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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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【泡麗】Red,Black and Red 桂木京介 GM

ジャンル 日常

タイプ EX

難易度 普通

報酬 少し

公開日 2021-11-23

予約期間 開始 2021-11-24 00:00
締切 2021-11-25 23:59

出発日 2021-12-01

完成予定 2021-12-11

参加人数 5 / 5
 指を交差させパチンと鳴らす。  執務机の隅においやられていた酒瓶が、氷上をすべるように移動した。 「うむ」  酒瓶がぴたりとおさまった場所、それは【メメ・メメル】の手のなかである。メメルは片手でコルク栓を抜き、ウイスキーをとくとくとグラスに注いで、 「ちょっと!」  その手を【コルネ・ワルフルド】に止められた。 「仕事中ですよ!」 「休憩時間だ☆」 「だとしても勤務時間内でしょうがっ!」  コルネはメメルの手からウイスキーをひったくる。 「……オレサマは年中無休の二十四時間勤務みたいなものだがなァ」  ぶつぶつ言いながらもメメルは、グラスに残った琥珀色の液体を愛おしげになめていた。 「このところますます酒量が増えてますよ。もっとお体のことを……」 「知っとるだろ」 「はい?」 「オレサマの『お体』のことなら知っとるだろ? 酒でごまかすしかないんだよ」 「ですが……」  最近急激にメメルが衰え、日に一、二度のペースで発作を起こしていることをコルネも熟知している。魔王軍の動きが活発化してからはじまった現象だ。  発作は一時的な行動不能である。時間は短くて数十秒、長くても数分でしかない。幸いにして公的な場所で発生したことはないため、この事実は教職員にしか知られていないはずだ。  しかもこの発作の頻度が増えつつあり、時間もすこしずつ長くなっているようにコルネは思う。それも、先日リーベラントを訪問し、ローレライとアークライト、両種族の代表と会談を終えてから加速しているような気がしてならない。  メメルの発作にコルネは何度も遭遇した。そのたびに学園長が、二度と動かなくなるのではないかという不安に駆られてもいた。大丈夫だとメメルは言う。でも無邪気に信じる気にはなれなかった。 「それで、午後は出席されるんですよね?」 「何に?」  あきれた、と言うかわりにコルネは、腰の左右に拳をあてた。 「ご自身が呼びかけた芋煮会じゃないですか。先月から言ってたでしょう」  芋煮会というのは、ひらたくいえば屋外で行う鍋パーティだ。サトイモをつかった鍋が一般的なのでこのように呼ばれているが、実際には鍋限定ではなく、バーベキューと同時開催のことも多い。紅葉を楽しみつつの、秋バージョンの花見というおもむきもある。 「本来はもう少し早い時期にすべきが、今年は学園の紅葉が遅れとかなんとかで……」 「そうだったそうだった! つまりおおっぴらに飲めるわけだな、酒が♪」 「学園長はお酒のことしか考えてないんですか!」 「まさか」  おだやかにメメルは言ったのである。 「オレサマがいつも、一番に考えとるのは生徒たちのことだよ。この身よりもな」  メメルは笑顔だったが。いつもの自信満々なスマイルではなく、どことなく愁いのある笑みだった。 「学園長」 「なんだね」 「……ちょっと、感動しました」  コルネの目が、水面に映る月のようにうるんでいる。 「教育者として当たり前のことを言ったにすぎん、いちいちカンドーなんぞしなくてよいぞ♪」  目をごしごしとぬぐって、 「会場は川沿いに準備してます。ではまたあとで」  と学園長室を出ていきかけたコルネだったが、 「でもこれは没収ということで」  ウイスキーのボトルを持っていくことも忘れなかった。 「あー!」 「どうせ芋煮会でたらふく呑むんでしょうがっ!」  ドアがバタンと閉じる。やれやれ昼まで我慢か、と首をすくめていたメメルだが、 「なーんてな♪」  引き出しを開け、新しいウイスキー瓶を取り出したのである。 「まさかもう一本あるとは思わんかったようだな☆」  がっはっはと独り言(ご)ちて封を切ったところで、ドアが内側にカチリと開いた。ウヒャ! タンチョウヅルのような声を漏らしメメルはボトルを隠す。 「こ、これは酒ではなくて薬でな、般若湯と呼ばれてお……うん?」 「あら~?」  闖入者はコルネではなかった。ひょいと伸ばした首はコルネ同様ルネサンス、しかし黒猫のルネサンスだった。二十歳前の少女に見えた。  少女はするりと入ってきて、好奇心に満ちた目で室内をキョロキョロと見回す。  彼女は耳も、長い尾もつやつやした黒い毛並みに覆われていた。肌もチョコレート色である。ビビッドな赤いコートを着ている。 「学園長さんのお部屋って、ここで合(お)うとります?」  羊から狼へ。メメルの目つきは瞬時にして鋭いものへと変わった。 「どうやって入ってきた?」 「学園長さんで? お邪魔します~」 「質問に答えろ!」  メメルが声を荒げると同時に、少女の背後でドアが力強く閉じた。けれど少女は驚くそぶりも見せない。なぞなぞの答でも考えるような顔をするばかりだ。 「どうやって、って……ドアからですけど?」  気分を害した風はなく、ひたすらに戸惑っているような口調だった。 「そのドアにはな、学園関係者以外は開けられないよう魔法をかけてある」 「あっ、それはすんませんでした」  この口調――メメルは見極められない。演技なのか本当なのか。 「どうもごあいさつにうかがいました。えーと、うち、いや私は」 「知っとるよ。リーベラント第一公女【マルティナ・シーネフォス】だろ。というか会ったこともあるわい。十何年か前だけどな」 「でしたっけ?」 「すくなくともオレサマは覚えとる。まあ、チミはずいぶんおチビちゃんだったから、記憶になくても仕方がないが」  それで、とメメルはすこし緊張を解いた口調で述べた。 「公然と学園に敵対宣言を出したリーベラントの王族がなんの用かな?」  どうしても言葉がトゲをおびるのは仕方がないだろう。 「それは」  と言いかけたもののマルティナは硬直する。 「……こんなときに……ッ!」  うめき声をあげメメルが胸を押さえて机に突っ伏したからだ。顔色は蒼白、額には脂汗が浮いている。 「学園長はん大丈夫ですか!?」  回答のかわりにメメルは右手を突き上げた。 「知ったな……! 知った、からには……」  空中から輝く輪が数個たてつづけに降り、マルティナの身を拘束する。 「無事でここを出て行けると思うな……っ!」  通常の相手なら、いや、少々腕におぼえがあっても、ここで完全に身動きがとれなくなっただろう。たとえ発作の最中であったとしても、メメ・メメルの魔法を破れる者は滅多にない。  ところが、 「いやホンマ大丈夫ですのん!? 誰か呼びましょか?」  輪がチリ紙でできていたかのようにあっさりと拘束をやぶり、マルティナはメメルに駆け寄り背をさすった。  学園長の発作が収束したのは十数秒後だった。  あまり上品ではない言葉でしばらく毒づいてから、メメルはいまいましそうに事情を明かした。 「いい土産話ができたろう、チミの兄貴たちに」 「そんなことしまへんて」  だってうち、とマルティナは満面の笑みを浮かべたのである。 「友達つくりにきましてん。学園生の!」  炊煙がゆらぎ鍋が煮え、肉の焼ける香りがただよう。  広大な学園敷地の一角、さらさらと流れる小川のほとりで芋煮会が開催されている。  受付席、と書かれた簡易デスクの向こう側から、 「学外参加のかたは、こちらにご記名をお願いします」  薄手の台帳をとりだし、【ラビーリャ・シェムエリヤ】は羽ペンとともに差し出す。 「こんなもの前はなかったと思うがねえ」  女は露骨に嫌な顔をしたが、ラビーリャはいささかも表情を変えずに言った。 「警備上の措置です」  面倒だねぇとぼやきながら、女はミミズののたくったような字で【シャ・ノワール】と書き入れた。
教える側に回ってみよう 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-11-20

