちき、いや、私【ドーラ・ゴーリキ】はあきらめんかったぞ。
 三度目の挑戦にしてついに当選したのじゃ。いまや町から市に昇格したズェスカの……市長に!
 権力者として力をふるいたかったからではない。復興したとはいえ、一度はズェスカの温泉を枯らしたのは私、その罪をあがなうべく市のために身を捧げたかった。
 物事は興(おこ)すよりも維持するほうが難しいという。観光都市としてよみがえり、多様性と公平性の理想郷とうたわれたズェスカがじつは、薄氷の上でタップダンスを踊るようなきわきわの財政状態にあったとは。わかっているつもりじゃったが、いざ執政職につくまでここまでひどいとは思っておらなんだ。
 課題は山積み、公務も山盛り、市長職は目が回るほど忙しく、充実していたのはまちがいないが、恋人につかう時間などどこにもなかった。おかげで私は現在フリー、ありていに言えばフラれたわけじゃよ。
 増税など市民に恨まれることもした。議会ともしょっちゅうやりあった。じゃが交通網の整理、フトゥールム・スクエアにとって初の分校となるズェスカキャンパスの創設など、自画自賛するわけではないが成功した政策も多いと思う。市長職も二期目に入ったいまでは、多少は息をつけるゆとりもできた。あとは私生活の充実じゃが……まあこればっかりは、な。
 そんな春の日、朗報が入った。
 親書を手渡してくれたのは学園の偉大な先輩、勇者として、また教育者、政治家としても名高い彼じゃった。
「わざわざ来てくれたことに感謝する。【タスク・ジム】殿」
「いえ、いまは【タスク・シーネフォス】です」
「そうじゃったな」
 私は頭をかいた。
「昔なじみの顔を見ると、どうも記憶が混乱してしまってのう」
「はは、僕もですよ。つい【怪獣王女】さんと呼びたくなってしまう」
 私の記憶がもつれてしまうのも仕方ないとわかってほしい。魔王決戦からもう十五年も経つというのに、タスク殿は学生時代とほとんど見た目が変わらないのだから。
 リーベラント王の妹、公女【マルティナ・シーネフォス】と結ばれたタスク殿は、王家の勤めをサポートしながら学園教師としても活動しておる。国際貢献活動と次代勇者の育成、けっして楽ではないこの二刀流を、精力的にしかし地道につづけているのだ。学園とリーベラント間を、グリフォンの早便をつかい往復する毎日だという。
 教師としての担当教科は剣技、軍略、行政学、そして歴史学と幅広い。とりわけ歴史学については、二千と数十年前の魔王大戦から現代につづく人々の団結の歴史を、風化させないよう啓発につとめているそうな。
 タスク殿にうながされ親書を開いた。
「おお、ついに……」
 長かった。ずいぶんかかったものだ。いや、急がずじっくりと進めたがゆえ、これだけの時間がかかったのは必然じゃった。
 フトゥールム・スクエア(本校)からの招待状だ。学園長コルネの自筆で『万障お繰り合わせの上ご参加願います』とある。
「当然じゃ。万障じゃろうが億障じゃろうがなぎ伏せようぞ!」
 大きな文字で『参加』と書くと、親書の返答をタスク殿に手渡した。
 学園を訪れるのはいつ以来じゃろうか。
 門をくぐって石畳を踏めばそれだけで、本来いるべき場所にもどった気がする。気持ちもよみがえった。制服を着てとんがり帽子をかぶって、マントをなびかせて歩いていた頃の気持ちに。体はずっと小さくて、知識も考えも未熟のきわみであったが、希望だけはいくらでも、それこそ分けあえるくらいわいてきていた時代じゃ。
 ……ただ、学生気分にひたってはいられなかった。
「市長、まずは各国VIPに挨拶に行きませんと」
 第一秘書が耳打ちし、せっかくの気分をふきとばしてくれた。
 にしても無粋な立場になったものよ。公式来賓ゆえ秘書だの市会議員だの、ぞろぞろ連れていかねばならぬ。もちろん制服を着るわけにもいかんので、肩ばかり凝るスーツ姿じゃ。
 仕方なくやるべきことを(笑顔ですばやく)済ませ、にぎわいにまぎれて私は学園内に紛れこんだ。待機場所として用意されたのは講堂じゃったが、学生や教師でにぎわっておるならともかく、同席するのがしかめ面のお偉方ばかりでは息が詰まるわい。
 秘書に追ってこられては困るので、私は無軌道なルートを進んだ。勝手知ったる校内だ。抜け道ならいくらでも知っておる。かつて遅刻対策として編み出したルートじゃが、まだ使えるとはちょっとした驚きじゃった。
 振り返り振り返りして安全を確認すると、やれやれと上着を脱いで小脇にかかえた。
 今年の冬は長かったゆえか春の気配も遅まきじゃが、さすがに走ると暑くなる。桜もおおかた咲きつつあった。あと一週もすれば満開じゃろう。
 式典まで時間はある。歩こう。
 懐かしい教室をのぞいた。体育館と呼ばれるコロセウムの席に座り、学食の窓からテーブルを見つめた。
