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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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【夏祭】サマーバケーション! 春夏秋冬 GM

ジャンル イベント

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-08-17

予約期間 開始 2021-08-18 00:00
締切 2021-08-19 23:59

出発日 2021-08-26

完成予定 2021-09-05

参加人数 5 / 8
 夏。  眩い日差しに白い砂浜。  そして目の前に広がる、透き通った海。  海水浴には絶好のロケーション。  実際、周囲を見渡せば、それを目当てにした観光客がちらほらと。  場所によっては、砂浜近くに魚介類を泳がせた綱いけすが作られているので、そこで掴み取りに参加している者も居る。  疲れたら、最近建てられたらしい海の家で休むこともできた。  獲れたての魚介類をバーベキューにして食べることも可能で、島の名産である色とりどりの果物を味わうことも出来る。  島の少し奥に向かえば、そこには幾つもの出店があり、お祭り雰囲気が楽しめた。  今まで人の行き来が乏しかったボソク島は、観光名所へと生まれ変わろうとしていた。  それは学園生達のおかげだ。  少し前、霊玉を宿す男の子を浚うべくやって来た、魔王復活を目論む軍勢を学園生達が撃退し、事後対応もキッチリやってくれた。  色々なアイデアが形となって島は変わり、賑やかさを見せ始めている。 「好い感じですね」  島の発展に協力した商人、【ガラ・アドム】は満足げに言った。 「いやー、商人さん達のおかげだよ」  ガラに返したのは島民のひとり。 「正直、巧くいくか半信半疑だったけど、お客さんも誘致してくれて助かってるよ」 「いえいえ、頼もしい後輩達が頑張ってくれたんです。卒業生としても頑張らないと」 「後輩って、あんた学園生だったのか?」 「ええ。腕っぷしよりも算盤勘定の方が性に合ってると思って、卒業した後は商売してますがね」  ガラは、どこか機嫌好さ気に応える。 (出来の良い後輩が育ってくれてて、オジサンとしちゃ嬉しいねぇ)  ガラは志を持って学園に入学したものの、腕っぷしでは巧くいかないと早々に見切りをつけ、いつか後方支援が出来るように商人となったので、後輩達の活躍は誇らしい。 (島の保全だけじゃなく、将来を見越して動いてくれたからねぇ)  外部との流通も考え、商人達とやりとりをして協力を取り付けてくれたりと、巧くやってくれた。  お蔭で、ガラの所にも話が来て、それならばと積極的に協力するようになったのだ。 (このままいけば、この島は観光名所として発展する。あとは――)  ガラは、砂浜で遊ぶ子供達に視線を向ける。  そこに居るのは、霊玉を宿す【テジ・トロング】を含めた島の子供達だけでなく、巨人の子供である【ガニメデ】もいた。 (問題は、あの子なんだよなぁ)  学園生がガニメデのことを気に掛け、故郷に帰れるよう連絡を取って欲しいと頼まれたので奔走し、場所を探し当て現地に向かったのだが、そこで一悶着があった。  山間部の奥地にいる巨人族『サイクロプス』。  巨大な体躯と凄まじい膂力を持った種族であり、雷を操り、それを用いて鍛冶を行うことが出来る。  その技術は神技と言っても良く、現代の技術でも追い付けないほどだ。  もっとも、そのせいで争いごとに巻き込まれることも多く、穏やかな性格をした彼らは人里から隠れるようにして住んでいる。  だというのに、子供であるガニメデが浚われた。  話を聞くと、村に訪れた商人風の一団に武器を作って欲しいと言われたが断り、その後にガニメデが居なくなったというのだ。  あとで脅迫状が来たらしいのだが、ガニメデの安否と引き換えに武器を作れという物だったらしい。  そんなことがあったので、最初に村に訪れた時、巨人達は殺気立っていた。  ガラは自分独りだけで巨人達の集落に残り、文字通り命がけでやり取りをし続け、どうにか交流を取れるまでにはこぎつけている。  もっともそれは、学園生達がガニメデのことを気に掛け、相手をしてくれたお蔭でもあった。  巨人であるガニメデを乗せて、海を渡る船を用意するのに時間が掛かったので、手紙のやりとりを特急で行い、その中で学園生達に遊んで貰ったことなどをガニメデが伝えてくれたので、巨人たちの態度は軟化している。 (後は連れて帰るだけなんだが、その前に、ガニメデの坊主には、好い思い出を土産にしてやらねぇとな)  だからこそ―― 「また学園生達に島に来て貰おうと思うんですが、いいですかね?」 「そりゃ、好い。歓迎するよ。でも、なんでだい?」  不思議そうに尋ねる島民に、ガラは応えた。 「いえね。島の盛り上げも考えて、楽しんで貰おうと思いまして。サクラじゃないですが、楽しんでる客がいると、他の客も『ここは良い場所だ』って思ってくれるんですよ。それに、ガニメデも含めた子供達に良い思い出を残してやりたいですからね。あとは、純粋に頑張った後輩達に夏の思い出を作ってやりたくなりましてね」  ガラの言っていることは本音もあるが、他にも思惑はある。 (ガニメデの坊主が後輩達に懐けば、色々と進められるからな)  神代の鍛冶師とも言える巨人族、サイクロプスに色々と便利な物を作って貰えるかもしれないのだ。 (ま、そこまで行けばめっけもんだが……)  目まぐるしく頭を回転させながら、ガラは仲良く遊ぶ子供達を微笑ましげに見詰めていた。  そして、ひとつの課題が出されました。  内容は、ボソク島に遊びに来て欲しいとのこと。  島を盛り上げるためにも、現地で楽しんでくれれば、それで十分らしい。  現地には子供達もいるので、巨人の子供であるガニメデも含めて、気が向いたら遊んでやって欲しいとも頼まれました。  この話を聞いてアナタ達は、どう動きますか?
ミラちゃん家――選択 K GM

