;
はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



絞込
ジャンル 難易度 GM メモピン
キーワード検索

【メイルストラムの終焉】Blue 桂木京介 GM

ジャンル ハートフル

タイプ EX

難易度 普通

報酬 少し

公開日 2021-07-14

予約期間 開始 2021-07-15 00:00
締切 2021-07-16 23:59

出発日 2021-07-21

完成予定 2021-07-31

参加人数 6 / 6
 鳥のさえずりがきこえる。クラリネットに似ている。ツバメかそれともエナガの声か。  あれほど荒れ狂った嵐もすでに嘘のように立ち去っており、窓の外からは初夏のあかりがさしている。  本日取り立てて急ぎの用件はない。もちろん立場上目を通すべき書類、片付けておくべき交渉事など、引き出しなりファイルキャビネットなりを開ければいくらでも出てくるわけだが、それでもこの時間帯からウサギのようにダッシュする必要はないのだった。カメのごとく着実に進めていけばこと足りよう。  時刻は午後一時ごろ、たいていの生徒は授業中で教師も同様、ちょっとサボるには最適の頃合いである。  けれども学園長【メメ・メメル】は、グラス片手に優雅な昼酒とはいかなかった。  じつはほんの少し前まではそのつもりだった。執務デスクの上には、よく冷えた白ワインのボトルと金魚鉢みたいな大きなグラスが置かれている。  けれども手はつけていない。  ボトルは表面に水滴を浮かせ、グラスに影をさすばかりだ。  メメルは机に突っ伏しているのだった。かといって寝息をたてているわけではない。むしろ正反対で息は不規則で苦しげだ。額には脂汗が浮いていた。 「またこんな昼前に……クソッ」  メメルは短く毒づいた。  数分ほどそうしていただろうか。  ずっと水中にいた人間が浮き上がったときのような呼吸とともにメメルは身を起こした。 「……いつまで隠しておけるか」  木綿のハンカチで顔をぬぐう。飲酒する気分ではなくなったのか、ボトルとグラスを背後の棚にそろえてしまった。棚からは真冬の屋外のような冷気が一瞬だけもれた。  かわりに別の棚から、メメルは鏡を取り出して自身の顔を映したのである。  顔色が青白い。  だろうな、とつぶやくとメメルは机の隅から便箋を取ったのである。鵞鳥の羽根飾りがついたペンを握ると、インク壺にペン先をひたしてさらさらと書きはじめた。  ――表題は、『遺言状』。 「縁起でもない!」  すぐに便箋を破りとってくしゃくしゃに丸め、部屋の隅の屑籠に投げる。狙いは外れた。 「……しゃーない、真面目に仕事でもしてやるとするか」  ふんと鼻を鳴らすとメメルはファイルキャビネットに手をのばした。  メメルにしてはめずらしいことだが、仕事に集中していたため彼女は、学園長室のドアがノックされる音にしばらく気がつかなかった。  学園長室の扉の前に立ち、あなたは返事を待っている。  メメルはどうしたのだろう? もう一度ノックしようかとあなたは思う。  ◆ ◆ ◆  呼吸を整え、【サラシナ・マイ】はサンドバッグに向き合う。  右の拳で体重の乗ったストレートを見舞った。つづいて左、さらに右、勢いにまかせて蹴りもはなつ。右左右右左、拳をあびせて最後は膝。  トレーニング室は無人だ。石壁にも天井にも、重く間断のない打撃の音がしみわたる。 「……あの野郎」  マイの脳裏にはかつての優等生、メメルのおぼえもめでたき【ディンス・レイカー】の姿が浮かんでいる。  ディンスは優秀な生徒だった。さわやかで高潔、いささか頑固で融通のきかない部分もあったが、誰にもわけへだてなく接する公明正大な男でもあった。  なにかと世間を斜に見て、すぐに腹を立て孤立しがちだった当時の自分とは、正反対な人間だったとマイは思っている。  そんなディンスがどうして――!  マイの拳がサンドバッグにめり込む。  セントリアの事件で、マイはディンス・レイカーと再会した。  ディンスの出奔以来となったその姿は、マイの知る彼とは似ても似つかなかった。何十歳も経たように老けこみ、病んだ目を輝かせマイからすれば異常ともいうべき心情を口にし、おまけに、 『さあ……誰であったか……?』  マイのことを覚えていなかった。  もともと、視界の片隅にも入っていなかったというだけのことかもしれない。 「畜生!」  マイは自分の拳に歯をあてて立ちつくしている。  サンドバッグは破れてしまっていた。砂がざらざらとこぼれ落ちている。  ふいに名を呼ばれマイは振り返った。  マイに声をかけたのがあなただ。  ◆ ◆ ◆  我々に、と【ネビュラロン・アーミット】は言った。 「暴動行為、暴力や破壊活動に直接加わっていなかった者まで裁く権利はない」  きらりと光るものをネビュラロンが投げてよこした。小さな鍵だった。  鍵をキャッチしたのはあなただ。 「町外れで拘束を解いてやれ。セントリアや学園には永遠に近づくなと警告しておくことを忘れないように」  この鍵が、【ピーチ・ロロン】の両手にはまる手錠を解くものであることはすぐに理解できた。  ピーチは、研究都市セントリアを襲った『霞団』なるテロ集団の一員だった。霞団は首領ディンス・レイカーを失って瓦解消滅している。ほとんどのメンバーは拘束された。殺人や破壊活動に直接参加したメンバーはこれから裁きを受けることになるが、ピーチのような末端構成員は釈放することになったのである。  ピーチ・ロロンはまだ十代半ばの少女だ。明るい桃色の髪をツインテールにくくっている。前途洋々たる年齢のはずなのだがまなざしは暗い。目の下には黒い隈があった。神のようにあがめていたディンスが死んだと知らされてから、黒みはまずます濃くなっていた。  今だってピーチは、ネビュラロンを見るでもなくあなたに視線を移すでもなく、ただ呆然と、なかば口を開けて空を見上げているだけである。 「ディンス様……」  ネビュラロンとあなたの会話だって、まるで聞いていない様子だ。  あなたはピーチを連れていく役割を志願するか。  それともこの場にとどまり、素顔をさらして久しいネビュラロンと話をするほうを選ぶか。
時の奇術師 ~破棄された裏工房~ SHUKA GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2021-07-09