 今日学園は休校日じゃ。でも目を閉じるだけであの日あのとき、授業でうつらうつらしコロセウムで怪物と追いかけっこして、学食の列にならんでいた日々がありありと思い出された。何百人何千人の生徒たちのざわめきも聞こえる。こっそりとりかわした恋文の感触、定食の分厚いカツレツの香りと歯ごたえもすべて、昨日のことのように。
 だがそんな学園にも、変化が訪れようとしている。
 本日の除幕式は、学園長がコルネに代替わりしてからのフトゥールム・スクエアの集大成的なイベントとなろう。
 コルネ学園長は今年限りで職をしりぞく考えと聞いている。教師はつづけるつもりのようじゃが、要職は任せたいということだ。後任者についてはまだ調整中ということしか伝わっていない。初の男性学園長として【ゴドワルド・ゴドリー】の名が取り沙汰されているが、【ユリ・ネオネ】という説も有力だ。――立場的に口出しはせんが、私ならユリを推したい。ゴドリー学園長というのも、まあ面白そうではあるが。
 やわらかな風が鼻をくすぐった。見上げれば白い桜の花弁が、くるくると渦を巻いている。
 いい風じゃな。
 わちきはふと、旧友のことを思い出した。だがすぐに、
「あっ!」
 背後から声がしたので首をすくめた。
 秘書に見つかった――!? もう少し学園を散策したいのに。
 しかし安堵の息をつく。
「フミにシオンか? 大きうなって」
 しゃがんでホレと腕をひろげると、シオンは迷うことなく、フミはほんのちょっと遅れてわちきの胸に飛び込んできたのだ。
 子どもたちの名は【フミ・シーネフォス】と【シオン・シーネフォス】、タスク殿とマルティナ殿下の娘と息子で、ちょうど十歳の双子じゃ。
 フミはマルティナ殿によう似ておる。猫のルネサンス族で黒髪、八重歯が短いキバみたいじゃ。
 シオンのほうはタスク殿似じゃな。丸顔で父親よりはつり目、コロコロとよく笑う。
 しかし性格のほうは逆に、姉のフミのほうが学究肌で几帳面、目標を定めて黙々と独力するタイプだという。弟シオンはいつも太陽のように明るいが、考えずに行動しては周囲をてんやわんやさせているようじゃ。口調についてもフミはタスク殿に、シオンはマルティナ殿そっくりなのが面白い。
「どうしたんですかドーラおばさま、広報館はむこうですよ」
「せや、迷子になったんちがうん?」
「なんの、学園はおばちゃんにとっても古巣じゃよ。準備の邪魔をしてはならんと思って、なつかしの学園を散歩しておったのじゃ」
 といってもそろそろ、会場入りしたほうがよさそうじゃ。私(……いや、やっぱり『わちき』のほうがいいな。学園に来ると昔の口調のほうがしっくりくる)は、左右にフミとシオンの手をとって、離れていたあいだのよもやま話を聞きながら、フトゥールム・スクエア広報館を目指すことにした。
 広報館は魔王と勇者たちの戦いの歴史を伝える博物館じゃ。学生時代は授業でたびたび訪れたものの、こうして来訪するのは久々である。
「おう、ドーラたん☆」
 会場でメメル一家と顔を合わせた。かつての大魔法使いメメ・メメル殿と、夫の貴人殿、そして三人の子どもたち。ルル、ララとロロだ。ルルが貴人とメメルの息子ではなく、本当はメメルの兄というのは誰もが知ることだが、ルルが赤子に転じたころから知っているわちきからすれば、やっぱり貴人・メメル夫妻の子のようなものじゃよ。実際、ルルは話し方も貴人殿に似ておる。血がつながっていないのが不思議なくらいじゃわい。
「久しぶり、市長」
「貴人殿も元気そうだ。また家族でズェスカの温泉旅行に来てくりゃれ」
「ちょうどその計画を立ててたんだ」
 と立ち話をしていたところに、目を引く一団が入ってきた。リーベラントの使節団ではないか。
「アントンおじさん! ロドリーゴおじさん!」
 ララが嬉しそうに声を上げた。わちきの元同級生(学業的にはライバルでもあった)のアルバ翁も一緒じゃわい。カストル先生もおるではないか。気になるのは先生にエスコートされておるあの美しいあの少女じゃ……まさか!?
「あなたがドーラ・ゴーリキ市長ですね。メルセデス・シーネフォスです。お初にお目にかかります」
 やはり! それにしてもなんと、ベイキ殿と生き写しではないか。
「会うのはベイキ殿の葬儀以来となるな。なんと大きくなったことか……」
「同じ王女同士、仲良くしてくださいね」
 ユーモアのセンスも母親ゆずりかもしれん。
「といってもわちきのは自称じゃったからのう~」
 苦笑いしていると、ついに除幕式がはじまったのじゃった。司会のタスク殿が言う。
「十五年かけて銅像が完成しました。二千二十二年後の魔王決戦、その前後数年の動乱と団結の時代――魔王戦役にかかわった勇者たちの銅像です」
 ご覧くださいと言ったのはコルネ学園長じゃ。夫君の姿もあるな。あいかわらず似合いの夫婦よ。
 ひととおり式辞が終わるとついに広報館の前、大きくかけられていた白い幕がとりのけられた。
 ああ――。

