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言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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古城に蠢くは魂狙う死霊 ウケッキ GM

ジャンル 冒険

タイプ EX

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-06-07

予約期間 開始 2021-06-08 00:00
締切 2021-06-09 23:59

出発日 2021-06-16

完成予定 2021-06-26

参加人数 3 / 8
 学園フトゥールム・スクエア。  その学園内の廊下をつまらなそうな表情をしつつ、歩いている少女がいる。  彼女はルネサンスの少女【リリア】。以前、学園の生徒達に村を救援してもらった少女だ。  豊かな双丘をゆさゆさと揺らしながら彼女は大きな溜め息をついた。 「うう、授業は大変だし……やること多いし……どうして魔王コースなんか、あうぅ」  そう彼女は学園に生徒として迎えられたが、とある手違いから魔王コースを選んでしまい、その豊富な授業内容に頭がパンク寸前なのである。  元より身体を動かすのが得意で頭の方はからっきしであるリリアにとって授業という慣れない勉強は非常に疲れるものであった。  そんな時、彼女がいつも向かう先は一つである。  それは学内、学外の悩みごとや困ったことの解決が依頼されている『依頼掲示板』の所だ。  そこには魔物討伐から今晩の夕飯のメニューを考えるまで様々な依頼が掲載されている。なおどこの誰が設置したのか、誰が管理しているのかは不明であり、また学園長の気まぐれではと噂されている。 「こう身体を動かせるような……魔物をぶっ飛ばす! みたいな感じの依頼とかないかなぁ」  ふわふわと魔方陣の中に浮いている掲示板を眺めるリリアの目に一つの依頼が留まる。  それをリリアはぺリっとはがすと内容をよく読み始めた。 「何々? えーと、学園都市近隣にある古城にて【ゴースト・レゾリアス】の出現を確認。討伐する心得のある者はこれを討伐するべし。おおっあるじゃんっ! あたし向きの依頼が! それに魔物をぶっ飛ばして懲らしめるなら地域の皆の為にもなるし、何より武力制圧ってのが魔王コースっぽい!」  リリアは紙に書かれていた最低参加人数を見て自分一人では参加できないということに気が付いた。  周りを見渡し、彼女はあなた達を見つけると笑顔で走って近づいてくる。これでもかと豊満な双丘がたゆんたゆんと揺れに揺れているが気にしてはいけない。 「なあ、あんた達もしかしてこの後ヒマか? ヒマだったらこいつの討伐依頼を手伝ってほしいんだ。なんか一人じゃ参加できないみたいだからさ」  ヒマだよと答えるや否やリリアはあなた達の手を取って走り出す。まだやるとは答えていないのだが。 「よーし、善は急げっていうからな! あたし達でゴースト……えっとなんだっけ?」  レゾリアスっていうみたいだよと教えるとにぱっと明るい笑顔をリリアはあなた達に向けた。 「そうそれ! それじゃ、レゾなんとかをみんなでぶっ飛ばすぞーーっ!」  こうしてあなた達はリリアに引っ張られるまま、ゴースト・レゾリアスの討伐に参加することとなったのであった。 ◆  学園都市近隣。古びた古城の正門前。  あなた達はぶるぶると震えるリリアにしがみ付かれた状態でその前に立っていた。  ゴースト・レゾリアスは夜にしか出現しない。その情報を頼りに夜になるのを待ち、リリアと共にやってきたのだ。  だがリリアは夜の古城の醸し出す何とも言えないおどろおどろしい雰囲気に気圧され、彼女の獣耳は怒られた子犬のように下に垂れ下がっている。  あなた達が大丈夫と聞くとリリアはがたがたと震える足を何とか抑え、それでも肩を小さくしながら今にも泣きそうな潤ませた瞳で言う。 「へ、平気、こ、このぐらい……なんとか、できないと! ま、魔王になんか、なれないからっ! 鉄拳制裁してやらなきゃ、人を困らせる魔――」  そこまでリリアが言った時点であなた達の近くで何か重い物が落ちる音がした。ずんっと言う音が響いた瞬間、リリアは飛び上がる。 「ぴぃいぎゃぁぁああーーーッ!? なんかでたぁぁああああーーーッ!?」  あなた達の制止も振り切り、リリアはなんと誘うように正門を開けた古城の中に走って行ってしまったのである。リリアを飲み込んだ正門はその直後、ばたんっと音を立てて閉まった。  駆け寄ったあなた達がなんとか開けようとしてもそれはびくともせず、武器で叩いても傷一つつくことはなかった。  リリアが心配だが正門からは侵入できないと考えたあなた達は周囲を探索、古びた地下通路を発見する。  リリアの無事を祈りつつ、あなた達は地下通路へと降りていった。 ◆  古びた古城。その謁見の間。  その玉座に座るローブ姿の男がいる。ローブの中は骸骨であり、その手には大きな鎌を持っていた。 「魂の香りがする……生者が性懲りもなく我が領域に足を踏み入れたか。まあ、いい。そろそろ退屈だと思っていた所だ。我自ら遊んでやるとしよう、その命が尽きるまで……な」  ゆっくりと立ち上がったローブの骸骨【ゴースト・レゾリアス】は足元に転がるしゃれこうべを踏み砕きながら歩く。それらはかつて彼に挑んだ者の末路だろうか。 「くっくっく、久々に楽しませてもらうとしようか。我が魔法、我が鎌の一撃……存分に味あわせてやろう、愚かな生者共よ」  眼球のない頭部の眼孔に赤い光を灯らせながらレゾリアスはゆっくりと謁見の間を出ていくのであった。
露払う者達 七四六明 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 とても難しい

