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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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【新歓】春、新入生、そして大掃除 K GM

ジャンル イベント

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2020-04-15

予約期間 開始 2020-04-16 00:00
締切 2020-04-17 23:59

出発日 2020-04-24

完成予定 2020-05-04

参加人数 8 / 8
 春。  魔法学園フトゥールム・スクエアに新入生がやってくる季節。  そこにはさまざまな新しい出会いがある。良きにつけ、悪しきにつけ。 ●春の出会い、その1  桜並木の続く道。  春のそよ風に花びらが一枚、また一枚とはらはら落ちて行く。なんとも絵になる光景だ。  一人の新入生がそこを歩いている。どちらかと言えば小柄な方。丸く膨れた頬に、丸い眼鏡。眼鏡の奥には円らな瞳。すこぶるぽっちゃりした体型。  柔らかな髪に覆われた頭の上にピンク色の垂れ耳。  ズボンの尻部分から突き出ているのは、これまたピンク色のくるりと巻いた細い尻尾。  身体的特徴から考えて、どうやら豚のルネサンス。新品の通学カバン。新品の靴。全体的に、お坊ちゃんといった印象を受ける。  そんな彼の前に突如、不良少年たちが立ちはだかった。 「おい、待てよ」  全員大柄で引き締まった体格。鋭い、吊り気味の目。逆立つような堅い髪の間から、灰色の尖った三角耳が突き出ている。ズボンの尻部分からふさふさした灰色の尻尾が突き出ている。  こちらはどうも狼のルネサンスらしい。にやにやしながら豚少年に、こう言ってくる。 「お前さー、ちょっと金貸してくんねえ?」  豚少年は首を振り短く答えた。 「貸すお金は持ってないよ」  そのまま行き過ぎようとする丸い肩を、狼少年の一人が捕まえる。 「おいおい待てよデブ。何逃げようとしてんだよ。感じ悪いな」  別の一人がカバンに手をかけ、もぎ取ろうとする。 「もしかして、俺らのことナメちゃってる? 俺らさっき見たんだけどな、お前が校門脇の鯛焼き屋で買い食いしてるの。そんとき、財布から札出してたよな?」 「財布に50000G札、ゴッソリ入れてたよな?」  豚少年は取られかけたカバンを引き戻し、両手で抱き抱えた。  これに彼らはカチンときた。このブタ野郎、とっとと金を差し出せばいいものを反抗的な態度を示しやがった。ここはひとつシメておかねばなるまい。この先長々カモるためにも。 「何だてめー、その目は!」 「ふざけんじゃねえぞこのブタが!」  ところでこの事件が起きている現場には、彼ら以外の生徒もいた。  しかしほとんどが新入生。上級者である狼少年の迫力にびびってしまい、足早に通り過ぎてみたり、遠巻きに見守ってみたり。それでも何人かは教師を呼びに走って行く。中でも勇気のある数人が、なんとか介入を試みようとする。 「おい、止め――」  そのとき、ボスッ、ドカッ、バキッ、と鈍い殴打の音がした。  見守っていた生徒達は思わず目をつむる。ついで、恐る恐る目を開ける。  そのとき彼らが見たのは、予想と真逆の光景だった。  ボコボコにされているのが狼少年たち、ボコボコにしているのが豚少年なのである。 ●春の出会い、その2  学園はこの時期新入生たちに向け、オリエンテーリングも兼ねた課題をさまざま打ち出している。  以下のも、その一つ。  場所は学園内の某所。山の中。 「こんなものがここにあるなんて知らなかったなあ」 「学園にはまだまだ知らないことがいっぱいですね」  新入生の監督指導役を仰せつかった上級生たちは、彼らよりも早く現場に到着し、問題の建物を眺めた。  全体の印象は小さな山の分校と言ったところ。木造一階平屋建て。真ん中に入り口。入り口の上には止まった大時計――文字盤にしゃれた装飾が施してある。  埃塗れの窓は一つ一つ形が違っている。丸かったり、四角かったり、三角だったり。ステンドグラスになっているところも多くある。  だがそうやって色々な形や色が混ざっているにもかかわらず、不思議にも全体では、きちんと調和が取れていた。 「そもそもなんだったんだ、これ」 「芸術クラブの施設のひとつだったとか。新しい施設が出来てから、放棄されてしまったらしいですけど――整理したら資材室のひとつとして再利用出来るんじゃないかって案が、どこかの委員会から上がったそうで」  建物周辺は一面の草むぐら。転々と置いてある正体不明のオブジェも風化し錆び剥がれ色が落ち、単なる灰色の物体と成り果てている。 「とりあえず今回は、建物内の片付けと校庭の除草だけだな」 「ええ、オブジェのあれこれはまた次の機会にということで」 「よかった。ペンキとか用意してなかったし」 「あれ、直すの?」 「どうなのかな、ああいうものは撤去してもいいんじゃないかって思うんだけど……」  そんなことを言い合っているところへ、新入生たちがやってきた。 「先輩、ご指導よろしくお願いしまーす」 「しまあす」 「おー。皆よく来た。じゃあ出欠をとるぞー」  と名簿片手に名前を読み上げていったところ、無関係な生徒が場に交じっているのが分かった。全部で3人。不良がかった狼のルネサンス。 「? お前らなんでここにいるんだ?」  という質問に対し答えたのは彼らではない。新入生の一人である豚のルネサンスだ。 「ああ、僕が呼んだんです」  友達に手伝いを頼んだってことだろうか。  そう解釈した上級生の一人は、狼少年たちに視線を向けた。そして違和感を覚えた。彼ら、豚少年の方を努めて見ないようにしているのだ。恐れているかのように。 「僕、彼らに代行を頼んだんです」 「だ、代行? 何の?」 「建物清掃の代行です。手間賃は払うからということで。彼らはそれを快く引き受けてくれました」 「……いや……課題っていうのはそういう性質のものじゃないのよ? えーと……」  上級生の一人が名簿をもう一度のぞき込み、豚少年の名を確認する。 「アマル・カネグラくん」 ●春の出会い、3  春の日差しの中、埃の積もった床でゆらゆら踊っているのは、陽炎のような光。  彼(彼女?)は、精霊だ。姿かたちはない。名前もまだない。ふらりと何年も前に立ち寄って以来、ずっとこの建物に居ついている。なんだか非常に気に入ってしまって。  しかし精霊は、今、建物に何者かが入ってきた気配を感じ取った。 (あれ、誰か来た……)  彼はとても恥ずかしがりやなので、窓から入ってくる光にさっと紛れ込み、隠れてしまう。  そしてそのまま様子を見ることにする。  彼は人前に姿を現すことを好まないが、人が嫌いなわけではない。
アメシスト・アンコール 七四六明 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2020-04-13

