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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
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ホワイトデー・アフター・トゥモロー
橘真斗 GM
ジャンル
コメディ
タイプ
ショート
難易度
とても簡単
報酬
少し
公開日
2021-03-14
予約期間
開始 2021-03-15 00:00
締切 2021-03-16 23:59
出発日
2021-03-22
完成予定
2021-04-01
参加人数
3 / 8
「我が忠勇なる風紀委員の同志諸君よ! バレンタインで学園の風紀は大きく乱れた!」 風紀委員の会議室で【レオン・ザビーネ】は拳を振り上げで大きな声で叫んでいた。 レオンはオールバックに固めた髪に鋭い眼光、そしてフレームのない眼鏡とまさに風紀委員らしい様相である。 「そして、今! ホワイトデーがやってくる……これはまた学園の風紀の乱れが予想されるであろう!」 集まっている風紀委員たちはレオンの言葉に耳を傾けながら、演説のような話を聞きつづけた。 「そう、我らは学園の風紀を乱すものを許してはならない、チョコを貰えなかった腹いせではなく、これは正義の証である!」 この言葉に涙を流す風紀委員たちもいる。 会議室に集まっている風紀委員たちはつまりはもらえなかった者たちである。 「三倍返しを強制するなどもってのほか! 礼に礼を返すに倍返しなどを要求するなど、あえて言おう……傲慢であると!」 ダンッ! と演説台をレオンがたたくと拍手が起こった。 「よって、このホワイトデーは徹底的に学園の風紀を正していく! 手段を択ばず徹底的にだ! 立てよ、同志諸君!」 『レ・オ・ン! レ・オ・ン! レ・オ・ン!』 妙な一体感を醸し出して盛り上がる。 その様子を眺めている存在に気づくこともなく……。 ●平和なホワイトデーのために 「……というわけなのよ。彼らも頭に血が上ってしまってしまっているから発散してあげる部分もあるのよね」 困った様子で【ユリ・ネオネ】は風紀委員の会議室で起こっていたことを集まったゆうしゃ達に説明していた。 「ということで、演技でもいいのでホワイトデーを楽しんでいるいわゆるリア充になって風紀委員の注意をひきつけて対処をしてほしいのよ」 面倒くさい依頼だなぁとゆうしゃ達の表情は苦々しい。 「場所は校舎裏が被害が少なくてすみそうだから、そのあたりでね。私やコルネ先生がやると色々問題だから、【キキ・モンロ】や【アスカ・レイドラゴ】も囮として協力してもらうわ」 「まぁ、仕方ないわね。ゴブリン依頼もないし手伝ってあげてもいいわ」 「三倍返しのお菓子がもらえるんだよね~。たのしみなんだな~」 ユリに呼び出されたアスカとキキはそれぞれの想いを口にしながらでてくる。 「遺恨なくスッキリさせてあげて頂戴、風紀委員のレオンも義理チョコすら貰えなくてひがんでるところがあるだけだから」 結局、私情じゃないか! と心の中でゆうしゃ達は突っ込みをいれながらも、風紀委員対策を講じるのであった。
ミラちゃん家――指輪を探せ
K GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-04-27
予約期間
開始 2021-04-28 00:00
締切 2021-04-29 23:59
出発日
2021-05-06
完成予定
2021-05-16
参加人数
7 / 8
●いつか、彼女が思ったこと ああ、わたしはいきたい、いきたい、ながいきしたい。 みんなとおなじくらいのねんげつ、いきられないなんて、いやだ。 ああ、わたしはげんきになりたい。 みんなとおなじようにはしって、おどって、うたって、いろんなたのしいこと、したい。 そうするほうほうは、ないの? このよのどこにも、ないの? ●肖像 「先生たちも指輪、探しに行くの?」 【トーマス・マン】の質問に【カサンドラ】は、絵筆の手を止めず答えた。 「ええ。黒犬一人だけには任せておけないから……」 【黒犬】への協力を鮮明に打ち出した言葉に、トーマスは勇気づけられた。 呪いの解除については様々な懸念があるが、やはり指輪は早く発見されたほうがいい。それが黒犬本人にとって望ましいことだ、と彼は思っている。 「あの、カサンドラ先生、それなら僕も一緒に行っていい? 指輪を探すの、手伝いたいんだ」 そわそわしながら聞いてくるトーマスに返ってきたのは、NOの言葉だった。 「ごめんなさい、それは出来ないわ――あなたには、ここで留守番をしていて欲しいの。私たちがいない間に、タロが黒犬の手紙を持って来ることもあるかもしれないから」 トーマスは軽く落胆する。 しかし単なる拒否ではなく、納得出来る理由がついていたので、なおも『行く』と言い張ることはしなかった。 「手紙が来たら、ちゃんと受け取っておいてね」 「うん――分かった」 短く答えてトーマスは、カサンドラが描いている絵を見る。心なし首を傾げて。 絵には、花園に立つ女性が描かれていた。まとったドレスが散る花びらと一緒になって、風になびいている。 そのモデルが誰なのかトーマスは知っている。何度かここを訪れたことがあるリバイバルの女性だ。 だけど、どうしたことだろう。カサンドラが筆を加えるごとに、印象が変わってきているようでならない。 あの女性は、優しげな感じだった。でもこの絵の中の人は、ひりつくような鋭い空気をまとっている……。 ●グラヌーゼ北部 人どころか獣の影さえない、荒れ地の夜。 薄雲に覆われた月はおぼろげな光を地上に投げ落とす。 巨大な穴が地面に空いている。まるでクレーターのように。 もしあなたがその縁に立ち見下ろしてみれば、穴の底に、体高2メートルはあろうかという黒いマスチフ犬を見るだろう。 【黒犬】は剥き出しの地面にべたりと腹をつけ座り込んでいた。手下の犬たちは随分疲れているらしい。彼の周囲で眠り込んでいる。 「くそっ、外れか……」 黒犬は罵りと一緒に炎を吐き出した。 地中から掘り出されたものが、闇にくっきり浮かび上がる。至るところ陥没したモザイク模様の石畳、崩れ果てた壁、ヒビが入った柱の列。 それらはここにあった、ノアの別邸の名残だ。 ノアたちはここに来る際、大勢のバスカビルを必ずお供に連れ出した。楽しみの一つである、狩りに参加させるために(この一点においてバスカビルは、シャパリュに対し大きな優越感を抱いていた。なにしろシャパリュはそういうことをさせてもらえなかったから――実際には『したいのにさせてもらえなかった』ではなく『面倒臭がってやらなかった』のだが、その辺の細かい事実関係について彼らは、あまり意識していない)。 バスカビルが狩るものは、ノア一族が用意してくれた。 多種多様な猛獣、魔物、それから――人間。 人間を相手にするときバスカビルは、たいてい体を小さくしていた。そうでないとすぐさま終わってしまい物足りなかったから。ノアたちもまた、勝負がすぐついては面白くないものだから、放つ人間を複数にしたり、わざと武器を持たせたり、一定距離を逃げるまではバスカビルを放たず待ってやったりなど、色々工夫していた。 駆けて駆けて獲物に追いつく、噛み付く、振り回す、食い破る。倒した獲物の肉は全部褒美として与えられるので、バスカビルたちはこの遊びに、一段と熱を入れた。その様をノアは優雅に、談笑しながら見ていたものだ。 まあそれはさておき、ここには指輪はなかった。自分のみならず手下たちにも散々嗅ぎ回らせたが、なかった。 (とすると、どこか別の場所にあるということだな) 黒犬は頭から、グラヌーゼ以外の場所を探す気はない。