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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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【新歓】決斗★知恵か勇気かアピールか!? 桂木京介 GM

ジャンル イベント

タイプ マルチ

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-04-28

予約期間 開始 2020-04-29 00:00
締切 2020-04-30 23:59

出発日 2020-05-07

完成予定 2020-05-17

参加人数 16 / 16
 一瞬、耳がおかしくなったかと疑ったかもしれない。  分厚い鉄の扉が左右に開かれるやいな、髪が逆立ち服がビリビリ震えるほどの野太い音の塊に圧倒されたのだから!  雷鳴のごとき銅鑼の音。  下腹に響く大太鼓のリズム。  びっしり埋まった観客が刻む荒波のような手拍子。  これにトランペットの嵐まで加わったのだから凄絶だ。校章が描かれた巨大な旗が、右へ左へ龍のようになびいていた。  これは、なんだ。  詳しい説明もないまま君たちは、このまっただ中に放り込まれていた。  熱気で気温が上昇している。満場の注目が痛いほどに集まっている。  コロシアムの中央、拳を左の胸に当て、甲冑の騎士が立っていた。色はプラチナ、金の縁取り、プレートメイルにガントレット、ブーツ、それにヘルメットまで同じ色彩で統一している。たなびくマントも白金だ。 「刮目(かつもく)!」  騎士が突然声を上げたので、きみたちも慌ててこれにならった。すなわち、左右のかかとを揃えた直立の姿勢で、右手を握って胸に当てたのだ。騎士に相対する格好で、横一列に整列する。  音楽が止まった。銅鑼はもちろん、太鼓も金管楽器も。  場内は水を打ったように静まりかえる。  もしかして騎士は、これより公開処刑を行うとでも言い出すのではないか――そんな不安を抱いたとしてもいたしかたなかろう。  されど心配は無用、やがて満場の拍手とともに、学園長【メメ・メメル】が登場したのである。 「あい、あい☆ よしなに、よしなに♪」  女王様もかくやといった優雅さで手を振りつつ、メメルは客席の間を抜けた。そして騎士にして教師【ネビュラロン・アーミット】の隣に立つ。  ちょこんと立つメメルを一見しただけで、この人が学園長だと思う人はいないのではないか。ベイビィフェイスだし胸は風船みたいだし、帽子を斜めがけしてけらけら笑っているしで、どうにも威厳というものがない。  しかし間もなく気がつくだろう。メメルは片手だけでこの大観衆をコントロールしており、何千何万という注目を集めてもけろりとしているということに。全身甲冑のネビュラロンでさえも、メメルの前では小さく見えた。  ようこそと、きみたちに向き直ってメメルは言った。 「ここが学園の誇る屋内型コロシアム『ブラーヴ・オブリージュ』だ! まー、オレサマなんかは『体育館』なんて呼んだりもするけどな☆」  今日はほうぼうから観客を招待したが、ふだんはもっと静かだゾ――などといったことを一通り述べてメメルは続けた。 「ここで新入生のお手並みと、二年目に入った在校生の学習成果を拝見すべく、オレサマはちょっとした趣向を用意した」  だが実際は、『ちょっとした』などと言う穏やかなものではなさそうだ。  メメルが言い終えるやすぐに、きみたちが入ってきたのとは反対側の鉄扉が重々しく左右に開かれたのである。  ズズンと地面が揺れた。客席から悲鳴とも歓声ともつかぬものが上がった  太鼓と銅鑼、そしてファンファーレがカオスに興を添える。  現れた。巨大なものが。  ゴーレムというのであろうか。  身長は成人男性の三倍少々、二足歩行の人型ではあれど人には似ず、顔にあるのは目と口を摸した丸い穴が三つ開いただけ、腕も足もセコイアの木のような巨塊だった。引き締まった体つきだがいささか前屈み、両腕をだらりと前につきだしている。  しかもこの超重量級は三体もいるのだ。 「これはな、ソーセージだ☆」  ソーセージ? 「そう、ビーフ、ポーク、チキンの三種類! ソーセージから作ったゴーレムなのだよ。削いで火を通したら食えるぞ」  そういえばなんとも香ばしい。燻製のような香り、空腹を刺激する匂いがする。 「この三種がチミらの相手をすることになる♪ さっき言った順番で力が強く速度は遅い。つまりチキンが最速ということだな。逆に、ビーフはパワフルということになるわけだなあ」  ソーセージゴーレムと戦えという話なのである。もちろんゴーレムとして強化してあるから、ソーセージそのものの柔らかさではないようだが。 「ここから先はネビュラロンたんから説明がある。闘いが終わったら焼きソーセージでランチといこうじゃないか~」  では♪ などと言ってメメルは客席へと上がっていってしまう。  咳払いして甲冑の騎士が述べた。 「ルールの話もしておく」  最初は気付かなかったが、よく聞くと騎士の声は若い女性のものだ。 「時間は無制限、ゴーレム三体をすべて倒せば勝利、半数以上の学生が戦闘不能に追い込まれるか、この敷地内から逃亡すれば敗北だ。スタジアムは」  とネビュラロンは周囲を示した。広いグラウンドはすべて地続きだが、いくつかのエリアにわかれている。 「中央付近は砂地、移動速度は落ちる一方、砂がクッションになるため叩きつけられたり落下してもダメージは低い」  ネビュラロンは右を向く。 「西のグラウンドは石切場から大理石の柱を組み合わせて櫓(やぐら)状にしてある。敏捷に動ける者には有利な地形だ。ただしゴーレムは容赦なく櫓を破壊するからいつまでも優位は保てまい。落下しようものなら足元は石だ。その先は想像したくないな」  さらに、とネビュラロンは左エリアを指した。 「東には腰までの深さの泥沼地帯を作った。速度は殺されるが落下時のダメージは最小となるだろう。ただ数カ所、トラップとして底なし沼を設けてあることを言い加えておく」  三体同時に全員で相手にするか、二または三グループに分かれて各個撃破するか。戦うとしたらどのロケーションを選ぶか……いささか検討する必要があるだろう。 「学園長の趣味でゴーレムには、歓声に応えて強弱が変化する機構が組み込まれている」  声援が増えれば増えるほどゴーレムの動きは弱体化するという。逆に、聴衆が静まりかえったり、ブーイングが高まればそれだけゴーレムは強力になるというのだ。 「チミらの声は集音の魔法でよく通るようにしておいたからなぁ♪」  こんな風に、と客席からメメルが手を振っている。わざわざスタジアムの端まで移動したらしい。  遠くぽつんと見えるだけなのに、ちゃんと声は間近で聞いているようによく通っていた。多少エコーがかかっているのは仕様なのかメメルのサービスなのか。 「だから格好いい決め台詞や必殺技のボイスがあると、きっと喜ばれるぞ☆ あとポーズな! ヒーローっぽいやつ!」  シャキンとか言いながらメメルはポーズを取ったが、ひいき目に見ても前衛芸術ないし腰痛に効くヨガのたぐいとしか映らなかった。  無茶を言う――ときみが思ったとしたらそれはまぎれもなく正解だ。メメ・メメルというのは基本、無茶を言う人なのである。  そのメメルが立っているのが、銅鑼の前だということに気付いただろうか。両手に、ハンマーみたいなバチを握っているということにも。 「校長の話によればゴーレムは、活火山ほどに歓声を高めてようやく勝てるレベルに設定してあるらしい」  素っ気なく告げると、健闘を祈るとだけ告げてネビュラロンは背を向けた。  ものものしい金属音が立った。ゴーレム三体の足にはめられていた鎖が一斉に解けたのだった。獅子のそれを百倍少々したくらいの声で、三体がうなるのが聞こえた。  そして轟いたのだ。学園長の声が。 「試合、開始ーっ☆」  ほりゃーと振りかぶってフルスイング!  メメルは銅鑼を、思いっきり鳴らした!    決斗(けっとう)の幕が上がる。
死を喰らうもの るう GM