予約期間 開始 2020-04-14 00:00
締切 2020-04-15 23:59

出発日 2020-04-21

完成予定 2020-05-01

参加人数 6 / 8
 始まりを告げる風。温もりを抱く春風が吹き抜ける、魔法学園『フトゥールム・スクエア』に、今年も次代の勇者になる可能性を秘めた新入生らがやって来る。  緊張と不安を抱きながらも、入学してきた新入生。  初めての後輩に緊張しつつ、気を引き締めねばと気持ち改める二期生。  その他、変わりゆく環境に不安と期待を積もらせる先輩や教師に、校長からのサプライズ。  最近若者の間で有名な歌姫、【アメシスト・ティファニー】。  校長のオファーを受け、学園にて歌を披露してくれることになった彼女を学園へ送るため、公演が開かれていた近くの街まで迎えに行く。 「ご苦労様。よろしくね、未来の英雄さん達」  膝の上には茶色のケットシー。撫でているのはプライドが高く、好戦的で有名なデスレイプニール。突然の来訪者に視線を向ける一匹と一頭に、可憐な歌姫は大丈夫と制す。 「動物に好かれやすいの。この子達も、私のお友達。みんなからは、なんでか怖がられちゃうけれど」  魔物を動物と思ってる彼女に引かれてか、護衛の旅路にも魔物という魔物が寄って来るし、襲って来る。  ゴブリン、コカトリス、リザードマン。彼女の手前、殺生はなるだけ避けて、どうしてもという場合は彼女だけ先に行かせて、ここまで蹴散らして来た。  そして、草原にて突進してくるのはアーラブルの群れ。 「まぁ、今日は随分と来るわね」  普段の移動はどうしてるんですか、歌姫様。  ちょっと間の抜けた歌姫様を護り、学園に歌を届けろ、次代の勇者達!
おいでませ勇者様:春の個人MEN DANG 桂木京介 GM

ジャンル 日常

タイプ EX

難易度 とても簡単

報酬 なし

公開日 2020-04-10

予約期間 開始 2020-04-11 00:00
締切 2020-04-12 23:59

出発日 2020-04-17

完成予定 2020-04-27

参加人数 8 / 8
 ドアをノックする。ちょうど2回。  きみの、握った手が軽く震えている。 「どーぞー☆」  たいへんお気楽な声が返ってくるけれど、きみのほうはそうもいかない。失礼します、と言ったものの、舌はいくらかもつれている。  入る。  イスを引いて座る。  殺風景な小部屋だ。正面の席、ななめがけに座っているのは、フトゥールム・スクエアの学園長【メメ・メメル】だった。春の午後ゆえ眠いのか、まぶたが半分おりている。 「よろしくお願いし……」 「あーはいはい」  さえぎってメメルは言った。 「面接試験といってもだなぁ、はっきしいって形式的なもんだから。普段どーり答えるがヨロシ。むしろ素のチミが見たいので自然に自然に、な♪」 「はい」  きみは少しリラックスした。といっても、メメル校長ほど露骨にリラックスはできないけれど。  じゃあまぁはじめるか、と言ってメメルは眼鏡(老眼鏡? ダテ眼鏡?)をかけて手元の書類に目を落とす。 「えー、まずは『本校を志望した理由』と、『本校に入学したら何をしたいか』について教えてくれたまい☆」 「……志望動機、ですか?」 「そういうこと♪」  困った。きみの胃はきりきりと痛み、額には汗が浮かびはじめた。膝までふるえはじめる。さすがメメル校長、というべきだろうか。まさかこんな質問が来るとは思ってもみなかった。 「あ、あの僕……」 「なんじゃあ? もちっと大きい声で話してくれいや」 「僕、在学生なんですけどっ!!」   えっ、とメメルは眼鏡をかけなおして手元の資料を見た。 「あれ? 今日は学年末の個人面談だったな。オレサマ違う書類もってきちゃった♪ てへっ、メンゴ☆」  ぺろりと舌を出して、進級おめでとうとメメルは言った。 「じゃあ、この一年で学んだことを教えてくれりんこ☆」  ……学んだこと、それは『メメル校長の行動は予測不可能だということ』と、きみは言おうと決めた。  ☆ ☆ ☆  真昼のグラウンド……の一角に設けられた障害物競争のコース。 「はーいじゃあ、その網をくぐってロープに飛びついて~」  首からホイッスルをぶらさげた状態で【コルネ・ワルフルド】先生は言う。 「で、ロープを上まで昇りきったら、壁を乗り越えてジャンプして着地、そこから丸太の橋をダッシュで渡って飛び石に乗る。リズミカルに石を踏んでいって最後は、小麦粉の海に隠されたアメを手を使わずに取るよ~」  簡単でしょ? とコルネは言うが、網は有刺鉄線みたいだし吊り下げられたロープの長さは身長の五倍はあるし、泥沼にかけられた丸太の橋は奈落みたいな高さに設置されているではないか。飛び石の下にいたっては剣山だ。最後の小麦粉の海だって、プールくらいあったりするという過剰なおもてなし精神が発揮されているのである。  ぐっと拳を握ってコルネは勇気づけてくれる。 「大丈夫っ、キミならやれるよ!」  やれるのか? 「アタシも併走するから、面談もついでにやっちゃうよ!」  マジデスカ?  もちろんマジらしい。入学早々すごいことになりそうだ。  ……あと、コルネ先生の交代要員だという、あそこに控えている白い全身甲冑の人がやたらとおっかないのですが。  ☆ ☆ ☆  男は、どかっとカウンター席に陣取る。  真昼の酒場、客はまばらだ。それでも、アウトローや賞金稼ぎ風の連中、傭兵らしき姿がちらほらとうかがえる。  そのすべてが、男と目線を合わさないように顔をそむけた。  それほどまでに、このルネサンスの男に黒い威圧感があったからだ。魔物でも背負っているかのような。  痩せぎすの体。汚れた服。くすんだ銀色の髪に狼の耳。眼光はまるで、研ぎ澄ませた匕首だ。  男はカウンターに何枚かの硬貨を並べた。 「これで提供できるだけの食い物をくれ。あと、水だ」  男の目の前にショットグラスが置かれた。テキーラが注がれる。 「酒はいらん。そこまでの金はねぇ」  しかしバーテンは震え声で、あちらのお客様からです、と告げた。 「……良い子の学園生がこんなとこ来ていいのか」  視線を滑らせ片眉を上げて、面白くもなさそうに男は言う。 「てめぇらとは休戦中だ。飯くらい食わせろ」  礼も言わずに【ルガル・ラッセル】はグラスをあおった。 「話がしたいだと? なら、もう一杯だ」  ☆ ☆ ☆  きみの肩に手が、ぽん、と置かれた。 「……教えて」  平板なその口調は【ラビーリャ・シェムエリヤ】のものだった。  放課後の帰路、出し抜けに背後を取られたので、きみの心臓はバクバクだ。  しかも、 「作り方、教えて……」  などと彼女は言う。きみの頭はさらに、無数のクエスチョンマークで埋められてゆく。  何を? ときみは問い返した。 「こども」  子ども!? 「の、好きそうな料理の、作り方……」   そういうことか。  でも、ときみは考えざるを得ない。  なぜ自分に?  ★ ★ ★  波乱の初年度を経た二年生たちよ。  たくさんの期待といくらかの不安を抱いている新入生たちよ。  春だ。面談の時間だ。  教師、上級生、市井の人たちあるいは旧敵……?  きみと差し向かいで話したい、あるいはきみから語りかけた相手との、一対一の面談がはじまる。  相手はきみに質問するのか、それとも逆か。  丁々発止のやりとりか、暴投連発&命がけのキャッチボールか、きみの過去が明かされる一幕となるのか。  などと考えても仕方ないかもしれない。  なぜってその相手はもう、きみの目の前にいるのだから!
寒がり少女の落とし物 井吹雫 GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2020-04-07

