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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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探る道標、掲げる剣 根来言 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2021-03-05

予約期間 開始 2021-03-06 00:00
締切 2021-03-07 23:59

出発日 2021-03-13

完成予定 2021-03-23

参加人数 5 / 8
「回収して、ほしい……な?」  水晶の中、浮かび上がる褐色の少女――【ラビーリャ・シェムエリヤ】は、小首を傾げ、静かに発した。  ……期待と真逆の言葉。  その真意も分からず。  一同みな、彼女と同じように首を傾げるほかなかった。  村近辺の森にて発見されたのは『魔物を生み出す謎の本』。  生み出された魔物達の数は驚異的である。  その上、経験の少ない冒険者ではとても太刀打ちできないような強力な個体も確認されているのだという。  ほんの数か月前、魔物達の一派が討伐された。しかし、未だ安心はできない。  一時的にではあるが、確かに今は平穏である。……そして、平穏な今だからこそ、人々は襲来に備え、警戒と調査、作戦を繰り返していた。  その全ては、失った村を取り戻すため。あるいは、自分たちの街を守るため。  今、作戦会議を行う数人も。そして、その中心人物である彼女――【ニキータ・キャンベル】もその1人だ。  件の村の近隣に位置する町『シュターニャ』は、彼女の守るべき場所、守るべき人々が暮らしている。  だからこそ、ラビーリャの言葉を鵜呑みにして素直に首を縦に振ることはできない。 「……回収したところで、脅威を拭い去ることはできないのではないか? それに、村から回収したとて、どこに保管を行う」  近隣の街であるシュターニャには多くの傭兵がおり、多少の魔物にも対処できる。  ……が、同時に商売の街であるシュターニャ。年中観光客が溢れるような場所にそのような危険なものを置くことは、街の人々、そして観光客達からの信用を失うことに繋がる。 (……第一、何故、回収する必要がある? 私は、封印の方法、あるいは安全に破壊する方法を聞いたつもりだったのだが……)  専門家ではないニキータには、本の事などは全くと言っていいほどに分からない。だからこそ、不安で、未知で……。そこにあるというだけで、とても恐ろしい。 「それに、その危険なものを回収した後……あるいは護送中に魔物が大量に現れたなら……、他の集落にも被害が拡大するのではないか?」 「えぇと……、『ソレ』は多分、危険なものじゃない、よ。今は、危険になっているだけで。それに、運ぶ間だけならなんとかできると思う」  意味が分からない。ニキータはラビーリャのその言葉に、思わず息を吐いた。  ラビーリャ・シェムエリヤという人物は、魔法道具の専門家である。  ニキータにとって、最もこういった未知の魔法道具に詳しい人物であり、傭兵組合と友好関係にある魔法学園の関係者だ。  だからこそ、信頼している。……そして、だからこそ、今回の彼女の発言は理解が難しい。  ——尤も、彼女の言動は少々言葉を選びすぎている為に伝わり辛い点もあるのだが。  ラビーリャもその点は自覚している。 「……えっと」  ニキータの反応を見て、結論を急ぎすぎたとその結論への過程をゆっくり語り始めた。 「水晶越しに、見せてもらった本だけど……。装飾の一部に『ガイキャックス家』の文様があった」 「ガイ……何?」 「……封印とか、結界術とかに長けた魔法使いの一族があったんスよ。めっちゃマイナーな。……んで、そいつらが魔物封印する為に置いてたんじゃないか……? っつーこと……で、あってるっすか?」  ラビーリャの説明に補足をするのは、商人の【ピラフ・プリプク】。  よく知ってるね。と、頷くラビーリャ。 「その本の本来の用途はきっと、魔物を頁に封じ込めて無力化すること。ガイキャックス家自体は、人々を守るため、色んな町に結界を張ったり、勇者の手助けをしていた一族。……封印自体は、ずっと放置されていたみたいだけど。……だから、きっと大丈夫だと思うよ」 「でも、本に封印されている状態ってことには変わりはないのよね? 封印が解けた魔物の様子は? 解けて直ぐに人を襲うの?」 「観察を行っていた調査員によれば、封印された状態の魔物が現れる直前……黒いスライムは本、もっと言えば本の頁……が、変形して成った物だそうだ。つまり、頁の1つ1つが何かしらの魔物と考えていいだろうな」 「その本から出てきた魔物は、本に封印されていた魔物ってことになるのよね? ……え? まって、頁に封印されていたってことは」  【マチルダ・アベーユ】が口を開く。始めに現地調査を行った学生によれば、その本はかなり分厚いものだったという。……そうであるならば。 「うん。多分、あと千匹くらいいる……と、思うよ」 「……ッ!?」  ラビーリャの淡々とした言葉。アベーユは思わず、声にならない悲鳴をあげる。 「数匹であれば、問題なく倒せるだろう。封印から覚めたばかりの魔物はあまり強くはなく、封印が半端な魔物も、動けるようになるまで時間がかかるらしい。……無理に攻撃をせず、距離を取ることができれば避けることはそう難しくはないだろう」 「……だから、無暗に破壊しないように。慎重に学園に届けて欲しいな。……万が一魔物が出てきても、学園ならある程度対処できると思う……多分」 「多分……ま、まぁ。保管してくれるというならありがたいが」  思ってもいない提案にニキータは快諾をする。 「うーん、一番手っ取り早いのは、もう一冊本を持ってきて、それを使うこと。それか、その場で封印をし直すことなんだけど。それも難しそうかしら? ラビーリャさんにはできないかしら?」  アベーユの言葉に、ラビーリャは静かに首を横に振る。 「出来ない……と、思うよ。ガイキャックス家の物なら、一族の血を持つ者にしか扱うことができない。そういう風にされているから。……逆に言えば、自然に解けるまでずっと封印は継続されている」  下手に悪用されないように、かな? 彼女は首を傾げた。 「でも、少しの間だけ……学園まで運ぶ間くらいだったら、なんとかできると思う」 ● 「皆、聞いてくれ! ……これから、我々は作戦に入る」  ニキータの透き通るような声が、村に……、いや。かつての、そして未来の戦場へと響き渡った。  ただ今は武器を置き、静かに耳を澄ませる。 ……静かに息を吸い込み、彼女はきわめて冷静に指揮を伝える。 「作戦の目標は、例の本確保! そして、被害無く村を、そしてシュターニャを救うことだ! ……目標物のある地点の危険性は、未だ未知数。調査員の報告によれば、内部には多数の封印されし魔物が多数確認されているとのこと。……洞窟内、そして外部である森内ともに、目覚めるであろう魔物との激戦が予想される。……潜入する第一部隊は当然ながら、包囲を行う他部隊共に油断せず、迎撃に備えろ」  前回の防衛戦よりも、戦いの規模自体は小さいものとなることだろう。  しかし、同時に屋内と屋外の戦闘ともなれば戦場の把握が困難となる。 「武器の貯蔵の確認、地の利の確保……持てる力の全てを発揮しろ。これは、我々の戦いだが、我々だけの戦いではない」  彼女は祈る。この戦いの先に、平穏が再び戻ることを。 「――――これが、村の存続を決める最後の戦いになるだろう。我々が行うべきことはただ、力の限り戦い、そして災厄に抗うことだ。……全てはこの村のために。……そして、愛すべき、我らがシュターニャのためにッ! 剣を振るうのだ!」  彼女は声を荒げ、叫ぶ。  そして、その叫びに応じるように、人々は拳を掲げた。 ● 「……いやー、マジかー……。アイツ、ただの大嘘つき野郎じゃなかったんスねぇ」  傭兵達が去った、簡素な広場。ピラフは数日前のやり取りを思い出す。 「この場にいてくれりゃ、楽なんっすけど……」 「……居もしない奴の事を、考えても仕方がないだろう」  重装備に身を包み込んだ戦士【ガープス・カーペンター】が静かに言葉で制し、立ち上がった。  数年振りに袖を通す鉄鎧は、日の光を浴び、鈍く輝く。 「ま、そうなんっスけど……。いてくれりゃ、封印直してお終いじゃないっすか? ……へいへい、手も動かすッスから……機嫌直してくれませんかねぇ?」  思わず口に出ていた言葉。明らかに不穏を見せる戦士を宥める。 「ほいっと。注文品の回復薬と、ウチの在庫武器がいくつかと……その他もろもろっス。アンタの言うとーりっスね。今は、生きているかも死んでいるかも分からねー奴よか、可愛い後輩のため、頑張るっすかねぇ」 「……あぁ」  静かに闘気を高め、鞘から剣を抜く。  ……あと少しで、全てが終わる。そして、自分たちの役目も終わる。  だからこそ、力の限り手を貸すのだろう。  ――願うはただ一つ、後輩たちの輝かしい未来のみ。
募集! うちのペット自慢! SHUKA GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 なし