ジャンル シリアス

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 なし

公開日 2021-08-16

予約期間 開始 2021-08-17 00:00
締切 2021-08-18 23:59

出発日 2021-08-26

完成予定 2021-09-05

参加人数 5 / 8
●変更なし 「――勇者、私たちがいない間に城に入ってきて、指輪を取って行ったみたい」  取り巻きたちから話を聞いた【赤猫】は、しゅっと鋭い息を吐き、【ラインフラウ】に横目を向ける。 「別に指輪がなくても、移し替えは出来るのよね?」  ラインフラウは自信満々に答える。 「もちろん。呪いの中身に手をつけるわけじゃないんだから、指輪の存在は必須ではないわ」  それを聞いて赤猫は納得したらしい。にーっと、口の両端を吊り上げる。 「なら、いい」  このやり取りを聞いていた黒犬は、疑い深い目をラインフラウに向ける。 「お前、それは本当だろうな」 「もちろん本当よ。私はねえ、あなたたちの呪いが欲しいの。それを私とセムのものにしたいの――失礼するわね、セムの様子を見てくるから。かわいそうに、誰かさんのせいであばらを折っちゃって」  黒犬にちくりと嫌みを言って、ラインフラウが退室する。  残ったのは黒犬と、赤猫だけ。  黒犬は耳の先から尻尾の先までいけ好かない相手に、改めて尋ねた。 「あの女信用出来るのか」  赤猫は鼻先で、ふふんと笑う。 「お前、馬鹿。馬鹿は知恵がないから、何が本当のことか分からない。結果全部疑う」 「何だと」  鼻にしわを寄せ唸りつける黒犬相手に、口笛を吹く。 「あの女はいかれてる。いかれてるから、信用出来る。移し変えさえすめば、忌々しい呪いはぜーんぶあいつらのもの。後は寝て待つだけでいい。呪いが消えていくのを」  そこまで言って赤猫は、くっと窓のほうを見た。黒犬もそうした。 「勇者、戻ってきた」 「そのようだな」 ●城で何かが起きている  指輪の『言葉』を手に入れた勇者たちは、サーブル城に戻ってきた。どんな形にせよ、ノアの呪いに決着をつけるために。  【アマル・カネグラ】は呪い解除についての情報を、黒犬たちに与えないほうがいい、という意見だ。 「呪いはなくなる、力は戻る。その場合、あの二匹が大人しくしているとは思えないんですよね。今の状態でも世間一般にとって、十分脅威なわけですし……だから、呪いの解除方法については、『もしそうしたら命がなくなることが分かった』と言っておけば、現状維持以外に手がないんだと思って、黒犬もこれ以上この件にこだわるのを諦めるでしょう。それから……何かあったら僕らだけで『言葉』を唱えることも、選択肢の一つとして考えておいたほうがいいんじゃないでしょうか?」  【ドリャエモン】の意見は、それとは違う。彼は黒犬達に呪いの解除方法を秘匿しておこうとは思わなかった。 「意図して事実を曲げ伝え、都合よく相手を動かそうとする。それは黒犬がカサンドラやトーマス相手にやったことと、全く同じではないかの? わしらがそれを真似る必要はない」  遠目に見えるサーブル城は夜の闇に沈んでいる。  どの窓にも、明かりひとつ灯っていない。 「黒犬と赤猫、まだちゃんといるでしょうか」 「そう願いたいところだの」  一同身構え、注意しながら近づく。  そのとき草むぐらの中から、ずわっと魔物の気配があふれ出てきた。  険悪な顔をした黒犬が姿を現す。黄色い目を光らせ、開口一番脅しをかけてくる。 「何だ、貴様ら。とっとと帰れ。帰らんと焼くぞ」  アマルがそれに反論する。 「いや、待ってよ。僕たち呪いについての新しい情報を、教えに来てあげたんだ――」  黒犬は火を吹き出した。  あわてて避ける勇者たちに、半笑いの言葉をぶつける。 「ほうそうか。そんなものはもう、どうでもいい。もうお前らに用はない。呪いは他の奴に、肩代わりさせることにした」  仰天の発言に、アマルは瞬きを忘れた。 「か、肩代わり!? そんなこと出来ないでしょ!?」  そこに猫の声。  振り向けば赤猫だ。上機嫌に目を細めている。 「出来ーる。ノアはよく、それをやってたー」  ドリャエモンは息を呑み、声を低める。 「お前たちは、そのやり方を知っているのか?」 「知らなーい。けど、知ってる奴がいる。ラインフラウっていうやつ。そいつ、呪いをくれと言った。だから、喜んでくれてやる。呪いの話はそっちにしたらいい。私たちにはもう、関係ない」  言うなり赤猫は強力な雷光を発し、一同の目を眩ませた。  皆が動けないでいる間に、黒犬ともども姿を消した。 「あの二匹、どこに……」  アマルが目をしぱしぱさせ呟く。  そのとき、指輪が急に点滅し始めた。握られている手の中で、動き始める。 ●カウントダウン  豪奢極まる地下通路の、奥。  そこは、めまいがするような空間だ。ドーム型の天井、壁、床全てが、細かな文字、数字、文様が渾然一体となった魔方陣に埋め尽くされている。  魔王の像が部屋にいる人間達を見下ろしている。 「セム、気分はどう?」  【セム・ボルジア】は流麗な細工が施された椅子に腰掛けていた――いや、腰掛けさせられていた。両手は背板の後ろに回され、縛り付けられている。  彼女は寄り添ってくるラインフラウに、灰色の目を向ける。 「……最悪です」 「そう。黒犬ったら、無茶したものね。あなたはただのヒューマンなのに、あんなに殴りつけるなんて、かわいそうに」  口を尖らせラインフラウは、セムの胸に手を置いた。  セムはラインフラウを説得しようとする。焦りが滲む早口で。 「ラインフラウ、私は、あなたと命を繋げる気はないです」 「そう。でも、私はあなたと命を繋げたいの」 「ラインフラウ、ラインフラウ、よく考えてみてください、私が死んだらあなたも死ぬんですよ。あなた、まだ千年――あるいはもっと、生きられるでしょう」 「ええ。ローレライだからね。まあ、万年は無理だろうけど」 「なんでそれを、自分から投げ出すようなことをするんですか。後悔しますよ、必ず。こんなことをしなきゃよかったって。あなたが私に抱いてるのは、一時の感情ですよ。そんなものに命を懸けるなんて、馬鹿げてます。大体、私も、あなたの巻き添えになって死にたくない。もし万が一そうなろうものなら、私、あなたを絶対に恨みますから」 「必死ね、セム。そんなあなたの姿もまたいいわー。こっちが何を言っても、いつもしらっとしてたから、物足りなかったのよねー。恨む? 望むところだわ。そうされた方がずっといいわよ。無関心を装われるよりはね。私の存在を、正面から意識せずにはいられなくなるってことだから――」  相手の態度が頑として揺るがないことに、セムは、動揺を隠し切れなくなった。息を弾ませ叫ぶ。 「考え直してくださいラインフラウ――やめてください、お願いだから!」 「いいわよ、止めても。あなたが私と結婚してくれるなら」  セムは奥歯を噛んだ。絞り出すような声を上げた。 「……ラインフラウ、あなた、私の家に付いて回っている呪いのことは知っているでしょう……」 「ええ。最後の一人になるまで、殺し合いをしてしまうのよね。やるまいと思っていても、やってしまうのよね」 「そうです、だから私はあなたと結婚したくないんです! あなたと殺し合いなんかしたくないんですよ!」  ラインフラウは、ああ、と甘い溜息を漏らした。感極まったようにセムに抱きつく。 「私のこと、愛してくれてるのね、セム。だから、ひとりぼっちのままで死んでいこうとしてるのね。でも大丈夫。そうさせないわ。絶対にね」 「――ラインフラウ!」  無数の魔方陣が車輪のように回転し始めた。 「準備はでーきた?」  赤猫と黒犬がやってきた。
蠱毒の蠢動 春夏秋冬 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-08-08