予約期間 開始 2020-04-08 00:00
締切 2020-04-09 23:59

出発日 2020-04-14

完成予定 2020-04-24

参加人数 8 / 8
「うわ~、今日も寒いわ~」  朝日が昇る前の音のない時間。  一人の女が扉を開けて外に出る。  寒さで凍える身体をさすりながら、女は村の中心にある屋根付き井戸へと駆けていく。 「とっくに、雪が溶けてもいい頃なんだけどな~」  なんて白い息を出しながら呟き、足早に屋根の中へと入って井戸までやってきた女。  途端に寒さが増したので、思わず自身の身体を抱きしめるように思いきり摩った。 「う~、やっぱり寒い!」  声を上げながらも、女は確認をするようにその場から辺りを見回してみる。  左を見ても右を見ても、辺りはやはり銀色の世界。 「この時期でこんなに雪が溶けないなんて、今までにあったかしら?」  なんて、思わず首を傾げてしまった。  するとその問いへ答えるかのように吹雪いた北風。  雪こそ止んではいるものの、陽もまだ出ていない薄暗い時間帯での北風は身にしみる。  あまりの冷たさで大げさに身震いをかました女は、『ひゃ~』と声を上げて、暫しその場で固まった。 「……よし、やりますか!」  そう言って女は自分に気合いを入れると、作業へと取りかかる。 「よいっしょ、と」  井戸で括り付けられている釣瓶のロープを緩めると、流れるようにするする桶を下ろしていく。 「……あら、おはよう。今日も雪は溶けないかしらね?」  そこへ、同じように朝の水汲みへとやってきた村のおばさんが話し掛けてきた。 「あっ、おはようございます~」  なんて返事をしながら、女は水面まで下ろした釣瓶を器用に操る。  慣れた手つきで今度はロープを引っ張り、体重を掛けつつテンポ良く水入り釣瓶を上まで運んでいく。 「いつもだったら、とっくに雪も溶けている筈なのに。一体今年はどうしたのかしらね」  そんな女の側で話し掛けながら『手伝うわよ』と、おばさんは引っ張り上げた釣瓶をキャッチして平たい樽の中へ水を注いでくれた。 「雪が溶けてくれないと、水道が凍ったままだから不便だわ」  空になった桶を再び井戸の中へ下ろしていくと、隣のおばさんがそんなことを言う。 「はやく雪が溶けて、春になってくれないかしら」  困ったように片手を頬に添え、ため息をついたおばさん。 「……本当ですね~。一体今年は、どうしたんでしょう?」  なんて返事をしながら、女は再び気合いを入れて、井戸の中の水を汲み出した。 ・・・・・・ 「……ない、見つからないよー!」  未だに春が訪れない村の近くにある小さな森の中。  陽が昇り雪景色で包まれている木々の間を、真っ白い肌の少女が捜し物をしている。 「あれがないと、寒くて身体が温まらないよー!」  なんて言った少女は、その場に座り込んでしまった。 「はやく見つけないと、村の人たちが困っちゃうよ……」  まるで、今にも泣き出してしまいそうな少女の表情。 「もう、誰でもいいから、誰か助けてよー!」  そう叫んだ少女の声は、静かな森の中で、何度も何度もこだました。
七色戦隊、ニジカケ@レンジャー! 白兎 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-04-05

