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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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Miroir ―Nuageux 機百 GM

ジャンル サスペンス

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-09-17

予約期間 開始 2021-09-18 00:00
締切 2021-09-19 23:59

出発日 2021-09-26

完成予定 2021-10-06

参加人数 2 / 6
●???  彼女は自分の部屋のベッドに腰を掛け、手にした名簿をじっと見つめていた。  名簿に記された一つの名前。それを見つめる彼女は、  積年の再会を歓喜するかのように、  愛しき人を見つめるように、  不倶戴天の仇を睨みつけるかのように、 「やっと見つけたわよ」  口元を釣り上げた。 ●沖の明かり  『メイルストラム』と呼ばれた作戦はとうに過ぎ去り、既に残暑の季節だが、フトゥールム・スクエアの日常が大きく変わることは無かった。  そんなある日の放課後に、褐色肌の女性教師【ヴィミラツィカ・サラヴィシチェ】はやや唐突に説明を始めてきた。 「一つ課題を説明したいのだがその前に、お前達はアルチェに行ったことはあるか?」  確か、観光と漁業で有名な町だ。過去にはアルチェを中心に様々な課題が行われたこともあった筈だ。  ここ暫くはどうだっただろうか。もしかしたら課題や休みで行ったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 「ふむ。そのアルチェでここ最近、ある漁師が夜の沖合に不自然な明かりを見たという話が囁かれていてなァ。と言っても、明かりと言うにはあまりにも小さすぎて、海に詳しい漁師でなければ見逃してしまうような小さなものだったそうだ」  美しいアルチェの海も、沖合となると凶暴な魔物が多く生息しているらしく、稀に漁師が襲われることがあるという。  夜の沖合の不自然な明かりは、そんな魔物によるものなのだろうか? 「最初は誰もがそう思って、漁師同士で注意を呼び掛けていたそうだ。ところが、何も起こらなかったのだ。明かりを目撃した漁師は増えていくというのに、漁師が魔物に襲われる事はなかった。明かりの件と結び付かない例で魔物に襲われたのが片手で数える程度はあったか。不可思議な話だが、明かりについて実害が出ていない以上、漁師達は気味悪がることしかできなかったわけだ」  確かによく分からない話ではある。明確な違和感が存在するというのにずっと何も起きないのでは、却って不自然ではないだろうか。 「そこで、私の部下にちょっとあれこれ調べさせたところ、奇妙なことが判明した。漁師が明かりを見た日のみ、観光地区のとある業者が所有する遊覧船が一隻、夜中にいなくなっているという、なァ?」  それは恐らく偶然ではないのだろう。明かりの正体がこの船だとしたら寧ろ合点がいく。  だが、まだ分からないことが多すぎる。引き続き説明を聞くことにした。 「富裕層向けの真夜中のクルーズと言うのもあるにはあるが、そうだったとしてもやはり明かりが小さすぎると漁師達は言っていた。それに、安易に魔物が出やすい沖合に出るのは自殺行為だ。さてこの遊覧船の持ち主だが、夏にレジャー目的で船を出す中規模な業者だ。然し、去年は今一つ振るわなかったのか、業績は右肩下がり。そして最近、少し変な動きがあるのを確認した。例えば、中からうめき声が聞こえる箱を船に運び入れてたりなァ?」  唐突に気味の悪い展開になった。うめき声が聞こえる箱だなんてどう考えてもまともじゃない。 「さて? ここまで説明すれば、何をすればいいか大体分かるだろう?」  この遊覧船の持ち主の目的や、積み荷が何かを探れ、ということになるのだろう。  それならそれほど難しい課題ではなさそうだ。 「まァそういうことなのだが、ここは一つ、正々堂々を忘れてこそこそと秘密裏に動いてもらいたいのだ」  正々堂々を忘れて、とはどういう言い回しだ。  だが、そのような手段を取らなければならない事情があるということでもある。そうするとそれは何なのだろうか? 「アルチェには領主が統括する司法警察がある。漁師の話を聞きつけて捜査に乗り出したはいいんだが……一部の末端が、例の業者から袖の下を受け取っていることが部下の調査で分かってしまってなァ。いやはや、先立つものが無くては法と正義も名乗り辛かろうが、お前達が派手に動けば、そこら辺も明らかになる可能性があり、翌日はアルチェ中が騒ぎになる。しかも、あそこの上層部はプライドが高い。勇者が絡んだと知ると、後々面倒なことになるのは容易に想像できてしまうのでなァ」  どうやらとんでもないことを聞いてしまったようだ。黙ってはいられない案件ではあるが、然し、逆に黙っていた方がいいこともあると、ヴィミラツィカは言っているのだった。 「話を戻そう。この遊覧船の持ち主は用心棒を雇っているのだが、彼等がアルチェの沖合の魔物を退けていると考えて間違いない。頑張れば倒せないことは無いが、町中でまともに剣を交えれば、確実に騒ぎになって警察がやってくるだろう」  近づく上で障害となることは確かだが、騒ぎを起こしてはならない以上、どのように対処したものだろうか。 「周辺の地理だが、港湾に面したところに事務所と、規模の大きな倉庫が隣接している。事務所は8人の従業員が作業を行っており、幾つか小さな部屋があるようだ。倉庫は船の修理場も兼ねておりそこそこ規模はある。事務所より数倍は大きいな。次に遊覧船は倉庫に近い位置に係留されている。遊覧船の規模は20人は載せられる程度で、まァ大きすぎることも小さすぎることもないな。周辺は他の業者の施設で囲まれており、あまり片付いていないのか、所々に様々な大きさの空の木箱が積み重なっているな。また、お前達が着く頃にはそこそこに雨が降っているだろう」  大まかではあるが重要な情報には違いない。周辺の施設や木箱は身を隠すのに使えないだろうか? 「次に用心棒だが、多くて7人程と見ている。あまり素行は良くないが、アルチェの沖の魔物を退ける程度の強さは持っている。彼等の配置だが、基本的に外に出ているのは3人だけ。倉庫周辺に2人、事務所前に1人と言った具合か。決められた時間に事務所内に待機している別の奴と交替しているようだ。そして、夜中に遊覧船を出した時には、5人乗り込んだそうだ。残りの2人は事務所の留守番だ」  警備にあまり隙はなさそうだ。どのようにしてこの傭兵たちを相手にするかがカギとなりそうだ。 「最後に、何をすべきか3つ提示するぞ。1つは事務所内で何かしら証拠を見つける。2つは倉庫内に侵入して積み荷を検める。3つは、夜の遊覧船に乗り込んで直接確かめる。どれか一つでも達成できれば課題は合格としようか」  課題と言うには、何だかコソ泥か探偵のようだ。騒ぎを起こすわけにはいかないとはいえ、何だか腑に落ちない。  不満そうな様子の生徒を見て、ヴィミラツィカはくっくと笑った。 「まァ、黒幕・暗躍コース向けの課題を想定していたのでなァ。戦いは力のみに非ず、知恵や発想力で敵をやり込めるのもまた強さと言うものだぞ」  そう言われると何となく格好良さそうにも聞こえてくる。  この課題を受けようかどうかと悩んでいたところで、ヴィミラツィカはふと何かを思い出し、呟くように言った。 「……そう言えば、アルチェの近海で活動している海賊たちが、ある時期を境に急に鳴りを潜めたらしい。大体、今年に入ってからだろうか。アルチェの司法警察などが動いたわけでもないのになァ」  海賊とは、また急なワードが飛び出してきたものだ。つまり、海賊が今回の課題と関係しているという事なのだろうか? 「悪いがそこまでは分からんよ。まァ何にしても、お前達がこの課題で関わることなどあるまい」  それなら余計なことを呟かないでほしいが、然し何となく嫌な予感はする。注意するに越したことはなさそうだ。
野良犬達と秋の空 K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2021-09-17

