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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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ミラちゃん家――新たな始まり K GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-11-12

予約期間 開始 2020-11-13 00:00
締切 2020-11-14 23:59

出発日 2020-11-21

完成予定 2020-12-01

参加人数 5 / 8
●グラヌーゼは今日も雨だった  複数ある『果て無き井戸』のひとつ。  堅牢な丸い石組みを囲っていた青草は忍び寄る冬の圧力によって茶色く枯れ萎び、くたりと地面に伏していた。そのせいで夏より視界がぐんと開け、寂寞感がいや増している。  そこに後から後から降り注ぐ、冷たい雨。  【ラインフラウ】はレースの傘をクルリと回し『いいお天気ね』とうそぶいた。皮肉ではない。本日は井戸へ近づくに当たって、格好のお天気なのだ。雨が降る日、猫は外に遠出しないものだから。  レインコートに身を包んだ【セム】は、手にした大きなカゴを降ろした。カゴの中には猫が数匹、落ちつか無げに動き回っていた。どれも平凡な容姿をしている。そのへんの町角から適当に集めてきたのだから、当然だ。全部が全部、首輪を着けられている。小さな涙の形をした石……通信魔法石『テール』の欠片だ。  セムはカゴのカギを外し、蓋を開ける。 「さあ、好きなところに行きなさい」  猫たちは降ってくる雨に不快さを示しつつカゴから飛び出し、次々井戸の中へ入って行く。その様にセムは、感心したような息を漏らした。 「皆、よくためらわずあの中へ入って行きますね。初めて見る場所のはずなのに」  ラインフラウが笑って言った。 「本能的に分かるのよ、シャパリュが近くにいるということが。それにしても猫にテールをつけて送り込む。それで盗聴を行うなんてね。あなたらしい思いつきよ。そういうの好きだわー」  熱っぽい眼差しを注いで、セムにしなだれかかる。濡れるのも構わずに。セムはそれにあまり構わずタバコに火をつけ一服し、井戸を見つめた。 「様子を観察して話せそうな相手だと判断出来たなら、こちらからも呼びかけますよ。まあ、どこまでうまくいくか分かりませんけどね。あの程度の大きさの石では1回こっきり、数時間しか使えないし――それ以前にシャパリュが、あの猫たちを仲間と認めず殺してしまうかもしれないし」 ●グラヌーゼ近辺も今日は雨だった。  【黒犬】は再度、保護施設に手紙をよこしてきた。内容はもちろん、【カサンドラ】の呼び出しだ。  なるべくならカサンドラは一人で来い。それが嫌なら【トーマス・マン】も連れて来い。それでも嫌なら他に誰か追加してもよい。とのこと。  当初に比べて要求にかなりの譲歩が見られることに、関係者一同ひとまず胸を撫で下ろす。  さて、黒犬が会談の場として指定してきた場所は、サーブル城の近く……では全然なかった。彼には本当に似つかわしくないと思えるが、グラヌーゼ西部にある『いのちの花園』だ――もっと詳しく言えば花園の西方、どこに所属しているとも言い難い空白地帯に隣接する場所。  恐らくは赤猫の存在を警戒しているのだろう。なるべく城からは離れたい、さりとて自己のホームグラウンドからはあまり離れたくないというところか。  一同は天を仰いでため息をつく。この天気の悪さはどうにかならないだろうかと。  空は一面べた塗りしたような灰色。絶え間無く雨が降ってくる。  厚着をしてきているのだが、何もしないで立ち尽くしていると冷える。だから皆、意味もなくあたりをうろうろする。花園には花しかない。空白地帯にはごつごつした大きな岩が突き出ているばかり。雨宿り出来そうな場所は皆無だ。  トーマスは時折両手をこすり合わせ、暖を取る。  【アマル・カネグラ】は丸い鼻をひくつかせ、ぼやく。 「いやなお天気だなあ。雨をしのぐ場所もないし……黒犬、本当に来るのかな。もう結構待ってる感じがするんだけど」 「来ます。そういうところは守るんです、あの人。いえ、人ではありませんけど」  そう言いながらカサンドラは、ぶるっと身震いした。痩せているせいか、寒さを人一倍強く感じるようだ。いつものローブの上にフードつきレインコートを着込んでいるせいで、顔がすっかり見えない。  蓑笠に身を包んだ【ドリャエモン】は落ちつきはらって言った。 「まあ、自分でここを指定してきたのだから、すっぽかすことはないじゃろう。どこかから、わしらの様子を確認しているのかも知れん。あるいは、待たせることで動揺を誘おうとしているのかもしれん。じゃからして、何事もないようにどっしり構えておれ。見くびられんようにの」  彼も他の同行者たちも、既に気づいている。岩々の陰に複数の犬の気配が息づいていることを。  十中八九黒犬が手下を引き連れてきているのだ。全くのところそんなもの脅威でもなんでもないが、注意だけは払っておいた方がよい。  そのまま待つこと数分、雨に煙る中、ついに黒犬が現れた。カサンドラの絵に描かれていたままの姿で。  黒い髪、黄色い目。浅黒い肌。着ているのは赤猫同様、ビーズで飾られた絢爛なガウン。  怒ったようにズカズカ歩いて来る彼にトーマスは、戸惑い気味の目を向ける。人間の姿をした黒犬が、あの大きくて強い黒犬と同じものだという実感が、今一つ持てなかったのだ。 「……黒犬なの?」  呼びかけたトーマスを一瞥した黒犬は、『そうだ』と唸りを交えた声で言った。カサンドラに憎体な視線を向けた。みるみる内に人間としての輪郭を崩し、巨大な獣の姿になった。 「で、知りたいんだそうだな、忘れたとかいうこれまでのことを」  カサンドラは身をすくませた。長年自分を追いかけていた相手を、いざまた目の前にしてみると、やはり怖いと思ってしまうのだ。 「はい。教えていただけたらと。そうすれば私も、何か思い出せることがあるかも知れませんから……あなたと【赤猫】を縛っている呪いについて。それから、その解きかたについても」  そこで黒犬が、かっとなったように大声を上げた。 「都合のいい話だな、ええ!」  牙が並んだ口の奥から、炎を含んだ熱い空気がぶわっと吹き出し、一同の顔にかかる。 「あっつ!」  アマルは顔をゴシゴシこする。  炎に近しい種族であるドラゴニアのドリャエモンは動じることなく、黒犬の前に踏み出した。 「むやみに大声を出すでない。のっけから相手を脅しかけるようなことでは、話し合いとは言えぬぞ」 「黙れ老いぼれ。俺はお前になぞ用はない。用があるのはこの女だけだ」  黒犬は上唇をめくり上げ恐ろしい形相を見せた。だが、とりあえずそれ以上のことはしない。  トーマスがとりなすように言った。 「黒犬、大丈夫だよ。先生たちも施設の人たちも、黒犬の呪いをといてあげたいって思ってるんだ」  『……いや、僕は別にそこまでは思っていないんだけど』とアマルは心の中で呟いた。
【想刻】慟哭の残響 白兎 GM