予約期間 開始 2021-07-10 00:00
締切 2021-07-11 23:59

出発日 2021-07-19

完成予定 2021-07-29

参加人数 5 / 8
「瑞理、誕生日おめでとう。ほらケーキ持ってきたぞ」 「ありがとう、兄さん」  学院の調理実習室の中心にあるテーブル席に【稲葉・一矢(いなばかずや)】が手作りした誕生日ケーキが置かれる。 「おめでとう、瑞理ちゃん!」 「お誕生日おめでとう、みずりん!」 「ありがとう! それじゃあみんなで歌おうか、さんはいっ!」  【稲葉・瑞理(いなばみずり)】は周りに呼びかけて歌を合唱してから目の前に置かれたケーキの蝋燭を吹き消した。  実習室中から次々とお祝いの声が上がる。  今日の実習室には大勢の生徒が集まっていた。  いずれも瑞理の友人たちだ。  天性の明るさで人当たりが良く、努力家の瑞理は交友関係がとても広い。 「んでどうしてお前がいるんだ? ニル」 「そりゃあ恋人の誕生祝いに彼氏がいるのは当然だろ? むしろなんで君がいるんだい?」 「家族が誕生日を祝うのは当然だろうが」 「なら未来の家族である僕がいてもなんら不思議じゃないよね? お義兄さん」 「誰がお義兄さんだ。ふん、今すぐここから叩き出してやろうか?」  ギロリ――。  一矢は不機嫌に鼻を鳴らすと、瑞理の隣に座る【ニルバルディ・アロンダマークォル】を睨みつける。 「ほんと一矢ってシスコンだよねえ」 「さすがにそろそろ妹離れしないと事案だよ? まあ可愛いのは分かるけどさあ」 「誰がシスコンだ。俺は家族として……」 「はいはい、お兄ちゃん。早くケーキ食べようねえ」  だが周囲の生徒たちは一矢を茶化し、あははと笑い声を上げる。 「もう、兄さんも座って。ただでさえ目つきが悪いんだから、むすっとしてたら損するよ。普段から笑顔を心掛けないとね」  にいっと笑みを作る瑞理に釣られ、周囲から再び笑い声が沸き上がる。 「――!!」  と、不意に一矢の眼光が鋭さを増した。  先程までのただ不機嫌だったそれとは違い、殺気を伴うモノだった。  刹那、澄んだ金属音が響いた――。  ケーキ数ミリのところで二つのフォークが交錯していた。 「でたな、G野郎。どこから湧いて出た?」 「おいおい、可愛い生徒の誕生会にどうしてオレサマを呼んでくれない? せっかく誕生日プレゼントも用意したってのにつれないじゃないか」  いつの間にか忍び寄っていたメメル学園長の伸ばしたフォークと一矢のフォークが擦れ合い、ガチガチと音を響かせている。 「ならプレゼントだけ置いてとっとと失せろ。そうしたら後でケーキだけは持っていってやる」 「おいおい、最近言動が益々乱暴になったんじゃないか。先生は悲しいぞ。ただでさえ目つきが悪いんだ。それで態度まで粗暴になったら人生ジ・エンドだぜ?」 「一体誰のせいだ。毎回毎回俺のケーキを狙いやがって。狙うのならニルのにしろ」  鍔迫り合いから互いに間合いを開く。  まるで短剣を構えるように、互いにフォークを手に隙を窺っている。 「いやいや、頼めばニル坊もみずちんも喜んでオレサマに献上するだろ? 奪うからこそ美味なんじゃないか」 「それが教職者の言葉か? このG野郎、人類を舐めんなよ!」  二つのフォークがまるで刃をぶつけ合うかのように、いたるところで火花と高音を散らす。 「あっ、これ魔法石だ。しかも私の杖に合うように魔術式がカスタマイズされてるよ」 「さすがは学園長だね。ここまで細密な組み上げなんて超一流の魔術師でもなかなか出来るものじゃないよ」  瑞理とニルバルディはメメル学園長から攻防の合間に手渡された誕生日プレゼントに目を見張る。 「さすがは一矢先輩。ケーキ作りの腕だけは超一流だよね」 「こういう時だけは先輩がシスコンで良かったって思うよね」  周囲の生徒たちも鋭いフォークの応酬をまるでそよ風のように気にも留めていない。  いい意味か悪い意味か、他の生徒たちはこれを日常の光景としてすっかり受け入れてしまっていた。 「くっ、またやられた……!」  数分後、雌雄は決していた。  無念そうに顔をしかめ、地面に這いつくばる一矢。  そして彼の背中に座り、満足そうにケーキを食べているメメル学園長。 「オマエのものはオレサマのモノ、オレサマのモノもオレサマのモノ~♪」  予めメメル学園長に用意されていた分を含め、二つのケーキが胃袋に収められる。 「やっぱメメたん相手じゃ学園の鬼神と呼ばれた兄さんも形無しだね。ニル、あーん」 「あむ……最初はお菓子作りだけが取り柄だった心根優しい少年が、どうして学年最強の剣士になったんだかねえ」 「そこ、さりげなくあーんしてんじゃねえ……!」  瑞理とニルバルディは生暖かい視線を倒れ伏す一矢に送る。 「……ニルか?」 「すまない、起こしてしまったかい?」 「いや、どうせ起きるタイミングだった。問題ねえよ」  微睡(まどろみ)の中、気配を察知し夢から覚めた一矢は椅子から立ち上がるとオーブンから焼き立てのケーキを取り出す。 「おっ、ケーキを焼いたの?」 「たまには作っておかねえと腕が鈍るからな」  瑞理の魔術工房。  元々パン工房だったこの家には大きな窯がある。  三人が拠点としているこの家は甘い匂いに包まれていた。 「それでなにか情報は手に入ったか?」 「うん、学園での鑑定結果を聞いて来たよ。鳥籠が解析中に壊れたとかで分解して隅々まで調べてくれたって」  ケーキを頬張るニルバルディの話によれは、一時的に鳥籠の魔術が暴走したらしい。  だがその場に居合わせた学園の生徒たちの活躍によって事態は収集されたという。 「鳥籠の金属成分に加工方法。それと魔法石の術式解析について。それぞれのルートから分析した結果、一つ有力な情報が得られた」 「有力な情報?」 「ゼドリのアトリエ、鳥籠の籠はそこで作られたらしい」 「聞いた事がねえな。裏工房か?」  一矢はそう言いながら旅支度を始める。 「うん、先日この国の男爵家がとり潰されたのは知っているだろ?」 「国外と魔術具の違法売買をしていたとかいう話だったな」 「その男爵家が運営していた裏工房が先日見つかってね。騎士隊が踏み込んだところ地下に巨大な研究施設が見つかったんだ。けれどその研究施設がどうも手に負えるような代物じゃなかったみたいでね、学園に調査依頼が出されたらしい」 「んじゃ学園の人間が入り込む前にとっとと調べておくか」  一矢は大剣を背中に担ぐと玄関へと向かう。  それをニルバルディは慌てて止めた。 「ちゃんと話は最後まで聞こうね。内部では凶悪な魔獣が脱走してダンジョンと化しているらしいよ。それに加えて魔獣の逃走防止用トラップまでが配置されている。迂闊に踏み込むと僕らがそれにかかりかねない。そのお蔭で外部には魔獣は逃げていないけれど、内部はあまりにも危険なんだよ」 「んなもん、まとめて叩き斬ればいいだけじゃねえか」 「それを本当にやってのけそうだから怖いね」  ニルバルディは苦笑を浮かべる。 「いや、今回は学園の生徒たちに任せるべきだと思う」 「瑞理の手掛かりがあるかもしれねえんだぞ。そんな悠長に待ってられるか」  一矢はギロリと苛立たし気にニルバルディを睨む。  だがニルベルディは飄々とその視線を受け流した。 「僕達は魔術や錬金術に関する知識に乏しい。そういうのは瑞理が担当だったからね。それに国が調査依頼を出している建物に無断で踏み込むのは冒険者として得策じゃない」 「チィ……わかってる」  一矢はドカッと椅子に座り直した。 「それに君も『彼ら』を知っているだろう? 彼らならきっとやってのけてくれるさ」  そう言うとニルバルディは窓の外、学園の方角へと視線を向けるのだった。
黄金色の魔術師 ~魚人達の饗宴~ ウケッキ GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 多い

