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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
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真っ赤な格好の辻斬りさんは
七四六明 GM
ジャンル
戦闘
タイプ
EX
難易度
難しい
報酬
多い
公開日
2021-12-18
予約期間
開始 2021-12-19 00:00
締切 2021-12-20 23:59
出発日
2021-12-27
完成予定
2022-01-06
参加人数
2 / 6
ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る。 今日も明日も明後日も、もはやその日に関係なく、この時期ずっとクリスマス。 毎日毎日、楽しい楽しいクリスマス。 いつか来るかな来ないかな。いい子にしてればきっと来る。赤い服に白いおひげ。大きな袋を持ったサンタクロースが――。 「ねぇねぇおにぃさん。ずっとここで何してるの?」 男は、ベンチに座っていた。 公園の一角にあるベンチで、ただ座っているだけだった。何もしていなかった。だから好奇心旺盛な子供に声を掛けられて困る。 何もしていないのだから、何をしているのと聞かれても返す言葉がない。 何処とも言えない空の彼方に一瞥を配って考え、深く、深く溜息をついた。 「……待ってるんだ」 「そっか! おにぃさんも、サンタさんを待ってるんだ! もしかして、サンタさんのおともだち?!」 どうしてそうなる。 子供の方程式はよくわからない。またどう返していいのかわからなくて、空の彼方の誰でもない何者かに助けを乞う様に、一瞥を配る。 「そうだな。袋を持った老人とは、よく話す」 主に家から物を持ち出す類の人間と、最期の挨拶を――なんて、現実は言えない。 「やっぱり! おにぃさんも赤いもんね! おにぃさんも、いつかサンタさんになるの?!」 「いや、俺の髪は地毛で、服は……」 空に一瞥。 「……あぁ、そうだ。俺はここで子供達を観察し、どんなプレゼントを欲しているのかを見極める訓練をしている。が、今はまだ出来ない」 「そっか……ぼくはね、弟がほしいんだ。友達に弟がいて、すっごく仲が良くて、うらやましくて……だから……」 「そうか。善処するように伝えておく」 「うん! ありがとう、おにぃさん!」 それからその子の親が来て、子供は帰って行った。 我ながら、馬鹿げた事を言ったと思う。 サンタクロースも、多分だけど万能ではないし、弟を与えるのは無理だろう。仮に本物のサンタクロースにはそんな力があったとしても、自分には出来ないと男は断言出来た。 何せこの身は、世間では緋色の辻斬りなどと呼ばれ、恐れられる斬り裂き魔なのだから。 「子供の扱いが上手いとは意外だな。おまえは殺す事しか能がないと思っていたよ、【荒野・式】(あらや しき)」 「……要件は」 ベンチの裏に生えている木の更に後ろ。式には見えない背後の陰から話しかける声は酷く濁って聞こえて来る。 人物特定を避けたガスを作っての隠ぺい工作。 式からすれば、真正面からやり合えない弱者の稚拙な悪足掻き。幾ら声色を変えたところで、声の癖ないし口調ないし、探る方法は幾らでもあるのだから。 「消して欲しい奴がいる。盗賊の一団を任せていたんだが、牛の角を取る仕事しくじって、任せてた一団を潰された挙句、一人逃げた奴だ」 「……口封じ、か」 「我々と面識のある奴は消しておく必要があるからな。そいつは剣の腕に多少自信があった。おまえの退屈を凌げるかどうかは知らないが……」 「……そうか。わかった」 同時刻、魔法学園(フトゥールム・スクエア)。 「【ヴィンレスト・リーガン】。前に護衛依頼を受けた牛さんを襲った、盗賊団のボスだったヲトコ……そいつを、こっちで捕まえるわ」 魔法学園学園長室。 学園長【メメ・メメル】と、生徒【紫波・璃桜】(しば りおう)の対談は、璃桜の連れるシルキーを除き、他の誰もいない状況で行なわれていた。 静寂の夜。紅茶の甘い香りに、鼻孔の奥を突く様にくすぐられる。 「そうだねぇ♪ 彼は君が探ってた大規模組織の中でも、数少ない幹部クラスだったし? このままじゃあ口封じされちゃうものね♪」 「えぇ。そして数日後、彼が表に出て来るの。どうやら、新しい雇用先を見つけたいみたい」 「なるほどなるほど? それまでに人を集めて欲しい訳だ☆ わかった♪ 掲示板に出しておくから、楽しみにしておいてくれ給え♪」 「えぇ、お願いします学園長。出来れば精鋭が好ましいですね。あの男も相当の手練れですが、組織が送り込むのはおそらく……彼が追われるきっかけとなった事件にもいた、あの辻斬り本人か、同格の刺客でしょうから」 「荒野式、かぁ……君にとっても、因縁ある相手だね。璃桜たん♪」 「まぁ、弟弟子を可愛がってくれたもの? 姉弟子として、ヲンナとして、返さなきゃいけないものはちゃんと返さないと。ただ、それだけの話ですよ」 メメには濁して伝えたが、情報はしかと掴んでいる。 口封じに来るのは緋色の辻斬り、荒野式で間違いない。弟弟子【灰原・焔】(はいばら ほむら)を追い詰めた二刀流薙刀使い。 相手にとって不足なし。寧ろ遠慮をしようと配慮をしようと、手を抜こうものならこちらが死ぬ。 そんな相手と、あろう事か街中でやり合わなければいけない。しかも常時より人だかりの多い、この時期に。 重ね重ね、こちらには不利が続く。が、手が多ければやりようはある。そう、まだ手さえあれば――。 「なんて、弱気になってちゃダメよねぇ? まったく……」 ふと、窓の外を見る。 本番と同じ時間帯。夕日が沈んで暗くなった空の下、明るく照らされた街並に、多くの人々が行き交い、声と歌と言葉が通う。 そんな中に、奴が来る。 斬り裂き浴びた返り血に濡れに濡れ、赤く染まった辻斬りが。
【領地戦】悪意の群れを撃ち砕け
春夏秋冬 GM
ジャンル
戦闘
タイプ
EX
難易度
難しい
報酬
多い
公開日
2021-12-15
予約期間
開始 2021-12-16 00:00
締切 2021-12-17 23:59
出発日
2021-12-24
完成予定
2022-01-03
参加人数
8 / 8
魔王の完全封印を目指すアークライト達は追い詰められていた。 「彼らの偉業を讃えましょう!」 礼賛の声が上がる。 声を張り上げているのは1人の男。 だが、その前には多くの人々が集まっていた。 「魔王を完全封印し世界を平和に導こうとする彼らは讃えられるべきです!」 声を張り上げる男の言葉に嘘は無く、アークライト達を信仰するかのような熱があった。 同時に、酔っている。 まるでお気に入りの観劇の役者が死に絶える場面に出会えた観客のように、悲劇に酔っていた。 「さあ、彼らを讃えましょう!」 男は声を張り上げながら、背後の建物を見上げる。 そこには魔王の完全封印のために命を懸けようとしているアークライト達の指導者【テオス・アンテリオ】と、娘である【セオドラ・アンテリオ】が居た。 「なんで、こんなことに……」 セオドラは苦悩を堪えるように手を握りしめ、外から聞こえてくる無責任な声に耐えていた。 いま彼女がいる建物は、魔王の完全封印の準備を進めるため、拠点としている物のひとつだ。 当然、彼女以外にもアークライト達は大勢いる。 各地の仲間との連絡員である彼らから、この場で起っていることと同様の事案が発生していると連絡を受けていた。 