ジャンル イベント

タイプ マルチ

難易度 とても簡単

報酬 通常

公開日 2020-11-07

予約期間 開始 2020-11-08 00:00
締切 2020-11-09 23:59

出発日 2020-11-16

完成予定 2020-11-26

参加人数 13 / 16
●慟哭  勇者になりたい少年がいた。  彼は幼い頃、幸せな毎日を唐突に奪われ。であるがゆえに、力を求めた。  それは復讐でもあり、たった一人生き残ってしまった自分が抱えるべき、使命だとも思っていた。  しかし勇者に『なりたかった』少年は今、己がすべきことを見失い、ただ。  泣いている。 ●残響 「どうですか、フィーカさんの様子は」 「駄目だメェ。食事も全然食べないし、起きてる時は母親の日記を開いて、泣いてばっかだメェ~」  ――フトゥールム・スクエア内、『保健室』前の廊下にて。  【シトリ・イエライ】に声をかけられた【メッチェ・スピッティ】は、声色通りの表情で首を振った。  彼女はここ最近、【フィーカ・ラファール】というルネサンスの少年の介抱にあたっている。 (とはいえ、体にもう異変はないメェ。でも心が、ボロボロなんだメェ~……)  無理もないな、とメッチェは思う。彼女はフィーカが、どんな気持ちでこの学園にやって来たのかを、よく知っていた。 『おれ、最初は復讐したくて、剣を取ったんだ。でも、強くなって、なにをすればいいか、わかんなくなって』  そんな時に、みんなに出会ったんだ。おれを助けてくれた、『ゆうしゃ』に。 『だから、おれ……みんなみたいに。かっこよく、なりたいんだ』  そう笑っていた少年は、さりとて忘れてはいなかったはずだ。  奪われた悲しみ、全てを消し炭にされた憎しみ、……昇華されなかったその気持ちは、矛先を得ることで、再び燃え上がる。 (だからこそ。何をすれば良いのか、わからなくなってしまったんだメェ~)  だって、憎むべき相手が、最近友人になったばかりの青年だったから。  しかも、恨むべき相手は。大好きな兄で、大切な家族で、絶対に剣を向けたくないヒトだと、思い出してしまったから。 (許せない気持ちと、恨みたくない気持ち。今のフィーカは、きっとその2つに、圧し潰されているんだメェ) 「む~……シトリ先生。本当に、カズラがフィーカの、親の仇なんだメェ?」 「わかりません。ですが、フィーカさんはそのように記憶していると、言っています。……それに」  苦笑したシトリは、手に持っていた布切れを持ち上げる。  それはいつも、カズラが大切そうに首に巻いていたマフラーの、切れ端だった。 「メッチェ先生。……この紋様に、見覚えはありませんか?」 「? ……あっ! フィーカが持ってる日記帳の背表紙に、似た刻印があった気がするメェ」 「えぇ、私もそう思います。もしかしたらこのマフラーは、フィーカさんのご家族が、カズラさんに贈ったものなのかもしれません」  だとしたら、カズラさんは。 「記憶を失ってなお、家族との思い出を。大事なものだと感じていたのかもしれない」  そんなヒトが、本当に。  途切れたシトリの言葉に、メッチェは息をつく。  この教師は確信のない事を口にしない主義だと知っているから、代わりに。 「あっちも、カズラがそんな酷いことをしたなんて、思いたくないメェ~」  だから、ちゃんと。 「……飛んでった本人をとっ捕まえて、話を聞かないとだメェ~」  何が真実で。どこまでが、本当なのかを。 ◆ 「おうおう、やっとるのぉ~」  ――フトゥールム・スクエア内、校庭。『対巨竜用バリスタ製作区画』。  トンカントン、と小気味よい音が響く中、青いとんがり帽子の少女……【メメ・メメル】は腕を組む。  そんな彼女の姿を目にした『きみ』は、思わず声をかけた。  『きみ』の言葉を耳にした学園長は、青色の瞳をぱちりと瞬かせてから、いつも通り笑っただろうか。 「そりゃ、オレサマだって、学園長サマだ。今回の件については、色々動いているんだぞぅ?」  メメルが言うに、行方をくらませた【カズラ・ナカノト】に対してはもう、幾つかの手が打たれているようだった。  まず、突如現れた『青銀色の巨竜』についての目撃情報が、既にフトゥールム・スクエアにも舞い込んでおり。  その情報を元に、現在多くの卒業生や、教員たちによる居場所の特定が始まっているらしい。 「もちろん、その竜がカズラたんであることは伏せてるぞ! 知っているのはチミを含め、一部の関係者だけだ」  とはいえ、各都市の有力者からの追求を煙に巻くのは、骨がいったわぃ。  なんて言いながら肩を回す精霊賢者は、言葉とは裏腹に楽しげだ。  いったいどんな口車を使ったのだろう、なんて『きみ』が思っている間にも、学園長の話は続く。 「それに、このバリスタ計画もそうだ。『飛んでいるなら撃ち落としましょうか』なんて言葉がシトりんから出るとは思わんかったが、なるほど、理に適ってるな!」  というわけで、オレサマも一肌脱いで、専用の魔弾を用意しておいたぞ。  そう言って少女が杖で指し示す地面の先には、透明な水晶を思わせる巨大な杭のような物が、ごろりと転がっている。  どうやらそれが、『魔弾』と言われるもののようだ。数にして4つと少な目ではあるが、命中すればかなりの抑止力にはなるだろう。 「でもなぁ……オレサマ達ができるのは、やっぱり、これくらいだと思うのだ」  ひゅぅ、と風が吹き、少女の銀の髪を揺らす。  青の瞳はどこか懐かしそうに、バリスタ製作に励む学園生達を見据えている。 「カズラたんを助けたい。その気持ちをチミ達が持っているのを知っているから、オレサマ達は出来るだけのことをする」  けれど、最終的に。 「発見したカズラたんに挑むのは、チミたちだ。きっと、今のカズラたんに、オレサマ達の言葉じゃ届かんからな」  恐らく、カズラたんに着いているだろう仮面が、邪魔するだろうし。  続く言葉に、『きみ』は声を返す。結局あの仮面は、なんだったのか。  そう問いかける『きみ』に、少女は僅かに瞳を細め、 「チミ達が持ち帰ってくれたものを解析している途中だから、まだ何とも言えん。ただ、あれは全てのモノに宿る『魔力』に干渉し、暴走させる力があるのかもしれん」  そして、もし。その予想がアタリだとすれば。 「……今のところ、ドラゴンが町や村を襲っているなんて情報はない。つまり、カズラたんは」  まだ抗っている最中なのかもしれない。『仮面』からの、干渉に。 ●深淵  彼は思う。あぁ、だから忘れたんだと。  彼は嘆く。あぁ、だから逃げたんだと。  けれど、――自分は、思い出してしまった。 『ぜんぶ、お前のせいなのかよ……っ!』  悲愴と非難に満ちたその言葉が、散らばっていた記憶のピースを繋げる。  そうだ、自分のせいだった。自分が居たから、あんなことになってしまった。 『けれど、本当は、嬉しかったんでしょう』  声が聞こえる。 『あなただって、憎かったんでしょう? 自分が持っていない幸せの全てを持った、あの少年が』  違う。 『だから、燃やしたんでしょう? 壊したんでしょう?』  違う。違う。違う。 『全てが灰になって、すっきりしたんでしょう?』  違う……っ! 『違わないわ。じゃあどうして、自分から、忘れたの? 捨ててしまったの?』  それは。 『あなたが自分から、望んで、手を離したんでしょう?』  ……それは。 「うぅ……」  ずるずると、青年は膝をつく。荒い息を吐くその表情には、苦悶が広がっていた。  しかし、それすらも面白いのか。彼の肩に張り付いたままの仮面は、歪んだ笑みを浮かべている。  荒野に花開くリンドウの花が、哀しげに揺れた。
誰がために鐘は鳴る――拠点構築・廃坑 鶴野あきはる GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 少し