予約期間 開始 2021-08-09 00:00
締切 2021-08-10 23:59

出発日 2021-08-18

完成予定 2021-08-28

参加人数 7 / 8
 彼は、全身を包帯で覆われた人型だった。 「老いぼれが……」  荒野を独り歩いている。  口から出るのは怨嗟の声。  呪いの塊である彼にとって、それはいつものこと。  だが、常よりも滲ませる怒りの色が濃い。 「霊樹を喰えると思ったのに、邪魔しやがって」  それはフトゥールム・スクエアが嵐に包まれた日のこと。  嵐に紛れ、自分自身でもある蟲を放った彼は、霊樹を喰らうという目的を阻まれた。  ツリーフォレストマン。  二千年を生きた巨木に邪魔されたのだ。 「痛ぇ……」   全身に焼け爛れるような痛みが走り続け、一歩動くだけでも億劫になるほどの倦怠感に包まれる。  それはツリーフォレストマンの身体を食ったことによる後遺症だ。  ツリーフォレストマンは、嵐に紛れ蠱毒の蟲が霊樹を襲おうとしていることを感知し、自らを盾にした。  自身が霊樹であると誤認させ、全ての蟲を惹き付けると、自分自身を喰わせたのだ。  しかも自らを毒へと変えていた。  二千年を生きた古き命が変じた毒は、蟲の本体である彼にも多大な影響を与えている。  力は大きく削がれ、ただ歩くだけでも苦労する。けれど―― 「喰ってやる」  彼は、何ひとつ諦めてはいなかった。 「霊樹も。老いぼれが繋いだ若い命も、何も残さねぇ」  仄暗い悦びを声に滲ませ、彼は歩いていく。  喰らうこと。  それが『飢餓』の呪いである彼の本質であるのだから。  だがそれを実行するには、今の彼は弱り切っている。  なんであろうと、それこそ毒であろうと喰らう彼だが、二千年の命が造り上げた毒は、さすがに利いていた。  時間を掛ければ毒を分解し、元の力を取り戻すことが出来るが、その時間を耐えることが苛立たしい。  少しでも早く霊樹を喰らい、ツリーフォレストマンが遺そうとした若い命を摘み取るために、彼は手駒を増やしていた。 「居たぁ……――」  にちゃりと、糸を引くような歓喜の声を上げ、彼は1体の魔物を見つける。  それは腰から上は筋骨たくましい狩人の姿を持ち、腰から下は地を力強く駆ける駿馬の形をしていた。  ケンタウロス。  魔王が生み出した生物、魔物の内、高い知性と戦闘力を有する種だ。  駿馬の高速移動と、狩人として卓越した弓矢の腕を振るい、中には槍を得物にする者もいる。  いま目の前に居るケンタウロスは槍を使うようで、よく使いこまれた槍を警戒して構えていた。 「何者か」  ケンタウロスは、彼に問い掛ける。  好戦的な種ではあるが知性が高いため、出会ったからといって戦いにならないことも多い。  だが今、ケンタウロスが問い掛けたのは、得体のしれない相手を探るためだ。 (なんだ、こいつは?)  ケンタウロスの目の前の相手は、一見するとヒューマンのような形をしていた。  だが全身をくまなく包帯で覆い、目も口も隠されている。  東方の出身者が着るような着流しを羽織っている所を見ると、そちらから流れて来たのかもしれないが、それ以上に特徴的なのは漂わせている気配だ。  この世全てを呪い害そうとしているかのような禍々しさを匂わせている。 (不快だ)  見聞を終わらせたケンタウロスは、一気に勝負を決めるべく突進する。  槍突撃(ランス・チャージ)。  数百キロの質量が一気に加速され、突撃の威力が槍に集約される。  まともに当たれば即死は免れないだろう。  だというのに彼は避けない。  槍に身体を貫かれ―― 「捕まえたぁ」  狙い通り、槍にしがみついた。 「貴様!」  ケンタウロスは槍を振り上げ、彼を振り落とそうと槍を振り払う。  だが無駄。  がっしりと槍にしがみつき、なにより貫かれた傷口を締め上げ、憑りつくようにまとわりつく。 「おのれ!」  不気味さを感じながらも、ケンタウロスは振り払おうとする。  それは失策だった。  今すぐ槍を捨て逃げ出せば、速さに勝るケンタウロスは逃げ切れただろう。  けれど長年使った愛用の槍を捨てることが出来ず固執したことが、致命へと繋がった。 「きひっ。喰ってやる」  ざわりと、槍に貫かれた傷口からタールのような黒い染みが溢れ出す。  それは蟲だ。  何十何百という呪いの蟲が彼の傷口から溢れ出し、槍を伝ってケンタウロスに襲い掛かる。 「があああっ!」  悲鳴が上がる。  ケンタウロスの耳や口に蟲が潜り込み、皮膚を噛み切り肉に潜り込む。 「ひひひっ、お前も俺になれ」  愉悦に笑い声をあげながら、瞬く間にケンタウロスを喰い殺し―― 「そこそこ喰いでがあったな」  彼は、新たな端末を造り出した。 「喰って来い」  身体のいたる所に蟲を這わせた、ケンタウロスだった物に、彼は命令する。 「俺が回復しきるには命が足らねぇ。だから適当に襲って喰らえ。殺しきらなくても良い。適当に襲って命を啜り逃がせ。そうすりゃ、何度でも命を喰える」  彼の命令を受け、端末と化したケンタウロスの残骸は走り出した。  それからしばらく経って、幾つもの被害報告が出される。  ある街道に、ケンタウロスらしき物が出没し、通る者を襲うというのだ。  襲撃の理由は不明。  死者は今の所は出ていないが、それは意図された物のようだ。   致命傷の一歩手前になるまで傷付けられ、その後は放置される。  瀕死で逃げ出す場合は追い駆けて来ないようだが、無傷の場合は襲い掛かってくるようだ。  街道は重要な輸送ルートに当たり、そこを通らねばならない商人達は、襲撃者の排除を決断する。  そして白羽の矢が立てられたのが、魔法学園フトゥールム・スクエア。  件のケンタウロスらしき襲撃者を撃破して貰えるよう頼んできた。  それを受け、新たな課題が出されました。  内容は、街道で暴れる謎の襲撃者の撃破です。  この話を聞き、アナタは、どう動きますか?
進撃の驟雨 七四六明 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 とても難しい

報酬 多い

公開日 2021-07-30

予約期間 開始 2021-07-31 00:00
締切 2021-08-01 23:59

出発日 2021-08-09

完成予定 2021-08-19

参加人数 6 / 8
 滴る刃は流し雨。  鋭き刃は篠突く雨。  降り頻る勇断(ゆうだち)、卯の花腐しが如く命腐らす。  宵闇に降る雨の怪物。命をば寄越せと四本の腕に巨大な大太刀握り締め、未だ不敗にして恐怖の雨――驟雨(しゅうう)。  公園の池に掛かる橋の上。帯刀して赴いた雨の日の夜に、それは現れる。  が、今日この日、驟雨はその名、異名の通りの夕立と化す。  斬る、切る、キル……腹の底に圧し掛かるお経のような音が、夜の街に響く。音の出所を探ってカーテンを開けた人々は、それを見つけてすぐさま閉める。  鈍重な鎧兜に身を包み、六つの赤い眼を怪しく光らせる骸骨武者。  歯向かおうとしたならば、四本の腕がそれぞれに握り締める刀剣のいずれかに両断される事は目に見えている。  故に誰にも止められない。奴は一切止まらない。  奴が一歩進む度、雨足が激しさを増す。奴が目的地に迫る度、雨足が強さを増す。  血をば寄越せ。息の根をば寄越せ。命をば寄越せ。  斬る、切る、キル。  勇断(ゆうだち)が行く。豪雨が通る。降り頻る驟雨が、斬り殺しに参る。  向かうは勇者達の学園。未来の希望を育む場所。フトゥールム・スクエア。  参るぞ。参る。驟雨が参る。怨念、執念、恩讐、復讐を携えて、決着付けるべく進撃せん。恩讐、執念失いし我が一部と共に両断せん。 「――!!!」  暴雨警報、発令。
ミラちゃん家――もう一度指輪を K GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-07-31

