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言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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覚えてる 土斑猫 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2022-02-14

予約期間 開始 2022-02-15 00:00
締切 2022-02-16 23:59

出発日 2022-02-25

完成予定 2022-03-07

参加人数 7 / 8
 其はシステム。  一つの種が突出して繁栄し、調和を瓦解させる事を防ぐ世界の自己管理機構。  存在理由はただ一つ。  『喰らう』事。  飢えでもなく。  乾きでもなく。  美味による悦楽も。  捕食恐怖による君臨すら動機には無く。  ただただ、喰らい続ける永久機関。  永劫の時の果て。知恵を得、理性を得ても。その本質は不変。  乱れぬ思考と冷淡なる理の元、万物万象を喰らい続ける様は正しく『魔』。  恐怖と羨望。畏怖の果てに統べしは『奈落』。  強大なる魔王に傅かず、ただ我道を歩む六種の王が異端にて一柱。  示す号は『滅尽覇道』  名は。  ――『饕餮(とうてつ)』――。  ◆ 「ちょっと、いいかな?」  その声に、人気のない路地を歩いていた二人は振り向いた。  立っていたのは、一人の男性。黄昏に染まった眼鏡のせいで、その表情はうかがい知れない。 「怪しい者じゃない。証明する事は出来ないけど、どうか信じて欲しい」  顔を見合わせる二人。少年の方が、促す様に男性を見る。意図を察した男性は、『ありがとう』と言って切り出す。 「学園の生徒さんが連れ去られた。『饕餮(とうてつ)』の贄として」  少女の方が、目を細める。ソレだけで、全てを理解したかの様に。 「力を、貸してあげて欲しい」  此方もソレを理解し、話を続ける。 「件の生徒さんは、既に『混沌』の封印領域に取り込まれている。こじ開ける為には、止め釘である『八彩災華(はっさいさいか)』を倒さなきゃいけない。けど、八彩は強力だ。特に、残りの5体は……。だから……」 「ソレを成せば、饕餮が起きる」  遮る様に、少女が言った。 「饕餮は危険なモノ。他の六種の様に、人理に律した価値観を持たない。解放して枷が外れれば、最悪全てが捕食対象になる」  少年も言う。 「確かに、脅威の規模であれば魔王が強大。けれど、食われるウサギにとって相手が獅子であろうと狐であろうと、結果に差異はない」  全てを理解していると言う風に頷き、男性は返す。 「それでも、魔王を倒す為には必要な力なんだ」 「それなら……」  少女の瞳が、妖しく光る。青い、蒼い、炎の煌めき。 「贄と選ばれた娘を、そのままに」 「…………」  沈黙する男性。二人は説く。 「かの娘が選ばれたは、偶然ではなく必然」 「かの娘が身を捧げれば、正しく饕餮はその業を潜めよう」 「純たる相互利益の為に、敵たる魔王に牙を向けよう」 「其方達と共に」 「顕界全ての命運と、只一人の娘の未来」 「比べる意は?」 「犠牲無き平和は、空なる理想」  そして、二人はまた男性を見つめる。  しばしの沈黙。やがて、男性は再び口を開く。 「僕も、以前はそう思っていたよ……」  眼鏡の奥の瞳が、宙を仰ぐ。遠い、いつかを。 「平穏に溺れて、下らない身内の権力争いに終始する同僚達に絶望して……」  苛立つ様に、ガシガシと頭を掻く。きっと、今でも割り切れない感情。 「こんな事では本当の危機の時に対応する事なんて出来ないと思って……それなら、本当の危機に晒されれば真剣になってくれると思って……」  言葉は、ソコで途切れる。苦渋と後悔に満ちたソノ顔を、黙って見つめる二人。 「でも、気づいたんだ。気付かされたんだ。本当の危機の前には、ちっぽけな人間なんか散り屑同然の力しかなくて、ソレを招けば沢山の命が犠牲になって、そんなモノの上に成り立つ平和なんて、やっぱり屑同然の僕の、醜悪な自己満足に過ぎなくて……」  自身の言葉の意味を噛み締める様に目を閉じる。そして。 「でも、僕はまだ信じたい」  再び開いた目には、確かな意志の炎。 「道はあると。どんな悲しい犠牲もださす、辿り着ける答えがあると。そして僕は……」  見つめる空の先には。 「ソレを、彼らに託すと決めた」  そして、もう一度二人に願う。 「だから、どうか。対価が必要と言うのなら、僕が……」 「対価は、もう貰ってる」  遮った言葉に、男性がハッと目を見開く。  能面の様だった少女の顔は、優しく綻んでいた。 「あの子達は私達を助けてくれた。永の苦しみと悲しみから救ってくれた。対価を払うは、私の方」  そう言うと、隣の少年に問いかける。 「よろしいでしょうか? 『阿利人(ありひと)』様」 「『清姫(きよひめ)』を救ってくれた御仁方の為だ。何故、異など唱えようか」  秒の間すら置かぬ答え。笑い合う、二人。 「ありがとう。教えてくれて」  男性に御礼を言って、踵を返す。 「ありがとう……」  呟く声に、手を振って。  夕日の中に歩いて行く二人。手を繋ぐその影が、ユラリと揺れる。陽炎の様に溶け合う二人。その揺らめきが、朱日の中で尚蒼く燃え上がり。  蒼珠の焔玉が空へと昇る。夜天を駆ける流星となって、遠い彼方へと飛んでいく。いつか交わした、愛しい絆に答える為に。 (あの娘、好きな人がいたよ) (なら、返してあげないと) (貴方みたいに) (君みたいに)  星散る中に、聞こえたのは優しい誓い。  見送る男性の耳に、何かが聞こえる。何かが羽ばたく音。そして、『ゲタタ、ゲタタ』と言う壊れたカスタネットの様な『鳴き声』。  ハッと、仰ぐ。  夜に沈んでいく空を横切っていく、幾つもの飛影。大きいモノ。小さいモノ。幾つも。幾つも。先に飛び去った、蒼火の流星を追いかける様に。 「そうか……」  全てを察して、呟く。 「助けてくれるんだな……。君達も……」  感謝する様に、しばし目を閉じる。そして。 「そう……僕も、まだ……」  開いた瞳に決意を燃やし、男性はまた歩み出す。  彼の名は、【リスク・ジム】。  いつかの時代、歩むべき道を誤り。  生んだ歪みを正そうと足掻く者。  歩む先、微かに漂う酢酸の香。  絆の証。  贖罪の導。  ◆  目の前に現れた異形に、【チセ・エトピリカ】は息を飲む。  それは、巨大な硝子玉。綺羅綺羅と輝き、不定形に形を変える人智の外。  『無彩の混沌』。八彩災華は最後の一柱。『無の災』を司る生無き生命。 「さあ、お連れしんしたよ。『渾沌(こんとん)』大君」  チセの背後に立った【白南風・荊都】が呼びかける。 (ああ、ご苦労様)  無機質な、音の様な声。硝子玉が揺らめき、広がる。蓮の花が、夜の泉に咲く様に。  広がるのは、妖しの世界。蒼い闇。幾重もの朱い鳥居と、幾棟もの行灯の光。延々と連なる奥で、何かが招く。 「さ、お行きなんし。怖くはないでありんすから」  嗤いを含んだ声も、今は遠い果て。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、振り返って。  ひょっとしたら、なんて。  ああ、切れないなぁ。  切れないよね。  自分の弱さを、少し嗤って。  そして。 (後は頼んだよ。女狐)  閉じた混沌。淡々と告げるソレに『心得ていんすよ』と。  チャラリと鳴らす、2色の勾玉。一つは『白』。一つは『紫』。  ポォンと放り、呼びかける。 「さ、起きなんし」  フゥとかける、甘い白煙。巻かれた勾玉、パンと弾け。  一つは雷。真っ白な雷。轟轟と嘶いて、空の果てへと荒びて賭ける。  一つは水。紫に濁った汚水。ベチャベチャバチャと蠢いて、シュルリシュルリと後を追う。 「くふふふふ、『雷の災』に『水の災』。封印の打ち釘、しっかりと払ってくんなましな。もつとも……」  眼鏡の奥が、ニヤリと歪む。 「嫌と言った所で、大層な人死にが出るだけでありんすが?」  ケラケラケラと笑う声。伸びる影に、夜風が震えた。
王冠――restoration K GM

