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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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王冠――誘惑 K GM

ジャンル シリアス

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2022-04-04

予約期間 開始 2022-04-05 00:00
締切 2022-04-06 23:59

出発日 2022-04-13

完成予定 2022-04-23

参加人数 3 / 8
王冠――誘惑  真夜中。サーブル城。 ●彼女の願いは  かつてサンルームだった部屋、【赤猫】が取り巻きを集め大騒ぎしていた名残で、空の酒瓶がまだあちこちに転がっているその部屋で、【ラインフラウ】は、ソファに身を沈み込ませていた。  彼女の手の中には、銀色に光るものがあった。  それは小さな剣の柄。鍔も刃もついていない。表面にびっしり、華麗な蔦模様が施されている。細かな文字、数字、文様の集合体である蔦模様が。  ラインフラウは柄を床に置き言った。 「愛してるわ、セム」  柄の上下から刃が――そんなもの収まるはずがないと思えるほどの長い刃が飛び出してきた。  飛び出した一瞬間だけ刃は真っすぐだった。でも、すぐ姿を変える。刀身からぎざぎざの返しが飛び出す。先端が鉤型に曲がる。  これは、なんだろう?  上下に刃がついた形状の武器というのは古今東西あるが、それにしては、あまりにも持ち手が小さすぎる。攻撃にしても防御にしても、使えたものではない。  では、暗器か?  誰かに近づいて、不意打ちをするための。  なるほど、それならありそう――いや、やっぱりおかしい。上下に刃が出てしまっては、殺そうとしたものもまた死ぬことになりかねない。  ああ、そうか、これはそのためのものだ。  相手と自分を同時に殺すためのもの。  ラインフラウは夢見る。冷たい刃を指でなぞって。  これでセムの心臓を貫いたらどんな感触がするのだろう。  彼女は常から死にたくないと言っている。  だから、きっと、殺そうとする自分を恨む。  その瞬間彼女は私のことしか考えていない。その目は私しか見ていない。  そう思うと。  ラインフラウは泣きたくなるような幸福感に満たされる。  セムはあがくかもしれない。どうにか刃を引き抜こうと。  でも駄目だ。見てのとおり、一度刺さった刃は抜こうとすればするほど深く体の中に食い込んでいく。  彼女の肌は蝋のように青白くなっていくことだろう。あふれてくる赤がその上に彩りを添えることだろう。  もちろん自分もそうなる。  お互いがお互いの血に溺れながらこと切れていくのだ。  なんていう美しい光景。考えただけで、ぞくぞくしてくる。  ラインフラウは熱望する。願望が現実となることを。  そうとも、望んでいる。心から。  わたしたちもそうなることを望んでいる。  積み重なる死は呪いを強くしていくから。  わたしたちの望みが満たされるように。  もし今満たされることがなくても、かまわない。わたしたちは待てる。世々続く限り待てる。これからさらに待ち続けるとしても、その時間はたいしたことはない。わたしたちにとっては。  種は芽吹き、根を延ばし、枝葉を広げ、既に実は熟している。  後はもう、落ちるばかり。 ●誘導  【赤猫】がどうにも不審そうな目つきで、じいっと【セム・ボルシア】を見つめている。彼女についていきながら。  セムはそれに気づかない。散歩でもするような気軽さで、暗い地下通路を下りて行く。  その地下通路はいつか彼女が、学園の生徒達と探索した場所だ。  果てなき井戸の奥。サーブル城の底。  あのときはキラーバットが出てきた、しかし今は何も出てこない。  物寂しい灯がぽつりぽつり間を置いて続いているだけの、闇。  常人の視力では先を見通すことなど出来まい。  なのに彼女の足取りは平静で迷うことがない。かつて知った場所を歩いてでもいるかのように。  赤猫が不意に足を止めた。それから、ふうっと唸って後方に跳び、座り込む。  セムは物憂げに振り向き、一人ごちた。なんだか、起きているのに、半分眠っているような目付きだ。 「来ないんですか」  赤猫はうううっと唸って動こうとしない。  セムはゆっくり前を向き、赤猫を放っておいて歩きだした。そのまま闇と静寂に包まれた空間を進む。  タバコに火をつけ吸いながら、会社のことをぼんやり考える。  会社というのは一つの生き物だ。仮に私がいなくなったとしても、私が進んでいた方角に動き続ける。後に誰が来ようとも、そのようになる。ボルジアの名前は残る。  それはそう、間違いない。 「どうしてそう言い切れるんです?」  自分が口から出した問いにセムは、ぎくっと固まった。予期しないタイミングで、他人の言葉を聞いたかのように。  タバコが石の上にポトリと落ちる。くすぶる火が、じじ、と音を立てた。  なぜ私はこんなところにいるんだろう、一人で。  そんな疑問がセムの頭に浮かぶ。  思わず彼女は、暗い天井を見上げた。  そこにあるのは歯抜けの櫛となった、分厚い柵状扉の一部。強大な力によって破壊され、天井近くの部分が残っているだけの。 「……」  見ているうちにそれが、巨大な獣の口に変わる。  炎を吹き出す獣――巨大な犬の口。牙。  猛悪な少女の顔――口の周りが血まみれだ。それが飛びついてきて、自分の喉を食い破る。衝撃と熱さ。すべてが一瞬のうちに閃いて過ぎ去る。  流れ込んできた情報の奔流は、セムに目眩を起こさせた。  無理もない。ローレライならともかく、彼女はただのヒューマンなのだ。しかも一般人である。幻視を受け止める素養はない。  壁に寄りかかり大量の空気を吐く。吸い込む。  喉に手を当てたが、もちろん食い破られてはいない。 「……」  頭を振って彼女は、落ちていたタバコを拾う。火が消えていることに気づき、胸ポケットから発火石のライターを取り出そうとする。  ライターでないものが手に触れた。  取り出してみれば、王冠の指輪。  セムは指輪を握り締め、芒洋と暗がりを見つめる。またさっきの目付きに……起きているのに眠っているような目付きに戻って。  足音がした。  振り向く。  闇の中から出てくる。人の形が。なまめかしくて優雅な、ローレライの女。 「――ラインフラウ?」  ラインフラウは青い目をセムに注いだ。子供を諭すような口調で、言った。 「セム。どうしてここに来たの?」  セムは彼女自身の実感を、そのまま言葉にした。 「……さあ。なんとなく」 「なんとなく、ねえ。それで来られるような場所じゃないけどねえ……ここは」  次の瞬間セムの体は、刃によって貫かれる。  ラインフラウの次の言葉と共に。 「愛してるわ、セム」  大量の血が喉からせりあがってくる。 ●そして  皆は、グラヌーゼに逗留しているセムの様子を見に行った。ラインフラウ同様、どうにも不安定な感じがしてならなかったので。  しかし、彼女はそこにいなかった。ラインフラウも。  聞けば、サーブル城に行ったとのことだった。  こんな真夜中に何の用事で。  不審に思った訪問者は、自分たちもまたサーブル城に行くことにした。  尋常でない胸騒ぎに急かされて。底なしの井戸へ。  しばらく進んだところで、赤猫が一直線に走ってくる。血相を変えて。  フギァ!  赤猫は怒ったような鳴き声を上げ、皆のそばを通り抜け、地上へと逃げていく。  その直後。  暗闇から悲鳴が聞こえた。  セムの。  
さようなら怪獣王女~霊玉のゆくえ 桂木京介 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2022-03-16