公開日 2020-11-05

予約期間 開始 2020-11-06 00:00
締切 2020-11-07 23:59

出発日 2020-11-13

完成予定 2020-11-23

参加人数 4 / 8
 調査報告書を机に置き、【エイデン・ハワード】は目を閉じた。もう何度と繰り返した行為だが、何度でもせずにはいられなかった。  ハワード先生が直面している問題――それは以前、校外授業とした坑道での出来事である。  閉じた坑道に低級な魔物が棲みついたため、それを排除するという簡単な討伐のはずだった。しかしそこには、作為的に閉じ込められたと思しき人物がいた。そしてその人物は、リバイバルとなってその場にいた……。  これは由々しき事態だった。リバイバルというのは、誕生時の記憶を失っている。思い出す可能性は無いと思った方が良いし、また思い出させることも酷なことであろう。リバイバルとなってなお、『シニタクナイ』と強い思念を持っていた彼女にとっては。  リバイバルの少女――彼女をどう扱うべきか。記憶に混乱をきたし、今も学園内の医療機関で静養中の彼女を今後どうするか、それについてもハワード先生は決めかねていた。まずは回復を待つ以外はないのだが。  そして、あの坑道――。 「お? それについてはチミに任せるよ〜! よきに計らってくれたまえ!」  学園長直々の、その有り難く手軽な一言で、この事案はハワード先生に一任された。  考えるべきこと、やるべきことは多くある。彼が行えることもまた多いが、どうせやるのであれば、己一人で行う理由はないのだ。 ●拠点を作ろう。 「それでは、授業を始める」  真紅の瞳で生徒たちを見据え、ハワード先生は静かに始業を告げた。 「本日の授業は、調査のための拠点作りを行う」  ハワード先生はそう言って、黒板に簡素な地図を書いた。  山の斜面にいくつもの坑道があり、それぞれの坑道にはトロッコレールが敷いてある。その坑道の入り口から約1kmほど離れたところに、廃坑となる前に作業員たちが住んでいたのだろう小さな村があるようだ。 「調査対象は、この坑道だ」  いくつもある坑道のうち、最も奥まった坑道にハワード先生は星を付けた。 「この坑道を調査するにあたり、拠点を作る。また、調査がスムーズに行えるよう、坑道内にある落とし穴などの罠を解除する必要もあるし、坑道内に広間があるのでそこも中継基地として使えるように整える必要がある」  話をまとめると、こうだ。  拠点作りを行うにあたり、やることは大きく分けて5つ。  1つ、坑道内の広間を中の活動拠点として整備すること。  2つ、坑道内の落とし穴や罠を解除すること。  3つ、魔物の襲来に備えて警備を行うこと。  4つ、廃村を外の活動拠点として整備すること。  5つ、生徒たちがいない状態でも、この拠点を維持できるように手を回すこと。 「廃村には幸い、枯れていない井戸がある。荒れてはいるが、畑も作る事ができそうだ。つまりこれは、拠点としての基地を作り上げるという、一大プロジェクトになる」  故に、今後長期的に展望を持つ者は、畑を持ちたいものは作っても良いし、家を建てたいものは建てても良い。よほど突拍子のないものではない限り、自由に作って良いとする予定だ。  もちろん、宿舎の建設も進めていくし、仕事として調査を請け負ってくれる者たちへ向けて、公営(といいつつ、ハワード先生が個人管理)の宿舎も完備していく予定だ。病院や訓練場なども充実させていく予定だ。  チョークを置き、ハワード先生は生徒たちを振り返った。 「今回、君たちに主にして欲しいことは、1と2だ。この坑道内を活動拠点として使えるように整えることを、手分けして行って欲しい。もちろん、坑道内の活動において魔物を警戒する必要はある。全て討伐はしてあるが、この坑道はまだ懸念がある」  前回の調査で、ゴブリンたちが坑道の外からではなく、坑道の中からわいてきたことが分かっている。すでに退路は立たれているため、新しく魔物が現れることは無いと思われるが、『そういう場所である』という意味での警戒が必要だ。そのための拠点作りなのだ。 ●広間の活動拠点を整えよう。 「この広間は、廃坑となる前にも鉱夫たちの休憩所として使われていた」  ハワード先生は新しく坑道の見取り図を書いていく。  広間まで続く坑道はほとんど一本道で、小さな分かれ道はあるものの、深さは無い。罠を解除しておけば、一時的な資材置き場などとして活用できそうだ。落ちると火が吹き出す罠の仕掛けられた大きな落とし穴もあるので、罠を取り除いた上で、しっかり埋める必要があるだろう。  そして広間。ここはドームのような円形をしており、ちょっとした運動場くらいの広さをしている。魔物たちは藁などを敷き詰めて布で仕切り、寝床としていたようだが、坑道の安全性が確保されるまで、この広間はあくまでも中継地点という扱いだ。 「さて、諸君。この広間にある坑道の1つが入り口と繋がっており、そしてもう1つが調査対象の坑道となっている。便宜上、AとBと呼ぶが、Aが入り口、Bが調査対象だ。これらを踏まえた上で、この広間を活動拠点として使えるように整えたまえ。なお、Bの坑道は今回、立ち入り禁止だ。いたずら心を起こした者は、処罰の対象とするので覚えておきたまえ」  ほんの一瞬、ハワード先生から強い覇気を感じる。誰かの喉がゴクリと鳴った。 「今回、この拠点を作成するにあたり、諸君らの手を借りることにしたのは、今後の私のカリキュラムに影響を及ぼすであろうことからだ」  ハワード先生は静かに覇気を収め、淡々と語り始めた。 「君たちは各々、それぞれの思惑を持ってフトゥールム・スクエアへ入学したことだろう。コースは多岐に渡るが、それぞれの立場によって、思うことがそれぞれにある」  そこまで言って、ハワード先生は大きく息を整えた。 「君たちは君たちのために生きている。その命をどう使うかは、君たち次第である。そして、この学園に所属する生徒として、伝説の勇者に近い存在となること、そしてこの学園で学んでいることの意義を、私の講義では体現して欲しい」  ただ学ぶだけではない。目の前の事件を解決するだけではない。  その1つ1つの行動に、己の生き様、生きる理由、力を行使するその意義を、いつでも胸に抱いて物事に当たって欲しい。 「その己の生きる理由が、課題へ向かう己の姿勢を変える」  真紅の瞳が生徒を見回した。  その瞳に威圧の色はなく、ただ生徒たちを案じ、慈しむ光がわずかに見えたような気がした。  最適解を出すことだけが重要なのではない。  最適解を探すこと、時に悪手と思われるかもしれないことを選んだ己の信念に従うこと。そして、もしその悪手を選ぶのであれば、その悪手をどうやってカバーするのか。カバーすることができるのであれば、その時の悪手は、悪手ではなくなるだろう。終わりよければすべてよし、という諺(ことわざ)もあるように。 「各々の理想を表現する場として、存分に考え、行動で表してくれたまえ」
アルマレスに抱かれし邪悪 ことね桃 GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-11-07

