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新たな精霊王


ストーリー Story

 精緻な巨大魔法陣。
 見る者が見れば言葉を無くすほどの代物だ。
 それが今、学園の運動場に敷かれている。
 目的は、ただひとつ。
 新たなる精霊王を生み出すことだ。

◆  ◆  ◆

「問題は無いと思うゾ☆」
 運動場に敷かれた魔法陣を検分した【メメ・メメル】に、異世界人である【メフィスト】は返す。
「お墨付きをいただきましたー。これで安心して儀式を進められますよー」
 メフィストが声を掛けたのは、【アンリ・ミラーヴ】と魔法犬【ココ】。
「あとは霊玉を精霊王の人達が持って来てくれればー、いつでも精霊王への転化の儀式を始められまーす。」
 メフィストの言う通り、これから行われるのは新たなる精霊王を生み出す儀式だ。
 霊玉の魔力を精霊王達により全て引き出して貰い、魔法陣に注ぎ込むことで実行される。
 新たなる精霊王が産まれることで、魔族のようにこれまで精霊王の加護を得られなかった種族にも加護を与え、霊玉の力を消費し尽くすことで、霊玉の核となっている勇者達の魂を解放し、赤ん坊として初期化することで新たな生を与えようとしていた。
 それを実現するために必要なのは、精霊王になり得る器を持ったモノであり、今ここにいるココこそが、その資格者だった。
「最後の確認になりますがー、本当に精霊王になるつもりがありますねー?」
 メフィストの問い掛けに、ココは応える。
「うん。ボク、せいれいおうになる」
 ココの応えを聞いたあと、メフィストはアンリにも尋ねた。
「止める気はありませんかー? 止められるとしたらー、貴方だけですしー」
 これにアンリは、軽く首を振って応えた。
「ココの、やりたいことを、させてあげたい。それに精霊王になっても、問題は起らないと聞きました」
「それは大丈夫でーす」
 メフィストは、アンリを安心させるように応える。
「ココちゃんに害はありませーん。単純にー、精霊王としての力を使えるようになるだけでーす」
 メフィストが言うには、精霊王になったからといって精神や外見に変化は無いらしい。
 単純に、精霊王としての力を得るだけとのこと。
「逆に言うとー、精霊王になったからといってー、いきなり成長するわけではないのでー、時間をかけて育ててあげる必要がありまーす。その役割をー、引き受ける気はありますかー?」
「ココとは、最期までずっと一緒にいるつもりです」
 話を聞いてから、将来のことを考えていたアンリは迷いなく応える。
「ちゃんと考えて、決めました」
「好い応えでーす」
 安堵するようにメフィストは言った。
「ほっとしてまーす。ではココちゃんにはー、魔法陣の中央に行って貰えますかー?」
「うん!」
 元気よく応え、たたたっと駆けていく。そんなココに――
「ぴっ!」
 がんばれー! というように鳴き声を掛けたのは、見た目は手の平サイズの子犬の姿をした【シメール】。
 元々は魔王が創り出した最強の魔獣だが、魔王決戦の時に初期化され、今では文字通り子犬になっている。
 本来、世界の根源と繋がっているので、あらゆる生物の姿を取ることも出来、単体で精霊王を超える戦闘力を得ることも出来るのだが、現在は無害な子犬でしかない。
 ここからの育て方次第で、善にも悪にもなり得るのだが、ココと同様にアンリが育てているので、その心配はないだろう。
「ぴー!」 
「がんばるー!」
 シメールの応援に応えながら、ココは魔法陣の中央で、おすわりして待機している。すると――
「おーう、霊玉持って来てくれましたねー」
 精霊王達が空を飛び、あるいは地面から浮かび上がる様にして現れる。そして――
「それでは始めましょー」
 新たなる精霊王の生誕が始まろうとしていた。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2022-12-11