予約期間 開始 2020-04-06 00:00
締切 2020-04-07 23:59

出発日 2020-04-13

完成予定 2020-04-23

参加人数 8 / 8
●刻まれた使命が今、虹になる 「なんですかねぇ、あれ」  ぽかーん。なんて表現が似合うような顔で、彼は言った。  名を【シトリ・イエライ】。フトゥールム・スクエアにて教鞭を執る泡麗族の男は今、学園内のとある平地にて、望遠鏡を覗いていた。  ――遡ること、数十分。きっかけは、『今日は入学式ですね』なんて護衛兼補佐役である少女の言葉だ。  季節は春、カレンダーでいうならエイプリル(四月)。  東方よりエイーア大陸に広まったと言われているオリエンタル・チェリーツリー……『桜』が、固く閉じていた蕾をほころばせ、花びらを降らせるこのシーズン。  フトゥールム・スクエアでも例外でなく、薄紅色の花がいたるところで開き、学園中を淡いパウダーピンクに染めていた。  だから、そう。『新入生や在校生を誘って、お花見でもしましょうか』とシトリが言い出したのは、極々自然なことであり。 (せっかくですし、月待桜が咲く場所にしようかと思って、偵察に来ましたが……)  冒頭に戻る。 「……なんですかねぇ、あれ」 「何をぶつぶつ言っているのですか、マスター。貸してください」  シトリの隣に立っていたカルマの少女、【ベリル・ドロン】が、促すように片手を差し出す。  それに応えるようにして、てのひらに乗せられた望遠鏡を握り、持ち上げ、覗き込んだベリルは、ハッと瞠目(どうもく)し、 「あれは、『ニジカケ@レンジャー!』」 「はい……?」  珍しくも、無表情というよりは興奮に近い反応(といっても、表情は相変わらずで、雰囲気だけだが)を見せたベリルに、シトリは首を傾げる。 「えぇと、もう一回いいですか?」 「ご存じないのですか、マスター。ニジカケ@レンジャー! です」  説明しよう! 『ニジカケ@レンジャー!』とは、とある魔物の集団を差す言葉である。  見た目はコロポックルのような小人だが、しかしすっぽりと赤や青、黄色などのヒーロースーツ&マスクに身を包んでいる、謎多き魔物だ。  しかし怖がることなかれ。彼等は困ったヒトや動物の声があれば、さっそうと現れる、正義の心を持った種族なのである!  だが、お困りごとを解決し次第サッと姿を隠してしまうため、生態不明・正体不明・生息地不明と、大変珍しいモンスター? なのだ。 「ということで、これは大変貴重な機会です、マスター。ここは是非、握手を求めに」 「いやいやいや、魔物ですからね。一応警戒しましょ……こらベリル、待ちなさい」  むんず。言葉通りに突撃しようとしたベリルの後ろ襟を慌てて掴んだシトリは、ため息一つ。 「あなたがああ言うものを好むとは、知りませんでした。いったいどこで覚えたのです?」 「マスターは見たことありませんか? 『勇者の穴』にて時々行われている、ヒーローショーを」  『あれはニジカケ@レンジャー! を元にしているらしいのです』、『暴れた分だけ優しさを知る、素晴らしい物語でした』  真顔ながらも力説され、はぁ、と間の抜けた返事をするシトリ。いやいや、しかし。 「その、ニジカケ?レンジャー? が現れているということは、あの場所に何か問題がある、ということでは?」 「はっ……そうですね。確かにそうです、なんの意味もなく、あのようなポーズを決めていることなど、ありえません」  ベリルの手から望遠鏡を抜き取り、再び覗いたシトリの視界に、ビシッ! とポーズ(ベリルいわく、戦隊ポーズ)を決めている5人の姿が見える。  赤、青、黄色。緑に……藍色? なぜここで藍色? ここはピンクとか黒では? ああいや、それは一旦置いておいて。  それぞれの色のスーツを身に纏ったニジカケ@レンジャーは、シトリが花見の場所に選んだ『月待桜(つきまちざくら)』の群生地の下を陣取っている。 「うーん……参りましたねぇ」  これではお花見ができない。在校生だけならどうにかなるかもしれないが、新入生も呼ぶとなれば、話は別だ。 (入学したての子達を、魔物の群れに突っ込むなんてことは、できませんしねぇ……)  ならば自分たちが、まずはコンタクトを取ってみるべきか。そう思ったシトリは、望遠鏡をぽっけに突っ込み、掴んでいたベリルの後ろ襟を解放する。 「まぁ、近寄ってみましょうか。正義のヒーローならば、話せばわかり合えるかもしれませんし……」 ●立ち上がった数だけ、自分を知る  ――数十分後。入学式の終了したフトゥールム・スクエアの、校門前にて。 「ダメでしたねぇ」  ははっ。乾いた笑みで告げる男性教諭に、『きみ』は苦笑する。はらりと舞う桜の花びらが、くたびれたシトリのローブ――肩の辺りだ――に乗った。 「いやぁ、ダメだったというか……話す機会を作れなかった、が正しいですかね」  頬を掻くシトリが言うに、どうやら近づこうとしたら、手からビーム(左右の手刀を十字型に交差させるような仕草で)(だが怪我はないらしい、加減をされていたのだろうか)を打たれたらしい。 「で、まぁ。完全にお花見ムードで向かったため丸腰で、おいそれと近付けなくてですね……」 「おかしいです。『ニジカケ@レンジャー!』は正義の味方、意味もなく攻撃を仕掛けてくることなど、ないはずなのに」  『きっと、何か理由があったのです』。そう告げるベリルに、『ニジカケ@レンジャー!』? と『きみ』は首を傾げる。  説明しよう! 以下略。 「とまぁ、そういうわけで。今日予定していたお花見は、中止にしようかと思いまして……」  声をかけていたのに、すみません。残念そうに告げるシトリに、『きみ』は首を振る。  シトリが『きみ』に声をかけたのは、入学式が始まる前のこと。 『月待桜と呼ばれる、満月の光で花を開かせる珍しい花があるから、お花見でもどうか』、『新入生にも声をかけるつもりだ』と誘われて。  それに対して『きみ』は、新入生との交流にもなるからと、頷いたのだ。  だが、残念だが、仕方ない。そう思った『きみ』は、しかし浮上した疑問を口にする。  それでは、『ニジカケ@レンジャー!』は放っておくのか? 「そうですねぇ……近づかなければ無害のようなので、近寄るヒトがいないよう、私のほうで監視くらいはしましょうかねぇ」 「しかし、マスター。あの場所には、『ニジカケ@レンジャー!』が現れた理由があるはずです」 「……といっても、あそこには誰もいませんでしたよ?」  困った声に参上するという、ニジカケ@レンジャー。それなのに、あの場所には満月を待つ桜の木々しかなかった。  それをシトリは『魔物のすることだから』で納得しているようだが、正義に憧れを持つ少女は、そうはいかない。 「ですが、木の上に。なにか、大きな鳥の巣のようなものがありました」 「そうなのですか?」  『ニジカケ@レンジャー!』に目がいっていて、上まで注意していませんでしたね。  記憶を探り始めるシトリに、ですから、とベリルは。 「もう一度行くことを提言します。そして何か困りごとがあるのなら、手を差し伸べるのです」  それが私達、『勇者』のあるべき姿ではないのですか。  告げる少女に、ふむ、とシトリは思案する。そんな二人を見ていた『きみ』は、そっと手をあげた。  それなら自分も興味がある。自分もまた、『勇者』を志す、一人だから、と。
クラックネット 革酎 GM

