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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
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村人A
宇波 GM
ジャンル
シリアス
タイプ
ショート
難易度
難しい
報酬
通常
公開日
2019-04-21
予約期間
開始 2019-04-22 00:00
締切 2019-04-23 23:59
出発日
2019-04-30
完成予定
2019-05-10
参加人数
8 / 8
「私はただの村人A。この世界にとっては、いてもいなくても変わらない。そのあたりにある石ころと同じような存在であると思っている」 「私はただの村人A。あるいはこの世界の摂理に捕らわれた、哀れな構成物質のひとつであると思っている」 「私はただの村人A。寝て食べて働いてまた寝て、そうして回る世界に佇んでいるのだと思っている」 「私はただの村人A。そろそろお嫁に行く時期と、両親が相手を探していたことを分かっている」 「私はただの村人A。ついこの間、友達と喧嘩したとき、私が悪かったのだと分かっている」 「私はただの村人A。一度寝たら中々起きられない私が、珍しく浅い眠りについていたのは、こうなることが解っていたからだと分かっている」 「私はただの村人A。それを誰にも言わなかったのは、ただの八つ当たりだって分かっている」 「私はただの村人A。今すごく後悔しているのを分かっている」 「私はただの村人A。誰に知られずいなくなっても、見咎められないはずの存在であると、分かっている」 「ああ」 「でも」 「こうなってもまだ」 「私はただ死にたくないと」 「思っている」 「緊急です。今集まれる生徒たちは至急、窓口まで集まってください」 夜明けの近く、まだ登校している生徒の数が少ない学園の窓口前。 やや切羽詰まったような職員の声に首を傾げながら、窓口前にちらほらと人が集まる。 「一体何が?」 「これはつい先ほど、魔法石により村人から届けられた映像です」 軽い調子で投げかけられる質問に、職員はひとつの映像を見せる。 その映像に、集まった生徒たちは息を呑む。 「なに、これ」 「ひどい」 映し出されたのは、どこかの村が焼かれている映像。 逃げ惑う村人を猟奇的な笑みを浮かべ追いかけるのは、山賊のような恰好の男たち。 否、彼らは正しく山賊なのだろう。 山賊たちは、山賊が持つにしては立派すぎる剣を手に、村人を追い回す。 山賊たちの凶刃は、村人の背を、胸を、頭を容赦なく狙っていく。 思わず目を背けたくなる凄惨な光景が、そこには広がっていた。 「この山賊たちは、昔解散したはずの傭兵団のシンボルマークを身に着けています。傭兵崩れの山賊です」 職員は言い辛そうに口ごもる。 「彼らは戦闘のエキスパートと言っても差し支えないでしょう。対魔物だけでなく、対人戦にも相当手慣れているはずです」 今の皆さんが敵う相手ではないでしょう。 そう言い切る職員に、誰かが苛ついたように問う。 ではなぜ、ここに生徒を集めたのかと。 「山賊の討伐は、その道のベテランに依頼しています。皆さんに行っていただきたいのは、ベテランが到着するまでの間に、山賊たちが村から外に出ないようにすることです。具体的な方法を説明します」 職員は一枚の大きな紙、それに描かれた地図を指し示す。 「この村は周囲に防壁を張っていて、また、その外周にも深い堀が掘られています。この村に侵入する唯一の手段は、入り口に一本だけ架かる跳ね橋です。これを……」 職員は橋にバツの印を付ける。 「この橋を外から壊せば、討伐隊が到着するまでの間、山賊たちは村から出られないはずです。手っ取り早く壊すために、学園の方から火炎魔法石を支給します。橋を壊す目的でのみ、使用を許可します」 『火炎魔法石』。 それは今の自分たちが繰り出すよりも、はるかに大きな威力の炎を発射することができる魔法石。 威力が高すぎる故に、破壊にはもってこいだが微細なコントロールが難しい代物だ。 つまりはそれを用い、橋を壊せばいいのだろう。 しかし、ああ、心情は複雑だ。 あまりにもな話に、生徒たちは不安げに顔を見合わせる。 「あっ! まだ生きている人がいる!」 当てもなく映像に視線を彷徨わせていたひとりが気付く。 家の中や障害物の陰、山賊に見つからずに隠れている人々を。 「よかった、助けに行かなくちゃ」 「だめです!」 安堵の息を吐いた生徒に、職員が声を荒げる。 「村の中に入るのは危険です。それに、この村の周辺にもいくつもの村があります。山賊たちを逃がしてしまえば、彼らの凶行は他の村にも及びます。どうか、何も言わずに橋を壊してください」 生徒のひとりは、震える声で聞き返す。 「まだ、生きている人がいるのに……?」 「それでも、です。被害が甚大になる前に、できるだけ早く最善の行動を」 「村から送られてきた映像って言いましたよね。それって、村からの救援信号ではないのですか」 「……」 「助けを求めている人がいるんですよ!」 「……それでも、です」 職員の表情は苦し気に歪む。 彼も悩んで苦しんでいる。 出した結論が最善と信じられないまま、それでも最善であったと信じるしかないのだ。 「橋を、壊してください、周囲に被害が及ぶ前に、早く」 ただ、信じるしかないのだ。
カラスに灸を据える
狼煙 GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
とても簡単
報酬
ほんの少し
公開日
2019-04-10
予約期間
開始 2019-04-11 00:00
締切 2019-04-12 23:59
出発日
2019-04-17
完成予定
2019-04-27
参加人数
3 / 8