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2022-12-21

登場人物 3/8 Characters
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

●目的

新しい精霊王の誕生を見届ける。

●流れ

以下の流れで進みます。

1 ココが精霊王になるのを見守る。

応援してあげて下さい。

また、その時に思ったことが、ココの力になります。



みんなを守れるような精霊王になって欲しい。

護りの結界を発生させる能力も得る。

2 霊玉の核に成っていた勇者達の解放

初期化された赤ちゃんになりますので、それをあやしたり対応してください。

3 精霊王になったココに、力を振う練習をさせてあげる。

精霊王になることで、加護を与えることが出来るようになります。

成りたてで使い方が上手く分かってないので、仮の加護を与えて貰ってください。あくまでも仮なので、後で元の種族に戻ります。

具体的には、一時的に新種族「リコレクター」になりますので、リコレクターとしての特性を使用してください。

●リコレクター

記憶の精霊王となったココの加護を受け発生する新種族。

元の種族と外見は変化なし。ただし特性は失う。

リコレクターの特性として、過去の再現が行えます。

過去の物や人を疑似的に、一時的にですが再現できます。

能力が高ければ、場所すら一時的に過去を再現できます。

●NPC

ココ

魔法犬にして、可能性の獣。

魔王が創り出した最強の魔物を超える物として、とある魔法使いにより創り出された。

けれど、わんちゃんです。

シメール

元、魔王が創り出した最強の魔物。

今は、ただの無害な子犬です。

精霊王達

新たな精霊王の生誕に協力するため集まっています。

過去の勇者達

霊玉の核となっている勇者達です。

今回の儀式により、霊玉から解放され、赤ちゃんから人生をやり直すことで解放されます。

以上です。


作者コメント Comment
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回はタイトルにありますように、新たな精霊王にまつわるエピソードになっています。

これにより魔族問題の緩和、霊玉からの勇者の解放も行われます。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。


個人成績表 Report
アンリ・ミラーヴ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:252 = 112全体 + 140個別
獲得報酬:10800 = 5000全体 + 5800個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
・精霊王になるココを見守りながら応援する。
応援しながら(人々が絆を結ぶ喜びを思い出させる精霊王になってくれたらいいな)と祈る。
誰かと関わった時に感じた喜びの記憶を蘇らせて、孤独を癒し、哀しみを乗り越える力を与え、死を迎える際に人生を悔やませないような、そういう加護のイメージ。
・儀式を終えたココへシメールを連れて駆け寄り、しゃがんで抱きしめる。
「ココ、お疲れ様。とっても頑張ったね。偉いよココ」と何度も名前を呼んで撫でる。
落ち着いてから、ココからリコレクターにしてもらう。
力を確認して、ココと初めて会った時の植物園の様子を出来る範囲で再現。
ココが精霊王になっても、出会った時から変わらないでいるという事を伝えるため。
「君はココだよ。精霊王になっても、いつまでも、君を愛してる俺はずっとココにいる」

クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:135 = 112全体 + 23個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
あれがメフィストの言っていた新たな精霊王か
新たな種族の発生は俺にも関わりがある。見届けよう

儀式に参加し成り行きを見守る
彼には困難を乗り越える力を持ってもらいたい

精霊王になるのはそう容易いことではないというのはイグルラーチ様や他の精霊王を見ればわかる
諍いの種になることも、その行く末を時に委ねなければならないことも
魔王無き世界にも困難は待っているだろう……それを乗り越え、世界を護る一柱となってほしい

初期化した勇者達には、この新たなリコレクターの力を使ってあやしてみよう
いい練習の機会さ。新種族の力を使うのも、子守をするのも。ね?