ジャンル 恐怖

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-04-29

予約期間 開始 2020-04-30 00:00
締切 2020-05-01 23:59

出発日 2020-05-07

完成予定 2020-05-17

参加人数 8 / 8
 フトゥールム・スクエアが収蔵する資料によれば、『ソレ』は人の死への感情を糧とする魔物だとされた。  命奪われる者が抱いた恐怖。命と引き換えに得た勝利への満足。正負を問わぬ強烈な感情のみが、『ソレ』――『デスイーター』の空腹を癒してくれる。  殺したい。その気になれば治療できる『死亡』などでなく、抗い難き『消滅』を獲物にもたらして喰いたい。  しかし――かつては闇雲に獲物を殺して死を啜っていたデスイーターも、いつしか知恵をつけるようになっていた。  殺しても、得られる死への感情の味は『魔物に殺されたものの感情』のもの一辺倒になってしまう。  何よりも、殺せば、それ以上は喰えなくなってしまう。  ある時、デスイーターは人の夢の存在に気付き、そこに足を踏み入れるようになった。そこにはデスイーターには思いもよらぬ世界が広がっており、目も眩むような崖から落下したり、同胞らの憎悪を一身に受けたりと、様々な死が渦巻いている。  得られる感情は実際の死のものと遜色ないばかりか、多彩な味までをも楽しめて、しかも同じ者から何度でも吸い取ることができる。  いつしかデスイーターは夢の世界に味を占め、人に死の夢を見させて味わうようになっていた。  だが……それは人々にとって、デスイーターが安全になったことを意味しない。  中にはあまりに現実味のある夢に恐怖して、本当に命を落としてしまった者もいる。  想像力が乏しくリアリティある死の夢を見ることができず、怒ったデスイーターに殺されてしまった者もいる。  もちろん、そんな者たちの割合は決して多くないのだろうが――『死に至る夢を見せる魔物』の存在は人々を恐れさせ、賢者らは危険な夢魔の一種として記録に残したらしい。  そして今……とある田舎町の人々が、同時に悪夢を見るようになったという。必ず自身の死で終わる不吉な夢――恐れた人々はフトゥールム・スクエアに調査を依頼して、その結果、町に悪夢をもたらす元凶がデスイーターではないかと、教員たちは結論づけた。  デスイーターは出現記録が少ないため、いまだ討伐の方法は未確立だと黒幕・暗躍コース専攻の教師【ユリ・ネオネ】は語る。 「でも……被害を減らす方法だけは判っているわ。それは上質の『死への感情』を存分に食べさせてあげること」  一般人と比べれば遥かに波乱万丈な人生を歩むだろう学園生徒たちが死に対して向ける感情は、さぞかしデスイーターにとって美味なものになるだろう……死を存分に味わって満足したデスイーターは、それ以上の害を出すことなく立ち去って、再び長い休眠に入るのだ。  だからユリ先生は口許にどこか寂しげな微笑みを浮かべ、課外授業を言い渡す。 「自分が死ぬ姿を想像するのは辛いだろうけど……本当に命の危険に晒される前に、安全な夢の中で慣れておいたほうがいいかもしれないわ」
【新歓】最後のコンサート 海無鈴河 GM