おいしい料理を食べた時、人は幸せになるという。心と体が満たされたことにより、幸福感を抱き、気持ちがあったかくなるからだ。 しかしそれとは逆の料理とは、気持ちを落胆させ、不愉快な感情を呼び起こす。最悪、殺意すら抱かせることがあるという。 (……さすがにそこまでは思われてないだろうけど、似たような思いだったんだろうな) そんな誰かが偉そうに言った言葉を思い出しながら、魔法学園フトゥールム・スクエアの料理人の一人、【ウトー・サオシ】は魔法学園の料理人休憩室でため息をつきながら、天を仰いだ。 魔法学園にある食堂は数多くの学生達が来てもいいように、広く清潔に作られている。 食事の種類も多様な種族に対応することが可能となるように、各種の野菜や魚介類、多様な肉類が豊富に揃っている。 しかしそんな彼らが、支度やまかない飯を食べるための場所である休憩室は、意外と質素で狭い。精々数人が入れば満員状態になるほどしか面積はなく、設置されたものもいくつかの机と椅子。私物入れ程度である。 そんな場所で彼は、今一度ため息をついた。 と、その休憩室のドアが開いた。 「おや、いたんですか、ウトーさん。お疲れ様です……って、どうかしたんですか?」 「これだよ」 若手の黒髪黒目の人間、【スユウ・ショソミ】が入ると同時に尋ねてきた。その顔は意外さを前面に押し出していたが、ウトーが顎でしゃくったその先にあるものを見たとき、それは苦笑いへと自然に変化した。 「ああ、あれですか、メニュー改善の要望ですね……」 「そうそう、確かに来るだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思わなかったよ……」 頭をかきながら、休憩室の片隅に山の様に積まれた投書をちらりと目の端で見た。筆跡や文章はそれぞれ違ったが、中身はほぼ同じ。『貧乏村人セットの改善』を望む声だった。 学園内の食事には貧乏村人セットと呼ばれる食事がある。その名称から色々と察することができる様に、値段も無料である。 しかし世の中には『タダより高い物はない』という言葉がある。 無料であればこそ油断してはいけない世の中、この貧乏村人セットもそれと同様、曲者であった。 このメニュー、有体に言ってしまえばてきとーで、微妙。 量だけは多いが、飯の味付けは深く考えて作られていない。食べても一応腹が膨れる、ただそれだけなのである。 「ま、確かに昨日出したようなメニューじゃ、改善を要求したくなる気持ちは分かるけどね」 ウトーはあるものを見やった。 それは自らが書いたものであり、改善要求にもつながったもの。つまり昨日の献立表だ。 上の方にはあるのは有料のメニューで、様々な種族もおいしく食べることができるよう、多種な材料を使った料理が書かれている。 そして一番下に書いてあるのが、貧乏村人セット。その内容は以下の様になっていた。 『料理長のストレス発散にも貢献! マッシュポテト』 『肉の大切さをかみしめよう! ハム2枚』 『フルパワーもやし炒め塩コショウ増量中』 炭水化物、たんぱく質、ビタミン類、と栄養学的に言えば決して不正解ともいえないが、それでもまともな食事とはいいがたいのは否定できない。改善要望がでるのが普通といえよう。 「味は仕方ないとしても量も少ないですね。確か本当は、これにトウモロコシを一本丸ごと焼くかゆでたのをつける予定でしたっけ?」 「そうそう、他の食事と比べてどうしても見劣りするこのセットを、何とか食べる分くらいは多くできないかと思って、トウモロコシをつける予定だったんだけどな……」 「あれが起きましたからねえ……」 2人ほぼ同時に嘆息しながら、つぶやいた。 『カラスがなあ……』 野生生物、その中でも鳥類というものは、果実や蔬菜の旬というものを非常に熟知していることが多い。最もおいしくなった時に食べられてしまうことは珍しくなく、多くの農家を悩ませているものである。それはこの魔法学園も同じであった。 魔法学園の片隅で栽培中だったトウモロコシ畑、収穫を明日に控えた完熟のそれが、カラス達に食い荒らされてしまったのである。 「あんときほど腸が煮えくり返る、って言葉をかみしめた時は無かったぞ。なんだって俺らのところのトウモロコシを食いやがったんだあの野郎は」 「多分いい餌場を見つけたとか、そんなくらいにしか思ってないんじゃないですかね? ほら、野生生物って餌をあげたらまたもらえると思っていつくって聞きますし」 至極まともにカラスの生態を考慮したうえでの解説、しかしそれが憂さを晴らすことにつながるはずもない。ウトーは顔を歪めながら頭をかいた。 「だったらそこら辺にいる昆虫でも食っていろよ。丹精込めたトウモロコシが餌扱いされるなんて、むかつくことこの上ないんだけど」 「飛び立つ姿しか確認できませんでしたけど、ちょっと普通のカラスより大きかったですし、恐らく昆虫程度じゃ栄養が足りないんでしょうね」 「だからって俺らのを食うんじゃないっての。違うものにしろよなー……カスミとかキリとかモヤとか」 「全部栄養になりそうにないものばかりなんですけど」 まるで吐き捨てるかのように語るウトー、そんな彼の心境に理解を示しつつ、その暗雲を何とか払うことができないか、スユウは思案していた。 と、そこである考えに思い至った。 「……どうでしょう、いっそ生徒達にこれを解決させるというのは」 つぶやく様に発したそれに、ウトーはまず無言で見つめて先を促した。 「自分たちが食べる食事ですよ、その分必死になって解決してくれるかもしれないし、『私にいい考えがある』と何かを言ってくる子もいるかもしれませんよ? そうでなくても解決に協力してくれる人が出ても不思議じゃないですよ」 「……悪くない考えかもしれんけど、俺じゃ出せるものも限られてるぞ? 報酬が少ないんじゃ、やる気が出ないんじゃないか?」 「確かにウトーさんの安月給じゃお礼は期待できませんけど、ことは毎日の食事に関わってきます。ここで何とかしないとご飯が貧しくなる。それを避けるためにやってやる! と判断してくれる人もいるかもしれませんよ?」 安月給は余計だ、と口では言いながらも、悪い話ではないかもしれない。ウトーはそう思っていた。 今回の主目的は野菜を守ること。それが叶えばいいのであってカラスを殺さなければならないわけではない。 つまり危険度は低い。戦いが苦手な生徒も関わることができるだろう。敷居が低ければ参加者も増えるかもしれない。 それに相手はカラス。仮に戦闘になったとしても深刻な被害にもならないのではないか。一般人ならともかく、これからの将来を担う彼らならば遅れをとることは万が一にもないだろう。 そういった思考の末に、ある考えにたどり着いたウトーは席を立ちあがって、こう言った。 「頼んでみるとするか」