ジャンル サスペンス

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 通常

公開日 2020-03-31

予約期間 開始 2020-04-01 00:00
締切 2020-04-02 23:59

出発日 2020-04-10

完成予定 2020-04-20

参加人数 8 / 8
 煙と極楽の街、『トルミン』。  馬場一族に守られる一大温泉地にして、数多くの観光客を年間通じて招き入れる巨大歓楽街である。  そのトルミンの中心街から少しばかり北東に離れた位置に、『ザ・ウォウ』と呼ばれる中温泉郷が白い湯煙を立てている。  共同露天風呂『ヘルボーンスープ』を集客の目玉とする温泉郷ではあるが、全体として比較的静かな雰囲気が漂う療養地としての性格が強い。  活火山『オミノ・ヴルカ』の火山活動の影響を受けている為、出没する魔物の質も多少凶暴な傾向にあるが、この静けさを好んで訪れる温泉客の数は決して少なくない。  だが、このザ・ウォウで近年、良からぬ事態が出来した。  連続殺人である。  トルミンの自警団として名高い『ギルッチ団』がザ・ウォウに構える屯所内で、班長のひとりである女戦士【ヴォラナ・ケイスン】は頭を抱えていた。  観光業が最大の収益源であるこのトルミンで連続殺人事件が生じたともなれば、観光客の足は間違いなく遠のくだろう。経済的打撃は相当な額に上ることが予測される。  何があっても、事件が明るみに出る前に犯人を捕まえなければならない。  だがギルッチ団の団員は大半が力自慢の戦士ばかりで、複雑な問題を解決する頭脳派は数える程しか居ない。とてもではないが、正体不明の連続殺人犯を短期間で捕縛することは不可能であろう。 「ヴォラナァ、被害者のリストが出来たよぉ」  渋い表情で窓際に佇むヴォラナに、でっぷりとよく太った中年団員が巻物状にしたためた紙を手渡した。  そこには、この一カ月間で犠牲となった六名の観光客と、三名の地元民の名が記されていた。  いずれも年齢、性別、人種、居住地等に共通性が無く、犯人が何を考えて九人もの命を奪ったのか、皆目見当がつかなかった。  トルミンには『アルチェ』のような司法警察は存在しないし、『シュターニャ』のような傭兵組合も無い。自ずと、捜査の素人であるギルッチ団が犯人捜索の主役にならなければならなかった。 「そういえばさぁ、ゆうしゃ候補生っぽいお客さんがぁ、いっぱい来てるらしいよぉ」 「ベルゲンス、それ、確かなの?」  ヴォラナに問い返され、その中年団員【クォール・ベルゲンス】は小さく肩を竦めて小首を捻った。 「んー、よく分かんないけどぉ、お願いしたらお手伝いして貰えるかもねぇ」  余り関心が無さそうな調子で、クォールは間延びした声を返した。  だが、ヴォラナの腹はこの一瞬でほとんど決まっていた。  彼らに──ゆうしゃ候補のエリート達に救いを求めよう。最早、自警団としての誇りや矜持等と、つまらないプライドに拘っている場合ではなかった。  フトゥールム・スクエアに在籍する村人・従者コースの女子生徒が、むせ返るように濃密な湯煙が漂う暗闇の中で目を覚ました。  ここがどこなのか、よく分からない。覚えているのは、ヘルボーンスープでの入浴を終えて、街外れの隠れ家的なカフェに足を運ぼうとしていたところで、不意に何者かに襲われ、意識を失ったところまでである。  女子生徒にはふたりの同行者が居た。姉と母親である。確か、彼女と一緒にカフェへ向かっていた筈だ。  そして視界が漸く闇に慣れてきた時、女子生徒は悲鳴をあげた。  冷たい石床に覆われる狭い室内の奥に、姉と母親が恐怖に歪んだ形相で息絶えていたのである。  その時、比較的高い位置にある小窓の様な隙間が開き、僅かな光が差し込んできた。その光の向こうに、誰かが居る。それも、複数の気配が感じられた。 「ねぇ……あの女の子もさぁ、やっちゃって良いかなぁ?」  小窓を覗き込んでいる人物が、くぐもった声を室の向こうで響かせた。声質だけを見れば、決して若くはなさそうだった。その声に対して、別の渋い声が、何かを齧りながら静かに返す。 「構わぬが、死体は視覚効果的に印象深く装飾せよ。クラックネット復活をあの学園長に知らしめよと、ブリードスミスも心より所望しておられる」 「うん、分かったぁ」  その直後、金属製の鈍い耳障りな音を響かせて、扉が開いた。  女子生徒は再び、甲高い悲鳴をあげた。それが彼女の、この世で放った最期の声となった。
始まりの道標 瀧音 静 GM