報酬 通常

公開日 2021-06-05

予約期間 開始 2021-06-06 00:00
締切 2021-06-07 23:59

出発日 2021-06-14

完成予定 2021-06-24

参加人数 8 / 8
 夜闇、地面を穿たんとばかりに降り注ぐ雨粒が、静閑を裂く。  波紋重ねる公園の池。端から端へと掛かる一本橋。  傘差さず、刀を差して赴けば、魔鎧を纏う恩讐が、狂気と共に現れ出でる。  四つの腕で繰り広げる大立ち回り。命をば寄こせと襲う妄執が化身。  祖は驟雨(しゅうう)。宵闇の勇断(ゆうだち)也……。 「なぁんて。まぁ、えぇ様に言われたもんやなぁ。勇者を断つ怪物やから勇断(ゆうだち)たぁ、世間も言うてくれるやないか。なぁ? おまんら」  驟雨の持つ刀より作り出した妖刀、斬雨(きりさめ)暴走事件からおよそひと月半。  不甲斐なき兄弟子の失態を挽回すべく、自他共に剣の腕を磨く【白尾・刃】(しらお じん)は、到来しつつある梅雨の時期を感じながら、誰でもない相手に問いかける。  誰かに語り掛けているわけでもないので、返事こそないが、我こそはと刀剣の腕に自信のある生徒達が互いに互いを鼓舞し合い、士気を高め合う修練の成せる音が、代わりに返って来る。  それで充分。  が、だからと言って驟雨を倒す役を譲るつもりはない。  兄弟子の失態は、弟弟子が拭うのが礼儀と、次に斬雨へ挑戦する権利を得るため、刃もまた木刀を取る。 「さぁてぇ。ほな、うちの相手してくれる人おらへんのん? 何なら驟雨みたく、四人同時に相手したろやないか」  我こそは、と生徒達が名乗り上げようとする。  だがそこに、横槍ならぬ横刀が飛んで来て、刃のすぐ側を通過し、背後の壁に高い音を立てて真っ直ぐに突き刺さった。  他の生徒らの隙間を縫いながら、確実に刃を狙った投擲。躱していなければ、本当に危なかった。そんな剣呑な雰囲気を斬り裂かんとする呑気な声が、刀に続いて練習場に響く。 「はぁい。私、立候補しまぁす」  その場の誰も、見覚えはなかった。学年関係なく、誰もその人を知らない。唯一、自分へと歩み寄ってくる白髪の女性を知っている刃の顔色が、蒼白に塗り替わる。 「刃くんがどれだけ強くなったか、お姉ちゃん、見てみたいなぁ」 「ね、姉さん……! やのうて、大姉弟子!」 「もう、いいじゃない。実の姉弟なんだから。確かに大姉弟子でもあるけれど、お姉ちゃん、悲しいわ」 「あんさんがこっちにいるぅ言う事は……」 「うん、いるよ? もう、そこに」  刃を含め、その場の誰も気付けなかった。  刃の姉を自称する女性が先に投擲して突き刺さった刀の上に、黒髪の男が立っている事に。彼女に指され、振り返った事でやっと気付いた。 「お、大兄弟子……」 「……蹲(つくば)え、白の弟よ。【金剛・刀利】(こんごう とうり)の前である」  静かな言葉に圧し掛かられて、刃はすぐさま膝を突き、首を垂れる。  周囲もまた、男の黒い髪の下で輝く金色の双眸に、無駄口どころか行動の一切を封じられ、その場から動けなかった。 「何で、学園に……」 「灰の弟が失態を晒したと聞き、師匠よりの言伝を賜って来た。白の弟よ、黒の妹と共に来い」 「師匠がうちらをお呼びに……?!」 「怪物の件は知っている。学園側から度々師匠に、報告と相談がされていた。怪物の刀より討伐武器を作り上げたものの、使い手が見つからないと。灰の弟の失敗以降、使い手を育てているとも……不甲斐なし。師匠は二人の弟子と、怪物討伐に強い意欲を抱く学園生徒を呼んで来いとの事だ。ちなみに【銀鏡・十束】(ぎんきょう とつか)の同行は、予定になかったのだが……」 「私が刃くんの様子見に行きたいって言って、同行させて貰ったの。本当はお師匠のお世話もあったのに、刀利くんが説得してくれて……」 「銀の許嫁の頼みだ。断る理由がない」 「もう、刀利くんたら。恥ずかしいなぁ」  唐突に惚気が入ったが、最早、驚けない。  事態は転がるように勝手に進み続け、周囲に口を挟む余裕も猶予も与えてはくれない。  姉弟と言った二人の苗字が違う事を始め、刃の怯え様など、突っ込み所は多数あるはずなのに、誰も口を挟む事が出来なかった。  何より惚気文句を口にしながら、当の本人らは剣呑な雰囲気を保ったまま話を続けているのだから、第三者がこの空気を打ち壊す事は許されない。話は、未だ多くの野次馬の中、当事者らの間だけで続けられる。 「話を逸らしてしまった……白の弟よ。黒の妹並び、学園側の面々を揃えて来い。威勢のいいだけの雑魚を寄越してくれるなよ。鍛えてやると言うのに、死なれては困る」 「お言葉ですけど大兄弟子。ここには、威勢の良い生徒はいますが、雑魚はいてませんので」 「そうか。その言葉、信じるぞ。故に、失望させるな。せめてこの、斬時雨(きりしぐれ)を受けられるだけの奴が現れなければ……雨の怪物など倒せぬと知れ」  さながら、彼以外の時間が停止し、一瞬だけ空間が縮小されたかのように、刀利は全員の視線と意識を抜け、十束の背後にまで戻っていた。  彼は振り返る事無く、言伝を終えたからと何も告げず帰って行く。  ずっと惚気て、照れていた十束は刀利の足音が背後から聞こえてようやく事態に気が付き、刃にまたねと手を振ってから、刀利の後を追いかけて行った。  あっという間に二つの台風が過ぎ去り、練習場には静寂が積もる。一番に破ったのは、今の今まで実の姉と兄弟子に言われていた刃だった。 「とりあえずメメたんに報告して、正式に集うか。誘い文句は……そう、地獄が見たい奴だけ集まれ、や。半端な覚悟で来たら死ぬ、ってぇ脅し文句も添えてなぁ。はぁ、あ……大兄弟子相手の尻尾取りとかなったら、ヤやなぁ……」  雨の怪物への挑戦前の試練、来たる。
時の奇術師 ~切り取られた研究室~ SHUKA GM

ジャンル 推理

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-05-26

予約期間 開始 2021-05-27 00:00
締切 2021-05-28 23:59

出発日 2021-06-04

完成予定 2021-06-14

参加人数 7 / 8
 その日、部室棟が集まる敷地の一画にある魔術研究棟は静寂に包まれていた。  日中、それも学園が最も活気づく放課後の時間帯にもかかわらず、物音一つ立っていない。  周辺のいつも通りの喧噪の中で、その静けさが際立っている。 「なんですかね、これ?」 「なにかの悪戯ってわけではなさそうだな」  魔術研究棟を訪れた二人の生徒が顔を見合わせる。  中の様子に二人はただ戸惑うしかなかった。  まるで絵画を見ているかのように止まったまま何もかもが動いていない。  人が止まっているだけならまだ何らかの悪戯かとも思えるが、止まっているのは人だけではなかった。  生徒の手から滑り落ちた本が空中でピタリと動きを止めている。  発動中の水の魔術でさえ、そのままの状態で動きを止めているのだ。  いったいどれだけの力を籠めれば、こんな微動だにしない状態で魔術が維持できるのか。 「とにかくもう少し詳しく調べ……」  生徒の一人が中の様子をよく見ようと顔を近づける。  その瞬間、生徒の動きがぴたりと止まった。  その様子に隣の生徒がぎょっとする。 「おい、大丈夫か?」  そして肩を揺する隣の生徒もまた動きを止めてしまった――。 「これは、中の時間が止まっているのでしょうか?」 「いえ、本当に時間が止まっているのであれば光も止まり、中の様子は見る事が出来なくなるはずです」  それから少しして、異変に気付いた教師たちが研究棟に集まっていた。 「どうやらこの静止空間は少しずつ範囲を広げているようです。迂闊に近づかないよう気を付けてください」  髭をたくわえた老教師の視線の先では、建物の外で部活動に向かう生徒たちが歩く姿のまま動きを止めている。 「一定の範囲に近づくと動きを止められる。厄介なことにその空間は今尚広がり続けている、と」 「そういえば最近学園長が妙な『鳥籠』を持ち込んだそうですな。確か中に入れたものの時間を止める道具だとか」  若い教師たちが口々に言う。 「なにやら出来立ての料理を入れて遊……ゲフン、研究をされていたご様子でしたが」 「恐らく飽きて……こほん、解析に回したのでしょうが、何かトラブルがあったようですね」  それは【ニルバルディ・アロンダマークォル】により持ち込まれた魔術具だった。  組み込まれている魔術式や素材を解析して欲しいと彼がメメル学園長に依頼したものだ。 「とにかくこのまま放置していては学園全体の時が止まってしまうかもしれない。ここは全校生徒にも避難を呼びかけましょう。中には魔術に詳しかったり、素晴らしいアイデアを閃く生徒もいるかもしれません。有志を募って全校を挙げて解決に乗り出しましょう」  こうして学園の危機に対処すべく、教師たちは動き出したのだった。
雨の夜の歌い手 しばてん子 GM