公開日 2021-03-05

予約期間 開始 2021-03-06 00:00
締切 2021-03-07 23:59

出発日 2021-03-15

完成予定 2021-03-25

参加人数 2 / 6
 犬派、猫派――。  それは永遠のテーマである。  老若男女、地域や国を問わず。  世界を超えた永遠の命題であり、その争いは未来永劫尽きる事はないだろう。  犬を超えし忠誠はなし。  猫を超えし愛嬌はなし。  さあ語ろう! 語りつくそう!  己の信念の赴くままに。  さあ歌おう! 踊り明かそう!  己の感情の赴くままに。  ビリビリビリビリ……! 「いきなりなにするんですか! ユリさん!」 「それはこっちの台詞よ。あなた、数年後に悶え死にたいわけ?」  購買部の主【ユリ・ネオネ】は無表情の冷静な顔でアルバイトの【ニノ・キビス】の目の前で、彼女が持ってきたポスターを真っ二つに引き裂いた。  ユリはあえて感情を押し殺した口調で淡々とニノに訊ねる。 「それで、どうしてこんな犬派と猫派の対立を煽るような謳い文句を書いたのかしら?」 「はい、キャンペーンです! この前からこの購買部で学生に『ペット』を斡旋(あっせん)するようになったじゃないですか。少しずつ学生寮でペットを飼う人も増えてきましたし、ここいらでドドーンと飼い主さん達の声を学園の皆さんに届けようと思いまして」  ニノは敬礼を返す軍人のようなよく通る声ではきはきと答えた。  するとユリの口もとがわずかに緩む。 「それはいい考えね。けれどそもそもウチで斡旋しているのは犬と猫だけではないでしょう? その辺りはどう考えているのかしら?」 「うっ、それはですね……」  ユリの問いかけにニノは言葉を詰まらせてしまった。  購買部では犬や猫の他にも、『グリフィン』や『カウンタッグ』、『フクロウ』などの生き物の斡旋も行っている。 「普通にお茶会を開いてみてはいかがかしら? その中でペットを飼っている学生同士で交流したり、飼っていない生徒にペットと触れ合ってもらったりすればそれで十分でしょう?」 「そうですかねえ? 私としてはもっと派手に盛り上げたいのですが……」  ニノは首をかしげながらも一応は納得を示す。 「中には依頼で同伴させ、活躍させた生徒達もいると聞くわよ? この場で情報共有を行うことで、そういった話が広まるだけでも十分に意義はあると思うのだけれど?」 「それもそうですね! それじゃあ校庭でのお茶会にして、ペットたちとも自由に触れ合えるようにしましょう! そうと決まれば早速新たなポスターを……!」 「紙の無駄遣いだからやめなさい」  元気よく走り出そうとするニノの襟首をユリががっと掴む。 「――グエッ!?」  細身で華奢な腕でありながら、存外力強くニノの首が締まった。 「それは私の方でやっておくわ。ポエムなんてばら撒かれたら購買部の恥晒(さら)しよ」 「ごほっ、ごほっ! ……ユリさん、そこまで言う必要ないじゃないですかあ」  涙目で抗議するニノだが、ユリのアイマスク越しの冷ややかな視線は有無を言わせない。 「あなたが働き者なのは素直に賞賛するわ。けれど今回あなたは会場の設営に専念して。いい? 絶対にポスターは作らないこと。それがあなたの身のためよ」 「な、なんですか!? ポスター作ったら私、死ぬんですか!?」 「ふふっ、きっと死ぬよりも辛い現実が待っているわ」 「ひいっ!?」  からかい半分、本気半分でユリはニノを諫(いさ)める。  そのにこりとした顔がかえって恐ろしい。  こうして学園ではペット同伴のお茶会が開かれるのだった。
Come On A My Mouth! 正木 猫弥 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2021-03-04