ジャンル コメディ

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2020-03-31

予約期間 開始 2020-04-01 00:00
締切 2020-04-02 23:59

出発日 2020-04-07

完成予定 2020-04-17

参加人数 5 / 8
 春。  それは新たな門出の季節。  満開の桜、あるいは葉桜に見送られ、新しい一歩を踏み出す季節。  そんな季節が到来したここ、『フトゥールム・スクエア』では――、 「相手の胃袋に致命的な一撃を! 『暗黒格闘料理研究会』に興味はないか!?」 「グリフォンに乗って自在に空を駆ける、『鷲獅子乗り隊』は楽しいぞー!!」 「どこぞのゲテモノ食い合う奴らとは違う、誠心誠意の『お料理クラブ』にどうぞー!!」 「一にマッスル二にマッスル!! 三四に筋トレ五にマッスルの『マッスル野郎Aチーム』で共に高め合おうぞ!!」  群雄割拠のクラブ勧誘が行われていた。  そもそも膨大な生徒と先生とが存在するこの学園において、公式非公式問わず様々なクラブが存在しているわけであるが、その何処もが、新入生の加入を心待ちにしているのである。  ……まだ学園のイロハも知らない新入生達。  そんな新入生が入りたいと思うクラブは、果たして何処になるのだろうか……。 * 「と、言うわけであまりにも多すぎるクラブを選んでいただくために、各クラブプレゼンを行っていただきます。プレゼン内容は自由。活動の内容を紹介するも良し、活動で作った物を発表するも良し、食べ物を作っているところならばそれを食べさせる、というのも有りです」  一人で放送クラブを立ち上げ、勝手に学園内に放送を垂れ流している【ダヴィヤ・スカーレット】が今回のプレゼンを行うクラブの皆に説明する。  あまりにも多すぎるクラブの数は、正門を封鎖するのが容易なほどであり。  普通に邪魔だし危険と判断した先生達は、放課後、数週間かけてほとんどのクラブ活動に宣伝の場を設けた。  ――先生の独断で宣伝の許可すら得られなかったクラブもあったりするが、それはまた別の話。
新入生へ「ようこそ」を 根来言 GM

ジャンル コメディ

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 少し

公開日 2020-03-22

予約期間 開始 2020-03-23 00:00
締切 2020-03-24 23:59

出発日 2020-03-30

完成予定 2020-04-09

参加人数 7 / 8
 『――と、いうわけで! かわいい新入生たん達の入学! オレサマ、楽しみにまってるぞ☆』  by.美少女学園長【メメ・メメル】  ●  締め切りまで、残り2日と10時間。  毎年、この時期の『新聞部』を言葉として表すならばこの三文字だろう。  修羅場。  時折うめき声を上げ、何かを一心不乱に書きなぐる彼らの顔色はアンデットのようである。  アンデット……、新聞部の部員達は皆『新入生へ向けたパンフレット』の作成を行っていた。  手直し、リテイク、校正、そして取材。  何度同じことを繰り返しただろうか。だが、もう、猶予ある日はない。  その場にいる全員はただ、祈りながら『取材班』達の帰りを待っていた。  がらり。  扉が開くやいなや、無事生還した彼の声。 「お、おわったぁぁぁ……! やりましたよ、部長……ッ! 我々は、ついに、成し遂げましたぁぁッ……がくっ」  青白い顔をした取材班(1人)は、ふらりと原稿の束を部長へ差し出すような恰好で、ばたりと倒れた。  おぼつかない足取りで駆け付けた部長【タナカ・ダロー】。首元に手を置き、脈を確認する。 「……、寝ているか。なんて顔、してやがる」  どう見ても血色の悪いその顔は、悔いのない幸せそうな寝顔だった。  握りしめられた原稿は、5回目の文章添削と、本人による30回の描き直し要求の末に出来上がった学園長へのインタビュー記事と掲載予定の肖像画。 「一番快く引き受けてくださった。が、一番の鬼門だったな! あ、可愛いな!……ちっくしょ、可愛いな! 先輩方ありがとう!」  満面の笑みのピースの肖像画。学園長からの資金援助のお陰もあって、インタビューページには学園長がウィンクをしてくれる魔法をかけることもできた。  普段の予算からは考えられないほどの(謎の)高クオリティだ。  芸能・美術コースの先輩方へ、思わず敬礼をする。  他の部員が見つめるなか、咳払いを一つ。 「と、ともかく、皆よくやってくれた! これで今年のパンフレットの完成だ!」  その声とともに、部員たちの力ない歓声がちらほらとあがった。  ここまで長かった。辛く厳しい戦いだった……、と。  タナカは強敵達との闘い(?)を振り返りながら、出来上がった原稿を並べていく。  リテイクの鬼学園長。食べるのが早すぎて、絵として残らない食堂の料理とそれを食べる少女(結局、少女と料理を別々に描くことで、何とか1枚の肖像画として収めた)。  いたずらにのらりくらりとかわされ、一向にすすまない先輩へのインタビュー記事等など……。  これらはすべて、これまでの散っていった部員たちの汗と涙の結晶である。  後は、印刷所へ持ち込み、広報部へ頼むだけ。  ちらりと時計を見れば、もうすっかり遅い時間だ。印刷所の営業時間も過ぎていることだろう。 (今日できる作業もないし……)  部員達はさながら、机に突っ伏した姿勢で動く気力もない。  その姿は成仏したアンデットのようである。 「皆、お疲れ様、だ。明日は休んでいいぞ! あとはこのタナカ部長に任せろ!」  締め切りまでに持ち込みをすればいいだけだろう? このくらい楽勝だな。 ● 「うん? この空白のページは?」 「くうはくのぺーじ?」  そんなもの、あるはずない。こいつは、何を言っているんだ。 「えーと、タナカ・ダロー様。一応確認してくださいな」  印刷所の職員に促されるまま、恐る恐るページをめくる。  『学園長の言葉』、『進路紹介』、『施設』……。 (いや、いやいや。あるはずないだろう、そんなの)  なのに、なぜだろう。この寒気は。  そして、見つけてしまった白紙のページ。しかも数枚。 「なんだ、これ? 昨日見たときには確かに……、ん?」  白紙のページに挟まったメモ書きが足元に落ちる。  こんなもの見た覚えなど……。ある。 (例年のインタビューページ、確保した覚えが。ただ、そこからは他の取材に手一杯だったっけか)  あまりページを使った、ページを埋めるだけのコーナーなら省略はできたことだろう。  しかし、このインタビューは毎年行っており、かなり重要なものだ。  中にはこのインタビューを参考にして入学を決める生徒もいるらしい。つまり、今更省くことはできない。  タナカは顔を青くして職員のほうを見つめた。 「あ、あの……。締め切り、あと一日……。延ばしてください」 『締め切りまでに、適当な生徒にインタビューする』。  締め切りまで、あと1日と2時間。
ゆうカレ! 宇波 GM