予約期間 開始 2021-08-01 00:00
締切 2021-08-02 23:59

出発日 2021-08-09

完成予定 2021-08-19

参加人数 5 / 8
●教師たちの会話  【カサンドラ】は生徒達に教えた。  指輪の中にある『言葉』が隠されていることを。その『言葉』を使えば【黒犬】と【赤猫】にかけられた呪いが解けることを。  そうして、消えていった。 「可能なら、黒犬に指輪が奪われる前にそのことを知れたらよかったな。そうしたら、いち早く言葉を見つけることが出来ただろうし――まあ、言っても詮無いことか。すべてのことは、起きるに相応しい時に起きるんだってゆーしな」  【メメ・メメル】は軽く嘆息してから、傍らに立つ【ラビーリャ・シェムエリヤ】に問う。 「生徒諸君は、これからどうするつもりなんだ?」 「まずは、指輪を黒犬から取り返すつもりのようです」 「まあ、当然そうなるよな……探すあてはあんのか?」 「ひとまずグラヌーゼ――サーブル城近くを探ってみようかと言っていました。赤猫にあれだけ煽られたなら、無反応ではいないんじゃないかと」 「そうか」 ●何が起きた  グラヌーゼ。夏の長い夕ぐれ。この地では珍しくもない曇り空。  曇り空には、夏草生い茂る荒れ野。  荒れ野の中に、草で覆った急ごしらえの見張り小屋が数件。 「あれだけのこと言われて、無反応でいるわけないと思うんだよね。黒犬の性格からして」  一人呟きながら【アマル・カネグラ】は、高倍率の望遠鏡を覗いた。  彼は今、仲間とともにサーブル城を見張っている。何か動きがないものかと。  城が見えるギリギリの距離に見張り小屋を幾つか作り、その中に隠れ、張り込む。  このやり方は効率が悪いし見落としも多い。もっと近づいて直に調べるのが一番いいのは分かっている。しかし、そうすると赤猫が興味をもって出てきてしまうかもしれない。そこは避けたい。  幸い離れていても、仲間たちとの連絡は取れる。【ドリャエモン】が学園から、人数分のテールを貸し出してくれている。 「……お腹空いたなあ」  ぼやきつつアマルは、大きなポシェットを探る。そこにはエネルギー補給のためのタイヤキが入れてあるのだ。 「いただきまーす」  一気に数匹口に入れ、咀嚼する。  その時同行生徒の声が、テールから響いた。 『出てきました! 黒犬――え!? 赤猫も――一緒に!?』  アマルは慌てて望遠鏡に視線を戻す。  巨大な【赤猫】と【黒犬】の姿が一瞬だけ黙視出来た。  彼らは疾風のように駆け出し、たちまち姿を消してしまう。 「え、な、なんであの二匹が一緒に?」  理由は分からないが、ただならぬ事態が起きているようだ。  しかし、それはさておき。  二匹揃って出て行ったのなら、今あの城には誰もいないということに――なる。 ●シュターニャ  ボルジア家。からっぽの大邸宅。  手入れの行き届いた庭を逍遥しながら、【セム・ボルジア】は頭の中を整理している。【ラインフラウ】を相手にして。 「赤猫は黒犬に、何と言ったんです?」 「『呪いの転移をするから、協力しろって』」 「喧嘩にはならなかった、と」 「ええ」 「黒犬はその話を信じたんですか?」 「さあーねー、半信半疑ってところかしら。でも、彼、正直他に打つ手がないしね」 「指輪は、まだ黒犬が持っているんですか?」 「ええ、一応」  その指輪、可能なら学園側に戻した方がいいかもしれないとセムは考え始めている。  保護施設関係者らは、この先呪いの解除法を突き止める――あるいは既に突き止めている可能性が高い。ということは、解除を回避する方法――黒犬と赤猫を確実に死に至らしめる方法を知っているということだ。  そういう情報は、是非とも共有しておきたい。 「……ラインフラウ、呪いの転移に関して、指輪が必要だとは言っていないですよね?」 「ええ。『あなたと黒犬と、それから移し変えの対象がいればそれだけで可能だ』って言っているわよ?」 「ならあの指輪、こちらへ寄越すように説得することも出来ますかね」  そのように言うセムをラインフラウは、優しく熱っぽい目で見つめた。 「それ、可能なことかしら?」 「やれなくはないんじゃないですかね。黒犬は、赤猫より察しが悪いですから」 「確かに彼は、察しが悪いわね」  くすくすやりながら、セムにしなだれかかる。 「でも、セムも結構、そういうところがあるわよ? あなた欲得が絡む話にはすごーく勘が働くのに、色恋沙汰にはとんと鈍いのよねえ……いえ、避けてるって言うほうが近いかしら。どうして?」  いつも通り彼女の求愛を流そうとしたセムは、はっとした。強烈なアルコール臭さと次の声で。 「どーうしてかーしらー?」  赤猫がすぐ近くの木の下闇から、するりと出てきた。普通サイズの猫の姿で。  続けて黒犬も出てきた。天使の彫像の後ろから。軽く唸りながら。  両者、今の話を聞いていたのは間違いない。  さしものセムも一瞬息を飲んだが、すぐとラインフラウにきつい視線を向けた。 「どういう次第ですか、ラインフラウ?」  ラインフラウが答える前に赤猫は、ぱっとセムとの間合いを詰めた。少女の姿に変じ、セムを下から睨めあげる。  眼光の圧力がセムの動きを止めた。  赤猫はラインフラウを指し示した。 「この女が、お前を指名したのよ。私の呪いを引き受ける対象として、自分と、お前を使いたいんだってさあ。お前と結びつきたいんだって。お前が好きで好きでたまんないからそうしたいんだって。私にはさっぱりわかんない話だけど」  そう言ってから、猫が顔を洗う仕草をする。  視線が外れたのでセムは動けるようになった。  顔をラインフラウに向ける。 「ごめんねセム。私、これまであなたに言ってきたでしょう。『呪いの移し変えは出来ない』って。あれね、ウソ。本当は出来ちゃうのよ。もっとも、私ほどの腕があって初めて可能なことだけど」  セムのまなじりがいよいよ険しくなった。  目の奥に動揺が見受けられる。声にいつにない揺らぎがある。 「ラインフラウ――自分が何をしているか分かっていますか?」 「分かっているわよ、もちろん。私の命を、あなたの命と繋げるの。あなたが死ぬときには私、一緒に死ぬの」 「いい加減にしてください! 一体いつ、誰がそんなことをしてくれと頼みましたか!」  怒声にもラインフラウは動じない。 「あのねセム、私、ずっと考えてたのよ。あなたとの生きる時間の差をどうしたらいいのか。ほら、あなたはどうしても、私より先に死んでしまうじゃない? ヒューマンなんて、どんなに頑張っても100年がせいぜいだし」  赤猫がそこで、わーあーあーと猫の鳴き声を上げた。笑い顔で。 「100年なんて、ほんのちょっと。ヒューマン、お前が死んだらこの女も死ぬ、そこで呪いは、終わる。呪いが、消える。私、自由になれる。万々歳。ポンコツまでもがそうなるのはムカつくけど」  ラインフラウはそれに頓着せず、一人、言葉を続ける。 「あなたがいなくなった時のことを思うと、私――」  青い瞳の奥に、ぬめりを帯びた炎が燃えていた。 「――頭がおかしくなりそうよ」  相手の底知れぬ本気度を感じ取ったセムは、とっさに身を引こうとした。  次の瞬間黒犬が人間の姿に変じ、彼女のみぞおちあたりに拳をたたき込む。  セムは、もちろん即座に昏倒した。血を吐いて。 「ちょっと、セムになにするのよ!」  ラインフラウはセムを抱き寄せ抗議し、回復魔法を施す。  黒犬はうるさそうに首を振った。 「殺しはしてない」  赤猫がたんたん足を踏み鳴らす。 「――さあ、そいつをつれて、早く城にかーえろ」
【メイルストラムの終焉】Black 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-07-26