 銅像設置の計画から製作、完成まではじつに十五年もの時間がかかった。
 魔法をつかって一瞬で完成させることもできたかもしれない。だがフトゥールム・スクエア有志たちは、像のモデルとなる人々の姿をなるだけ忠実に再現し、しかも永い時代残るものを完成させるべく少しずつ作業にかかった。
 魔王戦役にかかわった英雄たちは数百を超える。戦いの中で命を落とした者もあれば、像の完成を待たずして天寿をまっとうした者もいる。異世界に去るなどして、この場に来られなかった者も少なくない。いまこの除幕を見守る者であっても、像はその十五年前の姿である。
 だが現在はもちろん、百年後二百年後、あるいは千年後の人間であっても、像を見れば在りし日の彼ら彼女らの姿を知ることができるだろう。実在の人物であるかのように、息吹きすら感じられることだろう。
 勇者たちは、ここにいる。

 除幕式が終わると、めいめいが自由に勇者たちの像を鑑賞した。敬意、友情、あるいは恋心、さまざまな情感をこめて。
 戦死した【マグダ・マヌエーラ】の姿を、学園生【エスメ・アロスティア】が見つめている。
「わたしは、あなたの分も生きます」
 エスメは手を伸ばし、マグダの冷たい手にふれた。十五歳になったエスメは彼女の伝承を聞いていた。
「教え子だった時期はごく短いが、忘れられん子だよ」
 翼もつ【メアリ・レイン】の像の前でメメルが言うと、そうだねと貴人はうなずいた。なお、若い頃のメメルと貴人の像も、手を取り合ってならび立っていることも忘れずに書いておきたい。
 トレードマークの巨大ハンマーを持つのは遊星からやってきた勇者【アルフィオーネ・ブランエトワル】だ。
 かつて敵だったとはいえ、【ジョン・ドゥ】と【ジャック・ワンダー】、さらに【ルガル・ラッセル】についても、銅像のなかに加わっていた。ルガルとともにあるのは、紆余曲折を経て彼と結ばれた【フィリン・スタンテッド】である。
 つくづくと像を眺めていたマルティナが、ある像の前ではっとしたように足を止めた。
「……ほんまよう似とうな、あのひとに」
 マルティナがタスクの姿を探したとき、
「この人、知ってる!」
 ティーンエイジャーらしいヒューマン族の学園生が大きな声を上げた。ドーラが首をかしげる。
「はて? そなたの齢(とし)では知らんはずじゃぞ? この勇者はな、魔王決戦の日から消息を絶ってしもうた」
「そんなことないです。オレ見たんです。たしかに会って話をしたわけじゃないけど……夢のなかで何度も」
「夢で?」
「はい」
 自信ないけど、と少年は足もとに視線を落とした。でもドーラは笑い飛ばしたりしなかった。
 かわりに尋ねたのである。
「そなた名前は」
「レミール……【レミール・エル】と言います。去年入学したばかりです」
 少年は慌てた。急に目の前の婦人が、ぽろぽろと涙をこぼしたからである。
 しかしドーラの涙はすぐに乾いた。
 あたたかな春風が、その目をぬぐってくれたから。こぼれた想いを乾かしてくれたから。
「はは、急に泣いたらいかんな、不意打ちだったものでのう」
 ドーラは風に語りかけると、あらためてレミールに告げたのである。
「驚かしてすまんかった。レミール、その名前は知っているよ。『エル』の由来も」
「オレの名前を? ということは……」
 皆まで言うなとドーラは言った。
「しからば語って聞かせようぞ。わちきの親友にして恩人、【エリカ・エルオンタリエ】の物語をな」 