「魔王の完全封印を私たちが計画していることが知られています」 「各地の支部の前で扇動するように、演説を行う者が出て来ています」 「少しずつですが話を信じる人達が増え、私達に期待する人達が増えています」 外部には知らせていない筈の計画が知られ、それを広められている。 結果として、自分達に期待するような者が増え、少しずつ広がっていた。 今の所は、ただ期待しているだけだ。 けれどいつそれが裏返るか分からない。 事実、期待するかのようにアークライト達を讃える者達の中から、僅かだが急かすような物言いをする者達も出始めている。 「このまま進めば、我々だけでなく、家族にも何か行動を起こす者が出るかもしれません」 悔し涙を堪えるように、実行部隊の隊長である【アラド】は言った。 彼は他のアークライト達と同じように、命を懸けて魔王の完全封印を行う覚悟が出来ている。 それは彼の家族や友人のような近しい人達だけでなく、まだ会ったことは無い、けれど心を通じ合えるかもしれない誰かのことを想ってのものだ。 けれど人の無邪気な悪意は、それを食い潰す。 全てでは無いだろう。それは解っている。 だが確実にいる。『尊い犠牲を望む者』が。 讃えながら犠牲になるのが自分ではないことに安堵し、尊い見世物に立ち会える事を楽しむのだ。 それをアークライト達は理解している。 理解した上で、それでも守りたいのだ。 大切な人達を。そして、そうなれるかもしれない見知らぬ誰かを。 その覚悟は出来ている。けれど現実を絶え間なく見せ続けられるのは、悲しかった。 ただただ、悲しかった。それでも―― 「計画を急ぎましょう」 セオドラは言った。 「今の状況は、恐らく【シメール】さんが関わっている筈です」 セオドラ達に協力していた商人シメールは、今は連絡が取れない。 少し前、魔法国家ミストルテインとの会談で、セオドラはシメールが自分達に関わっていることを学園にも告げていた。 それ以後、すぐに連絡が取れなくなっている。 代わりに、時期を同じくして、いま外で扇動しているような人物が現れるようになったのだ。 「シメールさんは、何らかの形で魔王軍と関わっている可能性があります。現在の状況は、私達の邪魔をするためのものかもしれない。だからこそ、計画を進める必要があります」 セオドラは、父であるテオスと向き合い言った。 「進めても構いませんね、お父さま」 「……ああ」 死に急ごうとする娘に、テオスは苦しげに応える事しか出来なかった。 その苦悩を、元凶は嘲笑う。 「今頃、面白いことになってるわよぉ」 けらけらと笑いながら、シメールは楽しそうに言った。 「必死こいて計画進めてる所に、急かすような奴らが集ってるでしょうからね」 「よくやるな」 呆れたように返すのは、全身を包帯で覆った着流しを着た人物、【テイ】。 「洗脳でもしてんのか?」 「してないわよぉ。そういう奴を見つけて、ちょいと誘導してやっただけよぉ。『他人は知らない自分だけが知ってる真実』なんてのを信じて、勝手にピーチクパーチク囀ってるだけよ」 「アホなのか?」 「アホよ。でも好いじゃない。使い捨てにし易いし」 「さよけ。しっかしよ、そんな回りくどいことしないで、直接叩き潰しゃ良いだろ」 「やーよ。前にも言ったでしょ。アタシにとってはボスが、魔王様が封印されてると都合が良いのよ。むしろさっさとしろって話ね」 「ふーん。でもよ、それ以外は潰しに行くんだな」 そう言いながら、テイは後方に顔を向ける。 そこには100体の魔物が付いて来ていた。 「ミストルテインは邪魔くさそうだもの」 魔物を率いミストルテインに近付きながら、シメールは言った。 「あそこが学園と手を組むと面倒だし」 「そんなに強いのか?」 「ええ。国としてもだけど、あそこは守護者の――」 シメールの言葉が終わるより早く、天より無数の雷が落ちる。 雷を受けた100体の魔物達は焼かれる。しかし―― 「いきなりねぇ」 「びっくりすんだろ」 シメールとテイは平然としていた。 「お前ら、なんだ」 警戒を滲ませ、雷の精霊王【イグルラーチ】は言った。 「嫌な気配がしたから飛んで来てみれば……何者だ」 「やーねぇ。分からない?」 にぃと笑みを浮かべるシメールに、イグルラーチは返した。 「まさか……お前、オリジナルジャバウォック、キマイラか」 「そーよぉ。ヒューマンの姿してるから分からないかと思ったけど、やるじゃない」 「何で生きてる……お前は夜天覇道達、覇王六種に討ち取られたんじゃねぇのか」 「そんなの死んだ振りよぉ。死に掛けはしたけど。それよりさあ、アンタ、アタシとやる気?」 ざらつく気配をさせながらシメールは言った。 「8匹全員集まってんならともかく、たかだか精霊王一匹で、俺に勝てると思ってるのか」 「……」 挑発されるがイグルラーチは動けない。 するとシメールは、ケラケラ笑いながら言った。 「冗談よぉ。今日の所は帰るわぁ。でも、また来るわ」 「……ミストルテインを滅ぼすつもりか」 「心配しなくても皆殺しにはしないわよぉ。だってアンタら、餌だもの」 嫌な笑みを浮かべ言った。 「この世に生きるモノは全て魔王様の供物。生かさず殺さず、末永く恐怖を搾り取ってあげるわ」 そう言いながら去るシメールを、イグルラーチは睨み続けるのだった。 そして学園に救援要請が出されます。 魔法国家ミストルテインを襲うであろう魔王軍との戦いに手を貸して欲しいとのこと。 それに応えアナタ達が訪れると、千近い魔物の群れが近付いて来るとの連絡が入るのでした。
シングル・ベルを鳴らさないで
桂木京介 GM
ジャンル
ロマンス
タイプ
EX
難易度
とても簡単
報酬
少し
公開日
2021-12-21
予約期間
開始 2021-12-22 00:00
締切 2021-12-23 23:59
出発日
2021-12-26
完成予定
2022-01-05
参加人数
4 / 4
「ピスタチオ食うか?」 学園長室と表現されるときもあれば学長室とされるときもある。もちろん校長室だっていい。いずれにせよここがフトゥールム・スクエア創立者にして代表者の執務室であり、彼女が一日のかなりの時間をすごす部屋であることだけは事実だ。 ドア正面の壁に大きな窓。三方を囲むのはアンティーク調の本棚や薬品棚、あるいは背の高いファイルキャビネット。重厚な執務机に肘をのせ薄笑みうかべ、窓を背にしてその人は座っている。 もちろん彼女こそ、学園長【メメ・メメル】だ。 もう一度書く。 「ピスタチオ食うか?」 その日、呼び出され夕暮れ前に【ネビュラロン・アーミット】が、最初に聞いたメメルの言葉がこれだったのである。 マホガニー材と思わしき重厚な執務机、その中央にメメルは木皿をツーッと押し出す。皿には、よくローストされたピスタチオがこんもりと盛られていた。 木皿と同じ速度で音もなく、ネビュラロンの目の前に椅子が滑ってくる。彼女は座った。 ネビュラロンはしばらく無言で皿を見つめていたが、さすがに押し黙っているのも居心地が悪くなったらしく口をひらく。 「豆、ですか」 「豆ではないぞ。ナッツの一種だ。うちの学園には豆にこだわりのある生徒もおるでな、そこらへんの区別はしっかりとつけておきたい♪」 「そうですか」 見ず知らずの他人の噂話でも聞いているように、ネビュラロンは平板な口調で応じる。 だがメメルの視線を得て、ネビュラロンは気のすすまない様子で左の手甲(ガントレット)を外し、ピスタチオをつまんだのである。 「いただきます」 全身甲冑の教師、それがネビュラロンの基本イメージだ。