公開日 2021-07-11

予約期間 開始 2021-07-12 00:00
締切 2021-07-13 23:59

出発日 2021-07-19

完成予定 2021-07-29

参加人数 3 / 8
●黄金色の魔術師  魔法学園【フトゥルーム・スクエア】に観光地【アルチェ】からの魔物討伐依頼が届いていた。  観光地区に面する浜辺に不可思議な“金色の装飾物”を装備したサハギンが大量に出没したというのだ。  それらをどうか討伐してほしいとの依頼である。  観光地を荒らす魔物を早急に何とかして欲しいアルチェからの依頼ということで報酬は多いようだった。  あなた達は数名規模の先行偵察隊に参加していた【リリア】の話を聞く。  彼女は以前、住んでいる村が襲われた際に学園の生徒に助けられた少女であり、今は学園の魔王コースに在籍している。  手違いから魔王コースに入ってしまったのだが、彼女なりに“良い魔王”を目指すとのことで今はコースの変更などは考えていないようだった。  そんなリリアに話を聞くとリリアは魔物にイラついた様子で話す。身体には傷が目立ち、どうやら返り討ちにあったようだ。 「あーもうっ、なんなんだよー、あいつら! こっちの攻撃は避けられるし、魔法を撃てば弾かれるし……あんなのどうしろっていうんだよーっ!」  彼女が言うにはサハギン達にはなぜか攻撃が“当たらない”というのだ。  魔法に至っても至近距離で何かに“弾かれて”効果がないという。 「うぐぅ、勝てる気がしない……あうぅ、こんなんじゃ解決なんて無理だよぉーっ!」  頭を抱えてあうあうと落ち込むリリアを励ましながらあなた達は彼女から情報を聞き出そうと試みる。  多少落ち着きを取り戻したリリアにあなた達はリーダーのような者がいないか、雰囲気が違う者がいないかと聞く。 「えっ、なんか違う雰囲気の奴がいたかって? うーん……あ、そういえばなんか色の違うサハギンがいたよ。赤くて、後ろで控えている奴」  リリアの情報によると、サハギンはほとんどが緑の体表を持つ者で構成されているが、一体だけ赤いサハギンがいたという。赤いサハギンは緑のサハギンに守られているように見えたようだ。  近づこうにも緑のサハギンが壁となり、赤いサハギンには近寄れなかったということらしい。 「それでさ、赤い奴が卑怯なんだよ、後ろにいて前に出てこない癖に魔法はばんばん撃ってくるし!」  緑のサハギンによる近接戦闘と赤いサハギンによる魔法での援護攻撃、これらが組み合わさり手も足も出なかったという。 「確か、アルチェって魔物の被害が少ないはずでしょ。なんでサハギン達なんか急に現れたんだろうね? それにあの金装飾、村に来た獣と似てる気がするんだ……」  リリアの村は以前、金色の装飾物を装着された魔物に襲撃され、被害を被っていた。  今回の事件はそれに酷似しているという。 「裏に誰かがいるってことなのかな……あーもうっ難しいこと考えたら頭痛くなってきた。とりあえず、あのサハギン達をどうにかする! それが一番の解決方法だよね!」  リリアの言葉に頷いたあなた達は彼女と共に謎のサハギン討伐の為、アルチェへと向かうのであった。 ◆  誰もいない夜の浜辺。  そこには観光客ではない者達が闊歩している。  金色の装飾物を頭や胸に着けた赤い目のサハギン達が歩いているのだ。手には小盾と三叉槍を持っている。  そんなサハギン達を見下ろす黄金色のローブを纏った明らかに目立つ人物がいた。見た所、魔術師のようにも見える。 「実験は上々、ふむ……前に使った獣達よりは効果が出ているようだ。やはりある程度の知能が必要ということか」  メモ書きのようなものを記しながら彼はにやりと笑う。 「さあ、サハギン共……大いに暴れろ! いずれやってくるであろう邪魔者達と戦い、私にデータを寄こすのだ。優秀な実戦データをな、くくく、ふははははは!」  笑っているその声に反応したのか、赤いサハギンが咆哮と共に火球を数発ほど黄金色の魔術師に放つ。  黄金色の魔術師はそれを片手を振るって不可視の壁で弾くと笑った。その笑いは嘲笑に似たものである。 「ははは、戦闘意欲旺盛なのは結構、結構。だが、刃を向ける相手を間違えてはいけないぞ?」  ぐっと手を緑のサハギンへ向けるとふわっとその身体を宙に浮かばせる。サハギンはもがき苦しむようにじたばたと手足をばたつかせていた。  次の瞬間、サハギンの身体がぶわっと炎に包まれ、燃えあがる。断末魔の叫びと共にサハギンは一瞬で黒焦げとなった。 「見せしめだ、私に歯向かうからこうなる。大人しく従っていればいいのだよ、貴様ら魔物風情はな」  それだけ言うと黄金色の魔術師は不思議な装置を展開すると扉のような形状になったその不思議な装置の中へと消えていく。  金色の装置は淡く発光しておりどうやら魔力が流れているようだった。恐らく、原動力は魔力なのだろう。 「では、盛大に暴れてくれ。邪魔者もいずれ来るだろう……くく、私は離れた所で見物とさせていただこうか。この、面白い実験の結果をな」  装置が閉じると黄金色の魔術師は装置と共に消失する。その場には黒い焼け焦げた跡だけが残っていた。  それから数分後、リリアとあなた達は浜辺に到着しサハギン達に見つからないように物陰に身を隠す。  サハギン達は浜辺に設置してある観光用の物品や施設などを手当たり次第に破壊しているようだった。  見れば一体だけいる赤いサハギンが三叉槍で指示を飛ばし、その方向を緑のサハギンが破壊しているように見える。 「統制が取れているってことなのかな? あの赤い奴がリーダーで他の奴に指示を飛ばしているように見えるし。うし、だったらあいつをぶっ飛ばして……!」  飛び出そうとするリリアをあなた達は制止する。 「なんで止めるんだよぉ、え、緑の奴をどうにかしないと赤いのにたどり着けない? うーん、言われてみればそうか」  どうしようかと考えていると赤いサハギンが咆哮をあげ三叉槍を天に向ける。  すると数匹の緑のサハギンが海から飛び出すように浜辺へと現れたのだ。それらも一様に金色の装飾物を頭や胸に付けているようだ。 「うそっ、あいつ仲間を呼ぶの!? ぐぬぬ……赤いのをどうにかしないと、際限なく増えるってことじゃん。あー……頭がパンクしそう」  頭を抱えるリリアと共に様子を見ながら、あなた達はサハギン達への対抗策を練るのであった。
最強のスイーツが食べたい。 海太郎 GM

ジャンル コメディ

タイプ EX

難易度 簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2021-05-29

予約期間 開始 2021-05-30 00:00
締切 2021-05-31 23:59

出発日 2021-06-06

完成予定 2021-06-16

参加人数 2 / 4
 来る日も来る日も雨続きだった。 「……あーあ。こんなんじゃ気分が上がらないね……」  退屈そうに溜息をつくのは、学園教師の【ジョニー・ラッセル】だ。  ひょろっと高い背。丸メガネにくしゃくしゃのくせっ毛。着ている服はひと目で上等と分かるが、ボタンがなくなっていたり、袖がほつれていたりと、あまり大切に着られている様子はない。 「どこの誰だろうね、雨の音は天のハーモニーだなんてほざいたバカは。音感には恵まれなかったんだろうな。ノイズの嵐で僕は気が滅入る」  彼は教室で音楽を奏でている生徒たちを困ったように見渡した。  そして、パン、パン、と数度手を叩く。 「やめだよ、やめ、やめ。……やっぱり雨の日は、どの楽器も調子悪いね。例えるなら連日徹夜続きの状態で本番を迎えた最悪のコメディエンヌって感じだ。みんなめいめいに努力は見えるけど、そんな日は楽器を休ませてあげたほうがいい」  生徒たちは顔を見合わせた。  だが、こうなったらジョニーは演奏をさせてくれない。  演奏者と楽器は常に寄り添うべきである、というのがジョニーの持論だ。だからこそ、楽器にいらない負荷をかけるような演奏を、彼は好まない。 「さて……こうも雨天続きじゃ、全然ハッピーになれないよ。僕ら芸術家は人々に喜びを届けるのがその努めだけど、こんな日は、普段と少し趣向を変えてみよう。たとえば、そう。耳からじゃなくて、目から。あるいは舌から、喜びを届けるって具合にさ」 「えぇと、つまりどういうことですか?」  怪訝そうな生徒に問われ、ジョニーは大げさに両手を広げた。 「要するにさ! 雨の日でも幸せになれて、元気が出るような何かを考えるのをーー……今日の課題にします!」 「今思いつきませんでした?」 「とんでもない! 僕はいつでも、世界をハッピーにすることを考えてるよ!」  取ってつけたような言葉を胡散臭がる生徒も居たが、そこは、芸能・芸術コース。本質的に、楽しくてワクワクすることを好む生徒は多い。  結果、あれよあれよと言う間に生徒を主導に、課題の内容が決められていく。 「というわけで! 今日の課題は、最強のスイーツ大会にします!」  と、生徒の一人が声を高らかに、開幕宣言を行った。 「なにそれ」  きょとんとするジョニーに、生徒たちは口々に今回のルールを説明する。  曰く。  準備期間は一週間後。  来週のジョニーの授業に、各々が考える最強のスイーツを持ち寄ること。  チーム戦も可とするものとする。  勝敗の判定は、見た目を選考基準としたクラスジャッジ、および、味を基準としたジョニージャッジの二つの基準から行うものとする。  なお、スイーツの条件はあくまで「持ち寄る」ことであり、作者の自他を問わないものとする。 「……なるほどねー」  ジョニーは楽しそうに笑った。 「面白そう! じゃあ、来週の授業はそれで!」  こうして、雨期スイーツの頂点を決める戦いの火蓋は、切って落とされたのだった。
慈雨の奏でる鎮魂歌 七四六明 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 とても難しい