予約期間 開始 2021-09-18 00:00
締切 2021-09-19 23:59

出発日 2021-09-26

完成予定 2021-10-06

参加人数 4 / 8
●彼、生存中  短い夏が過ぎ、秋の気配が早くも忍び寄り始めた、グラヌーゼの荒れ野。放牧の季節もそろそろ終わる頃合。  ひょろひょろした木の下に羊飼いが二人いる。  サーブル城を遠目にしながら、世間話をしている。石に腰掛け、ぷかぷかキセルをふかしながら。 「サーブル城にいた魔物が、退治されたらしいな」 「ああ。学園から来た勇者が、やっつけたちゅうことだ」 「入れるようになったちゅうことか?」 「いや、魔物はそいつ以外にもたくさん住み着いとるちゅうことでな。やっぱり近づかん方がええそうだ。ノア一族の呪いなんちゅうのも、あるそうでな」 「そりゃあ恐ろしい話だべなあ……」  城の後ろに広がる森は、端々から黄色に染まっていっている。もうじき赤が追いつき、秋の華やぎを見せることだろう。ほんの短い期間だけど。 「ところでお前、聞いたか。学園がのう、迷い犬を――」  会話の途中で二人の羊飼いは立ち上がった。  牧羊犬たちが騒ぎだしたのだ。 「おい、何か来てるだぞ」 「狐だべか」  けたたましい犬の悲鳴が上がった。吹き上がる別のうなり声と一緒に。  二人は一目散にそちらへ駆けつける。護身用の硬い杖を手にして。  するとそこには、散々噛み付かれ血だらけになった牧羊犬たちと、噛み殺された羊を咥え引きずって行く野犬たちの姿があった。  羊の持ち主である羊飼いは怒った。杖をぶんぶん振り回して、野犬たちに向かって行く。  もう一人の羊飼いもそれに加勢した。  打たれた野犬は悲鳴を上げ逃げ出す。  しかしそこに、すこぶる大きな黒いマスチフが現れた。  そいつは羊の持ち主である羊飼いを突き飛ばし、倒す。襟首を咥え引きずり回す。 「うーわあああ! たたた助けてくれ!」  もう片方の羊飼いが仲間を助けようと、杖で黒犬を滅多打ちした 「この畜生めが! 放さんかい!」  閉口したのか黒犬は口を離し、クルリと向きを変え、逃げ出していく。  足があまりに早いので、羊飼いたちはまるで追いつけない。  で、気づいたら他の野犬たちが、羊を一匹引きずって持って行ってしまっていた。  羊の持ち主である羊飼いはもう、かんかんだ。 「あの野良犬ども、生かしちゃおけねえだ! 集落の皆を集めて山狩りすんべ、一匹残らずぶっ殺してやる!」  もう一人はそれに、まあまあと待ったをかけた。 「さっきおらが言いかけただろ、学園が迷い犬を探してるってよ」  彼は懐からくしゃくしゃになったポスターを取り出した。聞けば、行きつけの小料理屋から貰ってきたものらしい。 「見てみ、ほれ。そっくりだべ?」  なるほどそこに描かれている絵は、先程逃げて行った犬に瓜二つ。  全身真っ黒で、黄色い目をした、屈強そのものといったマスチフ……。  絵の下にはこう書いてある。 『情報提供者には礼金をお出しします。  性質が獰猛で危険な可能性もありますので、見つけたらなるべく近寄らないでください。連絡を下されば、当学園が捕獲いたします。」 ●再会  【黒犬】発見の一報を受けた施設関係者たちは、急いでグラヌーゼの某所へ向かった――【トーマス・マン】もその中にいる。どうしてもと頼み込んで連れて来てもらったのだ。  彼は、会えるものなら黒犬にもう一度会いたいと、ずっと思っていた。たとえ力を失っていても、喋れなくなったとしても、自分のことが分からなくなっていたとしても。  現場に着いてみれば、羊飼い二人が待っていた。  彼らは事細かに羊を捕られた顛末を語った。そして、(羊を捕られた方が)憤懣やる方ない調子で言った。 「いち早く取っ捕まえてくだせえよ。羊を襲うような連中を、放っておくことは出来ねえでな。あんたたちが捕まえられねえなら、山狩りでも何でもして始末するだで」  黒犬はもはやただの犬である。  相変わらず強いが、知恵と武器を使えば、普通の人間でも始末することが可能な存在だ。  トーマスは必死になって、羊飼いたちをなだめた。 「ま、待って。そんなことはしないでください。僕ら絶対にちゃんと捕まえるから」  【アマル・カネグラ】が財布から紙幣の束を出した。 「野犬にとられた羊の代金は、お支払いいたしますんで。ここは一つ全面的に、僕らにお任せください」 ●お久しぶり  荒れ野。  群れを引き連れ移動していた黒犬は、はたと足を止めた。  鼻を空に突き上げくんくん匂いを嗅ぐ。仲間に向け、唸る。  内容を人間言葉に変換すれば、こんな感じだ。 「カギナレナイニンゲン、コッチムカッテル。キヲツケロ」  仲間の犬は同じく犬語で返す。 「キヲツケル」 「ツケル」 「ツケール」  彼らは黒犬が魔物のときからくっついてきている連中だ。  理由はよく分からないが、最近ボスが急に物分かりがよくなり、かつ面倒見も良くなったことを、皆歓迎している。大きくならず、火も噴かなくなったけれど。  人間が近づいてきた。  子供だ。  黒犬が唸って脅すと足を止めたが、しきりと呼びかけている。 「黒犬、僕だよ。トーマスだよ」  その後から、別の人間達が来た。  何かこいつら見たことがあるなあ、と群れの犬たちはぼんやり思う。そして成り行きを見守る。
グルメバトル開催! 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-09-10