せっかくなら風景の再現に挑戦してみよう
霧の遺跡の、在りし日の栄華の景色を

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:168 = 112全体 + 56個別
獲得報酬:7500 = 5000全体 + 2500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
新しい精霊王をって考えたのと過去の勇者達の解放を願ったものとして見届けさせてもらう
出来ないかって要望上げておいてほとんど手伝えなかったからな…
せめて儀式への立ち合いだけでもさせてもらえないかとね
過去の勇者達のつながりも強いメメたんとルル義兄さん、学園で保護している加護を受けることになろうものである人たちを誘って儀式の見学をするよ
儀式後はメメたんとともに赤ちゃんたちの対応かな?

アドリブA、絡み大歓迎。


リザルト Result

 精霊王達が魔法陣を囲む。
 霊玉と、それを宿した【テジ・トロング】と【ドーラ・ゴーリキ】が対応する場所に就き、【メフィスト】が陣を起動する。
 厳かな雰囲気の中、儀式は始まろうとしていた。
 それを、【アンリ・ミラーヴ】と【シメール】は固唾を飲んで見守っている。
(何も心配しなくても、大丈夫って分かってるけど……)
 アンリは、ココが転化する儀式は安全だと信じているが、それでも一抹の不安もあってドキドキしながら見守っている。
 それだけココの事を大事に思っているアンリだが、転化するココを邪魔しないよう声はかけないよう気をつけていた。
 けれどシメールは、今にも鳴き声を上げそうなほど、そわそわしている。
「大丈夫、落ち着いて」
「ぴぃ」
 耳をぴんっと立てつつ、尻尾は垂れ下がらせているシメールを安心させるよう、アンリは撫でてあげる。
 それでもシメールは落ち着かないのか、ココに近付きたそうにしていたので――
「あっちに行ってみよう。その方が、ココが良く見えるよ」
 ひょいっとシメールを抱き上げ、見易い場所に移る。
「ここなら、良く見えるよ」
「ぴっ」
 地面に降ろして貰ったシメールは、おすわりしてココをじっと見ている。
 相変わらず、ぴんっと耳を立てているので、アンリはしゃがむと、落ち着かせるように撫でながら声を掛けてあげた。
「ココ頑張ってるね」
「ぴっ」
「うん、そうだね。応援しようか」
「ぴぃ」
「ても、ココの邪魔にならないよう、静かに応援しようね」
「ぴっ」
 頷くように尻尾を振ると、ココをじっと見つめるシメール。
 アンリも一緒に見詰めながら――
「がんばれー」
「ぴー」
 ココの邪魔にならないよう気遣いながら応援していた。

 それが効いているのか、ココは落ち着いた様子で儀式を受けている。
 少し離れた場所で、それを見ていた【クロス・アガツマ】は静かに思う。

(あれがメフィストの言っていた新たな精霊王か)
 クロスにとって、これからの人生に大きな影響を与える相手だけあって、気に掛けずにはおられない。
(加護を得られれば、生身の肉体を得ることが出来る)
 リバイバルのクロスは生身の肉体が無いため、色々と制約が多い。
 特に、【コルネ・ワルフルド】と結婚した今では、同じ時を生きて死ぬためにも生身になる必要がある。
 それを実現してくれるのが、精霊王となったココだ。
(彼には困難を乗り越える力を持ってもらいたい)
 期待と共に願うのは、自分だけでなくこれから先、多くの者が精霊王となるココの力を必要としていると考えているからだ。
 もちろんそれは、容易いことでは無いと分かっている。
(困難が待ち受けていることは、イグルラーチ様や他の精霊王を見ればわかる)
 これまで学園の課題を受ける中で知った、精霊王達の苦悩。
 力持つが故に、それを人々のために使うよう願われ、応えようとした歴史の重みを、これから背負って貰わねばならないのだ。
(諍いの種になることも、その行く末を時に委ねなければならないこともあるだろう)
 どれほど力が有ったとしても、全てを救い上げることは出来ず、逆に力があるからこそ、困難が待ち受けることもあるだろう。それは――
(魔王無き世界であろうと変わらない。けれど……それを乗り越え、世界を護る一柱となってほしい)
 そう思い、ココを見詰めている時だった。
(あれは――)
 魔族の一団が、儀式場に近付いて来るのを目の端で捕える。
 それを引率しているのは、クロスもよく知っている【仁和・貴人】だった。