『ノアのものはノアのいた場所にある』と考えていたのだ。特にこれといった根拠があるわけではないが、なんとなくの勘で。 最も可能性が濃厚なのはサーブル城だと思ってもいたが、そこは後回しにしておきたかった。理由は言うまでもなく、赤猫がいるからである。いずれ確かめなければいけなかろうが。 (明日は、幻惑の森へ行ってみるか) それにしてもあの女、勇者どもの話によれば最近、あれと何かの取引をしている人間がいるらしい。 奴が人間の言いなりになるはずもない。 が、しかし指輪は別として、城の品を勝手に人間へ渡すことはあり得なくはないかも知れぬ。何しろそれらを日々ぶち壊し、平然としているのだから。 無節操で無軌道で無責任で、シャパリュというのはどいつもこいつもろくでなしだ……。 ●咲き誇る花の下には何かがあるかもしれない グラヌーゼ、『いのちの花畑』。 風はまだ肌寒いし、空は灰色だが、花畑は常に変わらず咲き誇っている。 【ドリャエモン】はモサモサの髭をしごき、東西南北を見回した。 至る所、花、花、花。戦いの犠牲者を悼む碑『セルラ・ビエラ』のほか、目印となるものは何もない。 生徒達が【セム・ボルジア】から得た情報によれば、指輪を拾ったかの騎士は、どうやらこのあたりにそれを放棄したらしい。 以降指輪は、地に潜ったままなのだろう。でなければ、すでに誰かが発見しているはずだ。グラヌーゼの人々は死者を悼むため、毎年ここを訪れているのだから。 「とりあえず始めるとするかの」 一行は学園から借りてきた品を手にした。 直角に曲がった一対の金属棒、それから、鎖のついた小さな三角錐。 一般に水脈や金脈などを探す『ダウジング』に使われるグッズだが、これは特別版。水でも金でもなく『強い魔力を帯びた品物』を感知する。 これらの器具を駆使ししらみつぶしに探して行けば、必ず何かしら反応が返って来る……はずである。指輪がここにあるのなら。 「まあ、気長にやりましょう。指輪は動いて逃げたりしな――」 言いかけて【アマル・カネグラ】は、カサンドラが近くにいないことに気づいた。 もう早、先に進んでしまっていたのだ。目を皿のようにして、声をかけづらいくらい真剣な様子。 (そういえばカサンドラさん、黒犬より先に指輪を見つけなければいけないんだって、ずっと言っていたっけ。でもちょっと、力が入りすぎだなあ……あれじゃあすぐ疲れちゃいそうだ) 取りこぼしを防ぐため、それから、本人の体調を観察するため、アマルはそれとなく、後ろからついて行くことにする。 他のメンバーも、思い思いに探索を進める。 「ところで……反応があったらどうします?」 「ひとまず、目印を立てときましょう。現地の人に許可をもらってから、後日改めて掘ってみるってことで」 「花を駄目にしちゃうみたいで、なんだか悪いですね」
時の奇術師 ~森に張り巡らされた罠~
SHUKA GM
ジャンル
戦闘
タイプ
ショート
難易度
難しい
報酬
多い
公開日
2021-04-18
予約期間
開始 2021-04-19 00:00
締切 2021-04-20 23:59
出発日
2021-04-28
完成予定
2021-05-08
参加人数
6 / 6
――瑞梨(みずり)、お前は必ず俺が……見つけ出す! とある町の郊外に広がる森で、夜の静寂を引き裂くように悲鳴が上がる。 「ひいっ!? 助けてくれ! 俺はこの箱をただ運ぶように言われたただの運び屋なんだ!」 「冒険者ギルドにも商業ギルドにも登録してねえヤツが何言ってやがる。怪我したくなきゃ大人しくその箱の中身を見せろ。そうすりゃ危害は加えねえって約束する」 赤茶色の髪の中年男が尻餅をついている。 鼻先には長剣の先端が向けられており、少しでも逃れようと男はじりじりと後ずさる。 だが背後の木に行く手を遮られ、追い詰められてしまっていた。 男は胸に宝石箱を掻き抱き、顔面蒼白に震えあがっていた。 そんな彼に迫るのは中肉中背の黒髪の青年。 年齢は二十前後だろう。 どこにでもある革鎧に長剣という旅人風の装いをしている。 しかしその隙の無い立ち居振る舞いは高ランクの冒険者を思わせる。 そんな彼は男に言い聞かせるよう、ゆっくりと語り掛ける。 「俺はその箱の中身を確認する。それからお前は空箱を持ってそのまま取引現場へと向かう。……安心しろ、俺がお前を守ってやる。お前はただ取引相手に気取られないよう振る舞えばそれでいい」 「そ、そんな真似できるか! んな真似したら殺される!」 「んじゃここで死んどくか? 俺は別にこの場でその箱を奪ってもいいんだぜ」 言葉と同時に殺気が男を射抜く。 その威圧を受けた男は口をぱくつかせ、空気を求めるようにあえいだ。 「わ、わかった! 命だけは助けてくれ!」 死を幻視した男は震える手で宝石箱を差し出す。 「それでいい。お前はそのまま動くな」 そう言うと青年は鞄から魔法陣が描かれたスクロールを取り出し地面に広げると、宝石箱をその中心に置く。 「開錠は……魔術トラップは大した事ねえな。これならすぐにでも――っ!」 スクロールに魔力を込めながら淡々と開錠作業をしていた青年だったが、突如として飛びずさった。 「おいっ、お前! 今すぐここから逃げ――!」 青年は木の根元に座り込んでいる男に呼びかける。 だが男は目の焦点が定まらないまま虚空を見つめていた。 宝石箱と男を繋ぐように魔力が結びつく。 同時に男の肉体が溶けて箱へと吸い込まれた。 「まさか、この男を触媒にした召喚魔法か!? 正しい手順を踏まないと発動するトラップ……いや、初めからもうこの男は……」 使い捨てだった。 初めから箱の中身の生物を召喚するために、肉体に魔術式を刻み込まれていた。 「つまりこれは最初から罠だったって事か、くそっ!」 青年は歯噛みする。 そんな思考をしている間に、目の前の宝石箱は光を放ち破裂する。 すると中から複数の獣の影が飛び出してきた。 青年は長剣を構え、油断なく呼び出された獣たちを観察する。 「カースドウルフ……それも6体とは念の入ったことだな」 黒い瘴気を纏った異形の狼が姿を現す。 この世の摂理から切り離された世界を害する獣。 前準備がなければ歴戦の冒険者パーティーでも苦戦を強いられる強力な魔物が複数体同時に目の前に立ち塞がる。 獣は青年を取り囲むと、本能に突き動かされるかのように一斉に襲い掛かって来た。 「――せあっ!」 裂帛(れっぱく)の気合と共に1体と切り結び、転がるように背後の木の陰へと体を滑り込ませる。 続く1体が木へと激突して弾かれた。 残り4体のうち2体が挟み撃ちするように襲い掛かってくる。 青年は長剣で1体の攻撃を受け止めるが、その背後からもう1体が青年の喉首めがけて大きく口を開く。 だがそれは紙一重のところで防がれた。 突如として頭上から飛んできた短剣がカースドウルフの上顎から下顎を貫き、地面に縫いとめたからだ。 「ニル、意外と帰りが早かったな」 青年は背後を振り返りもせずに言った。 「まあね。君が勝手に町を出たって連絡寄越すから。嫌な予感がして慌てて追いかけてきちゃったよ」 「大正解だ。絶賛罠のど真ん中だぜ」 「カズヤ、少しは申し訳なさそうにしてはどうなんだい? 信頼が厚すぎてお兄さん泣けてきちゃうよ」 音もなくニルと呼ばれた長身の青年が木陰から姿を現した。 【ニルバルディ・アロンダマークォル】――切れ長の目と整った顔立ちの彼は、彼の相棒である【稲葉・一矢(いなば・かずや)】の隣に並び、双剣を構える。 「誘拐された少女が運ばれていた可能性があった。お前の帰りを待ってる時間なんてなかったんだよ。結局誘拐は起こってなかったがな。それでいいじゃねえか」 「いやいや、毛深いけど彼女達はメスだよ。素体の問題かな? 5体……うち1体が手負いだね」 「そもそも異形の獣に性別なんてあるのかよ?」 