予約期間 開始 2021-11-21 00:00
締切 2021-11-22 23:59

出発日 2021-11-29

完成予定 2021-12-09

参加人数 7 / 8
 魔法学園フトゥールム・スクエアの運動場で、ケンタウロスの女の子と動く若木が駆けっこをしていた。 「負けないんだもん!」 「ん、負けない」  ぴゅーっと2人で走っている。  ケンタウロスの女の子【ツキ】も、動く若木である【フォレストボーイ】も楽しそうだ。  運動場をぐるーっと一周走り、先にゴールしたのはツキ。 「勝った」 「負けちゃったんだもん」  少し遅れてゴールするフォレストボーイ。 「次、なにする?」 「植物園に行くもん」  走ったばかりだというのに、元気よく植物園に2人は向かった。 「大きく大きく大きくなーれだもん」 「大きくなーれ」  温室に植えた枝豆に念じながら水をあげる2人。  時々、踊ったりしている。  少し前、学園生達と関わったことがあったのだが、そこで枝豆を元気にしてあげるための世話の仕方を教わったので、実践していたのだ。 「今日も元気だもん」  芽を出して伸びた枝豆は、枝葉がつやつやしている。  フォレストボーイの魔力の影響か、応援すると植物は、ちょっとだけ元気になるのだ。  枝豆の世話を終えた2人は、次の場所にテクテク歩いていく。  道中、学園生と出会うと―― 「こんにちはだもん!」 「こんにちは」  2人は挨拶していった。  ここ最近、色々な学園生に会う度に挨拶しているので顔を覚えられ、馴染んできている。  魔物であるケンタウロスの女の子と動く若木という珍妙なコンビに、最初は戸惑っていた学園生達であったが、段々と慣れてきていた。  それはツキとフォレストボーイが人懐っこいことも理由だ。  そうなれたのは、2人が学園生達に優しく構って貰えたことが大きい。  子供は特に、周囲の反応に影響を受けるものなのだ。  そんな2人が歩いて辿り着いた先は、霊樹のある場所だった。 「ただいまだもん!」 「おじゃまします」  2人の呼び掛けに、大きな霊樹はざわざわと枝葉を揺らし、まだまだ小さな霊樹はふるふると枝葉を揺らす。 「今日はツキと駆けっこしたんだもん」 「ん、勝った」  ツキとフォレストボーイの2人は、大きな霊樹と小さな霊樹に話し掛ける。  それが2人の日課だ。  2人の話に相槌を打つように、ときおり霊樹は枝葉を揺らす。  そうして話をしていると、大きな霊樹の近くで、ぼんやりと光る玉があるように感じる。 (じぃちゃん)  光る玉を、フォレストボーイは見上げる。  それは光る玉が、フォレストボーイの先代とも言えるツリーフォレストマンの魂だからだ。  少し前、とある学園生が、聞いた者のかしこさを一時的に上げてくれる竜爪笛を霊樹の前で奏でてくれた。  その音色に呼応するように、霊樹の近くに光る玉が浮かび上がり、竜爪笛の音色で一時的にかしこさが上がり、それによる閃きを得たフォレストボーイは、光る玉がツリーフォレストマンの魂だと気が付いた。  それ以来、フォレストボーイは強くなろうと頑張っている。 「じぃちゃんを安心させるんだもん!」  学園の守護者であったツリーフォレストマンのあとを継げるよう、学園や学園生達を守れるようになりたいのだ。  だから一生懸命、駆けっこをしたり枝豆の世話をしたり、他にも学園生の誰かが困っていれば助けられるよう、力を付けられるよう努力している。  そんなフォレストボーイに、ツリーフォレストマンの魂は、何も応えない。  なぜなら魂でしかない今のツリーフォレストマンは、意識も何も無く、ただそこに居るだけの物でしかないからだ。  異世界人であるメフィストが言うには、ツリーフォレストマンの魔力を引き継いだフォレストボーイがいるから、辛うじて留まっているだけらしい。  それを聞いてしょんぼりするフォレストボーイに、なにやらメフィストは考えがあるようだったが、まだ今は動きは無い。  けれどフォレストボーイは落ち込むことなく、今日も今日とて、ツキと一緒に遊びつつ鍛えていた。  そこに、【シトリ・イエライ】が声を掛けた。 「頑張っているようですね」 「こんにちはだもん!」 「こんにちは」 「はい、こんにちは」  元気の好い2人の挨拶に、シトリは微笑みながら応える。 「今日も、走り込みをしていたようですね」 「もっともっと走るもん。いっぱい動けるようになるんだもん」 「成果は出ていると思いますよ。それに楽しんでいるみたいですね」 「楽しいんだもん!」 「ん、走るの、楽しい」 「ツキと一緒だから、1人より楽しいんだもん!」 「うん、楽しい」 「一緒に頑張れるのは、良いことですね」  微笑みながら頷くシトリ。  かつて孤高の研鑚に人生を費やし、けれど今は誰かと関わることで、より多くの物を得たシトリは、子供達にも自分が得た物を分けてあげたくて提案した。 「一緒に頑張るなら、もっと多くの人達と関わると良いと思います。だから、学園生達に教えて貰いませんか?」 「みんなと一緒に頑張るもん?」 「おにーちゃんとおねーちゃん達と遊ぶの?」  期待するように聞き返す子供2人に、シトリは頷いた。 「ええ。それにこれは学園生達にとっても、意味のあることです。教えることで、得られる物もありますからね」  教師であるシトリは、実感を込めて言った。 「課題として、学園生達に出しておきましょう。ツキさんも、一緒に参加しますか?」 「一緒にする。だから、おかあさんに、言ってくる」  そう言ってツキは、フォレストボーイと共に、学園近くでテントを敷いている自分の群れに戻り事情を説明した。 「一緒に、ダメ?」 「いや、構わん。折角だから、他の子達とも一緒に行くと良い。それと――」  ツキの母親であり、百を超えるケンタウロスの群れの首領である【アサ】は、自分と同じ戦士職の大人と視線を合わせた後に続ける。 「私達も参加させて貰おう。学べるものがあれば学びたいし、可能なら戦闘訓練もしたい。まだ借りは返せてないから、その時までに練度を上げておきたいからな」  いま学園の近くに住んでいるケンタウロス達は、学園生達から受けた恩を返すため、二度までは共闘をすると約束している。  それを確かな物にするために、事前に予行練習をしておこうというのだ。 「おかあさんも、一緒?」 「ああ」  アサの応えに、笑顔になるツキ。 「好かったんだもん!」 「うん。よかった」  喜ぶフォレストボーイとツキに、アサは微笑ましげに目を細めるのだった。  それから数日後、ひとつの課題が出されました。  内容は、ケンタウロスの子供達やフォレストボーイ、そして大人のケンタウロス達に、教師役として教えてあげる事です。  普段は教わる側の皆さんですが、今回は教える側に回ってください。  一体どんなことを教えてあげますか?
異世界に行ってみよう 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-11-15