しかしこのところ彼女は、ヘルメットを外して生活することが多くなった。多くなったというよりは、基本、授業中以外は外しているようだ。ときとして鎧すら着ないときもある。だが手甲だけは別だ。たとえ礼装であろうと、最低でも右手首から先だけは銀の装甲で覆っている。 本日学長室にあらわれたネビュラロンは、やはり頭部以外は鋼で覆っていた。 ガントレットの右手でナッツをささえ、左手で殻をはがす。 ポリポリと音が立った。 二粒だけ豆、もといピスタチオを咀嚼して、ネビュラロンは皿を押し戻した。 「ごちそうさまでした」 「義手、具合が悪いかね?」 「いえ、別に。ピスタチオの殻を取るような細かな作業は無理ですが、だいたいのことならできます」 「そうか。困ったことがあれば言ってくれ」 「はい」 学園教師ネビュラロン・アーミットは異世界人である。 元いた世界で、彼女は右手首から先を失った。右目の横から顎にかけ、ざっくりと残る深い刀傷も同じときにできたものだ。万事反応の薄い彼女だが、落魄の身を引き受け、魔法の義手すら与えてくれたメメルには感謝の念を抱いており、そのことはメメルも承知している。互いに気心は知れているつもりだ。 だからといって、会話がはずむわけでもない。 乾いた綿でくるんだような沈黙の時間が流れた。 「えーと……」 メメルは会話の糸口をさがすように、視線をさまよわせ頬をかく。 ネビュラロンは黙して待つ。その気になれば一ヶ月でも無言の行ができるネビュラロンである。 もう何秒かしてようやく、メメルは咳払いして告げた。 「……ピスタチオを食べると、酒がほしくなるのう」 「かもしれません」 「一杯やっていいかね?」 メメルは机の下から、大瓶を引っ張り出してごとりと置いた。透明の液体が四割くらい入っている。 「ご随意に」 これが【コルネ・ワルフルド】だったら、「いま仕事中でしょ!」とか「アルコール依存症になりますよ! ていうかもうなりかけ!」とか怒鳴って酒瓶をひったくるところであろう。やりやすいなあ、とメメルは内心つぶやいた。 メメルは戸棚からショットグラスをふたつ出す。 「ネビュラロンたんも飲(や)るかい?」 「いえ自分は」 と彼女が返事するに先んじて、早くもメメルはふたつの盃を満たしている。 「乾杯」 「……どうも」 ため息してネビュラロンは杯を手にして一口アルコールを口に含み、 「!」 振り子のごとく全身を仰け反らせ前に倒した。 「なんですか、これは!?」 ネビュラロンらしからぬ反応である。メメルはニヤニヤして、 「ウオッカだが?」 早くも二杯目を手酌し、愛おしそうに香りを嗅いでいる。 「まるで劇薬です」 ネビュラロンはグラスを執務机に置き手を触れようとしない。頬が赤いのは驚いたせいばかりではないだろう。 「それで、お話というのは」 「もうすぐクリスマスだな☆」 言いながらもう、三杯目にとりかかろうとするメメルである。 「そのようですが」 「独り身(シングル)にはこたえる季節と思わんか」 「思いません」 「ジングル・ベルならぬ『シ』ングル・ベルなんつって」 「上手いこと言った、みたいな顔をしないでください」 やけに冷ややかに聞こえた。 それで、とメメルは前のめりになる。 「聖夜に先駆けて、独身者お見合いパーティーをしようと思ってな」 「もう帰っていいですか」 「それも今夜」 「今夜は急用が」 「悪いがもうエントリーしておる。ネビュラロンたんも☆」 「どんだけ聞いてないんですか人の話」 私と、とネビュラロンは一拍おいてつづけた。 「見合いだのパーティだのしたい人がいるとは思えません」 ネビュラロンにしては饒舌なのは、アルコールのせいかもしれない。 「よいではないか。皆でいい衣装(おべべ)着てメイクして♪」 「……で、そのさらし者になるのは他に誰がいるんですか?」 さらし者とはキビしい言い方よなあ、とボヤいてメメルは指折りしてつづける。 「たくさんおるぞ。もちコルネたんもな。そもそもはコルネたんへの罰ゲー……イベントとして考えたものであるし。教師陣に学生たちにそれに……」 「学園長は?」 「オレサマはホレ、主催者だから高みの見物するだけであるぞ」 しれっと告げたあたりからして、どうやらメメルの本心らしかった。 いいでしょう、と言ってネビュラロンはショットグラスに手を伸ばす。 「学園長もさらし者になってくださるのであれば、参加します」 「マジ!?」 ボンと爆発音がしそうなほど一気にメメルは赤面したのである。 「オ、オレサマ超恥ずかしいんですけど! ていうか平均年齢あげまくりになりそうだし泥酔できんし困るんだが……」 ネビュラロンは無言でグラスを傾け、冷たい炎のような液体を喉に流しこんだ。
王冠――クリスマスを控えて
K GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-12-16
予約期間
開始 2021-12-17 00:00
締切 2021-12-18 23:59
出発日
2021-12-25
完成予定
2022-01-04
参加人数
2 / 8
●提案と妥協 『ホテル・ボルジア』本社。 来るべきクリスマスの飾り付けが進行中である大ホール。 【セム・ボルジア】は不動産会社『オーク』社長【トリス・オーク】に対し、いかにも親しげな表情を作った。 「これはこれは。よくいらっしゃいましたオークさん。こうして直にお会いするのは――二カ月ぶりですかね?」 トリスはほんの一瞬躊躇したが、彼女が差し出した手を捨て置くことなく、握手した。 「そうだね。それくらいになるか。不義理をお許し願いたい。何しろこちらも、忙しかったものでね」 「分かりますよ。裁判というのは実に煩瑣で、面倒なものですからね。貴重なお金と時間を食うばかりで。もっと手続きが簡略化されていいと思いませんか?」 トリスの口元が一瞬憎々しげに歪んだ。髭が生えているのでうまく隠されたが。 「そうですな。全く同意見です」 握手を終えた二人はそのまましばらく黙る。飾り付けの作業を見るふりをして。 「……そういえばボルジアさん。あなたのホテルで最近、展覧会が開かれたそうですね」 「ええ。学園の方から話を持ちかけられましてね。よろしければ、と場所を提供した次第です」 「ほう。学園と随分親しいようですな。うわさでは、グラヌーゼで事業展開をしようとしているとか」 「ええ」 「あんな場所にホテルを建てて、集客が見込めるものですかな?」 「見込めますよ、もちろん。今すぐにということでないのは確かですが――まあ、私が生きているうちには。あそこにはそれだけの潜在力がある」 トリスは紳士らしく、優雅に頷いた。そして先程のお返しとばかり、刺のある言葉を吐き出した。 「あなたがそこまで言うのなら、そうなんでしょうな。実に商売のうまい方ですから。その若さで莫大な富を手にしておられる。ともに祝うご家族が一人もご存命でないというのは、寂しいことでしょう」 セムがトリスに横目を向ける。蛇のように鋭く。 トリスは手にした杖でこつこつ床を叩く。 「いや……そうでもありませんかな。ご家族の死はあなたが望んだものだから。ああそういえば、そういう趣旨の絵が応募されてきたそうで」 沈黙。からの反問。 「ええ、応募されてきましたとも。ところでオークさん。どなたやらの轢死は、あなたが望んだことですか?」 トリスの瞳孔が丸くなった。白目から浮き上がるように。 「一体何のことですかな?」 「さあ。私にはいまいち分かりません。でも、あなた自身は分かってらっしゃるんでしょう。多分」 セムは体を斜めに向けた。トリスと相対する形になるように。 