二人は軽口を叩き合いながらも微塵も隙を見せない。 先程はニルバルディの存在に気づいた一矢があえて隙を作り、奇襲を成立させただけだ。 二人は周囲の状況を確認し、カースドウルフを倒す算段を立てる。 奇襲で1体を仕留められたのは大きい。 幸いここは障害物の多い森の中。 時間を掛ければ確実に獣たちを仕留められるだろう。 だが状況はそれを許さなかった――。 「――なっ、逃げやがった!?」 カースドウルフ達は一斉に踵を返すと立ち去ってしまう。 「僕達に恐れをなしたか……いや、町の気配に感づいたんだろうね。あっちの方が獲物は豊富だから」 「冷静に言うな! 追うぞ!」 あんな高レベルの魔物が複数町に飛び込んだならば大惨事だ。 二人は森を駆け抜けながら作戦を立てる。 「とにかく入り口を固める。町には絶対に入れさせねえ」 「そうだね。僕と君の二人がいれば町への侵入は防げるはずだよ」 「けどそれだけだろ。チィ、こんな時にあいつが……」 そこまで言いかけて一矢は口をつぐむ。 もう一人の冒険者パーティーメンバーで、彼の妹の顔が頭を過ぎる。 「大丈夫。実は人員にはあてがあるんだ」 「まさかギルドに依頼を出すつもりか!? もし事情を聞かれたらどうするつもりだ?」 「そうじゃない。『学園』に頼むつもりだよ」 「学園!? まさか……!」 一矢の頭に浮かぶのは自分達が在籍していた勇者育成の学園だった。 その想像を肯定するようにニルバルディは微笑みながら頷く。 二人は会話を交わしながらも息一つ乱れていなかった。 「うん、例の『鳥籠』をメメル学園長に届けたついでに話を通しておいたんだ。きっと上手い事動いてくれるはずだよ。それに今の学園には優秀な生徒が揃っているからね。もしかしたら僕らがいた頃より……ってこれは僕の願望が過ぎるかな?」 「なんでもいい。俺達だけじゃカースドウルフから町を守るので手一杯だ。手配はお前に任せる」 「了解。それじゃあ……」 そう言うとニルバルディは掌の魔法陣から白いハトを一羽呼び出す。 そして手早く書いた手紙を足に括りつけると、それを学園の方角に向かって飛ばすのだった。
ミラちゃん家――指輪はいずこ
K GM
ジャンル
推理
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-04-12
予約期間
開始 2021-04-13 00:00
締切 2021-04-14 23:59
出発日
2021-04-21
完成予定
2021-05-01
参加人数
4 / 8
●あなたがわたしについた嘘 【カサンドラ】はアトリエで一人考えていた。【黒犬】は今、どこで指輪を捜しているのだろうと。 多分、グラヌーゼより遠くには行かない。黒犬は指輪に関する情報を、そんなに持っていないはずだから。 口では色々言っているが赤猫と比較した場合、知識の差は雲泥の差……とまではいかずとも、相当なものなのではあるまいか。であれば、自分の見知った場所から手をつけるのが、当然の流れだろう。 (見つけないと……黒犬よりも先にあの指輪を、早く見つけないと。黒犬は、信用出来ない。信用してはいけない。力を取り戻させるわけにはいかない) カサンドラは下唇を噛む。目つきがひどく険しかった。膨れ上がる不信感が、普段の彼女とは別人のような表情を作らせているのだ。 黒犬は呪いを解除した際、自身の力が戻ることを隠している――そこはもう思い出せているし、実証されている。 しかし、それだけだったろうか。なんだかまだ、あったような気がする。彼が自分に対してついた嘘は。 ……そもそも、自分は、どこでどうして黒犬と知り合ったのだっけ? ……一番最初にはどんな言葉を交わしたのだっけ? ●密談 少女の姿をした【赤猫】は緑色の目を光らせ鳴いた。 『わーお』 ここはサーブル城にある豪奢な地下通路。その突き当たりにある部屋。かつて【カサンドラ】も訪れたことがある、呪いの『本』の隠し場所。ノアが赤猫と黒犬へ呪いをかけた場所。 はるか昔ノアがいなくなってから、そして、赤猫が数ヶ月前足を踏み入れてからも放置されっぱなしだったそこは 今、すっかり整理されている。 ドーム型の天井、壁、床から永の年月つもり積もっていた水垢や苔が拭い去られ、もともとそこにあったものが見えるようになっている。 それは何重にも重なり合った魔方陣だ。眩暈がするほど細かな文字、数字、文様が渾然一体となっている。 床に倒れていた魔王の像は、再び台座の上へはめ直されている。 その像に寄りかかっている【ラインフラウ】が、自慢げに言った。 「どう、猫ちゃん? きれいになったでしょ」 赤猫はちっちと舌打ちする。くしゅくしゅ鼻を擦り上げる。悪臭を嗅いでいるかのように。 「きれいになると、やな感じ。ムカつくノアのつがいの匂いが、浮き出てくる」 「あら、そんなものがまだ残ってるの? 彼らがいなくなってから、優に千年以上はたっているはずでしょう?」 「魔族は強い。色んなものが長持ちする。人間とは違う。まあ人間も、色々あるけど。命だけで言うなら、かなり長持ちする種類もいる。一番駄目なのが、ヒューマン。力もないし、すぐに死ぬ。消え損なっても、やっぱり長持ちしない」 ラインフラウは一瞬、軽い痛みを覚えたかのように眉を潜めた。そして、小さく呟いた。 「そうね。でも、好きなのよ」 それを聞いた赤猫は、訝しげにラインフラウを見る。 「何の話してるの、お前?」 「いわゆる恋の話――ねえ猫ちゃん。前にも言ったように呪いを転化させるについては、黒犬の存在が必要なわけよ。だから彼をここにおびき寄せないといけないわ。そろそろその段取りについて話し合いましょ。この通り、舞台は整ったわけだから」 赤猫はラインフラウに、半開きの横目を向けた。 「そりゃ、いいけど。でも、肝心の転化させる相手について、目処はたってるの?」 「それはもちろんよ。最初から決めてあるの。転化させる相手は、私――」 ●縁は異なもの 呪いの要となる指輪の在処について施設関係者は、ワイズ・クレバーにて、調査を行った。 その結果、以下の情報を見つけた。 『――グラヌーゼに従軍せし騎士は、燃えくすぶる地にて美しい指輪を拾い、妻への土産にした。 妻は喜んで指輪を受け取り身につけた。 その数日後突如姿を消した。 騎士は八方手を尽くし探した。 彼女は、グラヌーゼの焼け跡にいた。騎士がかつて指輪を拾った場所に座り込んでいた。正気を失った有様で。 騎士は異変の原因が指輪であると見て、それを外そうとした。 だが引けば引くほど指輪は締まる。 その挙句妻の指は、とうとう千切れ落ちた。 指輪はそのまま地に沈み込み、消えた――』 『――かくして我が先祖は、グラヌーゼよりこの指輪を持ち帰られた。その際、次の逸話あり。祖は、この指輪とともにもう一つ、指輪を持ち帰られた。その指輪には文様もまた宝石もなかったが、見目麗しき輝きに満ちていた。しかしてその指輪は、当家に災いをもたらした。わが祖は忌まわしきものとして、その指輪をかの地に打ち捨てた――』 【ドリャエモン】は膝に手を置き、【アマル・カネグラ】の調話に耳を傾ける。 「――その二つの話に出てくる『先祖』と『騎士』は恐らく同一人物です。ならその子孫を探せば、もっと詳しい話を聞ける可能性があるんじゃないか。そう思って引き続き調べたんですが……その家、今から200年ほど前に廃絶しちゃってまして。近隣との勢力争いに負けて。今ではもう影も形もなく」 「左様か……うまくいかぬものよな」 「ですね。だけど」 アマルは不自然に言葉を途切れさせた。両手を後ろに回し、宙を飛ぶハエでも追いかけるように視線を泳がせる。 かなり長いこと彼がそうしていたので、ドリャエモンは不審がった。 「どうしたのだアマル。