予約期間 開始 2021-07-27 00:00
締切 2021-07-28 23:59

出発日 2021-08-04

完成予定 2021-08-14

参加人数 8 / 8
 小都市セントリア。  研究都市として計画的に設計されており、ほぼ正方形で碁盤の目のように区画整備されている。  画一的な配置になっているように見えるが、ただひとつ、中央部分が例外だった。  巨大なドーム状の研究施設は、周囲を壁で覆われ外部の侵入を拒んでいるように見える。  だが他の研究所にとっては、大きな問題では無かった。今までは。  なぜなら各研究施設は、それぞれ独自の研究を行っており、同じ都市に存在するとしても関係性が極めて薄い。  それは、そうなるように意図されたものだった。  セントリアにある研究施設のほぼ全てが、本命の研究を隠すためのダミー施設だったのだ。  本命である、中央に位置するドーム。  研究されているものは、魔法に関する物と風評されていたが、実際の所は違う。  異世界に通じる門『特異点』を外から隠しながら研究することを目的とするものだった。  町の東西南北四方には、特異点を制御するための魔法陣が埋めてあるという。  それを隠すため、研究施設を周囲に誘致し、同じように存在する他の研究所と変わらぬものだと誤認させる。  木を隠すには森の中。  それを実践して作られたのが、研究都市セントリアだ。  さらに隠蔽を強化するため、周辺施設や関係者にも、都市の成り立ちを伝えることなく隠し、中央研究所に務める一部の者だけが、実体を知るに留まっていた。  それがテロ組織『霞団』の付け入る隙となった。  中央研究所の一部の者達さえ押さえてしまえば、あとは事情を知らない。  だから霞団が中央研究所を占拠した後、事情を知らない周辺研究所は、テロの片棒を担ぐことに繋がった。  異世界に通じる門『特異点』を操るための機材発注を受け、知らずに作ってしまった所さえある。  さらに、霞団が周囲に散ったことで、制圧されていることにさえ気づけず、実質的な支配下に陥った。  だが今は、勇者候補生たちの活躍により解放されている。  都市に潜入し情報収集。  要所要所を押さえ、最後には霞団の指導者であり、フトゥールム・スクエア生であった【ディンス・レイカー】と対決。  戦闘の末、ディンスは異世界転移の『核(コア)』である、手鏡の中に消え失せた。  それにより最悪の事態は防がれたが、騒動はむしろ解決した後に起ったのだ。 「とにかく全部話して貰うぞ!」  周辺研究所の代表者たちが詰め寄った。 「……」  相対しているのは、中央研究所の代表者。  といっても、彼に特別な権限がある訳じゃない。  霞団の騒動が終わった後、関わった者達の大半は更迭、あるいは捕えられ、いま残っているのは事情をあまり知らないものばかりだ。  研究内容の秘匿のため、隠蔽主義を貫いていたことの弊害が出ている。 (俺に言われても……)  いっそのこと逃げ出したいぐらいだが、そういうわけにもいかない。  下手にそんな素振りを見せれば袋叩きにされそうな気配だ。 (気持ちは分かるけどな……)  殺気立つ彼らの理由も分かる。  セントリアは研究都市であり、生活しているのは研究者ではあるが、もちろんそれ以外も大勢いる。  日常の生活を支えてくれるスタッフや、研究者の家族も住んでいた。  だというのに、今まで何の事情も知らされず、あげくテロ組織に中央研究所が占拠され、中には知らず片棒を担ぐはめになってしまった所さえある。  そのため今後、二度と同じことが起らないよう、情報の共有を求めて周辺研究所の代表者たちが押し寄せて来たのだ。 (帰りてぇ……)  キリキリと胃を痛めながら、貧乏くじを引く事となった彼は、ひとつの手鏡を皆に披露した。 「細かいことの前に、まずは事の発端を皆さんにお見せします。これが、異世界の門となる『核(コア)』です」  さざ波のようにざわめきが起き、やがて押し黙る。  この場に居るのは研究者達であり、それだけに目の前の重要度は分かっていた。 「それを、ここで出して良いのか?」 「皆さんに対する誠意のひとつだと思って下さい」 (よし。なんとか賭けに勝ったな)  ひとまず胸を撫で下ろす。  ハッタリに近い行動だったが、注意を引く事は出来たようだ。  皆が『核(コア)』に意識を向けている間に、話をしていく。 「今までの秘匿主義の行き過ぎが、今回のテロ事件に繋がったことは重々承知してます。ですから、それを是正するためにも、皆さんと今後は協議し、協力できることはしていければと思います。その話し合いに――」 『勇者候補生を呼んだら良いと思いまーす』 「……」 「……」  血の気が引くような沈黙が広がる。  全員の視線は、声の聞こえてきた『核(コア)』に向いていた。  静まり返る中、能天気な声が『核(コア)』である手鏡から聞こえてくる。 『ハローハローでーす。聞こえてますかー。不審者で怪しいものでーす』  絶賛胡散臭い声を上げている手鏡に、恐る恐る、中央研究所の代表者である【ハイド・ミラージュ】が返す。 「貴方は、誰ですか……」 『おーう、聞こえてましたねー。好かったでーす』  底が抜けきったとぼけた声が返ってくる。 『私はー、そちらにとっては異世界人でーす。そっちの世界からこっちの世界に来た人から、事情を聴きましたー』  ざわりと、周囲がざわめくのもお構いなしに、手鏡から聞こえる声の主は、マイペースに続ける。 『そちらとこちらを安定して繋げる方法を教えまーす。こっちとしてもー、そっちの世界が混乱して滅びに向かうとえらいこってすからー』 「……は? え、どういう――」  ハイドが聞き返そうとすると、声の主は一方的に言った。 『細かいことはー、また後で話しまーす。そっちにあるー、世界間接続の核(コア)はー、戦闘の影響で万全じゃないみたいですしー、今はこちらから何か送ることも出来ませーん。せいぜいがー、声を届けるので精一杯ですからねー。それも時間制限がありそうですしー。とにもかくにもー、勇者候補生という人達をー、呼んで下さーい』 「何で異世界の住人が勇者候補生たちに拘るんです」  ハイドの問い掛けに声の主は応えた。 『こっちの世界に来たー、貴方達の世界の住人のー、進言ですよー』 「ちょ、それって、誰のこと――」 『詳しいことはー、勇者候補生が来たら話しまーす。お願いしますねー』  そう言うなり、声は聞こえなくなった。 「なんなんだ、一体……」  後には、訳が分からず困惑する者達ばかりだった。  その後、話し合いの末、少しでも情報を得るために勇者候補生たちを呼び寄せることが決まりました。  目的は、手鏡から聞こえてきた異世界人とのコンタクトです。  それと同時に、セントリアの各研究機関が連携が取れるよう、アイデアを出して欲しいとの事です。  部外者である勇者候補生たちを間に入れることで、確執を避けたいらしいとのこと。  要は、ギクシャクしている間の潤滑油として、参加して欲しいとの事でした。  色々と不明な中、あなた達は、どう動きますか?
【メイルストラムの終焉】Green 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 少し