ジャンル 推理

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2022-02-16

予約期間 開始 2022-02-17 00:00
締切 2022-02-18 23:59

出発日 2022-02-25

完成予定 2022-03-07

参加人数 4 / 8
 わたしたちはいつかまた  ここにもどってこよう  そのために  わたしたちのしろを  はききよめ  でむかえるものを  よういしよう ●その日、【セム・ボルジア】はグラヌーゼに。  【ガブ】【ガル】【ガオ】はグラヌーゼに来ていた。サーブル城周辺で行われている測量作業の護衛に、バイトとして参加しているのだ。数名の傭兵と一緒に。  その話を彼らに持ってきたのは、セムである。ちょっとしたお手伝いをしていただけませんか。腕に覚えのあるあなたたちになら簡単なことですから、と言ってきたのだ。おだてられるとすぐ乗っちゃう。それが三兄弟の悪い癖だ。  さて、そのセムは今、測量隊と話をしている。寒風にコートの襟をはためかせながら。例によって例のごとく、現場に顔を出してきているのだ。報告を待つ時間が惜しいと言わんばかりに。 「進み具合はどうですか」 「今のところ大体、こんな感じです」  セムは渡されたバインダーを開き、綴じ込まれた周辺の略図と、そこに書き込まれた計測の値を眺めた。 「やはり、街道の痕跡がありましたか」 「ええ。城門から真っ直ぐ、荒地を横切るようにして。長い時間がたっていますので、見た目は分からなくなっていますが、そこだけ明らかに土質が違います」 「加えて陥没跡もある、と」 「ええ。グラヌーゼ南部における新規貯水池の作られたことによって、この周辺の地下に溜まっていた水が引き込まれ、抜けてしまったことが原因であるようで」 「そのことが、本来あった城の排水機構も機能不全にさせた、と――これは修復しておきませんとね」  その言葉を聞いてガオは、多少疑問を抱かないでもなかった。  修復して流れを元に戻したら、今度は貯水池に水が行かなくなるのでは? と思ったのだ。  対してセムは、このように言った。 「ああ、その心配はないですよ。向こうに流れ込んでいる水脈には手をつけませんから。私が修復したいのは、あくまでも排水機構です。城の地下部分は、長い年月水に浸っていただけあって、まだかなりじめついていますからね」  彼女はバインダーを閉じる。測量隊に戻す。遠くにある城に視線を向ける。 「乾かしておかないと、快適ではないでしょう? 入る際に」  ガブは、たまげた顔をした。セムが城を観光地にしようと目論んでいるのは無論知っていたが、曰くつきだらけな地下部分までそうしようとしているとは、想像していなかったので。  確かあそこには、魔王の像とか呪いの本とかそういうやばそうな代物が、あったのではなかったろうか。よく知らないけど。 「地下にも客を入れるつもりかよ?」  その質問にセムは、城を見ながら答えた。 「いいえ」  その表情にガブは違和感を覚える。なにやら変に優しげで、懐かしげなのだ。実に彼女らしくない。 「あそこに入るのは、客ではなくて、あの人達」 「え? 誰だよ『あの人達』って」  直後セムが怪訝な目を彼に向けた。ずるくて抜け目無さそうな、いつもの顔に戻って。 「何です? 『あの人達』って」 「いや、何ですって……あんた今自分でそう言ったろ」 「? いいえ。私は何も言っていませんよ」  訳が分からなくなったガブは、近くにいたガオとガルに聞く。 「お前も、今何か聞いたろ?」  ガオとガルは顔を見合わせ、首を振る。 「いや、さあ……」 「俺ら今、話してたし」 ●その日、【ウルド】は郊外に。  新居は、可能なら静かなところがよい。森や林が近い方がよい。  そんなウルド一家の望みを叶えるため施設関係者は、あちこちの不動産屋を当たってみた。  そして、彼らの希望にかなうであろう物件にめぐり合った。  郊外の中古一軒家。小ぶりながら庭がついている。屋根や床の一部に痛みが見られるが、基礎はしっかりしている。  必要なだけの手直しをすれば後百年は余裕で持つであろう――とは【ラビーリャ・シェムエリヤ】の見立てだ。  ウルドは生徒達に案内されつつ、祖父母と一緒に、新居物件の確認へ赴いた。 「おお、これかいな」  平屋の古民家。屋根は草葺き。小ぶりであるが納屋つき。  入ってみれば床の一部が黒く変色し、踏むとぼやぼやした感触。  ウルドの祖父は眉をひそめる。 「どうも床板が腐っているようだの。取り替えねばなるまいて」  天井を見上げると、そこもまた黒ずんでいた。どうやら雨漏りがしているらしい。 「屋根も早く葺き替えなければいかんのう。放っておくと、全体が腐ってしまうでな」  とはいえ屋根を葺き替えるほどの材料は、すぐには集められない。  であるからして生徒達は、急遽、応急処置をすることにした。  大きな防水布を持ってきて、屋根全体に覆いかぶせる。止め具をつける。布の端々にロープを取り付け引っ張り、地面に打ち込んだペグに結び付ける。  その合間にウルドは、古屋のスケッチを始めた。今後リフォーム作業を行う際、参考に出来るかと思って。 ●その日、【ラインフラウ】は保護施設に。 「――あら、皆お出かけしているの。タイミングが悪かったわね」  と【ラインフラウ】はぼやいた。  それから施設留守役をしている【ドリャエモン】に聞いた。 「エリアルの坊やは、その後何も新しい絵を描いていない?」  「おらぬ」と彼が答えると、彼女は、ちょっと残念そうな顔になった。 「あらそう。もう少し手掛かりが増えているかなあと期待したんだけど……」 「その手掛かりというのは、セム一家の全滅事件のことかの?」 「当たり。セムがここのところ随分気にしてるのよね、そのこと」 「おぬし、セムに頼まれたのかの? 新しい情報があるかどうか、確認してきてくれと」 「いいえ。直接そう言われたわけではないの。だけどまあ、忖度ってやつ? 最近セムったら、忙しくてね。前にも増してシュターニャとグラヌーゼの間を、行ったり来たりしてるわ」  ドリャエモンの脳裏にサーブル城の姿が浮かぶ。  思えばすべてが、あそこから始まっている。【黒犬】と【赤猫】の呪いはもちろん、セムの指輪にまつわる呪いも。災厄の連鎖も。 「そうかの。そういえば、シュターニャの再開発計画は進んでおるのか」 「順調ね。経済界重鎮二名の手打ちが終わったから――」  ラインフラウは面白がるような一瞥をドリャエモンにくれてから、こんなことを言い出した。 「よろしければ、学園で保管しているノア一族の遺品を、見せていただけないかしら? かなり前サーブル城の地下で見つけた、例のあれ。赤猫が引き裂いたノアの所有物。甲冑と剣の残骸――宝飾品もあったかしら?」 「……なぜ今更そんなものを見たいのだ?」 「もしかしたら、何か幻視出来るかもしれないなあ、と思ってね。私も私なりに調べてるのよ。セムの呪いが、何のためのものなのかについて」  
【泡麗】rivalizar - 完結篇 桂木京介 GM