ジャンル シリアス

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-05-28

予約期間 開始 2021-05-29 00:00
締切 2021-05-30 23:59

出発日 2021-06-04

完成予定 2021-06-14

参加人数 4 / 4
 ーー人はいくつもの仮面でいくつもの舞台を演じ。  ーー無数の音色で無数の旋律を奏で。  ーーひとつだけの糸を紡いでいく。  ーーけれど、この手にあるのは。  ーーはじめから割れた仮面。声に出せない音色。怯えるこころ。  ーーわたしを紡いでゆけるところは、どこ。誰か、教えて。  梅雨時、雨模様。  真夜中。  まばらに木々が並ぶ林の、少し開けた小川のほとり。  流行歌とは趣の違う詞の、ゆったりとしたテンポで……しかし強い感情が込められた歌。  どこかコロリとして可愛らしい印象を覚える、けれども伸びやかにどこまでも通っていくような芯の通った女声。それがカエルと虫とのコーラスと川のせせらぎ、そしてぽつぽつと落ちる雨音を背景にして、力強く響いていた。  暗闇の中、歌に魅了されているかのように群れ飛ぶホタルの光だけが、声の持ち主を淡く照らし姿を映し出している。  顔と表情とは、黒い傘に遮られうかがい知ることは出来ない。声とは雰囲気をいささか異にする長身を足下まで覆う、やはり黒いまといはローブだろうか雨具だろうか。  歌声の感情がますます強くなり、高く高く突き抜けていこうとしていた最中……ガサリと鳴った草の音にそれは中断された。  歌声の主は、はっとして音が鳴ったほうへ目をやったように見えた。だがそれは一瞬のこと、身をひるがえし反対側へ脱兎のごとく駆け出した。 「……気付かれた?!」  草木に紛れ様子をじっと隠れ見ていた青年は、こちらもあわてて飛び出し黒い人影を追う。  しかし声の主はその長身から想像し難い、ちょこちょことしたすばしっこい動きで真っ暗闇の木々の中をくぐり抜けていく。反対に青年は木の幹にぶつかり根に足を取られ、どんどんと距離を離されていく。  やがて完全に見えなくなってしまった人影を、それでも追いすがろうと青年は何度も転がりかけながら走る。  唐突にその眼前が開けた。林を抜けたのだ。  追いかけていた影は……どこにも見当たらない。 「はぁ、はぁ、どこへ……消えた?」  辺りに物陰は無い、近くの建物まで逃げられた? 森に戻った? それとも、走る以外の手段……箒?  考えを巡らせるが、見失ってしまった事実に変わりはない。  青年は肩を落とすと、先に見える建物……彼の職場、民宿のほうへと歩き始めた。  シュターニャの町外れ、ノルド川に注ぐ小さな支流の岸辺に散在する林。その近くに数件の民宿が立ち並ぶささやかな宿泊街は、中心街とは趣の異なる静かな環境を求める宿泊客に好まれてきた。  近頃そこにささいな、しかし深刻な事件が起きていた。 『毎夜毎夜、どこか遠くから女の歌が聞こえてくる』  ある客は薄気味悪がり、ある客は不快な音と感じ。何にせよ心地よい眠りを妨げるそれをよく思う宿泊客は、いるはずもなかった。  賑わう商業都市にゴシップが広まるのは早い。  実際、客足には悪い影響が出始めている。更には興味本位で林に入り込む者も出始めているらしい。  このままでは、客も静けさもますます遠のいてしまう。  危機感を覚えたそれぞれの宿の主人たちは話し合い、まずは声の正体を突き止めようと数人の従業員を使い、深夜に辺り一面を捜索させていた。そのうちのひとりの青年が、数日かけてようやく現場を突き止めたのだが。 「しかしなあ……顔はちゃんと見えなかったけど、ここらで見かける感じの女性じゃなかったよな……」  長身。可愛らしさのある声。兼ね備えた人物は思い当たらなかった。  どこから来たのか、ましてや何の目的で夜中に歌っているのか。皆目見当がつかない。  それに今しがた見たあの身のこなし。仮に彼女をまた見つけることができたとしても、そこから先の対処は素人の自分たちの手に負えるものとは思えなかった。 「こうなるって半分わかってたから、最初から学園へ話を持っていこうって言ったのに。旦那さんたちは体面ばかり気にして、まったく」  とはいえ、今日自分が体験した話を持ち帰れば上の方針も変わるだろう。  冷える腕をさすりつつ、青年は帰路を急ぎ、裏口から民宿へ戻った。  青年がそれに気付かなかったのは、仕方のないことかもしれない。  自分自身が雨と汗とで、ぐっしょりと濡れていたからだ。  しかし彼が入る前に裏口の床には……いくら雨天とはいえ……深夜の出入りの頻度ではあり得ないほど大量のしずくが、確かにこぼれ落ちていた。
ミラちゃん家――呪われてあれ K GM