公開日 2021-07-22

予約期間 開始 2021-07-23 00:00
締切 2021-07-24 23:59

出発日 2021-07-31

完成予定 2021-08-10

参加人数 8 / 8
「そろそろ、お別れじゃ」  天を突くほどの巨木、【ツリーフォレストマン】は、自らが死に逝くことを告げた。 「……」  傍らに立つ【シトリ・イエライ】は、返す言葉を迷うように無言のまま。  そんな彼に、ツリーフォレストマンは穏やかな声で言った。 「悔いが無いわけじゃないが、悪くない生じゃったと思っておるよ」 「成すべき事を成したと?」  自らを省みるように、シトリはツリーフォレストマンに返す。  かつて高き塔に閉じこもり、研鑽を深めるのみで、得た知識も力も使うことのなかった彼は、ツリーフォレストマンの生き方に何かを感じているのかもしれない。 「出来ることをしただけじゃよ」  死を間近にしているとは思えない静かな声で、ツリーフォレストマンは言った。 「二千年で、わしがやった事といえば、それだけじゃ。出来んかったことも、力の及ばんこともあったが、最後に霊樹を守るために力を振るえたのは、勇者の卵たちのお蔭じゃと思っておるよ」  それは魔王復活を目論む軍勢が各地を襲撃した時のこと。  弱りゆく霊樹を回復させるため勇者候補生たちが奔走している間、ツリーフォレストマンは余計な邪魔が入らないよう、老体に鞭を打って全力を尽くした。  その反動で弱り切った体は、もう持ちそうにない。  体の内部には無数のひびが入り、気を抜けば肉体が消滅してしまいそうなほど、気力が減っている。  いつ死んでもおかしくない状態だった。  それでも、最後に霊樹を護り、勇者候補生たちの頑張る姿を見れたことが、彼の長い長い生を『悪くない』と思える物にしてくれていた。だが―― 「わしが死んだあと、霊樹を護るものが必要じゃ」  自らが亡くなったあとのことを思い、ツリーフォレストマンは言った。 「霊樹は、霊玉と同じぐらい、これからの戦いで意味を持つ」  魔王を封じた勇者の魂が結晶化したものである霊玉。  魔王復活を目論む者達は、すでに幾つかを手にしている可能性があり、予断を許さない。だからこそ―― 「メメルは先を見据え、霊樹を植えた。それが必要じゃと、分かっておったからじゃ」 「それは、どういう……」  推測は立てられる。  だが勇者達が魔王と戦った、英雄の時代を直に生きたツリーフォレストマンからの言葉を、シトリは待つ。  ツリーフォレストマンは、言葉を選ぶような間を空けて応えた。 「勇者は九人。じゃが、彼らの魂が結晶化したものである霊玉は、八つじゃ」  それはつまり、数が合わないということ。 「そうなる理由があった。じゃが、いずれ復活するやもしれぬ魔王と戦うためには、より多くの力が必要じゃった。じゃからこそ、霊樹は学園に植えられたんじゃ」  本来なら霊樹は大きく育ち、メメルや勇者の卵たちの力強い助けとなっていた筈だった。  けれど、かつての学園生の造反。魔王復活への胎動。そして勇者達の犠牲の元に生まれた平和の中、自らの欲に駆られた多くの者達。  その全てが、今の有り様へと繋がっている。  誰かが悪いのではなく、言ってしまえば、皆全てが少しずつ悪かった。  ぬるま湯のような平和の中、それに胡坐をかいてしまったのだ。 (すまぬ、メメル。先に逝く)  言葉には出せず、ツリーフォレストマンは悔恨を思う。  かつて、今とは比べ物にならないほど小さな、若木だった頃。  メメルと出会った時の笑顔は、今でも覚えている。 (人で言うなら、姉のように、思っておったよ)  魔王全盛期。苦しい時代にあって、それでも未来を夢見て希望を抱いていた、あの頃。  犠牲の果てに、望む未来が訪れると思っていた。けれど―― (人の欲と、二千年の歳月が、願いを妨げた)  種族間の確執。託された霊玉は、争いと長い月日の中で、今では行方の知れないものさえある。  その苦境を乗り越えるべく、メメルは身を削るような思いで立ち回っていた。  けれどそれも限界に近い。  かつての屈託のない笑顔は、何かを誤魔化すような笑みに代わり、迫り来る脅威と不安から逃れようとするかのように、浴びるように酒を飲む。  それでも懸命に学園長の職責を全うしようとしているのは、勇者の卵たちを護るためだ。  その姿が、ツリーフォレストマンにとって、痛々しい。  少しでも彼女の背負う重荷が減るよう、願いを託す。 「祭を、してくれんか?」 「祭、ですか?」  真意を尋ねるシトリに、ツリーフォレストマンは応えた。 「なに、湿っぽく終わるより、賑やかなのを見ながら逝くのが好みというだけじゃ。それに――」  霊樹のある方角に視線を向け、続ける。 「霊樹は、学園生達の心情にも影響を受ける。今回、霊樹が弱ったのは、かつての学園生である【ディンス・レイカー】や、霊玉を宿した【テジ・トロング】が襲われた件も、大きく影響しておる」  世界を守るためテロを起こし、異世界と繋がる『特異点』を巡る攻防で消え失せたディンス・レイカー。  とある島で過ごしていた、テジ・トロングを奪うために上陸した軍勢。  それは今まで積み重なって来たことが一気に表れる切っ掛けでしかなかったかもしれないが、それでも、学園生達との繋がりが強いことの証拠でもある。 「祭の理由は、そうじゃな……魔王復活の軍勢を退けられたことを祝って、でもええじゃろう。祭をすることで学園生達の気持ちが盛り上がり、未来をより良くしていこうと思ってくれれば、それが霊樹の力になる。そうして霊樹の力を強めねば――」  ツリーフォレストマンは自らの表皮を削り、幹の中を蠢く物を取り出して見せた。 「それは――!」 「あの、嵐の日。こいつらが暴風に隠れて霊樹に食いつこうとしておった」  それは漆黒の蟲だった。  ムカデのようにも、毛虫のようにも見える。  だがタールのように粘つく暗黒の姿は、真っ当な物には見えない。 「呪い、ですね」 「そうじゃ。東方の呪法で、『蠱毒』というヤツじゃな」  それは毒虫に食い合いをさせ、残ったものを呪いに使うといわれている。  だが実態は、さらにおぞましい。  それは虫のみならず、犬や猫、果ては人さえも使い、お互いを呪い合う飢えの中に堕とし熟成させる呪法。  凝縮した怨念を用いて害をなす、まさしく禁術だ。 「あの日、嵐と共にわしは、こいつらから霊樹と勇者の卵たちを護った。わし自身の身体に巣食わせることでの」  蟲を潰し、ツリーフォレストマンは続ける。 「わしを食わせる代わりに、呪詛返しを術者にくれてやった。毒へと変えたわしの身体を食らったんじゃ。術者にも影響が返っておる。当分は、毒でまともに動くことも出来まい。じゃが、倒せた気配はない。いずれ、また襲撃に来るじゃろう。それまでに、備えねばならん」  ツリーフォレストマンは懺悔する様に言った。 「すまん。お前たち幼き者に、後を託す。霊樹を育て護り、メメルを助けてやってくれ」 「はい。必ず」  静かな声で、シトリは応えた。  そして祭りが始まります。  魔王復活を目論む者達を退けたことを祝う、お祭りです。  それにより霊樹を活性化させ、より強く育てることが目的のひとつだと、学園生には伝えられました。  けれどツリーフォレストマンが死に逝くことは、伏せられています。  ツリーフォレストマンは少し離れた場所で、学園生達が祭で楽しむ声を耳にしながら、終わりの時を迎えようとしています。  このお祭りの中、あなた達は、どう動きますか?
【メイルストラムの終焉】White 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 少し