予約期間 開始 2021-03-05 00:00
締切 2021-03-06 23:59

出発日 2021-03-14

完成予定 2021-03-24

参加人数 6 / 7
「あ、あった! やっと着いた……!」  長らく歩き回っていたその少女は、ようやく見つけた『目的地』を安堵の眼差しで見つめた。  少女のいる裏路地は、魔法学園『フトゥールム・スクエア』が有する居住区域『レゼント』でも特に猥雑な一角である。  職人や小商人の店舗兼住居が立ち並ぶ中、貴族が住むような『お屋敷』がそびえ立つ光景はかなり奇妙だが、少女は特に気にする様子はない。 「早く、早く行かなきゃ!」  熱に浮かされたような表情で、屋敷の扉に手を伸ばす少女。その指先がノブに触れようとした次の瞬間、少女の腕を何者かが掴んだ。 「こんにちは。この屋敷に何の用かな?」 「コルネ先生!? ど、どうしてここに!?」  少女の前に立ちはだかったのは、フトゥールム・スクエア学園教師【コルネ・ワルフルド】であった。 「そりゃ、ウチの制服を着た子が真っ青な顔でフラフラしてたら声をかけるよ。この屋敷に何かあるの?」 「私はここに行かないといけないんです! 離してください! 離せ!!」 (やっぱり。この子、普通の状態じゃない!)  コルネがこの女子学生を見かけたのは偶然だったが、彼女が手にしている紙切れから異様な気配を感じたのは気のせいではなかったらしい。 「ああああああああああ!! があああああああああああ!!」 「くっ!?」  半狂乱の状態で無理に取り押さえようとすれば、少女の身体に危険が及ぶ。 「ごめん!」 「うっ……?」  コルネが少女の首筋に手刀を叩き込んで気絶させる。すると、瀟洒な佇まいを見せていたはずの屋敷に変化が起きた。 「?“#$%&=~|(‘+*!!!」  目の前の屋敷から発せられる奇妙な『鳴き声』は、窓や扉を激しく開閉し、打ち鳴らす事で生まれた音であった。 (建物内に人気は全く感じない。……じゃあ、この屋敷自体が生きてるって事?)  その推測を裏付けるかのように、コルネを威嚇する騒音がいつまでも続く。 「仕方ない……!」  手出しをしようにも、背中に少女をおぶっている以上無理はできない。声に無念さをにじませながら、断腸の思いでこの場を撤退するコルネであった。 ◆ 「――その子の具合は?」 「検査の結果、特に異状はないようです」 「そっか。よかったよかった☆」  フトゥールム・スクエアの保健室。  コルネから連絡を受けた学園長【メメ・メメル】は、ベッドですやすやと寝息を立てる女子学生の顔を見ながら微笑を浮かべた。 「でも、まさかあの屋敷全体がミミックとは思いませんでした。しかも、獲物をおびき寄せて喰らおうとするなんて……!」  主人の命を忠実に守り、中に入れられた物を保管するために生み出されたのがミミックという存在であるが、長い年月を経る事で暴走するケースがある。  コルネが遭遇した『ミミックハウス』は、記録がわずかしか存在しない希少なモンスターであったのだ。 「レアなモンスターだけど、オレサマのシマでこんな事やるなら許しちゃおけねえな! コルネたんはミミックハウス討伐の課題を出したら、周辺住民の避難の手配をする事。いいね!?」 「はい!」  学園長の指示を受け、コルネがすぐさま行動を開始する。 「そんなに腹が減ってるなら、とっておきをデリバリーしてやるぜ。フトゥールム・スクエアの『フルコース』はと~っても活きが良いから、覚悟しとけよ☆」  コルネを見送った学園長は、そう呟きながら不敵な笑みを浮かべるのであった。
冷酷な天使のパパ 七四六明 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 少し

公開日 2021-03-07

予約期間 開始 2021-03-08 00:00
締切 2021-03-09 23:59

出発日 2021-03-14

完成予定 2021-03-24

参加人数 3 / 6
 自称、学園一忙しい天使【シルフォンス・ファミリア】。  授業に出席している時間より、依頼で学園を留守にしている事の方が多く、学年問わず、彼とは依頼先で会う事が多い。  自称、学園で一、二を争う実戦経験を経て、学内のアークライトの中でもトップクラスの覚醒時間を有する――らしい。  ともかくそんな彼は、今日も依頼に出ていた。  この日はとある山中にて、山賊の討伐依頼である。  洞窟を根城にしていた山賊相手に、容赦なく弦を弾いて矢を放つシルフォンスは、有無も言わさず団員を掃討。戦塵の晴れた洞窟には、虫の息で倒れる山賊と、彼らが近くの村から強奪した金品が転がって、彼らを打ち倒した大量の矢が、あちこちに突き刺さっている。 「数だけだったな……ゴブリンより弱かった」 「怪我はしてませんか? していませんね? しているなら秘匿しないで詳細に話してください。でないと殺しますよ」 「一方的に打ってただけだ、怪我なんかするか」 「本当ですか? 本当ですね?」 「あぁ、本当だよ。ったく……」  怪我の絶えない彼にいつも付いて行く看護師志望のカルマ【クオリア・ナティアラール】は、疑いの目で以てシルフォンスを睨む。  自分がいなければまともに手当てすらせず、次の依頼にすぐ行ってしまうし、今回だって矢の補充役と回復役が必要なのに、自分一人で行こうとするし、とにかく目が離せない。  だからと言って、周囲から恋人同士と思われるのは、大変癪なのだが。 「……? あの扉は何でしょう」 「さぁな。金品はそこに転がってるし、それ以上の何か……前みたいに、炸裂の種でも蓄えてんじゃねぇだろうな」  クオリアの拳撃で以て鍵を破壊し、扉を打ち壊す。  中は暗く、クオリアが自身の魔力でキラキラ石を使って明かりを点けて、シルフォンスが奥へと進む。  特別何も置かれておらず、何も無いと思いながらも奥に進むと、大きな絨毯が一つ丸められて、大きな縄一本で縛られていた。  絨毯は物によっては高級品だと言うが、それもその類なのか、とシルフォンスが考えを巡らせた時、絨毯の中心が突如として動いて、中にいる何者かの存在を知らせて来た。  クオリアにアイコンタクトを送り、懐から取り出したナイフで紐を切り裂く。  絨毯が緩んで広がると、中から薄汚れた服を着せられ、ボサボサの髪のまま長い間放置されていただろう少女が出て来たのだった。 「何だ? 奴隷か?」 「人身売買をしていたと言う情報は、なかったはずですが……」 「とにかく、全員近くの警備隊に引き渡すぞ。このガキも――」  不意に、裾を掴まれる。  力の方向がやや下に向いているのに気付いたシルフォンスが見下ろすと、少女はシルフォンスの裾をしっかり掴んで。 「パパ」  静寂の籠る中、とんでもない爆弾を投げつけて来たのだった。
ミラちゃん家――共同戦線張りますか? K GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-02-26