予約期間 開始 2021-11-16 00:00
締切 2021-11-17 23:59

出発日 2021-11-24

完成予定 2021-12-04

参加人数 8 / 8
 小都市セントリア。  異世界転移の核となる特異点研究所を中核として、それを隠蔽するための複数の研究所からできた研究都市だ。  学園生達のお蔭で研究は進展しており、その成果が形になろうとしていた。 「完成です!」 「徹夜した甲斐がありましたー」  セントリア中央にあるドーム型研究所の中で、、研究所責任者【ハイド・ミラージュ】と異世界人である【メフィスト】は、他の研究員達と共に歓声を上げた。 「これでさらに実験が出来ますね!」 「向こう側からの物資も持って来れそうですしー、もっと実験しましょー」  若干ハイテンションになっているというか、マッドサイエンティストっぽくなっていた。 「とりあえずメフィストさんの世界と接続チャンネル繋げてますが、調整すれば他の世界にも繋げられるかもしれないですね」  目を輝かせながら、ハイドは『異世界転移門』を見詰めた。  外観は、ストーンサークルのような見た目をしている。  巨人であるサイクロプスから提供されたアダマント鋼の柱を同心円状に配置し、中央には異世界転移の核となる特異点の鏡を組み込んだ制御柱が、どーんっ! と建っている。  床を見れば、超高密度の術式が刻まれた魔法陣になっており、それにより異世界とこちらの世界を安全に繋げられるようになっていた。 「色んな世界の技術や理論と出会えるかもしれないのはワクワクします!」  今にも『異世界転移門』を発動させようとしているハイドに、メフィストが言った。 「理論上は可能でしょうけどー、下手するとヤッベーのがこの世界に来るかもしれませんしー、リミッターを外して運用するのは止めといた方が良いかもですねー」  メフィストの突っ込みに、ハイドは一瞬固まったあと応える。 「……まぁ、そうですね。手に負えない世界と繋がっちゃうとダメですし」  残念そうに言うが、紙一重の良識で踏み止まった。とはいえ―― 「安全を確保した上での実験は積極的にしていきたいですよね!」  根本が研究者なハイドは、実験そのものは、やる気満々だ。  これにメフィストは賛同する。 「実験は必要ですねー。現状だとー、せいぜい数分から1時間ぐらいしかー、人は転移できませんからねー」  縁が関係してますからねー、などと言ったあと、続けて言った。 「本格的に始動する前にー、学園生に協力して貰いましょー。何かアクシデントがあってもー、対応して貰えそうですしー」 「好いですね! それならついでに、この前と同じく製造したアイテムの実験にも協力して貰いましょう!」  そう言うとハイドは、符を数枚取り出す。 「これなんかは、ほぼ実用化できてますけど、他のはまだまだですし」  言いながら、打ち上げ用に設置していたテーブルに符を置いて、一部を破る。  その途端、美味しそうな料理が現れた。 「どこでも食符。出来立ての料理を封印して、いつでも自由に出せる。便利で良いですよね」  説明しながら、見た目だけでなく匂いも美味しい料理に、ハイドだけでなく他の研究員達も腹が鳴る。  ちなみに現れた料理は、学園の学食で正式採用された物を持って来たものだ。  甘鯛をメインにしたブイヤベースや、ムール貝やアサリにイカやエビを使ったパエリヤに、同じ食材を使ったピラフ。  食べられる花(エディブルフラワー)が彩りとして加えられ、目で見ても楽しめる。  他にも、枝豆を使ったコンソメスープや、魚の燻製と野菜を酢や柑橘の汁であえたマリネと、山菜やハーブのオイル漬けなどなど。  見ていて食欲がそそられる。  なので、寝食を惜しんで頑張っていた研究員達は、次々手を伸ばし食べていく。 「美味い」 「うめぇ」  ガツガツ食べる研究員に、自分の分を取られまいとハイドも手を伸ばす。 「はふ、もぐ――っごく。いやぁ、これ良いですよねー、便利で。他のもこれぐらい実現できてれば好かったですけど、資金面とか色々ありましたからね」  他にも実験的なアイテムは幾つもあったが、スポンサーの確保が出来ていた物だけが、実現が出来ているというわけだ。 「武器の方は、魔力や思考の受け取りを抑制できる機構が完成しないと難しいですし」 「そっちの方はー、私の世界から抑制機構に使える材料を持ってきますからー、どうにかできますよー。魔力探知機もー、使える材料が無いか見繕っておきましょー」  そう言うと、メフィストも料理争奪戦に加わるのだった。  などということがあった数日後。  ひとつの課題が出されました。  内容は、小都市セントリアでの実験に協力して欲しい、とのことです。  異世界に訪れたり、異世界の技術や材料を使ったアイテムの製造に力を貸して欲しいようです。  巧く協力すれば、きっと学園の力にもなる筈です。  皆さんの力を貸して下さい。
天使少女と黒猫のケットシー 七四六明 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2021-11-13

予約期間 開始 2021-11-14 00:00
締切 2021-11-15 23:59

出発日 2021-11-21

完成予定 2021-12-01

参加人数 2 / 4
 ケットシー。  一見すると、ただ一回り大きいだけの猫。  獣人族と妖精族の特徴を真似て作られた魔物ながら、昨今を賑わす歌姫然り、知ってか知らずか飼い猫にしている家も少なくない。  だから学園に迷い込んで来る猫ないし、探して欲しいと頼まれた猫がケットシーだった、なんて事も少なくはなくて。 「ん? あらまぁ」  ベンチで休んでいた【白尾・刃】(しらお じん)の前に、小さな女の子が歩いて来る。  若干人見知りをしてビクリと体を震わせたが、パパの同級生とわかって小さく会釈。誘われるまま、刃の隣に座る。 「パパはまたお仕事か?」 「うん。アリエッタ、おるすばん」 「そっかぁ、偉いなぁ。で、その子はどうしたん?」  ベンチに座った【アリエッタ】の膝に座るようにして、抱かれる猫が一瞥を配る。  ケットシーだと気付いたのはそのときで、刃は視線を交えて腹の内を探ったが、猫のフリを止めるつもりは無さそうで、すぐさまとんだ杞憂だと警戒を解いた。 「こぉてぇで、歩いてたの。アリエッタのとこ来て、ついて来るんだよ?」 「そっかぁ」  黒い毛並みは整えられている気配があるし、翡翠色の双眸も人に慣れていそう。  首輪など付けている訳ではなかったが、どこかで飼われている猫なんだろうなと察した。  時折配られる一瞥が、私を主の元へ返せと訴えているようで、勝手に想像しておいて勝手に生意気だなと思って、勝手にアリエッタに捕まったケットシーに対して、少しだけだがざまぁみろなんて思う刃は、ふと柱の上にあった時計を仰ぐ。 「しゃあない。女の子一人残して行く訳にもいかんし……報酬はシルフォンスから貰うとして……はぁ。そっちは、うちの問題か。なぁ、アリエッタ。その猫は、どこかの飼い猫かもしれん。一緒に、飼い主を探しに行くか?」 「……うん! 行く!」 「そぉかぁ。やっぱ偉いなぁ、アリエッタは。パパに似とるわぁ」  パパに似てる。  そう言われた少女は、嬉しそうにはにかんだ。  血縁関係はないし、彼女が勝手にパパと呼んでいるだけなのだが、それほど彼女の父は、あの不愛想な天使と似ているのか。それとも、純粋に彼に似ている事が嬉しいのか。  まぁ、彼女が可愛らしいことには違いないのだけれど。 「ほな、依頼出して助っ人を何人か呼んで来よか。アリエッタもおいで。人が集まるまで、ビスケットでも食べながら待ってよやないの」 「うん!」  まぁおそらく、このケットシーは放っておいたところで家族の元へ帰れるのだろうけれど、アリエッタが強く抱き締めている辺り、無理に引き離すと泣いてしまうかもしれない。  今はパパも、パパの相方であるカルマもいないので、泣かせたとなると困ってしまうし、そもそも泣かせる気なんてまるでない。  最悪、飼い主の元へはケットシーが勝手に帰るだろう。  後をついて歩くだけでもいいし、とにかくアリエッタが納得出来る別れ方がベストだ。そんなわけで、小さな天使とのケットシーの飼い主探しが、始まったのである。
沖合一本勝負! K GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-11-16