ジャンル 推理

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-05-28

予約期間 開始 2021-05-29 00:00
締切 2021-05-30 23:59

出発日 2021-06-06

完成予定 2021-06-16

参加人数 4 / 8
●総括と現状確認  現在保護施設『ミラちゃん家』には、ノア一族にまつわる二つの指輪が一時保管されている。  一つは生徒達が実業家【セム・ボルジア】から預かっている指輪。  もう一つは生徒達がグラヌーゼにある『いのちの花畑』で見つけてきた指輪。  どちらの指輪も保護施設関係者が抱えている問題に関連するものである。  その問題とは、魔物【黒犬】【赤猫】にかけられているノアの呪いだ。  この二匹は互いに相手を嫌い抜いているのだが、ノアに呪いをかけられ命を結び付けられてしまっている。片方が死んだら、もう片方も死ぬように。  黒犬も赤猫も呪いを快く思っていない。特に黒犬は、一刻も早く呪いを解除したいと思っている。現在施設に保護されている【トーマス・マン】を通じ、【カサンドラ】並びに施設関係者へ、協力への働きかけを行なっている。  生徒達がグラヌーゼで見つけてきた指輪(以下、呪いの指輪と呼ぶ)は、呪いの要である。呪いの解除のためには、その存在が欠かせない――生徒達が先にそれを『いのちの花畑』で見つけたことを、黒犬はまだ知らない。  呪いの指輪は、グラヌーゼの戦いの際、ワレン・シュタインという騎士に拾われその妻の手に渡った。  直後妻は狂気に陥り失踪。グラヌーゼにて発見される。その際指輪は妻の指を千切り、地に沈み消えた。  セムが所有する指輪は、同騎士が同時期にグラヌーゼの別の場所で手に入れたものである。ボルジア家は何代か前、融資と引き換えにその指輪をシュタイン家から譲り受けた。  黒犬たちの呪いとは直接関係ないかもしれないが、同じノアが作ったものであれば、呪いの指輪の仕組みを探る手掛かりになるかもしれない。そのように考えて生徒達は、セムからそれを借り受けてきたとのことである。  シュタイン家はボルジア家に指輪を譲渡した後廃絶している。  ボルジア家は現在、セムを除いた全員が故人となっている。  赤猫は呪いを解除することに危険を感じている。罠が必ず含まれていると考えるからだ。  セムの側近【ラインフラウ】は彼女に『他者へ呪いを肩代わりさせること』を提案しているようだ。赤猫はそれに協力的であると思われる……。 「と、ゆー感じなんだよな? こーゆー雰囲気の理解でいいんだよな、現状?」  手の中で万年筆を回す学園長【メメ・メメル】に、ドラゴニア老教師【ドリャエモン】は頷いた。彼女が単語と落書きで一杯にしたチラシ裏を見下ろしながら。 「おおむねそういうところだろう、とわしらは思っておる」 「はっきりしねーなー……まあ、しょうがないか。関係者が総じて、こっちに情報出し惜しみしまくってるしな」  カルマ教師【ラビーリャ・シェムエリヤ】は、表情を変えないまま本題に入った。 「……生徒達から聞いた話では、この指輪を所有していたボルジア家は、現在の当主セムを残し、皆故人となっているそうですね……ちまたの一部では彼女が毒殺したのではないかという噂もあるとか」 「うん。でもセムたんは、『事実と違う』って言ってた」 「……どう思われます?」 「オレ様の勘として、セムたんの言葉にウソはねーと思うぞ? 家族が一時に死んだというのは事実のよーだが」 「……具体的に何があったのか、聞けませんか?」 「難しいなー、本人にそこまで突っ込むのは……外部の記録を当たってみるしかないだろ」 ●月夜の零れ話  サーブル城に猫たちが群れ集う。今宵は満月。浮かれ騒ぐに最適な夜。 「――ああ、カサンドラのことなら、知ってる」  赤猫ははすかいにラインフラウを見た。泥酔者特有のどろんとした目。奥に緑色の火花が燃えている。 「あら、それは初耳ね。どんな人だったの?」 「食べるところもないくらい、がりがりの、死にかけ。それで、とびきり、馬鹿。黒犬の適当なフカシを信じるくらいだから、そりゃもう、馬鹿」 「それって、どんなフカシ?」 「黒犬のやつ、あの死にかけに、魔物にしてやるって言ったのよ。そしたら死にかけも直るって。そんな力、ハナから持っていやしないくせに」 「へえ、それは悪質。でもあなた、なんでそのことを知ってるの?」 「本人から聞いた。生きてる時に。いつだったかあの女、この近くの野原をうろうろしてたから、捕まえてみた」 「黒犬がウソをついていることを、あなた、わざわざ教えてあげたの?」 「うん、そう。あんまり馬鹿みたいで面白かったから、ついでに」 「どういう反応だったの?」 「そんなことない、うそだってむきになって言ってきた。半泣きになって」  赤猫はよっぽどおかしかったのか、くくくと小さく喉を鳴らした。  周囲の猫たちがそれに呼応するように、同じく喉を鳴らす。 ●彼女が思うこと  カサンドラの心の中にはふつふつと、黒犬に対する怒りが煮え立っていた。  サーブル城に潜入する前、荒れ地で、赤猫と出会ったことを彼女は思い出している。  あれは満月の夜だった。赤猫は上機嫌に踊っていた。  驚き急ぎ立ち去ろうとしていたこちらを見つけ、追いかけてきた。大きな猫の姿になって。  ネズミのように前足で押さえ付けられたとき感じた恐怖は、忘れられない。  しかしそれよりもっと忘れられないのは、笑い声を交え発された言葉だ。 『黒犬には、人間を魔物にする力なんか、ありゃしないわ。あいつに出来るのは吠えて、噛み付いて、火を吐くことだけよ』 『あのポンコツで、間抜けで、脳たりんな、ワン公に騙されるなんて、お前、本当に馬鹿ね。馬鹿な人間』  その場では相手の言葉を完全に信じたわけじゃなかった。黒犬から聞かされていたのだ。赤猫は言うことなすこと全てにおいて信用おけない相手だと。  でも、そのことを改めて聞いても黒犬は、うるさいと言って、まともに答えてくれないのだ。  疑いは、日々膨らんでいった。  それが確信に変わったのは、サーブル城でノアが記した資料を見たときだ。  そこには黒犬と赤猫にかけられた呪いのことに加えて、黒犬と赤猫自身の能力についても事細かく記してあった……。  もしかしたらと思ってすがった言葉は、全くのデタラメだった。 (私は、なんて馬鹿だったんだろう……)  半透明な自分の手を見下ろし、彼女は、唇を噛む。  頭を過るのはトーマスのことだ。  彼は黒犬を信じている。昔の自分のように。であればこの先、自分と同じ道を歩まないとも限らない。 (私は、もう手遅れだわ。だけどあの子はまだ、取り返しがつく)  今後の指輪の扱いに関し、カサンドラは心を決めていた。 (黒犬には指輪を渡さない)  呪いの解き方を思い出したとしても教えない――もしそれが黒犬を解放するものであるならば。  しかし呪いを解くことが黒犬にとって致命的な結果をもたらすならば――教えてもいい。  彼も、自分のように、死ねばいい。 ●どうかお話を一つ  学園生徒たちは指輪が持つ力や作用について調査するため、指輪を所有していたシュタイン家の元領地を訪れた。彼らの痕跡を探れば、知れることがあるかもしれないと。  だがそこには、何も残っていなかった。一面の荒蕪地が広がるだけで。 「所領争いに負けた後、目ぼしいもの全部近隣諸侯にとられちゃったのかな」  であれば、取った側は何か知っているかもしれない。  と言うことでそちらへ話を聞きに向かう。  相手は貴族だ。一般人の訪問にすんなり応じてくれるとは限らない。  でもまあ、学園の権威を盾にすればどうにかなるだろう。少なくとも会って話はしてくれるはずだ。  この後行く予定である、シュターニャの当局にしても……。
原始生命理論学【馬と貴族の死生】 海太郎 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-05-08