ジャンル コメディ

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 通常

公開日 2020-03-21

予約期間 開始 2020-03-22 00:00
締切 2020-03-23 23:59

出発日 2020-03-30

完成予定 2020-04-09

参加人数 8 / 8
「えぇっと……これは?」 「現在鋭意製作中の魔法遊戯、『ドキドキラブラブ☆ゆうしゃのカレぴっぴ~新入生だけどがんばるもんっ!~』。略して、『ゆうカレ!』の、箱です」 「箱」 「箱です」 「……それを、学園の受付に持ってきて、こちらはどのようにすればいいのでしょうか」  困惑した風に目の前の(おそらく)依頼人を見つめ返す【ウケツ・ケ】は、ファンシーな図柄とタイトルの書かれた空箱を、困ったように弄ぶ。 「我々は、乙女のきゅんがめいっぱい詰まった魔法遊戯、乙女魔法遊戯を開発したく、日々研究と製作を続けています」 「……はい?」 「その開発のために、こちらの生徒さんたちにお手伝いをしていただきたいと依頼をしに来たのですが」 「あの、その得体のしれない遊戯とはいったい」 「ああ、魔法遊戯が何かを知りたいと仰るのですね?! よいでしょう。私が懇切丁寧に、みっちり、めっちり、びっちゃりと教えて差し上げましょう!」  お手々をわきわき。  じりじりと迫りくる女性に、ウケツは本能的な恐怖を感じて後退った。 『よくわかる! 魔法遊戯!』  魔法遊戯とは! 架空の世界で行われる冒険や、遊びを体感できる遊戯のことである!  まるで異世界! まるで現実! 魔法遊戯の世界の中に入って、ひとりのプレイヤーとして遊ぼう!  時には魔王を倒したり! 時にはよその家のごみ箱を漁ったり!  例えば料理をしてみたり! 楽しくお勉強だって出来ちゃうかも?!  どんな世界を体験できるかは、魔法遊戯の記録媒体次第!  みんなも、別の世界で遊んでみない?!  まるで子供に読み聞かせるかのような紙芝居を取り出し、鼻息荒くウケツに説明した女性。  ウケツのメガネの下は虚無の顔。 (全然わからん) 「どうです? よく分かる説明でしょう!」 「よく分からないことだけは分かりました」  返答に、紙芝居を落とす女性。 「ああ、もう! どうして分かってくれないの!」  むっきぃ。  ポケットから取り出したハンカチをかみかみする女性は、ウケツに向かって硬そうな四角いもの――箱とは違うようだ――を向ける。 「体験してもらった方が早いようですね」 「なにを」 「受付さん。あなたは今から……」  ばーん。  指をさす代わりに、四角いものからピンクの光が流れ出る。 「女学生になってもらいます!」 「ナ、ナンダッテー!」  あたし、ウケツ・ケ!  今日からこの魔法学園に入学するの!  うわぁ、どんなことが起こるんだろう……。  魔法薬の実験で大爆発を起こすかな? 箒に乗って雲のずっと上まで飛んでいくかもしれないわ。  それからそれから、地中から掘り出したマンドラゴラと運命的な出会いをしちゃったり……きゃーっ!  うん、すっごくドキドキしてきちゃった!  きーんこーんかー。  いけない! 入学式の時間だわ。  体育館はどっちかしら、きゃっ!  もう! だれよ向こうからムーンウォークでやってきて、空中バク転三回転を決めたうえできれいに着地してぶつかってきたのは! 「おっと、ケガはないかい、マドモアゼル?」  手を差し伸べてきている、この男の人は、先輩? 「すまないね、少し急いでいて、ついムーンウォークで空中バク転三回転を華麗に決めてしまったんだ」  ああ、『急ぐから』と言って桜舞い散る道を足早に去って行ってしまったあの人。  この気持ちは、まさか……。 『魔法学園の新入生として入学してきた貴女。貴女はこの学園で、たくさんの出会いを繰り返し、そして運命の彼ぴっぴを見付けていくのです』  ふー、と長い溜息。  溜息の分だけ、沈黙が落ちる。 「どうでした? 恋、したくなったでしょう? これが! 『ゆうカレ!』体験版です!」  ウケツは徹夜で書類仕事をした時のように、眉間を人差し指で揉み解す。 「たしかに、魔法遊戯については分かりました。要するに、ある一定の記録を再生し、プレイヤーに没入体験をさせる遊戯ですね」 「ロマンの欠片もない言い方で非常に不満が残りますが、概ねその通りです」 「その記録媒体にそういう魔法を組み込んでいるのでしょうね。よくできていると思います」  女性が得意げな顔になったところ、『だからこそ』とウケツが遮る。 「あのクオリティは看過できません! なんですか、マンドラゴラと運命的な出会いって! なんですか、ムーンウォーク決めた後にバク転する不審人物って!」  そもそも魔法薬学で毎回鍋が爆発してたまるかー!  ウケツの心よりの叫びである。毎回毎回、予算が。 「そしてですね、おそらくこのゆうカレ! のコンセプトは、きっとこの主人公に恋愛をさせる、そんなゲームなのでしょう」 「ええ、そうです」 「だったら!」  ばあん。  ウケツ、机をばあんする。 「せめて魅力的な登場人物を作りましょうよ! 顔がリアル茄子の人間なんて、恋愛対象になり得ないんですよ!」 「モデルと予算が足りねえんだよー!」  女性は魂からの咆哮を響かせた。 「ええー、そういう経緯もありましてね。ここに集まってくれた皆さんにぜひ、この魔法遊戯の登場人物のモデルになってほしいんですよ」  もちろん、集まってくれているのが男性だけとは限らない。 「依頼人からの登場人物についての要望……? これ要望になるんですかね? を伝えさせていただきます」 『百合展開? アリ寄りのアリ』 『薔薇展開? いいじゃない! そうだ、開始時に主人公の性別を選べるようにするのも面白いわね!』 『男装? ……もう! 乙女心擽るナイスアイデア! この案を考えた鬼才はどなた?!』  ウケツはメモをぱたんと伏せた。 「要するに皆さんには、乙女心をくすぐる登場人物のモデルになり、どんな行動をしてどんな台詞を言うのか、考えてほしいそうですよ。……ああ、それから、どんな行動を相手がすれば好感度が上がるか、また下がるか、なんかも」  よろしくお願いしますね。  そう頼むウケツ。  いつもパリッとキメているスーツは、心なしか皺が寄ってくたびれている気がしてならない。  何を隠そう、既にキャラクターのモデルにされたばかりなのである。  やや疲れている彼に同情を禁じ得ないが、それはきっとここにいる誰にも伝わることはないのだろう。
俺たちギルッチ団!! 駒米たも GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2020-03-18