公開日 2021-07-18

予約期間 開始 2021-07-19 00:00
締切 2021-07-20 23:59

出発日 2021-07-27

完成予定 2021-08-06

参加人数 8 / 8
 活気のある声が響く。 「そっち持ってくれ!」 「おう!」  破壊された家屋の柱を男衆が運んでいく。  周囲を見渡せば、いたる所に瓦礫が散乱していた。  その全ては、魔王復活を目論む軍勢により破壊された物だ。  少し前、長閑な島が襲われた。  現地の言葉で、『名も知らぬ』あるいは『無名の』という意味を持つ『ボソク島』。  朴訥とした、この島が襲撃されたのは、もちろん理由があった。  霊玉。  かつて魔王を封じた九人の勇者。彼らの魂が結晶化したものだ。  強大な魔力の源であり、全てを集めれば魔王復活さえ叶うと言われていた。  霊玉は八個存在し、その内のひとつを宿す少年【テジ・トロング】が島に居たのだ。  それをどこからか聞きつけた、魔王復活を目論む軍勢が島を襲撃。  学園生たちの活躍のお蔭で事なきを得ることが出来たのだが、さすがに被害なしというわけにはいかなかった。  人の犠牲は抑えられたものの、家屋の破壊などを防ぐことまでは出来ず、復興前の瓦礫の片付けが進んでいる。  襲撃から日が浅く、島民達だけでは時間が掛かるほど、瓦礫は散乱していた。  けれど、いま周囲を見渡せば、そんなことはない。それは―― 「これ、あっち、持って行ったら、良い?」  見上げるほどの巨人、【ガニメデ】が片付けを手伝ってくれているお蔭で、作業は驚くほどに進んでいた。 「ありがとな、ガニメデ」 「そのまま、あっちに持って行ってくれ」 「うん。分かった」  島民に言われるまま、ガニメデは瓦礫を運んでいく。  彼は少数種族である巨人で、本来ならボソク島に居る筈はない。  そんな彼が何故いるかといえば、島が襲撃されたことに関わっている。  着けた者を意のままに操る仮面により意識を操られ、襲撃者に加わっていたのだ。  幸い、学園生たちの活躍により事なきを得て、元凶である仮面も破壊されたことで自由を取り戻し、今は島で生活している。  もっとも本人としては故郷に帰りたいようで、最初の内は、めそめそと泣いていた。  見上げるほどの大きさだが、巨人としては子供だったらしく―― 「お家、帰りたい……」  と、心細そうに泣いていた。  それを島民たちが慰め、今では島の復興に大いに役に立っている。  本人としても、意識を操られていた時のこととはいえ、島を荒らす原因の一つとなってしまったのを気に病んでいたらしい。  一生懸命瓦礫を片付け、島民達とも仲良くなっていた。 「ガニメデ、少し休むか?」 「ううん、いい。やる」 「そうか? でもな、ずっと働いてるし」  島民が声を掛けている時だった。 「ガ~ニ~メ~デ~」 「あーそーぼー」  小さな子供達がやってくる。  皆ルネサンス族だ。ほぼすべてウサギの耳、ちらほらと狼や熊の耳が混じっている。  中には、霊玉を宿した男の子、テジも居た。 「う、遊ぶ?」  心動かされたのか、ガニメデは島民達に視線を向ける。  島民たちは苦笑すると、快く送り出す。 「遊んできな。おやつだって用意してくれてるだろうから、食べて来ると良い」  島民たちの応えに、ガニメデは顔をほころばすと、子供達と一緒に遊びにいく。 「なにするー?」 「おにごっこー」 「おにごっこ、する」  賑やかに走り回る子供達を島民達が微笑ましげに見詰めていると、商人の一団がやってくる。 「子供は元気で良いですね」  にこにこ笑顔で、商人達の代表団が島民に声を掛ける。  彼らは学園と繋がりのある商人の集まりらしく、島の復興などの協力にやって来たのだ。 「巨人というから最初はおっかなびっくりでしたが、ふたを開ければ子供ですものねぇ。早く故郷に戻してやりたい所ですが、船の修理に、もう少し掛かりそうです」  島を襲撃した軍勢は、幾つもの船でやって来たのだが、その内の幾つかは、奪われるのを嫌って破壊されている。  ガニメデを乗せてきた船も同じで、甲板などが、爆破系の魔法で壊されていた。 「まぁ、そっちはこちらの職人がどうにかしますから、ご安心を。それとは別に、例の件、承諾していただけますか?」 「島で夏祭りをして観光客を呼び寄せるってヤツかい?」 「ええ、そうです」 「別にかまわないけど、本当に観光客が来るのかね?」 「そちらは、こちらで巧くやりますので安心してください」  笑顔のまま、商人は続ける。 「勇者候補生、魔王軍撃破記念夏祭り! 盛り上げていきますよー!」  商人は気合を入れるように言った。  なんでも、学園生が魔王復活を目論む軍勢を倒したことを記念して、各地で夏祭りを開催するらしい。  その始まりのひとつとして、ボソク島を観光地として売り出しつつ、盛り上げていこうとしている。 「しっかし、アンタら商人だろ? 儲かるかどうか分かんないのに、良いのかい?」 「商人だからですよ」  変わらぬ笑顔で商人は返す。 「商人としては儲けが第一。それなのに魔王軍なんてのにデカい顔をされたら商売あがったりで」  軽くため息をつき、続ける。 「戦争で儲けられるんじゃ? なんて言うド素人が居ますけどね、ふざけんなって話で。あんな水物、出てくばっかりで上がりはそこそこ。むしろ世の中が不安なせいで、製品を作るのが滞ったり商品運ぶのに邪魔だったり、何よりお客さん減らされてたまるかってんですよ! ええまったく」  大分、憤慨している。 「まぁ、そういうわけで、勇者候補生の皆さんには、頑張って欲しいんですよ。その後押しやらも兼ねて、夏祭りで盛り上げようと、そうなりまして」 「んー、それってアレか。プロパガンダで宣伝しつつ、商売の邪魔する奴らをぶっ飛ばしたいと」 「そういうことです。ついでに言うと、魔王軍と戦うなら、そこに必要な物資とかは沢山要りますからねぇ。食い込めたら美味しいでしょ?」  あけっぴろげに悪巧みを口にする商人に、島民は笑って返す。 「さすが抜け目ないね。まぁ、そういうことなら、島を上げて手伝うよ。とはいえ、その前に島の復興が先だがな」 「そっちもお任せを。学園にお願いして、勇者候補生たちに手伝いに来て貰えるよう手配しました。夏祭りのアイデアとかも出してくれるかもしれませんよ」  笑顔を崩さず、商人は応えた。  そして、皆さんに課外授業が出されました。  魔王復活を目論む軍勢に荒らされたボソク島の復興のお手伝いと、夏祭りの準備やアイデア出し。  霊玉を宿すテジ・トロングや島の子供達。そして巨人などの相手をしてくれると、助かるとの事です。  話を聞いたあなた達は、早速島に向かうことに。  さて、あなた達は、どう動きますか?
てんさいのあしあと y GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 少し

公開日 2021-07-20

予約期間 開始 2021-07-21 00:00
締切 2021-07-22 23:59

出発日 2021-07-28

完成予定 2021-08-07

参加人数 2 / 4
 星々が煌めき柔らかな静寂が包み込む穏やかな夜の出来事。  ここはトロメイアの街の外れ。アルマレス山を背景にポツンと一軒、小さな家が建っている。  小屋。それは家と言うには小さくこじんまりとしていた。また、薄い月明かりからでも所々、継ぎ接ぎのような修復跡が見て取れる。そして、人もまだ住んでいるようだ。くすんだ橙色の灯りがぼんやりと、その小さな窓から溢れている。  雷だろうか。その小さな家の存在を確認したときほんの一瞬、視界が白く点滅したような気がした。と、次の瞬間。  まぶたの裏に走る閃光と共に、雷が落ちたかのような轟音がアルマレス山を越え、トロメイアの街を突き抜け静寂を破っていった。  しかし街は静かだった。まるで最初からそんなざわめきなど無かったかのように。  慣れているのだろうか。このざわめきに。  夢から引き戻された人々が再び微睡み始める頃、夜もまた静寂を取り戻そうとしていたとき、先程までそこにあったはずの家は僅かな残骸と、向かい合う二つの人影をそこに置いて無くなっていた。と、そのとき。 「お姉ちゃん!」  可憐な怒号が影の方から、空へと虚しく響いていった。 「エヘヘ……ゴ、ゴメンね? ジュリ」  お姉ちゃんと呼ばれた人影は舌をペロッと出して、パチッとウィンクをしながらお茶目にそして、どこかぎこちなく申し訳なさそうに謝っていた。 「全くもう……これで何回目だと思ってるの?」 「さ、いや、よ、四回目、くらいかな?」 「五回目!」  フワフワとした姉リディアーネの返事に、妹ジュリアーネは深いため息をついて、ピシャリと言い放つ。  その迫力に押されて姉は胡座を解き、背筋を伸ばして正座をする。 「魔法の研究をやめてとは言わないけど、その度に家を吹き飛ばすのはやめてよね。これで五、回、目、なんだから」 「ゴ、ゴメンて……」 「そんなに魔法の研究がしたいんならさ、ほら、あの学園、何ていったっけ? 魔法学園【フトゥールム・スクエア】だっけ? に入学とかしてみたらどう?」  ジュリが散乱した家の破片を集めながら、姉に学園への入学を勧める。 「あぁ……でもさ、あそこって魔法の研究ってできるのかな? ていうかどうやって入学するの?」  こんなときでも魔法の事しか頭にないのだろうか、目の前でせっせと惨事の後始末をしている妹をよそにこの姉ときたら、話を半分も聞かずにボーッと考え事に耽っているのだった。 「さぁ? 私は行ったことないからよく分からないけど……あっ! だったらさ、魔法の研究がどうたらって依頼してみて、実際にその学校に通ってる生徒さんに聞いてみたら?」  ジュリは我ながら良い考えだと思い、姉の方へと振り返る。するとそこには、未だに手伝いもせずに口をポカンと開けて、抜け殻と化した姉がいた。 「お姉ちゃん!」  三度目の怒号が辺り一面に響き渡る。それは満月の美しい夜だった。
ミラちゃん家――ある晴れた日に K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-07-15