予約期間 開始 2021-05-09 00:00
締切 2021-05-10 23:59

出発日 2021-05-16

完成予定 2021-05-26

参加人数 5 / 8
 夜の教会。  一人の女が懺悔室で信者の言葉に耳を傾けていた。  癖のない真紅の長髪、黒いタイトなドレス、翠緑目の美人。名は、【ノエル・アトキンズ】。  普段はフトゥールム・スクエアにおいて原始生命理論学の講師を勤めているが、仕事の空き時間で時折各地の教会に赴き、何か異変が起きていないか察知するのが日課だった。  その日、懺悔室に来たのは一人の男だった。  相手の姿は見えない。だが、鼻についた香水は、非常に高価なものだとすぐに分かった。 「ああ、神よ……どうか我が身をお救いください……」  そう口にする声は、確かに震えていた。 (……なるほど)  ノエルは僅かに目を眇めた。  ここに来れば勇者の卵たちが事件を授業の一環として解決してくれるとの噂を聞いて、中流貴族がトラブルを持ち込む気でいるのだろう。これまでにも、大小様々な雑用を、貴族に持ち込まれたことはあった。  だが、この震えぶりはなんだろう。  これまで受けてきた懺悔とはなにか違うものを感じ、ノエルは先を促す。 「何をしたのです」  男は、待っていたように、ぽつぽつと語り始めた。 「私は、速く走る獣が好きでした。各国から珍しい生き物を取り寄せ、檻の中で駆け比べをさせたこともあります。……興行としても、一部の界隈で、大変人気を博したのです」  いかにも、中流貴族が上流貴族のお眼鏡にかなうために編み出した策といった響きだ。  たしかに、一時的に目を引ける娯楽だろう。だが、末永く取り立ててもらうにはまた別の努力が必要となるはずだ。  ノエルの読みどおり、男の沈痛な言葉は続いた。 「……それで。先日ついに、とある売人から、名馬を買い取ったのです。……とても、立派な馬で、興行でしっかり成績を残せば、軍馬としてとある将軍に献上することができるかもしれない……。願ってもないつながりが得られるかもしれないと、そう考えました」 「それで」 「……売人が連れてきた馬は、デスレイプニールでした」  ノエルは眉根を寄せた。  デスレイプニール。  神様の馬を真似て生成されたと言われる魔物。  八本の足を持ち、その速度は、水上すらも疾駆するという。 「願ってもない馬だと思いました。神の馬を、献上できるのであれば、きっと……きっと、気に入っていただけるだろうと」 「……そうは、いかなかったのですね」 「はい……」  貴族は苦々しく呻いた。 「デスレイプニールは、実に好戦的でした。私のことは最初から歯牙にもかけていなかったのですが、将軍のことは、ライバルと認めました。そして、蹄の毒で、将軍に大怪我を追わせ、逃げ去ったのです」  貴族の声は、震えていた。 「それが、今朝のことです。……デスレイプニールは、まだヴェステラ平原を逃げ続けています。将軍は一命をとりとめましたが、デスレイプニールの殺害を、私に命じました……。ですが、将軍すら叶わなかった馬に、私が叶うはずなどない……。事実上の、死刑宣告です」  ノエルは静かに言葉を聞いていた。 「……ここは教会です。祈るあなたに与えられるのは、自分の死と向き合う安寧だけでしょう」  死は、生き様に由来する。  馬を献上することでより高位の貴族に取り入ろうとした生き方が、彼の死を招こうとしている。  原始生命理論学の講師としては、手軽な教材として眺めるに値する死の話だった。  だが、講師である以前に、ノエルは勇者だ。  救いを求めて震えるものを前に、手を差し伸べないはずがない。 「教会で得られる安寧と死に、耐えられないのなら……」  そう口にするノエルの声は、希望の光に満ちていた。 「より確かな救いを求めるのであれば、フトゥールム・スクエアへお越しください。貴方を、救済しましょう」  懺悔室の壁の向こうで、男がはっと息を呑むのが分かった。 「……ありがとうございます……ありがとうございます!」  男は何度もそう繰り返したかと思うと、慌ただしく駆け出した。 「……さて」  ノエルは小さく息をついた。 「講義の支度をしなくてはな」  翌日、ノエルは自らの授業を専攻する生徒たちに対して、デスレイプニールの討伐を課題として課した。 「機動力に優れた名馬だ。人間の足で追いつくことはまず難しいだろう。まずは足留めの策を打ち、確実に動けない状況を作り出すことをお勧めする。また、デスレイプニールが駆け回っているヴェステラ平原は、平原とは名ばかりの、小高い凹凸の多い土地だ。隠れられる程度の小さな横穴もあれば、飛び出しに向いた滑走路じみた坂もある。奇襲には向いた土地だから、地の利を上手く活かせば有利に戦えるはずだ」  ここまでは通常の討伐と変わらない。  だが、本講義は『原始生命理論学』だ。これで済むはずがないことを、多くの生徒は理解している。  なぜ生きるのか。  それはすなわち、なぜ死ぬのかに直結する。  死に方はすなわち生き方。死はすべて、それまでの生に起因している。  それが、原始生命理論学の原理だ。  ゆえに、本講義では、魔物が死ぬ様を、つぶさに観察し、死と対面することを必須とする。  そして、すべての死と、死に至るまでの生命へ敬意を払い、送ることを主眼としている。  そんな『課題活動』の独特さが、コアな人気を誇っている。  もっとも、課題活動後の一万文字近いレポートもまた、実に悪名高いのだが。 「さて。今回のレポート課題は【馬と貴族の死生】だ。なぜ馬が死ぬのか、なぜ貴族が生きることになるのか。彼らの死生について、一万文字のレポートを課す」  デスレイプニールの討伐、そしてレポート課題の提出を完了させること。  この2点が、今回の課題だ。 「諸君らが良き学びを得ることを、期待している」  そう言って、ノエルはわずかに微笑んだ。
月夜に泳ぐ鯉のぼり K GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-05-12