予約期間 開始 2022-03-17 00:00
締切 2022-03-18 23:59

出発日 2022-03-24

完成予定 2022-04-03

参加人数 6 / 6
 老人の名を、仮に【ガリクソン】(八十歳)としておこう。  ガリクソンは行商人である。両天秤のかごをかつぎ毎日のように、峠を越えて荷を運ぶ。杉の古木のような細い体だが、身は鉄芯がはいっているようにまっすぐで靱(つよ)い。腰は曲がるどころか若者よりしゃんとしており、よくしなる鞭のようにきびきびと歩む。けれどさすがにこのごろは一息での山越えはきつくなった。なのでガリクソンは途中でいつも、見晴らしの良い中腹にて小休止をとることにしている。  今日も通例通りお気に入りの平らな岩に腰を落ち着けたところで、ガリクソンの顔に笑みがこぼれた。 「いつぞやの嬢ちゃんか」  彼の眼前の茂みから、小さな人影がまろび出たのだった。  十歳くらいの童女(わらわめ)だ。桃色のガウンに金のベルト、やはりゴールドのまぶしいブーツ、頭には王冠が載っている。  ガリクソンは知っている。【怪獣王女】というのだそうだ。本名は略して【ドーラ・ゴーリキ】らしい。  前回彼が遭遇したときとは、まるで様子が異なっていた。前はもっと、大胆不敵の勢いだった。けれども今日の怪獣王女は、塩もみした水菜のようではないか。 「この前は……すまなんだ」  申し訳なさげに王女は言った。以前少女はガリクソンに対し、言いがかりをつけ狼藉をはたらいたことがあった。 「気にせんでいい」  寛大にも老人はそう答えた。 「事情は聞いた。それより探し物は見つかったのかい?」  あるにはあったと王女は言う。 「あのときは本当に、暴れてすまなんだ」  ふたたび深々とドーラは頭を下げたのである。  老人はふおふおと笑った。 「わしも若い時分は荒(あら)くれておったものじゃ。怒ってはおらんよ」  どうして今になって、とガリクソン老人はたずねた。 「パパ上の教えを思い出したのじゃ。自分のあやまちを認めることができるかどうか、それが人間の価値を決めると」 「そうかね」  老人はうなずいたが、今度は笑ってはいなかった。 「……お嬢ちゃん、ひょっとするとあんた、早まったことをするつもりじゃないのか。たとえば、この世からおさらばするとか」  目が光る。老人はドーラの口調からただならぬものを感じ取ったのである。  ドーラが身をこわばらせるのがわかった。 「理由は、後で聞く。相談にも乗ろう」  老人は立ち上がるともろ肌脱ぎ、筋骨隆々たる肉体をさらす。 「じゃがまず、愚行を止めねばなるまい」  ガリクソンの眼前に炎の柱があがった。天に届かんばかりの高さだ。爆発的な熱風にガリクソンは吹き飛ばされ、錐揉みしながら宙を舞う、たっっぷり一秒ののち彼は、十数歩先の地に背をしたたかに打ち付けたのである。 「近づかんでくれ」  ドーラは小さな卵を、何気なく放っただけだった。 「わちきは自分でかたをつける」  老人は彼我の実力差を悟った。無念だが自分にあのお嬢を止めることはできまい。  今自分にできるのは、危機を勇者の学校――フトゥールム・スクエアに知らせることだけだろう。 「嬢よ爺に聞かせよ! 何処(いずく)に向かう!?」 「……ズェスカ」  ドーラは背を向けた。炎のむこうに遠ざかっていく。 ●  店先にさがる提灯(ちょうちん)には、『そば』の文字が筆でしたためられていた。  提灯はやぶれ、あんぐりと口をあけた物の怪のようになっている。  戸を開けたところで内部は無人である。テーブルには灰色のホコリがたまり、丸椅子とのあいだには網のように蜘蛛の巣が張っている。  半人半獣、そう呼ぶしかない男がよろめきながら店に入った。怪異は右半身にとりわけ顕著だ。腕や首は銀色の毛皮におおわれ、右目は狼のそれである。伸び放題の頬ひげが体毛と一体化していた。  男は椅子につまづき、大きな木のテーブルに倒れこむ。  うつろな目で天井を見上げたまま、【ルガル・ラッセル】はかすれ声でうめく。 「このまんまケダモノになっちまうくらいなら」  くたばっちまうほうが、と言いかけて目を閉じる。  長らく食事を取っていない。飢えと体の痛みが、かろうじてルガルに理性をとどめていた。  記憶が定かではない。わからない。どうやってこの地――ズェスカにまでたどりつくことができたのか。  ズェスカはかつての観光地だ。乾燥地帯にあるにもかかわらず天然の温泉が湧き、観光客むけの宿がつらなって小さな街を形成していた。それなりに賑わっていた時期もあった。  しかし時代がすすむにつれ、地道な調査や掘削によって世界各地に温泉地は増えた。ズェスカは都会から遠く、同じ温泉地でもトルミンのような歴史もなく、そもそも温泉以外の目玉にとぼしいこともあって近年は急速に寂れつつあった。  数ヶ月前、その温泉が枯れたことにより街は完全に息の根をたたれた。街の住民はすべて土地を離れ、廃墟だけが残されたのである。  怪獣王女ドーラ・ゴーリキが火の霊玉を入手したのはズェスカの地だ。現在、闇の呪いで獣化のすすむルガルには、どうしても火の霊玉が必要だ。呪いを中和し消し去るためには、無限とも言われる霊玉の魔力を受けなくてはならない。  バグシュタット、トロメイア、フトゥールム・スクエア周辺からレゼント、アルチェにグラヌーゼ……ルガルはドーラの足取りを追った。だがいつも見当ちがいだったり、近づくことができたとしても、すんでのところで追いつくことができなかった。  しかし今度こそ望みはある。ドーラらしき少女がズェスカ近郊で目撃されたのだ。  ここはすべてのはじまりの地だ。ひとめぐりして元に戻ったとも言える。  奪う。  娘から火の霊玉を奪う。  生きるためだ。ことによればひきずり出さねばならないだろう。生温かな血にまみれた心臓を。  自分にそれができるか、まだルガルにはわからない。 ●  最初に言っておく、と【ガスペロ・シュターゼ】は言った。 「私は君を信用していない。エスメラルダ・アロスティア」 「あーら」  魔族【エスメ・アロスティア】はうふふふと笑った。 「結構ですことよ、おばさま」  扇子を口元にあてニヤニヤした表情を隠す。扇子は孔雀柄だがエスメ自身も、クジャクのように派手な身なりである。牡丹と炎柄の真っ赤なドレス、拳ふたつ分ほども高さのあるヒール履き。長い髪はプラチナで、ところどころオレンジのアクセントを入れている。狐のルネサンスだが異様な部分があった。尾が九本あるのだ。 「おば……!」  ガスペロが怒りのこもった目をむけるも、エスメは悠然とこれを受け流した。 「無礼な呼び方はやめてもらおう」 「事実ですことよ」 「無礼だ」 「じ・じ・つっ」  ガスペロは拳をにぎりしめるも、内輪もめする愚を悟ってか行使は控えた。  紫のローブを着たガスペロは、でっぷりと肥った中年女性の姿をしていた。ガスペロの本体は黒い霧のような気体であり、力をふるうためには依代(よりしろ)となる人間の体を乗っ取らねばならない。だが適性のある相手でなければ定着できず、すぐに抜け落ちてしまうのだ。セントリアでの敗北後ようやく見つけた適性のある肉体が、辻占い師をしていたこの女性だったのである。 「……究極の目標は異なるだろう。だが魔王様の復活を目指しているのは同じだ。それまでは、協力しあう必要があると思わないかね?」 「同意しますわ」  強い風が吹いている。黄色い砂ぼこりが舞い、薄黒い廃墟の表面をなでている。    エスメは鼻を動かし、かたむいた家のひとつに視線をすべらせた。戸口が開け放たれている。  軒先に破れた提灯がかけてあった。『そば』と書かれている。
因果干渉魔法ヘラルド 春夏秋冬 GM