 銅像作製計画がもちあがったとき、完成までには戻れるかなとわたしは思った。
 十数年の時間を要するって話だったから。
 それってとっても甘い見立てだったんだけどね。甘い甘い、それこそプリンを入れたラーメンみたいに!
 メメル理事長がお別れパーティを開いてくれるって言ったけど、そこまで大げさでなくてもと、学食でちょっとした食事会をするにとどめてもらったっけ。最初はその食事会だっていらないと言うつもりだった。湿っぽい別れは苦手だったからかも。
 いよいよ会がおひらきというところで、集まってくれたみんなにわたしはこう言い残した。
「さよならは、言わないわ。また会いましょう」
 そのまま、振り返ることもなく転移装置にむかった。
 帰るんだ。元いた世界に。
 宇宙艦隊とレーザーガンのある世界に。
(ちょっとした里帰り。まあ十年ちょっとといったとこでしょう。銅像の除幕式、楽しみにしてるから)
 転移装置の光を浴びながら、わたしはそんなことを考えていたものよ。
 なのにまさか帰郷直後に、大戦争が勃発してしまうなんて!
 わたしの世界は、複数の恒星系による通商連合によって統治されていたの。連合といっても結束はゆるくて、対立構造や火種をかかえていることは知っていた。これにつけこむように銀河じゅうに宇宙海賊や悪徳惑星ブローカー、密輸業者が跋扈し、各所で騒動をおこしていることも。でも連合内ではCGF(コズミック・ガーディアン・フォース)って軍警察組織が目を光らせてきたから、秩序はたもたれてきたはずよ。まあ、これまでは。
 でも影で犯罪者グループたちはひそかに連合し、巨大な悪のギルドを形成していたの。彼らは目の上のコブたるCGFの弱体化に動きはじめていた。隊員の首に賞金をかけ、大量のスパイを送り込んで裏切り者を作ったりしてね。
 かくいうわたしもCGF隊員、帰投するや現状の情報収集をはじめていた。
 ギルドってヤバいかも――という結論を出したその日だったわ。連中が大銀河帝国を名乗り、CGFとその全加盟国に宣戦布告をしたのは。
 帝国はあまりにも強大だった。長年かけて準備していたので、うなるほど資金も軍事力もあったから。一方でCGFの組織はガタガタで、士気もあがらずひどいものだった。あげく意見がまとまらず政争まではじめたんだからどうしようもなかった。
 フトゥールム・スクエアでは魔王決戦、帰郷したら銀河大戦、ぜんぜん休むヒマがなかったわね。わたしは常に最前線に立ち、CGFの治療士として各所での転戦をつづけた。
 でも帝国がわの圧倒的優勢だったわ。自主的に帝国についた恒星系もあったりして、一時は銀河の四分の三が帝国勢力圏に入っていたくらい。負け戦がつづきすぎて、撤退戦のエキスパートになったくらいよ。
 二度の停戦をはさんで戦争は延々、百数十年間もつづいた。でもわたしたちには最後の希望があった。
 それが異世界転移装置ね。レゼントで開発されていたあれよ。魔法体系にとぼしいこっちでも作れたの。もちろんうんと時間はかかったけど。わたしもすくなからず協力したわ。学園での経験が役立ったってわけ。
 異世界つまりフトゥールム・スクエアの存在する世界(『ラコン・パルション』て呼ばれていたわ)との安定した往来が可能になったことで戦況は覆(くつがえ)った。
 前々から学園とCGFは協力関係にあった。門を通してわたしたちはものすごい援軍を得ることになった。学園生にも多数参加してもらったわ。
 宇宙空母であろうとも魔法の力の前には無力よ。レーザーガンは防護魔法のかかった鎧を射抜けないし、剣術を知らない帝国兵は、ブロードソードの太刀筋を読むなんてできやしない。
 フトゥールム・スクエアは帝国兵をほとんど殺さず、もっぱら捕虜にするにとどめたことも評判がよかった。占領地に非道な扱いもしなかったから、すすんで降伏した基地もたくさん出たくらい。
 残念だったのはわたしが、忙しすぎて学園と接触することができなかったことね。
 やがて帝国側は無条件降伏し、戦争は終わったの。戦後処理がはじまった。
 恨みを残したくなかったから、帝国首脳は厳しく罰したものの死刑にはせず、旧帝国領にも寛大な処置をほどこすにとどめた。秩序の回復には何年かかかったけど、やがてCGFのもと、通商連合はかつて以上の平和と安定の社会を取りもどした。
 もういいかな、と思ったとき、わたしがフトゥールム・スクエアを発ってからちょうど二百年が過ぎていた。
 