予約期間 開始 2021-02-27 00:00
締切 2021-02-28 23:59

出発日 2021-03-07

完成予定 2021-03-17

参加人数 4 / 8
●明るい日だまりで  サーブル城の片隅には、ガラス張りの部屋がある。ノアが健在だった頃、サンルームとして使われていたものだ。  次第次第寒さも和らいできた昨今、天気のいい日には【赤猫】も取り巻きたちも暖炉の部屋からそちらへ移動し、惰眠をむさぼっている。パチパチ燃える火の暖かさもいいが、太陽の温もりとなるとこれはまた格別だからだ。  長い年月放置されたガラスはすっかり曇り、向こう側を見通すことも出来なくなっているが、光線と暖かさを得る分には全く問題ない。  あちこちぶつけ倒しながら運んできたソファーに寝そべり、赤猫はぐるぐる喉を鳴らす。手が届く場所に、地下のワインセラーから運んできたワインを山積みにして。 「――黒犬と人間は、指輪を探してるんだってさ。無駄なことよねえ。本で呪いの解き方を見たとして、読んだとして、まともに思い出せるわけがない――何しろ本自体に呪いがかかってんだから――」  うだうだ仲間に話しかけながら、時折耳をすます。城の奥から発している物音を聞き取るために。その物音は、【ラインフラウ】が立てているものだ。彼女は現在、呪いが行われた場所について詳細を調べているのである。  ひとまず赤猫はラインフラウが城の中で動き回ることを容認している。彼女が提案してきた『呪いの転移』という話に、一定の説得力を感じたからだ。  『解除』とは呪いそのものに手を突っ込むことを意味する。その場合、自分にとって有害な作用が引き起こされる懸念がある。しかし『転移』となれば話は別だ。呪い自体はそのままによそへ動かすだけということだから。  試みがうまくいってもいかなくても、自分はさほど損をしない。それはとても魅力的なことだ。引き受けた相手はただではすむまいが、それは知ったことではない。  といって赤猫は、ラインフラウを信用しているわけではない。利用出来るなら利用しようとしているだけだ。こちらの不利益になるようなことをするのなら引き裂いてやろうと、同時に考えてもいる。 ●会談の前の意見交換  【カサンドラ】は【トーマス・マン】【トマシーナ・マン】を除く施設関係者を前に、こう言った。 「――ノアの指輪の情報は、黒犬に与えます。それがあれば呪いを解くことが出来るかもしれないということも教えます。加えてこう言うつもりです。私たちはこれから指輪を探すけれども、あなたもそれに協力してくれないだろうかと」  本当なら指輪は、自分たちだけで独自に探し確保する方が望ましい。黒犬たちの危険性を考慮するなら。だけどそれは到底出来ないだろう、とカサンドラは続ける。  ノアが指輪を持っていたのは、昔も昔、大昔の話である。本同様、城のどこかに隠されているならいいが、それ以外の場所に行ってしまっている可能性も、十二分に考えられる。  世界はとてつもなく広い。そこから小さな指輪一個を捜し出すなど、雲をつかむような話ではある。ひょっとしたら大海原、千尋の底に沈んでしまっているなんて顛末さえあり得なくないのだ――万一そうなっていたとしたら、完全にお手上げである。 「私もこの先、どこまでちゃんと呪いの解除法を思い出せるか分かりませんが……指輪が全てのカギを握っている以上、まず第一にそれを確保しないことには、どうにも……」  物思いに沈んだ調子で、カサンドラは話し終えた。  【アマル・カネグラ】が手を挙げ、【ドリャエモン】に尋ねる。 「ドリャエモン先生、指輪の場所ですけど、精霊たちに聞いたらなんとかなりませんか? 僕らよりずっと長く生きているんだから、指輪のことも知っているひともいるかも」  ドリャエモンは静かに首を振った。 「精霊は、わしらと同じ目で世界を見てはおられぬ。そう言った瑣末事は最初から認知されておるまいて」 「ええー。瑣末事なんですか、これ。結構大きい問題だと思うんですけど」 「わしらにとってはな。しかし、精霊にとってはそうではない」  【ラビーリャ・シェムエリヤ】が言った。 「……なんにしても、指輪は早く見つけた方がいいね。呪いを解いてやる云々は別としても、それだけの大きな力を持ったもの、野放しにしておくのは危険だと思う……アマル、出入りの美術商にこの指輪のこと、聞いていたそうだね?」 「はい」 「何か情報は得られた?」  アマルは残念そうな顔で首を振る。 「いいえ。今のところは。そういった指輪が出回っているっていう話もとんと聞かないみたいで」  ラビーリャは安堵の息を漏らした。人から人の手に渡っていないのなら、まだましだと思われたのだ。無関係の人間がよからぬとばっちりを受けないためには。  ドリャエモンが太い首をねじり、窓の外を見る。今日はいい天気だ。春の先触れである強風が吹いているが。 「しかし……赤猫の話についてはどうするかの」  先に生徒達が【セム・ボルジア】と会談しかなりの情報を得てきている。その中には、『呪いが複雑で解除が容易ではない』『赤猫はそれを知っているから、呪いの解除に危険性を感じている』『だから呪いを解除しようとしている黒犬を煙たがっている』というものが含まれている。  それらを黒犬へ伝えるべきかどうか。  カサンドラは考えた末、NOの立場を示した。 「そもそも黒犬が知りたいと思っている情報ではないでしょうし」  アマルも彼女同様、知らせる必要なしと見なす。 「赤猫の名前を出すとより興奮するだけなんじゃないかとも思えます。何しろ仲が悪いですから」  ドリャエモンはそれらに対し、ちょっと違う意見を出した。 「そうではあろうが呪いの解明を進めて行く以上、この先全く赤猫と関わらずにおれる保障はない……一言二言くらい、向こうが何を考えているのか教えておいた方がよくないかと思うのじゃが」 「でも先生、そういうことしたら、黒犬が『なんだと!』とか言ってまた城へ突入して大ゲンカって可能性ないでしょうか。なにしろ怒りっぽいし」  そこでラビーリャが口を開いた。私は黒犬も赤猫も直には知らないから、もしかしたら的外れなことを言ってるかもしれないけど、と念を押して。 「……その判断は留保ってことでいいんじゃないかな。黒犬が呪いの効果のことでウソをついていないと確認出来たのなら、伝える。さもなくば、伝えない。ケンカにせよなんにせよ赤猫と接触させることは、余計な情報を与えることになりかねないから、あまりよくないと思うよ……」 ●呪いの話をしよう 【黒犬】は期待していた。新しく情報が手に入ることについて。  子分たちを引き連れて、アジトからグラヌーゼへと移動する。  会談の場所は第一回と同じく、グラヌーゼにある『いのちの花園』の西方。どこに所属しているとも言い難い空白地帯に隣接する場所。  最初の時と違い雨は降っていない。空を覆う雲もほとんどない――実は昨晩は降っていたのだが、朝方になって急に止んでしまったのだ。  春が近づいてきている証しとして、水仙やスミレ、タンポポといった野の花が咲き初めている。淡い温もりを宿す風がその上を撫でて行く。  そのどれもこれもが、黒犬に気を揉ませる。 (ちっ。よりにもよって晴れやがって。赤猫が浮かれ出てきたらどうしてくれる)  恨めしげに空を眺め、遠吠え。手下どもによくよくこう言い付ける。 「いいか、猫の匂いがしたら真っ先に知らせろ。吠えろ。噛め。追い払え。気を抜くなよ」  指定場所に近づいたところで、遠目に相手を確認する。  カサンドラは……ちゃんと来ている。トーマスもいる。  トーマスは何か絵を持っている。 「あ、黒犬!」  手を振ってトーマスは、その絵を見せてきた。  ノアの男女が描かれたものだ。例の、自分が取ってきた絵と瓜二つ。 「なんだ、これは」  近づいて不審そうに尋ねる超大型マスチフに、意気揚々と説明を始める。 「黒犬が送ってくれた絵の複製だよ。僕が描いたんだ。あのね、この絵の中に、黒犬の呪いを解くものが描き込まれてることが分かったんだよ」
魔王たる者、威厳あるべし るう GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 ほんの少し