ジャンル イベント

タイプ EX

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2022-03-17

予約期間 開始 2022-03-18 00:00
締切 2022-03-19 23:59

出発日 2022-03-26

完成予定 2022-04-05

参加人数 5 / 8
 あらゆるものは変化する。  それは生物だけでなく、世界も変わらない。  なぜなら変化こそが、『存在』に不可欠だからだ。  どれほど広大無辺、無限に『在った』としても、変化なきモノは『無』と同じ。  たとえ無限の魔力で満ちていたとしても、それだけでは何も『存在』することはできない。  ゆえにこそ、『存在』するために世界は変化を求め、受け入れる。  だがそれは――  ◆  ◆  ◆ 「成功してたら、この世界が消滅してましたねー」 「……」  異世界人である【メフィスト】の言葉を、【クロス・アガツマ】は吟味するように聞いていた。 「基本的にー、すでに発生してる法則や結果を消すことはー、矛盾を発生させることになりまーす」 「タイムパラドクスを起こすようなもんだ」  メフィストに続けて言ったのは、一歳児に見える幼児。メフィストと同じく異世界の存在である【無名・一】だ。 「世界法則や結果を消せば、それに関連する物だけじゃなく、連鎖反応で他の物も全部消滅する」 「家を支えてる柱を一本抜いたらー、他の柱も全部崩れるようなものでーす」 「……その例えで言うなら、新しい法則を追加することは、柱が増えるような物だから問題ないと?」  クロスの問い掛けに、メフィストと一は応えていく。 「大雑把には、そういうものでーす。もっともバランスが大事ですけどねー」 「他の柱より飛び抜けて長い柱なら削らないとダメだろ? そういった物は、世界が干渉して対応する。あるいは――」 「調整できる『何か』があったということですねー」 「それが『ヘラルド』だと?」 「そういった役割と能力を持ってるんだと思いまーす」  いま話題に出ている『ヘラルド』とは、元々は魔導書の名前だ。  かつてクロスがリバイバルとなる前、生前に研究していた魔導書である。  魔王の脅威を取り除くため、因果に干渉する研究をしていたのだが、それを実現するために創り上げようとした魔法の名称を魔導書から取って、ヘラルドと名付けた。  それこそが因果干渉魔法『ヘラルド』。  クロスは少し前、自身の存在と千年を超える研究を懸けヘラルドを発動しようとしたのだが、【メメ・メメル】に止められた。  その際、クロスは奇妙な場所に訪れ、少女に見える『何か』と出会った。  メフィスト達が言うには、その少女に見える『何か』との縁がまだ繋がっているのだという。 「とりあえずー、ヘラルドちゃんを連れて来て欲しいのですよー」 「……どういうことだ?」  尋ねるクロスに、一が応える。 「お前がヘラルドと出会ったのは、世界法則が刻まれている場所だ。この世界のルールが記された概念空間であり、世界の根源に近い場所。そこにヘラルドが居るから、連れて来いってことだよ」 「……待て、整理させてくれ。俺が因果干渉魔法を使おうとして訪れた場所が、世界法則が刻まれた場所で、そこに魔法であるヘラルドが居ると?」 「そういうことでーす。今の貴方にはー、ヘラルドちゃんとの縁が繋がってるのでー、それを利用して連れて来て欲しいのですよー」 「何故だ?」 「幾つか理由はありまーす。例えばー、学園長さんの初期化を安全確実にするためとかー、魔王の新生を確実にするためとかー、色々でーす」 「それは、ヘラルドに魔法の補助をさせるということか?」 「そういうことだよ」  一が説明する。 「多分ヘラルドは、魔法が人化した存在だ。大元は魔導書だったんじゃないか? 世界法則に干渉する魔法を使うために誰かが魔導書を作って、それを使って魔法を発動した。その時に発動された魔法は世界の根源に到達し、そこに留まった」 「そこに居る間にー、人化したんでしょうねー」 「それを連れて来いと……出来るのか?」 「出来ますよー」  メフィストが説明する。 「今の所ー、貴方には因果干渉魔法を使った時の残滓が残っていまーす。それをラインにして根源に行って貰ってー、そこに居るヘラルドちゃんを連れて来ればオッケーでーす」 「ただし、お前1人だと無理だから、他にも人を用意して貰う」 「どういうことだ? なぜ俺1人だと無理なんだ?」 「世界に融けちゃうからですよー」  軽い口調でメフィストは言った。 「海に一滴のインクを落としちゃうような物でーす。貴方1人だとー、存在証明が出来ませんからねー。貴方を認識する『誰か』に一緒に行って貰いー、お互いを認識し合うことでー、世界に融けず独立して存在することが出来るのでーす」 「要は1人だと簡単に自我を無くして世界と一体化しちゃうから、複数人で行って来いってことだよ」  一の説明に、クロスは返した。 「それならメフィストと一が同行すれば良いんじゃないか?」 「それは無理でーす。私達はー、貴方達が安全に根源に到達できるよう調整する役に就かないといけませんからねー」 「それ以前に、僕達が根源に到達したら大事だぞ。海に太陽を落とすようなもんだ」 「私達はー、この件では直接には役に立たないってことでーす」 「……俺以外の誰かに、手伝って貰う必要があるってことか」  軽く眉を寄せ考えた後、クロスは尋ねた。 「実行するに当たって、危険や注意点は無いのか?」 「ヘラルドちゃんを見つけ出すまでにー、色々と過去を見たりするかもしれませんねー」  メフィストは言った。 「根源はー、この世界全ての大元ですからねー。この世界の過去が記されているのですよー。なのでー、過去が見えちゃうかもしれませーん」 「多分、自分に関連する過去が見えると思うぞ」  一も口を挟む。 「自分だけでなく、自分と関わり合いのある誰かの過去とか。ひょっとしたら、全く関係ない過去も見えるかもしれない。注意するなら、それぐらいだ。あとは、ヘラルドを見つけたら『名付け』をしろ」 「名前なら、ヘラルドという名がある筈だが」  クロスの疑問に、メフィストと一が応える。 「それは魔法としての名ですからねー。人としてこの世に実体化させるためにー、楔となる『名』が必要なのですよー」 「名を持つことが、存在証明になるからな。それにヘラルドだけじゃ可愛くないだろ」 「ですねー。かわいい名前を付けてあげて下さいねー」 「……名前、ね」  考え込むクロスだった。
王冠――わが道を行く K GM