顔は笑っているが、目は笑っていない。お互いに。 「展覧会に私の絵を応募してきた子ですがね、学園に保護されましたよ。ああなるともう、誰にも手出しが出来ませんね」 「なぜ私にそんな話をするのですかな? 関係のないことではないですか。むしろそれで残念に思っているのはあなたではないですかな?」 「私が? どうして」 「面白からず思っているでしょう。ああいう絵を描いてきた相手について」 「そりゃあね、気持ちのいいものではありませんね。しかし、あなたは私以上にそうでしょう。私と違って非常に世間の評判がよろしい方ですから、醜聞は命取りになりかねない。今度のシュターニャ市会議員選に立候補されるんでしょう。そんなタイミングで後ろ暗いプライバシーに踏み込んでこられるのは、困りますよねえ」 沈黙。 「何を要求している」 「私たちの間の係争案件、あなたの側から取り下げていただけますか? そうしたら私は、あなたのお考えを、先方へお伝えしますよ」 トリスは顎を突っ張らせた。奥歯を噛みこんだのだ。セムの申し出を飲まなければいけないと悟って。 【ラインフラウ】は社長室の窓から、立ち去っていく馬車を見送る。それから軽やかに身を翻す。椅子に座っているセムに抱きつく。はしゃぐ様に。 「お手並み鮮やかねえセム。ウルドの件をこういう風に利用するなんて、悪知恵のよく働くこと――で、これから学園に行くの?」 「もちろん」 「さて、皆納得してくれるかしら?」 「してもらわないと、困ります。ウルドさん本人のためにもね」 ●お祭り近づく学園町角 【ウルド】は、通りに飾られているクリスマスツリーを前に羽を止め、呟いた。 「……きれいやなあ」 そのままぼうっと数秒見とれる。 「おーい、ウルドよ」 「うるどちゃん、こっちよ」 【ドリャエモン】と【トマシーナ・マン】が呼ぶので、そちらへ急いで飛んで行く。小さな買い物カゴをぶらさげて。 「次はどこに行くんや」 「おにくやさん。プディングにつかうこまにくをかうのよ」 クリスマスのための買出しは、まだしばらく続きそうだ。 ●等価交換 保護施設を訪れたセムは、施設関係者の面々、並びにウルドの祖父母を前にこう言った(ウルド本人とトマシーナ、ドリャエモンは場にいない。買出しに行っているので)。 「単刀直入に申しますと、ウルドさんの家を焼いた犯人はオークさんで間違いないです。けれどもその件については、これ以上追求しない方がよろしいかと」 【アマル・カネグラ】は戸惑った顔で聞き返す。 「なんでですか?」 「オークさんがおっしゃったのですよ。『そうしてくれるなら、内々に賠償金を支払ってもいい』と」 【ラビーリャ・シェムエリヤ】はセムが、相手側と何か取引したらしきことを察した。普段にない厳しい顔つきで、彼女を詰問する。 「……どういうこと、セム。一体向こうに何を話したの」 「あの子が学園にいることを伝えただけです。そうしましたらあの方は、今回のことを不問に付してくれるなら、以降けしてウルドさんに関わることはしないと明言されました」 ウルドの祖父が憤懣やるかたなしの声を上げる。 「そんな勝手な話があるか! わしら、家を焼かれて死ぬところだったのじゃぞ!」 「オークさんはそこまでするつもりはなかったということでした。全て現場の暴走だそうです。彼は『穏便に、全ての絵の買取をして来い』と言っただけだそうで」 アマルがまん丸な顔を傾げて、うーん、と唸った。そしてウルドの祖父に聞いた。 「不審者が来たとき、お金の話、してました?」 「そんなものは知らん! 連中、ただ何も言わんと押し入ってきただけじゃ!」 アマルは無言でセムに目を向ける。 軽く肩をすくめたセムは、言葉と言葉の間にゆっくりと間を置いて、続けた。 「家を襲った人たちは、全員所在が知れません。オークさんが襲撃を命令したという証拠はありません。この件を正面から訴え出ても、勝ち目はないです。オークさんはおっしゃいましたよ。『法廷に持ち込むなら、私は私の名誉のために、断固として戦う』と」 「あのう、それって脅しでは」 アマルの突込みに対しセムは、肯定も否定もしなかった。 「私思うのですが、ウルドさん、並びにお爺様お婆様は、この先学園領内に定住すべきではないですか。学園ならば、ウルドさんの能力を受け入れる土壌がありますから。お家についても、いったん手放されてはいかがですか。私が引き受けてもよいのですよ」 ウルドの祖母はとんでもない、というように首を振る。 「そんなことを言われても、あそこは先祖代々の土地です。売るなんて、とんでもない」 「お気持ちはよく分かります。とは言いましても、ウルドさんの能力が消えない限り、この先ああいうことがまた起きますよ。いくらでも」
犬の名前は何ですか?
春夏秋冬 GM
ジャンル
ハートフル
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-12-08
予約期間
開始 2021-12-09 00:00
締切 2021-12-10 23:59
出発日
2021-12-18
完成予定
2021-12-28
参加人数
5 / 8
大きなトカゲが鳴き声を上げた。 「わん」 「どういうことだメェ~?」 可怪しなトカゲに、【メッチェ・スピッティ】は小首を傾げる。 いまメッチェが居るのは、学園の一角。 早朝に授業の用意をするべく教室に向かっていたのだが、その途中で可怪しなトカゲに出会ったのだ。 「犬みたいなトカゲだメェ~」 好奇心にかられて近付く。 可怪しなトカゲは中型犬ぐらいの大きさで、口を軽く開けて舌を覗かせている。 それが余計に犬のように思えた。 (ひょっとすると――) ひとつの推測を抱いて、メッチェはトカゲを撫でる。 「手触りが好いメェ~」 鱗の感触じゃなく、さらさらとした毛並みの手触り。 「幻惑魔法が掛けられてるみたいだメェ~」 見た目が変わる魔法が掛かった犬らしい。それが証拠に―― 「わん」 一声鳴いて、姿が変わる。 「今度はフクロウだメェ~」 大きめのフクロウの姿に変わる。 もっとも見た目だけで本来の姿は変わっていないので、フクロウの背中から先、何も無い筈の場所を触っても、さらさらした手触りがあった。 「誰かが魔法を掛けたメェ~? それとも、自分で掛けてるメェ~」 「わん」 知らないよ、とでも言うように鳴く犬(?)。 「この子、どうするメェ~」 野良犬のようだが人に懐いているので、どこかで飼われていた犬なのかもしれない。 それに魔法が掛かった、あるいは魔法を使える犬を放置するのも、気が引ける。 (どうするかメェ~?) などと考えながら犬(?)を見詰めていたメッチェは、ふと思いつく。 「何て呼んだら良いメェ~?」 犬、と呼ぶのも味気ない。 「お前、何て名前だメェ~?」 「ひゃん」 付けて、とでも言いたげに、甘えた声を上げる犬(?)。 メッチェは少し考えて―― 「めぇめぇでどうだメェ~?」 「わふぅ……――」 不満を示すように鳴いたあと、またトカゲの姿になると、メッチェの前から走って逃げ出す。 お気に召さなかったようだ。 「どうするメェ~?」 逃げられたメッチェは、思案しながら教室へと向かった。 その後も、件の犬(?)は学園内で頻繁に見つかる様になりました。 時折、学園生が餌をやっていることもあり住み付いたようです。 人懐っこいようですが、名前を付けようとして気に入らないと逃げ出す模様。 気になったメッチェは、課題を出しました。 内容は、学園に住み着いた犬(?)に名前を付けて、飼い主になって欲しいとのこと。 この課題を聞いてアナタ達は、どう動きますか?