予約期間 開始 2021-09-11 00:00
締切 2021-09-12 23:59

出発日 2021-09-19

完成予定 2021-09-29

参加人数 8 / 8
 熱したフライパンに牛脂を落とす。  じゅう、という小気味良い音と共に油が溶け出し、フライパンに広がった所でスライスした玉葱を投入。  じっくり炒めていく。  炒めていく内に水分が飛び、かさが減った所で追加投入。  山盛りになるほどスライスしていた玉葱が、全部フライパンに入れられた。  焦げないよう火加減を注意して、亜麻色になるまでじっくり火を通す。  甘く香ばしい玉葱の匂いと、旨味を予感させる牛の油の香り。 「うん、美味い」  軽く味見をして確認。  ペースト状に近くなるほど、じっくり火を通された玉葱は旨味たっぷりだ。  それを寸胴鍋に放り込み、海鮮出汁をベースにしたブイヨンを入れて混ぜる。  改めて火を通し、各種スパイスに炒めた小麦粉をブレンドした物を入れ、さらに煮込めば出来あがり。 「ほいよ」  炊き立てご飯にカレーを掛けて、手渡す。一口食べれば―― 「美味っ!」  パクパク食べながら、商人である【ガラ・アドム】は、いま食べているカレーを作った料理人【ガストロフ】に言った。 「具は玉葱だけなのに美味いな」  「素材が好いからな」  ガストロフは、ボソク島から取り寄せた玉葱を手に取りながら返す。 「こいつはかなりの代物だ。色んな料理に使えるぜ」 「はー、そういうもんか」  カレーを全部平らげ、ガラは言った。 「こっちとしちゃ、ボソク島の輸出のメインは海産物になると思ってたんだが、やっぱ料理人だと目の付け所が違うな」  少し前、木の霊玉を宿す男の子が住んでいる島、ボソク島にガラとガストロフは訪れていた。  それは、島の活性化を手伝う学園生達の頑張りを聞きつけた、卒業生であるガラが、在校生たちの手助けになるべく、同じ卒業生であるガストロフ達を誘ったのだ。  当初は、島を観光地として盛り上げることを考えていたガラだが、島に同行した学園生の1人の言葉で方針を変えている。 「『すでに復興から発展にむかってあるきだしてるボソク島』に投資をしたいです」  その言葉を違えることなく、身銭を切った学園生の心意気に、ガラの商人魂に火が付いた。  用意されたお金を担保の形にして債権化し投資家を集め、ボソク島の自立を前提とした商売をスタートさせている。  今、ガストロフが作った『ボソク島カレー』は、そのための一環だ。  ボソク島の活性化のために動いていた学園生の1人が、グルメバトルを企画してくれたので、それに向けてリハーサル中なのだ。 「こいつなら、優勝できるんじゃねぇか?」 「それはどうかな!」  突如、乱入者が現れる。  それはガストロフと同じく料理人、【辰五郎】だった。 「いきなりあらわれてご挨拶じゃねぇか!」  ビシッ! と指さし応えるガストロフ。  なんかノリノリだった。 「俺の料理にケチをつけるたぁ、テメェの料理によほどの自信があるんだな!」 「くはははははっ! 当たり前だ!」  そう言うとスタンバイしていた、綺麗に皿に盛りつけられた料理を差し出す。 「こいつは!」 「食べてみるがいい! アルチェ名物、ジェムフィッシュを使った海鮮カルパッチョよ!」 「なんだと! 秋が旬で獲り辛いジェムフィッシュを手に入れたというのか!」 「そうだっ! アルチェでなければ食べられない逸品よ!」  商品解説してくれる2人。 「さぁ、食べてみろ!」 「食べてやるさ!」  ちゃんと小皿を取り出して、小分けにしてから食べるガストロフ。 「――これは!」  しっかり味わって食べたあと、目を見開く。 「まだ旬ではなく味が乗り切っていない筈だというのにこの美味さ! 程よい食感となるギリギリを見極め切り分けられた身を噛みしめるほどに旨味が口の中に広がっていく。掛かっているソースが味を引き立てているが、それ以外の工夫がある!」 「くくくっ、その通り! 東方の技法である『こぶ締め』を使い、味の深さを演出したのさ!」 「くっ、なんてヤツ。だが、俺にはまだ奥の手がある!」 「なーにー! それは一体!」 「それはこれよ! ――って、あれ?」 「うっわマジ美味ぇ」  奥の手である海鮮アヒージョの瓶詰を、いつの間にか開けていたガラに、カレーライス(おかわり)に乗せて食べられていた。 「いや、ここでお前が食ってどうする」  突っ込むガストロフ。  それに、カレーを食べながらガラは返す。 「良いじゃん本番じゃないし。あ、そっちの海鮮カルパッチョもくれ」  辰五郎の持ってる皿から、ごっそり取って食べる。 「うっわ、こっちも美味ぇな」 「それは良かった」  辰五郎は肩をすくめるようにして返すと、カレーを一口。 「……美味いな。こっちのアヒージョの材料、ボソク島で獲れたヤツか?」  ガストロフが返す。 「ああ。特に海老が好いだろ? 身が肥えてて美味い」  さっきまでのバトル形式のやり取りが嘘だったかのように、気安く声を掛けあう。  先程までの料理バトルは、本番前の練習だ。  今度アルチェで開かれるグルメバトルは対戦形式。  観客の前で作り、審査員に食べて貰い順位を決めるのだ。  しかし、ただ食べるだけでは盛り上がらないので、色々とパフォーマンスをするのがお約束。  料理人も審査員も、大げさなリアクションをとるので、その練習をしていたのだ。  一見するとイロモノに見えるが、作る料理には手を抜いてない。 「カレーをメインにして、付け合せに瓶詰を使ったのは、気軽に持ち帰れる利便性と全国展開考えてだろ? 条件厳しいのに、よくここまでの味出せたな」 「そっちのカルパッチョも大したもんだぜ。旬じゃないのに、よくあそこまで旨味を上げたな」 「ジェムフィッシュは、アルチェの看板のひとつだからな。名を落とす訳にゃいかねぇ」  お互いレシピを交換する2人。  この2人もガラと同じく学園卒業生で同期の仲なので、気心が知れている。 「いやー、やっぱ両方、美味かったな。とはいえ、食べ比べるとガストロフのカレーの方が美味いから、予定通りボソク島での再戦に繋げられるな」  アルチェのグルメバトルでガストロフが勝った後、その雪辱を果たすという形でボソク島でもグルメバトルをする段取りが出来ている。  そのため当日参加する料理人には、事前にお互いの料理を試食して確認してもらっていた。  もっともやらせという訳でなく、全員が手を抜かずに作った料理を、ガストロフは越えなければならなかったのだが、それをクリアしていた。 「ま、盛り上げるためには筋書きもたまには必要だわな」  料理を満喫したガラは、2人に言った。 「当日は盛り上げるために、学園生にも来て貰えるように手配してある。よろしく頼むぜ」  これに応じる2人だった。  それからしばらくして、ひとつの課題が出されました。  内容は、グルメバトルに参加すること。  料理人や審査員、あるいは裏方として参加して欲しいとの事です。  ボソク島の自立のためにも手伝って欲しいと頼まれています。  この課題に、アナタ達はどう動きますか?
草原にて相争う 春夏秋冬 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-08-29