予約期間 開始 2021-11-17 00:00
締切 2021-11-18 23:59

出発日 2021-11-25

完成予定 2021-12-05

参加人数 3 / 8
●嵐の夜に。  とある漁村。  男たちは明かりを手に外へ出る。  叩きつけてくる雨粒で目の前がよく見えない。雨合羽が風をはらみ、ばたばた大きな音を立てる。 「ひどいしけだな」 「ああ。こりゃあ、今晩いっぱい続きそうだ」  港には漁船が繋いである。何かあったら大きな損害だ。波にさらわれないように、もやい綱をきっちり結び直しておこう。  そんなことを考えながら彼らは、通い慣れた道を走って行く。  秋も終わりの雨は冷たく、骨に染みてくる。体から白い湯気が上がる。  港が見えてきた。  ……何やら大きな塊が浮いている。  暗いので詳細が分からないが、毬のように膨らんで丸い。そして黒い。 「おい、なんだえ、ありゃあ――」  それは波にもまれるままに、右へ左へ揺れ動いている。その様子から見るに、どうも生きていないようだが……。 「おい、船にぶつかっちょるぞ」 「いかんな。なんとか港の外に出せんか」  男たちは長い棒を手に手に持ってきて、なるべく船に近寄らせまいと、苦心惨憺頑張った。 「えいくそ、向こうに行け!」 「こっちに来るな!」  しかし風も波もあまりにも強い。  おまけに黒い物はぶよぶよぬるぬるしていて、突いた棒がするりと外れてしまう。  そして……なんだか臭い。  そこに至って皆は、これはもしかして大きな魚か、トドか、セイウチか、そういったものの死骸ではないかと思い始めた。 「なにもここへ流れつかんでよさそうなものをなあ」 「えいくそ、どうしたらええだ」  口々に言い合っていたそのとき、誰かが名案を思いついた。 「ひとまず固定してしまうというのはどうじゃろ? 縄をつけたモリをあれにぶっさしてよ、そのへんの岩や木に端をくくりつけておけば、とりあえず船にぶつからんように出来るんじゃないか?」  なるほど。それはかなり有効そうだ。  ということで皆は家に引っ返し、モリと縄を取ってくる。  黒い塊目がけてそれを投げ付ける。  モリの幾つかが、黒い塊にずぶりと刺さった。 「よーし、うまくいったぞ!」 「引け引け!」  刺さったモリの綱を皆で引く。端をがっちり陸に繋ぎとめる。 「やれやれ、これで何とか、嵐が去るまで持つじゃろ」 「波が収まったら、改めて沖合へ捨てに行くことにしようじゃないか」 「そうだの。こんなものが港にあっては邪魔だし、第一匂いがひどいでな……」 ●翌朝。台風一過。  子供たちは昨晩親達から聞いた話を思い返しつつ、港へ駆けて行く。  いち早く問題の代物――黒くて丸い何か――を見たかったのだ。 「あ、あった!」 「うわあ、ほんとにくっせえなあ」 「なんだろ、これ……」 「でっかい魚が腐ったのだってよ」 「ほら、ヒレみたいなのがある」 「あ、ほんとだ」 「目はどこかな」  皆でわいわいやっているところへ、父親たちが来る。 「こりゃ、お前達離れい。これから捨てにいくのじゃから」  子供たちは散り散りに離れて行く。  といっても興味があるから、よそへ行ったりはしない。怒られないよう距離を取りつつ成り行きを見守る。  父親たちは塊を結び付けた綱を解き、それぞれの船の尻に結び直す。港の外へ引っ張って行くために。 「それにしても、ほんに臭いのう」 「鼻が曲がりそうじゃわ」 「何の魚かね」 「何でもいいさ。こんだけ痛んでたら、食えやしねえんだもの」  やいのやいの言いながら順調に事を進めていたそのとき――突然丸いものがクルッと動いた。  黒い体の両側についていた切れ込みが開く。  散々黄色く濁った魚の目。それが確かに動いた。自分の周りにいる人間を見た。  次の瞬間猛スピードで沖へ出て行く。繋がった小船を引き連れて。 「わ、わ、わ!?」 「大変だ、とっちゃんたち連れて行かれたー!」 「村に知らせないと!」  子供たちは全速力で来た道を戻って行く。助けを呼ぶために。  知らせを受けた村人たちは、これはただならぬ事と、学園へ救援要請を行った。 ●追いかけて。  【ガブ】、【ガル】、【ガオ】及び生徒達は、漁村の人々が仕立ててくれた小船に乗り、沖合に出ていた。正体不明な何かに連れ去られた人々を救助するために。  どこだ、どこだ、どこだ……。 「――おい、あれじゃないのか!」  見つけた。  大きな黒い魚がものすごい勢いで、小さな円を描き泳ぎ回っている。  くっついている4、5隻の船は当然のことながらもみくちゃ。乗っている人間は、今にも振り落とされそうだ。  ガブは首を傾げる。 「何してやがんだ、あいつ?」  それに対して別の生徒が言った。正確なところを。 「もしかして、人間を振り落とそうとしてるんじゃないか?」 「何のためにだよ」 「そりゃ……食うためじゃないか?」  ガブたちはもう一度黒い魚を見た。  腐敗して相当に色が変わっているが……なんだかようく見たら、あの生き物はもしかして……。 「オイ、あれフラッシャーじゃないか!? 腐り過ぎて真ん丸になってるけど!」  その指摘は確かに当たっていたようだ。なぜかと言うに黒い魚が、宙に浮いたから。  漁師が粘るので業を煮やしたらしい。今度は浮いてぐるぐるスピンし始める。何か飛びちった――どうやら腐った肉体の一部らしい。  これにはさすがに持ちこたえられず、6人ばかりの乗員がいっせいに船から弾き飛ばされた。
【天遣】諦観天使は世界平和を願う 春夏秋冬 GM