公開日 2021-02-23

予約期間 開始 2021-02-24 00:00
締切 2021-02-25 23:59

出発日 2021-03-05

完成予定 2021-03-15

参加人数 3 / 8
 その部屋は、闇の帳に包まれていた。  コオオと冷酷な風の音が鳴り響く。辺りを照らすのは両の壁に整然と並ぶ、紅き蝋燭の光のみ。  そんな中、ひとりの痩せこけて肌色の悪い、しかし眼光を鋭くぎらつかせたマント姿の男が、講堂の壇上に姿を表した。それから集まる者たちを睥睨し、それから重々しく、ゆっくりと口を開く。 「此度は、よくぞ我が元に参った」  男の唇の端は仄かに吊り上がる。誰の目にも彼が、これから起こるだろう出来事に期待を寄せていることが見て取れたであろう。  期待を裏切ろうという者は……恐らくは、この場にはおらぬに違いない。その場合に自分の身に何が起こるかを、この場に集う者たちは皆知っているからだ……すなわち、壇上の人物──学園教師【ディクタトール・クルエントゥス】の講義『幹部登場演出学』の単位を落としてしまうかもしれぬのだ!  そんなわけで今日のフトゥールム・スクエアでは、『幹部登場演出学』の期末試験が行なわれることになっていた。  この講義は魔王・覇王コースの生徒に向けた、いかに第一印象の段階で大物感や油断ならなさを演出するかを学ぶためのものである。敵味方に魔王や覇王としての格の違いを見せつけることができれば、不要な争いを避けることができる……自身を信じて付き従ってくれる部下たちを無益に失うことは魔王・覇王にとって避けるべきことであり、それにはこのような『戦わずして勝つ』手段が有益なのだ。  もっともこの講義、受講自体は他のコース生にも開かれている。クルエントゥス先生は常々こう語る。 「どのような形であれ信念を貫いた者は、望むと望まざるとに関わらず、必ず信奉者を集めるものだ。我が校の生徒諸君であれば、どのコースの生徒であれ、どこかに魔王・覇王としての資質が眠っていよう……」  さて、本試験は受講生──つまり君たちだ──による実演を、魔王・覇王コースの先生方が採点するという実技試験形式で行なわれることになっている。  受講生は幾つかのグループに分かれ、各グループの受講生は自分らしい登場演出をしながら全員円卓に着く。他者に存在感を掻き消されてはならない。かといって、逆に他者の存在感を奪いすぎてもいけない……他者の上に君臨しながらも、部下も立てるのが魔王・覇王たる者の責務であろうから。  はたして、君たちは恐るべき魔王・覇王になれるのか?  今君たちにできる限りの登場演出で、先生方を戦慄させるのだ!
開設! フトゥールム・スクエア広報館 こんごう GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2021-02-13