予約期間 開始 2021-08-30 00:00
締切 2021-08-31 23:59

出発日 2021-09-07

完成予定 2021-09-17

参加人数 6 / 8
 人気のない荒野で、彼は毒づいていた。 「クソが、アイツら邪魔しやがって」  少し前、自身の分身ともいえる端末を使い人々を襲わせていた彼だが、それを学園生達によって防がれた。 「アイツらも絶対に喰ってやる。喰い残さねぇ」  怨嗟の声をあげる彼に、背後から声が掛けられる。 「随分と、ご機嫌ななめねぇ」  背後を振り返りそこに居たのは、長身の偉丈夫に見える人物だった。  均整のとれた肉体と整った顔立ちをしており、華美な化粧で自身を彩っている。  指には全て豪奢な指輪をつけ、それらとは対照的に、上品で洒落た服装に身を包んでいた。 「笑いに来やがったのか【シメール】」 「そーよぉ、あははははははっ!」 「殺す!」 「やーね~、冗談じゃない。いきり立たないでよぉ、私と貴方の仲じゃない。ねぇ、【テイ】」  笑みを浮かべながら、シメールと呼ばれた彼は、テイと呼んだ彼の肩を抱く。 「援助しに来てあげたのよぉ。嬉しいでしょう?」 「……見返りは何だ」 「話が早くて良いわねぇ。簡単よぉ。ギブ&テイク。助けたげるから、私も助けてぇ」 「何しろってんだ? 色々動いてるみてぇだが」 「そーよぉ、ちょっと聞いてよぉ」  おばちゃんのように、ぱんぱん肩を叩くシメールに、テイは苛立たしげに言った。 「テメェの愚痴なんざ聞きたくねぇんだよ」 「いいじゃない、ちょっとぐらい。最近ねぇ、ボスの命令で苦労したのよぉ」 「……はぁ? 何をだよ?」  嫌々ながらも聞いてしまうので、ちょこちょこシメールの愚痴に付き合わされることになるのだが、テイに自覚は無い。  それをいいことに、シメールは喋り続けた。 「霊玉探したり、学園潰せるような武器を揃えろって言われたからさぁ、色々とやったのよ。巨人の子供捕まえたりとかさぁ。なのに、ボスったらどうしたと思う?」 「知らねぇよ」 「人質にするつもりだった巨人の子供、兵士にするからって連れて行ったのよぉ! きーっ! どんだけ苦労したと思ってんのよぉ!」 「知るか」  逃げようとするテイを、ぐわしっと捕まえ、シメールは言った。 「聞いてよー。連れてかれた巨人の子供は、殺されもしないで自由になっちゃって。その縁で、学園と巨人が交流しちゃうかもしれないのよ~」 「そうかよ。で、その巨人っての、殺すのか?」 「邪魔になりそうなら、それもアリね~。でも今はー、水の霊玉とかー、色々手に入らないか右往左往してんのよぉ」 「だから手伝えってのか? どうせテメェのこった、俺以外にも声かけてんだろ」 「当ったり前じゃない。でも、人手は多い方が良いでしょ? だから手を貸して欲しいのよぉ。報酬は、先払いしたげるわ」  そう言うと、シメールが付けた指輪のひとつが妖しげに光る。  すると、ぞろぞろとゴブリン達が近付いてきた。  全員が一様に、目に焦点が無く、おぼろげな表情をしている。 「喰っていいわよぉ」 「相変わらず便利だな、テメェの能力」  テイはゴブリン達に近付き、テーブルに乗った食事を見るような視線を向けながら言った。 「魔物限定だが、操れるのは便利だな」 「そうでもないわよぉ。操るって言ったって、今の私じゃ、弱い魔物じゃないと無理だしー。操ってる魔物は、まともな意思が無くなっちゃうから、いちいち命令しなくちゃいけなくて手間だもの。貴方みたいに、食べた相手を自由に操れる方が便利で良いわよぉ」 「自由に操る、か……」 「あら、どうしたのぉ?」 「最近端末にした奴を、勝手に解放されてな」  忌々しそうにテイは言った。 「ああ、思い出したらムカついて来た。あのケンタウロス野郎、調子こきやがって。学園生共も許す気はねぇが、あの野郎の一族も食い殺してやる」  全身を隈なく包帯で覆われているテイは、声だけで愉悦を浮かべているのが分かるほどハッキリと、感情をあらわにした。 「ひひっ、決めた。全員食い殺す。学園生共に手を貸す可能性も潰せて一石二鳥だ」  そう言うと、テイは包帯で覆われた体から、無数の蟲を這い出させると、ゴブリン達に襲い掛からせ喰い殺しも自身の端末へと変えていく。 「契約成立ね」  ゴブリンを食らうテイに、シメールは言った。 「ケンタウロスを襲ったら、その後は私に協力して貰うわよ」 「ああ、分かった」  ゴブリン達を食らうのに夢中になり、顔も向けずにおざなりに応えるテイを、『実験動物』を見るような目で見つめるシメールだった。  それから数日後。  アナタ達、学園生達もケンタウロス達に会いに向かっていました。 「もう少ししたら、槍の氏族の生息地に着くぜ」  気安い声を掛けて来たのは、学園卒業生の【ガラ・アドム】。  最近の学園生達の活躍を聞いて、協力を申し出てきた商人だ。  彼は、そのコネクションを使い、ケンタウロス槍の氏族に会う算段を付けてくれた。 「槍の氏族は狩猟生活中心なんだが、酒やら日常品やらを、狩り獲った獲物と交換してるんでね。その伝手で、商人ともコネがあるのよ。それを辿って、今日連れて行くわけだ」   アナタ達が槍の氏族に会いに行くのは、一本の槍を届けるためだ。  それは蠱毒に操られたケンタウロスが遺したもの。  遺品でもあるそれを渡すために、向かっていた。  このまま進めば、アナタ達は槍の氏族とやり取りをすることになりますが、その途中で、襲われることになるでしょう。  相手は、蟲に操られた数十のゴブリン達。  ケンタウロス達は、当然迎え撃つでしょうが、アナタ達はどうしますか?
夏の終わりに、海へ K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 通常