ジャンル イベント

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2020-04-24

予約期間 開始 2020-04-25 00:00
締切 2020-04-26 23:59

出発日 2020-05-02

完成予定 2020-05-12

参加人数 8 / 8
「今日の~ティータイムは~♪ ミラクル・マジカル・ホシブドウパフェ~♪」  鼻歌に合わせて茶色の尻尾がるんるんと揺れる。  【コルネ・ワルフルド】はスキップでレゼントの街を闊歩していた。  本来なら彼女は学園内で新入生歓迎のため走り回っている頃だったのだが、学園長からこんなお達しが。 『コルネたん、ちょっとお使い行ってきて~。ついでに2時間休憩してきていいから! 頼んだゾ☆』  どういう風の吹き回しだろう……。若干訝しみながらも、コルネの足取りは軽い。  両手には魔法道具が色々と詰まった紙袋。お使いはしっかりと済ませた。  ついでに前から気になっていた新メニュー、試しに行っちゃおうかなぁ~。……なんて、ことを思って頭の中は干しブドウ一色だ。  が、『コルネも歩けば棒に当たる』……もとい、『勇者も歩けば事件に当たる』とは誰が言ったか。 「んん……?」  足を止め、コルネは首を傾げた。  黒い服を着た男が前を歩いていた。それはいい。  問題は男の足取りである。  右へふらふら、左へふらふら。足元が覚束ないというか……見るからに危ない。  それになんだか、魔力の気配が薄いような気もする。  声をかけた方がいいかなぁ。なんてコルネが考えていた矢先。  バターン、と大きな音を立てて男が倒れた。 「わあああああっ!?」 ● 「助けていただいて、本当にありがとうございました……なんてお礼を言えばいいのか」 「いえいえ~。教師として当然のことをしたまでですから。もう体調は大丈夫ですか?」  落ち着いたジャズの流れる喫茶店。コルネはパフェをつつきながら、目の前に座るカルマの男にそう声をかけた。 「はい。お茶をいただいて、少し落ち着くことができました」  紅茶のカップを置き、男は穏やかにほほ笑む。  右頬に刻まれた、カルマの命の源である魔法陣は半分消えかけていた。魔力の気配が薄いのはこのせいか、とコルネは結論付ける。  彼は白い手袋の右手を胸に置くと、優雅に一礼した。 「私は【セイレン・ローダン】と申します。街のはずれの屋敷で執事をしております」 「ひつじ……じゃなくて、執事さん!」  めずらし~。と興奮気味につぶやくコルネだったが、ふと気がついて首を傾げた。 「ん? でも、街はずれのお屋敷って、もう長い間人が住んでないって……」  前に学園長から聞いたことがある。  コルネが尋ねると、セイレンはうなずいた。 「ええ。主人がこの世を去ってから、もう三百年ほどになります。ですが、私は主亡き後もずっと屋敷の管理を担っておりました」  カルマは忠誠心の強い種族である。彼はきっと、この長い時を、主に与えられた役割を忠実にこなして生きてきたのだろう。 「ところで……さきほど『教師』とおっしゃっていましたが、コルネ様はもしや魔法学園の先生でいらっしゃるのですか?」 「あ、はい。いちおーそうです」 「そうでしたか……」  セイレンは自分の執事服の黒をしばらく見つめていた。なにかを伝えようと、顔を上げかけて、下ろす。  それを何度か繰り返し――覚悟を決めたようにコルネを見つめた。 「あの、魔法学園の皆さんにご依頼をさせていただけないでしょうか。……コンサートの準備を手伝っていただきたいのです」 ●  セイレンの亡くなった主は、屋敷の温室でサロンコンサートを開くことが好きだった。  お気に入りの音楽と、おいしいお茶菓子。綺麗な花と、たくさんの友人。  それらに囲まれて過ごすときが一番幸せそうだった、とセイレンは話した。 「もう一度、主人の好きだったコンサートを行いたいのです。ですが、先ほどコルネ様もご覧になったとおり、私は体が弱く、一人ではとても実現できそうにない」  セイレンは白い手袋に包まれた右手をぎゅっと握りこむ。 「……ずうずうしいお願いだとは思います。ですが、これが最後の機会になるかもしれないのです」  だから、完璧なコンサートを。  コルネはセイレンの右手――手袋の下を想像して、予感を抱く。 「もしかして、セイレンさんは、もう」  セイレンは弱弱しく微笑みを返す。コルネはそれ以上の言葉を封じると、しっかりとうなずいた。 「分かりました。セイレンさんの依頼、アタシたちで引き受けます。生徒のみんなもきっと、協力してくれるはず」 「ありがとうございます……! みなさまにお願いしたいのは主に3つです」  まず1つは、郊外の森に行って、花を調達してくること。屋敷の主人の好きな花だったらしい。 「最近は魔物の出現が多く、群生地に近づくことすら難しくなってしまい……」 「それならアタシたちが行った方が安心ですね。魔物にも慣れてますし」 「はい、ぜひ。そしてもう1つは、コンサートの出演者を務めていただける方がいれば、お願いしたいのです。主人は若い演奏家の演奏を聴くことも好きでした。魔法学園には芸術に長けている方もいらっしゃるとお聞きします。歌でも、楽器でも……なんなら、踊りを組み合わせていただいても。種類は問いません」 「音楽かぁ。アタシはそっちではお手伝いできそうにないかも……」 「私も楽器をたしなんでおりますので、いざとなったらお手伝いさせていただきますよ」  最後にもう一つ、とセイレンは指をすっと立てる。 「ぜひ、コンサートを楽しんでいってください。お忙しい方もいらっしゃいますから、無理に出席してほしいとは申しません。ですが、にぎやかな方が主人も喜びますから……」  コルネは任せてください、とうなずいた。  学園にはちょうど多くの生徒が集っている。きっと協力してくれる子がいるはずだ。  残りのパフェを掻き込み、コルネはダッシュで学園へと戻るのだった。
導きの隠者 革酎 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 とても難しい