ジャンル シリアス

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2022-02-05

予約期間 開始 2022-02-06 00:00
締切 2022-02-07 23:59

出発日 2022-02-15

完成予定 2022-02-25

参加人数 6 / 6
 無茶しおって――と言ったまま【メメ・メメル】は、継ぐべき句を見失った。  ベッドの縁に顔を近づけ、怒鳴らずとも静かな怒りと、涙こぼさずとも痛いほどの悲しみをこめて言う。 「クラルテ! チミは病人だろうに! 病人ならじっとしておれ。用向きがあるならオレサマがリーベラントに出向いたのだ」  メメルの言葉は厳しいが、目にはぬぐいきれぬ寂寞がある。メメルにとって数少ない友、そのひとりにはもう、時間がほとんど残されていないことは明白だった。 「それは違うぞメメル殿」  かすかに唇をゆがめた。それが現在、リーベラント国王【クラルテ・シーネフォス】のできる精一杯の笑みのようだった。  痩せ衰えた体、肌はくすんで生気がなく、瞳孔の色すら薄らいでいる。ローレライ族の特徴たる流体の髪も、涸れた用水路のように干からびていた。かすれ声でクラルテは言う。 「依頼とは、頼む側がおもむくもの。一国の代表であればなおさらだ」 「この期におよんで堅苦しいことを」  だがクラルテらしい、とメメルも眉をしかめ苦笑するほかなかった。  病身をおしてクラルテは、わずかな随臣とともにフトゥールム・スクエアを訪れたのだった。  グリフォンを使おうとも短い距離ではない。途上昏倒すること二度、それでもクラルテは学園にたどり着き、学長室の門を叩いた。しかしもう立つことすらかなわぬ状態だった。簡易の寝台が用意されている。国王は横たわったままメメルと対話するにいたったのである。  海洋国リーベラント、その人口の九割近くはローレライである。リーベラントは事実上、ローレライ勢力の代表といっていい。  クラルテは国王だが病のため引退状態にあり、現在はその息子【アントニオ・シーネフォス】が代王として王座にあった。  先日、代王アントニオは対魔王陣営の主導権をとると表明、フトゥールム・スクエアに敵対宣言を出した。  最初は威勢がよかった。学園に対し、何度か工作をはかったものである。しかし身の丈にあわぬ虚勢をはった重圧からか心を病み、代王の職務を弟の【ミゲル・シーネフォス】に任せアントニオは表舞台から姿を消した。  ミゲルもアントニオに同調し、反フトゥールム・スクエアの旗幟を鮮明にしていた。だが自身学園生と接触し、妹の【マルティナ・シーネフォス】の口添えもあってミゲルは考えを改めた。一気に方針を転換し、学園を中心とした対魔王同盟を復活させようと動いたのである。  学園とリーベラントの対立は解消されつつあったのだ。雨降って地固まるのたとえのように、むしろ以前より強固になる望みもあった。  しかし、クラルテのもたらした報はこの動きとは正反対の内容だった。 「我が子アントニオが一党を率い、タラントにたてこもった……!」  タラントはリーベラント南の果て、魔王大戦以前からつづく巨大城塞だ。反フトゥールム・スクエアの一党を率いたアントニオは、『我こそ正統なるリーベラント王である。学園に惑わされた弟ミゲルを誅し、対魔王軍の盟主たらん』と告げ反旗をひるがえしたという。 「今さらそんなことをしてどうする!? なんつうアナクロニズムだアホウめっ!」  メメルは唇を噛んだ。言い過ぎたと思ったのかもしれない。病人クラルテに向かって、その息子をののしったのだから。  だがクラルテは力なくつぶやくだけだった。 「すまぬメメル殿……これすべて我が不徳の致すところ。余は親としてあまりにも、愚かであった」   リーベラント兵同士が争えばそれすなわち内乱である。内乱だけは避けたいとクラルテは言い、目に熱いものを浮かべた。  わかった、と短くメメルは回答した。  ◆  昨年末ごろより代王アントニオはふさぎがちになり、自害すらほのめかすような状態におちいった。学園に対抗の動きに出たものの、ことごとく失敗し心が折れたため――とは巷間の噂だが、実際の原因はわからない。  アントニオが退位を表明し、療養のため王都を離れたのは事実である。  その彼が突然、付近の反フトゥールム・スクエア勢を糾合しタラントに籠城したのはどういうわけか。  リーベラント王宮、学園生たちを前にして、 「ありえん!」  マルティナは断言した。 「アントニオ兄はんとうちはそない親しなかった。けど、そんなうちかて、あん人がそないなことする人やとはどうしても思えん」 「だとすれば」  学園生の一人は言いかけて黙った。それ以上の言葉は必要なかった。  この状況を望む勢力があるとすれば、ただひとつだ。  ◆  タラント城塞は規模巨大であり、多数の兵を駐屯させることができる。  しかしいかんせん古すぎる。なかば破棄された場所なのだった。魔王大戦前から使っている城壁にはほころびがあり、修築するにも長い時間を必要とする。現在アントニオの元に参じた兵数はけっして多いとはいえず、兵站という意味でも、長期の籠城はまず不可能だろう。  だがリーベラントの世論はなお二割、多く見積もって三割はアントニオの主張を支持しているという。同じ考えの者がタラントに集結すれば一大軍勢になることは必定だ。そうなればもう、内戦を避けることはできない。  タラント。夜――。  各地からの支援、リーベラント本国の動向など報告を受けたアントニオは黙って席を立った。顔色は蝋のように蒼白、足取りも幽鬼に似て、周囲の者たちを不安がらせた。  しっかりしてほしいという本音を押し殺し、味方勢を鼓舞する言葉を、と求めた配下もいたが、 「下がれ」  一言、アントニオに拒絶されている。  アントニオは仮の寝所へと入った。 「何者か」  灯をいれるより先に、アントニオは目を凝らして奥の間を見つめた。 「【マグダ・マヌエーラ】にございます」  マグダは膝をつき最敬礼の姿勢をとった。月光に照らされる蜂蜜色の髪、妖しいまでに美しき容貌。夜陰にまぎれ潜入したのだろう。黒装束に身をつつんでいる。 「陛下による突然の行動に、クラルテ陛下、ミゲル、マルティナの両殿下……いずれも惑うことしきり、一度兵をおさめ会談をもちたいとのお話です。どうか……」 「無駄だよ」  せせら笑う声が右側面から聞こえた。瞬時にしてマグダは立ち腰の剣を鞘走らせる。 「アントニオちゃんはもう、私の傀儡(操り人形)だからね」  ――いつの間に!  マグダもリーベラントでは名の知れた剣士である。そのマグダの真横、数歩の位置に女が立っていたのだ。気配はまるでなかった。  かなり若い。切れ長の目に碧い瞳、長い髪は紫がかったプラチナだ。頭頂にはほぼ三角形の、ピンと尖った一対の耳が見える。白狐のルネサンスなのだ。尾は九本もある。牡丹と炎柄の真っ赤なドレスを着ていた。ヒール履きだ。 「ハロー、私はエスメラルダ、略してエスメでいいよ」  魔族【エスメ・アロスティア】はうふふと笑った。 「魔王軍か! アントニオ陛下をたぶらかし……」  マグダの言葉は途切れた。  マグダは両膝をつく。信じられないという表情で、自身の腹部に視線を落とす。  鋭利な刃物が突き刺さっていた。いや、それはエスメと名乗った女の尾だった。蜘蛛の長い脚のように伸び、マグダを貫いたのだった。  マグダは全力で体を引き尾を抜いた。喀血する。すさまじい痛みが走ったがうめき声ひとつ漏らさず、 「その首、死に土産にいただく!」  叫び床を蹴った。  これがマグダの、人生最後の跳躍となった。  エスメの尾は放射線状にしなりマグダを襲った。  マグダの右胸に刃が突き刺さる。続いて腰。  そして額。  窓が破れ、マグダの体は城塞外の闇へと落ちていった。
【天遣】rivalizar - 完結篇 春夏秋冬 GM