予約期間 開始 2020-11-08 00:00
締切 2020-11-09 23:59

出発日 2020-11-15

完成予定 2020-11-25

参加人数 2 / 8
●山に隠された神殿 「おーい、お前らー。今回は山で体力づくりをしてもらうぞこのヤロー!」  武神・無双コースのガチムチ女教師【ペトラ・バラクラヴァ】は課題案内板の前に立つと、板に貼り付けた紙をコンコンと小突いてみせた。  そこで初々しさの残る学生が挙手、質問をする。 「山というとトルミンですか?」 「いんや、トロメイアのアルマレス山だ」 「えっ……あそこ超高い山じゃないですか! まさかそこを全力で踏破してこいとかいうんじゃないですよね?」  ざわっと戸惑いの声を上げる学生達。するとペトラはからからと笑う。 「まさか、アタシの授業じゃあるまいし」  ……お前の授業ならやるのか。そんな青ざめた顔を気にすることなく彼女は解説を続ける。 「実はだな、アルマレスの中腹に避難所兼神殿として整備された洞窟があるんだが……そこにガーゴイルが棲みついたらしいんだよ。で、民間人の案内人や神官が踏み込むのは危険だってんで、うちの学園に連中を討伐してほしいって連絡があったワケ。そこまではいいな?」 「はい」  とりあえず素直に頷く学生達。その反応に満足したのかペトラは口元を吊り上げると『まぁ、ここからが問題なんだがな』と告げた。 「その神殿には山の自然精霊を模した石像が12体、並んでいる。ガーゴイルと精霊の石像を見分けるのはそう難しくない、真っ当な精霊像はそれぞれ自分が加護するものを持っている意匠だからな。例えば岩の精霊なら岩石を担いでいたり、木の精霊なら苗木を掲げ、実りの精霊なら果実の入った籠を抱き、水の精霊なら水瓶に手をかけている。土の精霊なら地面に手を伸ばして土を掴もうとしているようなポーズをしているという話だ。……ただし今までヒトが近寄れなかった分だけガーゴイルがどれだけの数が潜り込んでいるのかわからないっていう状況が問題なんだよな」 「それなら石像を片っ端から壊せば?」 「馬鹿野郎、そんな罰当たりなことをしたらトロメイアの神官連中どころか住民にまで学園生が白けた目で見られることになんだろ。どいつがガーゴイルか見極めて、他の石像や神殿が傷つけられる前にブッ倒せっていうなんともヘイトな課題だよ」  ペトラはそう言って肩を竦めると『ひとまず案内人は既に手配してある。洞窟までは最短ルートで行けるから道程で悩むことはない』と告げ、眉を顰めた。 「あとはこいつはアタシからの助言だ。ガーゴイルって奴は知性はないが飛行能力があり、相手の動きを見極めようとする知恵もある。それを考えると……正直体どころか頭も使わなきゃならねえ課題だ。やる気のある奴は後でアタシに声を掛けな」  こう言い残して校庭に出ていくペトラ。学生達が『どうする?』と顔を見合わせるなかに【メルティ・リリン】の姿もあった。 (石の怪物……困っている人がいるのなら頑張らないと、ですね) ●洞窟の前で 「……ここが件の洞窟です。一応途中までは先遣隊が蝋燭で目印をつけましたが、途中からはほぼ暗所となりますのでお気をつけて。最後の蝋燭からまっすぐ進んだ先に神殿があります」  案内人はそう言うと学生達から預かった荷物を肩から下ろし、一息ついた。彼はここで皆の帰還を待つという。 「ここまでのご案内、ありがとうございます。必ず皆様に喜んでいただけるよう力を尽くしますので、帰りもなにとぞよしなに」  メルティはそう言うと小さなランタンを括りつけた杖を手に仲間達と歩き出した。  必ずガーゴイルを倒し、ここを清浄な祈りの場に戻してみせると誓いながら。
ゆうがく秋の安全教室 こんごう GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2020-10-31

予約期間 開始 2020-11-01 00:00
締切 2020-11-02 23:59

出発日 2020-11-09

完成予定 2020-11-19

参加人数 2 / 8
 フトゥールム・スクエアは勇者養成の場という性格上、周辺の町や村から様々な相談や依頼を受ける事が多い。  時には、課外授業として学生を現地に派遣し、問題の解決にあたらせることもある。  そんな日頃の学生や教員の活躍もあってか、周辺の治安は向上し、フトゥールム・スクエア近辺に住む人々からの評判は、概ね良好だった。  特に、毎年この時期になると、収穫を控えた農家の田畑を狙ってやって来る、野生動物やゴブリンのような魔物を退治する依頼が急増する。  ゴブリンを始めとした人型の魔物は、作物だけではなく家畜に害を及ぼすことも多く、それを追い払ってくれる学園の活動は、農業や畜産を生業とする人々にとって不可欠だった。  ところが、意外なところから一つの問題が浮上してきた。  学生達の活躍を間近で目撃したある村の子供達が、『俺も勇者になる!』とばかりに、学園の生徒の真似事を始めたのだ。  その辺に落ちている棒切れを振り回して、ごっこ遊びに興じるだけなら可愛いものだが、ゴブリンが度々目撃される森に、親の目を盗んで入り込んだりしているらしい。  どうやら当人達は、森をパトロールしているつもりらしいのだが、いつ事故が起きてもおかしくない危険極まりない行為だ。  本能の塊であるゴブリンはもちろんのことだが、イノシシやクマといった、野生動物はそれ以上に危険な存在だからだ。  子供達がそんな遊びに興じているせいで、家の仕事を放りだしたり、夕飯までに家に帰って来なかったりという問題も発生しているようだ。  うちの子達が学園の生徒の真似事をして困っているので何とかしてほしい。  子供に悪影響を与えるので、活動を控えるか、人目につかないようにやってほしい。  学園の職員会議の場で、子供達の親達から、そんな苦情が寄せられていることが議題に上がったのだ。 「うーん、そりゃ確かに放置は出来んなー」  いつも陽気な学園長【メメ・メメル】が、彼女にしては珍しく、少しばかり真剣味を帯びた表情で呟いた。  子供に言い聞かせるのは親の仕事じゃないかと思わないでもなかったが、かといって、学園側で何の対策も取らないというわけにはいかない。  子供達が被害にあってからでは遅いのだ。 「んー、どうしたもんかなー」  いかにも常識的な、もっともらしい説教などに、子供達は耳を貸さないだろう。  そのぐらいのことは、既に両親達がやっているはずだ。 「あー、そっかそっか。いーこと思いついた!」  メメルはひらめいたとばかりにパチンと指を鳴らした。  子供達は学生達の活躍を見て、勇者の真似事をしている。  となれば、彼らの憧れの対象からの言葉であれば、素直に耳を傾けるのではないだろうか。 「そうとなれば早速、優秀な我が校の学生達に、一肌脱いでもらうことにするのだー!」 「……というわけで、チミ達には、村の子供達相手に、秋の安全教室の指導員をやってもらいたいのだー!」  集められた学生達の前で、メメルは胸をそらしながら言った。 「子供達は勇者に憧れているわけだから、チミ達の言うことなら素直に聞いてくれるはずだ! たぶん!」  そうは言っても、どうやって子供達に危険な遊びを止めさせれば良いのだろうかと、学生達は困惑した。 「もちろん、ただのありきたりな説教なら聞かないだろうなー。いかにも勇者っぽい感じで子供達に安全指導をして欲しいのだ! そうだなぁ、例えば……」  メメルは顎に指を当て少し考えこんだ後、言った。 「『勇者はみんなを守るヒーローだ! ヒーローは、お父さんお母さんを困らせてはいけない!』とか、そんな感じ?」  どうにもこじつけっぽく聞こえる。  だいたい、そんな今週の努力目標みたいなもので、本当に良いのだろうか。 「あとは、そーだなー。森に入るのはキケン! っていうのもきちんと指導してほしいなー。勇者っぽく」  勇者っぽい指導とは、いったい何なのだろうか。  学生達は、早くも頭を抱えそうになってしまうが、彼らも未だ見習いとはいえ、勇者のはしくれだ。  子供達が危険な目に合うのを見過ごすわけにはいかない。  指導内容に頭を悩ませつつも、学生達はメメルの見送りを背に、村へと向かうのだった。
ミラちゃん家――それぞれの準備 K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-10-30