魔物インセクトの討伐
秀典 GM
ジャンル
戦闘
タイプ
ショート
難易度
とても簡単
報酬
少し
公開日
2019-04-16
予約期間
開始 2019-04-17 00:00
締切 2019-04-18 23:59
出発日
2019-04-24
完成予定
2019-05-04
参加人数
6 / 8
フトゥールム・スクエアから西方にあるトルミンの町。 多くの観光客で賑わうこの町は、いわゆる温泉街というものだ。 冬は氷点下にもなるこの町に、壊滅的なダメージが与えられようとしていた。 町のかなり北にあるオミノ・ヴルカという活火山の、麓に広がる荒れた溶岩台地、マルカス・デガラス。 この地の地下にはいまだ活動を続けるマグマが広がっており、トルミンの温泉を作り出している。 その温泉の熱が、冬の間から今日にいたるまで、相当に温度が下がっていたのだ。 随分と気温も上がり、今もまだ温泉の熱は戻ってこない。 大温泉郷ギンザーン、中温泉郷ザ・ウォウ、秘境温泉地セミナルーゴ、旅館馬閣楼、トルミン商店街、トルミンふれあい牧場、 リストランテ・ビー・ワイルドに至るまで、町の全てに打撃がありそうなのである。 まだ湯として入れないことはないが、このままでは温泉街として致命的となりそうだと、トルミンの権力者、【馬場・カチョリーヌ】が自警団のギルッチ団へと調査を依頼した。 「行きなスカットン、温泉街の平和を守る為には、絶対に元凶を調べ上げるんだよ。さあ行きな!」 「おう、待ってなお袋、必ず調べ上げてやるぜ! じゃあ行くぜお前ら!」 「はい!」 「余裕ですよ!」 自警団のギルッチ団は、【馬場・スカットン】という、馬場・カチョリ―ヌの息子が団長を務めている。 溶岩台地、マルカス・デガラスは危険度も高く、何人かの精鋭を選び出す。 その精鋭と共に、馬場・スカットンが、母、馬場・カチョリ―ヌの依頼で、溶岩台地、マルカス・デガラスへと馬を走らせた。 魔物をすり抜けその地につくと、見たこともない魔物達が、冷えて固まった大地を掘り返し、地下にある溶岩を掘り出している。 掘り出された溶岩は、外気に触れて冷たくなり、直ぐに冷えて固まってしまう。 この魔物こそがトルミンの敵、人並に大きく、巨大なノミのような魔物が数十体。 「行くぜ野郎共、このまま前進だ。進めええええええええええええ!」 「はい、やってやります団長! たあああああああああ!」 「鍛え上げた剣技を見せてやります!」 馬場・スカットンの命により、ギルッチ団は果敢に敵へと立ち向かう。 相手はピョ~ンと上に大きく跳ね、体当たりぐらいしかしては来ない。 一体一体はゴブリンより弱いが、その数は膨大だった。 いくら弱いとは言っても、そこまで戦いなれていない団員達では、疲弊するばかりである。 だんだんと団員にも怪我人が増えて、数により押され始めた。 温泉街を護る為とはいえ、これは団だけで護れるレベルではなかったのだ。 「だだだだ団長、これでは団員の身が持ちません! 一度撤退を!」 「これは無理です!」 「クッ、確かに数が多すぎるな。怪我人も増えているじゃねぇか。口惜しいが俺達だけじゃどうにもなんねぇ。撤退してフトゥールム・スクエアに応援を要請するぞ! 全員後退、戦場から撤退するぞ! 全員撤退だあああああああ!」 馬場・スカットンは、魔物の大群から団を引き、即日フトゥールム・スクエアに文が出された。 文は無事学園長に届けられ、その対応は教師の一人である【レインメース・シャロライン】に預けられた。 その教師により、トルミンの町のピンチという事で、すぐさま討伐隊が編成される。 「学生諸君、トルミンの町にピンチが訪れた! 敵勢戦力は多数、五十を超えると思われる! だが安心しろ、個体の能力はゴブリンより低い。力を合わせれば、必ずや打ち倒せるだろう! なお、今後この魔物の名称はインセクトと呼称する。さあ我こそはと思うものは、その手をあげるんだ!」 こうして集められた人員は、すぐさまトルミンの町へと送り出されたのだった。
脱獄大作戦
孔明 GM
ジャンル
シリアス
タイプ
ショート
難易度
簡単
報酬
通常
公開日
2019-04-14
予約期間
開始 2019-04-15 00:00
締切 2019-04-16 23:59
出発日
2019-04-22
完成予定
2019-05-02
参加人数
5 / 8
魔法学園フトゥールム・スクエアは通常のカリキュラム以外にも、ギルドにくるような依頼を受けて生徒を派遣することがある。 生徒に勇者としての実地体験を積ませつつ、世間における学園での印象を上げることもできるため、学園はこの手の依頼を広く集めていた。 依頼内容も様々で街を襲い住みついたドラゴンの討伐なんていう難易度の極めて高いものもあれば、お手伝いの延長のような簡単なものもある。 そして今日も学園に一つの依頼が舞い込んできた。しかしその依頼の余りの突飛さに、受付をしていた学園教師の【スペンサー・バーナード】教授は目を丸くすることになった。 「……失礼。耳が遠いなんてことはなかったが、もしかしたら聞き間違えたかもしれない。もう一度依頼内容を言ってもらえるかな、マダム」 ずれかけたサングラスを戻しながらバーナード教授が言う。額には冷や汗が滲んでいた。 「何度でも言ってやるよ」 バーナード教授の向かい側に座る【マダム・ダイソン】はゴリラのように太ましい体を揺らしながら口を開く。