報酬 通常

公開日 2021-06-28

予約期間 開始 2021-06-29 00:00
締切 2021-06-30 23:59

出発日 2021-07-07

完成予定 2021-07-17

参加人数 4 / 4
 自称、世界屈指の剣豪。  世界最強の座に至れぬまま死んだ悔しさをバネに、地獄の番犬を斬り殺し、不死鳥が浴びる炎を浴びて蘇った男――【色神・斬羅】(しきがみ きるら)。  学園に通う四人の生徒を含め、数えきれない数の弟子を世に放ちながら、未だ多くの弟子を抱え続ける蘇った伝説(自称)。  そんな男に、英雄の卵達は滅多にない機会だとばかりに問う。 「何? 強さの秘密? 俺の? 驟雨とか言う怪物の……あぁ、そう」  目の前に広がる満漢全席を誰よりも貪り喰らい、痩躯の中に納めながら考える。と言っても、時間にして一分にも満たない、ほんのわずかな時間であった。 「前にも言ったが、あれは殺された時の記憶を持っている。俺達リバイバルと違って、過ぎるほど鮮明に。つまり、自分を殺した術をも憶えているわけだ。そして、あれはそういった死の記憶が幾つも集まった集合体。中には俺みたいな達人に殺された個体もあっただろう。そういった自らを死に貶めた術技の全てを、模倣しているとしたら?」  わかるだろ、と包帯の下の鋭い眼光に理解を促される。  実際、そこまで難しい話ではなく、理解する事自体は難しくはなかった。理解し難かったのは、自分を殺した術技を模倣し、再現してでも復讐を果たさんとする、怨念の抱く狂気の底であった。 「皮肉な事に、この世で最も鋭い刃は、勇者の抜く聖剣でもなければ怪物の振る魔剣でも、名匠が鍛えて出来てしまった偶然の産物たる妖刀でもない。殺気――殺意の籠った刃だ。斬ってやる。斬り殺してやると言う気持ちこそ、握る刃を鋭利に研ぐ。そう、ただ斬るだけなら、そこの包丁一つでさえ済むわけだ。だからこそ、おまえ達の言うところの化け物が生まれた」  人が襲われる事件が起きていたから駆除した。  自分達が襲われたから迎え撃った。  危険な存在であるが故に、起こり得る未来を見越して討伐した。  どのような正当な理由があろうとも、知性ある者達の都合など、魔物にとっては知った事ではない。  本能故の襲撃だろうと、空腹故の襲撃だろうとも。  体内にどれだけ強き毒を持つ個体だとしても、どれだけ気性が荒く、闘争心の強い個体だとしても、関係ない。  魔法で殺される筋合いも、拳に殴り殺される筋合いも、剣に殺される筋合いもない。  故に応戦する。こちらも殺す。喰らって、潰して、斬り殺す。生きるために――。 「皮肉だな。誰かを護るため磨き上げて来た技術が呪われる。真似され、護りたかったはずのものが傷付けられる。殺される。共に理解し合えない。理解し合わない暴力同士の衝突の後、残るのは勝者だけだ。それこそ敗者は、怨念くらいしか残せない」  だが、彼は言った。  そうした敗者の――殺された魔物の怨念の集合体が、かの怪物であると。  集まった怨念の持つ記憶と体験から、自身を殺した術技を体現し、復讐を果たさんとする怪物が、殺された魔物達の遺した怨念と呪いから生まれたと。  だから皮肉なんだと、彼は肉についた骨を噛み砕く口で言う。 「そいつをまた倒すのに、特別な武器も何も要らねぇが……二度と出て来ねぇようにしてぇなら、倒しちゃいけねぇ。今まで磨き上げて来た術技でただ倒したんじゃあ、また、より強くなって戻って来るだけだからな」  確かに皮肉だ。  誰かを護るべき研鑽され、実績を上げた術技の結集が怪物の力の源で、倒したとしてもまた、より深き怨念と恩讐で以て現れ、より多くの被害を齎すと言うのだから。  誰かを護るため、もしくはより強くなるため磨かれた技が、自分も知らぬ場所で、誰かの大切な何かを壊しているかもしれないのだから。 「だからこそ、すでに奴が知ってる物。奴の核としてすでに成立している術技でなら、奴が胸の奥に刻み付け、憎む程嫌ってる痛みなら、奴を消し去れる。つまるところはそれだけの話だ。だが、それだけの話が難しい。何せこちらはまず、その奴が抱える痛みとやらを、理解しなければならねぇんだからなぁ……じゃあどうすればいいんだ、って顔してるな。本来長い時間を掛けてやるべきだろうが、手っ取り早い方法がある。おまえらが用意した刀……それの浄化をしな」  そうして学園に帰って来て、彼の話をそのまま学園長に話してから、一週間。  再度二人の間でやり取りがあって、斬雨の念を理解し、恩讐を祓うための魔法が学園長の手で完成したらしい。  刀に生徒らの念を送り込んでの、刀の恩讐そのものとの直接対決。  ただし、編み出されたばかりかつ高度な魔法なので、送れるのは少数。更にほんの一端とはいえ、相手はあの怪物、驟雨の力だ。  激戦は必至。  だがこれは、殺すための戦いではなく、倒すための戦いではない。  驟雨の知る痛み。驟雨の抱える痛み。驟雨の恨む痛みを知るための戦いである。  と、ここで自称最強の剣士様から、本人曰くありがたいお言葉――。 「あいつとの戦いは戦闘じゃねぇ。いわば鎮魂だ。将来勇者になりてぇと宣うのなら、鎮魂歌の一つでも歌ってやりな。あ? ちょっと待て? じゃあいつになったら準備が整うんだ? 愚図共め」  最後の一言は、要らないと思う。
ストーン・ゴーレム・シャーク! しばてん子 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 通常