なんぞ言い足りないことがあるのなら、言うてみい」 「……えーと、そのう、あのですね先生、調べているうちに分かったんですけど……その騎士が持ち帰った方の指輪を、意外と近くにいる人が持っていることが判明しまして」 「なに。それは誰だの?」 「……セムさんです」 ●シュターニャ・『ホテル・ボルジア』本社 「皆さんお揃いで、遠いところまでよくお越しくださいました。いや、ちょうどよかったです。私はちょうどこれから、また出かけるところでしたから」 【セム・ボルジア】はさもうれしげに訪問者達を出迎え、椅子にかけるよう勧めた。ラインフラウは、場にいない。どこかへ行っているらしい。 自身も腰掛けた彼女は、単刀直入に切り出した。あなたがたが私に会いに来る理由はこれしかない、と言わんばかりに。 「呪いの件について、何か新しい展開がありましたか?」 鋭い印象の顔立ちに笑みが浮かぶ。 どうも心を見透かされているみたいで、聞かれた側は落ち着かない。 「まだ分からないんです。でも、うまくいけば、少しはそれに近づけるかも知れなくて。そのために、セムさんにお尋ねしたいことがありまして」 「いいですよ。なんなりとお聞きください」 「……もしかしてボルジア家には、ノアにまつわる指輪とか伝わっていますか?」 「ええ、ありますよ。何代も前にさる騎士の家から、ボルジア家に譲られたものです。多額の融資と引き換えに。もっともその騎士の家、その後すぐ廃絶してしまいましたけど。貸し付けた資金も返さずじまいでね。当方にとっては、損な取引でしたよ」 あっさり認めた。 それに勢いを得てアマルは、さらに尋ねる。 「その指輪、騎士がどこで手に入れたものか分かります?」 「グラヌーゼに従軍した際、戦利品として手に入れたそうですよ。グラヌーゼの悲劇が行われた前後ですかね」 ……そういえば資料の記述には『燃えくすぶる地にて』という一文があった。 そんなことを考える皆に、今度はセムが尋ねた。 「この情報は、呪いの指輪の所在に関係があるんですね?」 灰色の瞳に狡知が見え隠れしている。
雨ニモマケズ呪ニモマケズ
七四六明 GM
ジャンル
戦闘
タイプ
EX
難易度
とても難しい
報酬
通常
公開日
2021-04-05
予約期間
開始 2021-04-06 00:00
締切 2021-04-07 23:59
出発日
2021-04-14
完成予定
2021-04-24
参加人数
6 / 6
フトゥールム・スクエア、工房の一角。 さながら、伝説に聞く選定の剣が如く、しかしてかの聖剣のような美しさはない禍々しい刀が、一行の目の前に鎮座していた。 内側に孕んだ禍々しい魔力を垂れ流し、輝かせる刀身は艶やかながら、極めて鋭利。 完成に近づくに連れ、自然と刀身に刻まれていったと言う文字は、今や廃れた昔の文故、未だ解読は済んでいない。が、刀身から鍔、柄へと通じて、ただ一言、握れ、と訴えて来るのだけは伝わってくる。 剣士であれば尚更に、強く、感じられる物があった。 「これが、例の怪物から作った刀か」 ローレライ、【ネル・シュワルツ】。クマのルネサンス、通称【クマさん】の見守る中、【灰原・焔】(はいばら ほむら)が抜刀に挑む。 剣技の練度。実戦経験値。過去、雨の怪物――驟雨(しゅうう)と名付けられた刀の怪物と戦った師匠の弟子と言う三点から、刀の使い手に選ばれた。 しかし、名人ならざる者。刀匠とも言い難き生徒らでも、理解出来る。 多くを学んで得た知識と、数をこなして得た技術とを結集させ、匠ならざるも、業物に近しい物を作り上げたと自負している。 が、良くも悪くも素材の性質故か、完成してしまった。 業物と呼ぶにはあまりにも禍々しく、妖しく、艶めかしい刀が。 「驟雨を斬る刀故、斬雨《きりさめ》と命銘した。が、見ての通り普通の刀ではない。妖刀、怨刀、とにかくそう言った類の物だ」 「それでも、誰かが取らないとならない。そうだろ?」 小、薬、中、一指、親の順で握り取る。 直後、同じ順の指を伝って刀から魔力が流れ込み、焔がそのまま項垂れた。 体に一切の力み無く。立ち尽くす姿に淀み無く。瞳に一切、光無く。 「おい、クマ」 刀を作った生徒は即座に退避。 二人は、想定していた万が一に備え、構えた。 「おい、意識はあるか。あるなら返事。ないなら無言で答えろ」 ゆっくりと、ゆっくりと、刀を抜く。 鞘は、目の前。敵は、何処。 斬れ、切れ、キレ――頭の中で反芻されし言の葉が響き、脳を構成する細胞の一つ一つに染み込むように溶けていく。それ以外の思考が、消えていく。 紙、木材、石。何でも良い。 動物、魔物、人。何でも良い。 斬れ、切れ、キレ――繰り返される言葉は、禍々しき呪いを帯びて、焔の体を蝕んでいく。犯していく。穢して行く。 ダメだと抗う理性さえ、溶けて、微睡み、落ちて、代わりに、起こされる。過去の悔恨。若気の至り。己の力に果ては無しと信じていた頃、犯した過ち。 海馬の最奥に封じ込めた、己が罪。 天上天下唯我独尊――この世に我が敵はなしと言う意味と勘違いしていた頃、連ねて名付けた剣技と共に、心に封じた記憶が燃え上がる。 「炎上蓮華(えんじょうれんげ)……唯火独占(ゆいがどくせん)……!」 捕えんと伸びた水の触手を薙ぎ斬り払い、背後から迫るクマの巨体を、剣圧が生み出す熱風が疾く、吹き払う。 刀を握る腕から肩、首を駆け抜け、顔の右半分に、水面に雫が落ちて広がったような波紋模様が広がり、刺青のように刻まれた。 淡く濁る瞳孔の内側で、水に落とされた墨汁のような細い黒が泳いでいる。 「斬る……斬る……斬る……」 「それ、殺すって意味のキルと掛かってるんじゃねぇだろうな。笑えねぇぞ、この野郎」 赫赫と、炯炯、明明と輝く妖刀にて、火の粉を払い、斬る。 燃え上がり、輝ける妖刀を握る焔の目が映すのは、斬るべき雨の怪物ではない。が、斬ると繰り返し宣う口と目に、冗談と返す様子無し。 向かわねばやられる。それだけはごめんだ。 「おい、外の連中に連絡だ。灰原は失敗した」 工房の外で待っていた一行は、連絡を受ける。 直接連絡を受けた生徒は溜息を零し、緊張の面持ちで構えていた一行に改めて告げる。 「焔くんが斬雨による精神支配を受け、暴走しました。私達四人は学園の四方に散り、彼が外に出ないよう迎え撃つ体勢を整えます。あなた方はネル、クマと共に彼の捕縛に勤しんで下さい。ですが、決して無理はしないように。あくまでも、自分の命を優先して行動して下さい」 それだけ言って、四人の先輩らは各方面に散る。 計ったかのようなタイミングで工房の出入り口である鉄扉が焼き斬られて、壺から落とされたタコが如く、太い水流の触手を操るネルが、クマを引っ張って抜け出て来る。 直後、入口より更に外側の内が焼き斬られて、崩れ落ちた瓦礫を踏み締めながら、燃える妖刀を握り締める焔が、悠然と闊歩して現れた。 灰色の眼光の中、屈折した光の中で、薄い墨の線が揺らめくようにうねり、這う。一瞥だけでゾクリと背筋を逆撫でられたような悪寒が走って、一瞬だが震えた。 「ビビるな! 後れを取るぞ! おまえ達は他三人の兄妹弟子に託されたんだ! 気を引き締めて掛かれ! 今のこいつは、加減なんて知らないぞ!」 火の粉を払い、火の粉を斬る。 斬る、斬ると念仏のように繰り返し、握る刀と反して冷酷な眼光を差す目が告げる。 おまえを、斬る。 「炎上、蓮華……!」 「来るぞ! 構えろ!」 躊躇えば斬られる。 背を向けても言わずもがな。 故に彼の兄妹弟子らは、この戦いに参加させてすら貰えなかった。 自分達は託されたのだ。 躊躇をするな。背を向けるな。決して、固めた意思を揺るがすな。己が力、全身全霊で以て止めろ。全神経を張り詰め、戦意を震え上がらせろ。 目の前にいるそれは、いつか倒すべき、雨の怪物に次ぐ怪物と思え。 「唯火、独、占!!!」 いざ、尋常に、勝負――!