張り手をすればこの部屋にある木製のドアなど、木っ端微塵となって吹き飛んでしまうだろう。 「うちの夫を脱獄させるのに手を貸して欲しいんだよ!!」 「……」 念のために繰り返すがここは魔法学園フトゥールム・スクエアである。次世代の勇者を育成させるための学校だ。断じて犯罪者養成学校ではない。 マダム・ダイソンのやっていることは、言うなれば火消に放火を依頼するようなものだ。 「正気かな、マダム」 「当然さ! これが狂った奴の目に見えるのかい!?」 大きな顔でらんらんと輝く虎のような眼には、強い意志が感じられる。乱暴な言葉を吐いた口のある顔は、凶悪かつ凶暴ではあったが狂気はなかった。 精神安定の魔法薬を処方しようかと懐に手を伸ばしたバーナード教授は、仕方ないと嘆息する。 「勇者を育成するための学園に、犯罪協力を依頼にきたのは……まぁ膨大な前例の中にはなくはないだろうが、私の知る限りでは初めてだ。しかしどうも込み入った事情があるようだし、一から事情を説明をして頂きたい。ただし場合によってはこの場で貴女を拘束せねばならないことを、前もって忠告させていただく」 「ここにきた甲斐があったよ。ここにくるまでに寄ったギルドじゃ、碌に話も聞かないで門前払いされてきたからねぇ」 (それはそうだ) マダム・ダイソンは少しだけ気分を良くしたようで、落ち着いた口調で話し始めた。 彼女の夫の名前は【シン・ダイソン】で職業は主に魔物の討伐を専門とした猟師だという。故郷では腕のいい猟師として評判だったそうだが、国の開発計画のせいで猟師を続けられなくなったため、引っ越しをしたのだとか。 そこまでならよくある話だが、彼にとっての不幸は引っ越し先の代官がケチで守銭奴の上に不公平な男だったことだろう。ケチで守銭奴だけなら場合によっては長所にもなりうるのだが、ここに不公平まで加わればどうしようもない。実際代官の【モーコウ】はどうしようもない男だった。 「引っ越しして暫くして猟師として再出発しようって時に、凶暴なジャバウォックが出没してね。代官のモーコウの野郎がジャバウォックを討伐した猟師か冒険者には、多額の報奨金を出すって布告したんだよ」 当然猟師をするために引っ越してきたシン・ダイソンは、喜び勇んでジャバウォック狩りに出かけ見事に討伐に成功した。 これでもしも代官が約束を履行していれば何も問題にはならなかっただろう。 「代官は報奨金を支払わなかった。まだ引っ越し手続きが住んでないからだとか、そういう屁理屈を並び立てて一銭たりとも出そうとはしなかったんだよ。当然、主人は文句を言った! だけど代官のモーコウはそれをつっぱねるどころか、猟師なんて仕事は下賤だ、とか侮辱したらしくてね。それで……」 「それで?」 「その場で代官の顔面殴り飛ばして、鼻の骨をへし折ったらしいんだよねぇ。いやぁ、流石はアタシが旦那に選んだ男だよ!」 マダム・ダイソンは夫を誇るように言った。 バーナード教授は夫のシン・ダイソンと会ったことも話したこともないが、間違いなくダイソン夫婦は似たもの同士であろうと確信する。 「短絡的すぎるだろう」 「はっ! 公衆の面前で男を侮辱したんだ! 殺されたって文句は言えないだろう!」 どうやらマダム・ダイソンは任侠の精神をもっているようだ。ヤクザの妻になればいい姉御に、山賊の亭主になれば立派な女頭領になったに違いない。 「で、捕まって監獄に叩き込まれたわけか」 「その通りだよ! で、主人が男を見せたからには妻としちゃ女を見せなきゃならないだろう? 監獄には私の親戚の【カズ】って男が看守として勤めてて、アタシに協力してくれるって約束してくれたけど、二人だけじゃ牢破りは難しい。だからここに調達にきたってわけさ」 「話は理解した。だがそういうことなら脱獄の協力などを依頼するより、代官より上の職にある者に現状を訴え、公平なる裁きを求めるべきだろう」 「……代官の上にいる領主様に訴えようにも時間がかかる。噂じゃ領主はそう悪い人間じゃないらしいし、訴えを聞いてくれれば主人を出所させられるかもねぇ。けどそんな時間はないんだよ」 「というと?」 「主人の死刑執行日が近いんだよっ!」 なんでもシン・ダイソンは代官に対しての暴行傷害、殺人未遂、反逆未遂、危険生物取り扱い違反など十七の罪状で死刑が確定しているそうだ。うち暴行傷害以外は完全なる冤罪で、代官の腹いせであることは間違いないという。 初めてバーナード教授はこの厳つい夫人に好感を抱いた。乱暴な口調も全ては夫を死なせたくない一心だったのだろう。 「しかし代官に非があるとはいえ、悪法も法であることに変わりない。その代官が今後も代官であり続けられるかはともかく、現状でマダムの夫を脱獄させることは明確な犯罪行為にあたる。生徒にやらせるわけには――」 「なになに、バーちゃん。面白い依頼受けてるじゃん! オーケーオーケー! 引き受けよう、その依頼!」 「なっ!?」 バーナード教授が今日最大級の驚愕で、顔面を歪ませた。空いた口は開いたまま閉じない。 少女そのものの童顔に豊満な胸、なによりも内包した測定できないほどの魔力。学園長の【メメ・メメル】がそこにいた。 「が、学園長。引き受けるとは一体どういうことですか?」 どこまで聞いていただとか、いつの間にこの部屋にだとかは今更言いはしなかった。 彼女にそんな常識的な質問がどれだけ無意味なのか理解していたからである。 「言葉通りさ。このメメたんの責任で、彼女の依頼は引き受ける!」 「ほ、本当かい!」 まさかのこの学園最高権力者からの助け舟に、マダム・ダイソンは顔を明るくさせた。 バーナード教授は頭を抱えながら、無駄な抵抗だと思いながら食い下がる。 「……幾ら貴女でも、問題になりませんか?」 「へーきへーき! このオレサマに不可能はないんだから、大船に乗った気でいたまえよ~! ってなわけで依頼を受ける生徒の募集ヨロね、バーちゃん☆」 「はぁ。……分かりました。直ぐに手配しましょう。あとその呼び方は止めて頂きたい」 肺の中の空気を全て絞り出す巨大な溜息をつくと、バーナード教授は依頼の手配を始めた。