ジャンル 推理

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-11-10

予約期間 開始 2021-11-11 00:00
締切 2021-11-12 23:59

出発日 2021-11-19

完成予定 2021-11-29

参加人数 6 / 8
「我らの内情が魔王軍に知られている可能性がある、そういうことなのだね」 「はい、お父さま」  父である【テオス・アンテリオ】の言葉に頷いたのは、【セオドラ・アンテリオ】。  少し前、魔法国家ミストルテインの協力を得るため、アークライト達は学園生達と競い合ったのだが、それを魔王軍に関わりがあると思われる『蟲』に見られていた。  さらに、その時に現れた雷の精霊王【イグルラーチ】により、蟲がアークライト達の内部に浸透している可能性があることを示唆されたのだ。 「可能性があるとすれば、【シメール】殿だろう」  アークライト達の活動支援のため資金援助を申し出た『ヒューマン』の商人であるシメールは、アークライト達が学園を掌握した後、学園での権益を融通することで協力体制を築いている。  元々が利害で繋がっていることもあり、最初から警戒していたため信用はしていないが、だからといって露骨に態度で示すことも出来ない相手だ。  少なくとも、現時点では関係を切りたくても切れない状態である。なぜなら―― 「儀式の完成度は、どこまで進んでいるか教えてくれるかい?」 「9割方は終わらせています。ですが残りを完成させるために、まだ資金が必要です」 「まだ手を切ることも出来ない、ということだね……」  テオスは思案する。  自分達、アークライトの使命を果たすためには、外部の協力者は不可欠だ。  そうでなければ、世界を魔王の脅威から守ることは出来ないし、これから生まれてくるアークライト達を『短命の宿命』から解放してやることも出来ない。 「現状を続けるしかないということか……シメール殿も含めて、外部の者に儀式場の場所を気取られている可能性は無いのかい?」 「ありません。我らと、何よりも儀式場の核となられている【オールデン】様により周囲の探知を途切れることなく行っています。そもそも儀式場へは、オールデン様の力を流用した転送魔法で移動しています。具体的な場所は、信頼の置ける少数のみ知っているだけですから、外部から知ることは不可能です」  光の精霊王オールデンの関与を前提に2人は話を続ける。 「仮に魔王軍が我々に干渉しようとしているとしても、それさえ利用してでも計画は進めるべきです」 「……」  セオドラの言葉に、テオスは思案するような間を空けて応えた。 「ミストルテインに協力を求めよう」 「それは……すでにミストルテインは、学園との協力体制に入っています。下手に私達のしようとしていることを伝えれば、学園に伝わる可能性が高いです」 「そうだろうね。だから、学園にも伝わる前提で交渉しよう」 「……学園が知れば、許さない可能性の方が高いです。魔王を完全封印するためとはいえ、霊玉を複数消滅させることになるのですから」 「そうかもしれない。だが我々の内情を、魔王軍が知ろうとしている可能性があるなら、儀式の時期は早める必要がある。なりふり構っていられる状況ではない」 「……分かりました。それなら、私も交渉には参加します。実情をお伝えする為に、それに今まで現場で働いて下さった方達に責任を押し付けてしまわないためにも、私が参加する必要があります」 「……頼むよ」  苦悩を飲み込みながら、テオスは娘に返した。  そのやりとりを、シメールは離れた場所で聞いていた。 「便利なもんだな」 「でしょ~」  セオドラ達が話していた建物から数百メートル以上離れた場所にある建物の屋上で、ころころと笑いながらシメールは言った。 「博士が異世界の技術を調べる中で手に入れた技術をパクってきたのよー。光を当てて、その反射光を使って盗聴するわけ」 「魔法じゃないから気付けない、と。そんなのあるんなら、俺にミストルテインで盗聴させなくても良かっただろ。お蔭で盗み聞きしてるのがバレちまうし」  全身を包帯で覆い着流しを着た【テイ】が非難する様に言うと、シメールは応える。 「アレはアレで良いのよー。アークライト達を焦らせることは出来るし、巧くいけば、アークライト達とアタシ達が繋がっているように見えるでしょ? 不信感でグッチャグチャになってくれればめっけもんじゃない」 「そういうもんかね? それより、どうすんだ? 魔王の完全封印だとよ」 「良いんじゃない。好きにさせれば」 「お前、一応魔王の腹心なんだよな?」 「そーよー。でーもー、別にボスが殺される訳じゃないしー、封印されてくれるんなら、アタシは今まで通り好き勝手に遊べるしー」 「だから放置、と」 「ええ。まぁ、どう転んでも良いようにするけどね。それにしても――」  けらけらと、シメールは笑う。 「憐れで可愛らしいわよねー、あのアークライト達。どのみち自分達は消滅間近だからって、あーんなことしようとしてるんだもの」 「寿命が近いんで、トチ狂ってるだけじゃね?」 「あいつら分かっててやってるから面白いのよー。ローレライ達もそうだけどさー、いいように踊ってくれるわよねー。どう転ぶか分からないけれど、せいぜい利用してあげましょ」  心底楽しげに、シメールは言うのだった。  そしてミストルテインでは、雷の精霊王【イグルラーチ】と、代表議長である【レト・グリファ】が話し合っていた。 「アークライト達から、我々との会談要請が来ました。魔王を完全封印するために力を貸して欲しい、との事です」 「あー、やっぱ、そういうことかー」  雷鳥の姿になって、執務机の上で座り込んでいるイグルラーチは、レトに応えた。 「光の兄弟も限界だろうしな。あの方法を使うなら、少なくとも今以上に魔王の封印は強固になるだろうさ。色々と失うものは多いけどな」 「断りますか?」 「いや、受けてくれよ。その代り、学園も会談の席には呼んでくれ」 「……どういうおつもりですか? 全てを話されるので?」 「んー……そこまではなー。特に魔王が何なのかとか、教えるのはリスクもあるしな」 「我らの国については?」 「任せるよ。そろそろいい加減、レトっち達も先祖がしでかそうとしたことに負い目を感じる必要はないと思うしな。自由になって良いと思うぜ」 「そうかもしれません。とはいえ一歩間違えれば、新たな魔王を創ってしまう所だったのですから、先祖のしでかそうとしたこととはいえ、割り切れる物ではありません」 「それも含めて前に進むためにも、お話をしようぜ」  そんなやり取りがあった数日後、魔法国家ミストルテインで、アークライト達も含めた会談が行われることになりました。  その場に、アナタ達は学園からの代表として訪れています。  アークライト達は、この場に学園生が招かれることを知らなかったようで、最初は動揺していましたが、すぐに落ち着いて自分達の考えを伝えてきます。  内容はどうやら、魔王の完全封印に関することらしいのですが?  この会談の中で、アナタ達は、どう舌戦を繰り広げますか?
天っ誅ぅっ!! 瀧音 静 GM

ジャンル コメディ

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-11-07

予約期間 開始 2021-11-08 00:00
締切 2021-11-09 23:59

出発日 2021-11-15

完成予定 2021-11-25

参加人数 4 / 8
「ピンポンパンポーン。皆様、本日の授業への出席、並びに、課題への参加お疲れ様です」  間延びした声で、校内放送を使いそう告げるのは、【ダヴィヤ・スカーレット】。  勝手に放送クラブを設立し、なぜかメメたんこと【メメ・メメル】学園長から気に入られ、その放送クラブでの活動を黙認されているダヴィヤは、 「最近、学園付近にて不審者の目撃情報が相次いでいます。また、不審火も相次いで確認されています。外出中や課題中に不審者や不審火を見かけた時は、速やかに学園に報告をお願いします」  そう続けた。  途端にざわつく生徒たち。  そうして、生徒たちは身の安全を確保するために、ある者は外出を控え、またある者は不審者を探そうと学園付近のパトロールを開始。  そうした生徒たちの動きを観察する、数人の集団がいることに、ほかの生徒たちは誰も気が付いていないのであった。 *  そして、ダヴィヤの放送の翌日。  学園エントランスの掲示物展示場に、一つの掲示物が張り出された。  その内容は、不審者の情報を入手した。さらに、その不審者が確認された不審火の犯人である証拠も揃っている。  僕らが動けば解決は簡単だけど、どうせならほかの生徒に経験を積ませたい。  この『事件』を解決したい生徒は、明日、日の出と同時に放送室前に来るように――とのこと。  その掲示物を確認し、日の出の時刻にいの一番に到着した生徒たちを待っていたのは、当然の如くダヴィヤであり。 「時間厳守。以上でこの依頼への参加を締め切ります」  と、数人集まったのを確認して宣言し、放送室へと生徒たちを招き入れる。  そうして部屋に入れると、鍵をかけ、ほかの生徒は入れないようにしてしまい。 「放送室というだけあって防音ですし、この場所ならば誰かに聞かれることもありません」  そう前置きした上で、ダヴィヤは、今回の依頼の事について話し始めた。 「今回の不審者、並びに不審火の犯人は、町に住む漁業を営む【フクロ・ダ・タカレーノ】というヒューマンの男性です。年齢は二十代後半。住んでいる場所はここです」  そして一枚の地図を、生徒たちに見せる。  住宅街の外れの方。そこに、星マークが赤く記されていた。 「犯行の動機についてですが、漁業で思ったように魚が捕れなかったり、思ったように売値が付かなかったりとストレスを覚え、その発散の為というどうしようもない理由です」  淡々と、恐らくは文字通りに自らの脚で集めてきた情報を、集まった生徒たちに共有するダヴィヤ。 「また、本人にも魔法の才能はあるようですが、自分に疑いの目が向かないようにするためか、自作の時限式装置を用い、自分が漁に出ている間に放火をしているようです。……この事から、警戒心が強い可能性があります」  自分は安全な所に逃げながら、罪の無い人を不審火で脅かす。  ……とても、許せない卑劣な行為。 「ただ、先程も言った通り彼は普段は漁に出ておりますし、その時間は明朝から夕方まで。その間は、彼の家は無防備となりますし、時限式装置を用いての放火ということで、まだ自分に疑いはかかっていないと思っているはずです。ですので、彼の家に忍び込むのは容易と考えます」  ここで、集まった生徒たちはダヴィヤの言わんとしていることを察した。  犯人が警戒していない今のうちに動かぬ証拠を家で見つけてこいと言いたいのだ、と。  ――だが、 「そこで、皆さんにはこの【フクロ・ダ・タカレーノ】の家に忍び込み証拠をつかみ――」  ここまでは予想通りだったのだが……、 「思いつく限りの罠を設置し、痛めつけて欲しいのです。これまでの放火に苦しんだ方々の思いを、恨みを、その肉体へと刻み込んでほしいのです」  おおよそ予想していたよりも、過激な発言が飛び出してきた。 「そ、それはどの程度まで許されるのでしょうか?」  集まった生徒の一人がダヴィヤに問う。  罠の程度について。いたずら程度か、命を狙うものまでか、と。  それに対しての答えは、 「当然殺してはダメです。ただ、死ななければぶっちゃけ何しても構いません」  というもので、 「そうですね……合言葉を決めましょう」  続いて、ダヴィヤはそんなことを呟くと……。 「生かさず殺さず逃がさず躊躇わず、というのはどうでしょう? 仕掛ける罠の程度を表すのにピッタリです」  と、集まった生徒たちへと笑顔を向ける。  その向けられた笑顔に、背筋が凍るほどの温度の低さを覚えた生徒たちは、首を勢いよく縦に振った。 「では決まりですね。……あ、それからもう一つ。この不審者、不審火に関する依頼は正式に町の人たちから依頼されたもので、決して私の私怨ではありません」  説明は以上、と放送室のドアへと手をかけたダヴィヤは、言い忘れていたと振り返り。 「我々は天が裁きを下すまで待てないとの声により、天に代わって誅するだけです。それをゆめゆめお忘れなきように」  とだけ告げて、放送室の扉を開く。 「日が昇る頃には犯人は仕事に出かけています。ですが、悠長にしている時間もありません。ここからはスピード勝負。それでは、皆様、頑張ってきてください」  そうしてダヴィヤに送り出された生徒たちは、ある者は寮の自室へ、持ち物から罠に使えそうな物を引っ掴み。  またある者は、購買にて罠の材料を購入し足早に。  確認した地図の家を目指し、どんな罠にしようかと考えながら向かう。  その背に、毎朝恒例のダヴィヤの校内放送を聞きながら。
【泡麗】バザールで御座る 桂木京介 GM