偽勇者を捕えろ!
こんごう GM
ジャンル
シリアス
タイプ
ショート
難易度
簡単
報酬
通常
公開日
2021-03-28
予約期間
開始 2021-03-29 00:00
締切 2021-03-30 23:59
出発日
2021-04-06
完成予定
2021-04-16
参加人数
6 / 6
それは、街道沿いのとある村での出来事だった。 この村では、数週間前、土砂崩れによって街道から孤立してしまい、『フトゥールム・スクエア』から派遣された学生達の救援活動によって、街道へ通じる道が無事に復旧したばかりだった。 その村に、二人の若い男女が訪れた。 どちらも、学園の制服に身を包んでいる。 「こんにちは~」 にこやかに笑みを浮かべながら、若い男女二人は農作業中の男性に声をかけた。 「おお、あんた達は。学園の生徒さん達だね。この前は助かったよ! 有難う!」 農作業の手を休め、村の男性は二人組の男女に笑顔で挨拶を返した。 「この前の依頼の追加徴収に来ました」 「つ、追加徴収……?」 予想もしなかった一言に、男性は目を丸くした。 男性の反応に、男子学生のほうが眦を釣り上げた。 「おいこら、おっさん。俺達にあれだけの事をやらせておいて、払えねえってのはどういう了見だ!? あァ!?」 「アタシ達は、天下のフトゥールム・スクエアの学生だぞ!? わかってんのか!?」 豹変した二人組は、血走った目で、動揺する男性を口汚く罵り始めた。 何事かと、傍で作業をしていた人々も彼らの元に集まって来た。 「払わねえってのは、つまり、勇者の活動を妨害するってことだな! そんなことが許されると思ってんのか!」 「アタシらフトゥールム・スクエアの学園長が黙っちゃいないよ!」 呆然と見守る村人達を前に、学生服の男女は、恫喝じみた声を上げ続けた。 「いいか! 次に来るまで用意しておけよ! 俺達フトゥールム・スクエアの勇者に逆らうとただじゃ済まねえからな!」 幾度もフトゥールム・スクエアの名を連呼し、呆然と見送る村人を尻目に立ち去って行った。 「一大事だよ、みんな!」 息せき切って、【コルネ・ワルフルド】が教室に駆け込んで来た。 「近隣の村に、学園の生徒の偽物が現れたんだ!」 コルネによると、過去に依頼を受けて、学園が解決に乗り出したいくつかの村に、『依頼料の追加徴収に来た』などと言って、金品を要求しているのだという。 「拒否すると『学園長が黙っていない』とか『勇者の活動を妨害するとはいい度胸だ』などと恫喝めいたことを仄めかすらしいんだ……!」 握りしめた拳を小刻みに震わせながら、コルネは絞り出すような声で言った。 恫喝に恐怖を覚えて、言われるがままに金銭を支払ってしまった村もあったらしい。 今まで発覚していなかったのは、二人組がさもフトゥールム・スクエアから報復されるかのような恫喝をしていたかららしい。 この情報が学園にもたらされたのも、当事者からの苦情などではなく、学園の購買部に商品を卸している行商人からのものだったのだ。 「行商人からの話だと、その偽学生が着ていた学園の制服は、この前の広報館開設で来場者に貸し出していた試着用のレプリカ制服らしいんだ」 コルネは表情を曇らせた。 「実はね、広報館開設記念行事終了後、試着用に貸し出していたレプリカの学生服が、何着か行方不明になっているんだ」 偽学生は、どうにかして手に入れたそれを使って学生を装っているらしい。 「キミ達にやってもらいたいのは、単純明快! そいつらを捕まえることだよ!」 学園の名を騙って悪事を働く者を、このまま放置しておくわけにはいかない。 「学園長は、かなり本気で怒っててね。自分自ら尋問するって息巻いているんだよ」 そう言った後、コルネは何かにおびえるように、視線をさまよわせた。 どうやら、学園長【メメ・メメル】は、相当ご立腹らしい。 普段の彼女が彼女なだけに、怒り心頭のメメルというのが学生達には想像もつかなかったが、コルネの怯えぶりを見る限り、かなりのものなのだろう。 しかし同時に、メメルの怒りは尤もだとも思う。 学生達自身も、日頃の勉学や活動を不当に貶められて、良い気分でいられるはずがない。 「そんなわけで、頼むよ! そんな奴らに、これ以上好き勝手させるわけにはいかないからね!」 コルネの言葉に、学生達は一斉に力強く頷くのだった。
嘘つきはメメたんの始まり
正木 猫弥 GM
ジャンル
推理
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-03-28
予約期間
開始 2021-03-29 00:00
締切 2021-03-30 23:59
出発日
2021-04-05
完成予定
2021-04-15
参加人数
5 / 6
「おっすおっーす! 遅かったじゃ~ん。メメたんすっかり待ちくたびれちまったぜ☆」 相変わらずの明るい調子で、『フトゥールム・スクエア』学園長【メメ・メメル】が部下である【コルネ・ワルフルド】に話しかける。 「………………」 対するコルネは、メメたんを見つめたまま微動だにしない。顔面蒼白で口をつぐみ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。 「んも~、何か暗いなあ! スマイルスマイル! 教師がそんな辛気臭い顔してたら示しがつかないぜ!?」 「示しがつかないのはどっちですか! 何で逮捕されてるんですかああああああっ!!」 2人の間を隔てる鉄格子を両手で握りしめたコルネは、泣き叫びながら膝から崩れ落ちたのだった。 ◆ 「――いや~、びっくりしました。いつかこんな日が来るかもとは思ってましたけど、実際目の当たりにした時の衝撃が大きくて。でも、学園長の容疑が晴れて本当に良かったです」 「……コルネたん、さりげなく酷い事言ってない?」 数分後。学園長から説明を受けたコルネは、『メメたん逮捕』の知らせが誤報であった事に胸をなでおろしていた。 「それにしてもいい度胸してますね。学園長の名を騙って無銭飲食するなんて……」 メメ・メメルの『偽者』が、街中を手玉に取った。犯行のあまりの大胆さに、コルネは感心せざるを得なかった。 現在2人がいる場所は、煙と極楽の街『トルミン』を守る自警団、『ギルッチ団』の屯所である。 今回学園長がトルミンを訪れたのは、知り合いの旅芸人一座の座長から、街最大の温泉郷『ギンザーン』での公演を観に来て欲しいという招待状を受け取ったためであった。 トルミンに到着して早々、学園長は詐欺の容疑で捕まる羽目になった。しかし、被害者の1人である宿の仲居が犯人は学園長とは別人であると証言してくれたため、すでに濡れ衣であった事が判明している。 「偽者が泊まってた『馬閣楼』の女将とは顔見知りだから、オレサマの名前で別人が好き勝手してたらすぐにバレるはずなんだけどな! 生憎今はトルミンを離れているとかで、まんまと騙されちゃったみたい。……んな事より、メメたんちょ~っち気になる事があるんだよね」 手招きをした学園長が、コルネに小声で話し始める。 「実はその偽者、数日前から行方不明らしいぜ! しかも荷物をそっくりそのまま、宿に置いたままなんだって!」 「……なるほど。状況から考えて、性質の悪い連中に捕まった可能性がありますね」 コルネは理解した。メメたんが牢から出ない理由は、『本物』がいる事を誘拐犯に知られないようにするためだったのだ。 「コルネたんはすぐに学園に戻って、捜査に参加してくれる学生を集めて。頼んだぜ!」 「分かりました!!」 学園長の命を受け、力強く頷いたコルネは外へと飛び出していった。 「今日は1日、芝居を観たり温泉に入ったりしてのんびりするつもりだったんだけどなあ。人気者は辛いぜ☆」 牢屋の壁に背中をもたせかけながら、独り苦笑いを浮かべるメメたんであった。