ジャンル シリアス

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2022-03-18

予約期間 開始 2022-03-19 00:00
締切 2022-03-20 23:59

出発日 2022-03-27

完成予定 2022-04-06

参加人数 2 / 8
●ふたり  サーブル城の間近。  【セム・ボルジア】はタバコをくゆらせ崩れたガーゴイルを見上げている。  これはただの人間である彼女にとって危険な行為だ。城には魔物がいるのだから。  こんなことをしようなんて、彼女自身思わなかったはずだ。少し前まで――【赤猫】と【黒犬】がこの界隈をうろついていた時分には。  だけど今は何の対策も取らず、ここにやってきている。魔物が自分に手を出せないと思っているかのように――いや、彼女自身はそこまで考えていないはずだ。ただ、感じているのだろう。無意識の奥深いところで。魔物は自分がしようとしていることを邪魔出来ないのだと。  明らかに変化が起き始めている。もとい、起きた上で進行している。  そのことを思いながら【ラインフラウ】は、愛しい彼女に声をかけた。 「セム、あなたの呪いにことなんだけどね。少し分かったことがあるの。聞きたい?」  セムはラインフラウに顔を向ける。  鋭くて、ずるくて、抜け目のない、孤独な眼差し。 「ええ、それはもちろん興味がありますね。教えてくださいラインフラウ」 「呪いはね、セム、ノアが協力的な人間を――もっと言えば復活を手助けする人間を得るためのものよ。そう考えれば、これまでのこと、納得いくと思わない? ボルジア家が破格の富を築いたことも、富を分かち合う血族を持たないことも、あなたがグラヌーゼにこだわっていることも」  セムは少し考えた。そうして苦い顔をした。 「私の考えは、ノアに操られたものだということですか?」  ラインフラウは静かに首を振る。 「いいえ、違うわ。グラヌーゼを発展させたいという考え、サーブル城を観光地化したいという考え。どちらもあなた自身から出てきたもの。あなたの生来の資質と、育ってきた環境から導き出されたもの。もっともその両方が、ノアの呪いによって育まれたものだけど。ノアの願いがあなたの願いを呼び覚ましたのか、あなたの願いがノアの願いを呼び覚ましたのか。卵が先か鶏が先かって所ね。どこまで辿っても堂々巡りで、切り離せないの。あなたと呪いは一体よ、セム。どちらか一つに切り離そうとしても、切り離せるものじゃない」  セムはまた黙った。灰色の目が自分自身を探る。  舌打ちしたいような気分だがそれは出来なかった。タバコを咥えているので。 「……そうですか。どっちにしても切り離したいとは思いませんがね」 「そう。どうして?」 「第一に、私、そうしたら死にますでしょう? 違いますか?」  ラインフラウは切なげにセムを見やる。 「違わないわ。その場合ボルジア家は、第二のシュタイン家となる。血族も富もすべてご破算。それが、途中棄権した者へのペナルティ」  セムは遠くを見やった。虚空にヒュウヒュウ風が吹き抜けている。 「私は死にたくないですよ。特に惜しまれる命でもありませんがね。少なくとも、グラヌーゼの事業にメドが立つまでは死にたくないですね」  やだあ、とラインフラウが言った。だだをこねる子供みたいに。 「そういう寂しいこと言わないでよ、セム。あなたが死んだら私も死ぬわよ?」  抱き着いてくる彼女をセムは、特に制止しなかった。少し苦しそうに目を伏せただけだ。 「あなた、すぐそういうことを言う」 「言うだけじゃないわよ。やるわよ」 「そうですね。あなたならやりますね、きっと。私によく似て、目的のためならなんでもやりますから」  ラインフラウはセムに教えなかった。自分がすでに、新たな手段を見つけていることを。  セムと一緒に死ぬ手段。そして久しくともにあれる手段――ノアはそれを成し遂げている。  呪いという形で。 ●道を戻す  グラヌーゼに新たな遺跡――街道の痕跡――が見つかったというニュースが、学園にも伝わってきた。『ホテル・ボルジア』が一帯の調査をしているさい見つけたらしい。きっかけは、学園のいち生徒だったらしいが。荒れ地を歩いているとき、偶然土から露出していたそれにつまづいたとか。  場所が場所だけに聞き流すことが出来なかった学園は、向こうの要請もあったので、早速生徒を派遣した。課題という名目で。  その際教師も派遣した。かねてよりこの問題に長くかかわっている二人、【ラビーリャ・シェムエリヤ】と【ドリャエモン】が指名された。 「……これは、街道の石畳。古いですね、とにかく――千年以上はたってそうです。サーブル城とどっこいどっこいなんじゃないでしょうか」  ラビーリャは一部掘り出された遺跡を見て、即断した。彼女は建築のことに、ことのほか詳しい。だからその見立ては間違いないだろう。 「こんなところに似つかわしくないくらい、立派なものです……これなら、四頭立の馬車だって楽々通れる」  似つかわしくない、という言葉を受けドリャエモンは、茫々たる荒れ地を見回した。 「確かにの。で、この道はどこに続いておると思うかの」  ラビーリャはすっと腕を上げ、サーブル城を指さした。それから荒れ地のかなた――今は穀倉地帯へと続いている場所を指さした。 「城から町の中心へ、繋がっていたんだと思います。もしかしたら複線みたいなのもあるかもしれないですが……ここを通ってノアは、領内を行ったり来たりしていたんじゃないでしょうか」 「領主の専用道路ということかの」 「多分……彼らの治世のやり方を調べた限りでは、領民に開放したとも思えませんし。まあ、城の関係者くらいは通してくれたかもしれないですけど。後は、税を納めるときなんか」  ラビーリャは目を細めて、布を張り巡らした一角を眺める。そこでは発掘作業が続いているのだ。  遠くには別の工事が行われている。陥没箇所の修復、らしいが。  彼女は近くに立っているセムに聞いた。 「あなた、街道を全部掘り出すつもり?」 「ええ。まだ使えそうですから。新しく作るより安上がりですし――そうすることに、問題はありそうですか?」 「……さあ。今のところはそういうものは見いだせないけど、でも、あまり感心しないね。そういうことをするのは。どういう仕掛けが隠されているのか分からないのだし」 「それを見つけるためにも、まずはある程度掘り出してみませんと。もし何かまずいことが起きそうなら、また埋めますよ」  そう言い残してセムは、場から離れて行く。ラインフラウと一緒に。  ラビーリャが聞く。 「どこに行くの」 「地下の湿気が取れたかどうか、確かめに行くんです。一緒に来ますか?」
その、証明 土斑猫 GM