予約期間 開始 2020-10-31 00:00
締切 2020-11-01 23:59

出発日 2020-11-08

完成予定 2020-11-18

参加人数 8 / 8
●保護施設――転用建屋第17倉庫――ミラちゃん家  カサンドラはもう小一時間ほど自室で、『果て無き井戸』の調査報告書を眺めていた。そしてぶつぶつ呟き続けていた。 「……『地下道で見つかったのは、ノア一族のものとおぼしき鎧、剣――首飾り、腕輪、イヤリング、杖……』」  彼女はこの記述に違和感を感じている。  見つかったのはこれだけだったんだろうか。他に何かなかったのだろうか。他に何か――あったはずなのだが。  本人はまだ気づいていないが、それは、失った記憶が少しづつ蘇ろうとしている兆しだった。  精霊【ミラちゃん】はリンゴの若木に止まっていた。  赤茶色に紅葉した若葉が晩秋の風に吹かれている。  葉陰に隠れるようにして、小さな赤い果実がひとつ。ミラちゃんは形のない手で愛しげに、その実を撫でる。  幼い声が聞こえてきた。 「ミラちゃん、どこー」  【トマシーナ・マン】だ。  二カ月ほど前から施設の住人となったこの幼子についてミラちゃんは、遊び友達のような意識を抱いている。向こうもどうやら、そのように思っているらしいが。 「ミーラちゃーんみっけ! そしたら、つぎはわたしがかくれるね! 十かぞえるまでうごいちゃだめよ!」  トマシーナが精霊とかくれんぼをする声が聞こえたので【トーマス・マン】は、自然その頬をほころばせた。妹が楽しそうにしていることは、彼にとっての喜びだ。  ここはいいところだ。村なんかよりずっと。出来ればこのままここにいたい、とも。しかしその一方で、そうするのが難しいだろうとも理解している。  保護施設はあくまでも、事件に巻き込まれたものを一時的に保護する場所だ。永住するわけにはいかない。  いずれまたどこかへ移らなければならなくなるだろう。正規の孤児院か、あるいは、里親のところか。幸い大人たちの様子を見るに、『村へ帰す』と言う選択肢は想定していないようだが――次に行くところが今と同等にいいところであるか、はなはだ心もとない。そもそも兄妹一緒にいられるかどうかも分からない。 (ああ、僕がもっと大きかったらなあ。それで、強かったらなあ。お金があったらなあ。そしたら、誰に頼らなくてもトマシーナの面倒を見てやれるのになあ)  そんなことばかり考えているから、自然眉間にしわがよる。  その背中へ暖かいものが触れた。振り向いてみれば例の貧相な犬である。  この犬は、黒犬からの二度目の手紙を届けてきた後、ずっと施設に(時々ちょこちょこ姿が見えなくなるが)いる。どうやら黒犬からそうしろと命じられているらしい。 「黒犬、元気かなあ」  トーマスは犬の頭を撫でてやる。  犬は尻尾を振り、トーマスの顔をなめた。トーマスは子供らしい笑い声を上げた。 「やめろよ、くすぐったいよ」 ●学園学生寮『レイアーニ・ノホナ』前  カルマ職員【ラビーリャ・シャムエリヤ】と、ドラゴニア教師【ドリャエモン】が話し込んでいる。  話題は保護施設にいる兄妹たちのこと。 「……そうですか。トーマスは、まだ黒犬に信頼を寄せていますか」 「うむ。あまり好ましいことではないが、こういうものは頭ごなしに否定しても仕方ないからの。かえって気持ちをこじらせ、さらに相手に傾倒してしまいかねん。今しばらく静観して……今のところ黒犬も、こちらと交渉しようという気はあるようだからの。手紙なんぞよこしてくるからには」 「……そうですか。ならいいのですけど」  ラビーリャは顎を引き、唇に指を当てる。考え込むように。 「……保護施設はあくまでも、一時預かり所という位置付けです。もちろん黒犬の件が解決する事が前提でしょうが……この先どこへ行く予定になっているのか、はっきり教えてあげなくてはいけないのではないでしょうか。でないと、不安が募ると思うんですよ。孤児院と里親について、当ては見つかりましたか?」  その言葉にドリャエモンは、沈んだ調子で述べる。 「……いや、どちらもまだ、なかなかの。脈がありそうなところは片端から当たっておるのだがの。二人一緒にというのがどうも難しくてな」  太いため息をついて、それから――意を決した表情になる。 「だから、わしが引き取ってもいいかとも思うておるのよ。わしも連れ合いもドラゴニアじゃ。人間より年を取るのが遅い。あの子たちが成人するまで、十分現役でいられるからの」  そこへ突如、馬鹿陽気な声が割り込んできた。 「おっすおーっす! 何話してんだー?」  声の主は、やはりというか学園長【メメ・メメル】。  いつものざっかけない調子でラビーリャたちからあれこれ聞き出した彼女は、こんな提案をしてきた。帽子の庇をちょいと持ち上げて。 「そんならもうその二人、学園に入学させたらどーだ? 寮に入れば衣食住完備されとるし、兄妹一緒にいられるじゃろ。学園は広いからなー、生徒の一人二人三人四人以下無限に増えても全然問題ナッシングだぞ☆」 ●山の中 「よし、これでいい」  【黒犬】は一息入れた。流れ落ちる水の壁を目の前にして。  赤猫に自分の所在情報が伝わったと知った彼は、急いで坑道の入り口を埋め塞いだ。そして別の入り口を作った。  その入り口は滝の裏側に作られている。前の入り口と違い、パッと見ただけでは全く所在が分からない。  ここと元の坑道を繋げるために、山2つぶんほど掘り抜かねばならなかった。予定外のことにえらく時間を食ってしまった、と黒犬は苦々しく思う。  ここならば濡れるのを嫌う赤猫が、おいそれと近寄ってこないだろう――とは思うが念のため、手下共に厳命を。 「おい、周りをよく見張っておけ。猫を見かけたらとにかく追い払え。そして俺に連絡しろ。いいな。それから、学園にいる伝令を呼び戻しに行ってこい」  これから手紙を書かねば。学園からカサンドラを引っ張り出すために。
2020年ハロウィンの乱 鶴野あきはる GM