報酬 通常

公開日 2020-04-28

予約期間 開始 2020-04-29 00:00
締切 2020-04-30 23:59

出発日 2020-05-08

完成予定 2020-05-18

参加人数 8 / 8
●殺人鬼と老人  海と潮風の街『アルチェ』周辺には、幾つもの漁村がある。  それらの漁村のうちのひとつを、灰色のローブを纏った老齢の男が訪問した。ローブの老人は漁村に足を踏み入れると、一軒の漁師宅を真っ直ぐに目指してゆく。  その漁師宅には、小さなボートサイズの漁船を格納するボートハウスが隣接している。ローブの老人は開けっ放しのゲートから、ボートハウス内を覗き込んだ。  ボートハウス内では、白塗りの椅子に腰かけた四十代見当の頑健な男が、グラス片手に穏やかな海をのんびりと眺めていた。男の左頬には大きな傷跡が見られるが、顔立ちとしては決して悪くない。寧ろ男前の部類に入るといって良く、短めの黒髪と不精髭が印象的であった。  男は老人の訪問に気づくと、人懐っこそうな笑みを浮かべて腰を上げた。 「よぅ爺さん。久しぶりじゃないか」 「お前さんも元気そうだなぁ、ディンス」  ローブの老人は持参した酒瓶を軽く掲げる。出迎えた男【ディンス・レイカー】、即ち連続殺人鬼【ブリードスミス】は、戸棚からもうひとつのグラスを取り出すと、老人から受け取った酒瓶から琥珀色の甘い香りが漂う液体をふたつのグラスに注いだ。  ふたりはグラスの縁を軽く合わせてから、一気に飲み干す。ボートハウス内に酒臭い空気が漂い始めた。 「クォールとイズロがやられちまったそうだな。今の学園生は中々骨があると見える」 「俺がいうのも何だが、実に良く出来た自慢の後輩達だよ」  ディンスは白い歯を覗かせた。心底嬉しそうな表情だった。 「しかし、爺さんの方から来てくれるなんて、珍しいこともあるもんだな」 「……実はな、お前さんにひとつ頼みがある」  ローブの老人はグラスをテーブル上に戻すと、少しばかり背筋を伸ばして居住まいを正した。 「俺はもう長くねぇ……そこで、お前さんの後輩達に挑戦する機会を貰いたくってな」 「何を水臭いこといってんだ。俺と爺さんの仲じゃねぇか。まぁ要するに、最後の死に花を咲かせたいってぇ訳だな」  ディンスの笑みに、ローブの老人も小さく破顔した。  このローブの老人の名は、【ザガル・フリンスマン】。かつては【導きの隠者】として名を馳せたテロリストである。 ●謎の魔物群  数日後。  アルチェと、西部への玄関口『シュターニャ』の間に存在する某村にて。  フトゥールム・スクエアの二期生にして勇者・英雄コースに通うヒューマンの少女【キーラ・マドセン】は、突如村の南方から押し寄せてくるジャバウォックの群れに肝を冷やしていた。  森に住む動物を真似て造られた魔物であるということは分かっているが、数十体という規模で人里に押し寄せてくることなど、今まで聞いたことが無かった。  だが現実に、ジャバウォックの群れがキーラの視界の遥か向こうで、集団となって黒い影を見せている。  キーラはアルチェで遊んだ帰りに、たまたまこの村に立ち寄っただけであったが、あのような光景を見たからには、迎え撃たなければならないという使命感に駆られた。  尤も、当然ながらキーラひとりで立ち向かえる数ではない。キーラ自身、まだまだ半人前の実力しか身に着けていない。  それに、本来であれば野生の本能しか持たないジャバウォック共が、驚く程に整然と群れを為して迫って来る様子には、何かただならぬ気配を感じた。  幸いにも、ジャバウォックの群れの歩みは遅い。この調子なら、近隣で課外活動に励んでいる学園生を呼び集めることも可能だろう。 「今から、他の学園生を呼び集めてきます。どうか少しだけ、時間を下さいッ!」  動揺する村人達にそれだけいい残すと、キーラは街道へ飛び出していった。  ジャバウォックの群れを撃退する為の仲間を、掻き集める為に。
【新歓】『私』から、『あなた』へ――。 白兎 GM

ジャンル イベント

タイプ マルチ

難易度 とても簡単

報酬 多い

公開日 2020-04-23

予約期間 開始 2020-04-24 00:00
締切 2020-04-25 23:59

出発日 2020-05-01

完成予定 2020-05-11

参加人数 16 / 16
●桜、ひとひら  ひら、り。        ふわり。    は       ら         り。 ●それは『彼女』の、気紛れ  春が来た。それはフトゥールム・スクエアを中央に配する、エイーア大陸も例外ではないようで。  東方よりこの地に広まったと言われているオリエンタル・チェリーツリー……『桜』が随所で花開き、お祭りムードの学園を淡いピンクに染めている。  そんな桜色を見上げながら、『きみ』はどう思っただろう。一期生であるならば、今年もまたこの季節が、と感慨深く思っただろうか。  二期生であるのなら、ひらり、はらりと舞い降りる桜を受けつつも、周囲の賑やかさに少しだけ、圧倒されたのかもしれない。  『Magic of Delight(マジック・オブ・ディライト)』――学園長の一声で開催が決まったという三日限りの新入生歓迎会は、それはもう、賑やかだった。  見渡す限りのヒト、人、ひと。新入生だけでなく、各出し物の準備に勤しむ在校生や教員、来場客である『レゼント』(学園が内包しているという、住居区画……いわゆる、学園都市である)の住民達など、様々な種族のヒトでごった返している。  それはある意味では、人間も七選(人間族以外のことを、古来よりこう呼んでいる)も関係なく、多種多様な種族が混在して暮らしている現れだと言って良いだろう。  貴族や平民、奴隷といった貧富格差のある地はエイーア大陸の随所にあるが、少なくともこの学園では、ヒトは皆平等であり、理由を付けて差別されることはない、ということだ。  『きみ』はそんな状況を見て、どう思っただろう? 村人・従者コースであるなら、ようやく安寧の地に出会えたと、胸を撫でおろしただろうか。  もしくは、勇者・英雄コースを選んだ者なら、この平和を世界中に届け、守っていきたいと。  黒幕・暗躍コースや王族・貴族コースを選んだのなら、こんな安息を、自分の住んでいた場所でも実現したいと、願ったのかもしれない。  様々な思いを胸に秘め、『きみ』は学園の正門をくぐり、目的の場所……歓迎会による喧騒の中へと向かう。  魔王・覇王コースや武神・無双コースなら、特別闘技場『ブラーヴ・オブリージュ』での模擬戦が。  芸能・芸術コースであるなら、『ファンタ・ブルーム大講堂』(学園中心部にある大きな講堂だ)にて、在校生や卒業生による出し物に興味が湧くだろうか。  大図書館『ワイズ・クレバー』(ここならあらゆる知識が揃うと誉れ高い、フトゥールム・スクエアが内在する図書館だ)では『エイーア大陸基礎知識講座』や簡単な授業のオリエンテーションも開かれているので、教祖・聖職コースや賢者・導師コースを選んだヒトの知識欲を刺激したのかもしれない。  『きみ』はどうだろう? 同じ場所、同じ景色であれど、思うことは十人十色だ。  だからこそ、この学園での生活に夢を、楽しみを……『希望』を抱いてくれたのならば、――『わたし』は、嬉しい。  ◆  それは突然の出会いだった。  『きみ』はふと、歓迎会の賑やかさから切り離されたような、静けさを纏う場所に辿り着いたのだ。  快晴の青空を背に、枝垂れ桜の大樹が一本だけ生えているその場所は、学園内マップに目を通しても見つけられず、どこか神秘的な空気を漂わせている。  不思議に思った『きみ』が近付いて見ると、さらに不可思議な状況に出くわした。  誰も使った気配のない机が枝垂れ桜の下に設置され、その上には『タイムカプセル、承ります』と書かれた紙が無造作に置かれていたのだ。  ご丁寧に、『タイムカプセルとは、未来のあなたに向けて贈る決意表明や、エール、ご褒美みたいなものです』なんて注意書きも記されている。  なんだろう、これは。と首を傾げる『きみ』の耳に、くすくすと小さな女の子の笑い声のようなものが聞こえたが、辺りを見回しても、人影はない。  ……なんだろう、これは。まあここは魔法学園であるのだし、こういった『常識からかけ離れた現象』は、日常茶飯事なのかもしれない。  考えている間にも、ひらひらと零れ落ちる花弁は、まるで時間の経過を示すように、『きみ』の足元に降り積もっていく。  そんな中、『きみ』は。満開の枝垂桜の下、何を思ったのだろう?
【体験/新歓】フェスティバル・デイ・ビフォア あいきとうか GM