公開日 2021-09-01

予約期間 開始 2021-09-02 00:00
締切 2021-09-03 23:59

出発日 2021-09-10

完成予定 2021-09-20

参加人数 7 / 8
●描きたいもの  【トーマス・マン】は自分が描いた【カサンドラ】の肖像画を見やりながら。考えていた。彼女から譲り受けた画材を使って、今は亡き彼女に、絵の贈り物がしたいと。  何を描くのかはもう決まっている。海だ。海を描くのだ。カサンドラが残して行った絵のうちには、それを描いたものが一枚もないから。  あれだけさまざまな風景画を残した人が、海という画題にだけ関心がなかったとは思えない。きっと、いつか描く気だったのだ。でも、そうする時間も機会がなかったのだ。生きているときも、リバイバルになってからも、ずっと。 「……カサンドラ先生、海を見たこと、あったのかな?」  生きているうちにもっと色々聞いておけばよかったな、とトーマスは悔いる。人間が一人いなくなることについての喪失感を、改めて心に染み入らせながら。  幸いなことに、彼が海を描く機会はすぐに来た。  養父である【ドリャエモン】が、彼とその妹【トマシーナ・マン】にこう言ってきたのだ。 「二人とも、皆と海へ遊びに行かんか? 少し時期は遅れたが、まだ十分泳げるでな」 ●海に来たぞ   白い砂浜。水着姿の若人達が弾ける場所。  引き締まった体に競泳パンツを羽織ったイケメンボイスのイケメン精霊(でも顔はスイカ)、スイカマンは、今年も勝手にライフセーバーとして海岸を見回っていた。 「うむ。この炎天下に無帽でいる迂闊な人はいないようだな。よいことだ」  かつて不審な魔物と間違われたこともある彼は、いまやこの海岸の名物になっている。 「わーい、スイカマンだー」 「スイカマーン、こっち向いてー」  この海岸で学園生徒を相手にひと騒ぎ起こして以降、『見た目がとてもあやしいが、とにかく精霊である』という認識が世間一般に広まったためである。  彼はいまや、老若男女の人気者だ。 「はっはっは、元気だね、お嬢さんたち。私の顔を食べるかい?」 「あ、いえそれは……」 「私たちマンゴージュース飲んでますんで、またの機会に……」  とはいえ彼のこの、自分の頭を食べさせるという習性には、一歩退く相手が多い。 「そうかい。ではまたの機会にね――はっ。あそこに離岸流に攫われそうな子供が! 待っていろ、今助けるからな!」  海浜はお客で賑わっている。  毎年恒例『おいらのカレー・夏季出張店』も、引きも切らぬ大繁盛。  アイス、ジュース、かき氷、焼きそば、焼きもろこし、焼きいか、焼き鳥、フランクフルトにハンバーガー……もろもろの屋台が連なる向こうでは、バーベキューなんかしている一団も。  チャルメラを吹き吹き砂浜を走り回っているのは、ピクシーの【ピク太郎】だ。  彼は『おいらのカレー・夏季出張店』の客引きバイトに勤しんでいるのだ。愛するミミックの【ミミ子】に小銭を貢ぐために。  ファミリー向けの一帯では、生まれて初めて海を見に来た【トマシーナ・マン】が、潮溜まりに見入っている。  そこには、鮮やかな色をした魚の子供たちが泳ぎ回っているのだ。ウミウシもいる、ウニもいる。半透明なエビが鋏を持ち上げ、しきりと威嚇のポーズをとっている。  学園の犬となったタロは岩陰のヤドカリに興味津々。  前足でちょっかいを出しているうちに、ハサミで鼻を挟まれ、大騒ぎとなる運び。  彼女達の見守りとして近くにいた【ラビーリャ・シェムエリヤ】が近づいて、タロからヤドカリを離してやる。  彼女は水着ではなく、いつもの服装――水着と変わらないけど。 「……トマシーナ、見慣れない生き物に触っちゃいけないよ。毒があるかもしれないからね」 「うん」  注意を終えたラビーリャは、砂の城を作り始める。相当に手の込んだのを。  ばっしゃーんと水しぶきが上がった。  【ガブ】【ガオ】【ガル】の3兄弟が、岩場から高飛び込みをやらかしているのだ。 「ぶはー! おい、オレの飛び込みが一番だよな!」 「いーや、オレの方がイカシてた! 何しろ一番飛沫が上がったんだからな!」 「ウソ言えー、飛沫が一番高かったのは俺だよ!」 「けっ、ウソ言ってら!」  兄弟で張り合っているそこに、一際高い水しぶきが上がった――【アマル・カネグラ】が飛び込んできたのだ。水から顔を出した彼は、指を一本掲げ高らかに宣言する。 「僕がいちばーん!」  確かにその通りだったなと、近くで見ていたドリャエモンは思った。  トーマスは喧噪から離れた辺りにいる。  クチバシみたいに突き出た岩場の陰にイーゼルを据える。  目の前に広がるのは、どこまでも青い海。  湾曲した砂浜の向こうに、海を楽しむ人々の姿が小さく見えた。 「あれも、絵に入れたほうがいいよね」  一人ごちて彼は、真っ白なキャンバスへ線を描き込んで行く。
煙の招待状 y GM

ジャンル ロマンス

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2021-08-30

予約期間 開始 2021-08-31 00:00
締切 2021-09-01 23:59

出発日 2021-09-06

完成予定 2021-09-16

参加人数 2 / 4
 グラヌーゼの片隅にひっそりと佇む城跡。  曇り空はどこか悲しく沈み、流れる乾いた風は切なく鳴いて、広がる大地は虚しく荒れている。  しかし、雲一つない美しい月が見える夜。  かつての栄華を懐かしむように、月明かりが淡くぼんやりと照らすその先。  そこには今となってはその名を知る者は少ない城の姿を、稀に見る事ができると言われています。  招待された者によると、その城では夜な夜な絢爛豪華な舞踏会が開かれているようで、招かれた客人たちは様々な想いを胸にその綺羅びやかな手招きに誘われて、一時の夢と幻を楽しむそうです。  故も知らない理想の相手を求めてその手を取り、緩やかにそして瞬く間に過ぎていく時の中で、心に深く刻むのでしょう。  それは夢でも幻でもなかったと。  微睡む視界の中でただ一人の影を目に焼き付けて。  ですが中には人ではなく、魔族の侵攻による戦火に飲まれて失われた知識や芸術品との出会いを求める者もおり、書庫に眠る魔導書や世に出ることの叶わなかった魔道具に、一癖も二癖もある曰く付きの絵画などの、夢と幻の境だからこそ存在する事ができる物もあるという話です。  月が沈むまでの僅かな時であったとしても、非日常との邂逅と想い描いた理想への憧れを求めているのは、もしかするとそれは人ではなく物なのかもしれません。  忘れないでと。  徐々に風化していく城跡に逆らう様に、輝きを求める想いが荒廃したこの地で今も尚、あの美しい月を待ち続けているのでしょうか。
時の奇術師 ~美術館の亜空結界~ SHUKA GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 とても難しい