ジャンル 推理

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 通常

公開日 2020-10-27

予約期間 開始 2020-10-28 00:00
締切 2020-10-29 23:59

出発日 2020-11-04

完成予定 2020-11-14

参加人数 2 / 8
 ハロウィン。  それは、この地域ではとある古代人を起源とし、秋の終わりと冬の訪れを祝う前夜祭。  祭司たちが篝火を焚き、作物と動物を捧げ、火の周りを踊り、太陽の季節が過ぎ去り暗闇の季節が始まるのを祝うのだ。そう、それはさながら生贄を捧げる儀式――。 「トリック・オア・トリィイイイイイイイイイイーーーーート!」  しかし、そんな歴史ある由緒ある祭りを口実に、玄関先に『恐ろしいもの』除けであるジャック・オー・ランタンというカボチャでできたランプを飾り、『恐ろしいもの』の仮装を楽しみ、菓子の争奪戦を行うハロウィンの乱が、今ここに勃発しようとしていた。 ●菓子をよこせ!  儀式や習慣というものは、時代が進むにつれてイベント化されるというのが世の常である。  それがここ、魔法学園フトゥールム・スクエアとなれば、尚更だ。  マントをかぶるだけなど、生温い。プロのデザイナーもビックリな本気衣装。己の種族特性をフル活用した、もしかしたらこの日の衣装が正装なのではないかという仮装。基本的には『恐ろしい』と思われているものが選ばれるハロウィンの仮装だが、現在ではステレオタイプ化された登場人物や物語の敵役、果ては『可愛いから』という理由だけで選ばれる衣装など、そもそも本来の意味合いである『恐ろしい仮装』というより、コスプレ大会のような体をなしている。  そんな(そう、あえて『そんな』と表現しよう)『恐ろしい』仮装をした者たちは、『トリック・オア・トリート!』と叫びながら、菓子を強奪していく。本来は子どもたちが家々を周り、『御馳走をくれないと、悪戯しちゃうぞ!』という可愛らしい酒宴の習慣に似た慣しだった。それがいつの間にかイイ歳した大人たちが目の色を変えて菓子屋の菓子という菓子を買い占め、菓子業界の売り上げに貢献するようになった。  つまり、そう――祭りという名の、あらゆる菓子職人たちが腕を振るうスイーツ祭りである!  約1.6kmに渡り、菓子業界という菓子業界が、この日のためだけに作ったスイーツが列をなし、売り上げを競う。今年も気合を入れているのは、フルーツの最高峰・千箱屋か!? はたまたチョコレート菓子で不動の人気を誇るゴテンヴァーか!?  飛び入り参加も認められているこの菓子ロードは、今年もアツイ戦いを繰り広げる。 ●悪戯しちゃうぞ! 「クックック、貴様にこのリンゴが取れるかな!?」 「何おう、取らいでか!」  菓子ロードの他にも、ハロウィンは余興でいっぱいである。  その中の一つが、『ダック・アップル』と呼ばれるリンゴ食い競争だ。大きめのタライの中に浮かべた丸々1つのリンゴを、手を使わずに口でくわえ取るという、非常にシンプルな遊びだ。1回目で成功した参加者には、美味しいアップルパイが待っているとかいないとか!? 1回目を失敗した参加者には、身の毛もよだつ罰が待っているとかいないとか!? その後、姿を見た者はいるとかいないとか!? 「さぁ、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 『スナップ・ドラゴン』に挑戦しようぜ!」  別の場所では、皿が燃えていた。正確には、皿に盛った干しぶどうにブランデーを振りかけて火をつけているのである。そこから火が消えるまで干しぶどうを素手でつまみ取るという『スナップ・ドラゴン』という遊びだ。ブランデーをかけた干しぶどうは、青い炎で皿を照らす。少し幻想的に見えなくもない、ちょっとした度胸試しのような、大人の火遊びである!  他にも、ハロウィンに因んだゾンビ仮装の行列や、火を掲げた野外ステージでの歌や踊り、人形劇、墓地を描いたベニヤ板の前で記念撮影など、夜明けまで楽しめるイベントが満載だ。  もちろん、中にはお化け屋敷なるものまである。おどかし、脅かされ、目を回し、救護される吸血鬼がいたとかいないとか? 「ハメを外しすぎないようにな……」  素でハロウィンな漆黒のドラゴニア【エイデン・ハワード】も、菓子ロードでの戦利品を片手に、ハロウィンなる祭りを楽しんでいるようである。 ●夜明けの花火 「よーし、こんなもんか?」 「明るいうちに終わってよかったな」  ハロウィンの翌朝、つまり暗闇の季節の始まりとして、この祭りの締めには花火が打ち上げられることになっていた。夜通し行われる祭りで悪霊たちも追い払われるのだが、祭りの最後は花火と相場が決まっている。この日のために、花火職人たちも気合を入れて作ってきた。  魔法で打ち上げられる物もあるのだが、やはり伝統ある花火も捨てがたい。そういうわけで、約300発もの打ち上げ花火が用意されていた。  魔法のものはともかく、伝統ある点火装置による花火を住宅街のど真ん中から打ち上げるわけにはいかない。うっかりすれば、大惨事になるからだ。 「さて、あとは夜明けを待つばかりだなー」 「祭り参加したかったな。見張ってなきゃいけねーもん」 「大トリ任されてるんだ、ぶつくさ言うなって。それに、花火は火薬の塊なんだから」 「わぁかってるよ……あれ?」 「どうし……え?」  二人の視線がある一つの装置に注がれる。  それは花火の最後を飾る大玉『昇り曲付変化牡丹』があるはずの場所だった。 「嘘だろ……20号の花火は70kgあるのに!」  誰がどうやったのか。  そこにはあるはずの大玉花火はなく、嘲笑うような巨大な岩が鎮座していた。  ――Trick or Dead. 悪魔に平伏し、生贄を捧げ、祝いを述べよ。 ニルロド 「運営委員に報告だ! あんなのが街中で爆発したら……!」  花火職人たちは蒼白になる。  誰よりもその危険性を知るからこそ、彼らの動きは素早かった。 「誰か……!」  ハロウィンの長い長い夜が始まる。
ハロウィンナイトは夜明けまで 笹山ぱんだ GM