星の瞬く間に
七四六明 GM
ジャンル
戦闘
タイプ
ショート
難易度
簡単
報酬
ほんの少し
公開日
2019-04-09
予約期間
開始 2019-04-10 00:00
締切 2019-04-11 23:59
出発日
2019-04-18
完成予定
2019-04-28
参加人数
5 / 8
学園都市『レゼント』に、今年も、次代の勇者を目指す勇者候補生達が集結する。 各個の努力と研鑽の果て、入学許可を得てついに、憧れの勇者育成機関――魔法学園『フトゥールム・スクエア』への入学を決め、入寮のために世界各国から続々と多種多様な人種の若者達が門を叩く。 この中の誰かが、もしくは彼らが、次代の勇者とその一行となるかもしれない。そんな期待を胸に、または不安をも胸に、来週に入学を控えたある日の夜。 緊張のためか、不安のためか、なかなか寝付けずに夜を更かす若者が数人。 そんな静寂に包まれる夜の『レゼント』に、突如一体のオークが侵入し、若者らと対峙する。 自分達にはまだ、オークを倒せるだけの術はない。剣も魔法もまだまだで、腕前だってオークを倒せるレベルにはないだろうことは明白。 しかし放っておけば、民間人への被害は甚大である。ならば放っておけるものか。 夜を更かしていた若者らは一丸となって協力し、学園の先輩方が駆けつけるまでの時間稼ぎと避難誘導を買って出た。 これは彼らの、後の次代勇者パーティとなるかもしれないチーム結成に繋がる、きっかけと出会いの物語となるやもしれぬ話。 星の瞬く間に起きた、短い戦いの物語。
飛べないグリフォン
GM
ジャンル
ハートフル
タイプ
ショート
難易度
簡単
報酬
少し
公開日
2019-04-08
予約期間
開始 2019-04-09 00:00
締切 2019-04-10 23:59
出発日
2019-04-16
完成予定
2019-04-26
参加人数
3 / 8
●飛べないグリフォン 鷲の顔に翼、ライオンの胴体、のそのそと優雅な四足歩行。 狂暴そうな一面も持つものの、どこか憎めないある種の萌えキャラ。 その名は、グリフォン。 魔法学園フトゥールム・スクエアでは多数のグリフォンを飼育している。 主な用途は、移動手段だ。 学園敷地内には少なくない数のグリフォン乗り場が存在する。 グリフォン第一委員会には、グリフォン管理の一部が任されているが……。 皆さんの入学開始早々、ちょっとしたトラブルが起きた。 「おい? このグリフォン、成長する度に翼の形がおかしくなってないか?」 「ん? 成長途中か変種じゃないか? 『グリフォン』としては機能するだろう?」 飼育員たちは子どものグリフォンの様子がおかしいと心配していた。 翼の形が中途半端というか、半分ぐらい壊れているような姿だ。 もっとも、物は試しであり、飛べるならばそれで問題はない。 翌日、飛行テストをするものの……。 「ダメだ! こいつ全く飛べない!」 「え? まずいね? それじゃあ乗用の『グリフォン』として機能しないでしょう?」 「くぅぅぅ……」 グリフォン本人は、やり取りを理解しているのかいないのか、どこか悲しそうだ。 しかし、自分が『飛べなかった』ことは自分が一番理解している。 これから何か悪いことが起こるのか、とでもいうかのようにぶるぶる身震いしていた。 ●グリフォン第一委員会からのお願い ある日、魔法学園フトゥールム・スクエアの掲示板にとある張り紙が出された。 *** 学園の皆様、こんにちは! 私たちはグリフォン第一委員会です。 突然ですが、私たちからお願いがあります。 現在、委員会管理下で飼育している子どものグリフォンの処遇について悩んでいます。 実は、その子どものグリフォン、翼の形が壊れていて飛べません。 つまり、乗用のグリフォンとして将来的に機能できる見込みがないということです。 物騒な話ですが、殺処分も検討されています。 ですが、我々としても、できる限り穏便な方向で解決策を見つけたいと考えています。 そこでですが、問題となるグリフォンの処遇や今後について一緒に対策して頂けないでしょうか? 私たちがこう言うのも変ですが、グリフォンは乗用として機能しなければ生きられない訳ではないと思います。 もしかしたら、違う生き方や利用方法もあるかもしれません。 どうか、行き詰っている私たちにお知恵を貸して頂けないでしょうか。 どうぞよろしくお願いいたします。 グリフォン第一委員会一同より *** 困っているグリフォン第一委員会と殺処分寸前のグリフォンを救うのは……。 新入生のあなたかもしれない!?
天井裏より愛を込めて
桂木京介 GM
ジャンル
冒険
タイプ
ショート
難易度
簡単
報酬
少し
公開日
2019-04-13
予約期間
開始 2019-04-14 00:00
締切 2019-04-15 23:59
出発日
2019-04-20
完成予定
2019-04-30
参加人数
8 / 8
「ゴドー!」 ワイシャツ、ネクタイの上にオレンジ色のダッフルコートを着た姿が、こちらに向けて片手を振っている。 これを見るや教師【ゴドワルド・ゴドリー】は、通常の三倍増しの早足になり彼の眼前五十センチ前後まで歩み寄って、 「……言ったはずだろう。学校内では『ゴドワルド先生』と呼べ……!」 元旦のおみくじで三回連続『凶』の卦が出たような顔を見せ、ささやくような口調で、しかし深みとコクのある声(ドスが効いているともいう)でスゴんだのだった。たぶん生徒たちに聞かせたくなかったからこその小声だったのだろうが、ちょうど風がやんだところだったこともあり丸聞こえだったりする。 「ごめん。『ゴドワルド先生』、新入生をたくさん連れてきてくれたんだね。嬉しいよ」 よろしく、とその教師は集まった面々に告げた。玩具付きチョコレート菓子をもらったばかりの少年みたいな笑顔だ。 すっきりした顔立ちで柔和そうなタレ目、くすんだ金髪。