 わたしは、学園への謝意をしめすCGFの全権大使に任命されていた。
(十年ちょっとの里帰りのつもりが、とんだ長期滞在になっちゃったね)
 転移装置から降りた場所は、ちょうど学園の正門前だった。
 変わってないな、これがわたしの最初にもった感想。
 だって門柱のガーゴイル像も、大きな大きな学舎も、ぜんぶあのころと同じだったから。
(たしかこっちは勇者暦2222年……四つならびの数字なんて景気がいいじゃない)
 そんなことを思い鼻歌まじりに門をくぐって、ようやくわたしは場違いなものに気がついたわ。
 空間投影ディスプレイ。
 石畳の脇に、『今日の連絡』と表示されているものは、魔法技術ではなくテクノロジーの産物だった。
 他にもある。石造りのゴシック調でかざられているけれどワープポータルの入口が見えた。
 そうだ。
 そうだよ。
 二百年も経っているんだから。
 しかもわたしが、学園とCGFを積極的に交流させてしまったんだから。
 わたしは駆けだしていた。学園長室を目指したんじゃない。むしろ『学園長』に会うのが怖かった。
 だって……さっきディスプレイの片隅に見たんだから。『第十六代学園長』という文字を。
 メメル学園長が初代、コルネ学園長が二代目、なのに……第十六代、十六人目だなんて!
 無我夢中で走った。途中からは翼を広げ滑空していた。見知った制服の生徒が行き交っている。でも知っている顔はひとつもない。ただのひとつも。
 たどりついたのは『メメ・メメル記念館』と名付けられた建物だった。かつてフトゥールム・スクエア広報館があった場所の近くだ。煉瓦壁のプレートを読んで、魔王決戦百周年を機に建てられた新たな資料館だと知ったわ。広報館よりずっと大きい。かつての広報館にあった銅像や展示を移し、勇者暦元年からの歴史、とりわけ魔王戦役と呼ばれたごく短い期間の詳細を現代に伝えるものらしい。
 記念館前の銅像を見て、そこにいるたくさんの勇者、その在りし日の姿を眺めてようやく、わたしは理解したの。
 もう、みんないないんだって。
 各銅像の背には、わかっている限りの生没年が彫られていたわ。何人か読んでみたけど、胸が詰まってしまってすぐ読めなくなった。
 長い年月を生きてきたのだから、衝撃を受けるのはおかしいかもしれない。でもわかった。
 わたしにとって、学園で過ごした日々は『特別』だったんだって。
 このときひとりの女の子が記念館から出てきた。真新しい制服、きっと新入生なんだろう。銀色の髪、幼い顔つき。
 女の子は行きすぎかけたけど足をとめ、気づかわしげな顔でわたしを見ていた。
 よぽどわたしが、打ちひしがれているように見えたのかな。
 わたしは彼女を知らない。でもなぜか、彼女とは初めて会った気がしなかった。
 だから思わず、ハグをしてしまった。
「また、会えたね」
 なんて言って。
 聞き流してくれてもよかったんだ。でも彼女は、
「ええ」
 とわたしの背中に腕をまわしてくれた。
「お帰りなさい」