ジャンル ハートフル

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 少し

公開日 2020-10-22

予約期間 開始 2020-10-23 00:00
締切 2020-10-24 23:59

出発日 2020-10-31

完成予定 2020-11-10

参加人数 2 / 8
●ハロウィンの準備  それはフトゥールム・スクエアにほど近い村のお祭りの話だった。  秋の収穫を祝い、冬のはじまりにやってくる魔物や悪霊を追い払うための行事、それが収穫祭、ハロウィンだ。  起源は昔に遡り、色々あったようだ。だが今は子供たちが魔物の仮装し、近隣の家を巡る。その子供たちにお菓子とハロウィンメダルを渡す、という儀式が行われている。今年もまた、その収穫祭が行われるのだ。  今回フトゥールム・スクエアに話を通してきたのはとある村の村長だ。秋を彩る収穫祭。それを手伝う村人が今年は少ないのだ、という。この村も過疎化が進み、高齢の村人の数の方が多くなってきたのだ。  そこで村長はフトゥールム・スクエアの学生たちへ頼んだのだ。 「……よければ収穫祭の手伝いをしてくれないでしょうか」  そしてその夜の収穫祭。楽しいお祭りが始まる。大人も子供も老人も、楽しく収穫祭の夜を過ごす。それがこの村の風習だ。  この村では村人たちは全員仮装し、騒ぎ賑やかにお菓子とハロウィンメダルを配り歩くのだ。  お祭りの準備をした学生たちもこのお祭りに参加して良いらしい。  その村『ヘーロウ村』は主に農作物を育て生計を立てている村人が多い農村だ。  村人たちはそれぞれの家で育った農作物を削り顔を作る。細かい作業は集中力が入り、これにも手伝いが必要なのだ。  祭りの食べ物も用意が必要だ。この村で採れた南瓜のコロッケはとても美味しいのだとか。他にもたくさんの料理を作り、村人全員で食べるのが風習らしい。  村の飾りつけも大事な仕事の一つだろう。お祭りらしい派手な飾りは場を盛り上げてくれる。学生たちの若き感性も村人たちは歓迎してくれるだろう。  それが終われば夜となり、収穫祭の始まりだ。  各々好きな仮装に身を包み、お祭りを楽しむのだ。美味しい料理を食べてもよし、他の誰かと呑み明かして(未成年はジュース)も良し。  勿論村人たちもお菓子やハロウィンメダルを用意しているので話しかけお菓子とハロウィンメダルをもらってもいい。合言葉は『トリックオアトリート』だ。  お菓子がいい? それともいたずら? 悪戯はしてもいいが……、人を傷つける行為は止めた方がいいだろう。  ヘーロウ村の収穫祭は一晩中行われる。楽しく過ごすのが一番だ。
contraband 桂木京介 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 通常

公開日 2020-10-21

予約期間 開始 2020-10-22 00:00
締切 2020-10-23 23:59

出発日 2020-10-28

完成予定 2020-11-07

参加人数 6 / 8
 木の根にでも乗り上げたか、馬車は縦に大きく跳ねた。  幌車の内も無事では済まない。積み上げられた木箱がかしぎ、ひとつが【ルガル・ラッセル】の足元に落ちている。  この世のあらゆるものを罵る言葉を短くつぶやくと、ルガルは額の脂汗をぬぐった。  ますます効きが悪くなってきやがった。  少しでも気を抜けば一気に戻ってしまいそうだ。  ――獣(けだもの)の姿に。  手を伸ばせば届く場所に例の仮面はある。白く、穏やかな表情をした聖女をかたどったものだ。あれを顔につけ数呼吸もすればたちまち、この苦しみから解放されることをルガルは知っている。  だが仮面に頼りたくはなかった。  かつて仮面の効果は高く、一度かぶれば数日は穏やかな気持ちでいられた。なのに現在ではもって半日、下手をすれば数時間せぬうちに新たな発作が襲ってくる。  少しずつ、少しずつ仮面に異存せざるを得なくなっているのだ。  待ち構えている運命はおそらく二つしかない。  獣か。  隷従か。  燃えさかる石炭の上を素足で歩くがごとく、破壊衝動に灼かれつづける獣人に逆戻りするか。  人の姿ではあれど仮面――それはとりもなおさず仮面の作り手【ナソーグ・ペルジ】とイコールである――に隷従するか。  いずれかを選ぶしかないのだろう。  吐き気を抑えるようにしてこらえる。仮面に伸びそうになる右手首を左手でつかむ。汗がしたたり落ちた。いましばらくだ。いましばらくこらえれば衝動は消える、そう信じながら。 「ルガル」  音もなく幌をめくり、小男が馬車に這い入ってきた。  御者台から器用につたってきたようだがルガルはとくに何も言わない。 「顔色が悪いな。大丈夫か」 「……じき収まる」 「そうは言われてもな」  小男は片目をすがめた。  小男はヒューマンだ。中年というより初老、頭はまことに髪が少なく山芋のようにこぶだらけ、目ばかりぎょろついていて歯並びもひどい。ずいぶんな悪相だ。着ているものも麻の粗衣で風体のあがらぬことこのうえなかった。しかしどことなく愛嬌があるのも事実だった。 「肝心なところで役に立たないようじゃ困るぜ」   男――【アーチー・ゲム】は言うも、ルガルは無造作に手を振る。 「給金に見合う働きはする」  ようやく発作が鎮まりはじめた。ごろりと横たわってつづけた。 「蛟(ミズチ)が数体と言ったな。その程度なら案ずるには及ばん」 「けどよ……」  不審顔のゲムを片手を挙げて制し、ルガルは言った。 「ずいぶんあるな」  背後の木箱を眼で示す。ぎっしりと積み上げられたものだ。これを輸送することが旅の目的である。 「中身は薬草だぜ」 「よく言うぜこの悪党が」  苦み走っていたルガルの顔に皮肉な笑みが浮かんだ。 「ただの薬草運びにこんな危ねぇルートを使うやつがいるかよ。しかも俺みたいな男を用心棒に雇って」  禁制品だろうが、と断じるもそれ以上ルガルは追求しなかった。破格の報奨金に口止め料も含まれていることは百も承知だ。 「悪党? 俺は商人、求められて荷を運んでるだけだ。需要あるところに供給ありさね」  ゲムもクックと喉の奥で笑って、 「それに薬草って言ったのはある意味嘘じゃない。常用性はねぇが痛みや憂さを晴らしてくれる。どうだルガル先生よ、ご所望ならひとつ、格安で譲ってもいいが」 「いらん」 「病気なんだろ? 少しはマシにしてくれるぜ」 「俺の『病気』には効かねえ」  そんなものでごまかせるのであれば苦労しねーよ、と言いながら無意識のうちに、枕代わりにしているザックに手が伸びている自分にルガルは気付いた。  舌打ちして手を引っ込める。  仮面を取り出そうとしていたのだ。  またひとつ、大きく馬車が跳ねた。  しかも斜めに傾いて制止する。 「ちっ……!」  なんだ、と立ち上がろうとしたゲムにルガルは鋭い一瞥をくれた。  人差し指を立て唇に当てる。 「父様(とうさま)!」  ばっと幌がはためき少女が飛び込んできた。剽悍(ひょうかん)と表現したくなる鋭い目つきに赤い髪、よく日焼けしている。右手には弓、背に矢筒があった。 「罠です。車輪が沼に……包囲されています!」 「包囲!?」  娘を押しのけてゲムは幌をはね上げて首を突き出し、すぐに首を戻した。 「マジかよ……やつら、待ち伏せしてやがった」  おい、とゲムが目を向けたときにはすでに、ルガルは片膝立ちの姿勢となっていた。腰の剣も払っている。 「ゲム、てめぇ言ったよな。蛟が出る地域をかすめるかも、って。……なにがかすめるだ馬鹿野郎! 生息地のど真ん中じゃねーか!」 「早く着くにはこれしかなかった」  ゲムは蒼白だ。ルガルは返事を待たずゲムの娘に言った。 「小娘、やつらは何匹だ」 「小娘ではない。あたしには【ヒノエ】って名がある」 「うるせぇ! 何匹だ!」 「三十……はいる。もっとかも」  蛟(ミズチ)は爬虫類から派生したと思しきモンスターだ。顔はトカゲそのもので鱗に覆われ、鋭い牙、そして長い爪を有する。沼沢部に生息し二足歩行し身長は150センチ程度、黒ずんだ灰色でずんぐりとしており、亀のような甲羅を背負っている。  ゴブリンよりは知性があるがコミュニケーションを取るのは不可能に近く、性質はきわめて残忍とされている。  五、六体の小規模集団で行動するのが常だというが、今回ばかりは例外のようだ。複数の部隊が待つところに飛び込んだだけかもしれないが。  ひゅ、と音がして馬車の車体に何かが突き立った。矢だ。 「相手が多すぎる。しかも馬車は動かねぇと来たか」  厄日だな、とつぶやいてルガルは幌に手を掛けた。 「娘、てめえはオヤジを守れ。俺が突破口を切りひらく。そこを抜けて走るんだ」 「積み荷は」  ゲムが口を挟んだ。ルガルは即答する。 「あきらめるんだな」 「やつらを追い払おう! あたしも戦える!」  ヒノエが意気込むもルガルは大喝した。 「くたばる気か! 相手の数を考えろ!」  わかったな! と言って車外へ飛び出さんとしたルガルだが、幌から半身を出したところで身を強張らせた。  ミズチたちが動揺している。一角では戦闘が始まっていた。  見覚えのある制服姿。きらめく刃と魔法。 「フトゥールム・スクエアかよ……積み荷を追ってきたのか」  疫病神め、とルガルは毒づくとゲムに顔を向けた。 「雇い主はお前だ。選べ」 「選べ?」  そうだ、とルガルは言った。 「先に蛟を始末するか、亀どもに乗じてフトゥールム・スクエアを始末するか」
闘え!! 木人拳 正木 猫弥 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-10-23