春とくれば、お花見
K GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
簡単
報酬
通常
公開日
2021-03-28
予約期間
開始 2021-03-29 00:00
締切 2021-03-30 23:59
出発日
2021-04-06
完成予定
2021-04-16
参加人数
6 / 8
空は白みを帯びてかすみ、水はぬるみ、野に花は咲き――本格的な春がやってきた。 この季節にはどうしても、人間浮かれ調子になる。外に出て、楽しいことがしたくなる。 学園においてもそれは例外ではない。 『リリー・ミーツ・ローズ』の一角にある桜の園では今、大規模なお花見が行われている。 参加しているのは学園関係者+外部から来た人間多数。『あらゆる方面からの飛び入り参加歓迎』がコンセプトなのだ。 楽しみ方は人それぞれ。飲めや歌えをわいわいやりたい、花より団子をたらふくやりたい、好きな人とこの機に乗じて親睦を深めたい、一人で春の美しさを愛でたい――いずれも行えるだけのスペースが、桜の園には十分確保されている。 ●学生達はにぎやかに 花見会場の中でも最も賑やかな一角。来場客を当て込んだ飲食屋台がずらり乱立している場所。 花より団子派に属する【アマル・カネグラ】は、鯛焼きがはちきれんばかりに詰まった紙袋を持参し、場に来ている。 彼の周囲には結構な数の生徒達がいた。 ぱっと見て圧倒的に女性が多い。多分本人が、そちらに重点を絞って声をかけたのだろう。 「わー。桜満開。きれーい」 「アマルくん、ほんとになんでもおごってくれるの?」 「うん、いいよ。皆思う存分楽しんで行ってよ」 「きゃー、ふとっぱらー♪」 「ありがとー♪」 「やっぱり育ちがいい子は違うわねー♪ 体中から余裕が滲み出てるわ♪」 「今度こういう機会があったらまた声をかけてよね♪」 抜け目なき行動力を備えた女性の幾人かは、アマルへボディータッチを乱発した。アマルの鼻の下の伸びること伸びること。ピンク色の垂れ耳をぱたぱた、くるりん巻いた尻尾をふりふり。 「うん、絶対声をかけるよ♪」 そんな光景を苦々しげに見ている人(おおむねモテない男子)達もいないではないではないが、誰もアマルにちょっかいをかけようとしない。理由はアマルが、外見に全く相応しくない豪腕の持ち主だから。 本人に聞こえぬよう舌打ちしまくるのが、せいぜいといったところ。 「チッ。なにが『余裕が滲み出てる』だよ。滲み出てるのは脂肪だろ」 「なあ。金があるからってよくあんなチビデブにくっついて行く気になれるよな」 「ろくな女どもじゃねえよ、あそこにいるのは」 「俺たちはあんな腐った女願い下げだよな。もっと性格のいい、男を外見や財力じゃなくて、中身で評価してくれる子がいいよな」 ●おじいちゃんとピクニック 【ドリャエモン】は花見へ、【トーマス・マン】と【トマシーナ・マン】を連れ出した。呪いや黒犬といった不穏な問題から一時離れさせ、のんびり過ごさせてやろうと。 何と言っても両者まだ子供なのだ。施設へ来るに至った経緯を考えれば、そういう機会は、なるべく多く作ってやりたい。 家族連れらしき姿の人々が多く見受けられる一角。 トマシーナは咲き誇る様々な品種の桜を見上げ気もそぞろ。どうかすると一人先走って進もうとする。 ドリャエモンとトーマスは、それを止めるのに忙しい。 「トマシーナや、あまり離れてはいかんぞ」 「はーい、おじいちゃん」 「トマシーナ、勝手にどこかへ行っちゃ駄目だ。人が多いんだから迷っちゃうよ」 「はーい」 そうこうしながら三人は、特別大きな枝垂れ桜の所まで来た。 木の根方に敷いてある花ゴザに、恰幅のいい着物姿の夫人が座っている。 外見年齢は初老。種族はドラゴニア――何を隠そう彼女は、ドリャエモンの妻だ。その名は【ドリャコ】と言う。 「あなた、こっちですよ」 「おお、もう来ておったか」 「ええ。場所を取られてはいけませんもの。その子たちが、トーマスと、トマシーナですか?」 「そうじゃ。トーマス。トマシーナ、この人がわしの奥さんじゃ。お前達にとっては義母となる――わしが『おじいちゃん』じゃから、『おばあちゃん』と呼べばよかろう」 トーマスはドリャエモンと同じぐらい大きさと横幅のある相手に、しゃっちょこばって頭を下げる。 「始めまして、ドリャコ――さん」 彼もいささか照れが入る年頃。初対面の相手をいきなり『おばあちゃん』とまでは呼べなかった。 しかしトマシーナは全然てらいがない。 「はじめまして、おばあちゃん! わたし、とましーな!」 力いっぱい友好を宣言し、頼もしきお腹に飛びつく。 ドリャコは一ミリも動じず、ほほほと上品に笑った。 「こちらこそ初めまして。これからよろしくね、トマシーナちゃん。トーマスくん。さあさ、何はともあれ皆座って頂戴。お弁当を作ってきてますからね。一緒に食べましょう。桜餅もあるのよ」 「それはありがたいのう。トーマス、トマシーナ、おばあちゃんはとても料理上手なんじゃぞ」 ●ほんのちょっとの立ち話 【ガブ】【ガル】【ガオ】は花見に出かける道中で、【セム・ボルジア】に呼び止められた。聞けば、学園長と少し話があったので、学園に立ち寄っていたのだとのこと。 あなたたちに会えたのは真に都合が良かった。そんなことを言って彼女は、こう続ける。 「そのうちまた依頼をしたいと思うのですが、かまいませんか?」 三兄弟は心なし不安そうに顔を見合わせ、セムに聞いた。なるべく自分たちがびびっていると見えないように。 「そりゃいいけどよ」 「望むところだけどよ」 「それ、赤猫関係か?」 セムは気さくな様子で『ええ』と答え、軽い調子で続けた。 「あの後私、独自に調査しましてね。その結果赤猫は、接し方さえ間違えなければ対応可能な相手だと結論づけました」 結論づけましたと言われても……な表情をするガブたちへ苦笑を示し、ここだけの打ち明け話をするみたいに声を潜める。 「大丈夫、あなたたちには危険がないようにしますよ。可能な限りね」 ●今日はお留守番 ドリャエモンがトーマスとトマシーナを連れ出したので、本日保護施設には【カサンドラ】と【ミラ様】しかいない。 カサンドラは窓辺に座り、所在なげに庭を行き来するミラ様を眺めている。そして、ぽつりと呟く。 「静かねえ……」 庭に植わっているリンゴの花は、蕾は丸く膨らんでいる。もうそろそろ開きそうだ。
迷宮探索競技☆Dungeon&Damn
桂木京介 GM
ジャンル
冒険
タイプ
EX
難易度
普通
報酬
多い
公開日
2021-03-10
予約期間
開始 2021-03-11 00:00
締切 2021-03-12 23:59
出発日
2021-03-20
完成予定
2021-03-30
参加人数
5 / 5