予約期間 開始 2020-03-19 00:00
締切 2020-03-20 23:59

出発日 2020-03-25

完成予定 2020-04-04

参加人数 8 / 8
◆  温泉街トルミンの名物。  温泉、火山、そして――。 「財布を取り返してくれてありがとう!」 「いいって事ヨ。何故なら俺たち……」 「ギルッチ団!」  勝利の雄叫びが『大温泉郷ギンザーン』に響いた。 「トルミンを楽しんで!」  揉め事を解決した彼らは一般人へと戻り、再び活気に満ちた温泉街の景観へと溶け込んでいく。  ――『ギルッチ団』。  トルミンを仕切る【馬場・カチョリーヌ】の息子の一人【馬場・スカットン】が団長を務める、トルミン限定の自警団だ。  魔物、チンピラ、災害。  ギルッチ団に所属する者は『揺るぎないトルミン愛』を合言葉に、今日もならず者達からトルミンを守る。  一人見かけたら近くに三人は潜んでいると思え。  それが『ギルッチ団』である。 「トルミン花湯が近いせいか、最近観光客狙いのチンピラが多いナ」 「万引き、スリ、いちゃもん、食い逃げ」 「忙しいよお」  その言葉が終わらない内に、一件の茶屋から破壊音が轟いた。 「ほえわわわ」  一人の店員がガラの悪い四人組に囲まれている。  中でもひと際目立つ巨体が咆哮をあげ、木造の茶屋全体がビリビリと震えた。 「こんな不味いもん、食ってやっただけでも有り難く思え。この下等生物」  耳の後ろから伸びる黒色の曲がった角。鋭い黄金の瞳。  振り上げた太い腕には赤銅色の鱗が輝いている。 「ドラゴニア種……」  珍しい存在に、駆け付けた一人が目を開く。 「あわわわ、不味いってお客さん。おかわりまでしっかり食べたじゃないですかあ」 「何だって?」 「ひええ!! なんでもないですう!!」  ドラゴニアに付き添っていた女が椅子を蹴り飛ばした。  巻きこまれた茶椀が次々と床へ落ちていく。客は逃げ出し、店員は半泣きだ。 「待て待て、この無銭飲食犯め!!」 「私達の目が黒いうちは、トルミンの平和を乱すような真似は許しません!」 「誰だァ、てめえら」 「俺たちは!」 「私たちは!」 「ギルッチだ――ぶほぉ!?」  ポーズと台詞を決める間も無く、赤い無情の拳が一人の頬にめりこんだ。 「決め台詞の途中で殴るとか、貴様、心が無いのカ!」 「弱えクソどもが、うるせえんだよ」 「存在がうざい」 「あらら、図々しくしゃしゃり出てきて弱いとか。救いようが無いグズ。ほんとグズ」 「うげっ!?」  仰向けになった腹部にブーツの靴底が深く喰い込む。 「あわ、あわわわわ」  そう、ギルッチ団はあくまで自警団。戦闘能力を持たない一般人も多い。 「……聞け、いい遊びを思いついた」  竜の口元がニヤリと裂け、伝播するように悪意がさざめいた。 ◆ 「『ギルッチ団』狩り?」 「そうだ。トルミン商店街でわざと騒ぎを起こし、出てきたパトロール中の自警団……もといギルッチ団に暴行を加える。そんな悪趣味な事件が報告されている」  傭兵や、ギルッチ団の腕利きが魔物退治や観光客の救出に向かう隙をついた卑劣な犯行だという。  相手も腕が立つのか、それとも力をもたない民間人だけを狙っているのか。  普段なら、敵わないとみるとピューンと逃げるギルッチ団員の中にもかなりの怪我人が出ているそうだ。 「課外活動だ。至急現場に向かい事件を解決しろ。あ? 相手の名前? そんなもんチンピラAからDで充分だ」  教師は笑顔で親指を下に向ける。 「一般人相手にイキがってるアホどもに、世間の厳しさを教えてこい」  目が笑っていなかった。
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