ジャンル イベント

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2022-02-06

予約期間 開始 2022-02-07 00:00
締切 2022-02-08 23:59

出発日 2022-02-15

完成予定 2022-02-25

参加人数 8 / 8
 魔王の完全封印を目指していたアークライト達が、全て消息を絶った。  ひっそりと、静かに。  のちの禍根を残さないようにするかの如く、可能な限り身辺整理を行ってからの事だった。  それを知り、一部の者達は喜びと感謝と、称賛の声を上げていた。 「魔王の脅威がなくなる!」 「素晴らしい!」 「アークライト達の偉業を讃えよう!」  口々に歓声を上げ、それを多くの者は遠巻きに見るだけだった。  状況を知り得ない多くの者達は、何が起こっているのか理解できず、関わりたくないと遠ざかるか、無関心を貫いていた。  ごく一部は、状況がつかめないにも関わらず、祭りに参加するかのように騒いでいる。  それが、世の中の全てであっただろうか?  いや、違う。  状況を理解し、動こうとしている者達もいた。 「今どこに居るのか居場所が掴めねぇ」  苦渋の声を上げているのは雷の精霊王【イグルラーチ】。  この場にいるのは、多くの人間。  ミストルテインの統治理事会本部で、アークライト達の行動を止めるために集まっていた。 「どうかにして、居場所を知らねぇと……」 (アークライト達の……【オールデン】の本気を甘く見てた)  アークライト達の動向を、可能な限りミストルテインは把握しようとしていた。  だが、ある日忽然と、一斉に消えたのではどうしようもない。 (オールデンのヤツ、転移魔法を使いやがったな……予想より動きが鈍いと思ったら、それが出来るように魔力を溜めてやがった)  もはや猶予は無い。  見つけ出さなければならないというのに、その方法が―― 「どーにかしますよー」  能天気な声と共に、アークライト達を探し出す方法を携えて、異世界人である【メフィスト】が本部にやって来た。 「探せるのか!」 「探せまーすよー」  食い気味に訊いて来たイグルラーチにメフィストは、研究都市セントリアから来た【ハイド・ミラージュ】と共に、1つの機械を出してみせた。 「こいつは、前見たことがある。魔力探知機、だったな?」 「そうでーす。学園の子たちが要望を出してくれたお蔭でー、色々と役に立ってまーす。というわけで早速ー、スイッチオンでーす」  ポチリと押すと、地図と共に光点が浮かび上がる。 「魔力属性と魔力量に応じてー、居場所が分かりまーす」  探知機を指示しながら説明する。 「アークライトの属性は光ですからー、反応数の多さと一際大きくて強い反応からー、ここに居るんだと思いまーす」  地図と照らし合わせ、イグルラーチは判断する。 「アルマレス山だ。あそこは創造神が最初に創った場所だから、世界に与える影響が大きい。地理的特性も利用して、魔王を封じるつもりだ」  イグルラーチの言葉に、この場に集まった者達が期待の声を上げる。 「なら、そこにいけば――」 「止められる。あそこまで行くのに時間が掛かるから、オレっちが連れて行く。ただ、連れて行ける人数は多くて10人ぐらいだ。止めようとして抵抗された時のことも考えなきゃならねぇから、戦えるのを選ばなけりゃならねぇが――」 「なら学園の子たちに頼んだらいいんじゃないですかー」  提案したのはメフィストだった。 「恐らく今回の件はー、この世界の命運に関わる選択になるでしょー。だとすればー、今まで多くの運命に関わって来たー、学園生が良いと思いますよー。あとついでにー、少し前に異世界に行った時にー、頼まれた技術もあるのですがー、それも学園の子たちに合わせて作っているのでー、それを使うためにも学園の子たちが良いと思いまーす」  この提案に、イグルラーチは少し黙した後―― 「ああ。学園生達に賭けようぜ」  世界の命運を、学園生達に託すのだった。  そして選択の時が来ました。  アナタ達は、巨大な雷鳥となったイグルラーチの背中に乗り、アルマレス山に向かいます。  そこでアナタ達は、選ぶことになります。  アークライト達の犠牲を肯定し、魔王の完全封印を目指す。  あるいは犠牲を否定し、いずれ復活するであろう魔王と戦うことを。  世界の命運を巡る選択が、これから訪れます。
時の奇術師(完) ~新たな旅立ち~ SHUKA GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2022-02-02