====アンコール====

 勇者たちの銅像を風が凪いだ。
「あれ……?」
 タスク・ジムの像が動いている。いや、像ではない。彼自身だ。
 驚いて自分の手を見ている。ちょっと透けているが、握って開いてできるではないか。
「これって……?」
 と横を見たタスクは、そのまま失神するのではないかというほど仰天した。
「エリカ部長!?」
「みたいね」
 さっきまで銅像だったエリカ・エルオンタリエである。こうした事態は想定していたのか、とくに驚く様子もなく落ち着いている。
「部長~!」
 タスクは顔をくしゃくしゃにした。
「お元気でしたか! ぼ、僕は……!」
「知ってるわ。幸せそうで、私も嬉しい」
「でもこれってどういうことなんでしょう? 僕たち……」
 というタスクの言葉をついだのは朱璃・拝だ。
「本人ではなくやはり銅像のようですわね。こめられた想いが概念として、本人に準じる一時的な魂を得た、というような」
 武術にしろ芸術にしろ、道を究めた達人なら起こせる奇跡です、と朱璃は言うのである。
「なんだそういうことかー」
 腕組みして仁和・貴人が言った。
「オレ、ひょっとしたらあのあとすぐ死んじゃって、リバイバル化したのかと思った」
 なお貴人は、黒スーツに仮面というかつての姿だ。
「ないない、それない」
 とアルフィオーネ・ブランエトワルが言う。
「だってわたし、たぶんまだ生きてるし」
「お久しぶり」
 フィリン・スタンテッドが『概念たち』の輪に加わる。
「みんな色々あったみたいね。子どもができたり」
「……死んだり」
 ベイキ・ミューズフェスが、髪を乱しぬらりと姿を見せた。
「ちょ、ちょっと、おどかすのなしな! オレら概念だし」
 貴人がぶるぶると首を振った。
 ふふふと笑ってベイキはもとの姿に戻った。王妃にふさわしい美麗な姿へと。
 それにしてもと朱璃が言う。
「私たち、どうして概念化して出てきたのですかしら?」
「それはね、たぶん」
 エリカが前方に目を向ける。
「あのひとを、歓迎するためだと思うわ」
「ああ……」
 タスクも向き直る。前方――つまり、これを読んでいるあなたのほうを。
 なるほど、と応じたのはベイキだ。
「歓迎しましょうか、新しい仲間を」
「ですよね!」
「異議なし」
「やりましょう」
「では声を合わせて」
 とタスクが言ったとき、すでにエリカの姿は消えていたが、風の声が告げた。
《ええ、そうね》
 コホンと貴人が空咳をする。フィリンは胸のリボンの位置を直した。アルフィオーネも向き直って、
「せーの」
 ぴったりのタイミングで、七人はあなたに呼びかけたのだ。
「フトゥールム・スクエアへようこそ!!」
 と。



課題評価
課題経験:0
課題報酬:0
さよならは、言わない
執筆:桂木京介 GM


《さよならは、言わない》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2022-12-13 00:06:50
賢者・導師コースのエリカ・エルオンタリエよ。よろしくね。
こうやって集まるのもこれで最後ね。
今まで素敵な仲間と力を合わせてやってこれたことをうれしく思うわ。
本当にありがとう。

わたしは今回は15年後の学園を訪れるドーラさんの視点をお願いしようと思っているわ。
同じタイミングで参加する人がいれば、絡んでもらってもOKよ。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 2) 2022-12-13 00:15:28
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

コンテンツの開始からここまで皆様と共に走ってこられてとても素晴らしい思い出になりましたわ。今までありがとうございました。

私は10年後くらいで、お正月のシナリオで少し出した妹として参加しようかと。妹が学園に入学するという形で考えておりますわ。

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 3) 2022-12-13 02:28:32
教祖、聖職者専攻のアルフィオーネ·ブランエトワルです、わたしは元世界に一旦帰ります。二百年後、また会いましょう

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 4) 2022-12-13 12:58:33
遅刻帰国~!御無沙汰瘡蓋~!!
勇者・英雄コースのタスク・ジムです。
よろしくお願いいたします!

このご挨拶をするのも、最後なんですね~(しみじみ)
さみしい気持ちもあるけれど、タイトルにもある通り、湿っぽくならずに、楽しく!派手に!最後を飾りたいものですね!