ジャンル イベント

タイプ マルチ

難易度 とても簡単

報酬 なし

公開日 2020-04-11

予約期間 開始 2020-04-12 00:00
締切 2020-04-13 23:59

出発日 2020-04-22

完成予定 2020-05-15

参加人数 16 / 16
●踊る会議と歓迎祭  歓迎祭を開こう、ということになった。  いつものように、魔法学園フトゥールム・スクエアの学園長、【メメ・メメル】の思い付きで。バァンと職員室の扉を開いて放たれた第一声で。 「やるゾ☆」  いつ?  とかなんとか色んな疑問がその場にいた教職員たちの間に広がったわけだけど、十分後には生徒会にも召集がかかり、空き教室のひとつに集合していた。  黒板には日程が書かれている。それぞれ言いたいこととか頭を抱えたいこととかはたくさんあったものの、仕方ないなぁ楽しそうだしなぁみたいな顔で座っていた。  教壇に立つのはメメルだ。黒板も彼女が書いているので、あちらこちらによく分からない落書きがカラーチョークで記されている。 「はい質問!」 「はいコルネたん!」  大好物の干しぶどうをつまみながら会議に参加していた【コルネ・ワルフルド】教諭が元気よく手を挙げる。同じくらいの勢いでメメルが発言を許可した。 「一期生と二期生に分ける理由ってなんですか! あと入学式もしてない気がするんですけどー!」 「いい質問だ~☆」  腕を組んでウムウムとメメルが頷いた。自然と大きなお胸が強調される。  この学園、入学願書を出せば四月でも十月でも入学できるし。  学年だけは修学の具合にあわせて存在しているけれども。 「ここ最近、妙に辛気臭いことが多かっただろ?」  ふとメメルの口調に真剣なものが混じる。その場にいた全員の背筋が反射的に伸びた。  過去と未来と現在の精霊たちのこと。  記憶を奪って回ったハロウィンの悪夢とも言える怪傑達。  その他にも、魔物の活性化を感じさせる事件が各地で起こっている。 「でもみんな、元気に頑張ってくれてるよな!」  明るい笑顔で言って、魔法学園の学園長は椅子の上に立った。  座面がぐるりと回りかけ、メメルの体が大きく傾く。とっさにコルネが支えた。 「あっぶなーい!」 「あはは! ありがとうコルネたん! えーと、なんの話だった?」 「危険がいっぱいでも、みんな頑張ってるって話だメェ……」  仮眠中だったところを叩き起こされて引きずられてきた【メッチェ・スピッティ】があくびをこぼす。 「そうだったそうだった。ほら、特に前にフォレスト爺たんと一緒にサプライズ歓迎パーチィをした生徒諸君は、一年経ってそれぞれいい感じに成長してる!」  各々が首肯した。  教職員にとっても生徒会の『先輩』たちにとっても、彼らの目を見張るほど素早い成長は、眩く、そして喜ばしいものだ。  思えばもう、あれから一年が経過している。  フォレスト事件の後に入学した生徒も多いが、いずれにしても時の流れは矢のように早い。 「それに四月だ! 春は入学の、そして始まりの季節だ!」  ばっと両手を広げたメメルの後ろ。  校庭には、薄紅色の花を枝が垂れるほど咲かせた桜木があった。  耳をすませば、校庭で遊ぶ生徒の声が微かに聞こえる。 「というわけで! その成長と努力と、これからの未来への希望をこめて、これまでの生徒たんたちを一期生。新しく入ってくる生徒たんたちを二期生と名づけたのだ!」  それは。  ひとつの時代の区切りであり、学園長としての決意でもあった。  新たな時代の幕が開く。  謎多き『偉大なる魔法使い』はそれを予感している。  ――それが決して、祝福に満ちた幸福で明輝な道程ではないと、悟りながら。  どうかその手で道を切り開き、世界を救い人々を守る『勇者』になってほしいと、願って。 「いわば! フトゥールム・スクエア第二章!」  一期生も二期生も、いつか希望の星になるように。  そのつもりがなくてもいいから。 「なによりお祭りしたくない? 春じゃん? したいしたい~☆」  ちょっといい感じになっていた雰囲気が、春風に吹き消されたように霧散した。急に緊張感がなくなる。  うんまぁそういうことだろうね、知ってた知ってた。  そんな空気になる教室で、椅子から飛び降りたメメルがパンッと手を叩く。 「ってことで! 頼んだよチミたち~!」  メメたんお腹空いたから食堂、と言い残してこの学園の最高責任者は軽快な足どりで出て行った。 「では会議を始めます」 「はーい」  残った教職員と生徒会の面々で、『メメル学園長の無理難題をどう消化するか会議』が始まる。 ●お祭りに必要なもの 「準備です」  端的に【テス・ルベラミエ】が言う。 「お祭りには準備が必要です。というわけで、思い思いの出し物のご用意をお願いします」  全校生徒がすし詰めになっている『ファンタ・ブルーム大講堂』に、拡声魔法を使ったテスの声が響いた。  彼女は現在、生徒会に所属する先輩としてここに立っている。 「どのあたりでどのような出し物ができるのかについては、掲示板に貼り出しておきます。もちろん強制ではありません。出店ではなくお客様としてお祭りを見て回りたい皆様は、それで構いません」  普段より幾分か硬い、余所行きの口調だ。手元のカンニングペーパーはほとんど見ていない。 「もちろん、二期生であっても出店できないという規制は設けません」  ただし、と続ける。 「皆様は入学願書を提出し、学園生となった瞬間から『ゆうしゃのたまご』として日々の精進を求められているはずです。それだけはお忘れなきように」  静まった講堂を見回し、テスは小さく笑った。 「後は各々、楽しいお祭りを開催できるよう、手を尽くしてください。……そういえば、二期生の方々の前に私がこうして出るのは、初めてでしたね」  生徒会広域制圧担当としてではなく。  ドラゴニアの先輩は、ひとりの生徒としてことさらに声を張った。 「ようこそ、魔法学園フトゥールム・スクエアへ。皆様のご入学を歓迎いたしますわ」
ゲンダイニホンという魔境 宇波 GM