ジャンル シリアス

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2022-03-08

予約期間 開始 2022-03-09 00:00
締切 2022-03-10 23:59

出発日 2022-03-18

完成予定 2022-03-28

参加人数 8 / 8
「これは……」  自身を中心に広がった『陣』に、【リスク・ジム】は息を飲んだ。  最初は、何かしらの魔法陣だと思った。けれど、その認識は型を成す光の中で即座に否定された。  それは、『陣』ではなく『図』。赤い。朱い。紅い。黄昏より昏く。焔より深く。血よりも艶めかしい、深紅の『陰陽図』。 「協力してくれて、感謝デース」  リスクの背後に立った、髭の紳士が言う。おどけた道化の様な、けれど捉え処のない存在感。【メフィスト】と名乗った彼は、別の世界の。其処でなお異端とされる『道化の魔女』と呼称される存在。数多の理と過程を経て、此方の世界に協力する事になった彼。出会ったリスクに焦がれた失せ物を見つけた様な笑みを向け、こう切り出した。  ――その『罪』を、少々使ってみては如何デスかー? 世界の……否さ、若き勇者達の剣の足しに――。  断る理由はなく。  そして、むしろ望む事で。  だから、リスクは此処にいる。 「『饕餮』さんと、封印の止め釘である『八彩災華』の事は御存じデスネー?」  頷く。自分は、その件の為に動いているのだから。 「何ともメンドーな方ですが、今のままおネンネしててもらうには状況が悪すぎマース。魔王さんの件についても。そして……」  ――可哀想なロミオとジュリエットの件にしても――。  『放っておくつもりはないデショー?』と問われ、また頷く。  そう。自分が見たいモノ。如何なる犠牲もない、確かな未来。可能性。  『結構な事デース』。満足そうに言って、道化の魔女は続ける。 「饕餮の封印を縛る止め釘。八彩のうち『赤土』・『蒼火』・『黒風』・『白雷』・『紫水』の五彩が挫かれ、残るは『鈍闇(にびやみ)』・『金光(ごんこう)』・『無彩(むさい)』の三彩。けれど、これ等は特に強力。正味、学園の生徒さん達だけでは重過ぎるデース」 「……犠牲が、出ると?」 「イエース」  軽い道化じみた声。けれど、秘められる真摯さが事の危うさを如実に伝える。 「なので、『助っ人』を呼びマース」 「助っ人……?」 「そうデース。チョー強力な助っ人デース」  一体何を、と問いかけようとした声を飲み込む。メフィストの気配が一変していた。 「『死』は常に『生』と共にありマス」  語る声は厳かにして深淵。空気が、シンと張り詰める。 「故に、『死』を導くには道となる『生』が必要なのデス。絶対的な『死』に抗える、不変たる『生』が」  ザワリ、と揺らぐ。空気が。世界が。怯える様に。 「ミスター・リスク。貴方は正に適任なのデス。己が罪に、己の生を縛り付けた貴方は」  陰陽図が輝く。静かに。何かの存在を、示す様に。 「さあ、頑張ってください」  道化が、告げる。憐れむ様に。    リィイイイ……。    音が、聞こえた。  地の底の。此処でない場所。囁く様な、蟲の声。  視界が覆われた。漆黒の羽と、青い燐。舞い上がる、数多幾多、無数の『蝶』。  襲い来たのは、恐怖。絶望。そして、虚無。違う事なく、かつて身に受けたあの感覚。  心臓に。魂に。爪を立てて這い上がって来るソレは正しく。  ――命を引きずり込む、『死』の気配――。 ――あん――?  苦悶の中で、声が聞こえた。  酷く、不思議そうな。少女の声。 ――何で死なねぇんだ? コイツ――。 ――この人、自分の死を『定めてる』。魂が縛られて、ソレ以外では至れない――。  もう一つ、別の少女。 ――へぇ――。  幼い声が、笑う。 ――そいつは、難儀だねぇ――。  気づけば、舞い飛ぶ蝶の群の中に少女が二人。無羽のエリアルらしき、ツインテール。ルネサンスらしき、ショートカット。  荒い息をつくリスクを興味深げに眺める彼女達に、メフィストが語りかける。 「応じてくれて、感謝しマース。ミス・ディアナ。ミス・レム。そして……」  視線を向けず、恐怖に硬直するリスクの目も逸らさせながら。 「『黒死の虚神・イザナミ』……」  リィイイイイ……。  黒い死を纏った異形の神が、空ろな音で虚ろに答えた。  ◆ 「……此の期に及んで、饕餮の目覚めを促すか……。愚かなり、現世の者共……」  雷鳴の様に猛く、けれど金剛の様に厳かな声が地を揺らす。  目の前に座する異形の巨人を見上げながら、【白南風・荊都】はクフフと笑う。 「まあ、そんなに怒りんせんでくんなましな。あちらにもどうにもなりんせん事情とおっしゃるモノがあるのでありんす」 「……『魔王』の事か……」  『でありんすねぇ』などと言って笑う荊都を胡散臭そうに睨み、巨人は言う。 「脅威に相対するに、別の脅威を持ち出すなど、其れこそが愚の骨頂であろう。其れを手にした者が、悪しき心を持たぬとは言い切れぬ。そも、其の力が人の意に添うモノかすらも伺い知れぬ。何故、其れが……」  二つの顔。四つの眼差しが宙を仰ぐ。かつての惨劇を、憂う様に。 「幾星霜経つとも分らぬのか……」 「ま、其れが『人』とおっしゃるモノでありんすからねぇ」  ――果てに煉獄で嘆く様がまたオツで――。  黄金の眼差しが、ギロリと睨む。内を読まれる伝手はないが、一応体裁は整える。 「まあ、お気に入りんせんなら、しっかり査定して差しあげるがよろしいかと。かの方々が、滅尽の御方様と並ぶに足るかどうか。どの道、打ち釘の一本であるぬしを挫けねば、どうにもなりんせんので。ねぇ……」  眼鏡の奥の目が、クニャリと歪む。まるで、その信念の先に在る悲劇に期待する様に。そして紡ぐ名は、八つの災いにて最強の其れ。 「光の災・『金光の宿儺(ごんこうのすくな)』様――」 「是非も無し」  言って、地響きと共に立ち上がる巨体。四本の手に光が集約し、輝く黄金の剣と化す。背に負った光輪が眩く輝き、閃いた煌めきの落とした影が闇となって蠢き出す。 「来るが良い、今世の守護たる勇者達よ。その理と力を持ちて、此の宿儺を諭して見せよ。挫いて魅せよ。其れすら成せぬのならば……」  輝き渡る金色の光。称える様に、闇が騒めく。 「そも、饕餮と並ぶに足る望み、此れ無しと知れ!」  咆哮。迸る光が、道を造る。かの者達を、此の戦場へ導く運命(さだめ)の導。  鳴動する光と闇。その狭間で、幻想の様に何かが揺らぐ。  『混沌』と言う名の、幻想の扉。其れを見て。 「負ければ恐ろしい魔に喰われ、勝てば怖い魔が起きる。どっちに転んでも、まあオツな御話……。と、おっしゃるか……」  向こうにいる、少女を思い。 「勝てなきゃ、可愛いお姫様は助けられんせんけどねぇ?」  邪の妖女はまたクフフと哂う。  そんな彼女を女性の形成す闇の災、『鈍闇の飛縁魔(にびやみのひのえんま)』が胡散臭そうに斜め見た。  ◆ 「ねえ、レム……」 「何だよ?」  かったるそうな相方に、死憑きの巫女は語り掛ける。 「わたしは、わたしの世界が好きよ」 「知ってる」 「皆が命を賭して守った世界が、大好き」 「ああ」 「この世界の人達は、皆と同じくらい『綺麗』かしら?」 「知らねぇよ」 「わたし達の世界に、来るそうよ」 「だってな」 「汚されるのは、嫌だわ」 「…………」 「だからね、わたしはピエロのおじ様の召喚に応じたの」 「…………」 「見極めるわ。この世界の人達が、大丈夫なくらい『綺麗』かを。そう、例え戦うしかない相手でも……とか?」 「……気に入らなかった、どうすんの?」 「気に入らなかったら?」  クスリと、笑う。 「決まってるじゃない?」 「決まってる?」 「そう、決まってるの」 「……あー、そうだなー」  クスクスクスと、笑い合う。  二人を抱く様に舞う、黒く蒼い蝶の群れ。  リィイイイイイ……。  死が、唄う。
お菓子な魔法薬 留菜マナ GM