いわゆる鼻眼鏡をちょんとかけている。ゴドワルドよりいくらか背が低い。 「僕は【イアン・キタザト】、錬金術の教師だよ」 と、キタザトは隣に立つゴドワルドを見上げて、 「彼、ゴドー……」 「ゴドワルド」 間髪をいれずボソッとゴドリーは注意喚起する。 「ゴドー……ワルド先生とは幼馴染なんだ」 ニコニコとキタザトはいうのだが、ゴドリーの考えは違うらしい。 「キタザト先生その情報は、今日の話にはまったく関係がないと思いますが」 冷たいけれども丁寧に言った。もともと三白眼気味の目を、ますます白面積多めにしてキタザトに向けている。 幼馴染、という言葉に内心、驚く生徒も少なくなかった。猫背気味、不健康そうな蓬髪に無精髭、いつも徹夜明けみたいに青白い顔色をしたゴドワルドと、童顔でつやつやして育ちが良さそうな、もっというとゴールデンレトリバーの子犬のようなキタザトが、同じ文化のもとで育ったようとは思えない。年だってキタザトのほうが五歳は下に見えた。 けれどもキタザトは、ゴドリーの反応にはまるで頓着していないようだ。 「それで今日は、僕からの依頼なんだけどね」 やっぱりニコニコと、けれども、困ってるんだと彼は言う。 魔法学園フトゥールム・スクエアには複数の校舎がある。複数、というより、かなり沢山と言ったほうがいいかもしれない。 そんな校舎のひとつに、『旧実験棟』と通称される古い建物があるのだ。木造で、しかもかなりの年月を経てたきたらしく、内部には古木とワックスの匂いがしみついていた。 「旧実験棟は最近ではほとんど使われてないんだ。廃屋みたいなものだよ」 その旧実験棟に骸骨怪物(スケルトン)が現れるという。歩く人型の白骨だ。汚れた歯みたいな黄ばんだ色をして、同じく骨製の剣や盾で武装しているらしい。出現時間は夕方から夜にかけて、いわゆる逢魔が時というやつだろう。 「このスケルトン、おばけとかそういうたぐいじゃなくって、どうも古い時代の魔法実験の残留物かなにかみたいなんだよね……」 首をかしげながらキタザトは言うのだ。そもそも『リバイバル』という立派な(?)霊体種族が存在するこの界隈では、『おばけ』のほうがよほどリアリティがあるのだった。 「つまり、その正体をつきとめて退治してほしい――ということですね」 ゴドリーが締めくくる。一応、教師らしくするためキタザトには敬語で話しているのだが、キタザトのほうは全然配慮していなかった。 「そういうこと! さすがゴド、ワルド先生。冴えてるね」 「冴えてるもなにも、この流れからしたらそれ以外の内容は思いつかんだろうが……ですね、キタザト先生」 ゴドリーの口調は微妙になりつつある。 「旧実験棟は四階建てなんだ。途中、封鎖されている階段や通行止めがあるから回避しつつ進んでね。骸骨怪物の出所は天井裏が怪しいと僕はにらんでいるんだ」 なにせ廃屋寸前の建物だ。床板が抜けたり壁が崩れてきたりと、建物自体が障害になることだろう。天井裏とくればなおさらだ。 そんな足場の悪い状況での探検と戦闘も、きっと貴重な体験になるに違いない! 「頑張ってね。無事に戻れたら、今夜はゴドワルド先生が手料理を振る舞ってくれるそうだよ」 「そんな話聞いてないぞ!」 やめんか! とゴドリーは威嚇するようなポーズを取った。 しかし、 「ところで脳内奥さんはお元気?」 とキタザトに訊かれた瞬間、 「……ノーコメントだ」 ぷいと背中を向けてしまう。 どうもゴドリーも、彼が相手だと調子が狂うらしい。 かくて君たちは、ニコニコ顔のキタザトと背を向けるゴドリーと、傾きかけた太陽に見送られつつ旧実験棟に踏み込むのだった。
ドキドキ☆春の個人面談っ!
桂木京介 GM
ジャンル
日常
タイプ
EX
難易度
とても簡単
報酬
ほんの少し
公開日
2019-04-04
予約期間
開始 2019-04-05 00:00
締切 2019-04-06 23:59
出発日
2019-04-13
完成予定
2019-04-23
参加人数
8 / 8
オレンジ色の夕陽が射し込んでいる。 中途半端に引かれたカーテンが、春風に吹かれクラゲのように揺れている。 君はいま教室の中央で、向かいあわせに設置された机のひとつについていた。 教室は無人だ。君と、【コルネ・ワルフルド】先生以外は……! 「んっと~☆」 先生がペラペラとめくっている手元のボードには、君に関する情報が集められているようだ。入学願書とかここまでの成績表とか、面談前に書くよう手渡された簡単なアンケートとか、そういったもろもろだろう。付箋がやたらペタペタ張り付けられているあたりが、ちょっと気になるところではある。 すこし難しい顔をしていたコルネ先生が、資料をめくる手を止めて顔を上げた。 「じゃあ……」 ぐいと先生は前のめりになった。 「君のこと聞いちゃおっかな~☆」 はい、と思わず君も前のめりになる。 なんだか、いい匂いがした。 ◆ ◆ ◆ 君はなにを語るのだろう。 授業に対する現状や不満? 学園生活の悩みごと? はたまた学生寮の不備についてだろうか。 ここまでの生い立ちや好きな教科、クラブ活動の状況や希望、これからの進路や将来の夢など、話題はたくさんあるだろう。 先生のほうに逆質問したって、まったくもって構わない。むしろ質問責めにして、先生を困らせてしまおうか? 君の面談を受け持つのは誰だろう。 コルネ先生はもちろんのこと、いつもマイペースな【メメ・メメル】校長、授業で出会った印象的な教師、憧れの先輩生徒だって話をしてくれる。 なんとまさかの【ツリーフォレストマン】も出てくるらしい。ツリーとなにを話せと!? 面談といっても、教室で向かい合うという形式だけじゃない。ここは自由な学園フトゥールム・スクエアなのだ。 喫茶店で軽食を楽しみながらとか、アウトドアで釣り糸を垂れながらとか、ジョギングで息を切らしながらとか、ありとあらゆる面談スタイルがあると思う。 期待に胸を膨らませよう。 ちょっと緊張しても大丈夫。 ドキドキな春の個人面談が、さあ、はじまる!