予約期間 開始 2022-02-03 00:00
締切 2022-02-04 23:59

出発日 2022-02-12

完成予定 2022-02-22

参加人数 5 / 8
「さあ立ち上がって。あなた達がこの世界の最後の希望」  暖かい光が体を包む。  それまで石のように重く動かなかった体に力が戻ってきた。  赤黒く染まる学園の空。  黒い霊樹が、今自分達の立っている学園の霊樹へと喰らわんばかりに枝や根を伸ばし絡みついてくる。  眼下では先ほどまでの自分達のように、身動きが取れず倒れ伏す学園生や教師の姿が見えた。  どうやら今動けるのは自分達以外にいないらしい。  まるで地獄を彷彿とさせる光景だ。 「霊樹から力を分けてもらったの。これで貴方達はあの黒い霊樹の影響を受けないわ」  声の主を見やれば、そこには【稲葉瑞理(いなばみずり)】が光を抱えるように立っていた。  両隣には彼女の婚約者である【ニルバルディ・アロンダマークォル】と彼女の兄である【稲葉一矢(いなばかずや)】が彼女を守るように武器を手に立っている。  瑞理の足元には割れた仮面が転がっていた。  その日、学園は仮面の集団に襲われた。  飛躍的な力の向上と引き換えにその命が魔石へと変質していく呪いの仮面。  その強大な力を抱える集団に立ち向かった勇者達。  学園長や教師たちまでもが奮戦する中、集団を率いる瑞理が一矢の前に現れた。  瑞理の命をおもんばかり力を出せない一矢は瑞理に倒されてしまう。  彼女を救うために立ち向かった勇者達は瑞理を取り押さえることに成功。  その一瞬の隙を見逃さず、一矢は瑞理の仮面を断ち切り彼女を救い出すことに成功した。  しかし他の者達は次々に魔石へと変化。  さらにその魔石は一つに集まると、霊玉へと変化する。  これで愛する妻を取り戻せる――  魔石の下に現れたエーデルワイス伯爵は自ら体内にその霊玉を取り込むと、自らの姿を黒い霊木へと変えたのだった…… 「まさか仮面の人間全員を魔石に変えて、それを合わせて霊玉に変えちまうなんてな」 「あれは不完全なものだよ。あんなものを霊玉なんて言わない。理論を構築させられた私が言うのもなんだけど……」  瑞理は自分が仮面に支配されていた時の記憶を思い出して苦笑を浮かべる。 「『生』と『死』の境界を取り払いこの世界から悲しみを消す……この世界に新たな法則を定着させようとした結果がこれとはね」  三人は赤黒く染まった世界を見渡した。 「愛する妻一人を蘇らせるために世界丸ごと書き換えようだなんて、常軌を逸してるな」 「ははっ、さすがの君もこれには共感できないか」 「当たり前だ。俺をなんだと思ってやがる」  ニルバルディの軽口に一矢が苦い顔を返す。  以前の一矢ならやりかねない危うさがあった。  だが成長し続ける勇者達、そして元生徒をも慈しむ学園長の心に触れ、いつからか彼の中からそんな狂気は消え失せていた。  すると黒い霊樹の葉が形を変え、黒い魔物となると次々にこちらへと向かってきた。  まるで光に吸い寄せられるアンデッドのようである。 「俺達で瑞理を守る。だからお前達はあいつを倒せ」  一矢が指し示す先、黒い霊樹の中心ではエーデルワイス伯爵の上半身が変わり果てた姿で生えている。 「ヴヴッ……ヴガアアアアアアーーッ!!」  紫の表皮に覆われ、爪や角を生やす姿は魔物とも鬼とも言えるだろう。 「あんな異形になり果ててまで、彼はどんな世界を創りたかったのやら」  ニルバルディは哀れみ交じりの視線を彼に送る。 「そうだな、俺達で終わらせてやろう……これが最後の戦いだ!」  その場にいる全員が武器を構える。 「さあ勇者達よ。今こそこの世界を救って!」  瑞理の手の中にある霊樹の光が強さを増す。  その力に後押しされるように、勇者達は黒い霊樹へと立ち向かっていくのだった。
風の問い掛け 春夏秋冬 GM

ジャンル シリアス

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2022-01-30

予約期間 開始 2022-01-31 00:00
締切 2022-02-01 23:59

出発日 2022-02-08

完成予定 2022-02-18

参加人数 6 / 8
 大空を、風の精霊王【アリアモーレ】は飛び続けていた。  精霊王達に、本来は決まった形などないが、今のアリアモーレは巨大な隼の姿をしている。  そして首元には、失われたと言われている、風の霊玉を着けていた。  なぜ、そんなことになっているのか?  全ては、風の霊玉を巡る騒動が原因であった。    かつて風の霊玉は、当時の勢力バランスを保つために、有力な氏族に渡された。  しかし風の霊玉を持つことによる権威と、霊玉の膨大な力を手中に収めようとする者達の間で争いが起り、無用な血が流れた。  それを嘆いたアリアモーレが、風の霊玉を消滅したように見せかけ、守るようにして空を飛び続けている。  アリアモーレの行動は無用な血が流れることを嫌ったからでもあるが、一番の理由は、霊玉の元となった人物が憐れになったからだ。    霊玉は、魔王を倒し封印した勇者たちの魂が元になっている。  魔王の脅威から皆を守るため命がけで戦い、倒したあとも、魔王が復活しないよう自身の魂を捧げた勇者達。  彼ら、そして彼女達が魂まで懸け掴んだ未来が、人間同士の争いで汚されるのを嫌ったからだ。  アリアモーレは、風の霊玉の元となった勇者のことを忘れないでいる。  自由を好み、それ以上に、人々の安らかなる未来を願っていた。  だというのに、そんな勇者の魂が争いの元になるなど、悲しすぎる。  だからこそ、アリアモーレは今も空を、風の霊玉と共に飛び続けている。  魂だけとなり自我が無かったとしても、自由な空を見せてやりたかったからだ。  すでに亡き勇者を想いながら、アリアモーレは飛び続ける。そこに―― 「アリアモーレ! ちょっと待ってくれ!」  同列の精霊王たる、雷の精霊王【イグルラーチ】が声を掛けてきた。 「何の用? イグルラーチ」 「風の霊玉を渡してくれ!」 「嫌よ」  ぐんっとスピードを上げアリアモーレは、さらに高い空を翔ける。 「ちょっ、待てって!」  イグルラーチは必死に追いかけながら声を掛け続ける。 「いま霊玉は1つでも多くが必要なんだ! 魔王が復活するからな!」 「……封印はどうなってるの?」 「緩んで来てる!」 「なぜ? いくら魔王とはいえ、あと千年は問題なく封印できるはずよ」 「無理だ! 土と火の霊玉は、力の継承自体は行われたが、オリジナルは争乱のごたごたで失われちまってる。多分それが原因で緩んじまってる!」 「馬鹿なことをしたわね……」  アリアモーレは飛ぶのを止めると、遥か眼下の大地を見詰める。  そこに住まう人間に向ける視線は冷ややかだった。 「八霊玉全てが揃っていれば、魔王の再封印も問題なく行えたでしょうに……一度でも緩んでしまったなら、もう手遅れね」 「ああ……だから光の兄弟が自身を核に、アークライト達の命も使って封印の強化をしようとしてる」 「【オールデン】が……止めさせられないの?」 「そのためにも霊玉は1つでも多く必要なんだ」 「……何か考えがあるの?」 「霊玉と、それに対応する精霊王で魔王を囲む形で結界を組む。結界の中なら、精霊王の加護を受けた人間達を大きく強化できる。その中で、魔王を倒すんじゃなく殺す」 「本気で言ってるの? それ」  冷ややかな声でアリアモーレは言った。 「問題が幾つもあるわね? まずひとつは、霊玉が全て揃ってる前提の話だけど、実際はどうなの?」 「……闇の霊玉は、十中八九、魔王軍の手にある。それと火の霊玉に相当する物を持つ者も、魔王軍に組してる可能性が高い」 「最初の段階で破綻してるじゃない」 「霊玉は足らなくても、結界自体は張ることが出来る」 「そうね。でもその分、結界の強度は弱まるから、外部から破壊され易くなるし、効果時間も短くなるわ。そうなると、結界を破壊させないように守りつつ、短い時間で魔王を殺さないといけないのよ。誰にさせる気?」 「勇者候補生達がいる」 「……」  イグルラーチの言葉に、アリアモーレは不快そうに沈黙したあと言った。 「また同じことをさせる気? その子たちに命を懸けさせて、仮に魔王を殺せたとしても、その後はどうするの? いずれ新しく生まれてくる魔王に対抗できるよう、今度はその子達を霊玉にする気? そんなこと――」 「させねぇよ!」  イグルラーチは強い口調で言い切った。 「そんなことをさせないために、【メメ・メメル】はフトゥールム・スクエアを作ったはずだ!」 「……そうね。あの子なら、そう願っているんでしょうね」  嘆くように、アリアモーレは続ける。 「さっき、闇の霊玉は魔王軍の手に渡っていると言ったわね? なら、あの子の様子は、どう? 魔王の封印を解くために闇の霊玉が干渉を受けてるなら、あの子もタダでは済まないでしょう?」 「……だろうな。どうも弱ってるらしい。多分――」 「死ぬか、場合によっては封印を逆流させられて、死ぬことすら許されない永遠の眠りに就くことになるでしょうね」 「……させねぇよ。そのためにも風の霊玉と、お前の力が要るんだ」 「……」  イグルラーチの言葉に、アリアモーレは沈黙を貫く。  だがその時、風の霊玉が微かに輝き、優しく頬を撫でるようなそよ風が、イグルラーチとアリアモーレに意志を伝えるように流れた。 「……何の自我も無いはずなのに……」  アリアモーレは慈しむように、翼で風の霊玉を撫でると、イグルラーチに言った。 「分かったわ。この子が望むなら、私も力を貸すわ。でも、その前に、勇者候補生たちに会わせて」 「どうするんだ?」 「別に……ただ、話して……問い掛けたいの……本当に、魔王と戦うつもりなのか。そして……魔王を打ち倒したあと、どうするつもりなのかを」 「分かった。学園に話をつけておく」  イグルラーチは応えると、学園に向かった。  そして、ひとつの課題が出されます。  内容は、風の精霊王アリアモーレに会い、その問い掛けに応えることです。  アリアモーレの問い掛けに、アナタ達は、どう応えますか?
シルキー付きの喫茶店 K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 通常