ジャンル 冒険

タイプ EX

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-04-21

予約期間 開始 2020-04-22 00:00
締切 2020-04-23 23:59

出発日 2020-04-29

完成予定 2020-05-09

参加人数 8 / 8
 高くそびえる摩天楼。  天までも飲み込もうと高く、高く積みあがったそれらは、大空を隠す。  見上げた彼らの足元には、土より硬い地面がある。  『道路』というそうだ。『アスファルト』という素材で作られた道路は、普段の地面より硬く、均一に均されている。  道路には見たこともない馬車が走り、轟音を合奏する。  馬車には本来いるべき馬がいない。それなのに、馬車よりももっと重そうな鉄の塊が、もっと速く走っている。  魔法は一切使われていない。  最早、ここは別世界だった。 「ここが、『ゲンダイニホン』……!」  発端は、学園に持ち込まれた石だった。 「これは、魔法石ですか?」  見た目は赤色の魔法石のようなもの。  しかし、受付職員【ウケツ・ケ】は首を振る。 「はい。しかし、これは魔物でもあるんです」  ざっ。一斉に構えを取ってしまうのも仕方のないことと言えよう。  そんな生徒らに、ウケツは落ち着くようジェスチャーをする。 「これは魔物ではありますが、正しくはこの石は魔物ではありません」  何かの哲学だろうか。  ウケツは彼らに説明する。 「この魔物は、『マキョー』。魔法石に寄生をし、その内部に魔境を作る魔物です」 「この魔法石は、魔法を使うことはできるんですか?」 「いいえ。現在はマキョーに寄生をされているため、本来の使い方はできません」  じっと見ていたひとりが、壊せばいいのでは? と案を出す。  ウケツは『やってみますか?』と石を手渡す。 「え、かた、硬い!」  大ハンマーで殴ってみても、その魔法石は割れない。  ウケツは頷いた。 「マキョーが寄生している間は、魔法石はどんなものに対しても硬く、壊れないようになります」 「破壊は無理と言うことですね」  納得した生徒は、一度引き下がる。 「なら、魔法石をマキョーに寄生させたままで、保管すると言うのはどうですか」  別の生徒が案を上げる。  ウケツは首を振る。 「それも、できないんです。そもそも、マキョーが魔法石に寄生するのは、仲間を増やすためなんです」 「繁殖、ですか?」 「分かりません。繁殖なのか細胞分裂なのか、あるいは魔法石の魔力で増えているのか、何も」  ただ、とウケツは続ける。 「時間が経つと、魔法石は粉々に砕かれ、マキョーが増えていきます。現実世界に現れたマキョーは強く、倒すには少々厄介な相手になります」 「では、なにをすれば?」  ウケツのメガネがきらりと光る。 「みなさんには、この魔法石の中に入ってもらいます」 「できるんですか、そんなこと」 「はい、できます。魔法石に手を触れた状態で、中に入りたいと念じるだけで入ることができます」  みなさんには。ウケツが続けた言葉には、この場の誰もが目を見張る。 「この中の魔境に入っていただき、魔境の生活を模倣しながら、中にいるマキョーを討伐していただきたいと思います」  魔境の名前は『ゲンダイニホン』。  魔法の無い、『カガク』という力を借りて人々が生活をしている、魔境である。 「入ってからの注意事項をいくつか。まず、服装は、どういうわけかその生活に合ったものになるようです」  その服装から、どういった役割で動くべきかを考察し、その通りに動くこと。 「別に、探すだけなんだから、模倣はしなくていいと思うのですが」 「いえ、模倣をしてください。というのも、マキョーはその魔境に合った動きをしている人は放置しますが、そうでない人は異物とみなし、魔法石から追い出してしまうんです」  追い出された人は、その魔法石の中にはもう入れないという。 「検証したのは私です。私は一度追い出され、それ以降この魔法石には入ることができませんでした」 「怪我はありませんでしたか?」  心配する生徒に、ウケツは大丈夫、と言って笑う。 「ですので、みなさんは模倣をしてもらいつつ、マキョーを探して討伐をお願いします。また、この魔境では魔法が使えません。中にいるマキョー自体はそこまで強くなく、みなさんが殴ったり蹴ったりすれば討伐できるほどには弱いです」 「魔法が使えなくても倒せるということですね。……マキョーの姿かたちは分かっていますか?」  ウケツは言い辛そうに口ごもる。  なにか、悪いことを伝えたいような、そんな雰囲気が伝わってくる。 「マキョーは、見る人によって姿が変わります」 「その人の深層心理とか、そんな感じでしょうか」  いいえ。首を振ったウケツはやや下方向に目を伏せる。 「マキョーは、マキョーを見た人の姿に見えます」 「……え?」 「つまり、マキョーは魔境『ゲンダイニホン』で生活をしている、あなたたちの姿に見えます」  パラレルワールド、でしょうか。  自信なさげに伝えるウケツ。  その表現は、なかなか的を射ていると思う。 「私が検証のために入った時には、マキョーはまだ一体だけだったと思います。ですが、時間が経った今では、増えている可能性もあります。くれぐれも、お気をつけて討伐をお願いします」
ホムンクルスより 秀典 GM