公開日 2021-06-26

予約期間 開始 2021-06-27 00:00
締切 2021-06-28 23:59

出発日 2021-07-04

完成予定 2021-07-14

参加人数 6 / 6
 まもなく海開きのシーズン。  フトゥールム・スクエア南西の都市、アルチェのサビア・ビーチは一番のかき入れ時とあって、立ち並ぶ海の家や監視設備がその準備に追われていた。  そんな中、不穏な知らせが伝わる。  沖合で巨大なサメの影を見たと、複数の漁船から報告があったのだ。  海辺の安全が確保できなければ海水浴場の一般開放などできるはずもない。漁師たちにとっても、ほかの魚を遠ざけ漁場を荒らすサメの存在は邪魔以外の何物でも無い。  何にせよ、サメの放置はアルチェの経済への打撃を意味するにほかならなかった。  直ちに漁船団によるサメ撃退作戦が開始された。目的はシンプル。件のサメを仕留めることだ。
「今度のは相当な大きさって話だったな」 「船よりデカいなんて話もあったが確かかねぇ。新米がビビって見間違えたんじゃねぇか?」 「ま、本当だとしてもデカすぎるやつは大味で身も美味くないし、背ビレだけ切り取って持ち帰りゃいい。仕留めたって証拠があれば済むことだしな」  漁師たちにとってサメの対応は珍しいというほどのことではない。笑みを浮かべながら獲物を探す彼らに油断が無かったとは言えまい。だが、この先に遭遇する脅威はそんな落ち度など些細に思えるほどに、想像を絶するものだったのだ……。  一行がサメらしき影を見つけるのに、さほど時間はかからなかった。 「あれか。……妙に色が明るく見えるな」  言葉通りその影はやや白っぽい。ほとんどの魚は海の色に紛れるように背が青く、それゆえに影は黒く見えるはずなのだが。そしてそれは相当に浅い深度を悠々と泳いでいた。ある種、異様な影と警戒心のかけらも見えない不自然な行動に、漁師たちは逆に一抹の不安を覚えた。  とはいえ、やることは決まっている。  大型の漁船5隻が備える、発射式の大型の銛。それを撃ち込み、弱ったところを近づいてとどめを刺す。彼らが長年とってきた手法を実行するだけだ。タイミングを合わせるために、手旗信号で各船が急ぎ連絡を取り合う。照準合わせ。準備に抜かりなし。  3、2、1……。 「行けっ!」  一斉に発射される銛!  ……だが、次に漁師たちの目に映ったのは信じがたい光景だった。  銛はことごとく、サメの表皮に『弾かれた』のだ。  呆然とする彼らはしかし、すぐに次の行動に移らなければならなかった。漁船にまるで無関心に見えたサメが、一転猛烈なスピードで向かってきたのだ。慌てて帆の向きを変えようとするが間に合うのか。その間にもサメは深度を上げながらぐんぐんと迫り来る、そしてその背ビレが海面に姿を現す。 「なんだぁ、ありゃ?!」  それは自分たちが知るサメのものとは全く異なる、茶色くごつごつとした突起に覆われた物体。  近づくほどに、どの船よりも大きいと思える影。果たしてこれは生き物なのかという疑問が漁師たちに浮かんだ直後、サメは船の横で飛び上がり宙を舞った。サメがジャンプするなんぞ見たことも聞いたこともない。 「飛ぶ?! サメ?!」  混乱する彼らの目に入ったそれの全貌は、茶色い岩石で全身が覆われたサメのような何かだった。歯、それどころかアゴすら無いひとかたまりの頭。そこに添えられた点のような黒い石の目が、ぎょろりとこちらをにらんだような気がした。  刹那、サメの鼻が船腹に深々と突き刺さる。鼻先はサメの急所のはず、それを無造作に攻撃に使うなどあり得ない。  もはやサメではない、サメであるはずがないと思えた岩の塊は、今度はキリをもむように体をすさまじい勢いで回転させた。木造の漁船は横腹を木っ端微塵に打ち砕かれ、漁師たちは勢いで海へ投げ出された。残された船首と船尾が浸水し沈んでいく。  サメは目標を次々と別の船へ定め襲いかかっていく。ある船はやはり船体を砕かれ、ある船は尾の一撃で横倒しになり、漁船団はただただ蹂躙されるのみだった。漁師たちは置かれた状況に慄然とする。 (喰われる……?)  だが全ての船を沈めたサメが次に定めた目標は意外なものだった。  サメは海岸、サビア・ビーチに向かって猛然と泳ぎ始めたのだ。  あっという間にビーチに迫ったサメはまたもや空中に体を躍らせ、着地。上陸すると、トカゲかヘビかのように岩の体をくねらせゴリゴリと擦れるような音を立てながら、陸の獣のような速さで海の家の一つに突進して行くではないか。  あまりにも想像の範疇を超えたサメの脅威と行動とに、ビーチの人々は蜘蛛の子を散らすように逃げることしかできない。サメは無人の海の家に突っ込み、跳ね回り、回転し、みるみるうちに一軒の小屋をがれきの山へと変えてしまった。  漁船団をそうしたように、このままサビア・ビーチ全ても破壊し尽くしていくのか。  その場に居合わせた誰もが絶望する中……しかしサメは突然、海へときびすを返した。  サメはあっけにとられる人々を尻目に、上陸したときと同じく猛スピードで海へ戻ると、背ビレが見えるほどの浅い深度を何事もなかったかのように……ゆっくりと沖合へ進む。  やがてその姿、その影は海岸から見えなくなった。  不幸中の幸いか、漁師を中心に多数のけが人が出たものの、犠牲者はいなかった。しかし人的な被害のみならず、大型漁船5隻と小屋1軒という物的な被害も深刻だった。  そしてサメの脅威は依然海に潜む。ビーチの監視施設から遠方の大きな影が度々確認されているのだ。  いや。もう誰も、それをサメとは思っていなかった。 ——岩の塊が動くなんて。何であんなものが水に浮かんでいられるんだ? ——そんなことはどうでもいい。あんなのが居座ってたら商売どころか魚も食えなくなるぞ。 ——人は襲わなかったけど、たまたま襲われなかっただけかもしれない。 ——そうだ、次に現れたときにどうなるかなんてわかりゃしねぇ。 ——一体何なんだよ、あのサメは! いや、岩か? 岩の魔物か? ——ゴーレムなんじゃないか? 営業妨害でデカいものだけ壊しにきたとか……。 ——いや、サメ型のゴーレムなんて聞いたことないぞ?!  ……いつしかそのサメはこう呼ばれた。  『ストーン・ゴーレム・シャーク』と。  それは大自然が産んだ神秘なのか。(大自然なのにゴーレム?)  岩のサメが船を砕き、ビーチを蹂躙し、人を襲う!(まだ襲われていません)  立ち向かうのは、知恵と勇気か、無知と無謀か。  頭脳か! 筋肉か!  生徒たちはコイツに勝てるのか!  ストーン・ゴーレム・シャーク……シャクに触るヤツだぜ……。
ミラちゃん家――駒を動かせ K GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-06-29