「この辺りで止まって。儀式の邪魔になるかもしれないから、ここから見守ってあげて下さい」
 貴人に言われ、魔族達は真剣な顔でココを見詰めている。
 その表情は必死で、期待と共に迷いも見せていた。
「本当に、私達も他の種族と同じように、加護を貰えるんですよね」
 祈りながらも不安が隠せない様子で、魔族の1人が縋るように訊いた。
「加護が貰えないなんてことは……」
(困ったな……)
 どう応えるべきか、貴人は迷う。
(専門家じゃないから詳しいことは分からないし……下手なことを言って、期待だけ煽るわけにもいかないし)
 貴人が魔族達を連れて来たのは、精霊王となったココに、加護の力を振う練習をさせたかったからだ。
 希望者を募るため、【メメ・メメル】の伝手を頼って集まってくれたのは、学園で保護している人々だったが、その全てが魔族だった。
(加護を受けちゃうと、元々持ってた特性が無くなっちゃうのが嫌だったんだろうなぁ……)
 すでに加護を得ている種族は、一時的とはいえ生まれ持った物が無くなることに及び腰になっていた。
(加護を貰えるからといっても、体の特性が今までのと違うんじゃ慣れるのに時間かかりそうだし……そこに誇りも持ってる人たちもいるだろうからな)
 ココに視線を向け、貴人は願う。
(できれば基本的な身体形状や特性はそのままで、ココくんには多様性と調和も司ってほしいな)
 今この場で願う人々の想いも新たな精霊王の能力に関わるということなので、きっと貴人の願いも力になるだろう。
「みなさん、新しい精霊王になるココくんに祈りを捧げてあげて下さい。それがきっと、力になる筈ですから」
 貴人に言われ、皆は祈り始める。
 一先ずは落ち着きを見せている皆の様子に、貴人が息をつくと――
「お疲れさま」
 クロスが近付き声を掛けた。
「大変そうだね。何か手伝うことは無いかな?」
「え、あ……それは……」
 言葉を選ぶように間を空ける貴人に、クロスは言った。
「気兼ねなく言ってくれるとありがたい。勝手かもしれないが、俺は貴人くんには、共感めいた物を感じてるんだ」
「え?」
 思わず聞き返す貴人に、クロスは視線を動かす。その先にいたのは――
(メメたん)
 兄である、初期化され赤ん坊になっている【ルル・メメル】を抱き抱えながら、真剣な表情で儀式を見詰めるメメルの姿が目に入る。
「お互い、学園を背負って立つ人が、大切な人だからね。これから力を合わせることも多くなると思う。よろしくして貰えれば助かるよ」
 それはクロスの妻となったコルネも、学園長という職責を担っていることが理由だ。
 貴人もクロスも、将来は大切な人を支えられるように学園に関わりたいとも思っている。
「同志、というのは違うかもしれないが……それでも、これから仲良くして貰えれば助かるし、力になりたいとも思うんだ」
 クロスの言葉に、貴人は少し肩の荷が軽くなったような気持ちになる。
「分かったよ、オレもよろしく」
 そう言うと貴人は――
「早速なんだけど、力を貸して貰えないかな?」
 これから先のことも考え、クロスに言った。
「保育部を立ち上げようかと思うんだ」
「保育部?」
「うん。今回の儀式で、霊玉の核になっている勇者達も赤ちゃんになって人生をやり直すことになる。それに学園に来る人達は、今まで以上に増えると思うんだ」
「……なるほど。中には子供連れの人も入学を希望するかもしれないということだね……あぁ、それに――」
 貴人の話を聞いて思案したクロスは、自分達にも関係するかもしれないと思い到る。
「生徒だけでなく、教師にも必要かもしれないね。これから子供を作る人も、出てくるかもしれない」
「……ぁ、うん、そうだね」
 クロスの言葉が、言外に『コルネやメメルに子供が出来た時にも助かる』という意味合いを含んでいるのだと気付き、他人事ではないのだと気付く貴人。
(アガツマくん、大人だなぁ……)
 思わず感心しつつ、提案したのは自分だということもあり、クロスに応える。
「今すぐは難しいかもしれないけど、設立したいと思う。その時は、力を貸して欲しい」
「ああ。むしろこちらから、お願いするよ」
 タッグを組む2人。