ジャンル 冒険

タイプ マルチ

難易度 とても難しい

報酬 多い

公開日 2020-04-24

予約期間 開始 2020-04-25 00:00
締切 2020-04-26 23:59

出発日 2020-05-01

完成予定 2020-05-11

参加人数 9 / 16
 どことも知れない薄暗い部屋の中。  透明な硝子ケースの中で彼女は目覚めた。  自分が誰なのかも分からず、手や体は内部の水と同化しているようだ。  何者にもなれそうなそんな感覚がある。  周りには同じようなケースが幾つもあり、自分と同じような何者にもなれない者が浮かんでいた。  触った所で出れそうもなく、待てど暮らせど誰もやって来ない。  近くにある時計の針が動く音、それがこの部屋の全てである。  『助けて!』  声にもならない声は水に溶けるばかりだが、それでも延々と叫び続けた。  もう時計が何千周したか分からない。  それでもこの部屋には誰もやってこないようだ。  叫び、叩き、出たいと願い続けると、この体が形を成した。  手の指は五つに別れ、ハッキリと認識できる色へと変わる。  これなら出られると願ったそれは、何百も何千も何万度とケースを叩き続けた。  幾星霜と行われた行為に、ついにはケースの方が参ったようだ。  ガシャンと割れ果て、何者かは外の世界へ流れ出た。 「……うぅ、私は……私は何?」  まだ不形で不安定なそれは、今度は安定したいと願い続けた。  それにより、体は人間の女性の物へと変化して、また一つ試練が訪れる。  部屋全体が震動し、天井が崩れ始める。  この部屋が崩れ落ちるのも時間の問題だろう。 「誰か、誰か助けてえええええええ!」  まだ生まれたての体は立つこともできず、叫ぶ事しかできはしない。  ただ、その声は、誰かの頭に届いた気がした。
【新歓】おむすびお結び 樹 志岐 GM

ジャンル イベント

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2020-04-20

予約期間 開始 2020-04-21 00:00
締切 2020-04-22 23:59

出発日 2020-04-27

完成予定 2020-05-07

参加人数 5 / 8
●  それを手に取り彼の為。  具材込めるは誰の為?  握りしめたる誰かへの想い。  ほんの少しの人生(しお)を振りかけて。 「さぁさ、たんと召し上がれ」  一期一会の縁を結ぶ。  その食べ物を、人は『おむすび』と呼んだ。 「こんにちは。今、手は空いてますか?」  大掛かりな新入生歓迎イベント、『マジック・オブ・ディライト』でにぎわう校舎を通り抜けようとしたあなたに声をかけたのは、ルネサンスの学生だった。  手が空いているならば頼みたいことがある。  そう言った彼の懐には蓋のついた木製の入れ物。そしてもう片方には同じく木製の平たい杓子。  入れ物から漂ってくる甘いような香りの正体を、知っているものは少なくないかもしれない。  学生が入れ物の蓋を開けると、柔らかな湯気と共に姿を見せたのは白くて艶やかな白米。  そう、中にはぎっしりと炊きたてご飯がつまっていた。 「僕一人では中々手が回らなくて。もし手伝って頂けるなら手伝って頂けませんか?」  何を? 「おむすび作りを、です」  彼の話によると新入生歓迎イベントの一環としておむすびを配って回る予定だったようだ。  しかし一緒に作ってくれる筈だった知り合いは別のイベントの設営の手伝いで手一杯になってしまったらしく、困っていたところに通りかかったのがあなた達だったとの事。 「なにもお礼はできませんが、出来たおむすびはいくつか召し上がってくださって結構です」  これも何かの縁なのかもしれない。  彼がおむすび作りに借りた教室に、あなた達は集まって手伝いを始めたのだった。
憧れは一途で純粋で、されど彼女は憂鬱で 機百 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-04-20