空は藍色、黎明の刻、ブルーアワーと呼ばれる時間帯だ。 ごつごつした岩山だった。岩肌は、賄賂の金みたいにすすけた黄土色、青白い光に照らされて鈍く光っている。 山の中腹に、ぽっかりと開いた孔(あな)があった。前にバリケードが設けられているが少女は器用だ。ふれることなくくぐり抜けて孔の前に立つ。 早晩はまだ冷える頃だというのに、少女は身ひとつ、帯びているものといえば頭に巻いた白い布と、やはり薄手の白い服のみ。よく見れば頭の布は三角巾で、服は割烹着だとわかる。割烹着の下に、赤革のチュニックをしているようだ。 赤いといえば彼女の髪だ。燃えさかる炎のような赤毛なのだった。 少女――【ヒノエ・ゲム】は腰のものに手をやる。 「いささか心もとないが……」 厨房からかっぱらってきた包丁の大小が、無造作にベルトに挿してあるのだった。 禁制品の密輸業者だったヒノエが、いろいろあってフトゥールム・スクエアで働くようになってふた月ほど経つ。 現在ヒノエは学食の厨房で炊事係をしていた。とことん無愛想な接客でいつも不機嫌そうにしているのだが、逆に一部学生には人気があるという。 事情あってヒノエは多額の借金を抱えている。学園の仕事でコツコツ返していては、完済まで何年かかるかわからない。 だから彼女はここにきた。 この場所が発見されたのはつい最近のことだ。大雨で山崩れが発生し、隠されていた孔が陽のもとに姿をあらわしたのだった。 洞窟は下り斜面となっており、広大な地下迷宮へと続いている。 迷宮は遺跡であり、物騒な怪物が徘徊しているようだ。最深部にはなんらかのアイテムが置かれているかもしれない。 ダンジョンだ。 学園長【メメ・メメル】の発案により、授業の一環としてこの地を舞台とした未踏破ダンジョンの探索競技が開始された。クジで選ばれたチームが一組ずつ探索に降りていく。遺跡の奥部まで到達して踏破のあかしを持ち帰る、もしくは地図を完成させることが目標だ。 成功チームには賞金が出る。これがなかなかの金額なのだ。自分以外のことにはケチなメメルらしからぬ大盤振る舞いである。 これまで学園の数組が挑んだが、いずれも途中でリタイア、あるいは、三日と定められた制限時間に達してしまった。 自然洞窟は隘路(あいろ)で体力の消耗がはげしく、地下水が噴き出している地点もある。迷宮は入り組んでおりモンスターはもちろん、意地悪なトラップまであってゆくてを阻む。 正式に志願しなくても、とヒノエは考えている。 要は、さっさと踏破してしまったやつの勝ちなんだろう? 本日もまた一組、選抜パーティがダンジョンに挑む予定なのである。 待ち伏せて連中を出し抜く、あるいは鼻先でアイテムなり地図なりをかっさらう――。 ほめられた手段でないのは承知の上だ。 カンテラを腰にくくりつけると、ヒノエ・ゲムは洞窟に足をふみいれた。 苔だろうか、カビくさい匂いがする。 ◆ ◆ ◆ 巻き毛ブロンドの少女が、岩陰からひょっこりと顔を出す。 にやりと笑った。 それにしても奇妙ないでたちだ。布団を巻いているような分厚いガウン、頭にはクラウン状のティアラ、耳はウロコに覆われており爬虫類のそれに近い。ルネサンス族なのだ。 やれやれ、と【怪獣王女】こと【ドーラメイア・アレクサンドラ・デイルライト・ゴーリキ】は息を吐いた。 「やっとこれたわえ」 ダンジョンに秘宝、というのは王道の流れじゃからのう。 秘宝といえば、もうこうれはコズミックエッグとしか考えられぬ! 怪獣王女によればコズミックエッグとは、魔王復活の鍵となる重要アイテムなのだという。エッグ求めて東へ西へ、あちこち探ってあちこち騒動を起こしていたこの怪人物も、導かれるようにしていましがた、ヒノエが姿を消した孔に到達していたのだった。 邪魔がこぬうちにさっさと入ってしまおう。 ◆ ◆ ◆ 数時間後。 「お~っすおす、よくぞ集まったわが精鋭たちよ☆」 準備はいいか? とメメルは言った。 「ぴっかぴかの未踏破ダンジョン探索競技! 本日でえ~、何日目だったかな? ともかく! クジ引きでようやく諸君の番となったわけだ。さいわいまだ踏破成功チームは出ておらん。がっつり踏破してしっかり賞金をゲットするがいいぞ♪」 では、と言ってメメルは視線を【イアン・キタザト】に転じた。 「説明はイアンたんに任せる」 「はあ、僕にですか?」 イアンは雲の上を歩くような調子で君たちの前に立った。 「えー、おおまかな目的は道々語った通りで、ダンジョンの最深部まで行き着き、そこまでの地図を完成させるか、たどり着いた証拠を持ち帰ることなんだよね。証拠っていってもねえ……まあ、なんかあるんじゃない? 遺跡だし」 なんとも当てずっぽうなことを言う。 「これまでギブアップしてきたチームのおかげで、ある程度のことはわかってるんだ。山の内部を降りていく洞窟は急勾配になってるから滑らないよう注意してね。そうそう、なんか水がどっと出てくる地点もあるみたい。あと、途中からは岩オオアリの巣になってるそうだよ」 「もうちっと具体的なアドバイスはないのかえ?」 「うーん、まあアリさんたちのエサにならないようにね」 「オレサマもたいがいだが、イアンたんのアドバイスは大雑把すぎるな……♪」 メメルのツッコミを軽やかにスルーして、それでダンジョンだけど、とイアンはつづけた。 「洞窟は四、五人並べるくらいの幅だけど、ダンジョンになると道幅は狭くて三人ならぶのがせいぜいだよ。イライラするくらい緻密な迷路で、もうほとんど嫌がらせのために作られたとしか思えないよね。落とし穴や飛び出し槍なんていうオーソドックスな罠があっちこっちにあるんだ」 「よっぽど性格に問題があるやつが作ったようだな☆」 自分のことは棚に上げてメメルが言った。 「だけどそれだけ、大事なものが隠してあるのかもしれないね」 石造りの兵士、アメーバ状になったカビの塊のようなものが襲ってくるらしい。 「どういう原理か知らないけど、カビモンスターに触られると布や革の装備品は朽ちてこぼれおちちゃうそうだよ。僕ならかかわりたくないな」 「生徒送り出す側がそれを言うか……」 「まあ触らなければいいと思うし、あと、金属製品なら無事だから」 イアンは君たちに赤い液体の入った小瓶を手渡した。 「ギブアップを決めたら栓を抜いて」 コルク栓を抜けば不思議なガスに包まれ、君たちは一瞬のうちにダンジョンの入り口に戻されるという。 制限時間は二十四時間だ。丸一日経てば、栓を抜かなくても瓶は割れ、自動的にガスの効果があらわれるという。 「瓶の扱いには気をつけろよ☆ 昨日挑戦した連中は、まちがえて途上で瓶を割ってしまい強制リタイアとなったからなあ~」 じゃあ行っておいで、とメメルは手を振った。 君たちは洞窟の入り口までイアンに案内された。 メメルの目を盗んで、イアンは君たちのひとりに耳打ちする。 「僕はね、君たちに勝利してもらいたいからヒントを言うよ。迷路にたどりついたらとにかく北を目指すんだ。どうやら北方向が奥部につながってるみたい。右手法とかダンジョン攻略のセオリーだけど、まともにやっていたら絶対タイムアップになると思うよ」 この助言にしたがえば、迷宮攻略は多少楽になるだろう。 しかし君たちは知らない。ヒノエと怪獣王女がすでに、同じ目的でダンジョンに向かっているということを。 待ち受けるは栄光か敗北か、迷宮探索競技が幕を開けた!