ジャンル 日常

タイプ EX

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2021-11-02

予約期間 開始 2021-11-03 00:00
締切 2021-11-04 23:59

出発日 2021-11-10

完成予定 2021-11-20

参加人数 5 / 5
「こんにちは!」  フトゥールム・スクエア教師【イアン・キタザト】はぴょんと手をあげ元気にあいさつした。声は通常より半オクターブほど高めだ。こういう場面では元気が一番というのはたぶん、時代場所に関係なき不変の法則だろう。目尻をさげてにっこにこの笑顔になる。別に意図していなくても、イアンはたいてい笑顔なのだが。 「どうぞ見てってください。まとめて買ってくれるならお安くしますよ!」  いいイメージを作っていきたい。  商品のほうはけっしていいイメージではないから。  そればかりかむしろ、反対方向に強烈なベクトルがかかっているものばかりだから。  リアルな蛇レリーフが巻き付くごつごつした杖、腐った果物みたいな色をした髑髏の置物、握りの部分がトゲトゲで使いづらい血の色のゴブレットに、誰だか不明の幽鬼みたいな女性が描かれた肖像画なんてものもある。お世辞にも趣味がいいとは言えまい。というか全部、持っているだけで呪われそうな気持がする。怖い。  これらはすべて【メメ・メメル】学園長がこころよく寄付してくれた不用品だ。『どれも珍品コレクター垂涎だよチミィ☆』というのが善意の提供者の弁であり、強気の価格設定を提案されたのだが、イアンは『楽しみですね』と愛想笑いだけして、メメルのアドバイスをまるきり無視した二束三文の値札を貼っていた。  だからといって飛ぶように売れるわけではない。それどころか朝からひとつも売れない。もっといえば、足を止めた人があっても逃げていく。  青息吐息のイアンの頭上には、『フトゥールム・スクエア主催☆被災地支援チャリティーバザー』なる横断幕がおどっている。  先日、ズェスカという地域で魔王軍とフトゥールム・スクエアの武力衝突が発生した。霊玉の争奪戦である。同地に湧く温泉の水源は炎の霊玉だったのだ。だが残念ながら霊玉は消失した。魔王軍の手に渡ったのかどうかは不明だが、いずれにせよ奪われてしまったのである。同時にズェスカ地方は、唯一の観光資源を失った。  もともと辺境にあったということもあり、ズェスカはそれほど観光地として隆盛していたわけではない。むしろすでに凋落しきっていて、多くの住民は出ていっており、残る数世帯も移住を考えていたと言われている。着実に沈みゆく難破船の船底に穴があいたようなものだった。  だからといって、それはお気の毒様、ですませられる話ではないだろう。  残る住民の移住費用を捻出するため、学園近郊の都市シュターニャにて、フトゥールム・スクエア主催のチャリティーバザーがひらかれたのである。 「……売れないな」  というか来客がないな、と同じく学園教師【ゴドワルド・ゴドリー】が沈んだ声で言った。ゴドワルドの前には『健康グッズ』として青竹踏みだの肩のツボ押しだの、学園生が作ったイージーなヘルスサポート商品がならんでいるわけだが、売っている張本人が青白い顔色にジトッとした長髪、目の下にクマまでこさえた不健康そのもののルックスゆえ、立ち寄る者は皆無なのであった。 「なんの、バザーはまだはじまったばかりだよ! これからこれから!」  たとえ空元気であろうとも、イアンは前向きになりたかった。けれどゴドワルドはなかば諦め気味で、もともと暗い顔をいとど暗くしてつぶやくのである。 「しかし明日は、もうちょっと商品を増やしたほうがよさそうだな」 「そうだね、学園生からもっと商品の提供をうけたいな!」 「『肩たたき券』とか……」 「誰が肩たたくの?」 「……私だろうな」 「僕だったらその券買わないと思う」 「なら『肩もみ券』にするか」 「そういう問題じゃないよね?」  不毛なやりとりが中断されたのは、どこからともなくぞろぞろと人が集まってきたからだ。老若男女さまざまで、小さな子どもまでやってくる。彼らは、 「バザーだって?」 「楽しみ」  などと口々に言っているではないか。イアンは小躍りして声を上げた。 「ほらゴドー見て! お客さんお客さん! やったよ!」  いらっしゃいませー! と瞳をダイヤモンド・アイにするイアンであったが、世の中そう甘いものではないのである。 「……?」  人々はいずれもイアンとゴドワルドの前を素通りし、その数十メートル先まで歩いて行く。 「……いつの間に!?」  彼らを追ってイアンは絶望的な光景を目にした。  題して『リーベラント主催★被災地支援チャリティーバザー』だ。光沢のある赤い鎧や法衣にみをつつむ見目麗しきローレライの男女がそろって、盛大なバザーを繰り広げているのである。 「そこのお兄さん、リーベラント名産、珊瑚の装飾品はいかが?」   金髪のグラマラスな美女がウインクする。  軽やかな音がした。濃いブルーの髪をなびかせた美青年が、竹笛でメロディを奏でたのだ。 「この竹笛はいい音色だよ。え? 僕が吹いた笛がほしい? 困ったなあ」  他にも珍しい書籍、種類も豊富な武器、炊き出しまであって豪勢なことこのうえない。来客は来客をよび、たちまちリーベラント側のバザーは熱気につつまれた。 「ちょ、ちょっと! バザーをやりはじめたのは僕らが先だよ」  イアンは青年につっかかった。 「なにをおっしゃいます?」  青年――【パオロ・パスクヮーレ】と名乗った――はさわやかな笑みを見せた。 「僕たちはフトゥールム・スクエアの邪魔をしに来たのではありません。ズェスカの状況に心を痛めているのは同じ。むしろフトゥールム・スクエアの趣旨に賛同し、協力したいという気持ちでここにいるわけで」 「でもこれじゃ、うちの存在感なんてかき消されちゃうよ! あてつけみたいに隣で開催するなんて――」 「待て」  とゴドワルドがイアンの肩に手を置いた。 「それ以上言えば、我々のイメージが悪くなるだけだぞ」 「でも」 「私にアイデアがある」  では失礼、とパオロに会釈して、ゴドワルドはイアンを引きずるようにして自分たちのバザー会場に引き戻した。 「で、アイデアって何なのさ」 「実は……リーベラントの手前強がっただけで、特にない」 「ええー!」  大丈夫だ、とゴドワルドは言うのである。 「我々には優秀な生徒たちがいるではないか。彼らに任せよう」 「って生徒任せかーい! ……まあ同感だよ。僕にもアイデアないもの」 「ところでイアン、バザーの語源を知っているか?」  知らない、と言うイアンにゴドワルドは告げた。 「『bazaar』(バザール)だ。古(いにしえ)の言葉だ。『バザーをやるぞ』を昔の人間風に言えば『バザールで御座る』ということになるな」 「うん。それで?」 「……今のはギャグだ」 「え?」 「笑え」 「え?」    チャリティーバザーは明日も開催だ。  むしろ休日の明日こそが本番といっていいだろう。  不要品を集めて売る、それだけのことではあるが、どんなものを売るか、どのように売るかは君たちの手にゆだねられている。飲食の屋台を出してもいいかもしれない。  チャリティーの売り上げを競うというのは不毛かもしれないが、そもそもチャリティーをやりはじめたのは学園、ここで存在感を示しておかなければリーベラントの発言力は増し、学園は今後の活動に支障をきたすおそれがある。  ゆえに諸君よ、いまこそバザーの虎となれ! バザーを制すのだ! バザールで御座れ!
王冠――新たな保護要請 K GM