取り急ぎ、ご挨拶のみにて失礼します。
プラン予定については、また後程お知らせします!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 5) 2022-12-13 12:58:41

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 6) 2022-12-13 20:55:50
勇者・英雄コースのフィリンよ。
今度こそ最後ね。みんなの物語、楽しみにしてる、

私は少しだけ先の話、ネビュラロン先生のところ…空の世界で出会った人がくると思うわ。
本人はまぁ、知らないと思うけどね

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 7) 2022-12-14 06:00:43
それでは、皆さんの行先をまとめてみますね!
今回については必要かどうかはわかりませんが、最後ですので・・・
連携やコラボのヒントになれば幸いです。

少しだけ先 フィリンさん
約10年後 朱璃さん
約15年後 エリカ部長さん、タスク
200年後(に再会か?) アルフィオーネさん(異世界帰還)

タスクの行動としては、15年後に、この世界からいなくなった人の銅像を建てます!
エピ参加者では、エリカ部長さんとアルフィオーネさんが該当するようですね。
覇王六種さんたちの力を借りれば15年と言わず一瞬で出来ますが、そうではなく、15年かけて、魔王戦役を忘れないように、戦った人が英雄と称えられるように啓発教育に力を入れ、多くの人を巻き込んで銅像を建てたいのです。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 8) 2022-12-14 08:28:00
急いで書いたので、読み返してみると、言い方が雑すぎたようです…
大変失礼しました。お詫びして訂正しますね。

この世界からいなくなった人、とだけ書くと大変ショッキングな感じがしますが、
具体的には、魔王戦役により消滅してしまった方や、魔王戦役後に異世界に旅立ち、戻らない選択をした方など、ということになります。
PCや味方NPCに前者は見受けられないので、後者ということになります。
後者のPCには七伽陣さんなどもいらっしゃいますが、今回エピ参加ではないPCさんは描写が難しいと思うため、お二人を名指ししてしまった次第です。

そして、銅像を建てます!という言い切りではなく、建てたいと思います!という主張にさせていただきます。
つきましては、「あたしも銅像キボンヌ」「いや、それがしは銅像など遠慮つかまつる」など、ご希望を教えていただいたら助かります。

なお、15年後に学園かこの世界に存在してる方は銅像対象外と思ってますが、ご希望があれば検討します!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 9) 2022-12-15 12:59:24
せっかくですので、この場を借りて、

「未来の設定または裏設定を披露する会」

を、プランとは別で、やってみたいのですが、いかがでしょうか。

例えば、ご自分の◯年後の姿や、子供や孫や子孫の設定など!

単純に、自分が語りたいのと、皆様の未来設定を聞きたい、というのがあります。
そして、最後なので!!
未来を語って明るく終われたらな、というのもあります。

良かったら、ここでの書き込みという形でご参加いただければ幸いです。

もちろん、元々プランで登場させる予定の子孫をご紹介、なども大歓迎です!

(言い出しっぺの自分のは、時間ができ次第書き込みますね!)

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 10) 2022-12-15 19:53:24
「未来の設定または裏設定を披露する会」
二百年後
容姿∶変わらず
年齢∶14歳と24万7000ヶ月
未婚·養子1名

元世界に帰還したが、数年後には学園に再び訪れるつもりでいた。しかし、大戦争か勃発。終結に二百年を要してしまった


《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 11) 2022-12-15 20:37:41
未来の設定ですか。卒業後世界を回って強い奴に会いにいっておりましたが、父が亡くなった為約10年後の時点では拝一族の集落の長になっておりますかしら。多分時折学園を訪れてはコルネ先生と手合わせしていると思いますわ。いつの間にか自分が「会いに行く」強い奴になっていた、という所でしょうか。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 12) 2022-12-16 12:41:39
素晴らしい!そーゆーのをお聞きしたかったんです!
なんたがわくわくしますね!

アルフィオーネさん、大変だったのですね!
200年にも渡る大戦を終結に導くなんて、大変な偉業です!

朱璃さんの、その逆転の展開は、超熱いですね!
コルネ先生との手合わせは、タイミングがあう時にはまたタスクも立ち会いたいです。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 13) 2022-12-17 00:22:18
あの時はタスク様とルル様に立ち会っていただいて感謝しますわ。タイミングが合うようでしたら是非。やはり超えるにはまだまだ高い壁ですけれど。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 14) 2022-12-17 13:23:42
もし、時代の縛りがなかったら、今回も立ち会いたかったですが…
裏設定または妄想設定の中では、たびたび立ち会ったことといたしましょう!