公開日 2022-01-31

予約期間 開始 2022-02-01 00:00
締切 2022-02-02 23:59

出発日 2022-02-09

完成予定 2022-02-19

参加人数 3 / 8
●歩こう歩こう  保護施設に住まう小さな女の子【トマシーナ・マン】は、学園に通うお兄ちゃん【トーマス・マン】と、施設の番犬たちをお散歩に連れて行くところ。  番犬は二匹。黒マスチフの【黒犬】といかにも雑種という中型犬タロ。前者を引いて行くのがトーマス、後者を引いて行くのがトマシーナ。何しろ小さな子には、大型犬はちょっと危ない。軽々と引きずられてしまう。  タロは待ち切れないように目をキラキラさせ尻尾を振っているが、黒犬はいまひとつ浮かない顔。それというのもトマシーナお手製の大きなリボンが尻尾にくくりつけられているからだ。見た目が怖い黒犬を少しでもかわいくしてやろうという彼女なりの心遣いなのだが、彼にとっては迷惑千万である。 「トマシーナ、犬のうんちの始末袋とスコップはちゃんと持った?」 「うん、ちゃんともってるわ」 「よし。じゃあ行こうか」 ●いわくありげな売り出し物件  ここは学園領、某所。  学園生徒達は、山沿いの旧街道に来ていた。  街道の傍には可愛らしい三角屋根の家。壁が白、屋根は赤。風見鶏がついている。  そして扉のところには、『本物件売約済』という張り紙。 「あれえ? 人が住んでいなかった割には随分きれいだね」 「本当だ。ガラスなんかぴかぴか。中のレースカーテンは、ちょっと日焼けしちゃってるけど」 「身内の人が来て、掃除しておいたのかなあ」  何を隠そうこの三角屋根の家は、喫茶店。街道沿いということもあってもともとはそれなりに繁盛していたのだが、十何年か前アクセスのいい新街道が出来上がってからは、客足が年々減少。経営者の女性が生きている間はそれでも細々続いていたが、先年老衰でお亡くなりになられた。残された女性の家族はこの商売に興味がなかったため、早々物件を売りに出した。それを学園が買った。ついで生徒達に、お片付けの課題を出した――とこういう流れ。 「しかし、なんでこんな物買ったんですかねえ」 「なんでも学園長が気まぐれに視察して、『うおお、内装でらめっさかわいーじゃん! オレサマ引き取る予算お願いっ♪』って言ったそうで」 「はあ、なるほどねえ」  とりあえず預かった鍵で扉を開け、中に入る。  するとそこには『街道沿いの喫茶店』と言うワードから程遠い光景が広がっていた。  壁、床ともにオールピンク。虹や星や花やお菓子といった模様が乱舞。  テーブルや椅子はパステルカラー。全部ロココな猫足仕様。  天井は全然見えない。所狭しとカラフルなフリルパラソル、風船、ぬいぐるみが吊り下げられているために。 「……なかなかキッチュな趣味の店主だったんだな」 「……これ、かわいいか?」 「うーん、一つ一つの要素は間違ってないんだけど、全部が主張し過ぎて落ち着かないっていうか、そんな感じだよね」 「えー、そう? かわいいと思うけど。むしろこれくらいしないと、印象に残らないよね」 「うん。こういう方が映えるー」  感想はいろいろだが、とにもかくにもこのメルヘンワールドをいったん整理しなくてはならない。 「何から始める?」 「えーと、まずテーブル、椅子あたりから外に出すか」 「しかし天井のデコレーション、相当な量だよね」 「ま、ひとつひとつ片付けていくしかないさ。とりあえず三脚がいるな、三脚。誰か持ってきてたっけ?」  そんな会話を生徒達が交わしていたところ、ウウウと唸り声がした。  何事かと皆、声がした方――カウンターを見る。  いつのまにかそこには、小さな子供くらいの大きさの生き物がいた。  体にちょうどぴったりなメイド服を身につけ、箒を手にしている。  全身柔らかそうな毛に覆われて、目は大きくて真っ黒で、口先がちょっと尖っている。猿とリスを足して二で割った、という具合。ちょこちょこした動きがなんとも愛らしい。 「……なんだあれ」  とりあえず邪悪なものでは無さそうだが――これはなんであろうか。  そんなことを思いながら皆が見ていると、小さなものは箒を振りかざし彼らを威嚇してきた。次のような言葉を添えて。 「デテイケ、ドロボウ! 【チャーリー】、ミセノモノ、ヒトツモヌスマセナイ!」  どうやら人間の言葉が喋れるようだ。そして名前はチャーリーらしい。  しかし泥棒とは何事か。 「ええ? ちょっと待ってよ。私たち、泥棒じゃないわよ。このお店をお掃除に来ただけよ」 「オソウジ、イラナイ! ゼンブチャーリーガヤッテル! オバーサンニマカサレテル! チャーリー、コノミセマモル!」  なにやら話がややこしくなってきたな、と誰しもが思った。 「ねえ、どういうことなの? こんなのがいるなんて聞かされてないわよ」 「うーん……困ったなあ」  相談した結果一同は、この話を持ってきた学園長に事情説明を求めた。テールで。  すると学園長は、明るく笑ってこう言った。 『すまんすまん、言うのを忘れてた☆ あのなー、その喫茶店、元店主に懐いてたシルキーが住み着いてるんだ。と言うことでそっちの処理もよろしく頼む』 「えっ、いや、よろしくって……どうすればいいんですか。シルキーって相当強力な魔物ですよね」 『ああ。でも、性質は大人しい――逆鱗にさえ触れなければ、攻撃してくることはない。言葉も通じるから、説得だって可能だ。追い出すか、それとも協力関係を得るか。どうするかは、ちみたちの自由裁量に任せるぞい!』  勝手なことを言って、学園長はテールを切った。  生徒達は困惑の視線を交わし合う。  散歩の途中トーマスとトマシーナは、ずっと閉まっていた三角屋根の店の扉が開いているのを見つけた。  なにやら、たくさん人が集まっている。  トマシーナは俄然興味をわかせて、兄にこうせがんだ。 「にいたん、みにいきましょう。あそこのおみせ、しんそうかいてんしたのかも」  困惑の視線を交わし合っていた生徒達は、入り口に顔を向けた。トマシーナがこう言いながら、入ってきたので。 「こんにちわあ」  直後トマシーナが連れていたタロが尻尾を振り、吠えた。 「キャアッ」  その途端チャーリーが縮み上がり、カウンターの下に隠れた。  どうやら彼(彼女?)、犬が苦手な性分らしい。
学園生の自由な一日 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 なし