予約期間 開始 2021-05-13 00:00
締切 2021-05-14 23:59

出発日 2021-05-21

完成予定 2021-05-31

参加人数 3 / 8
●コウモリ軍団やってきた  学園から遠くもなく近くもないところにある、某村。  そこは今大変困っていた。  最近、夜ごとコウモリの大群が押し寄せてくるようになったのである。  それもただのコウモリではない。大きさこそ普通のコウモリだが、赤く光る目を持ち、異様に発達した爪と牙を有している……どうやら、ジャバウォックの一種らしい。  ジャバウォック・コウモリはとにかく気が荒い。目が合っただけで威嚇し襲ってくる。一匹一匹が野猿程度の攻撃力を有しているので、一般人にはなかなか手に負えるものではない。  そんなわけで老いも若きも男も女も夜、外を出歩けなくなってしまった。  それをいいことにコウモリたちは農作物を食い荒らし、鶏小屋を襲い、羊や牛を噛みとやりたい放題。  果敢に立ち向かった番犬は束になって襲われ、半死半生になる始末。  困り果てた村人たちは、学園に助けを求めることにした。  学園は直ちにそれを受け入れた。 ●事前協議  ジャバウォック・コウモリ退治依頼を受けた【ガブ】【ガル】【ガオ】達生徒は、ひとまず、どうやってこの問題を解決すべきか話し合った。  最も確かな対処法は、ジャバウォック・コウモリ一匹残らず物理的に消滅させることだが……。 「それはなかなか難しいんじゃないかな。コウモリたちは村に居着いてるわけじゃないらしいし」 「本拠地探して、叩けばいいんじゃねーか」 「どうやって探す。相手は飛べるよ」 「何匹か捕まえて目印をつけて、後を追いかけんのはどうだ。蜂の子を取るときみてえに」 「今回はそこまでする時間、無さそうだなあ……とにかく今来ているコウモリを、村から追い出すことを先に考えよう」  現れたジャバウォック・コウモリを一匹一匹叩いていくのも非効率的である。敵は大群。村は広い。そして言ってはなんだが味方は少数。いかに八面六臂走り回って奮闘しても、全滅させるのは難しいだろう。  自分たちが村に常駐出来るならいいが、現実にはそうもいかない。  残ったコウモリたちが機を見て再来する恐れは十二分にある。  とすると……。 「村人たちが、コウモリを脅せる手立てを作れないもんかなあ。そうしたら、私たちが引き上げた後またコウモリが来ても、対処出来るだろう?」 「まあ、ねえ……」  しばらく皆で頭を悩ませていたところ、一人が『そうだ!』と手を打った。 「あのさ、こんなのはどうかな? この前先生から聞いたんだけどさ、東方ではこの季節に――」 ●迎撃開始  満月煌々と冴え渡る、明るい夜。  いつも通り村へ飛来してきたジャバウォック・コウモリの群れは、驚いた。  昨日まではいなかった大魚の一団が、村の上をふわふわ飛んでいたのである。  大きな丸い目、大きな丸い口。変にぺらぺらした体。  コウモリたちは怪しみ警戒し、ホバリングして様子を窺った。  そこで大魚が急に身をひるがえし、突進してきた。  コウモリたちはびっくり仰天し、逃げ回る。  生徒達は夜空を見上げながら、手元の糸を操り、空に浮かぶ鯉のぼりを自在に操る。  この鯉のぼりは学園芸能・美術コースの先生方に協力を仰ぎ、製作してもらった特注品。  一匹の大きさは全長4メートル。  畳んだ状態から広げれば、風がなくとも浮き上がることが出来る。そして繋がった糸(最大500メートルまで伸びる)を操ることにより、前後左右上下自在に動かすことが可能。糸にも鯉自身にも魔法加工がしてあるので別の糸と絡まったり別の鯉と衝突したりすることはない。  付け加えれば糸も鯉を作っている布も、ちょっとやそっと以上の力を加えても切れたり破けたりしないほど丈夫だ。  ――真剣な依頼ではあるが、なんだか皆楽しそうである。特にガブガルガオの三兄弟。 「あ、そっちに飛んで行ったぞ、回り込め!」 「下に逃げる、高度下げろ!」 「ばかやろ、違う違う、右右! 右だっての!」
借り返しのアリエッタ 七四六明 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 少し

公開日 2021-05-02

予約期間 開始 2021-05-03 00:00
締切 2021-05-04 23:59

出発日 2021-05-09

完成予定 2021-05-19

参加人数 4 / 4
 自称、学園一忙しい天使【シルフォンス・ファミリア】。  授業に出席している日数よりも、依頼に出ている時間の方が多い彼が、とある依頼先で出会った名も無きアークライトの少女。  シルフォンスをパパと呼ぶ彼女は【アリエッタ】と名付けられ、現在、フトゥールム・スクエアにて保護、面倒を看ていた。 「ヤァア! アリエッタも行くぅう!」 「リザードマン掃討作戦なんて連れて行けるか! 大人しく待ってやがれ!」 「ヤァ! ヤァ、ヤァ、ヤァァア! アリエッタもパパと行くのぉ!」  ここ最近の、二人の間で定番のやり取りだ。  依頼に行こうとするシルフォンスの袖なりズボンなりを引っ張って、行かせまいとするアリエッタが駄々を捏ねる。一時間程度すれば泣き疲れて眠る彼女を置いて依頼に行き、起きた彼女がパパがいないと泣き出すまでが、一連の流れである。  何故アリエッタがシルフォンスをパパと呼び、ここまで懐くのか、調査はしているものの、未だ彼女の素性を突き止める手掛かりとなりそうな物は見つかっていない。  彼女を探している家族がいるならば、早急に見つけ出して会わせてやりたいものだが、アリエッタの本当の名前さえわかっていないのが現状であった。  そうして、彼女を保護してからおよそひと月経った頃。季節は春の薫風が蒼穹を衝き、荒れ狂う台風となって世界を闊歩し始める頃合い。 「待て。待て……待てよ、待て……よし、ホラ」 「わぁ! クッキー! ありがとぉ、パパぁ!」 「依頼先で購入したお土産を渡す光景も、そのような犬と同じ扱いでは感動出来ませんね」 「誰も感動させるつもりはねぇよ」  【クオリア・ナティアラール】の冷たい視線も受け流し、シルフォンスの視線は貰ったクッキーを高々と掲げて駆け回るアリエッタへと向いている。  彼は彼で一応気に掛けているようで、彼女が転んでしまわないか見ている様だった。  ただもしも転んでしまったその時、助けてくれるのかどうかは怪しい目付きをしていたが。 「パパぁ、ありがとう!」 「あぁ。次も何か買って来るから、また大人しく待ってな」  ぼとん、と今まで落とさず持っていたクッキーの袋が重力に沿って落ちる。  みるみる両目に涙が溜まって、膨らんだ頬が真っ赤に染まると、座っていたシルフォンスの脚に強く抱き着いて泣きじゃくり始めた。 「いやぁあ! アリエッタもパパと行くぅう!」 「山賊団との乱戦に連れて行けるか! 今回は緋色の何たらとか言うヤバいのもいるかもしれないんだ!」 「ヤァ! アリエッタもぉ!」 「フム、さすがに此度の同行は私としても容認出来ませんね。しかし……」  アリエッタはいつも学園に置いて行くばかりで、シルフォンスとほとんど遊べていない。  かと言って、学園の外に出すにはまだ危ないだろう。ならば――と、クオリアは思い付いた。 「ではアリエッタ、一つ御遣いを頼まれては頂けませんか」 「お、おぢゅか、い……?」 「はい、御遣いです」  鼻水と涙でぐじゅぐじゅになった少女の顔を拭い、アリエッタに小さなバスケットを手渡す。  アリエッタにはただ綺麗な花々が詰め込まれているだけに見えているだろうが、クオリアからすれば全てが薬だ。全て適当な方法で加工する事で、立派な回復薬となる薬草と言う薬草が詰め込まれているのである。 「これを私の友人に届けて欲しいのです。彼女はこれを調合し、薬にします。そうすると、もしもパパが怪我をした時、パパがそのお薬で怪我を治す事が出来るのです。そう、これはパパのためなのです」 「パパの、ため……ぐしゅ、ぐしゅん……パパ、アリエッタもお手伝い出来る?」  クオリアの眼光が、アリエッタの背後から光る。  下手な事を言うな。察しろ。殺気さえ籠っていそうな冷たい視線が、天使の反論を射殺した。 「あぁ、そうだな……助かる」 「……! わかった! アリエッタ、御遣い行くぅ!」 (泣いたり笑ったり駆けずり回ったり、元気なこった……)  そして、可哀想なアリエッタ。  何と健気で純粋な心を、この冷徹なカルマに利用されるのだから。  バスケットの中身が薬草で、それらから作られる薬がシルフォンスを助けるまでは間違っていない。が、クオリアがバスケットを渡して欲しいと言った相手は、決して彼女の友人などではない。同じ医学を目指し、医療の道を進みながら、全く気の合わない犬猿の仲だ。  要は、彼女に渡すべき薬草があるにはあるが、自分で渡しに行くのを避ける口実としてアリエッタを利用したのである。 「おまえもおまえで、なかなかこき使ってるじゃねぇか」 「アリエッタを預かる際、あれにも借りを作ってしまいました。その借りを返すだけです。それに私はこれから、あなたと共に行くのです。心身共に万全な状態で挑むため、あれとの接触を避けるだけの事。何より、アリエッタもあなたのために何かしたいのです。その気持ちを無下にするべきではないのでは?」 「あぁ、はいはい。で、どうする。誰か傍に付けてやるのか?」 「それは……」  一人で行く! と駄々を捏ねるアリエッタの姿が想像出来てしまって、クオリアは少し考える。考えて、懐に手を入れて、袋に入った硬化の数を確認して――決めた。 「数名集って、陰から彼女を補佐する様に頼みます。あなたは少し時間を稼いで下さい。お願いしますよ」 「は? おい、何で俺が――」 「何でも何も、あなたのためでしょう? いいですね。お願い、します、よ?」 「パパ! 待っててね! アリエッタが、お薬貰って来るから!」 「……心配だぁ」  二重の意味で。  そそくさと退出していくクオリアの背中を見届けながら、脚に抱き着く少女の頭に手を置くシルフォンスは、彼女が来て以降控えていた煙草の味が、恋しくなった。
擬人化始めました!! 正木 猫弥 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2021-05-01