予約期間 開始 2021-07-16 00:00
締切 2021-07-17 23:59

出発日 2021-07-24

完成予定 2021-08-03

参加人数 8 / 8
 呪いが離れた。  彼女を地上に繋ぎとめていたくびきが外れた。  魂よ、自由になれ。  羽ばたいていけ。 ●このよき朝に  時刻は朝。  場所はなにがし山の保護施設。  目を覚ました【カサンドラ】はベッドから降り、窓際に歩み寄る。  空が青かった。  雲は白かった。  紫色の朝顔が咲いている。  山々の向こうには、フトゥールム・スクエアの校舎群。自分が通っていたころと少しも変わらない姿でそびえている。  カサンドラは、なんだか長い夢から覚めた心地がした。  随分と体が軽い。まるでそう、雲にでもなったよう。  目の前に手をやってみる。  それは、これまでにないほど透けて見えた。  ああ、と息を吐く。来るべきものが来たのだと悟って。  自分はここから去らなければならない。 (……長く持ったものね……)  リバイバルになる前も、なった後も、死ぬことをあれだけ恐れていたのに、どうしてだろう、今はちっとも怖くない。  描きかけの絵を残して行くのは心残りだけれど。トーマスや、皆と別れなければならないのは、寂しいけれど。  でも、明るい。見えるものなにもかもが。 (世界がこんなにきれいなものだということを、私は、今の今までどうして忘れていたんだろう)  物思いに耽った後、カサンドラは顔を上げる。  いつのまにか【ミラ様】が近くに来ていた。  精霊はその思いを彼女の心へ、直に伝える。 「……ええ……そうですね。私は……なくなってしまうわけじゃない。風に、光に、溶け込んでいくだけ……」  私はもうすぐ、ここからいなくなる。  でもその前に、伝えておかなければならない。黒犬と赤猫にかけられた呪いを、どうすれば解くことが出来るのかを。 「ミラ様、皆を呼んできてくださいますか……」 ●行く人、残る人  カサンドラは、これまでいっぺんもなかったほど健康そうだった。  痩せこけていた顔は肉付き血色がよい、褪せていた髪の色も目の色も、鮮やかに色づいている。  ――だけどその輪郭は、極度に薄らいでいる。  彼女がもうすぐいなくなるのだと直感した【トーマス・マン】は、泣きたいような気持ちになった。  【トマシーナ・マン】は顔をクシャクシャにして、カサンドラに取りすがる。 「先生、消えちゃだめよう。いなくなっちゃだめよう」  だけどカサンドラの体はもう触れる状態ではなくなっていた。空気をつかむように、小さな手が擦り抜ける。  そのことがショックで、トマシーナは泣いた。  カサンドラはそれを慰める。 「泣かなくていいのよ、トマシーナちゃん。私は今、とてもいい気分なの。これまでで一番ね。なんだか、空も飛べそうな気がするのよ」  アマルはそのやり取りを、口をへの字にして見ていた。  共に時を過ごした相手がいなくなるというのは、彼にとっても寂しいことだった。つぶらな丸い瞳に涙が溜まっている。  【ドリャエモン】が太く落ち着いた声で、カサンドラに尋ねた。哀惜を込めて。 「カサンドラよ、思い出したのか?」 「ええ。そうです――だから、話せるうちに急いで話しておかなければと思いまして……呪いの解除法を……」 ●黒犬と、赤猫と、指輪と、それから――  壊そうとしても壊れない指輪。  見ているほどに腹が立ってしょうがない。  だが捨てるわけにはいかない。絶対に。そんなことをしたら、二度と手に入らないかもしれないのだから。 「くそっ、くそっ」  唸りながら黒犬は、地面に置かれた指輪の回りをぐるぐる巡る。  彼は頭の中で、何度となく反復させる。見知らぬ人間共が、赤猫からと称し伝えてきた言葉を。 『指輪を手にいれたとしても、何も出来ない。壊せない。自分から手放すことも出来ない。仮に捨てたって戻ってくる。お前の頭を狂わせる。サーブル城の、あのムカツクつがいが住んでた部屋の、宝石箱の中へ戻さない限り。最もお前は、狂うほどの上等な頭なんて、もともと持ってないから、その点は心配要らないね』  赤猫の言葉は信用出来ない、というか、信用したくもない。  だがこのまま睨んでいたところで、何も進展しないのは確実だ。指輪がひとりでに壊れるなんてことはあり得ないのだ。ただただノアに対する憎悪をかき立てられ、疲労感が蓄積していくばかり。 (……サーブル城の……ノアのつがいが住んでいた部屋……)  その場所を黒犬は知っている。何しろ飼い主の部屋なのだから。 「――くそおっ!!」  黒犬は指輪を咥え走りだした。サーブル城へ向かって。  たどり着いてみれば城はいつものように、陰気にそびえ立っていた。  不審そうに集まってくる猫を炎と怒声で追い散らし、堂々と正門から侵入を図る。  もし赤猫が出てきて邪魔したらこの前のお返しをしてやろうと、堅く心に誓いながら。  しかし、城内に足を踏み入れた瞬間、ガコンと床が抜けた。  黒犬はとっさに本来の姿に戻る。四つ足を踏ん張り、着地する。  足裏がちくちくした。  打ち付けてあった鉄の杭が触れたのだ。  人間なら串刺しになって終わるところだが、鋼のような巨体にかかっては、杉葉を踏んだ程度の刺激しかもたらさない。  ひゅー、と口笛が聞こえた。  大嫌いな酒臭い匂い。大嫌いな声。 「久しぶりね、ポンコツ――おっと。私、今日はあんたとケンカするつもりはないの。教えたいことがあるのよ」  黒犬は赤猫の後ろに、女のローレライがいるのに気づく。 「まずね、呪いの指輪と宝石箱関連の話はぜーんぶ、う・そ。騙された? だったらあんた、やっぱり馬鹿だわ」  唸り声を前にローレライを親指でさし、赤猫が言う。 「でも、呪いをどうにか出来るかもしんないのは本当――この人間、私たちにかかった呪いが欲しいって、言ってんの」  無作法にけらけら笑いながら。 「それを自分と、セムって奴に、移し替えたいんだってさ! 愛して愛して、愛してるから、自分から逃げられないようにしたいんだって!」
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