報酬 多い

公開日 2021-08-24

予約期間 開始 2021-08-25 00:00
締切 2021-08-26 23:59

出発日 2021-09-03

完成予定 2021-09-13

参加人数 4 / 8
「ニル、お兄ちゃん、気を付けて。術が発動するまで魔力を全く感知できなかった。こいつ相当の手練れだよ」 「瑞理が罠を感知し損ねるなんてね。確かに相当厄介な相手だという事は間違いないようだね」  【ニルバルディ・アロンダマークォル】、【稲葉・一矢】、【稲葉・瑞理】の三人は学園の依頼で遺跡調査に向かう道中の森の中、唐突に襲撃を受けた。  三人が見上げる木の枝の上には、頬に歯車の意匠が施された銀色の仮面をつけた男が立っている。 「まんまと俺達を罠に嵌めたつもりだろうがな、すぐにでもぶち抜いて――」  一矢は大剣を振りかぶり、自分たちを囲う結界の壁に叩きつけようとする。  だがそれを振り下ろすことなく、一矢は大きく飛びすさっていた。  瞬きの間もなく、さっきまで木の枝の上にいたはずの仮面の男が死角から彼に斬りかかったためだ。  すかさずニルバルディが援護の攻撃を入れるもすでにそこに仮面の男の姿はなかった。 「今のは転移なのか?」 「多分この空間内だと自由に転移を繰り返せるんだと思う。相当入念に術式を組まないとこんな真似出来ない筈だけれど……ひっ!?」  そう呟く瑞理の足元に一矢が大剣を突き立てた。  今まさに瑞理の足の筋を狙った攻撃を未然に防いだのだ。  仮面の男は地面に埋まっていた。 「考えるのは後だ! とにかくこの空間から脱出するぞ!」 「そうだね。悔しいけどこの空間内じゃ僕達は手も足も出ない。まずは脱出に専念しよう」  ニルバルディは自らへの頭上からの攻撃を双剣でいなしながら応じた。 「瑞理、俺の傍から離れるなよ」 「うん!」  一人仮面の男の動きに反応できない瑞理は一矢に庇われながら結界の壁へと向かう。  そして全力の魔力を乗せた大剣を振りかぶり、結界へと叩きつけた。  結界の壁が大きく揺らぎ、やがて空間が消失する。 「どうだ! これでもう妙な転移はでき……!」  一矢が再び木の上に上がった仮面の男へと振り返った時、 「は、離して!」  瑞理が仮面の男の腕の中に捕らえられているのを見た。 「結界は解いたはず。いつの間に!?」 「気をつけるんだ一矢。転移がなくとも相当な手練れだよ、彼は」  瑞理が必死に仮面の男の腕から逃れようとするも、びくともしない。  枝を斬りおとすべく飛び上がった一矢の大剣と無造作に引き抜かれた仮面の男のレイピアが激突する。  一矢の手に火花と共にまるで鉄塊を叩きつけたかのような重さと衝撃が返ってくる。  その細身の剣から返された手応えは防御魔術ではなく、剣技ですらもない。  単なる純粋な膂力によって押し返されたものだった。  細腕と細い刀身ではあり得ない、壁を叩いたかのような手応え。  すかさず背後の死角から斬りつけた攻撃も空振りする。  そして仮面の男は瑞理を抱えたまま飛び上がっていた。 「瑞理!」 「お兄……!」  こちらへと伸ばされる手。  一矢も必死に手を伸ばすが、それが届く前に瑞理の腕が掻き消える。  仮面の男は懐から箱を取り出すと、その中へと瑞理を吸い込んでしまったのだ。 「……ニル、帰ってたのか」 「ただいま一矢、随分とうなされていたようだけれど大丈夫かい?」 「問題ねえよ。それよりお前はここ数日、どこに出かけてたんだ?」  ニルバルディの気配に目を覚ました一矢はソファから起き上がった。 「手掛かりを掴んだよ。出先で偶然例の仮面の男を見つけてね、あいつの靴裏に上手く針を仕込むことに成功した。行先はエーデルワイス美術館だ」 「エーデルワイス? まさかこの国の王都にある美術館か?」 「そう。まさしくこの国一二を争う美しい美術品が揃ったあの美術館だね。経営者はレートン伯爵だ。美しいものに目がないと有名な人物だね」 「そういや数年前に娘を亡くしてそれからさらに美術品収集にのめり込んだって聞いてるな」  この国では知らない者はいない程に有名過ぎる美術館の名前に一矢は目を白黒させる。 「そこまでは間違いない。ただそこで反応が消えた。こっちの探知に気づいたみたいだ」 「明らかに罠だな。美術館には多くの魔術具も展示されている。展示物兼警備装置になっているってのも有名な話だろ」 「確かに。それらを罠として大規模な魔術を発動されたらと考えるとぞっとしない。そして悪いことに探知に気づくまでは無防備だったと僕は踏んでいる。あの美術館……レートン伯爵と仮面の男が無関係とは思えないね」 「そうなると、あそこがヤツの本拠地、もしかしたら瑞理も……!」  そう言いながら立ち上がる一矢をニルバルディが止める。 「まさかと思うけど、美術品を全部叩き壊すとか言い出さないよね?」 「さすがにんな真似しねえよ。お尋ね者にはなりたくねえからな。それじゃあ瑞理と再会できても一緒に暮らせねえだろ」 「君って人は……」  ニルバルディは呆れて言葉も出ない。  この男は瑞理が結婚してもずっと一緒に暮らすつもりなのだろうか?  こんなだから『剛剣のシスコン番長』だとか言われるのだと本人は気づていないのだろうか?  素で口にする一矢に本気で不安になってくる。 「あの結界をまた使われる可能性もある。あれに捕らわれたら僕らでも防戦一方、まず勝ち目はない」 「本格的に俺達を潰しに来たなら好都合だ。叩き斬るまで」 「まあまあ。策を練らないと間違いなく返り討ちだよ。あの男を生け捕りにする必要があるからね……そこでだ」  ニルバルディは一矢に提案する。 「勇者達の力を借りよう」 「またあいつらの力を借りるのか?」 「君もちゃんと彼らをよく見ておくといい。彼らは紛れもなく『勇者』だよ。僕らの世代とは比べ物にならない程力をつけている。もしかしたら……」  そこまで口にしてニルバルディは口をつぐんだ。  まだ結論を出すには早いだろう。  彼らをもっと見極めないといけない。 「……わかった。手続きは任せる」 「うおっ――なんだい、この重さは!?」  すると一矢はソファの傍らに置かれた皮袋を無造作に投げ寄越した。  その中には銀貨がぎっしりと詰まっている。  金に糸目をつけないという意思表示だろうが、それにしてもこの重みはいかがなものか。 「一体どれだけの魔物を狩ったんだい?」  驚きを通り越して呆れた声を上げるニルバルディ。 「さあな。けど大量の魔物は助かった。これで当面活動資金には困らねえしな。ナソーグって奴には感謝だ」  対して一矢はさして興味無さそうに言う。  先日、霊玉を狙って島を襲撃したという【ナソーグ・ベルジ】。  彼の率いた魔物達の残党が海岸線の村々を襲ったのだ。 「いやいや世界を揺るがす悪の根源だよ、その人。間違っても感謝していい対象じゃないからね」 「いいんだよ、俺はもう勇者じゃねえ。ただの賞金稼ぎなんだからな」  一矢はふんと鼻を鳴らす。  瑞理を追うと決め、学園を中退した。  世界の安定よりも妹の命を選んだ。  その時からもう自分は『勇者』ではなくなったのだ。 「仮面の男は僕達を罠にかけるまで姿を見せないだろうね。けど罠にはまった後じゃ対処は困難、あの時と同じ、いやそれ以上に最悪の結果になりかねない。今回は大規模な術を発動させるための材料が数多い。剣で叩ききれるなんて思わない方がいい」 「とはいえ手をこまねいる訳にもいかねえ。捕らえられる事を前提に作戦を立てて奴の裏をかく。そういう方針でいいんだな?」 「うん。学園の勇者達の動きがカギだ。なんとしても瑞理の手掛かりを得よう」
精霊王らの宴、スピリッツ・フィエスタ 七四六明 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2021-08-27