予約期間 開始 2020-04-21 00:00
締切 2020-04-22 23:59

出発日 2020-04-29

完成予定 2020-05-09

参加人数 7 / 8
「いーやー! 助けてくださいましぃぃぃぃぃ!!」 「誰かこのガキを黙らせろ!!」 「ひぃっ、どうかやめてくださいまし! このようなことをしてタダで済むとお思いですの!?」 「どうやら俺達がどれだけ冷酷か知らないようだな? お前がどこの誰だろうと、知ったこっちゃねえってことだ」 「まさかあなた達、わたくしに『ピー!』や『ズギャーン!』や『ア~ン♪』をする気なのでしょう! このいたいけで清廉なわたくしに向かって! このむくつけきケダモノ共!」 「しねえよ! てめえのような貧相なチビガキなんざ俺らから願い下げだ!」 「いいえ、わたくしには分かります! あなた達が品性下劣にして低俗で卑しい畜生共だから、わたくしを攫ったのだと簡単に分かりましたわ!」 「だから誤解だっつーの!! 何処のガキか知らねえが、俺らをこそこそ嗅ぎまわりやがって……!」 「嗅ぎまわるだなんてそんなはしたない! わたくしが追っているのはスクレ様のミステリアスにしてかぐわしき薫香だけ! あなた達の汗や垢に塗れた汚臭なんて死んでもご免ですわー!!」 「何だとこのクソガキ!!」 「いやー! きゃーー『●●●●』されますのーー!!」 「畜生っ、もう嫌だ!! やっぱりこいつで身代金の要求なんて無茶ですぜ!!」 「やはりそのようなことをお考えなのですね! あなた達の悪事なんて、スクレ様が必ずや暴いて蹴散らかします! 嗚呼、どうかスクレ様、早くわたくしを助けてくださいまし……! そしてわたくしとあのようにして、このような……ぐふふふふ……」 「ダメだこいつ、完全に自分の世界にイッてやがる……」 「そして高ぶってきたフィナーレにはスクレ様の……きゃーーーーーっ!!」 「だからやかましいっつってんだろ!!」 「きゃーっ助けてくださいましぃぃぃぃぃスクレ様ぁーーーー!!!」 ●緊迫しづらい一大事 「ということらしい。くくくっ」  いや、どういうことだってばよ。  昼食時。のどかな時間を過ごしつつご飯を口に運ぼうとしたら、何の前触れもなくぬるっと褐色肌の女性教師が現れたのだ。しかもこちら側が問いかける隙も許さず、一方的に語り尽くして勝手に笑ったのだから開いた口が塞がらない。  一体何なんだこの人は。つまらない漫談だったら他所でやってくれないだろうか。 「いやいや。もうちょっと掘り下げて説明するとだなァ、【コルデ・オペレッタ】という貴族のご息女が、盗賊のアジトに使っている廃墟に捕らわれているのだ。今のところ無事なのは間違いない」  それは一大事じゃないのか。とりあえずご飯を口に運びながら話を聞いてみる。 「興味を持ってくれて何よりだ。まず、事の始まりは【ミロワール・ド・スクレ】が、ある商人に予告状を出したことから始まるわけだ。この商人、盗賊と結託して盗品を売りさばくというなかなかの悪党でなァ。まあそっちの方はどうでもいいんだが」  どうでもいいと言われて一瞬こけそうになったが、貴族のご息女が盗賊に捕らわれているのならそっちの方が大事だろう。 「そこでだなァ、ミロワール・ド・スクレの応援団がその噂を嗅ぎつけて、彼女が現れそうな場所を嗅ぎまわったわけだ」  はい? 明らかにおかしい単語が出てきたぞ。  応援団ってどういうことですかね? しかも嗅ぎまわっているって何? 「くく、或いは非公認なファンクラブというべきだろうか。彼らは彼女のためなら驚異的な行動力を発揮し、独自の情報網を駆使して活躍する彼女の姿を生で見るべく活動している大した連中だよ。今回は例の商人が予告状を受け取ったことや、盗賊と結託していることまで割り出したわけだなァ」  エイーア大陸は広しと言えとそんな珍妙な連中がいるとは。ファンクラブと言っても迷惑な類とみて間違いない。  勇者ではないのにその行動力は凄いのか凄くないのか……もっと有効利用すればもう少し平和になるだろうと思う。 「正義や義務といった大義名分よりも、良くも悪くも己の欲望に従った方が人は遥かに動くというものだぞ。それで、応援団の1人でもある例のご息女が、商人と結託している盗賊を追っていったら捕まってしまった、というわけだ」  それはまた……迂闊というべきか、怖いもの知らずというべきか。  だが気になる点もある。貴族のご息女たる人物がこうも気軽に動けるものなのだろうか。例えば側に護衛などは付いていないのだろうか? 「それがまァ面白いことに、家にどれだけ見張り番をつけても警備を増やしても、煙のように綺麗に脱出してしまうという神がかった特技を持っていてなァ。ご両親はもう諦めてしまったそうだ。後これは私の勘だが、彼女はミロワール・ド・スクレに助けてもらうためにわざと捕まったのではないかと考えている」  本当にそうだとしたら実に迷惑な話である。どうか勘違いであってほしいが……。  少し気が滅入ってきたが、それに構うことなく女性教師は説明を続けた。 「そこで本題だ。盗賊退治とご息女の救助を課題として与えよう。盗賊はここから南東の方角にある、トロメイアよりはもう少し北にある廃墟の町をアジトにしている。普段はスラムのような感じで身を隠してきたわけだなァ。盗賊は全部で18人。規模は、迷うほどではないがやや入り組んでいて少し走りにくそうだな。盗賊自体はさほど苦労する相手ではないが、屋根の上からボウガンや魔法銃を使う盗賊が幾らかいるようだ。少し気を付けてほしいのは、体力回復の効果を持つを竪琴を使う盗賊が1人いることだろう。そして、ご息女は町の中心の見張り櫓の近くの家に捕らわれている。2人の盗賊に監視されていて、大体は先に話した通り、賑やかだ。基本的な情報は大体そんなところだなァ。流石に全員捕らえるのは少し難しいだろうから、半分は捕らえてほしい。それが最低限の合格点だ」  応援団だのなんだのはともかく、盗賊のアジトを攻略するのは少し骨が折れそうだ。  ところで、ここまで説明されて気になることもある。ここまでに何度も名前が出てきた『彼女』の事だ。 「ミロワール・ド・スクレか? くくっ、大慌てで盗賊にも予告状を出したと聞いたぞ。どのように現れて活躍するかは分からんが、少なくともお前達の邪魔をすることはあるまい。唯、お人好しな苦労性ではあるがなァ」  女性教師は可笑さゆえに咽ぶように笑う。しかしそれはどういう意味なのだろうか? 「そのまんまの意味だ。説明は以上だ。この課題、受けるなら予定した時刻に教室に集合してくれ。あまり彼女に手柄を取られないように、な?」  そう言うと女性教師はのらりくらりと後にした。  気が付けばすっかり昼ご飯が冷めてしまっていた。話を聞くことに専念しすぎて、つい手が止まっていたのだ。  唐突に与えられた課題を受けるかどうか考えつつ、冷めた昼ご飯を口に運んだ。 ●??? 「頭が痛くなれるわね」  彼女はレイピアの刃を磨きながら独り言ちた。  ある意味では自業自得と取れなくもない事態だが、それでもため息ばかり出てしまう。いずれはこのような事態が起こることは分かっていた筈なのに。  とは言え、彼女に見捨てるという選択肢などありはしなかった。 「あたしだって憧れたんだもの」  新作の衣装に袖を通しつつ、彼女は決意を固めた。
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