予約期間 開始 2021-02-14 00:00
締切 2021-02-15 23:59

出発日 2021-02-24

完成予定 2021-03-06

参加人数 6 / 6
『フトゥールム・スクエア』は、来るべき魔王復活に備え設立された勇者養成の場であることは、周知の事実だが、平和な時代が長く続いているということもあり、学園の存在意義が、一般の人々に正しく認識されているとは言い難い状況である。  普段から様々な民生協力を行っているおかげで、学園への印象は概ね良好と言えるが、人々の多くの認識は、どちらかというと、自分達では解決できない厄介事を解決してくれる冒険者などに近いものがある。  人々の役に立つという点では、間違いではないのだが、学園の本質は、あくまで魔王復活に対する最後の砦だ。 「というわけで、一般の人々に広告する意味も含めて、この度、学園の敷地内に広報館を設立することになったんだ。ついては、広報館に展示する資料について、キミ達に意見を出し合ってほしいんだ」  【コルネ・ワルフルド】が、職員会議で決まった内容を生徒達に告げた。  最初は教員が相談のうえで決めようとしていたのだが、学園長【メメ・メメル】の『学園の主役はオレサマ……ではなくて、あくまで生徒達であるからして、生徒諸君に展示物を考えてもらうのだ!』という鶴の一声で、学生達に一任することになったらしい。  学生達の反応は、余計な事をと思う者が半分、メメルにしては、比較的まともだと思う者が半分といったところだ。 「学園長の意見にも一理あるね。学園の主役がキミ達であることは事実だし、勇者は戦う力だけじゃなく、自身の正当性を主張して、人々の協力を得るための広報力だって必要だからね」  若干生々しい話だった。 「いちおう、学園長の考えるコンセプトを伝えるだけ伝えるよ」  コルネは、ごほんと咳払いをした。 「『こーほーかんのコンセプトは、単純明快だ。見て、聞いて、触って、感じて、戦って! 勇者の学園を知ろう!』……だそうだよ」  なにも、口調まで真似する必要は無いのにと、学生達は思った。 「最後の『戦う』っていうのは、何ですか……?」  学生の一人が、至極もっともな質問を投げかける。 「あー、そんなに気にしなくていいと思うよ。たぶん、身体を動かすアトラクション的な何かがあると良いとか、そういうことじゃないかな」  答えるコルネは、曖昧に頬を掻いた。  そもそも、広報館にそんなアトラクション要素が必要なのだろうか。 「ま、そんなわけで! みんなで知恵を出しあって、展示物の内容を決めてもらいたいんだ。頼んだよ!」
月下戦陣 七四六明 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2021-02-11

予約期間 開始 2021-02-12 00:00
締切 2021-02-13 23:59

出発日 2021-02-21

完成予定 2021-03-03

参加人数 4 / 4
「よし! 今年もやっちゃおうかぁ? 実力テェスト♪」  と言うフトゥールム・スクエア学園長【メメ・メメル】の一言により、新入生歓迎大歓迎実力テストの開催が決定された。  筆記、実技、実戦の三つの試験にて、新入生らの実力を測る学園長から新入生への激励でもある高難易度試験。  特に実戦試験では、今に持ちうる力のすべてを試せる機会とあって、新入生らは緊張と武者震いとで震えながら、不安と期待を込めて準備を始める。  教師や先輩らも、試験に向けての準備を着々と始めていた。 「はぁあ」 「何だ? そのわざとらしいくらいに大きな溜息は」  実戦試験会場の一つである、学園近くにある森の古城。  かつて試験管として、その前には受ける側として、同じ場所で刀を振った【白尾・刃】(しらお じん)のつく深い溜息が気になって、【黒崎・華凜】(くろさき かりん)は事前調査をしていた手を止める。  試験会場として使うのに安全か否かを調べるのが今の二人の仕事だが、刃はまったくと言っていいほど手が動いていない様だった。 「わざとちゃう。深々ぁと悩んでるのんやぁ」 「何を」 「……今年のチョコゴーレムイベント、中止やねんて」 「何を言い出すのかと思えば……」  呆れて言葉が出てこない。今度は華凜から、深々と溜息が漏れた。 「仕方ないだろう。作り手が当日不在なのだから。私としては、学内が甘ったるい匂いでいっぱいにならず、安堵すらしているが?」 「この時期のチョコ言うんは、男にとっちゃあ意味深ぁいものがあんのよ。例え義理でもお遊びでも、貰えるんやったら貰っときたいやん?」 「まったく……では私が例年の倍のチョコをくれてやる。それで良いだろう?」 「――それ、ホンマ?」 「あぁ、約束してやる。約束してやるから、とっとと作業に戻れ」  と言うと、ニンマリ笑った刃は華凜の耳に自身の口を近づけ、めっちゃ好き、と囁きを残して、浮かれきった足取りで調査に向かって行った。  馬鹿馬鹿しいくらいに単純に思えながら、同時に可愛らしく見えてしまうのだから、自分も馬鹿だなと考えつつ、華凜も作業に戻る。  幾度か修繕はしているものの、元々古びた城だ。生徒らが奮闘するより前に倒壊などしては、大怪我に繋がりかねない。  故に念入りに、修繕した方がいい箇所がないか、新たに倒壊している場所がないか確認していく。と、城を囲う森の中、華凜は違和感に気付き、目を凝らして覗き込んでみた。  足跡。  別に、足跡自体は珍しくも何ともない。ここを修行の場所としている生徒くらい、何人もいるだろうし、実際、刃も何度か利用している事を知っている。  ただし、足跡が魔物の物となれば、話は別だ。 「――!」  背後から襲い掛かってきた敵の気配に気付き、高々と跳躍。木を足場に敵目掛けて飛び込み、着地と同時に斬り払う。  短い悲鳴を上げて息絶えた外敵を確認した華凜は、すぐさま刃に報告しようと振り返って、言葉と共に息を呑んだ。  ハイゴブリン。アーラブル。リザードマン。  種族も生息地域も違う魔物が、あろうことか群れを作り、自分を取り囲んでいる。  明らかに統率された動き。だがハイゴブリンやアーラブルならまだしも、知能の高いリザードマンまで従えているとなると、異常事態以外の何物でもない。 「主導者は誰だ! 何処にいる!」  反響する声は、相手に届いているようだった。  ただし声ではなく、返ってきたのは音だった。  単調な音ではない。楽器での演奏だ。それも一つだけではなく、管楽器から弦楽器、鍵盤まで、まるで小規模のオーケストラ。  聞いていて不快な感覚はしないが、危機感を煽られている感覚はある。  何せ演奏を聞いた魔物達が一斉に吠え、華凜目掛けて石の剣や斧を振りかぶり、襲い掛かってきたのだから。 「――エア・レイ!!!」  横から一直線に駆け抜けた突風が、目の前の魔物らを一蹴する。  直後目の前に飛び降りてきた刃は刀を振り払い、足下の落ち葉を舞い上げて無言で威嚇した。 「自分ら……寄って集うて俺の女に、何しよとしとるん? なぁ、己ら、なぁ!」 「刃! 落ち着け! ……だが、異常事態だ。信号を上げる。それまで持ち堪えてくれるか」 「当たり前や。全員叩き斬ったる……ん?」  禍々しい雰囲気と共に這い出てくる。  地獄の住人を模して作ったとされる魔物が、大目玉を見開き、怒号を轟かせて現れた。 「オオメダマまで出て来たん? えぇよぉ? 全員叩き斬ったる事には、変わらんもんなぁ」  真円の満月が光る空に、白い煙を上げて信号弾が打ち上がる。  窓辺に腰を据えて酒を飲んでいた【紫波・璃桜】(しば りおう)の下に、【灰原・焔】(はいばら ほむら)が木製の義足を鳴らしながら駆けつけてきた。 「姐さん! あの信号弾……しかも、あの古城には今!」 「えぇ。何か、嫌な気配がするわね。学園長も把握しているでしょう。私とあんただけじゃあ足りないかも知れない。学園長に呼び掛けて、応援を頼みましょう。焔、走って頂戴。緊急だから何人集まるかわかんないけど、集まったらすぐに向かうわよ」 「あ、あぁ!」  走って行く焔の義足の足音が、酒を飲んだ頭に響く。  泥酔まではしてないものの、酒の入った状態。ベストコンディションとは言い難い。焔は言わずもがな。夜更けの緊急招集にどれだけ集まるかわからないが、報酬は学園長が弾んでくれる。自分は出来る限り体に残る酒を抜きつつ、数が集まる事を祈りながら備えるだけだ。 「無事でいなさいよ、兄弟弟子」  乱れた髪を振り払いながら、ヲンナは自室に待機させているシルキーの下へと早足で向かって行った――。
お猿温泉街を救え! SHUKA GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-02-14