ジャンル シリアス

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-11-01

予約期間 開始 2021-11-02 00:00
締切 2021-11-03 23:59

出発日 2021-11-10

完成予定 2021-11-20

参加人数 3 / 8
●エスカレーション  大理石の床と、柱と、天井。  四方は壁、窓はない。  そういう場所に私と私の一族がいる。  皆正装している。何か重要な集まりらしい。それにしては手持ち無沙汰に立ったままだが。  お互い無言で、白々しい視線を交わし合っている。  唐突に若い男が倒れた。首が横に折れ曲がっている。その体がたちまち金貨の塊に変じ、澄んだ音を立て床に広がる。  ああそうだ、いとこは階段から落ちて死んだのだった。酔っ払ってということだったが、お酒が飲めない人だった。  女が同じように倒れる。真っ黒に焼け焦げて。  ああそうだ。おばさんは火事で焼け死んだのだった。夏の暑い日だったのに、どうしてか扉だけではなく、窓にもカギがかかっていたのだった。  男が倒れる。びしょぬれになって。  ああそうだ、おじさんはプールで溺れ死んだのだった。泳ぎが得意だったはずだけど。  小さな女の子と男の子が倒れる。うつぶせになった頭が割れていた。  そういえば、双子のめいとおいはベランダの下を通るとき、落ちてきた植木鉢に当たって死んだんだった。あの青銅造りの鉢、金具で固定されていたはずだけど。  どんどん、どんどん、人が金貨に変わって行く。黄金色の光が床を生め尽くしていく。  残っているのは家族と私だけ。  なんてきれい。なんて素晴らしい。これはすべて私たちのもの。  晩餐のテーブルに一同腰掛ける。  乾杯をしてワインを飲む。  途端に胸が焼けた。息が出来ず、目の前が真っ暗になり、床に転がってのたうちまわる。  死んでしまう。皆。  生きているのは私一人。口の中は苦い味でいっぱい。  それを洗い流そうと、もう一度ワインを飲むけれど、何の味もしない。水と一緒。  少しがっかりして回りを見れば。先程以上に金貨が増えていた。  なんてきれい。なんて素晴らしい。これはすべて私のもの。  そんなふうに思って私は、自然と口元をほころばせた。  傍らから声がした。 「お前が最後の勝者か」 「かくなれば、王冠はそなたのもの――」 「最も欲深く、狡く、強運な者よ――お前は祝福を受けるに、相応しい」 ●気掛かりなこと 「――!?――」  【セム・ボルジア】は目を覚ました。  真っ先に見えたのは、至近距離にある【ラインフラウ】の顔。 「セム、どうしたの? うなされてたみたいだけど」  自分がどこにいて何をしていたのか、セムは素早く思い出す。馬車の揺れを感じながら。  先だって行われた、『学園主催・『ホテル・ボルジア』協賛/カサンドラ賞展覧会』。  そこに出品してきた一人の人間に接触してみようと思ったのだ。別件の商談を終えたついでに。 「いえ、ちょっと変な夢を見てね。多分例の絵の影響でしょうけど」 「ふうん。あの絵、そんなに気になる? 確かに、あれは完全な確信犯だと思うけど。ホテル・ボルジアで開催すると分かっている展覧会に、わざわざ主催者をディスりまくる画題を選んでくるとは、相当なタマよね」 「まあねえ……画題にあれを選んだってだけなら、別にどうとも思わないんですけどね。でも、あの絵に描かれているテーブルの配置、椅子の配置、人間の配置が、実際と完全に同じときては、ねえ……」  セムの言葉を聞いたラインフラウは考え深そうに眉根を寄せ、細い指を唇に当てる。 「当時あなたの屋敷に勤めてた使用人とかいう線、ない?」 「それはありません。当時うちに勤めていた人は、もうこの世にいませんから。誰も」 「あら――あなた、何かした?」 「いいえ。私は何も。皆病死ですよ……とにかく関係者はもういません。そもそも年齢が合わない。出品者のウルドは11歳の子供だということですから」 「じゃあ、使用人の子供か孫か……そこいらの線かしらねえ」 「と思うでしょ。でも、調べたら全く違いました。ボルジアとは全く接点がない」 「……そりゃあ不審ねえ」 「ええ」  そこまで言ってセムは、物憂げに口を閉じた。  馬車は走る。森の近くの街道を。  ラインフラウはセムに身を寄せ、顔をのぞき込んだ。 「なんだか寒いわねえ」 「もう冬になりますからね」 「温め合わない?」 「ご冗談を」 「愛してるんでしょ? 私のこと」 「愛してますけど――仕事中です」  突然馬車が停止した。馬がけたたましくいななく。  セムは素早く窓を開け、御者に聞いた。 「何事ですか?」  御者は大声で返す。 「火事、火事です!」  街道の行く手で煙が上がっていた。上り道なので、何が燃えているのかまでは分からない。  御者に命じてセムは、そのまま馬を走らせる。  道を上り切ったところで見えてきたのは、燃え尽きて行く一軒の家だった。  エリアルの老婆が馬車を見て、おろおろと駆け寄ってくる。 「お、おお、助けてください! 中に孫がいるんです! 知らない男たちがいきなり乗り込んできて、うちに火をつけていったんです! 止めようとしてうちの人、殴られて……」  セムは、ラインフラウに耳打ちした。近くに倒れている老人に目を走らせて。 「ここが、絵を描いて寄越した子の家ですよ、多分」 「あらそう。じゃあ、助けなくちゃあいけないわね? 何も分からないうちに、燃え尽きられても困るし」  言うなり彼女は杖をふるった。  空中に水流の渦が生まれた。  水は勢いよく、焼ける家に降り注ぐ。 ●ひとまずは身柄確保  【アマル・カネグラ】を筆頭とする生徒達は、大急ぎで保護施設に向かった。新しく保護を求める人間を、セムが連れてきたのだ。  その人間というのは、先日行われた展覧会に絵を出品した【ウルド】という少年――並びにその祖父母。  理由は定かではないが、家がいきなり暴漢に襲われ焼かれてしまったそうだ。祖父は暴漢に立ち向かおうとして殴られ、大怪我をしている。数日間の静養が必要だろう。 「こんなことになってしまって、ねえ、私たちもうどうしたらいいのか……」  さめざめと無く老婆を、生徒は懸命に慰めた。 「おばあさん、ここに来たからにはもう大丈夫ですよ。おうちの再建も、可能な限りお手伝いしますから」  そんな中ウルドは泣くでもなく怒るでも無く、ちょこんと椅子に(祖父母はエルフタイプだが、彼はフェアリータイプのエリアルなのである)座っている。猫背気味に。  表情は分からない。伸び放題な銀色の前髪に隠れているので。  生徒の一人が彼を気遣って、声をかけた。 「きみ、大丈夫だったかい?」  ウルドはたっぷり間を置いた後、聞こえにくいぼそぼそ声で、こんなことを言い始めた。 「……なあ、保護すんの、じいやんとばあやんだけでええわ……俺、帰るわ……」 「えっ。いや、帰るって言ったってそれは出来ないよ。家は焼けちゃったんだろう」 「……洞穴とか木のうろとかそのへんで寝るわ……俺小さいからなんとかなるわ」  セムが彼に聞いた。 「どうしてそんなに帰りたいんですか?」  彼女の鋭い眼差しに怖気づいたように、ウルドは口をつぐむ。
【王遺】遺跡からの呼び声は誰ぞ  春夏秋冬 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 多い