「実況は私タスク・ジム、解説はルル・メメルくんでお送りします」
ルルくんの解説が会うたびに切れ味を増していそう、などの場面が浮かびますね(笑)

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 15) 2022-12-17 13:24:42
【未来予想図】

タスク・ジム改めタスク・シーネフォス

二人のあり方についてマルティナ様とさんざん話し合った結果、タスクがリーベラント王家に入り、マルティナ様の王家の勤めをサポートしながら、国際貢献を軸足にする生き方を決意。
貴人さんからオファーを受けた学園教師は続行し、剣技、軍略、行政学、歴史などを担当。特に、魔王戦役を乗り越えた団結の歴史を風化させないための啓発に力を注ぐ。
そんなわけで、リーベラントと学園をグリフォンで往復する日々。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 16) 2022-12-17 13:28:46
【未来予想図2】

魔王戦役から五年後に双子を授かる。

フミ・シーネフォス【「文」書事務】
マルティナ様の体質とタスクの気質を受け継いだ娘。口調は敬語。
タスク譲りの事務能力で幼くして両親の政務を補佐し、アルバ議長も孫のようにお気に入り。

シオン・シーネフォス【文「書」事務】
タスクの体質とマルティナ様の気質を受け継いだ息子。口調は関西弁。
マルティナ様譲りのコミュ力と押しの強さを持ち、口調のせいか白尾刃先輩と妙に気が合う。後に臣籍降下を志願しジム家の血脈を残す。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 17) 2022-12-17 13:33:01
今回プランの予定としては、15年後、銅像の落成式に妻子を連れてくるという場面を想定しています。

一人称視点、他キャラ視点、といったオプションが魅力的すぎて、いくつもの案を目移りしてる状態です!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 18) 2022-12-18 11:09:39
あ、今回は私ではなく妹として参加予定ですわ。一応妹の口から私の近況が語られると思いますけれど。

タスク様はお子様がお生まれになるのですね。そういえば私は結婚しているのでしょうか。そのあたりはあまり考えておりませんでしたがそのうちするのでしょう。

ひとまず仮プランは提出しましたわ。妹の入学式、いきなりコルネ学園長に挑む予定ですが当然一瞬でのされますわね・・・。まぁ勝負そのものが目的ではなくその後の妹の決意表明のような物がメインですかしら。ちなみに妹の名前は藍香(らんか)ですわ。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 19) 2022-12-19 15:29:31
ギリギリになってすまない。
俺も15年ほど後の未来のお話だ。
視点はちがう人物だな。

未来予想図としては・・・
家族仲は良好で少し落ち着いたがやっぱり騒動というイベントをたまに起こすメメたんに微妙に振り回されつつも楽しい教師生活を送っている。
メメたんとの間に娘と息子、二人の子供を授かり良い子に育ったってはいる。
ってかんじか?

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 20) 2022-12-19 18:06:34
なるほど、妹さんがご登場ですね!
これはますます、立ち会うプランが書ければ良かったのにと思います!
今回は難しいですが、今後裏設定や妄想設定で是非立ち会(以下略)

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 21) 2022-12-19 18:10:12
貴人くん、そちらも娘ちゃん息子くんの構成ですね?
是非、お友達になれたらと思います!!

時は経ってもSSM(そこまでにしておけよメメタン)案件は健在なのですね!

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 22) 2022-12-19 19:36:38
ご挨拶が遅れ申し訳ありません。教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。

最後までギリギリで申し訳なかとです。
たぶん、娘か孫かの視点で、過保護すぎるパパンの監視網からどうやって抜け出して、冒険の旅に出ようか……とか、思案してそうです。

年代は未来の方向で。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 23) 2022-12-19 19:38:27
あ、アルバ貴族院議長はたぶん抱き込み済みでしょう。
人生だけでなく、学園の先輩としても期待しております。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 24) 2022-12-19 22:13:04
ベイキさんは未来で、娘さんかお孫さんが登場ですね。
きっと、大物であろうと察します。ミゲル様もアルバ議長もメロメロでしょう。

もう出発寸前で恐縮ですが、まとめてみますね!
こうやってまとめるのも最後かと思うと、感慨深いですね・・・。

少しだけ先 フィリンさん
約10年後 朱璃さん(妹さんで登場)
約15年後 エリカ部長さん(ドーラさん視点)、貴人さん(どなたかの視点)、タスク
約??年後 ベイキさん(娘さんかお孫さんで登場)
200年後(に再会か?) アルフィオーネさん(異世界帰還)

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 25) 2022-12-19 22:55:08
プランの中に、「PCの子どもたち同士で交流大歓迎」と書いてみました!
未来がキラキラするような尊い交流が見られると良いなと思います。

これで、最後の最後の最後のプランですね。
皆様とご一緒できて幸せです。
本当に、本当にありがとうございました!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 26) 2022-12-19 22:55:25

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 27) 2022-12-19 23:49:55
もうすぐ出発ですわね。お互い最後のシナリオをめいっぱい楽しみましょう。それではまたいつかどこかでお会いいたしましょう。