予約期間 開始 2021-05-02 00:00
締切 2021-05-03 23:59

出発日 2021-05-09

完成予定 2021-05-19

参加人数 4 / 6
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』、ある日の昼休み。 「うーん、今日は平和だなあ」  物騒な事件は持ち込まれていないし、どこかの教室で厄介な事故が起きたという報告もない。  久々に訪れた穏やかな時間を、学園教師【コルネ・ワルフルド】は満喫していた。 「腹減った~」 「ねえねえ、どこでお弁当食べよっか?」  校庭に植えられた木の上で、干しぶどうがギッシリ……というより干しぶどうしか入っていないサンドイッチをぱくつく。  樹上にいると、学生達の声がどこからともなく聞こえてくる。その内容はどれも穏やかなものばかりで、今日の平和を裏付けるものとコルネは思っていたのだが……。 「今日は何食おうかなあ」 「擬人化~、擬人化はいらんかね~」 「おい、早く学食行こうぜ!」 (……んん?)  ありふれた雑談の中に、何か異様な単語が紛れていたような気がする。しかも、その声の主にコルネは非常に心当たりがある。 (しょうがない。行ってみるか)  軽い身のこなしで木を飛び降りたコルネは、残りの干しぶどうサンドを口に放り込んでから声のする方へと向かった。 ◆ 「擬人化~、擬人化はいらんかね~。本日限定だよ~」 「……やっぱり学園長でしたか」  コルネの予想通り、奇妙な台詞を発していたのは我らが学園長【メメ・メメル】その人であった。 「コルネたん、おっすおっーす! さっすが、耳が早いねえ☆」  校庭の片隅にテーブルを設置し、怪しい露天商さながらに学生達に呼び込みをかける学園長の事は一旦置いておく。問題はテーブルの上、メメたんが配ろうとしている小瓶の中に何が入っているかという事である。 「アタシの事はいいんですけど、今度は何を始めたんです?」 「それを説明するには論より証拠だけど……お、ちょうど戻って来た!」  コルネの質問に学園長が答えようとした所に、猫のルネサンスらしき少女がやってきた。  少女は『擬人化始めました』と書かれたのぼりを手にしている。どうやら学園長に言われて露店の宣伝をしていたらしい。 「お前の言う通り、この辺をうろついてきたにゃ」 「お疲れー! どうもありがとね☆」 「さっさと魚よこせにゃ」 「はいはい」 「あの、論より証拠って? それと、その子はうちの学生ですか?」 「まあ見ててよ。5! 4! 3! 2! 1!」  少女に魚の干物を渡した学園長が、戸惑うコルネを制しながらカウントダウンを開始する。  すると――。 「0!!」 「!?」  カウントダウンを終えた瞬間、少女の身体はいきなり白煙に包まれた。そして、もうもうと立ち込める煙の中から現れたのは――美味しそうに干物を食べる1匹の猫であった。 「……これってつまり、あの子の正体がこの猫って事ですか!?」 「その通り!! いや~、久々にカレーを作ろうと思って鍋に色々入れたら爆発しちゃってさあ。でもこんな面白い薬が作れたんだから結果オーライだぜ☆」 「カレーを爆発させないでください。後、それでとんでもない薬を作らないでください……」  相変わらず無茶苦茶である。頭が痛くなってくるのを感じながら、コルネは学園長にツッコミを入れた。  聞けばこの『擬人化薬』は揮発性で後数時間しか持たない上、少量しか作れなかったために学生達に配布しようと思い立ったらしい。 「さっきは会ったばかりの野良猫に使ったから、大して変身時間が続かなかったけど。一緒に暮らしているペットや愛用の武器なんかであれば、もっと長く変身していられるだろうね」  使用者の思い入れが強ければ強いほど、この薬の効果時間は長くなる。上手くすれば、最大で丸1日程度は擬人化していられるだろうとの事だった。 「さあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」 (やっぱ何事もないより、刺激があった方がフトゥールム・スクエアらしいかな? うちの学生達なら、きっと楽しくあの薬を使ってくれるはずだしね)  再び呼び込みをかけ始めたメメたんを見つめながら、独り苦笑いを浮かべるコルネであった。
春、うららかなれど風高く 桂木京介 GM