予約期間 開始 2021-08-28 00:00
締切 2021-08-29 23:59

出発日 2021-09-05

完成予定 2021-09-15

参加人数 4 / 6
 火の精霊王、エンジバ。  水の精霊王、リーベ。  風の精霊王、アリアモーレ。  土の精霊王、プロギュート。  雷の精霊王、イグルラーチ。  闇の精霊王、ボイニテット。  光の精霊王、オールデン。  七柱の精霊王を称えて行なわれる、七年に一度の歌の祭典、スピリッツ・フィエスタ。またの名を、精霊王らの宴。  毎度七人の歌手が選出され、特設のステージにて精霊王に捧げる歌を披露する。  そして今年は、彼女が参加する事となった。若者を中心に人気を博し、魔物からも愛される紫の歌姫。【アメシスト・ティファニー】。  と、言う事は、そう言う事だ。 「こんにちは。アメシスト・ティファニーです。フフ、お久し振りの方も、いますね」 「学園代表、【シルフォンス・ファミリア】だ。今回もあんたの護衛をする事になった。よろしく頼む」 「いいえ、こちらこそ。それで……その子がお話にあった、【アリエッタ】ちゃんですか?」  自称、学園一忙しい天使、シルフォンスが依頼先で拾ったアークライトの少女、アリエッタ。  アメシストの護衛依頼と聞いて自分も行くと言い出して聞かなかった彼女は、小さなドレスワンピースに身を包んだ姿でシルフォンスの脚に抱き着いていた。  話題の歌姫を前にして、緊張しているのだろう。元々人見知りな部分はあるが、今日の彼女は少し照れ恥ずかしそうである。  なかなか前に出れず、チラチラと歌姫を仰ぐ少女の赤く紅潮した視線まで自身のそれを落としたアメシストは手を伸ばし、伸ばした腕の上を、肩を伝ってケットシーが歩み寄って来た。  目の前に下りたケットシーが長い尾をアリエッタの腕に絡めて、アメシストの前に先導する。 「初めまして、可愛いお姫様。私はアメシスト・ティファニー。今日は私達の歌、楽しんで行ってね?」 「……う、うん! アリエッタ! アメシストさん応援する! アリエッタ、アメシストさん大好き! 会えて嬉しい!」 「ありがとう。アメシストも、アリエッタと会えて、嬉しいわ」  超が付くファンなら卒倒必至だろう、力強いハグで抱き寄せられる。  頬を擦りつけられるアリエッタも嬉しそうで、見ていてとても微笑ましく、可愛らしかった。  【コレット・ルティア】はそれこそ目に焼き付けんばかりに見つめて自身も頬を紅潮させて、【クオリア・ナティアラール】も表情こそ変えなかったものの、安堵したような吐息を漏らして、シルフォンスへと視線を向ける。  視線で返したシルフォンスに対し、返事こそしないものの、返答だけは返した。 「アリエッタ。アメシスト様はこれから、祭典の準備をしないといけません。それまで私と、コレットお姉さんと一緒にいましょう」 「ヤぁ。もうちょっとぉ」 「また後で会えます。アメシスト様も、アリエッタに最高の歌を披露しようと頑張って下さるのですから、アリエッタも頑張って待ちましょう?」 「……うん。アリエッタ、頑張って待つ」 「偉いですね、アリエッタ」  無表情は相変わらず一貫しているが、クオリアもだいぶ、アリエッタとの付き合い方がわかって来たらしい。  と言うか、アリエッタもクオリアに対して随分心を許したものだ。最初はシルフォンスだけだったのに、今ではクオリアにも自分から抱き着くのだから、距離が縮まった証拠だろう。 「では、私とアリエッタ。コレットはシルフォンスの用意した関係者席にいますので、皆様はどうかよろしくお願いします」 「俺が用意したとか、余計な事を言うな! さっさと行け!」 「アリエッタ、バイバイ」 「バイバイ! アリエッタ、応援してるからね!」  何度も振り返って、大きく手を振る少女に、稀代の歌姫も満面の笑みで手を振り返す。  姿が見えなくなると嬉しそうに、可愛い娘さんですねと微笑んだ。  彼女は天然だ。わざとではない。だから苛立ちの矛先は、共に護衛依頼へとやって来た自分達へと向いて来る。 「おまえら、今回は道中の護衛と訳が違うからな……歌姫様以外にも六人の歌手。彼女達を目当てに来る大勢の客。それら全員を守るのが俺達の仕事だ。あの歌姫様の出番は奇しくもトップだから、歌声に多くの魔物が引き寄せられるだろう。だから、全員気を引き締めろ。魔物一頭、蟲の一匹も入れない覚悟で迎え撃て!」  建設された会場から、西に数キロ離れた先にある森の奥。妖しく美しく響く旋律があった。  弦。金。木。打。鍵。  楽器を元に作られた魔物達、アポカリプらの五重奏が、森の魔物達を呼び覚ます。  ゴブリン。  ジャバウォック。  キラーバット。  アーラブル。  リザードマン。  ワイバーン。  コカトリス。  土龍。  元の習性も忘却し、呼び起こされた森の魔物達が、五重奏にそれぞれの声を重ねる。合唱とは言い難く、聞き心地の悪い不協和音だったが、不思議と一つの演奏として成立していた。  それこそ五体のアポカリプを操り、多くの魔物を操る演奏を奏でるこの男、【ザンテ・クリエール】にとっては、開幕を告げる序曲として、相応しい楽曲であった。 「嗚呼、嗚呼、嗚呼! 酷いです、悲しいです、辛いです。七年に一度のスピリッツ・フィエスタ。ワタクシ楽曲担当としてお声掛けお待ち申し上げておりましたのに。あの場に集った七人の歌い手を飾れるのは、我が楽団以外にないと言うのに! 嗚呼、悲しいですが仕方ありません。我らを知らぬと言うのなら、知らしめるだけにございます」  ザンテの背後の洞窟から、それは巨体を揺らしながら現れる。  項垂れた顔は黒い髪で見えない。折れ曲がった猫背の巨体を二本の両腕で支え、這って出て来たそれに後ろ足はなく、代わりに大量の鱗が並ぶ蛇のような尾っぽがあって、森の奥の洞窟ではあったが、その姿はラミアないし、人魚のようにも似て見えた。  曰く、人魚の中には歌で人をかどわかし、海に引きずり込む種類がいると言うけれど、その後の事は誰も語らない。が、それは引きずり込んだその先を、長い髪でも覆い隠せない大量の唾液から想像させた。 「さぁ、八人目の歌い手よ。我が楽団の麗しきディーヴァよ。並び立つ七柱の精霊の王に、おまえの歌声を捧げに行き給う! さぁ、奏でよう! 行進の時だ!」  行進とは名ばかりの、おぞましき進軍が始まる。
異世界人と、こんにちは 春夏秋冬 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2021-08-22