 そんな将来のことも見据えてやり取りをする中、儀式は佳境を迎える。

「ぴっ」
「うん。すごいね」
 アンリとシメールは、魔法陣の光景を見て小さく声を上げる。
 霊玉から引き出された膨大な魔力が、螺旋を描きながら魔法陣を巡り、出力を上げながらココの元に集っていく。
 空に吹きあがる光の柱、あるいは天に向かって伸びる光樹のような光景は圧巻だ。
 神々しいとさえいえる光景に、皆は視線を向け祈りを捧げる。
 その想いも吸い上げて、全てはココに集約され――弾けた。
 あとに残るのは、最初と変わらぬ姿のココ。けれど――
「儀式は成功しましたー」
 場違いなほど能天気なメフィストの言葉と共に、ココが精霊王になったのだと皆は知らされた。
「ココ、お疲れ様」
 シメールを抱き抱えながら駆け寄ったアンリは、シメールを地面に置いてあげたあと、しゃがんでココを抱きしめると、何度も撫でながら褒めてあげる。
「とっても頑張ったね。偉いよココ」
「うん!」
 抱きしめられながら尻尾を振るココ。
「ぴー」
 一緒になって尻尾を振るシメール。
 喜ぶ3人の元に、儀式は成功したのだと確信した皆は近寄ってくる。その中で――
「加護を、与えていただけますか……」
 不安を滲ませながら、魔族の1人が懇願するように言った。
 それを聞いたアンリは、ココを降ろしてあげると――
「みんなに、加護を与えてあげて」
 ココが緊張しないで良いように、優しい声で言った。
 これにココは、嬉しそうに尻尾を振りながら応える。
「うん!」
 元気良く応えると、魔族の足元に近付き――
「かごをあげるね」
 魔族の足先を前足で、ぽんぽんと撫でる。
「できたよー」
「……え」
 呆然とした声を上げる魔族。
 あまりにもあっさりとし過ぎているので、半信半疑なのだ。
 それを見ていたアンリは、皆を安心させてあげるためにココに頼む。
「どんな力が使えるようになったか、俺にも見せてくれる?」
 そう言うと、ココを抱き上げる。
 抱き上げられたココは機嫌好さ気に応えてくれる。
「アンリにもあげるね」
 前足の肉球をアンリの手に重ねるようにして何度か当てる。
「できたよ」
「ありがとう、ココ」
 アンリはココを降ろしてあげると、以前メフィストから説明されたことを思い出す。
(過去の、物や生き物を、再現できるはず)
 イメージと共に、過去を想起する。すると――
「わあっ、おかし、おかしでてきた」
 ココが好きなお菓子が、ぽんっと出てくる。それだけでなく――
「ヴォルくんだー」
「ぴー」
 何度か散歩の途中で出会って仲良くなった狩猟犬のヴォルフが現れた。
 それを見て、はしゃぐココとシメール。
(ああ、そういえば、こんな風に喜んでた)
 どういうわけか、再現した過去を体験した時の感情が鮮明に浮かんでくる。
(なんでだろう?)
 不思議に思っていると――
「『追憶』の性質も持つようになってるみたいですねー」
 メフィストが現れ説明してくれた。
「追憶、ですか?」
「そーでーす。ココちゃんが精霊王になる時に願ったことがー、能力に反映されたみたいですねー。心当たりありませんかー?」
「心当たり……」
 確かにココが精霊王になる時、アンリは「人々が絆を結ぶ喜びを思い出させる精霊王になってくれたらいいな」と祈っていた。
 それは、誰かと関わった時に感じた喜びの記憶を蘇らせ、孤独を癒し、哀しみを乗り越える力を与えられると良いなと思ってのことだった。
 そして死を迎える際に、人生を悔やませないような加護であれば良いとも願っていたが、それが反映されたようだ。
「他にもー、元の種族の性質や姿形はー、本人が望まない限りはー、可能な限り変質しないようになったみたいでーす。これは他の学園生さんの願いの影響でしょうがー」
 そう言ってメフィストは、貴人やクロスに視線を向ける。その先では――