ジャンル 日常

タイプ マルチ

難易度 とても簡単

報酬 通常

公開日 2022-03-10

予約期間 開始 2022-03-11 00:00
締切 2022-03-12 23:59

出発日 2022-03-19

完成予定 2022-03-29

参加人数 2 / 12
 空には冬の雲が掛かっている。  通り過ぎて行く人々の会話は、近づいては遠ざかる。  雪に地を覆われる日々を迎え、人々は寒風に携わりながら過ごす事が増えていく。 「むむっ。最近、『レゼント』に訪れる人が減った気がする」  カフェの窓から降りしきる雪を眺めながら、エリアル――エルフタイプの妖精族の女性は声高に懸念材料を口にする。  泡砂糖でできたお菓子のようにふわふわしたストロベリーブロンドの長い髪に、零れ落ちそうなほど大きな瞳はアクアマリンの輝きを放っていた。  そして、何やらコミカルだが苦悶に満ちた表情を刻んだゾンビのぬいぐるみを大事そうに抱きしめている。  外を見つめる彼女の視線の先には、まだほとんど踏み荒らされていない雪が煌めくばかりだった。  魔法学園『フトゥールム・スクエア』。  ここは、学園施設に直結している居住区域『レゼント』。  学園が居住と商売を保証している特別区であり、いわゆる学園都市だった。  レゼントの新歓企画運営委員長であった女性――【ミミル】は学園を卒業した後、様々な過程を経て魔法学園の職員になっている。  しかし、ミミルは現在、ある事実に直面していた。  彼女が学園を卒業してから、レゼントを訪れる人は年々減り続けている。  その事実を危惧したミミルは学園を卒業してからも、多くの人達がレゼントに訪れるように尽力していた。 「……うんうん。この魔法薬で、さらに多くの人達を楽しませる事が出来そうだよ」  ミミルは新たな志を胸に抱いて意気揚々と語る。  その時、彼女の居るカフェを訪れたあなたは、そこで予想外の出来事に遭遇した。  がっ、がたたっ、ばったーんっ。  カフェを出ようとしたミミルが派手に転び、持っていた魔法薬が店内へと降り注ぐ。 「わわっ……今のなし!」  顔を上げたミミルはそう叫んだが、既に遅かった。  魔法薬が降り注いだ店内は大混乱に陥る。  しかも、その魔法薬の効果は思いもよらない、厄介な影響を及ぼす代物だったようで――。
わたしたちの学園はこんなところです K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 通常

公開日 2022-03-03

予約期間 開始 2022-03-04 00:00
締切 2022-03-05 23:59

出発日 2022-03-12

完成予定 2022-03-22

参加人数 2 / 8
●情報更新の時期です  学園のお膝元に位置するレゼントの入り口には、町案内の看板がある。  看板は、だいぶ古びている。色は薄らぎ字は霞み、支えにも一部腐食が見られる。  商店街の店主たちは定期会合で、そのことについて話し合った。 「どうだろう、そろそろあれも作り替えたら。もう出来てから十年、いや二十年はたつだろう?」 「そうだなあ。看板にはない新しい店や場所も、出来てきているわけだし」 「閉店したり、店の名称も変わっていたりとかなあ」  ああだこうだ意見を交わし全会一致で、看板は更新することに決定。  であれば次は、誰にその仕事を頼もうと言う話になる。 「それはもちろん、看板屋に頼めばいいんじゃないか」 「そうしたら間違いはないなあ」 「いや、でも待て。確かあの看板は、学園生徒の製作なんじゃなかったか? いつだったか、親父からその話を聞いたことがあるぞ」 「そうだったのか? なら……続けて学園に頼んだ方がいいか」 「だな。ひとまず話はしてみよう。受けてくれるかどうかは分からないが」  学園はもちろんこの要請を受けてくれた。格好の実習課題になるだろうということで。 ●さあ、みんなでやってみよう  学園。芸能・芸術コース教室。 「……と言うことで、皆には町案内の看板製作をしてもらおうと思う。質問のある子は手を挙げて」  【ラビーリャ・シェムエリヤ】の言葉を受けて生徒達は、はい、はい、と手を挙げる。 「看板はどのくらいの大きさですか」 「ざっと縦2メートル×横4メートル。足がつくから全体的にはもう少し大きいように見えるだろうね」 「素材は?」 「木材だよ」 「画材は?」 「ペンキだね。でも、何か別のものを使った方がいいと思うなら、そうしてくれてかまわない」 「先生、絵を描き込むって出来ますか? 絵をつけた方が分かりやすくなるものもあるかと思うんですけど」 「もちろん出来るよ。そこは皆で工夫してくれたらいい。ただ、あまりごちゃごちゃしないように。情報を簡潔かつ正確に伝えるというのが、案内看板の存在意義だから。町のことをまだ知らない人向けに作られるものだっていうことを、忘れずにね」  生徒達はひとまずレゼントの商店街へ行った。  古い看板を引き取ると共に、組合が作成した更新用資料を受け取る。  それから再び教室に戻り、下書きを始める。 「このお店は、こっちに引っ越したんだって」 「この、旧街道にある『ボーノ』っていう喫茶店は?」 「そこは最近、託児所になったんだよ。もとの店主は亡くなって、今はシルキーが店を守ってるんだ」  看板というキャンバスの広さは有限だ。町にあるものすべての情報を書き込むことは、到底出来ない。だからどうしても省かざるを得ないものが出てくる。その省くものをどれにするかで、悶着が起きる。 「『おいらのカレー』」のお薦めメニューなんて、載せる必要ある?」 「あるよー。お店の看板商品って、重要な情報でしょう」 「だめだめ、そんなのいつ変わるか分からないもの。創業年月日を載せる方が断然いいよ」 「お店にテールが備え付けてあるかどうか、結構重要だと思うんだけど。利便性とか考えたらさあ」  どうもなかなかまとまらない。  そこでこんな意見が出てきた。 「ねえ、どうせなら、初心者向けのガイドブックを作ったらどうかな。案内板に書き込めない分の情報は、全部そっちに回すってことにしたら……」  すると反対意見が出た。 「やだよ。そんなもの作るってなったら。また一から別に準備しなきゃいけないじゃないか。看板製作だけで手一杯なのにさ」  激論が起こりそうになったそのとき、偶然教室の前を、上級生たちが通りがかった。  彼らは中に入って下級生に、ことの次第を聞く。何やらもめている風情であったため。 「へえ、町案内の看板製作ねえ……」 「そういえば、この学校に入学したとき見たことがあったなあ……あれからもう何年になるかなあ」 「その時点で結構古くはなってたよな、確かに」  上級生たちは我と我が身の来し方を思い出し、感慨に耽った。そうして下級生たちに、こんな提案をした。 「じゃあ、私たちがガイドブック作成を請け負おうか?」 「え、いいんですか。これは先輩たちの課題じゃありませんけど……」 「いいんだいいんだ。ラビーリャ先生にはこれから、断りを入れてくるから」  かくして先輩方は下級生たちから、惜しくも掲載から除外された資料を受け取り、図書室へ行く。そこがこういう作業には、打ってつけの場所だから。  「町だけじゃなくて、学園についても色々紹介したいね」 「コラムみたいなのも作ろうか。その場にまつわるうんちくとか、エピソードとか入れ込んでさ」 「いいね、それ」  ガイドブックのタイトルはどうしよう。そうだ、『ゆうしゃのがっこ~ハンドブック』とか、いいのではないだろうか。  学園に入ってからたくさんの出会いがあった。各場所に、忘れ難い思い出が満ちている。  まだ学園を知らない人に、それを伝える手伝いをするというのは、なかなか乙なものだろう。
異世界と協力しましょう 春夏秋冬 GM