祖父は覚えていた
RGD GM
ジャンル
戦闘
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2019-04-01
予約期間
開始 2019-04-02 00:00
締切 2019-04-03 23:59
出発日
2019-04-09
完成予定
2019-04-19
参加人数
6 / 8
● 『じいちゃーん! 早く早くー! 俺もう頂上着いたよー!』 『アーカシ、もうちょっとゆっくり歩いてくれんか……爺ちゃんもう疲れたよ』 『だらしないなー。じゃ、ちょっと待っててよ。山ミカン取ってきてあげるから!』 『おいおいアーカシ。お前じゃまだ樹には登れないだろう。お前が怪我でもしたら爺ちゃんが婆ちゃんに殴られるよ』 『えー』 『じゃあ、もっとアーカシが大きくなったら、その時は山ミカンを採ってきてもらおうかな。出来るか? アーカシ』 『うん!』 ● フクロウ便が知らせてきた祖父が危篤状態にあるという報に、【アーカシ】という青年が生まれ故郷の村に戻ってきたのは5年ぶりの事だった。 村を出た時と何も変わっていない周囲の光景にしばし懐かしげに目を細めていたが、目的を思い出したかすぐに実家へと駆け戻る。 バン、と勢いよく扉を開ける。お茶を飲んでいた祖母が驚いたような表情でこちらを出迎えた。 「アーカシ! 早かったねえ。お前の父さんと馬で来るだろうから爺ちゃんの顔はもう見せられないだろうって言ってた所だよ」 「友達が運送の仕事してて、こっちに行くグリフォンに途中まで乗せて貰って来たんだよ。まだ、生きてるんだよね?」 「ああ、話は難しいだろうけど、まだ身体も光になってないよ。さ、お前の顔を爺ちゃんに見せてやっておくれ」 人は完全に死ぬと光の粒子と化し、骨すら残らず世界に融けて消えてしまう。その前にたどり着けたということはグリフォンの相乗りを許してくれた友人に今度酒でも奢らねばなるまい。 そんなことを思いつつ、焦る気持ちを抑えて祖父の寝室へと移動する。 「ほらあんた。アーカシだよ。あんたが危ないって連絡したら、駆けつけてくれたんだ。ありがたいねえ」 「……ァ、…………」 「爺ちゃん……」 ベッドに横たわる祖父の痩せこけた手を握り、それ以上の言葉が出せない。 最早物を満足に食べることもままならないのだろう。頬はこけ、横たわる身体は記憶よりも一回り小さい。 何かを喋ろうと祖父が口を動かしても、声にならない空気の流れがわずかに部屋の中を動かすのみだ。何かを伝えたいのは分かるのに、それを解する手段が無いことがもどかしくてたまらない。 一目でわかる、もう手の施しようがない老衰だ。むしろ立派に生きたと胸を張って良いくらいだろう。 「なあ、爺ちゃん。何か食べたいものとか無いのか? 俺、買ってくるよ」 買っても食べられないだろうことは分かる。だが、まだ生きている祖父に何かをしてやりたい一心で、アーカシは祖父の耳元でゆっくりと聞かせるように問いかけた。 けれど返ってくるのは、言葉として理解できない吐息だけだった。もどかしさと無力さに、息が詰まる。 「それなんだがな、アーカシ」 声のした背後を振り返る。自分が戻ってきたという報を聞いて来たのだろう、父親が母親を伴って立っていた。 「お前、今からフトゥールム・スクエアへ行ってもらえないか?」 ● フトゥールム・スクエアと村はそこまで距離が離れていないのが幸いし、その日のうちにアーカシの依頼は教室に張り出されることとなった。 「勇者の皆さん、お集まりいただいてありがとうございます。アーカシって言います。今回お願いしたいのは、俺の村の近くにある、スィーデって山の頂上までの護衛です」 「スィーデって、15、6年くらい前だったかな。魔物が住み着いたって山?」 教師の問いかけにアーカシは「ええ」と頷いて、 「厳密には山頂付近に住み着いた、ですね。当時も討伐するかどうかでちょっと話し合いがあったらしいです。結局は山頂に行く用事も殆ど無いし、向こうも麓に降りてきてこっちを襲うようなことも無いから放っておこうってことになったって聞いてます」 「で、その山にどういう用事なの?」 「俺の祖父がちょっと危ない状況なんですね。正直、明日光になって消えてもおかしくない感じです。でも、まだ喋れるだけの元気があった頃に、山オレンジが食べたいと言っていたそうなんです」 そこまで喋ってから、アーカシは数秒の間を置いて息を整えた。 「『山オレンジ』ってのはスィーデの山頂の樹になる、オレンジみたいな実のことです。村での俗称なんですけどね。俺もまだ魔物が出てこなかった頃、連れてって貰って食べたことあったりしました」 「成程。つまり、それを採りに山頂まで行きたいけれど、魔物がいて危ないから護衛が欲しい、ってことだね」 そういうことです、と頷いたアーカシに頷き返すと、教師は勇者候補生の方へと視線を向けた。 「ここからは私がちょっと補足しようかな。スィーデに住み着いてる魔物って基本的には手出しされない限り襲ってこないタイプが多いんだけど、一種類だけ暴れん坊がいるんだよね。レインボウモンキーって言って、火とか水とかの属性を個体ごとに持った猿みたいな魔物だね。どの属性持ちなのかは体色で判別できると思うよ」 黒板にデフォルメされた猿を描きながら、教師は付け足すように再び口を開いた。 「ああ、ちなみに猿っぽいからってバナナで釣ろうとか考えちゃだめだよ。人間から餌が出ると分かったら人を襲い始める危険があるからね」 ちょっとおさらいしようか、と教師が黒板に白墨で文字を書き連ねる。 世界のありとあらゆるものには魔力が宿っており、その魔力には『属性』と呼ばれる性質が秘められている。 属性間には相性が存在しており、相性のいい属性を持つ者に攻撃するならその威力は上がるだろうし、相性の悪い者が相手なら逆に威力は弱まってしまう。 「この辺は各々授業の内容を思い出しておくこと。今日はもう遅いから明日の朝から山に向かって貰うことになる。夜の山は危険だからね、どんなに急いでいようとも許可できない。アーカシさんもそれでいいね?」 「はい。護衛を受けて頂けるだけでもありがたいですから。皆さん、改めてよろしくお願いします」 勇者候補生に向けて、アーカシは深く頭を下げた。 ● 翌日、勇者候補生たちはアーカシを伴いスィーデの山道を進んでいた。 スィーデという山は標高自体はそれほど高い訳ではない上、子供でも数時間あれば頂上までたどり着ける程度に傾斜もなだらかな山だ。 魔物が出てこなかった頃は村人たちの憩いの場として親しまれていたのだろうが、今となってはかつての山道にも草が生い茂り、周囲の木々からは枝が道を塞ぐように伸びているため中々登りにくい。 「そういえば、山ミカンなんですけどね。あれすっげえ酸っぱいんですよ」 何度目かの休憩の最中、ふとアーカシがそんなことを言い出した。 「野生の物だから栄養も日当たりもそんな良くないし、当然なんですけどね。でも、なんで爺ちゃんはそんな物食べたいなんて言い出したんでしょうね。俺が出稼ぎに出ないといけない程度に貧しい村ですけど、果物食いたきゃもっと美味い物だってある筈なんですよ」 そこまで呟いた時だった。不意に周囲の鳥が一斉にその場を飛び去った。 続いて登山道の奥から興奮気味にこちらへ近づいてくる猿が三体。それぞれ体色は赤・黄・黒。火、雷、闇属性持ちのレインボウモンキーだろう。 「もしかしたら魔物に合わないで済むかもって思ってたけど、無理でしたね……すみません、皆さん。よろしくお願いします。あいつらを追っ払えれば頂上はすぐです」 言葉を託し、アーカシは邪魔にならないようにと退く。 それを見計らったかのように、三匹の猿が勇者候補生目がけて襲い掛かってきた。