予約期間 開始 2021-06-30 00:00
締切 2021-07-01 23:59

出発日 2021-07-08

完成予定 2021-07-18

参加人数 8 / 8
●シュターニャ近郊  時刻は夜。  【セム・ボルジア】は一人丘の上。シュターニャの町明かりを見下ろしている。  視線は最初照明に煌々と照らされた『ホテル・ボルジア』本社に向けられていたが、やがてそこからそれ、ひっそり暗がりに沈むボルジア家の大邸宅に注がれる。窓には一つも明かりがついていない――誰もいないのだから、当然だ。  セムはゆっくりした動作で煙草を胸ポケットから引き出し、火をつける。白い煙を吹かす。  その横顔を【ラインフラウ】が、うっとり見つめている。 「何を考えてるの、セム?」 「私の家のこととか、指輪のこととか、グラヌーゼのこととか――ラインフラウ、呪いの移し変えの話は進んでいますか?」 「ええ」 「赤猫が、話の信憑性について疑っている素振りはありませんか?」 「いいえ。全面的にこっちを信用しているわよ。信頼はしてないけどね」 「それはもう、お互い様ですね」  小さくセムは笑い、声を低める。自分の髪を撫でるラインフラウの手をそのままにして。 「……学園の生徒さんたち、呪いの指輪を見つけたかも知れません」 「あら、本当? 間違いなく?」 「断言は出来ません。でも彼らがここ数カ月の間、何度かグラヌーゼへ行ったことは確実なんです。道中の姿を見た人がいますから」 「あなたの情報網、大したものね、セム。悪役まっしぐらなとこ、ほんと好き」  甘く囁いてラインフラウは、セムの額に口づけする。  セムはそれに対し特別反応を示さなかった――示さないようにしていた。 「ラインフラウ。あなたの側も、何か情報を掴んでいるでしょう?」 「ふふ、ご名答。赤猫も、あれで意外と地獄耳でね。黒犬が何度もグラヌーゼに出入りしたことを知ってたわ……直近には『幻惑の森』で騒いでいたみたいだって。どうも学園の子たちと争ったようね」  セムの口元が上向きのカーブを描いた。会心の笑み、といった具合の表情である。 「生徒さんたち、黒犬と揉めたんですね」 「揉める理由があるとすれば、呪い一択よね」 「ええ……生徒さんたちが黒犬に対する態度を一変させたとすれば、呪いにかかわる新しい『何か』を見つけた可能性が高い」 「……『何か』って、呪いの指輪かしら?」 「ええ。付け加えると、その指輪が黒犬に渡った可能性もなくはない。それだけ激しくやりあったのならば――ラインフラウ、ついてきてくれます?」 「どこに?」 「グラヌーゼです。赤猫と話をしたくてね」 「あなたが行かなくても、私が代わりに話をしておくわよ?」 「そういうわけにはいきません。直に見たいですし。相手の反応を」  呆れた、というふうにラインフラウが天を仰ぎ、両手を広げる。 「好きねえ、渦中に飛び込むのが。あなたいつもそうだわ。私を心配させてばかり」 ●グラヌーゼ。サーブル城。  薄寒い雨の日。城の奥。暖炉の前。  赤猫はいつも通り、少女の姿で飲んだくれている。取り巻きの猫たちは思い思いにくつろいでいる。訪問者たちに横目を向けながら。 「黒犬が指輪を?」 「そう。手に入れたかもしれないのよ」  ラインフラウからそう言われた赤猫は、にやにや顔でこう言った。 「それが本当ならあいつ、間違いなく今頃キレまくってる」  セムは親しげな口ぶりで、目の前にいる魔物に問う。 「どうしてそんなことが分かるんです?」 「だって、指輪を手にいれたところで、絶対に何にも出来ないから。あいつ呪いがどういうものなのか、理解出来る脳みそ持ってないし」  赤猫の喉がぐるると鳴った。眠そうな、それでいて隙のない猫の眼差し。 「私、一刻も早く呪いをうっちゃりたい。だから、お前、黒犬を捜して、城に来るようにさせてよ。移し替えのためにはどうしても、あいつがいないといけないし」 「……あなたが自分で彼を捜し出すという選択肢はないのですか?」  当然の反問に赤猫は、派手なあくびで返す。鋭く尖った歯が丸見えになった。 「なーんで私がそんな面倒くさいことしなきゃなんないのー。このところ雨ばーっかり。外に出たくなーい」  セムはニヤリと笑って、手を広げた。 「分かりました。いいでしょう。黒犬がここに来るよう仕向ければいいんですね?」  彼女は後ろにいるラインフラウが赤猫と意味ありげな視線を交わしあったことに、気づいていなかった。 ●そして、一歩踏み出す  狼ルネサンス3兄弟【ガブ】【ガル】【ガオ】は、首を傾げていた。  彼らの前には閉じられた保護施設の門がある。 「あれ、門が閉まってるな」 「留守なのか?」 「んなわけねーだろ」  そんなことをわやわや言い合っているうちに、施設の扉が開いた。  多分窓から彼らの姿を認めたのだろう。【トーマス・マン】が飛び出し、門に駆け寄ってくる。 「ガブにいちゃん、ガオにいちゃん、ガルにいちゃん!」 「おー、トーマス!」 「なんだ、いるじゃねえか!」 「元気だったか!」  トーマスはその問に、うん、と頷いた。  しかし表情や語調にも、陰りがある。言葉通りの状態ではないことは、明らかだ。  ガブたちは心配し、聞く。 「どうしたんだ」 「じじいにどやされたか?」 「ケンカで負けたか?」  トーマスは、頬を押さえて茶を濁した。 「ううん、違うんだ。あのね、その、歯がちょっと痛いんだ」  嘘である。  彼が沈んでいる本当の理由は、先の黒犬との会談で【カサンドラ】が負傷し、まだ意識を取り戻さないからだ。  門が閉められているのは、彼女に対する万一の襲撃を警戒してのこと。黒犬も相当な負傷をしていたので、恐らく学園まで攻め込んではこないものと思われるが、用心はし過ぎるくらいが丁度いい。 「歯かー」 「そりゃいけねえな」 「歯医者ってやだよなー」  でもそんな事実をトーマスは、ガブたちに告げるわけにはいかなかった。何故なら彼らは、施設にとっての部外者だから。呪いの件についても、また。 「あ、そうだ。トーマスよう、ドリャエモン先生いるか?」 「話があるんだけどよ」 「あ、うん、いるよ。ちょっと待ってて」  トーマスはきびすを返し、施設の中へ入って行った。  しばらくして【ドリャエモン】が出てくる。 「なんじゃ、お前達。わしに話とは珍しいではないか」 「んー、まあな」 「別に俺たちも来たくなかったんだけどよ」 「仕事の依頼主が、一応担任に、依頼内容を事前報告してきてくれっていうからな」 「ほう、依頼。それはよいことだ。して依頼主は、どこの方なのだ?」  ドリャエモンの顔は、以下の名前を聞いてちょっと曇った。 「セム・ボルジアだ」  依頼内容を聞いてますます曇った。 「例の黒犬って魔物を探しに行くんだと。赤猫からの伝言があるんだってさ」 「でその、護衛を頼まれたんだ」 「あの社長、ラインフラウも一緒だからそんなに危険はないって」  これは……自分もついて行くべきではあるまいか。  そんなことを思うドリャエモンの傍らで、トーマスが、急に声を上げた。 「僕も――僕もグラヌーゼに、一緒に行きたい」
【幸便】晴れた霧と曇り土地 根来言 GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-06-13

予約期間 開始 2021-06-14 00:00
締切 2021-06-15 23:59

出発日 2021-06-22

完成予定 2021-07-02

参加人数 5 / 8
 その日、学園内へと足を踏み入れたのは、重厚な装備を身に着けた商人達だった。 「まいどー。これが、例のブツっス……くれぐれも、丁重に扱ってくだせぇッス」  商人の1人が馬車の中から取り出した『それ』は、1冊の本だったもの。  今でこそ、鎖の塊のような姿ではある。が、その内には何百もの魔物を封じられた危険な代物である。  ……今、商人【ピラフ・プリプク】の手から、1人の少女―――魔法学園学園長、【メメ・メメル】へと手渡された。 「……これが」  彼女は手にしたそれに小さく声を上げ、そのまま、目の高さまでゆっくり持ち上げ―――。 「おぉぉっ!? なんとも禍々しい封印だなっ☆ ……では早速中身をー」 「ちょい!? ここで解くんスか!?」   〇 「冗談だぞー? じょ、う、だ、ん! オレサマが、そんなことするように見えるー?」 「見えるっス……。てか、オレが止めなきゃぜってーやってたッスよね? あと、その手をやめて下さ……、ストップ! それ心臓に悪いっスからね!?」  可愛らしく口を尖らせるメメル。しかし、鎖の塊をこねくり回すその手は止まらない。  何時、封印が解け、大量の魔物があふれ出るかも分からない本『ガイキャックス家の書』。  その保管先に選ばれたのは、万が一があった時戦うことができる戦力と魔術的知識を保有する組織である魔法学園だった。  ……が、今そのような代物を、玩具に興味津々になった子供のように目を輝かせて触っているメメルに、若干の不安を抱えているピラフ。 (……、経験上、ほおっておいたら絶対ヤバい!)  元学園生として、このまま帰ると後々なにかが間違いなく起こることを察してた。それもかなりろくでもないことを。 「やーやぁ、メメル学園長! と、ピラフ団長? 何か食材持ってきてくれたのかい?」  ぴょっこり。そんな擬音を鳴らし、2人の間に入り込む影。学園の職員【ベル・フリズン】だ。  ピラフ率いるピラフ商店が大抵持ち込む魔物や、珍しい植物目当てで、商談の様子を探りに来た。  そういった様子のベルだった。が、今回その期待に答えうるものは生憎、荷物には含まれておらず。 「あー……ベルさん、すまねぇっス。今日の品は、魔物が入った本だけっスね」 「魔物が入った本……? へー、最近はそんなのがあるんだねぇ……。ちなみに、どんなの?」 「えーっと、ゴブリンが100匹くらい……? とにかく沢山のヤベーやつっス」 「ごぶりん、ひゃっぴき……。1匹辺り、3人分くらいだから……300人前かねぇ? ……うーん、個人的に買い取ることってできないのかい?」 「……え? 何がっスか?」 「……魔物を食べ物としか見ていないの、ベルたんくらいだよねぇ。でも! その答えはモチロンノーだ! これはオレサマのものだぞ☆」 「……、頼むから、余計な事しねーでくだせえ」 〇 「そういや、アタシ、メメル学園長にお願いがあって来たんだよ」 「お願い?」  商団を見届けた後、突拍子無くベルが口を開いた。 「来週くらいに、ちょいと食堂を休ませて貰えないかと。その間メメサマランチはちょいと我慢して欲しいってお願いをだねぇ」 「えー……やだ!」  メメサマランチ。オムライス、ハンバーグ、パスタにポテトがてんこ盛りの特製プレートである。  手間と時間と材料費がかなり掛かるため、学食職員の数に余力が無ければ作ることが困難なのだ。 「帰ってきたら、沢山作るから……! なんなら、目玉焼きを付けるし、ハンバーグの中にチーズだっていれたげるからさぁ」 「目玉焼き……チーズ……、う、うむむ」  食い下がるベル。  カロリーの暴力。そこに潜むロマン。そのトッピングは美味しいに決まっている。 「わ、わかった! それで手を打とう! ……それにしても、ベルたんが休むって珍しいな! ……何か予定があるのかね? まさかデートとか?」 「予定っていうか、ちょっと現地調査をしたくてだねぇ……。メメル学園長は聞いているかね? グラヌーゼの森の話」  グラヌーゼの森……、と、言えばグラヌーゼの幻惑の森のことだろうか。  森に入るものを幻覚で迷わせ、現地民すらも近づくことが少ない不気味な場所。数々の冒険者や学園生が幾度も調査に訪れたが、今だ全ての地形を把握できていない……らしい。 「もしかして、一部の幻惑が晴れたって噂?」 「そう、それそれ! 今まで幻惑ばかりで土地の調査が出来なかった地域だからね、調査しがいがあると思わないかい?」  確かに最近、そういった噂がある。上空を飛行中のグリフォン便の運転手が森の中に一部変色した地域を見た……とか。  あるいは、迷い込んだ冒険者がある地域に足を踏み入れた瞬間に幻覚が消えた……だとか、そういったものだと聞いている。  ベルの言う調査というのは、今まで封じられていた地域の調査を学園側が試みよう……ということなのだろう。しかし、だ。  生徒や教師というのはまだしも、一介の学園職員(それも食堂の料理人)がそれを行うというのは、少々変な話だ。 「ベルたんベルたん? もしかして、調査の他に目的があるのかな? 例えば~……新種の食材が見つかるかも♪ とか思ってたりする?」 「んんッ!? ま、まさかそんなわけ……! いやいやー、ほら、アタシは調査とか慣れてるから、適切な人選じゃないかなーと思ってだね?」  目を合わせない様子を見るに、この反応は図星というわけだろう。 (確かにベルたんはこういった調査とか、単独行動には慣れてるもんねぇ……。理由はともかく)  今のベルは、何を言っても何かしらの理由をつけて1人で行こうとするのだろう。  少し考え、メメルはそうだ! と、楽しそうに声をあげた。 「ベルたん、どうせなら生徒達も連れて行ってよ! 未開の土地の調査なんて、きっと滅多にない貴重な体験になるんじゃないかな~☆」 ●補足  ちゃりん。ちゃりん。  ひとつ、またひとつと解かれていく鎖。  さも愛おしそうに、露わになった本の表紙。彼女は、擽るように、背表紙をなぞる。 「『不死鳥と茨の籠』……。うん、やっぱり。間違いなくガイキャックスのものみたいだね」  所々欠けた、紋章。それでも、特徴的な印だけは当時の真新しさを残していた。  封術。その一点のみを追求し、発展し、そして衰退していった一族達の残したもの。  それが今、彼女の掌にある。 「オレサマの研究分野ではないんだけど……。ま、いっか☆ 解読できたら色々遊べ……使えそうだし☆」  マイナー中のマイナー。封印だけに特化したような技術者達の集大成。ちょっとしたアーティファクト。  分野は違えど、学ぶ機会はそうそうない。メメルは意気揚々と頁をめくる。  ゴブリン……。スライム……。そして、件の牛のような魔物の絵が綴られた、何の変哲もないように思える頁ばかり。  魔物が出てくる気配はなく、彼女は安堵か落胆か、どちらともつかないため息を1つ。  ある程度の魔物を出し切ってしまったからなのか、はたまた魔物が排出される条件があるのか。  ……はたまた、特定の場所でしか効力を発揮しない代物なのか。 (……そういえば、ベルたんはグラヌーゼに行くって言ってたっけ? 確か、あの辺りは……)    突如現れた魔物の大群。方や、幻想が晴れた未知の領域。  全くと言っていいほど遠く離れた地域の、毛色の異なる2つの出来事。  共通点など、ない。……そのはずだ。 「―――ベルたんの報告次第かなぁ……。いい知らせがあるといいんだけど」  少女は静かに、本を閉じた。
ミラちゃん家――予期せぬ発火 K GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 通常