公開日 2021-10-01

予約期間 開始 2021-10-02 00:00
締切 2021-10-03 23:59

出発日 2021-10-08

完成予定 2021-10-18

参加人数 3 / 8
●古王の目覚め  古から時を刻み続ける古代の遺跡。  その最奥でゆっくりと動き出す存在がいた。  身体は蔦に覆われ、その身は苔生しているがその佇まいは凛としている。  ぼろぼろのマントを翻し、その存在はやっと口を開いた。 「……我らが求めるは闘争なり。今、眠りより覚めしこの時……闘争の宴の開始となろう」  かつては煌びやかであったであろう朽ちた剣を古の【王】が掲げる。  すると剣から光が放たれ、周囲で跪いた状態の石像たちに降りかかった。  次の瞬間、石像たちもまた【王】のように動き出す。  彼らは整列し王の前に跪いた。彼らの身もまた苔生してはいるが経年劣化による欠損はないようだ。  その中でもひと際重厚な鎧を纏った石兵が口を開く。 「我らが王よ、今が【その時】なのでしょうか? 眠りより覚めし我らが……再び覇を唱える王の剣となるその時と」 「是非もなし。者どもよ、外界ではそれなりの刻が経っているだろう。我らに抗する者には事欠かん。まずは情報を集めるのだ、敵を知らねば勝利の美酒は味わえぬ」 「御意、我らの中でも足の速い者を向かわせるとしましょう。ではこれにて」  兵が慌ただしく動き出す様を見ながら石兵たちの王【レガニグラス】は口の端を歪ませ笑みを作る。  それは来たる戦いへの興奮と期待が込められたものだった。 「さて永き眠りについた甲斐があったと思わせてくれ……この時代の強者共よ。我を……退屈させるでないぞ」  大陸一の高山【アルマレス山】。  そこは精霊に愛された土地であり、巡礼者たちが作り上げた町【トロメイア】がある。  そんなトロメイアでは今、町の周囲で見たこともないような石の動く石兵が目撃されたという話が飛び交っている。  現在の所、観光客や住民に被害はなくそれらが敵対的な行動に出てくることは無い。  だがトロメイアの町に居を構える大手商会【キルガ商会】の主【キルガ・レーンハイム】は事態を儲けの好機と見ていた。  そんな彼に依頼として呼び出され、フトゥールム・スクエアの生徒たちは応接間にて彼の話を聞いている。  キルガは酒瓶からグラスにワインを注ぎ、それを一口飲むと意気揚々と話し出した。 「諸君、見たこともない石の兵と聞いてわくわくしないかね? 彼らはどこから来たのか、何が目的か、謎は多い。わしはわくわくしておるとも。わかるか、ロマンというものだよ」  そういったキルガは生徒たちに見えるように地図を壁に張り出した。その地図にはいくつかの点が記されている。 「これはわしの情報網で割り出した奴らの出現場所の印が入った地図だ。どうだ、見て何か気づくことは無いかね?」  キルガに促され、よく見てみれば点はある地点の周囲を囲むように記されていた。その地点はアルマレス山の中腹にあるようだ。 「わかるか、この地点には古い遺跡の入口があってな。昔の土砂崩れで入れなかったんだが……何かあると思ってな。部下を向かわせた所、なんと土砂がどかされていたのだよ。それも内側からなぁ。不思議だろう? 人などいるはずがないのにだ」  グラスの酒を飲み干すとキルガは楽しそうにしゃべる。その瞳はきらきらと輝いていた。 「ぷはっ、そのまま調査をしてもよかったんだが遺跡の入口には例の石兵がうろついていてなぁ。念の為、腕に覚えがある者を調査隊として送ろうと考えたのだよ。それで頼みとなるのが君たち、というわけだ」  彼が言うには遺跡の内部調査をしてほしいとのこと。  観光に使えるようなら良し、危険性のある魔物などの生物がいる場合は討伐も視野に入れて欲しいようだ。 「ああ、そうだ。中で見つけた物は自由にしてくれて構わんぞ。学園に持ち帰って君たちの糧にしてくれ。古代の遺物など、わしらが持っているよりもその方が有効活用できるだろうからなぁ」  こうして生徒たちは古代遺跡の調査を依頼として請け負ったのである。  アルマレス山中腹。遺跡付近。  生徒たちは地図を頼りに件の遺跡の付近にて身を潜めていた。  ここまで石兵に遭遇することは無かったが、遺跡が見えてきた途端に石兵を多く見かけるようになったのだ。  彼らはまるで遺跡を守るかのように布陣しており、その様子はさながら警備兵。守りは厚く、衝突は避けられないように見える。  ふと、生徒たちの頭の中に声が響き渡った。  それはか細く、そして透き通った声で小さな少女のもののようだ。 (来て……お願い……私を……ここから……解き放って……誰か、私を……私を……)  声は次第に小さくなり、ついには聞こえなくなった。  なぜだかわからないがその声の主は目の前の遺跡の中にいる、そう生徒たちは感じ取る。  そして彼らは小さな助けを求める声に導かれるまま、遺跡へと足を踏み入れるのであった。  遺跡に足を踏み入れ、石兵たちと生徒たちは剣を交える。  交戦に入った石兵は腰のほら貝を吹いて敵襲を知らせた。ほら貝の音が遺跡に響き渡る。 「敵襲ーーーッ! 者ども、であえであえーーッ!」  石造りの太刀を抜いた石兵たちが遺跡の入口を守るように展開する。その後方には弓を構えた兵の姿も見えた。  弓矢の雨を潜り抜け、石兵と衝突する生徒たちの頭にはまた少女の声が響く。 (お願い……どうか……もう、こんなことは、嫌、なの……お願い、私を……解放して……早く……)  遺跡の最奥で待つのは何者か。  彼らを呼ぶ少女の声の正体は。  真相の全ては、昏い遺跡の奥に眠っている。
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