「ふぎゃああああ!」
「うわわわっ、メメたんっ、これどうすりゃいいの!?」
「とりあえず泣き止むように抱き上げてくれ! クロスも手伝え!」
「ええ、それは分かってますが……」
 盛大に泣き声を上げる赤ちゃん達を前に、てんやわんやだった。
 それは霊玉から解放され、赤ちゃんになった過去の勇者達だ。
 本人達にとっては生まれたばかりのようなものなので、訳が分からず泣き声を上げている。
「メメたんっ、お義兄さんをあやすので慣れてると思うから聞くけど赤ちゃん抱き上げるのってどうすりゃいいの!?」
「首はまだ座ってないから支えるように抱き上げて欲しいんだぞ☆」
「分かったっ!」
 なんとか貴人が抱き上げるも、全然泣き止まない。それはクロスも同じで――
「落ち着いて欲しい。その、泣き止むんだ」
 微妙にテンパっていた。そこに――
「ベビーカー持って来たよー」
 コルネが複数ベビーカーを引っ張ってやって来る。
「こんなこともあろうかと思って用意してたけど良かった!」
 というわけで、赤ちゃん勇者達をベビーカーに乗せる。しかし――
「うええええええ!」
 まったく泣き止まなかった。そこに――
「ないてるの?」
 アンリと一緒にココがやって来る。
「なにか、した方がいい?」
 ベビーカーに乗って泣き声を上げる赤ちゃん達が気になるのか、心配そうにそわそわしている。
 それを見たクロスが頼む。
「新種族の、リコレクターの力を使わせて貰えないだろうか? 子守をするのに使えないかと思ってね」
「うん! わかった!」
 ココはクロスの足元に駆け寄ると、前足でクロスの爪先をぽむぽむと撫でるように当てる。
「これでいいよー」
 クロスが、どんな風に力を使うのか期待しているココは、尻尾をゆらゆらと揺らしながらクロスを見上げている。
 小さな子供のようなココに、クロスは小さく笑みを浮かべながら返した。
「ありがとう。折角だ、いい練習の機会にさせて貰うよ」
 そう言うとクロスは、新たに得た力に集中する。
(ふむ……感覚としては、魔力を使って物質を再現するのに近いな)
 リバイバルであるクロスは、慣れ親しんだ感覚と、新種族であるリコレクターの能力使用の感覚が近いことを掴み取る。
(基本は魔力放出と構築。顕現式は、リバイバルなら接触した物質から得た情報を再現式として流用しているが、リコレクターは加護を通じて、ココくんから得ているようだな)
 研究者として気が遠くなるほど長い時を積み重ねてきたクロスは、初めてとは思えないほどの精度でリコレクターの力を使うことが出来た。
「さて、それでは――」
 魔力を放出しながら、泣き続ける赤ちゃんたちに向けクロスは言った。
「どうせなら、物ではなく風景を再現するとしよう。今は亡き、古き場所。栄華を誇った、あの街を」
 それは今では廃墟となっている霧の遺跡。
 本来なら忘却で薄まり、思い出すことすら困難な、遠き場所。
 新たな精霊王であるココの力を借り、クロスは再現した。瞬間――
(これは……)
 望郷が、クロスの胸に押し寄せる。
 それは街だけでなく、多くの人々の姿も、共に在ったからだ。
 男も女も、老人も若人も――今では無きすべての人々が、生きてこの場に『居た』。
(あぁ……)
 思わず手を伸ばしそうになる。
 けれど、それは無意味だとクロスは解っている。
 解っていて、それでも手を伸ばしてしまいそうになるほど、想いが湧いて出る。
 そんなクロスの手を――
「クロスくん」