公開日 2021-06-13

予約期間 開始 2021-06-14 00:00
締切 2021-06-15 23:59

出発日 2021-06-22

完成予定 2021-07-02

参加人数 6 / 8
 呪いよ、呪い。  与えるふりをして、奪え。 ●齟齬  指輪の呪いについて手掛かりを得た施設関係者たちは、ひとまず幻惑の森にいる【黒犬】の様子を見に行くこととなった。【トーマス・マン】も連れて。  あまり長いこと続報を待たせていると、こちらのことを怪しみ始めるかも知れないからだ。  先に自分達が指輪を手に入れていることは、当然言わない。ならこっちによこせと言ってくるのは確実だからだ。  ひとまずのところ誰も、そうしようとは思っていない。特に【カサンドラ】は。  明日、また黒犬に会える。  そう思いながらうきうきしていたトーマスにカサンドラは、暗い目を向け、言う。 「……トーマス、黒犬についてのことなんだけどね」 「うん」 「私は、呪いはもうこのままでいいと考えてるのよ。彼にはこの先もずっと、赤猫に繋がっていてもらう」 「……え?……ど……どうして? 呪いを解いたら黒犬に何か、災難が起きるの? それが分かったの?」 「それは分からないわ……でも、そうであろうがなかろうが、呪いは解かない方がいい。彼に、いいえ、彼らに力を戻すのは危険すぎる。そんなことをしても、私たちには何一ついいことは起きない。分かっているの」 「な、なんで。先生おかしいよ。ずっと言ってたじゃない、黒犬に協力するんだって。呪いを解く手伝いをするんだって。ここまで来て、それをなかったことにするなんて、ひどいよ」  カサンドラの青白い眉間に暗いしわが生まれた。  口元は強く引き結ばれている。奥歯を噛み締めているのだ。 「……トーマス、あなた、黒犬に助けられたと思っているのでしょう? だから、黒犬の望むことをしてあげたいと思っているのでしょう?」 「思っている、じゃないよ。実際黒犬は助けてくれたんだ。僕のこと、村の連中から守ってくれたんだ。黒犬がいなかったら、僕死んでたよ」 「そう……そうね。でもね、黒犬は人間のこと何かどうでもいいのよ。あなたを助けたのはあなたがかわいそうだったからじゃない。あなたが使えると思ったから、それだけよ……だから、平気でウソをついてくるわ。結果あなたが窮地に陥ろうがどうしようが、知らんぷりして見捨てるわ……」   断定的な言葉に、トーマスは猛反発した。敬語を使うことも忘れ、叫ぶ。 「黒犬の悪口言うな! さっきから先生が言ってるの、全部、想像じゃないか!」 「想像ではないわ……黒犬は私に出来もしないことを出来ると嘘をついた……その嘘を信じて彼に協力した結果が、この通りよ…………トーマス、このままだとあなた、私と同じ轍を踏まむようになるわ! 彼を信じることは危険なの、してはいけないの!」  トーマスはこれまで黒犬から、直接被害を受けたことがない。だから、カサンドラの忠告を素直に受け取ることなど出来なかった。 「……それは、それは、先生が最初に黒犬に嘘をついたからだ! だから黒犬も先生に嘘をついたんだよ! 絶対そうに決まってる、黒犬はいい奴だもん!」  そこでアトリエの扉が開いた。  二人の声を聞き付けた【ドリャエモン】が、あわてて入ってきたのだ。 「どうしたのだ、二人とも。何があったのだ?」  トーマスはそれに答えず、乱暴に床を蹴って部屋を出て行った。  それを見送ったドリャエモンは、黙然と佇んでいるカサンドラに声をかける。 「……どうしたのだ?」  カサンドラは苦しげに首を振り、椅子に腰掛けた。 「……黒犬が危険だと、あの子にどう言ったら伝わるのか……私はきっと、人を教えるのに向いていないたちなんです。あの子を苛立たせるだけになってしまって……」  ドリャエモンは深く息を吐き、カサンドラを慰める。 「そういうことは、誰しもよくある。焦るでない。こういうことには、時間が必要なのだ」 ●一人だけの王冠  各方面での調査によって施設関係者たちは、【セム・ボルジア】が所有している指輪について、多くのことを知った。  その中には、いまだ推測の域を出ないものもある。  だが、以下のことだけは確実視していい。 『王冠の指輪は、所有している一族に富をもたらす。  しかし富の蓄積と反比例するように、指輪所有者の一族は、その数を減らしていく。  富の蓄積と一族の減少スピードは、代を重ねるごとに加速している。  呪いは時間の経過と共に強化される』  【アマル・カネグラ】は【セム・ボルジア】に、彼女の指輪が入った宝石箱を渡した。 「――呪いについての調査結果は以上です。こちらはお返しいたします」  セムは特別おびえる様子もなく、鷹揚に相槌をうつ。 「なるほどなるほど。調べ物ご苦労様です」  その反応がアマルには、なんだか物足りないように思えた。彼女は、家族が全滅する一因になっただろう呪いが、それをまとった指輪が、恐ろしくはないのだろうか?  「セムさん、その指輪、これからも所有されていくんですか?」 「それはそうですよ。私が唯一の当主ですもの」 「持っていると、あんまりいいことないと思うんですけど……」  その言葉にセムは、ふっと笑った。 「所有者に富をもたらす――それは、いいことではありませんか? 手放したところで、死んだ家族が生き返るわけでなし」 「まあ、そういう考えもあるかも知れませんけど、でも……やっぱりやめたほうがいいと思うなあ」 「どうしてですか?」 「それがある限り、新しく家族を作れないでしょう。また誰か、死んじゃうかもしれないですし。場合によってはセムさんが」 「私、誰とも結婚するつもりはありませんよ?」 「知ってます。でも、これから気が変わることもあるかもしれませんでしょ?」 「いやあ、ないですねそれは……きっと」 ●怒りよ呪いとなれ  早朝と夜中の間にある時間。  俗に言う丑三つ時。  カサンドラは不意に目を覚まし、黙然と、トーマスが以前描いた絵を眺める。  そこにある黒犬の姿をぼんやりと見つめる。  不意に、突き抜けるほどの怒りが沸き上がってきた。 「……!」  己を押さえようと胸の前で手を握り合わせる。  だがそれでも感情が収まらない。  口から小さな呟きが零れた。 「呪われろ……」  その瞬間左の薬指が熱くなった。  我に返り恐る恐るそちらに目を向ける。そして、小さな悲鳴を上げる。  指には、あの乳白色の指輪がはまっていた。学園の保管庫へ預けてあるはずの指輪が。 「ど、どうし……」  台詞が途絶え、一瞬の陥落。  カサンドラの動揺はたちまち凪いだ。  彼女は手袋をはめた。指輪がはまった指を隠すように。  そして、部屋を出る。  階段を下りて行く。  数時間後、施設関係者たちはカサンドラが姿を消していることに気づく。  彼女が皆に先んじて、『幻惑の森』に向かったらしいことも。 ●点火  『幻惑の森』を嗅ぎ回っていた黒犬は、大きな頭を持ち上げた。  木々の間から現れたカサンドラの姿に、にやりと笑む。 「何だ、今日はお前だけか。お前、ノアの匂いがするな。何だ、見つけたのか、指輪を」  期待に自然と尻尾が揺れる。  カサンドラは彼に、嘲るような眼差しを向けた。手袋を外し指輪を見せる。そして言う。 「……ええ。この通り見つけたわ。でも、お前になんか渡さない。誰がそんなことをしてやるもんか」 「……なんだと?」 「お前なんか、そのままずっと、ずっと、ノアに呪われていろ! じゃなければ、苦しんで死ね! 赤猫ともども地獄に落ちろ! それがお前たちにはお似合いな結末だ!」  怒りで黒犬の目は、たちまち血走った。  上唇がめくれ上がり、牙が剥き出しになる。
サヴァング戦闘術 基礎講座【拳王祭】 海太郎 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-05-17