予約期間 開始 2021-02-15 00:00
締切 2021-02-16 23:59

出発日 2021-02-22

完成予定 2021-03-04

参加人数 3 / 8
 学園から数日かかる場所にあるとある温泉街。  そこの観光名物はなんといっても『お猿』であった。  地元では『ピンポンモンキー』と呼ばれる魔物で、他の地域では手先が器用で畑に仕掛けた罠を潜り抜けて農作物を荒らす嫌われ者たちだ。  そんな彼らも、この温泉街では立派な観光名物の一つとなっている。  街の傍にある小さな山は豊かな森が広がり、果実や葉っぱなど食料が十分にあること――。  観光客による餌付けで彼らが人間慣れしていること――。  そして源泉で鳥の卵をゆでたり、人と共に温泉に入る彼らがとても愛らしいこと――。  そんな彼らは老若男女に愛されていた。  しかしそんなピンポンモンキーたちの様子がここのところおかしい。  普段なら夜になると山にある住処へと帰っていく彼らが全く居なくなる気配がない。  なにかを恐れるように空き家や建物の隙間に身を寄せて小さくなって固まっている。  そのせいか皆どこか気が立っていて、観光客の中には噛みつかれたりひっかかれたりという被害を受けた者も現れ始めた。    行商人や冒険者からの噂では、山につがいの『大きな鳥』の姿を見かけるようになったという。  木に残された爪跡から恐らくは『鉤爪(かぎづめ)ワシ』なのではないかと。  鋭い急降下で獲物の肉を鋭くえぐり、そのままかっ攫(さら)う森のハンター。  警戒心が強く、敵わないと思った相手の前には決して姿を見せない。  どうやら二羽の鉤爪ワシは新たに山を根城と定めたらしい。    鉤爪ワシはピンポンモンキーだけでなく、人間の子供まで喰らう凶暴な肉食の魔物である。  時には自分の図体以上の大きさの獲物すら運んでしまう強靭な飛行能力を持ち、狩りをして生活をする空飛ぶ猛獣と呼ばれている。  繁殖期になると餌が豊富な土地を求めて移動する習性があり、今回はこの温泉街の山が狙われたのだろう。  今のところはまだ大きな被害こそ出ていないものの、もしこのまま放置していれば温泉街に逃げこんだピンポンモンキーを追って鉤爪ワシまでもが温泉街に現れ、大きな被害が出てしまう。  繁殖で数が増えれば壊滅的な被害を受けるかもしれない。    このままではこの街の観光業が成り立たなくなってしまう。  こうして温泉街の者達は学園に調査と鉤爪ワシの退治を依頼することとなるのだった。
ミラちゃん家――探し物は何ですか K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-02-11