 コルネが繋ぎ止めるように、握っていた。
「……コルネ」
「その……今は、アタシがいるよ」
 見詰めるコルネの瞳と、繋いだ手の確かさに、今ここにいるのだとクロスは実感できた。
 それはリバイバルの時とは違う、生身の確かさ。
 想い繋ぎ止めてくれるコルネを安心させるように笑顔を返し、クロスは言った。
「ありがとう。コルネのお蔭で、助かったよ」
「ん、そうなんだ……えへへ」
 照れるコルネ。
 そうしている間も、クロスが再現した風景は消えることなくあり続け、その景色がもたらす追憶の影響を受けたのか、赤ちゃん勇者達の泣き声は小さくなる。それを見て――
「メメたん」
「ん、なんだ」
 貴人の呼び掛けに、メメルは信頼するように見詰め返す。
 それに貴人は、仮面を取り視線を交わしながら応える。
「メメたんと、お義兄さんと、赤ちゃんになった勇者のみんなの想い出を、再現しよう」
「いいぞ。もちろん貴人きゅんも手伝ってくれるんだな?」
「うん、もちろん」
 そう言うと貴人は、メメルが抱いているルルを代わりに抱き上げ、一端ベビーカーに寝かせる。
「一緒に、ココくんに力を貸して貰おう」
 メメルの手を取って、2人でココの前に行き頼む。
「ココくん、オレ達にも力を貸して欲しい」
「うん!」
 ココは元気良く応えると、貴人とメメルの爪先をぽむぽむと前足を撫でるように当てる。
「できたよー」
「ありがとう」
 貴人は礼を言い、確かめるように自分の身体を見たり動かしてみるが、取り立てて変わった様子は無い。
(オレの願いが、少しは影響でてるのかな?)
 多様性と調和を組み込めないか願っていたが、それが反映されているようだ。
(クロスくんが力を使った所を見ると、もう加護が与えられてるんだろうけど、変化が無さ過ぎて実感が湧かないな)
 あまりの変わらなさに、どうすれば力を使えるのか悩んでいると――
「なるほど。大体わかったゾ☆」
 メメルは短時間で要領を得たようだ。
「メメたん、使い方が分かるの?」
「任せろ♪ と言いたい所だが、ちょっと難しいな」
「そうなの?」
「使い方は分かるが、今のオレサマだと魔力が足らない。だから、貴人きゅんの魔力も使わせて貰うけど、いいか?」
「もちろん。メメたんに任せるよ」
「ふふ、任せろ♪」
 機嫌好さ気にメメルは応えると、リコレクターとしての力を使い、過去の再現をする。その光景は――
「子供のメメたん!?」
 それは遊んでいる子供達の姿だった。
 メメルだけでなく、彼女によく似た男の子もいる。
「メメたん、あの子って」
「うむ、おにいたまだゾ」
 懐かしそうに、メメルは見詰めながら応える。
「みんなの過去を、再現したんだ」
 それはメメルだけでなく、他の勇者達も当然含まれていた。
 それぞれの種族、男の子だけでなく、女の子もいる。
 遊んでいる者や、家族と共に団らんを過ごす者もおり、全員が陽だまりのような笑顔を浮かべていた。
(これはきっと……勇者達の幸せだった時の記憶なんだろうな)
 自分の物ではない、誰かの追憶が貴人の胸に去来する。
 過去の形だけでなく想いも、今この場で再現されていた。
 だからこそ、赤ちゃんになっていた勇者達は泣きやんでいく。
 泣き声を上げる代わりに、ひとときの安らぎを得るように寝息を立てている。
 そんな赤ちゃん達に――
「みんな、おかえり……」
 メメルは貴人にしか聞こえないような小さな声で囁き、貴人はメメルを支えるように、繋いだ手をぎゅっと握った。