リリィ・リッカルダの冒険
桂木京介 GM
ジャンル
冒険
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-12-09
予約期間
開始 2021-12-10 00:00
締切 2021-12-11 23:59
出発日
2021-12-18
完成予定
2021-12-28
参加人数
8 / 8
冬の初めと思えぬほどの、生暖かい午後は雨とともに終わった。 年寄りの忍び泣きのような小糠(こぬか)雨だ。針先のように冷たい。鎧の隙間から肌を濡らし、眼鏡の表面をしずくで覆う。 吐く息でレンズが曇り、【リリィ・リッカルダ】は懐から出した布で眼鏡をぬぐった。といってもその布もすでに水びたしなのだった。レンズには虫の翅(はね)みたいな油膜が張っており、せいぜい気休めにしかならない。 リリィ・リッカルダはローレライである。うっすら桃色をおびた乳白色の髪は、この種族特有の半液状だ。 決してすべてのローレライがそうではないが、彼ら種族は液状の髪に制限を課さず、流れるがままにすることを好む傾向がある。しかしリリィの髪は、縄目のような三つ編みに編まれていた。 見た目こそローティーンだが、光沢のある赤い鎧はリーベラント国の正支給品で、左胸に刻まれた紋様は、彼女が魔法戦士であることを示している。腰に佩くのはレイピアだ。 リリィは単身、雨をものともせずに歩みつづけていた。葉もまばらなものばかりとはいえ、林のなかを進んでいるのだ。適当な木を選んで雨宿りすることもできようが、歩み止める気はなかった。 もうすぐ。 もうすぐ、特異点にたどり着ける。 特異点とは、この世界と平行して存在する異世界に通じる門のことである。現在、正式に確認されている特異点はセントリアという小都市に存在するものただひとつであり、フトゥールム・スクエアが厳重に管理している。セントリアでは異世界人【メフィスト】の協力のもと、責任者【ハイド・ミラージュ】を中心とした研究者たちが少しずつ特異点の解明をすすめている最中だ。いつか異世界と自由に行き来できる日がくるかもしれない。 しかし異世界との往来が、すべてセントリア経由でおこなわれたものではないとも考えられている。実際、フトゥールム・スクエア学園生に顕著な異世界人たちも、セントリアなど知りもしない者が大半だった。この世界には他にも特異点があるのではないか、そう考えるのは当然のなりゆきであろう。 もうすぐ。 もうすぐで。 震える指先をこすりあわせ唇をかみ、リリィは地図を開いた。 地図の中央付近には、赤いインクで『×』の印が書きこまれている。 「あっ」 にわかに突風が吹き、地図を彼女の手から奪い取ったのだった。 地図は風に舞ったのもつかのま、籠を飛び出した小鳥のように、たちまちリリィの視野から消えた。 「リーベラントに帰れって言うの!」 リリィは悲鳴のような声をあげたが、歯を食いしばるようにして口をつぐんだ。 ちがう。 もう戻らない。戻れない。 リリィにとって故郷は、いや、この世界すべては生きづらい場所だった。芸術的なものや華美なもの、社交界あるいは肉体美を好むリーベラント人のあいだにあって、絵を描けず音楽を奏でられず、やせっぽちで地味な容姿に生まれついたリリィはいつも路傍の石以下の存在だった。好きなものは書籍で、ひたすらに本に埋もれ知識の習得につとめてきたが、詩や文学の才があればまだしも、ただ学ぶだけという生き方はリーベラントではよく言って変わり者、もうすこし具体的に言えば偏屈としかみなされない。 両親を早くに亡くし、王宮の慈善事業として養育され王に仕える身分も与えられたが、飼い殺しのような状態からようやく与えられた仕事が『フトゥールム・スクエア学園生を誘惑し引き抜け』というまずリリィ向けの使命ではなかったことからも、彼女の存在がほとんど重要視されていなかったことがわかろう。(もちろん使命は完全に失敗した) 異世界、それこそがリリィがいだく唯一の希望だ。 どこか別の世界なら、自分のような人間を受け入れてくれる場所があるはず。 ふとしたきっかけで、セントリア以外の特異点についてリリィは情報を得た。この山林のどこか、セントリアよりずっと不安定だが、異世界に通じる門があるという。民間伝承の域を出ぬ真偽の怪しい内容だったものの、これを知るや矢も楯もたまらず、装備をととのえてリリィはリーベラントを脱走した。それが数日前のことだ。 低位とはいえ近衛隊からの逃亡だ。捕まれば罪を問われずにはおれまい。身分剥奪はもちろん、収監や極刑もありえる。 戻らない。戻れない。 自分の居場所は、自分で見つける。 だから私は――異世界に行く! 頬を雨粒がすべり落ちていく。いささか乱暴に雨粒をぬぐうと、リリィ・リッカルダはまた歩き出す。 こうもり傘の表面に、びたっと茶色い紙がへばりついた。 白い絹の手袋で丁寧にはがす。 地図らしい。 「ふむ」 奇妙な男は手をあごにあてた。 いやしかしそれは手であろうか。 それに、『あご』といえるのか。 手袋はある。しかし手袋と燕尾服のあいだの空間にあるべきものがない。肉体がないのだ。雨も通り抜けていく。にもかかわらず服にも手袋にも、身が詰まっているようにも見える。 顔はマスクである。異世界人ならガスマスクと呼ぶかもしれない。溶接工がはめるような鉄の顔、両目とも黒い窓に隠れている。口にあたる場所からは、蛇腹状の管が伸びていた。 燕尾服の紳士、しかし服と服のあいだは無の空間で、顔もマスクの怪人物、その名も【スチュワート・ヌル】は、黒のボーラーハットのつばをちょいと指先ではじいた。 どうやら、自分以外にも祠(ほこら)を目指している者があるようだ。
吸血鬼さんを気軽に殺そう
春夏秋冬 GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-12-02
予約期間
開始 2021-12-03 00:00
締切 2021-12-04 23:59
出発日
2021-12-11
完成予定
2021-12-21
参加人数
8 / 8
トロメイア。 精霊の住む山とされるアルマレス山の麓に広がる街だ。 アルマレス山の精霊たちを祀る神殿があり、観光客を多く迎え入れている。 そのため、宿屋も多い。 もちろん質はピンからキリまであり、素泊まり宿からスイートルーム完備の高級宿まで様々だ。 その内のひとつ。 超が付くほど高級な宿に、祖母と孫が泊まっていた。 「いよいよ時が来たのじゃ!」 「はぁ、そうですか」 やたらとテンションの高い祖母【ヴィヴィ・ストーカー】に、孫娘である【カタリナ・ストーカー】はおざなりに応える。 「何でそんなに嫌そうなんじゃ」 「そりゃ嫌になりますよ」 ため息をつくように、カタリナは返す。 「二千年前に封印された魔族が解放されるって古文書を見つけたから会いに行くって、どんな酔狂ですか」 「何を言う。浪漫じゃろう」 楽しそうに言うヴィヴィ。 元々は文学少女だったが、商才があるばっかりに一族の長として数十年を過ごし、後継者が育ったので後は趣味に生きる彼女としては、伝説の封印された魔族と会える機会を逃したくはないのだ。 それに付き合わされるカタリナとしては、堪ったもんではないが。 (みんなで押しつけるし) 父も母も伯父も伯母も兄×3も従兄弟達も、皆が良い笑顔で送り出した。 げんなりとする孫娘に、ヴィヴィは言った。 「やる気を見せるのじゃ。なにしろ、ウチの一族にも関わりのある魔族なんじゃからの」 「本当ですか?」 胡散臭そうに返すカタリナ。 なんでも、当時の一族の長が契約し、今に至る繁栄の基礎を築いたという話が残っているというのだが、カタリナは本気にしてない。 (どうせ箔をつけるために作り話だろうし。それに万が一にも本当の話として、封印されるような魔族に会いに行くってどういう神経なのよ) 心底乗り気でないカタリナ。しかし―― 「さぁ、行くのじゃ!」 「はぁ……」 なんだかんだで祖母が心配なカタリナは、ため息をつきながら連いていくのだった。 そして今、封印場所に2人は辿り着いた。 「……これ、マジ物じゃないですか」 緻密な魔法陣の中央に鎮座する魔法石を前に、カタリナは引きつった声を上げた。 「最初からそう言っとるじゃろ」 平然と返すヴィヴィ。 