ミラちゃん家――プチ・リフォーム+α
K GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2021-03-13
予約期間
開始 2021-03-14 00:00
締切 2021-03-15 23:59
出発日
2021-03-22
完成予定
2021-04-01
参加人数
8 / 8
●嘘つきな彼女 サーブル城から帰ってきた【ラインフラウ】は【セム・ボルジア】に、【赤猫】との交渉内容を伝えた。 「――それで私、猫ちゃんに言ったのよ。調べたところこの呪いを転化するには、黒犬の存在が必要だ。呪いはひと繋がりになっているものだから、片方からだけ引っこ抜くことは出来ない。転化する相手も一人じゃなくて、二人入り用だって。でないとうまく呪いが移らず、跳ね返ってきてしまいかねないから」 「その話について、赤猫は信じていますか?」 「ええ、そうよ。全面的にじゃないだろうけど、あり得なくもない話だとは思っているわ」 「それはよかった。あなたの手腕に感謝しますよ、ラインフラウ」 「どういたしまして。あなたに褒められるって、うれしいわ……ねえセム、ついでに言ってよ。私と結婚するって」 「ご冗談を」 「またそうやってはぐらかすのね、あなた。たまにはノリで『いいですよ』くらい言えないもの?」 「ノリでも言えません」 「どうして」 「第一に、私は仕事にしか興味が持てない人間だから。第二に、あなたがローレライでとても長命だから。鼠と象ほど生きる時間が違いますよ、私とあなたは。結婚とか言われても、ナンセンスだとしか思えません」 「……あなた、本当につれないわ。でも好きよ、そういうの。より燃えてきちゃうわ」 ●今日は朝からDIY 転用建屋第17倉庫。ミラちゃん家こと保護施設は、この度諸事情によって、プチリフォームを行うことになった。 狼ルネサンス3兄弟、黒目黒髪の【ガブ】、灰目灰髪の【ガル】、茶目茶髪の【ガオ】が、なにがし山の山道を上って行く。建材を積んだ大八車を引きながら。 「またリフォーム課題かよ」 「直すようなところってまだあったっけ?」 「さあ。思い当たらないけどな」 「あ、あれじゃねーの? 赤猫とか黒犬とかそういう関係の対策で、結界を強化するとかそういうのじゃねーの」 「おお、あり得そうだなそれ」 「じゃあ、また柱新しく作らなきゃいけねーのか? あれ面倒臭かったんだよなー」 道を上り切った先にあるのは、彼らにとって馴染みとなった建物――保護施設。 このところの暖かさで、茶色かった庭が彩りを帯びていた。 ハーブの小さな芽が地面から顔を出している。 シンボルツリーであるリンゴの若木もふっくらと花芽を膨らませ、開く瞬間を待ち侘びている。この分だと今年は、昨年に増してたくさんの実が取れそうだ。 建物入り口のところに【トーマス・マン】がいた。ガブたちの姿を見て、駆け出す。 「あ、ガブ兄ちゃん! ガオ兄ちゃんもガル兄ちゃんも来たんだ!」 トーマスにとって彼らは、緊張感抜きで付き合える存在だ。言うこともやることも単純そのものなので、裏があるのではと勘ぐらずに済むのである。 「おー、トーマス! 結構久しぶりだな」 「元気そうじゃねーか」 一方ガルたちもトーマスには親しみを持っている。もともと兄弟が多い環境で育ったため、年下の存在に慣れていることもあるが、自分たち同様利かん気な部分に近しいものを感じるのだ。 「チビはどこ行ったんだ?」 「トマシーナなら、ドリャエモン先生と犬の散歩に行ったよ」 「何ーッ! あのジジイ俺らに荷物運ばせといて散歩とか、マジふざけてやがる……待てよ。ここに犬いたか?」 「うん、いるよ。飼ってるってわけじゃないけど、それに近い感じのが。まだ正式な名前は付けてないんだけど……」 噂をすれば、ワン、と鳴き声が聞こえてきた。 首を向ければ門のところに、犬用ベストを着た貧相な風貌の犬と、【ドリャエモン】と、ドリャエモンの肩に乗せてもらっている【トマシーナ・マン】。 タイミングよく今、散歩から戻って来たようだ。 ガブたちの姿を見るやドリャエモンは、満足そうに二重顎を揺らした。 「おっ。お前達、ようやくちゃんと時間通りに出席して来るようになったか。感心感心」 からかわれたようで、ガブたちとしては面白くない。『ふざけんなジジイ!』と吠える。 何を勘違いしたか、犬がそれに応じて吠える。 そこで施設二階の窓が開いた。 【ラビーリャ・シェムエリヤ】が顔を出す。 「……ああ、来たね。早速入って。作業の手順を説明するから」 その狼ズは、【アマル・カネグラ】がこの作業に参加していないことを知り、おおいにぶんむくれた。 「なんだなんだ、あのブタ堂々とサボリかよ!」 「どういうことだよ!」 「なんで俺らだけこき使われるんだよ! 納得いかねー!」 とはいえ『そんなら自分たちもサボろう』という風に話を持って行くことはしなかった。そのあたり彼らも、以前より成長している。 なお念のために言うと、アマルはサボっているのではない。別の仕事をしていたのである。 ●今日は朝から捜し物 【カサンドラ】は、ワイズ・クレバーの個別閲覧室にこもっていた。『指輪』の行方について、少しでも何か手掛かりを掴もうと――施設のリフォーム工事が終わるまで場にはいないほうが、皆に気を遣わせないだろうとの配慮もあったが。 調べるのはグラヌーゼの歴史や風土、ノア一族についてではない。それはこれまでに仲間が調べてくれている。いまさら同じものを探っても新しい情報が出てくる確率は低い。 なので違う視点からアプローチを仕掛ける。その視点とは『美術』だ。これまでに作られたあまたの宝飾品、それにまつわる伝説、逸話。そういったものを探って行けば、少しは何か出てくるかも知れないではないか。 もちろん一人で行えるような作業ではない。だから彼女は【ルサールカ】とアマルに助力を頼んだ。 前者は画商であるだけに、美術全般に詳しい。 それには及ばないが後者も、一般以上に詳しい。資産家の息子として、高額美術品が溢れる環境にいるだけに。 「――魔族や魔王、純種のドラゴンといったものを肩書にした品は、世の中にあまたありますがね」 言いながらルサールカは、図鑑を繰る。白い手袋をはめた手で。 「古いものほどそういう傾向はありますが、まあ、十中八九単なる箔づけと思った方がよろしいかと」 アマルは真ん丸い顔を大きな本の間に突っ込むようにして、言葉を返す。 「でも、中には本物が含まれているんだよね?」 「もちろんですアマル坊ちゃん。そうでなければ、今私たちがやっていることはまるきり意味がないことになります」 カサンドラは疲れてきたのか目をこすり、ルサールカに尋ねた。 「ルサールカさんは、実際にそういうものを見たことがあるのですか?」 「ええ、ええ、もちろんですとも。中でも忘れられないのは、魔王の宮殿で使われていたという文鎮ですかね。そりゃあ美しいものでしたよ。赤と青の対になっていまして。光を浴びると内側から、焔が灯ったようになりましてね」 「へえー。それ、何で出来てたの?」 ルサールカはくっくと喉を鳴らし、夢見るように目を細めた。 「純種ドラゴニアの瞳ですよ。言い伝えによると、魔王が一匹の龍から取った左右の瞳だそうで――とあるドラゴニアの一族が総力挙げてそれを奪還し、家宝としていましてね」 「頼んで見せてもらったの?」 「まさか。頼んだくらいで見せてくれるような輩じゃありませんよ。その一族のとある娘に頼んで、持ち出してきてもらったんです」 「……それってもしかして、ルサールカの奥さんのこと?」 「ははは。お戯れをアマル坊ちゃん。私には妻なぞおりません。いるのは頼みもしないのに、勝手に子を産んだ女です」
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