公開日 2022-01-27

予約期間 開始 2022-01-28 00:00
締切 2022-01-29 23:59

出発日 2022-02-05

完成予定 2022-02-15

参加人数 8 / 8
 人生というものは、山もあれば谷もある。  時に波乱万丈な時を過ごすことがあっても、凪のように穏やかな日もあるだろう。  それは学園生達も変わらない。  魔王軍の動きが活発になり、それに対処する動きを皆が取り始めていても、ちょっとした偶然の重なりで、自由になれる日もある物だ。  そんな自由な一日を得られるとして、アナタ達は、どうするだろう?  ゆっくりと英気を養うために休むだろうか?  それとも、ちょっとした気晴らしに、遊びに出るだろうか?  ひょっとしたら、いつもと変わらず、勉学や活動に励んでいるかもしれない。  そんな自由な一日を、アナタは得ました。  授業も課題も無く、何をしても良い休日。    この自由な一日をアナタ達は、どうすごしますか?
呼び声 土斑猫 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2022-01-19

予約期間 開始 2022-01-20 00:00
締切 2022-01-21 23:59

出発日 2022-01-30

完成予定 2022-02-09

参加人数 4 / 6
 気がつけば、【白南風・荊都(しらはえ・けいと)】の前に奇妙なモノが浮いていた。  色は無く、不定形。4対の翼を持つ硝子玉。しげしげと見た荊都が、ニヤと笑む。 「おやまあ、『無彩の混沌』でありんすか? ぬし様にはまだ手は出してない筈でありんすが?」  ――わざとらしい態度はするんじゃないよ。女狐――。  聞こえた声に、荊都の顔から笑みが消える。 「……『渾沌(こんとん)』大君でございますか。『三凶』の御一人が、やつがれの様な木っ端に何用でございましょう?」 ――『饕餮(とうてつ)』を起こすよ――。  眼鏡の奥の双眸が、妖しく光る。 「『滅尽覇道』の御方を? これまた、御怖いお話で。さて、どの様なご都合でしょう?」 ――魔王が起きる――。  答えは、簡潔。 ――『アレ』は顕界の理にそぐわぬモノだ。鯨が田んぼで跳ね回っては、吹いた潮で稲が死ぬ――。 「滅尽の御方様も、似た様なモノでは? 起こしたは良いですが、事の後に腹ごしらえで軒並みペロリとやられては、他の方々もたまったモノではないでしょうに」 ――知ったこっちゃない――。  揶揄に返った答えは、話の流れとは酷い矛盾。けどまあ、コレが『彼ら』の通常運転。魔王を敵視するのも、『自分達以外の輩が世界(玩具)で遊ぶのが面白くない』程度の認識なのだ。 ――良い子ぶるんじゃないよ――。  荊都の意を読む様に、渾沌とやらが哂う。 ――お前とて、ボク達と同類だろう? 何せ……――。  ――『八彩災華(はちさいさいか)』を弄ろうとしてたんだから――。  歪に歪む、荊都の口。 ――残り六彩、手早く処理しておくれ。打ち釘が抜ければ、饕餮は勝手に這い出るから――。 「さて、どの様に……?」 ――今まで通りにやれば良いよ――。  答え。言われるが前提。そのつもりが前提。 「おやおや、それではまた『学校』の生徒さん方に頼みますか。この大事に、申し訳の無い事で……」 ――気に病む事はないよ。あいつらも、饕餮の力は必須なんだから。と言うか――。  ゲラゲラと、空気が揺れる。 ――悪いなんて、これっぽっちも思ってないくせに――。  嘲る声に、笑みを返す。 「畏まりました。それでは、易々と済ませましょう」 ――待ちなよ――。  立ち去ろうとした荊都の背に、もう一声。 「何でございましょう?」 ――饕餮が起きるのは良いけど、あの通り意地の汚いヤツだ。口寂しい時の『オヤツ』がいる――。 「其れは、三凶(あなた方)のお役目では?」 ――いい加減、付き合ってられないよ。戦になれば、ボク達だってなんなりと動かなきゃならない。駄々っ子の御守は別にいる――。 「お心当たりでも?」 ――目は付けてたよ。生粋の巫女気質。贄の才。既に品定めは終わってる。脆弱だけど、心と魔力は十分に強い。良い『噛み煙草』になるだろうさ――。  何かを含む声。邪ましい、音。 ――連れて来ておくれ。丁度、『其処』にいるから――。  しばし考えた荊都が、またニヤと。 「なぁるほど。それはそれは……」  外す眼鏡。異形の彩が、妖しく光る。 「まっこと、哀れでありんすなぁ……」  酷く酷く、愉しそう。  ◆  とても、星の綺麗な夜だった。学園の屋上。佇む人影が一つ。  『チセ・エトピリカ』。見上げる先に、散らばる星々と青い月。 「……こんな、夜でしたね……」  思い出す、いつかの夜。  それは怖く。  悍ましく。  けれど、とても大切な記憶。  荒ぶ祟り神の供物と成る筈だった自分を、こちらの世界へと引き戻してくれた人達。  かけてくれた声。握ってくれた温もり。そのどれもが、代えがたい。  その中でも、一際大きく輝く光。  暖かくて。  優しくて。  初めて、傍にいたいと思った人。  けれど、彼は今此処にはいない。  聞こえてくる、巨大な魔の鼓動。蠢き始めてる、眷属達の気配。世界のあちこちで、小さな戦火が上がり始め。  学園の有志達を集めた義勇隊。遠い旅路に向かうその中に、彼は名を連ねた。  自分は、医者を志す者だから。  きっと、行く意味があるからと。  ついて行きたかった。連れて行ってと、駄々をこねたかった。  けれど、ソレを通すには自分はあまりに未熟で。無力で。  立ち尽くすしか出来ない自分の手を、彼は強く握って。  ――帰ってきたら、伝えたい事が――と。  だから、待つ。  その日を待って。  その時を信じて。  けど、聞こえる災禍は日々勢いを増していく。  苦痛の声が。  悲しみの嘆きが。  絶望の叫びが。  怖い。  怖い。  いつその叫喚の中に、彼の声が混じるのか。  在り得ないと思いたい。  けれど、否定する根拠がない。  不安は悪夢となり。  悪夢は幻想となり。  ただただ、心を蝕んでいく。  何かをしたい。  彼の為に、何かを。  けれど、出来る事は何も無く。  抑える事も構わず、零れる雫。  せめても拭おうと手を上げた、その時。  響く轟音。ハッと前を向けば、遠くの方で上がる火の手。最も近場の街。何かが。  凝らした視線の先で、風が舞う。  黒い。黒い。影の様な風の群れ。  幾重も。幾条も。幾匹も。  朱染めの夜天に、咆哮が。  ◆ 「んふふふふ。イイ感じに染まってきんしたね」  壊され、火を上げる建物。逃げ惑う人々。そんな人々に、風に乗って襲い掛かる異形の黒犬達。  火の熱と血の匂いに満ちていく大気を愛しげに吸うと、荊都は座した塔の上から月を仰ぐ。 「さあ、舞台は整いんしたよ?」  手にした煙管を、スゥと飲む。 「おいでなんし。そいで、存分に吹き荒れなんし」  招く様に、天に向かって白煙を吹く。 「御用の在る方々は、すぐに来んすから」  登る煙が、月に消える。 「思う存分、お愉しみを」  瞬間、一面の星空が。月が。黒一色に。  雲ではない。其れは風。漆黒の暴風。  竜巻となって雪崩落ち、万物を吹き壊す。黒の中、妖しく猛る血色の眼孔。平伏し、崇める様に集う黒犬達。  嵐鳴纏い、響く咆哮。  その者、八つの災いその一つ。  『八彩災華・風の災』  『黒風の黒眚(しい)』、統べる『王』。  かつての屈辱晴らさんと、飢える魔群を引き連れて。  黒き災いが、月に舞う。
雷の霊玉を求めて 春夏秋冬 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2022-01-23