2人が居るのは、アルマレス山の裾野に作られた地下建造物の中だ。 「ここまで連いて来たんじゃから腹を括れば良いじゃろ」 「途中から止めたのに言うこと聞かなかったじゃないですか!」 「こりゃ引っ張るな。ここまで来て会わずに帰れるか」 2人がもみ合っていると、突然魔法石に罅が入る。 「おおっ、復活の時じゃな」 「ああああっ、手遅れだったー!」 喜ぶヴィヴィと慌てるカタリナ。 対照的な2人を前に魔法石は完全に砕け、そこから灰が零れ落ちて来たかと思うと、あっという間に人の形を取った。 「我輩、復活である!」 現れたのは、黒マントを羽織った男。その姿は―― 「なんかしょぼい?」 「えらく痩せとるのぅ」 カタリナとヴィヴィの言う通り、貧相な姿をしていた。 それを聞いた男は―― 「ガハッ!」 精神的ダメージを受けて死んだ。 「なんでー!?」 「言葉のナイフが刺さったからだー!」 「一瞬で復活するのぅ」 死んで灰になってから、すぐさま復活した男に、ヴィヴィは近付くと―― 「てぃ」 「ぐはっ!」 ちょっぷを叩き込んでサクッと殺す。 「なにをするー!」 すぐさま復活して突っ込む男。 「面白そうじゃったから」 「そんな理由で気軽に殺すなー!」 「ちょ、おばあさま」 男からヴィヴィを引き離すカタリナ。 「挑発しないで下さい。危ないですよ」 「そうかのぅ」 「……いや、それは、まぁ、そうかもしれないですけど。でも封印されてた魔族であることは変わらないんですよ。今の内に逃げましょう」 「ふははははーっ! 正しく我輩を畏れておるようだな! 感心感心。その心意気を見込んで、復活後の眷属第一号にしてやろう」 「えっ、て、いやーっ!」 「ぐえっ!」 いきなり近づいてきた男に驚いてカタリナが突き飛ばすと、死んで灰になる。 すぐに復活したが。 「そこまで嫌がることは無かろう。思わず死んでしまったではないか」 突き飛ばされるより、そっちの方がダメージが大きかったようである。これにヴィヴィは―― 「いきなり抱きつこうとして来たんだから当たり前じゃないですか!」 涙目で言った。 これに男は怯んだ様子を見せると、言い訳がましく返す。 「抱き着くなど破廉恥なことをする気は無いぞ。ただ我輩は、血を吸って眷属にしようとしただけだ」 「血を吸うって、やっぱり変態――」 「違うぅ! 我輩は吸血鬼だから血を吸って眷属にしようというだけだ!」 「エロい魔族じゃのぅ」 「誰がだー!」 ヴィヴィに突っ込むと、男は自分を落ち着かせてから言った。 「とにかく、お前達は何だ。この場所を知っているということは、【ブラム・ストーカー】の子孫だろう」 「おばあさま、誰です?」 「ウチの一族の初代じゃな。夜天覇道(ナイトウォーカー)の威名を持った血の魔族、吸血鬼【アーカード】の眷属となった方じゃ」 「夜天覇道って、これが?」 「指を指すなー!」 涙ぐむ吸血鬼、アーカード。 「おのれ、また勢いで死ぬところだったぞ」 「貧弱すぎる」 「何でそこまで弱体化しとるんじゃ」 「そんなもの、封印され続けていたからに決まって――って、ちょっと待て。今はいつだ? 魔王が封印されてから百年後に起こしに来いと、ブラムには言っておいたはずだが」 「え? 百年じゃなくて二千年経ってますよ」 「長すぎるわー! どんだけ放置されとるんだ我輩!」 「それには理由があるのじゃ」 ヴィヴィは、キリっとした顔で言った。 「預かっておった財宝を横領して商売の元にしたので気まずくなったのじゃ」 「何やっとんだアイツはー!」 頭を抱えるアーカード。そして―― 「ええい、このままここに居ても埒が明かん。外に出て眷属募集を掛け、血を吸って力を取り戻してくれる」 そう言うと、霧に変わり外へと出ていく。 「おばあさま、どっか行っちゃいましたよ。どうするんです」 「見なかったことにするかのぅ」 「いやダメでしょそれ! 何かあったらウチの一族のせいになるんですよ!」 「大丈夫じゃと思うがのぅ」 「ダメですよー。あああ、こういう時は……そうだ、学園。学園に頼めばどうにかしてくれるかも!」 藁をも掴む気持ちで、一縷の望みを掛けるカタリナだった。 そして、ひとつの課題が出されることになりました。 内容は、封印されていた血の魔族、吸血鬼アーカードが解き放たれたので、どうにかして欲しいというものです。 話を聞くと、アーカードはトロメイアの街に度々表れては、眷属にならないかと誘いをかけてるようです。 その度に拒否されて死んでいるようですが。 話を聞けば聞くほど、問題ないんじゃないかと思えてきますが、すでに依頼料という形で学園に多額の寄付がされているので、何もしないわけにはいきません。 現地に訪れて、アーカードと接触してきてください。
ある日ある時、食堂前でのひと騒ぎ。
K GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
簡単
報酬
通常
公開日
2021-12-01
予約期間
開始 2021-12-02 00:00
締切 2021-12-03 23:59
出発日
2021-12-10
完成予定
2021-12-20
参加人数
5 / 8
●芸術コース授業風景。 初等科の生徒達は胸像を囲んでイーゼルを構え、一心不乱に手を動かす。 誰も喋るものはいない。紙の上を鉛筆が滑る音だけが響いている。 ――授業終了のベルが響き渡った。 鹿のルネサンスである監督教師が言う。 「――はい、皆、それまで。手を置きなさい」 呼びかけ通り素直に手を置くもの、最後に数本急いで線を書き加えるもの、逆に消すもの、それぞれだ。 教師は生徒の間を巡回しつつ、一人一人にアドバイスをかけて行く。修正のための赤鉛筆を片手に。 「うーん、もう少し全体を見て。こうやって中心線を引くと分かるが、左右バランスが崩れているよ」 「うん、いい。形は完全だ。でも、影の付け方がいい加減だ。雰囲気で描いては駄目だ」 「ここだけ光の当たりが逆になっているね。もっとよく対象を見て」 この秋フトゥールム・スクエアに入学した新入生【トーマス・マン】のところまで来て教師は、ほう、と片方の眉を上げる。 「なかなかよく描けているね。形も影も正確だ。細部がやや、食い足りない感じもするが――どこかで絵を習ってきたことがあるのかい?」 トーマスは、やや緊張しながら答えた。 「はい、あの、少しだけ教えてもらった事があるんです。画家の人から……」 近くの子が彼の絵をのぞき込み、感嘆の声を上げる。 「本当にうまいや」 それに引き続き、後ろの方で数人のひそひそ声が交わされる。 「あの子、この間開催してた展覧会で、賞をとった子だよ」 「ああ、道理で……わたしも見に行ったんだ、あの展覧会」 「出品した?」 「ううん、わたしはしてないけど。ほかの展覧会に出す絵に集中したかったし。でも、そうした子は何人かいるよ……」 そのうちの一人がちらと、とある生徒に視線を走らせた。 その生徒はクラスの中で、一番年かさのようだ。12、13というところか。 数人の友達と何事か話し合いながら、トーマスの方を忌ま忌ましそうに見ている。 ●喧嘩の売り買い お昼。 トーマスは食堂に向かっていた。入学してまだ日も浅いながら、早速友達になった子たちと一緒に。 「すごいなトーマスくん、チップス先生から褒められるなんて」 「滅多にないことだよね」 「そうなの?」 「うん、そうさ。あの先生すごく厳しいんだ」 とそこに、声をかけてきた者がいる。先程トーマスを見ていた同クラスの生徒【ロンダル・オーク】とその仲間数人だ。 公平に見て彼らは、最初からトーマスに対し喧嘩腰だった。 「おいお前、ぽっと入ってきて、あまりいい気になるなよ」 トーマスも相手が敵意を持っていることを感じ取る。自然、反応が荒くなる。 「いい気って何。僕は何もしてないよ」 ロンダルは仲間に対し、トーマスが言ったことをおうむ返しにしてみせた。 「『何もしてないよ』だってよ」 それを聞いて彼の仲間が笑う。 間髪入れずトーマスが言った。 「なに笑ってんの。その人、僕の下手な口真似しただけなのにさ。面白くもなんともないじゃない」 空気が一瞬固まる。 トーマスと一緒にいた子たちは彼の袖を引っ張り、先に行かせようとするが、トーマスは頑としてその場から動かない。