予約期間 開始 2021-02-12 00:00
締切 2021-02-13 23:59

出発日 2021-02-20

完成予定 2021-03-02

参加人数 6 / 8
●これで全部ではない  【カサンドラ】は幻惑の森から持ち帰った『本』の一部を読んでいた。  微熱が続いているせいか頭が重い。それでも考える。  どうも引っかかるのだ。持ち帰った文書に呪いの『解除方法』が、何も書かれていないことが。  そんなことないはずなのに。絶対。 (……それを見たはず……私は……)  確信はある。けど、思い出せない。その内容について。   ●ニアミス  カネグラ家専属の美術商【ルサールカ】は街角のカフェにいた。  足元には梱包されたキャンバスがある――カサンドラから預けられた絵を持ち帰る途中なのだ。  彼は、思い出している。この絵を受け取りに保護施設へ行った際、【アマル・カネグラ】と交わした会話について。 『――ということでさ、黒犬の呪いを解くには指輪がいるらしいんだ。ルサールカ、これまで色んな美術品見てきてるでしょ? その中にさ、そんないわくがついたもの、なかった? じゃなかったら、そういうものが出品されたとかいう噂、ちらっとでもどこかで聞いたことない?』 『そうですねえ……今のところ心当たりがありません。でも、新しく何か情報が入ってきたなら、すぐお知らせしますよ、アマル坊ちゃん』  指輪が美術品として大いに価値があるものなら、黙って自分の懐に入れよう。  そのように目論んでいる彼の前に、コーヒーが運ばれてきた。  優雅な身ごなしで飲む。  直後、顔を引き締める。  前触れもなく相席に座ってきたのだ。自分と同じ髪と目の色をしたローレライの女が。  女は蜜のような微笑を浮かべ、皮肉を言ってきた。 「ルサールカ、相変わらず美術品にしか興味がないみたいね。それで人生楽しい?」  ルサールカも同じく皮肉で返す。 「ええ。僭越ながら大変楽しゅうございますよラインフラウ。あなたも相変わらず恋だの愛だのにうつつを抜かしてるんですかね。飽きませんかそろそろ」 「いいえ、飽きないわ。今、すごーく好きな人がいるのよ。これまでで一番じゃないかしらっていうくらい好きな人。でもその人、どうにもつれないのよー」 「ああそうですか。それはようございました。では私は忙しいのでこれで」  ルサールカはそそくさ席を立った。  だが【ラインフラウ】の次の台詞に引き止められる。 「あなたある程度聞いているんでしょ、サーブル城の案件について。私を手伝う気はない? うまくいけば、ノアが城に残している美術品、内緒で幾つかあげるわよ」  ルサールカは迷った。しかし結局こう言った。 「辞退しますよ、ラインフラウ」  彼女が欲しい対象を手に入れるためならどんな嘘でもつくしなんでもする人間だということを、知りすぎていたから。似たもの同士な肉親として。 ●復活である  【赤猫】に負わされた傷がようやくちゃんと癒えた【黒犬】は、本格的に活動を再開した。  気になるのはカサンドラの動向だ。あの絵を届けてから一カ月以上たつというのに、一つも連絡がない。  何か分かったのか何も分かっていないのか、それだけでも知らせてくるべきだろう。時間はたっぷりあったのだから。 (まさか、またしらばっくれる気じゃないだろうな)  疑いを膨らませた黒犬は唸り声を上げた。  手下たちはそれを聞いて身を縮める。しかし彼から離れようとはしない。しょっちゅう炎を噴いているボスの傍にいると暖かいから――機嫌が悪いときあんまり近づき過ぎると、焦がされてしまう危険性があるが。  それはともかく黒犬は手下数匹を呼び付け、以下の命令を下した。 「おい、施設の様子を見てこい。伝令をいったんここに戻らせろ」  部下たちは威勢よく吠え、意気揚々駆けて行った。  それを見届けた黒犬は人間の姿に化け『あの絵はどうなった。何か思い出したならさっさと知らせろ』と催促の手紙を書いた。  その後アジトの周辺をぐるぐる巡り、匂いを嗅ぎ回る。音を聞きまわる。赤猫が来てないかどうか確認するために。  奴だけは絶対この件に関わらせるまいと、黒犬は強く思っていた。酔っ払いの気まぐれで面白半分に、全てが水の泡になるようなことをされかねないからと。  ……ここだけの話、彼はシャパリュという種族がそもそも気に食わない。ノアに飼われていた時からずっと(この点赤猫も全く一緒だが)。 (やあ雨が降ったの風が吹いたの寒いだのごたくをこねては、指示された作戦を無視し得手勝手にふるまう。連携行動をしなくてはいけない時に独断撤退やすっぽかしをやらかす。そのせいで勇者どもの攻撃を全部俺たちが引き受けるはめになる――何度そういうやらかしがあったことか)  しかも黒犬が記憶する限り、彼らはその責任を取った試しがなかった。ごろごろ喉を鳴らし主人の足元に体をこすりつけ、あれやこれや言い抜けをし、なんだかんだうやむやにしてしまうのだ。いつもいつもいつも……。 「うおおおお!」  思い出し怒りで黒犬が吠えた。  振動で遠い山の頂にある雪が、雪崩となって崩れ落ちた。 ●催促 (どうしたもんかのお……)  【ドリャエモン】は太い溜息をついた。  黒犬から施設に、また手紙が送られてきたのだ。内容は『この間の絵の件について、さっさと連絡をよこせ』というもの。 (カサンドラは、第二回の会談を行うという返事を出すようじゃが)  呪いの内容についてドリャエモンは、大体周知している。生徒達が話してくれたので。 (悩ましいのは黒犬が、呪いによって自分の力が抑制されていることを知っているのかいないのかという点じゃのお)  この際そこをはっきりさせておきたい、と彼は考える。黒犬が信用できる相手かどうか、呪いを解いていいのかどうか、明確な判断が下せるだろうから。 (だが……もし本当に黒犬が呪いのからくりを知らなかった場合……余計な知識を与えることになりはせぬかのう)  幸い黒犬は単純なたちらしいが、それでもかなりうまく話をもって行かなければ、こちらの意図に気づかれる可能性がある。 (そこは避けねばのう……)  加えて気掛かりなのは当のカサンドラが、幻惑の森へ行って以来体調が思わしくないということだ。  ノアの呪いにあてられたのかどうか、微熱がよく出ている。施設に住まう精霊【ミラ様】がそのつど治癒してくれているので、回復はしているのだが、あまり食も進まない様子。 (なんぞ体によいものを食べさせてやった方がいいかのう……故郷で食べていたようなものがよかろうか)  今日は気分がよいのか、カサンドラは起きていた。  【トーマス・マン】に絵の指導をしている。  課題は模写。例のノアの絵を真似して描くのだ。  黒犬が持ってきたものだからということで、トーマスは大いに熱を入れ、筆を走らせている。 「トーマス、全体を見て。一箇所ばかり続けて描いているとバランスが崩れるわ」 「はい」  彼は黒犬との二回目の会談が行われるということに、安堵感を覚えていた。カサンドラはいつ黒犬に『呪い』について分かったことを教えるのだろうと、やきもきしていただけに。
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