ジャンル イベント

タイプ EX

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2022-02-27

予約期間 開始 2022-02-28 00:00
締切 2022-03-01 23:59

出発日 2022-03-08

完成予定 2022-03-18

参加人数 8 / 8
 小都市セントリア。  異世界転移の核となる特異点研究所を中核として、それを隠蔽するための複数の研究所からできた研究都市だ。  研究目的であった『異世界との接続』は現在では安定して使用することが出来るようになっており、それにより幾つかの世界と協力関係を結び始めている。  その内のひとつ。  煉界と呼ばれる世界から、一柱の神が、元創造神を連れてやってきた。 「調子はどうですかー?」 「大丈夫ですわ、おじさま」  エルフタイプのエリアルに見える女性が、異世界人である【メフィスト】に応える。  彼女の名前は【ダヌ】。  メフィストと同じく煉界から訪れていた。  彼女に、特異点研究所の責任者である【ハイド・ミラージュ】が声を掛ける。 「身体の調子はどうですか? 可能な限り変質しないで、こちらの世界に渡れるようにしたんですが」  本来、異世界から訪れた者は、この世界からの干渉を受け弱体化する。  それを出来る限り抑えて転移できるようにしたのだ。 「存在するだけなら、大丈夫よ」  ダヌが、ハイドの問い掛けに応える。 「元々この体は、本体じゃなくて魔力で作った化身だから。全てが魔力で作られている、この世界との親和性が高いの。でも、あまり大きな力を使ったら、その瞬間にこの世界から弾き出されると思うわ」 「その辺の確認もしないといけませんねー。本番の前に実験しないとー」  メフィストの言う実験とは、この世界の生き物を異世界に転移させる実験である。  近い内に訪れるであろう、魔王との決戦。  その戦いの中で、戦えないものを逃がすことで、魔王の力の源となる恐怖を世界から減らそうという作戦を実行する予定だ。  それを実行するために呼んだのが、ダヌである。  彼女は煉界における『八百万の神』と呼ばれる者の一柱。  多くの人々に信仰される内に神格を得た強力な存在である。  特に彼女は、八百万の神のまとめ役に就いている十二柱のひとりなので、他の八百万の神達に指示を出すことが出来た。 「何をすれば良いのかしら? おじさま」  指示を仰ぐダヌに、メフィストは応える。 「口寄せ魔方陣を使ってー、転移門と直結させられないか試してみて下さーい」  メフィストの話によると、煉界における転移術である口寄せ魔方陣を使い、セントリアにある転移門と対象者を直結。  わざわざセントリアに訪れなくても異世界に転移できるようにしたいというのだ。 「人間だと無理ですがー、八百万の神である貴方達が協力すればー、大陸ひとつ分の生き物を一度に異世界転移させることも出来るでしょー」 「出来ると思うわ」  ダヌは、おっとりした声で応える。 「物質を転移させるのは難しいけれど、この世界の住人は魔力で出来ているから。問題なく転移させることが出来ると思うわ」 「ではあとは実践あるのみですねー。そちらは実験するとしてー、甘光は持って来てくれましたかー?」 「ええ。【シャオマナ】ちゃんに、いっぱい貰って来たわ」  そう言うとダヌは、ぽんっという音と共に、大きな瓶を召喚する。 「この中に入っているのが、甘光ですか?」  興味深げに、ハイドは瓶に満たされた黄金の蜜のような物を指先で触れ、舐める。 「ああああああああああああっ!」  舐めた途端、転げ回った。 「あああああああああああ、あまっ、甘いーっ!!」  魂が焼けるような甘さに悶絶する。 「おーう、止める暇も無かったですねー」 「どうしましょう」  メフィストとダヌの2人は、ハイドが落ち着くまで待っていたが、やがて―― 「な、なんなんですか、これ……」  息も絶え絶えな様子で、よろめきながらハイドは尋ねる。 「命の塊みたいな物とは聞いてましたけど、死ぬかと思いましたよ」 「それだけ強力ってことですよー」  メフィストは説明する。  なんでも、生命の権能を持つシャオマナという八百万の神が創り出す甘光は、生命が凝縮されたかのような効能を持つと同時に、魂が焼けるような激烈な甘さをしている。 「今まで口にして平気だったのはー、年がら年中魔術で睡眠やら休息を削り続けてる超甘党な彼ぐらいでしたからねー」 「どういう人ですか……」 「超絶ワーカーホリックですよー。それはそれとしてー、この甘光があればー、蟲を祓うことが出来る筈でーす」 「……呪いで変質させたリバイバル、ですよね?」  ハイドは眉を寄せる。 「今まで何度か学園生さん達が戦ったらしいですけど、それをこれでどうにか出来るんですか?」 「出来まーす。なぜなら蟲の呪いはー、飢えを核としてますからねー。飢えを満たせるだけの生命力の塊である甘光を使えばー、祓うことが出来る筈でーす」  メフィストによると、甘光を用いた食べ物を作り、それを与えることで飢えを満たすらしい。 「戦いじゃなくて、食べ物を使って倒すってことですか?」 「それをする前にー、積み上げられた飢えが形になった蟲を倒しておく必要はありますけどねー」 「本体を覆う蟲を全部倒してから、甘光で作った食べ物を与えて飢えを満たし呪いから解放するってことですね」 「そういうことでーす。ただー、それだけだと消滅しちゃうのでー、そこから新生させますよー」 「どういうことです?」  ハイドが尋ねると、メフィストは説明した。 「つい最近ー、この世界に新しい法則が刻まれたのでー、呪いから解放した後にー、新しく人生をやり直せるようにー、生まれ変わらせるってことでーす」 「出来るんですか?」 「出来るようにしまーす。魔王との戦いでも使えるようにしたいですしねー。その技術を確立するためにー、まずは学園の霊樹に留まっているー、【ツリーフォレストマン】って人の魂を新生させますよー」 「それするのに僕を呼んだってこと?」  幼い声でメフィストに言ったのは、ダヌの足元に居る一歳児。 「あの、この子は?」  ハイドの問い掛けにメフィスト達は応える。 「転生経験者でーす。【ネームレス・ワン】と言いまーす」 「今は【無名・一】だよ」  忌々しげに子供は言った。 「転生者云々で言うならお前もだろ。わざわざ僕を呼ぶ必要あったか?」 「念には念をですよー。貴方と私の転生情報を元にー、新生術式を組み上げまーす。別段貴方はー、サンプル元として突っ立ってるだけで良いですよー」 「やだよ。わざわざ他所の世界に来たんだ、今の僕の身体で、どの程度のことが出来るか確かめておきたいし、手伝ってやるよ」 「できますかー? 貴方まだ一歳児でしょー」 「出来るよ。と言いたいけど、確実にしたいなら、他にも人手は用意しろ」 「そのつもりでーす。学園生達さんにー、助けて貰いましょうー」  ということで、新しい課題が出されました。  内容は、異世界の協力者を手伝って欲しいというもの。  魔王との戦いにも役立つとの事です。  この課題に、アナタ達は、どう動きますか?
春遠からじ~個人面談ファイナルシーズン 桂木京介 GM