予約期間 開始 2021-05-18 00:00
締切 2021-05-19 23:59

出発日 2021-05-27

完成予定 2021-06-06

参加人数 4 / 8
サヴァング戦闘術 基礎講座【拳王祭】  一通の手紙に目を通した【ジョー・ウォーカー】は、小さく溜息を零した。  黒髪のオールバック、片目には眼帯。  黒いマントを羽織る姿はどこからどう見ても黒幕そのものだが、主に教鞭を取るのは魔法を使った近接格闘「サヴァング戦闘術」である。  サヴァング戦闘術は、主に徒手での戦闘を想定した近接格闘術だ。  手刀や掌底、足技を多用し、技の中にフェイントや防御、ブーストとして魔法を織り交ぜることで、中近距離での攻防において有用性が高い。  捕縛術としての側面も持つことから、勇者や魔王、武人コースの生徒だけでなく、村人・従者コースの生徒にも護身術として人気の講義だった。  基礎体力づくりを目的とした生徒から、武道を極めようとする生徒まで、幅広い学生が履修している。  のだが、それはあくまでフトゥールム・スクエア内での話だ。  一歩学外に出れば、サヴァング戦闘術は、すでに都市伝説と化した過去の遺物である。  名前が抒情詩に現れ、物語の中で目にすることはあっても、実際にサヴァング戦闘術を修めることのできる道場の数は片手で足りる。  ジョーが戦闘術を修めた道場も、今ではすでに廃れていた。  のだが。 「参ったな……」  ジョーは、再び手紙に目を落とした。  差出人は、サヴァング戦闘術の総本山の運営委員だった。  内容はこうだ。  昨今、サヴァング戦闘術の名を騙ったエセ流派の動きが盛んである。  商売をするだけならまだしも、ついに『拳王祭』と称して近接格闘の頂点を決める催しを開催し始めた。  言語道断である。  総力を持って叩き潰せ。  以上。 「……雑なんだよなぁ……」  淡々とした怒りは伝わってくるものの、実際の手段となるとこちら任せだ。  だが実際、サヴァング戦闘術の風評被害は、なかなかどうにも頭の痛い問題だ。  サヴァング戦闘術武者修行の名の下に、強奪だの恐喝だの、やりたい放題の悪党。  サヴァング戦闘術を学べば誰でも強くなれると謳い、高い入学金と講座料をぼったくる悪徳商法。  有名なくせに正規の継承者が少ないせいで、悪用の温床となっているのもまた事実だ。  自分が大切に学んできた戦闘術が穢されることは、ジョーにとっても面白くない。  とはいえ、ジョーはあくまで教員だ。  『拳王祭』を叩き潰せと言われて、ハイそうですかと爆弾を仕掛けに行くわけにもいかない。 「どうすっかね……」  喫煙室でタバコを咥えながら中空を眺め、思案に暮れる。  そんなジョーの耳に、廊下を走っていく生徒たちの声が聞こえた。 「ったく、無茶苦茶すぎるんだよなこの課外!」 「ほんとに……! レポート書くこっちの身にもなれっての!」  おそらく、課外活動の準備に追われているんだろう。  学生は大変だなぁとのんきに考えていたジョーの脳裏に、ぴんとひらめきが舞い降りた。 「というわけで、今度の課外活動は『拳王祭』への殴り込みだ」  講座を履修している生徒たちは、きょとんとジョーの顔を見た。 「先生?」 「間違えた。『拳王祭』に参加して、優勝してこい」 「殴り込みって言いませんでした?」 「もちろん、戦闘が得意な生徒だけじゃねえと思う。そういう子たちは、ガヤとブーイングでフィールドの雰囲気を変えたり、嘘の情報を流して妨害工作したり、対戦相手の控室に殴り込んでお涙頂戴のイイ話で戦意喪失させたりして、とにかく敵の士気を下げろ。何が何でも本校から優勝者を出せ。いいな?」 「なんかそれ卑怯じゃないですか?」 「バカ言え。正面切って戦うだけが戦闘じゃねえんだよ」  生徒の中には胡乱げな顔をするものもいれば、頷くものもいる。 「ハイ先生、質問です!」 「はい何だ生徒」 「お祭り、ってことは出店とかありますか?」 「おー。屋台とか色々出てるって話だ。課外しつつある程度は遊べると思うぜ」  途端、お祭好きの生徒たちの目がキラリと輝いた。  現金な奴らめ、と思いながら、ジョーは口を開く。 「とにかくだ。自分の実力を試したい戦闘好きも、戦わずに戦意喪失させるトリッキーなジャマーも、お祭り大好きなパリピも。『拳王祭』の頂点が本校の生徒になるよう、上手く協力しあってくれ」 「はーい!」  生徒たちの返事は、やけに楽しげだった。
110