ロンダルを睨む。ロンダルもまた睨み返す。 「お前、カサンドラ賞展覧会とかいう昨日今日出来た催しに出品して賞取ったからって、勘違いするなよ。あんなもの、ただのホテルの客寄せ、素人展覧会だからな。キワものばかりで、描く方も選ぶ方もずぶの素人だろ。そこで選ばれたからって、ここじゃあ、三文の値打ちもないんだよ」 「キワ物があったのは確かだけど、ほとんどはそうじゃない作品だったよ。見に行ったならそういうことが分かると思うんだけど。そもそもカサンドラ賞のみならずほかの賞の審査も、学園の先生たちが多数当たってたよ。先生たちは絵に関して素人なの?」 トーマスの言うことの方が正しいので、ロンダルは、まっこうから彼の言い分を否定することが出来なかった。だもので、意図的に話をずらしてくる。 「そもそもな、カサンドラなんてたいした作家じゃないよ。少なくとも俺は好かないね。やたら感傷的で、テーマも似たり寄ったりで。まあ、ああいうのが好きな人間もいるから、そこはしょうがないけど、早世したってことで不必要に評価を上げられ過ぎなんだよ。もっと長生きしてたら、絶対飽きられてたさ」 その言葉は、カサンドラがどのような思いを持ってリバイバルになったか、またどうやって第二の死を遂げたか知っているトーマスには、到底受け入れられないものだった。 眉間にしわを寄せ、きつい言葉を言い放つ。 「へえ、そう。じゃあ君も早世してみたら? そしたら評価が今より上がるよ。多分ね」 ロンダルはカっときた。自分が売った喧嘩ながら、こうもはっきりした形で強烈に返されるとは思っていなかったのだ。 「なんだとお前、もういっぺん言ってみろよ」 「耳が遠いの? 早世してみたらって言ったんだよ」 ロンダルの手が先に出た。 トーマスの手が直後に出た。 ●まずは引き分け 「うおーい、喧嘩だ喧嘩だ!」 「食堂の近くで喧嘩だぞー!」 「ほんと、どこの生徒?」 「芸能・芸術コースの奴だってよ!」 「へえー、あそこの連中が暴れるのは珍しいな」 「戦神・無双コースか、魔王・覇王コースなら珍しくもないけどな」 テンプラ蕎麦をすすっていた【ラビーリャ・シェムエリヤ】はその声を聞いて即座に立ち上がり、現場に向かった。 ついてみればそこには、ほかの生徒に押さえられたロンダルとトーマスがいた。 二人とも相当にやり合ったらしい。髪も服も乱れているし、顔は打ち跡で赤くなっている。 「あ、先生。ちょうどいいところに。この二人がもう、激しくぶちあってまして……」 トーマスを押さえている【アマル・カネグラ】の言葉を手で制したラビーリャは、当事者たちを問いただす。 「……二人とも、一体何がどうしたの?」 ロンダルもトーマスも答えなかった。黙ってお互いを睨み合っている。 ラビーリャは厳しい顔で腕組みをし、彼らに言った。 「言えないような理由なの?」 そこで、トーマスとロンダルの連れが口を開いた。 「あの……」 「それが……」 彼らから喧嘩の理由を聞いたラビーリャは、はあ、と息をつく。 「……二人とも、ちょっと職員室までおいで。そこで改めて話をするから……」
ニーズに応えて
瀧音 静 GM
ジャンル
コメディ
タイプ
ショート
難易度
とても簡単
報酬
少し
公開日
2021-11-25
予約期間
開始 2021-11-26 00:00
締切 2021-11-27 23:59
出発日
2021-12-02
完成予定
2021-12-12
参加人数
4 / 8
「頼まれてたもん、出来たは出来たが……。本当にこんなのが金になんのか?」 「うちの情報を疑うん? 今まで外したことあらへんやろ?」 「別にお前を信用してねぇわけじゃねぇが……にわかにゃ信じられねぇな」 学園都市『フトゥールム・スクエア』内、研究棟。 その研究棟を、地下へと進んだその場所で、話し込む影が二つ。 明かりが少ないにもかかわらず、輝いて見える金色の髪の毛と尻尾の持ち主の【カグラ・ツヅラオ】と。 こちらは闇に溶け込むような、薄紫の髪の毛と羽のドラゴニア、【チャロアイト・マリールー】。 方や教員、方や研究員。あまり接点のなさそうな二人だが、どうやら何かを企んでいるらしい。 「ほな、もろてくわ。捌いたらしっかりお金は渡すさかい、待っててな」 そう言ってカグラがチャロアイトから何かを受け取って研究棟を出ようとしたが。 「待て」 チャロアイトから呼び止められる。 「どしたん?」 「出来たっては言ったが、完成したとは一言も言ってねぇぞ?」 「? ……何が足りひんの?」 どうやら、チャロアイト曰くカグラが受け取ったものは未完成らしく。 何をもって未完成なのかとカグラが尋ねれば……。 「データが足んねぇ。ちゃんと効果があるのか、元に戻れるか、その辺のデータがさっぱりねぇんだよ」 と、およそ開発の最終段階の工程が終わってないと告げられて。 「……そのデータ、どれくらいあれば十分なん?」 であれば、と逆にカグラが質問すると……、 「最低十例前後。あとは多けりゃ多い方がいい」 とのこと。 「ちょい待ち。……ん-、どないしよか。……うちとあんたで二例は確保できるとして、残り八前後――」 それを聞いて少しだけ考え込んでいたカグラは、 「そや、あんた魔法薬学の教員証持っとったよな?」 およそ生徒たちには見せられないような、悪い顔をしてチャロアイトへと尋ねるのだった。 * 突如として実習になった魔法薬学。 それも中級の魔法薬学として、危ない魔法薬を実習出来ると聞いて、生徒たちは授業を楽しみにしていた。 やがて始業時間になり、実習室へと入ってきたのは……。 「おう、チビッ子達。揃ってんか?」 商人系の座学を扱うカグラであった。 なぜカグラ先生が? 生徒たちが首をかしげる中、カグラに続いて入ってきたのは見たこともない教員。 薄紫の髪、髪と同じ色の羽と尻尾。白衣と眼鏡、マスクをつけたドラゴニアのその教員は、 「今日の魔法薬学実習を担当するチャロアイト・マリールーだ」 と簡素な自己紹介をすると――、 「早速だが授業の内容について説明すっぞ。まずは各人一つずつ、オレが調合した魔法薬を渡す。別に危険なもんじゃねぇが、体に異変を起こすよう調合してる」 という説明が続き。 その説明を聞いて、生徒たちにどよめきが起きるが、 「別に大した変化じゃねぇって。んで、この授業の目的は、そもそも落ち着いた状況で調合出来る場合なんざ限られてるって話で、目の前で毒に犯された知り合いがいて、普段通りに調合出来ると思うか?」 落ち着けよ、と声をかけ、今回の授業の目的について話し始めた。 「出来ねぇ……違うな。今は無理だろ? だから、普通じゃない状態で調合するっつー場数を踏んで、いつでも冷静に調合できるようにする必要があるわけだ。……魔法薬の調合が繊細なのは今まで習ってきてるよな?」 チャロアイトの問いかけに、静かに生徒たちは頷いた。 「うし、じゃあ、今回の授業の課題。身に起きた変化に惑わされず、その状態の解除薬を作ってみろ。……あ、ただ、材料も作り方も最初は教えねぇぞ? 試行錯誤して辿りつけりゃあその経験は絶対に忘れねぇからな」 生徒たちへ薬を手渡しながら、何かとんでもない事をチャロアイトは言う。 「時間ごとに作り方のヒントは出すが、絶対に自分で作ること。んで、早く出来たやつは余分に作れ。オレとこっちの狐も薬飲むからよ」 さらにとんでもない事を言いながらカグラに薬を手渡して。 手渡されたカグラは、それを躊躇いもせずに飲み干して。 「んで、肝心の体の変化の部分だが――」 ポンッ、と。カグラの周囲に煙が発生したかと思えば……、 「こんな風に、性別を変えてしまう薬だそうやわ」 現れたカグラは、タヌキ耳尻尾の褐色少年へと変貌しており。 身長は半分くらい。毛色も、先程までの金色はどこへやらで、焦げ茶色へと変わっていた。 「姿かたちがどう変わるかは飲んでからのお楽しみ。とはいえ流石に種族までは変わらへんから、勝手が変わることはあまりないはずや」 と先程までとは違う少年声で生徒へと話したカグラは、実習室の教卓へと飛び乗り腰を掛けると。 「ほな、時間もあまり長ないし、さっさと始めよか?」 と授業開始の宣言をした。 その隣で、チャロアイトが高身長お兄さんへと変わっていることに、一切の目もくれず。
発酵グルメバトル!