予約期間 開始 2022-01-24 00:00
締切 2022-01-25 23:59

出発日 2022-02-01

完成予定 2022-02-11

参加人数 7 / 8
 トロメイアにある大陸随一の高山、アルマレス山に連なる山岳地帯。  天然の要害となっており、それゆえ住む者は少ない。  そんな場所に飛んで向かっているのは雷の精霊王【イグルラーチ】。  背に異世界人である【メフィトス】を乗せ彼が向かっているのは、鍛冶の巨人サイクロプス達の元だった。 「イグルラーチ様」 「久しぶりだな」  出迎えてくれたサイクロプス達にイグルラーチは挨拶しながら、まずは謝る。 「すまねぇな。魔王軍に子供が浚われてたんだろ? 気付けず悪かった」 「いえ、貴方が謝られることではありません。貴方の羽を頂くことで我らの里は今も守られている。相手が悪かったのです」 「……そうだな。まさかキマイラの奴が生きてるとは思わなかったからな……でも、気付けなかったのはオレっちの不足だ。そこは謝らせてくれ」 「頭をお上げください。我々は、感謝しているのです。我らの先祖と貴方が交わしてくれた約束のお蔭で、我々はここで静かに暮らせる。貴方の力が無ければ、無理だったことです」  サイクロプスの里は、四方を守るように結界が敷かれているが、その要となっているのがイグルラーチの羽だ。 「そいつは、当然の権利ってヤツだ。なにしろ、雷の霊玉を隠して保管して貰ってるんだからな」  イグルラーチの言葉通り、サイクロプス達は雷の霊玉を誰にも気づかれないように保管してくれている。  山を利用して作り出した迷宮内の奥に雷の霊玉を封じ、それがあばかれないよう代々守ってくれているのだ。  そうなっている理由は、かつて雷の霊玉を所有していた魔法国家ミストルテインの騒動が原因である。  雷の魔法属性は、元々生命の発生に大きく関わる物なのだが、それを利用して新たな生命創造を行おうとして大失敗しそうになったのだ。  ミストルテインで造られたゴーレムに、イグルラーチが雷の魔法を注ぎこむことで新たな生命、カルマを生み出したように、魔王に対抗できる生命を作り出そうとした。  元々ミストルテインでは、創造神の御業を自分達で復活させようという機運が強かったのも、そうなった一因であるだろう。  そしてイグルラーチにさえ秘密にし、考え方の違いで内部闘争まで起こした挙句、新たな魔王が生まれる寸前にまで陥りそうになった。  幸い、魔王は封印されているとはいえ現存しているため、新たな魔王が発生し辛い環境であったことと、研究所が爆発したりして気付いたイグルラーチが駆けつけ、生まれる前に破壊し霧散させたことで危機は脱した。  とはいえ、この事が知られれば世界中からミストルテインは叩かれる可能性が高く、他国でも同じようなことをしでかす可能性があったため、雷の霊玉は紛失したということにして、サイクロプス達に封印を頼んだのだ。 「この地が無ければ、我らも安穏とは暮らしていけなかったでしょう」 「ああ、そうだな。だが――」  イグルラーチは、迷うような間を空けて言った。 「この地から離れてくれねぇか。それと、雷の霊玉を渡して欲しい」  ざわつくサイクロプスに、イグルラーチは説明した。 「恐らく近い内に、魔王は封印から解放される。そうなればここも危ういし、戦うために雷の霊玉は確保しておきたい」 「それは、どういう……」  怯えたように尋ねるサイクロプスに、イグルラーチは応えた。 「魔王軍やキマイラの動きから推測すると、魔王の封印自体が緩みかけてる。アークライト達が命がけで封印の強化をしようとしてるみてぇだが、それでも復活自体はされちまうとオレっちは見てる」 「それでは、我らは……」  サイクロプス達は恐怖を飲み込む。  彼らのように魔王に従わない魔族は、恐怖を搾り取る餌としての未来しか残されていない。  戦おうにも、人間のように精霊王の加護が無い以上、魔王が復活しただけで命を喰われていくため、戦うどころではない。 「どうすれば……」  イグルラーチにサイクロプスが縋る様に尋ねると、それに応えたのはメフィストだった。 「大丈夫でーす。避難先は用意してまーす」 「それは、どういう……」 「魔王の影響が出ない異世界に避難して貰いまーす。一先ず私の世界とー、他にも幾つかの世界に確保してるのでー、他の魔族の人達も一緒に避難することが出来まーす。学園生さんとも話して準備してくれてますからー、大丈夫ですよー」 「本当、ですか」 「ああ、オレっちが保証する」  イグルラーチが太鼓判を押してくれ、サイクロプス達の間に希望が広がる。  そんな彼らに、イグルラーチは言った。 「だからみんなには、早速避難して貰いつつ、ここにある雷の霊玉を渡して欲しい。出来るか?」 「可能です。ですが、迷宮の奥にあるので、取りに行かねばなりません」  サイクロプスが説明する。 「魔王信仰者達に奪われないよう迷宮を作り、その奥に雷の霊玉は封じてあります」 「すぐに取りに行けねぇのか?」 「残念ながら。内部の迷宮は自動で作り替わるように出来ており、雷の霊玉が迷宮内のどこにあるのか、すでに我らにもわかりません。それに雷の霊玉を守るための守護者も設置されています。我らが脅されて取りに行く事態を防ぐため、迷宮内は我らでも自由には出来ない仕組みになっています」 「それって、迷宮のどこにあるか分からない雷の霊玉を探し出して、それを守る守護者を倒さないといけねぇってことか」 「はい。容易いことでは――」 「どーにかなると思いますよー」 「どうにかなんのか!?」  聞き返すイグルラーチに、メフィストは応えた。 「できますよー。学園生の子達から頼まれてー、魔力探知機作ってましたからー、それを使って霊玉を探せば良いですしー、守護者についてはー、学園生の子達に倒して貰いましょー。どうですかー?」  メフィストの提案に―― 「ああ。頼らせて貰おう」  イグルラーチは賛同した。  そして課題が出されました。  内容は、迷宮内にある雷の霊玉を取りに行くこと。  迷宮内は迷路になっており刻々と作り替わるとのことですが、魔力探知機があるので探し出すのは可能とのこと。  雷の霊玉を守る守護者が居るとの事ですが、それを倒し霊玉を手に入れてくれ、という内容です。  この課題にアナタ達は、どう動きますか?
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