ジャンル 日常

タイプ EX

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2021-04-29

予約期間 開始 2021-04-30 00:00
締切 2021-05-01 23:59

出発日 2021-05-06

完成予定 2021-05-16

参加人数 5 / 5
 すうっと立った紅色の傘が、同じ色の敷物にやわらかな影を投げかけている。  風炉に籠もる火はコトコトと、鉄瓶の湯を沸かしていた。  しゃくしゃくと茶筅(ちゃせん)をめぐらせ碗を手にすると、 「春よのう」  着物姿の【メメ・メメル】は楚々とした微笑を浮かべた。着物の柄は、菖蒲に金魚という華やかだが派手すぎない組み合わせ。髪も珍しく結いあげている。ワインボトル片手に大口あけて居眠りしているような姿との落差がすごい。陶器の碗をあなたに手渡し、抹茶を飲むようにうながした。  どうもとかなんとか言って受け取り口にした。  苦い、ようでいて甘い。クリーミーに泡立っていて口当たりも悪くない。緑色の薫りに包まれるような感覚があった。  ただ問題は正座の姿勢だ。そろそろ、いや、もうとっくに足がしびれている。下手に立ちあがろうものなら感電したように動けなくなりそうだ。  足のことはさておき、なんともうららかな春の午後だった。  本日は『教養』の特別授業ということで、こうして屋外でのお茶会――野点(のだて)なるものにあなたたちは参加しているのだった。はるか異国の風習だという。風雅とは、こういう状況を言うにちがいない。 「――あ、言うのを忘れていたが」  新たな茶を点てながらメメルは言った。 「膝は崩していいぞ♪ 正座のままじゃきつかろう☆」  なんだー、とか、うわーと安堵する者あり、それでも平然と正座のままの者あり。  茶菓子も行き渡りしばし歓談ののち、 「話は変わるがな」  メメルは胸元を直しながら言った。(たぶん苦しいのだと思われる) 「怪獣王女とかいう者がいたろう?」  あっ! とすぐにわかる生徒も少なくなかった。  フルネームは長いので略して【ドーラ・ゴーリキ】、別名【怪獣王女】とは、魔王復活の鍵となるというアイテム『コズミックエッグ』なるものを求めほうぼうで小さな騒ぎを起こしてきた怪人物だ。といっても十歳前後の少女、ピンクのガウンに王冠という珍妙な服装をのぞけばそれなりにかわいらしいトカゲのルネサンス族である。  先日、ダンジョンで怪獣王女と遭遇した数人の学園生たちが、意外な展開によって彼女とともにゴールするという結果を迎えた。 「色々あって、あの者とは一時停戦状態に入った。オレサマの政治力がなした偉業だゾ、褒め称えるがいい♪」  どうせたいした手段じゃないでしょう……と思った生徒も少なくなかったが口にはしなかった。 「あの怪獣王女がな、学園都市レゼントを案内しろとか申しているらしい。まだコズミックエッグだかなんだかを探す気のようだな。誰ぞ案内してやるがいい」  要は、上京したて(?)の世間知らず王女様の観光ガイドだ。 「忘れるな、停戦したとはいえ怪獣王女はまだ、魔王復活という考えにとりつかれとる。だが……これまで学園に立ちふさがってきた真に邪悪な連中とはかかわりがないようだ。むしろ、邪悪な者たちが接触をはかり敵側にまわってしまうほうが不安だ。なぜに魔王復活にこだわるのか聞き出すことができれば一番だが、とりあえずフトゥールム・スクエアへの敵対心だけでも減らせればいいと思っている。できるか? まあ正式な依頼ではないから、志願者だけやってくれればいいぞ☆」  これまでの言動から推測すると、怪獣王女は魔王と結婚するなどと考えているようだ。そんなの夢物語だとわかってもらう、もっと格好いい僕に惚れるがいいと誘導する、そもそも魔王のことわかってる? と聞き出すなど、工夫が必要だがやりようはあるだろう。 「それと、先日の元・未踏破ダンジョンな」  やはり足が限界だったらしく、メメルも膝を崩していた。 「最奥部へのルートは確保できたが、まだまだ不明瞭の部分が残っとる。とりわけ南方面な! なんか若返りの泉があるとかいう碑文だけ見つかった。こっちの道は平坦で前ほど危険じゃなかろうが、もし本当に若返りの泉だとしたらすごいぞ☆ 誰ぞ調べに行かんか♪」  こちらは何度も探索されたので危険はかなり減じている。ダンジョンに下りるまでの斜面は、もう岩オオアリよけルートが確保されているのであとはダンジョンをしらみつぶしに調べていくだけだ。 「若返りの泉なぁ……どうにも眉唾だしオレサマのようなヤングには必要ないが」  ヤング……。  ちなみに探索メンバーには【ヒノエ・ゲム】がいちはやくエントリーしているそうだ。ダンジョンの最奥部は判明したので賞金額はずいぶんと減ったものの、ヒノエは単身でも挑むつもりらしい。 「あの娘どうも危なっかしいからな、手の空いている者は手伝ってやるがいい」  あと、とメメルは続けた。 「これも正式な依頼ではないが――ラビーリャたんから伝言が入っとる。オレサマが頼まれたのだがちょっと所用があってな……」  ゲホゲホと妙な咳をしてメメルは言った。 「かわりに行ってくれる人がいれば嬉しいなあ♪」  ◆ ◆ ◆  カウンター席の【ラビーリャ・シェムエリヤ】の前に、湯気を上げるボウルが置かれた。  いや、『ボウル』という表現は似合わないだろう。陶の食器であり、オリエンタルな装飾のほどこされた丼なのである。  盛られているのはヌードルの入ったスープ、いわゆるラーメンというものだった。豚の骨からとった白いスープだ。わかりやすくいえば豚骨ラーメンだった。スライスした焼き豚、刻みネギ、ジンジャーの酢漬けを刻んだものも入っている。  レゼントにある創作料理店『くたびれたウサギ亭』はその名に反して気鋭の食堂であり、ラーメンのような珍しい料理、とにかくひたすら辛いカレーなどエクストリームなメニュー、カエルの唐揚げやサーモンの臓物パイといった、あまり店にならばないたぐいの皿などが出る色々挑戦的な店だ。ただ、おしなべて低価格ではある。  店主の【ラビット・ウー】は前頭部を剃り上げ、残った髪を長く伸ばし三つ編みに編んだ大男である。たしかにウサギのルネサンスではあった。 「……今日もかい?」  緊張の面持ちでラビットはラビーリャに尋ねる。 「うん……やって」  額に浮かんだ汗をハンカチでぬぐい、ラビットは小皿を取り出す。小皿にはデザートのプリンが載っている。カラメルもきれいにかぶされており、ぷるぷると震えて甘そうだ。  ラビットは、そのプリンを滑らせて丼の中にそっと落とした。 「ありがとう……いただきます」  ラビーリャは箸を取ってプリンをぐるぐるとかき混ぜる。  ラーメンのプリントッピング、別名『プリンラーメン』。『くたびれたウサギ亭』が最近導入した新メニューだ。甘さとしょっぱさの究極の融合、相反するのか両立するのか。その味は謎である。  黙ってつるつるとラビーリャはラーメンを食べている。  このメニューを出すのはレゼントの街でもウサギ亭だけだ。なお、ラビーリャが注文するのはこれで三度目である。 「どうだい? おいしいかい?」  ポジティブな返答をラビットは期待したのだが、 「……わからない。私、味音痴、だから……」  抑揚のない口調でラビーリャが回答したので肩を落とした。 「じゃ、じゃあ誰か友達を誘ってきてくれないか」  自信メニューなんだよ、とラビットは言う。この至高の(とラビットが信じている)メニューを試してくれた客はいまのところラビーリャひとりきりなのだ。なお、単体の豚骨ラーメンは人気である。 「でも私、友達、いない……から……」  上司ならいるけど、とラビーリャは甘い香りの湯気を見上げた。  最初にラビーリャが思い浮かべたのはメメルの顔だった。
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