春夏秋冬 GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-11-23
予約期間
開始 2021-11-24 00:00
締切 2021-11-25 23:59
出発日
2021-12-02
完成予定
2021-12-12
参加人数
4 / 8
「今回は、発酵食品をテーマにグルメバトルをして欲しいのよ」 料理人2人と商人1人を前にして、アルチェの領主一族に連なる女商人【ララ・ミルトニア】は言った。 「それって、前にやったヤツみたいなのですか?」 ララに尋ねたのは、料理人の【ガストロフ】。 もう1人の料理人である【辰五郎】と共に、グルメバトルに参加した経験者だ。 その時のグルメバトルは、土の霊玉を宿す男の子が住んでいるボソク島の経済的な自立を確立するために行われた物だが、今回は違った。 「前とは目的が違うのよ。と言っても、ボソク島にも関わる話だけどね」 そう言うとララは、学園出身の商人【ガラ・アドム】に視線を向ける。すると―― 「今回は、こいつを広めるためにグルメバトルをしたいんだ」 ガラは1枚の符を取り出しテーブルの上に置くと、端を破る。 途端、出来立ての料理が現れた。 甘鯛をメインにしたブイヤベースや、ムール貝やアサリにイカやエビを使ったパエリヤに、同じ食材を使ったピラフ。 食べられる花(エディブルフラワー)が彩りとして加えられ、目で見ても楽しめる。 他にも、枝豆を使ったコンソメスープや、魚の燻製と野菜を酢や柑橘の汁であえたマリネと、山菜やハーブのオイル漬けなどなど。 見ていて食欲がそそられる。 「へぇ、こいつは――」 出てきた料理のひとつ、パエリヤを試食した辰五郎が言った。 「これ、あの時のグルメバトルに参加してたネェさんの料理だな」 「ああ。学園の学食に正式採用されたもんだ」 「へぇ、良いもん出てくんだな学園の食堂は――って、それはそれとしてだ。一番気になるのは、こいつは出来てから時間が経ってねぇな」 「マジか!?」 驚いたガストロフが、辰五郎と同じように試食して、さらに驚く。 「すげぇな。ひょっとして、さっきの符が関係してるのか?」 「そういうこった」 ガラが応える。 「どこでも食符。出来立ての料理を封じて、いつでも好きな場所に、封じた出来立ての料理を解放することが出来るってマジックアイテムだ」 ガラの説明に、興奮する料理人2人。 「おいおいおいっ、とんでもねぇじゃねぇかそいつはよ。そいつを使えば、旬の最高に旨い素材を使って、いつでもどこでも最良の料理が食えるってことじゃねぇか」 「それに店舗の制約も無くなっちまう。料理人の働き方まで変わっちまうぞ」 「そういうこった」 ガラが2人に応える。 「こいつはかなり、料理業界の流通を変えちまう代物だ。ただし、問題はコストでな」 「……だからグルメバトルをするって訳か」 「それって……あぁ、分かった。コストが高くなる分、高くても買いたくなるブランド力を付けたいって訳だ」 料理人としてだけでなく、料理店の経営者でもあるガストロフと辰五郎は理解した。 どこでも食符は便利だが、効果としては『出来立ての料理が食べられる』ことに尽きる。 魅力的ではあるが、言ってみればそれだけだ。 実際に使うためには、出来立ての料理の値段に加えて、どこでも食符のコスト分の値段を上乗せしないといけなくなる。 なので、値段が高くても構わない付加価値をつけるため、グルメバトルを開催しようというのだ。 「そういうことよ」 理解の速い2人に、ララは笑みを浮かべながら言った。 「どこでも食符は、これから量産体制に入るそうだけど、そうなれば誰でも使える道具になるから、物珍しさだけじゃ売りにならない。それこそ中身が大事ってわけ。その中身を、貴方達にも参加して貰って作って欲しいってこと」 「俺達『にも』ってことは、他にも参加するんで?」 ガストロフの問い掛けに、ララは応える。 「ええ。貴方達以外の料理人にも声を掛けているし、あとは学園生にも出て貰えないか打診するつもり」 「へぇ、良いですね。あの時参加した学園生達も、光る物持ってたし。楽しみだな」 「学園生といや、屋台形式で出してたのも良かったな。フィシュバーガーとか、旨そうなもんがあったぜ」 「屋台か、良いな。偶にああいうの、作って出したくなるんだよな」 「良いわね。なら今回は、屋台形式でやってみましょ」 ガストロフと辰五郎の会話を聞いて、ララは閃く。 「屋台形式でお客さん集めて、売り上げで優勝を決めちゃいましょ。お客さんも参加できて、楽しめるわよ」 「そいつは楽しめそうだ。しかしそうなると、てんでバラバラに作っていたらテーマ性が感じられなくて売りが弱い……ひょっとして、その辺も考えて、発酵食品でグルメバトルって提案したんですか?」 ガストロフの問い掛けに、ララは笑顔で応えた。 「違うわよ。最近発酵食品がマイブームなの」 基本、生まれがお貴族様なご令嬢なので、屈託がない。 「私は食べたい物が食べれて、その上で儲けに繋がるなら、最高じゃない?」 ララの応えに、苦笑しながら辰五郎が言った。 「発酵食品がテーマってことですけど、ラム酒とかもオッケーですか? どうせなら、ボソク島のを使ってやりたいんです。サトウキビの廃糖蜜を発酵させて作る訳ですし」 「良いわよ。その辺の括りはゆるーくやっちゃいましょ。発酵してる食品使えば、何でもオッケー」 「そういうことなら……確かボソク島にはバナナも作られてたから、それを使った物を試してみますかね」 「バナナって……お酒作れたかしら?」 ガストロフにララが尋ねると、応えが返ってくる。 「実じゃなくて、葉っぱを使うんです。豆をバナナの葉っぱで包んで発酵させると、テンペってのになるんです。発酵で出て来るクセは、高温で一気に調理すると消えるんで、油で揚げると素材の旨味と発酵で出来た旨味の両方が味わえて良いんですよ。生をスライスしてチーズと一緒に食べるのもアリです。酒の肴にする時は、俺はそうしますね」 「好いじゃない」 出来あがった料理を想像し、笑みを浮かべながらララは言った。 「楽しみだわ。お客さんにも楽しんで貰うためにも、学園生達と一緒に、頼むわよ」 これに力強く応える2人だった。 そして課題が出されます。 内容は、発酵グルメバトルに参加すること。 必要な物があれば先方が用意してくれるとの事です。 屋台形式で行われる今回の発酵グルメバトル。 皆さんは、どんな料理を作って出しますか?
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