魔法学園成長記
〜☆Wi☆〜 GM
ジャンル
冒険
タイプ
ショート
難易度
とても簡単
報酬
少し
公開日
2019-03-31
予約期間
開始 2019-04-01 00:00
締切 2019-04-02 23:59
出発日
2019-04-09
完成予定
2019-04-19
参加人数
3 / 8
暖かな風に背を押され、桜の吹雪く大きな校門を潜る生徒達。 ここ魔法学園『フトゥールム・スクエア』に、今年も春がやって来た。 明るく、爽やかな教室には沢山の生徒達が楽しそうに会話している。 他にも荷物を広げている生徒やまじめに授業の予習をしている生徒もいる。 始業のチャイムが鳴り響くと同時に教室の前の扉が勢いよく開き、生徒の視線を一気に集める。 腰ほどにまである黒い髪、キリっとした顔立ち。 体も出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいると文句のないような体つきをしている。 「皆、入学おめでとう。私の名は【ユリカ・クレスティア】だ。ユリカ先生とでも呼んでくれ」 とたくましい女声が響く ユリカ先生は長い足で堂々と教卓に歩み寄る。 「さて、一旦席についていただこうか」 先生の声でクラス中の生徒たちが一斉に自分の席に戻る。 皆が席に着くのを確認し、ユリカ先生は腕を組んだ。 「よし、では進めさせてもらおう。普通初日には自己紹介をするものであるが、それは少し置いておこう。そして、突然の発表で申し訳ないのだがお前たちの今現在の実力を図るためのテストが行われる」 突然の発表にクラス中がどよめく。 「一応最後まで聞いてくれるか?」 ユリカ先生の声掛けに再度クラスは静かになる。 「よし、ありがとう。では、詳しく説明させてもらおう。今のお前達の実力は未知数だから、相応の授業ができないかもしれない。そうすると、大切な授業を無駄にしてしまう可能性もある。だから、少し難しいかもしれないが、クラスの皆で協力して頑張ってほしい。実力テストなので我々教師は原則として多くの助言はできない」 この言葉を聞いて、クラスが固まる。 「が、ある程度の知識は無いといけないからな。少しだけお前達にヒントをやろう」 という言葉に生徒の顔が明るくなる。 「さて、皆の知識の中に『ゴブリン』が悪い生き物だということは分かるよな?」 クラス全員の生徒の首が縦に動く。 「さすがだ。ではゴブリンの生態を詳しく知っている者はいるか?」 今度の質問には誰の首も動かなかった。 「よし、ここから始めよう。テストの内容に深く関わるから書き留めておいたほうがいいかもな」 先生の言葉に反応した生徒達が一斉に鞄を漁る。 「さて、まずゴブリンは人間の赤子ほどの大きさしかない小さな緑色の豚のような生命体だ。個体の半分くらいの大きさの木の棍棒で攻撃してくる。また、それぞれのゴブリンは角笛を所有しており、自分の身が危険に陥ると周囲に敵がいることを知らせる習性がある。なるべく静かに倒していくのがいいかと思う」 先生は黒板に絵を描き始める。 「確かに一体だけでは雑魚な相手かもしれない。しかし集団になられると……この通り、少し厄介な敵になってくる。まぁ、大体一つの巣に二十から三十匹位いると考えて間違いはないだろう」 自身の絵を指しながらの授業は非常に分かりやすかった。 「さて、次にゴブリン親分の生態だ。親分は建物の一階部分ほどの大きさで見た目はゴブリンと変わらない。武器はゴブリンの物をそのまま大きくしたような感じで特に変わりはない。攻撃の特徴としては、一人を集中的に攻撃するということだ。試験においてお前たちに学園から渡されるものは松明のみ。武器や防具も個人の物のみ。つまり、案山子などによる誘導作戦はできないということだ。そうすると防御力の高い者が重要になってくるだろう。さらに親分の周りには取り巻きのゴブリンがいることも多いので、少数をそちらに向けても良いかもな。さらに全てのゴブリンに言えることとして、暗視能力が我々よりも優れている。巣内には松明が点々と設置してあるが、それだけでは視界確保は難しい。支給された松明の扱いにはくれぐれも注意するのだぞ」 教室中に芯鉛筆の音が響く。 「最後に巣だ。ゴブリンの巣型には様々な種類があるが、今回関係のあるものだけを説明しよう」 先生はまた絵を描き始める。 「これだ。まずすべての巣に言えることとして入り口が小さな盛り上がりになっている。その下に何本もの通路が枝分かれしているのが『迷宮型』。中の通路は約二メートル程と大きめだ。巣全体を見れば地上からの深さは七百メートル程とかなり深い。ボス部屋は半径十メートル程の半球形だ」 皆の書き手が止まるのを見て 「では、試験内容を発表する。『迷宮型ゴブリンの巣の攻略。クリア条件全巣内ゴブリン、ゴブリン親分の討伐』だ。親分の習性として絶対に巣の最下層にいるから自然にすべてのゴブリンを倒しながら進めば遭遇できるであろう。ちなみに、洞窟の奥にはゴブリンの宝物庫がある。そこに入れば試験は終了だ。もし、雑魚を倒しきる前に親分の元へ行くと、巣中のゴブリンたちが集まってきてしまい、攻略が難航するかもしれないので注意するように」 先生は黒板に書いてあった絵や字を消して、 「よし、質問がないのであれば本日より六日後、試験開始とする。それまで私はあまり皆と関わることができない。すまないな。皆がそれぞれの未来を描くためにも協力して頑張ってほしい。万が一のことがあれば職員室にいる」 先生は日誌などを脇に抱え 「ではまた六日後に」 と教室を去っていった。 皆はゆっくりと立ち上がり一人づつ自己紹介を始めた。
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