 そして皆は、これから先の世界を生きていく。

「やっぱり、保育部は立ち上げた方がいい」
「ああ、俺も賛成だ」
 貴人とクロスは、メメルやコルネと共に、新たな学部設立を話し合う。
「人が一杯要るナ☆」
「人事課に、お願いしないとですね」
 苦労は多いだろうが、それでも実現できるよう、一歩一歩詰み上げようとしていた。そして――

「ココ。覚えておいて」
 アンリは、ココと初めて出会った時の植物園を再現しながら、祈るように言った。
「この先、なにがあっても、君はココだよ」
 それはココが精霊王になっても、出会った時から変わらないでいるという事を伝えるための言葉。
「精霊王になっても、いつまでも、君を愛してる」
 遠い未来の、その先で。
 どれほど時が過ぎたとしても、始まりのこの場所の記憶は、ココと共に在るのだと、言葉を贈る。
「俺はずっとココにいる」
 それは誓いの言葉。だからこそ――
「うん……ボクも……ボクもずっとアンリといっしょ。アンリ、大好き!」
 同じく誓いの言葉を返すココを、抱きしめてあげるアンリだった。
 そこに、精霊王達が集まってくる。
「新しい兄弟を、よろしく頼むぜ」
 精霊王を代表して、【イグルラーチ】がアンリに頼む。
「まだまだ末の兄弟は、人から多く学ばなきゃならねぇ。オレっち達は学べる相手がいなかったが、今その子には、お前さんがいる。安心して、託せるぜ」
 安堵するように言うイグルラーチの足元を――
「ぴっ、ぴぴっ」
 いつの間にか近寄っていたシメールが、ちょっかいを掛けるように、ぱしぱし前足で突いている。
 明らかに戯れているシメールを、させるがままにしながら、イグルラーチは続けて言った。
「シメールのことも頼んだぜ。こいつは戦闘力だけでいや、オレっち達よりも強くなるからな。ま、それもお前さんと、末の兄弟に任せりゃ大丈夫そうだけどな」
「うん、だいじょうぶ! シメールいい子だもん」
「ぴー」
 ココに褒めるように言われ、どんなもんだというように、おすましするシメール。
 それを見て、微笑ましげに笑みを浮かべる精霊王達に、アンリは言った。
「ココをよろしくお願いします」
「ああ、もちろんだ」
 アンリの願いに、精霊王たち全てが、誓うように応えた。

 こうして、新たな時代の一ページが刻まれる。
 精霊王と、学園。魔族と人間種族。
 過去の全てを繋ぎ、歴史を紡ぎ続けるために。
 新たな精霊王、記憶の精霊王ココは、大好きなアンリに見守られながら生まれたのだった。



課題評価
課題経験:112
課題報酬:5000
新たな精霊王
執筆:春夏秋冬 GM


《新たな精霊王》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 1) 2022-12-08 01:00:11
教祖・聖職コース、アンリ・ミラーヴ。よろしく(尻尾ぶんぶん)
行動は、まとめきれてない。がんばる。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 2) 2022-12-10 11:12:42
ギリギリの参加ですまない。
主に儀式への参加と解放された勇者たちの対応をするつもりだ。
よろしく頼む。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 3) 2022-12-10 19:58:36
賢者・導師コースのクロス・アガツマだ。よろしく頼む。
新種族の発生には関わりがあるからね、手伝わせてもらおう。