予約期間 開始 2020-10-24 00:00
締切 2020-10-25 23:59

出発日 2020-10-31

完成予定 2020-11-10

参加人数 2 / 8
「木人10号、起動確認」 「よし、成功だ!」  祭壇に鎮座している木像の瞳に赤い光が点ると、その場にいた人々の間で歓声が上がった。  村人の1人が、用意した水晶玉に両手を乗せて念を込める。すると、デッサン人形のような見た目のその木像は、人が入っているかのような軽快な動きを見せ始めた。 「村長、これで一安心ですね」 「うむ。10体もの『木人』がこうして動いてくれるのは、皆がきちんと祭壇を管理してくれたおかげじゃな。礼を言うぞ」  長い髭をしごきながら、村長の老人が村人達をねぎらう。  ここは『アルマレス山』の麓にある集落の1つ、木こりと木工職人の村『ドレスト』。高級ハチミツで名高い隣村の『ハニーコーム』に比べ、村人達の暮らしぶりはごく慎ましい。  しかし、地味で目立たないドレストの村が、10年に1度だけ大きな注目を集める日がある。  ハニーコームとは反対側の隣村、『ルガルク』と共同で開催する伝統行事『木人武闘会』。世にも珍しい『ウッドゴーレム同士の殴り合い』を一目見ようと、各地から多くの人が押し寄せてくるのだ。 「前回は不幸な事故があったからのう。今回はそんな事のないよう、ルガルクとよく打ち合わせをして――」 「事故だと? よく言うぜ。あれはお前らが仕組んだ事だろうが」  村長の言葉を遮り、祭祀場に乱入してきた若い男。それは、話に出たばかりのルガルク村の村長であった。 「……お主、なぜこんな所で油を売っておる?」  ドレストとルガルク、2つの村の村長が対峙する。村の規模も生業もほぼ同じである両村は、長年に渡るライバル同士の関係にある。 「けっ、相変わらず気に食わない連中だ。この俺自ら、わざわざ報告に来てやったのによ」  口の端を歪めながら、ルガルクの村長が言葉を吐き捨てる。 「報告じゃと?」 「ああ。耳の穴かっぽじってよく聞けよ。俺達ルガルクは、木人武闘会に生身で1名出場させる事にした。……おい、入っていいぞ!」  ルガルクの村長に促され、1人の巨漢がのっそりと祭祀場の入り口をくぐり抜けた。天井に頭をつきそうなその大男には、強面の人相も相まって凄まじい威圧感がある。 「な、何じゃその男は?」 「傭兵の町『バルバグラード』から腕利きを1人雇った。当日はこいつに武闘会に出てもらう。お前達のせいで動かなくなった、うちの木人の代わりにな」 「お、お主。一体何を考えておるのじゃ……?」 「そんなの決まってるだろ? 俺も木人武闘会を盛り上げたいんだよ。ただ……前みたいな事故は起こるかもなあ?」 「ま、待つのじゃ!」  制止も虚しく、大男を引き連れたルガルクの村長は、高笑いを響かせながら祭祀場を立ち去るのだった。 ◆ 「――今からおよそ200年前。アルマレス山の麓に、ゴーレムの研究ばかりを行う変わり者の魔術師がいた。彼がドレスト・ルガルク両村に10体ずつ授けたのが、『木人』と呼ばれるウッドゴーレムだ。伝承によると、この2つの村の間でもめ事が起こると、人の代わりに木人を戦わせて解決を図ったのだという」  魔法学園『フトゥールム・スクエア』の教師が語るのは、奇妙なゴーレムが織りなす2つの村の歴史であった。 「はっきり言って、そのゴーレムに実用性はほとんどない。数日動かすのに森の精気を10年間も充填しなくてはならない上、出せる力はせいぜい一般人と同じ程度だからな」  それでも、魔法適性のない者が木人を操作できるよう、水晶玉に特殊な処理を施した魔術師の技量には目を見張るものがある。  その魔術師が亡くなった後も、2つの村の人々は木人を大切に守り続けてきた。  10年に1度しか使えないものを、実際の紛争解決に使うのは難しい。代わりの利用法として考え出されたのが、村対抗で木人達を戦わせる『木人武闘会』だったのだ。 「競技として木人達を戦わせる事が、一種のガス抜きになったのだろうな。両村は長年深刻な対立をせずに済んだのだが、前回の武闘会で事件が起こった」  木人は頭・胴体・右腕・左腕・両脚の5つのパーツに分類される。その中で、頭だけは替えが効かないのだという。 「詳しい経緯は不明だが、ドレスト側の木人が放った突きが頭部を直撃し、ルガルクの木人の1体が故障してしまったらしい。当然、その木人を操作していた村長の息子は抗議をしたが、トラブルを恐れた当時のルガルク村長は、それ以上の追及を許さなかった」  その時はそれで収まったものの、最近ルガルクの村長が代替わりした事で状況は変わった。 「……今のルガルク村長は、木人を操っていたその息子だ。10年も前の事なのに、まだしつこく根に持っているらしい」  執念深いルガルクの現村長は、動かなくなった木人の代わりに傭兵まで雇い、復讐を果たそうとしている。 「ルガルクの村人達はともかく、村長の木人とその傭兵がラフプレーを行ってくる可能性は高い。状況がさらに悪化すれば、2つの村の全面衝突は避けられなくなるだろう。お前達は木人武闘会にドレスト側の選手として参加し、両村の木人を何としても守り通してくれ。木人を操るか、それとも生身で戦うか。それは各人に任せる。頼んだぞ」  今は悪意を向けられているとはいえ、これ以上ルガルクの木人が故障するような事態は避けたい。それがドレスト村の総意であった。  長い話を終えたその教師は、疲れた表情を浮かべながらも鋭い視線を学生達に向けるのだった。
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