ジャンル 日常

タイプ EX

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2022-02-26

予約期間 開始 2022-02-27 00:00
締切 2022-02-28 23:59

出発日 2022-03-06

完成予定 2022-03-16

参加人数 8 / 8
 毎朝毎夕寒いのだ。とても。  教室にはストーブが入っている。両手をかざして火にあたっているのは【コルネ・ワルフルド】だ。 「おっとと☆」  ドアがスライドする音に驚いて、コルネは椅子ごと一八〇度回転して向き直った。 「は……早い登場だねっ!?」  コルネは机の上の資料入れを手にして慌ててペラペラとめくった。探しているのだ。きみの名前とプロフィールを。  きみはいささか恐縮しつつコルネに答えた。うっかりして、と言ったかもしれないし、楽しみなあまりつい、と言ったかもしれない。あるいはもっと別のセリフかも。  いずれにしてもコルネはうんうんと聞いて、資料をめくる手を止めた。 「じゃ、はじめるとしようか♪」  笑顔で告げるのである。 「個人面談を!」  魔王軍の動きが気になる今日このごろだが、フトゥールム・スクエアは学校、例年の個人面談はちゃんとある。  コルネはぐいと身を乗り出す。きみとの距離は机一枚をはさんだだけだ。  なんだか、いい匂いがした。  ◇ ◇ ◇  きみはトレーを持って学食の列にならんでいる。  ローレライ国家リーベラントからの敵対宣言、おなじくアークライト集団との対立は、いずれも望ましい結末に収まった。ベストな解決ではなかったかもしれない、課題も残った。それでも、ベターな幕引きと言っていいのではないか。  以上にとどまらない。異世界、霊玉、魔王軍、学園長【メメ・メメル】の不調……ここ数ヶ月、フトゥールム・スクエアをとりまく状況は本当に目まぐるしい。  それでも学園生活はつづいており、授業もあれば空腹にもなる。当然、ランチタイムもある。  だからきみはこうして、午前中の授業を終えて学食の列にならんでいる。変わらない日常だが、その変わらなさにこそ落ち着く。  カレーにしようか定食がいいか、そんなことをぼんやりと考えていたとき、 「ここのオススメて何やのん?」  背後から呼びかけられ、きみはふりむいてギョッとする。 「来てもた」  はにかみ笑いを浮かべているのは、畏れ多くも(と、あえて書く)リーベラント公女【マルティナ・シーネフォス】ではないか。トレーを手にしてきみのまうしろにいた。 「こういうとこ一度来てみたかってん。なあ、一緒にご飯にせえへんか?」  屈託なくマルティナは言うのだが、きみにとってはなかなかの課題だ。  果たしてきみは、彼女を無事エスコートできるだろうか。  ◇ ◇ ◇  冬来たりなば、と世に言う。春遠からじと。  たとえ極寒の季節であっても、かならず春はやってくるというたとえだ。  フトゥールム・スクエアをとりまく状況は楽ではないかもしれない。けれど打開の未来はあるはずだし、今このときにだって、希望の萌芽は見えているのかもしれない。  個人面談の時間だ。きみと、その人の。  願わくば、春の気配があるものにしたい。  さしむかいで話したい相手は誰だろう。  教師である必要はない。上級生でも、後輩でも。異国からの客人でも。  その人と語り合おう。  あるいはきみの胸の内をあかそう。
【幸便】隠された影と封じられた魔物 根来言 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 通常

公開日 2022-02-18

予約期間 開始 2022-02-19 00:00
締切 2022-02-20 23:59

出発日 2022-02-26

完成予定 2022-03-08

参加人数 3 / 8
 仄かに輝く光を求めて、彼は宙を仰いだ。  幾年眠りについていたのか。その身体は塵が積り、関節を動かす度、嫌な音がする。  瞬きをするだけでも身体は鉛のように重く、声を出す器官からは風だけが漏れ出ているような音のみ。  ―――それでも。  その身体は時間さえかければ、問題なく動くことが出来たらしい。  手足の関節と指の開閉を確かめた後、瞳を動かす。  埃の積もった大量の書物の無事を目視で確かめ、辺りに散らばる魔法具の個数を確認する。  ―――問題なし。劣化以外の傷も、破損もない。では、何故動けるように? 彼は考える。 「……あの忌まわしい獣を、誰かが痛めつけた……と」  掠れるような音を出し、瞬きを繰り返す。  うっすらとではあるが、魔力が少しずつ高まっていく感覚。  ……それは、以前この階層にあった、かつての魔力そのもの。  そして、かの怪物が彼やこの地から奪い取っていたものだろうか。  ―――それから変わったものといえば、その彼を観察するように浮遊する精霊が一匹。  この地はかつて、ガイキャックス一族が栄え、そして衰退を迎えたとある廃屋。  そして、ごく最近魔法学園の生徒達がキメラと呼ばれた怪物と対峙した地下でもある。 「―――アナタは、その誰かの使い魔ですか? ワタシを解放してくれたのはアナタの持ち主、それとも。……とりあえず、アナタの持ち主の元へ案内をお願いしても?」  勇敢なる誰か様へ。  誰ともとれるような曖昧な始まりから始まる手記の中身は、以下の通りであった。  『我がガイキャックス家は、弱き人々を魔王との戦いから守るために封術を造り、そして更なる戦いの激化からも守り抜くために究極の封印術を求め続けた。その全ては魔物を封じ、人々を助けるため。より多くの者が結界を使い、その生を永らえるために。……しかし、その過程に、恐ろしいモノが出来上がってしまった。……この手紙を読んでいるということは、きっと貴方もそれがどういったものなのか、知っていることだろう』。  『年月が経ち、我々は新たな技術を手に入れる。―――異端とも言える、キメラを作る技術。我々の中にはその力を使い、より強く、より扱いやすい魔物を使役し、魔王軍と戦おうとする派閥が現れた。……当然ながら、それはあまりに無謀なことで。彼らは数多くの魔物を生み出した後に、その魔物によって滅ぼされていった。ただ一匹の魔物を除いて』。  『……一番の最悪の災害。幾度も蘇る巨大な魔物【不死鳥】。我々の家紋でもあり、宿命でもある存在だ。その存在を維持するため、特殊な魔力の元で今も生きながらえていることだろう―――』。  執筆者、【ルネ・ガイキャックス】。彼が託した最後の願いは、彼ら一族が最後に残した負の遺産である『不死鳥の討伐』だった。 「不死鳥……。作られた魔物、ふむん」  そして、全てを読み終えた【メメ・メメル】は手紙と交互に来客の姿を見比べる。  中肉中背、ヒューマンであれば見た目は20後半。  所々にひびが入り、左腕が欠けていることを除けば何処にでもいるような特徴のないカルマだ。 「……もうよろしいですか? この子を送り届けましたので、ワタシ、アナタへの要件はもう無いです」 「いやいや~、オレサマの用件がこれからだ」  数日前、メメルの精霊を届けに学園に訪問したカルマの男性。彼は【ブラッド】と名乗り、行方知れずであった精霊を手に、メメルの元に訪れていた。 「手紙とキミの話を聞く限り、キミはガイキャックス家に仕えていた執事。んで、この……『不死鳥』を倒そうとしている。ってコト?」 「はい。おおよそその通りです。それが主人が残した命令なので」  瞬きもせず、淡々と答えるブラッドに、流石のメメルも多少は狼狽える。  どう見ても強者にはほど遠い出で立ち。壊れかけた四肢は、直ぐに折れてしまうのではないかと思えるほど頼りない。 (さて、どうしたものか……) 「ご心配なく、そこまで弱くはないつもりです」 「……ん~、でも心配だな? その不死鳥ってのをオレサマ知らないわけだけど、少なくとも1人で行くのは無謀だと思うぞ☆」 「協力はお断りします。1人の方が効率も良いので」 「随分な自信家のようだな。しかし、1人で相手できるような相手とは思えないんだけど。……もしかして何か秘策あり? とか」 「……まぁ、はい。ですが、悪用されそうですので黙ります」 「えー? そんなこと絶対しないぞ?」 (うーむ、警戒心が強いな、そして頑固! ……正直、不死鳥を倒す前に倒れそうなんだけども)  頑ななその態度に、頭を悩ませる。学園としても無謀な人死は出したくはない。  それにもし失敗すれば、どのような被害がでるかも全く予想できない。  ……まぁそれ以前に現在その不死鳥とやらがどのような状態なのかも知らないわけなのだが。 「……どうしてもワタシを1人では行かせたくはないみたいですね。なら、同行してもいいですよ」  ブラッドは目を伏せ、息を吐く。 「ただし」 「ただし?」  ブラッドは古びた鞄から、本を一冊取り出す。  埃のこびりつき、タイトルすら書かれていない分厚い古書。  ……ただ、タイトルの代わりに刻印された文様が1つ。  ―――不死鳥と、茨の檻。それは正しく、ガイキャックス家の家紋。  それを、大事そうに胸に抱え、彼はメメルを見据える。 「ワタシより強いと、証明してください。それが条件です」
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