予約期間 開始 2021-08-23 00:00
締切 2021-08-24 23:59

出発日 2021-08-31

完成予定 2021-09-10

参加人数 8 / 8
 小都市セントリア。  異世界転移の核となる特異点研究所を中核として、それを隠蔽するための複数の研究所からできた研究都市。  テロに遭ったりと騒動があったが、事後処理も含めて学園生達のおかげで巧く回り始めている。  学園生達の提言で年2回の大規模研究会と、小規模な研究会を分野ごとに分かれ開催を始めていた。  それにより出来た横の繋がりのおかげで、新たな研究成果も上がり始めている。  良い方向に進み始めており、今まで以上に研究が盛んにおこなわれていた。  それは、特異点研究も例外では無くて―― 「そちらの要望通り魔力を集めましたけど、これで良いですか?」  異世界転移の核である『鏡』を前にして、研究所責任者【ハイド・ミラージュ】は魔力の込められた符を数枚置いた。  すると『鏡』から応えが返ってくる。 『オッケーでーす』  声の主は異世界人【メフィスト】。  すでに何度かやり取りしているので、ハイドとしても気安い声で返した。 「では記録保持のために、今回の実験内容を復唱します」 『はい、お願いします』  核から返って来たのは若い女性の声。  向こうの世界とこちらの世界の協定に関する取り決めのやりとりをしている【桃山・令花】だ。  今回のような実験をする時には、向こう側の記録手としての仕事もしていた。 「それでは復唱します」  ハイドは、向こう側の記録準備も出来たのを確認し口を開く。 「今回の実験内容は、核を介しての魔力操作実験です」  向こう側の世界から、『鏡』を通じてこちらの世界に干渉できるのか?  というのが、今回の実験の目的だ。  それに必要な物として、魔力の込められた符を用意している。 (大したことは出来ないとは思うけど)  符を用意したハイドは期待する。 (何をしてくれるか楽しみだな) 「それでは、こちらで用意した魔力で出来そうなことを、やってみてください」 『やーりまーすよー』  気の抜けた声が返って来ると、符に変化が起こる。  符が光の粒子に変換されながら魔力を解放。  解放された魔力は、拡散することなく収束すると、球状の魔法陣を展開。 「え……」  ハイドが予想外のことに驚いていると、魔法陣は周囲の魔力を吸収し始める。 「ちょ、待って――」  何か大事になりそうな予感に止めようとするが間に合わない。  魔法陣は必要な魔力を集め終ると、爆縮。  極小へと転じたかと思うと――  ぽんっ。  気の抜ける音と共に白煙が上がり、それが晴れたあとに、フェアリータイプのエリアルのオッサンが現れた。 「はーい、メフィストでーす」 「……は? え、向こうの世界から転移してきた?」 『ちょっと違いまーす』  核を通じてメフィストの声が聞こえてくる。 「え、ええっ!? じゃ、これなんです!?」 「分身みたいなもんでーす」  こちらの世界のメフィストが声明する。 「あちらの世界からー、こちらの世界に渡るにはー、まだ色々と足りないものがありますからねー。とりあえずー、こちらの世界で動ける端末をー、こちらの世界の魔力から造ったのでーす」 「造ったって、そんな簡単な……」 「こちらの世界にはー、元々そういう基盤がありますからねー」 「……どういう意味ですか?」 「こちらの世界はー、全てが魔力で出来た世界ですからねー。魔力が物質化し易い世界なのですよー」 「は? え、ちょっと待って」  自分を落ち着かせるような間を空けて、ハイドは尋ねた。 「全てが魔力って、私達の身体も、ですか?」 「そーでーす」  あっさりとメフィストは言った。 「貴方達はー、死んでも気力があれば復活できるのですよねー」 「ええ」 「それは貴方達がー、本質的に魔力生命体だからでーす。物質で出来た生命体ならー、そんなことは無いですよー」 「……そうなんですか?」 「そーでーす。恐らく貴方達の世界はー、原初では膨大な魔力があるだけだったのでしょー。そこに誰かが魔力に物質的な方向性を与えー、そこから進化を続けー、今の貴方達が生まれるようになったのでしょうねー」 「……誰かって」 「創造神とか、その類じゃないですかねー」  神代の話をし出すメフィストに、ハイドは眩暈に似たものを感じる。 「いや、ちょっと……話がデカくなってきて追い付くのが大変なことに……」 「そういうことがあったかもー、というだけの話ですよー。そんな昔話よりー、今の話をしましょー」  メフィストは気楽な声で続ける。 「とりあえずー、向こうの世界からこっちの世界に来れるようにしたいのですがー、色々と問題があるのでーす」 「問題?」 「そーでーす。さっきも言いましたけどー、この世界は万物魔力世界でーす。なのでー、他の世界の生物がこちらに来るとー、こちらの世界に合う形に変換されちゃうのでーす」 「変換?」 「そーでーす。簡単に言うとー、魔力生命体に変換されちゃうのでーす。これによってー、こちらの世界で問題なく生きていけるようになりますがー、能力が初期化されちゃうのでーす」 「初期化?」 「レベル99だったとしてもー、レベル1になっちゃうようなもんでーす。元の世界に帰ればー、元に戻りますがー、こちらの世界に居る間はー、1から鍛えないと強くなれないのでーす」 「……だから、そうならないようにしたい、と?」 「そーでーす。とはいえー、こちらの頼みを聞いて貰う前にー、まずはそちらの頼みを聞きますよー」 「頼みって、何でも良いんですか?」 「出来る範囲ですけどねー。色々とー、問題があったらそれの解決に協力しますよー。あとこっちの世界にはー、他の世界から来た人も多いみたいですしー、元の世界をちょっとですけど見れるようにしまーす」 「出来るんですかそんなこと!?」 「できますよー。あくまでも見るだけですけどねー」  メフィストの話を聞いて、ハイドは考える。 (どうする? 色々と実験できそうだし頼めることは頼みたいけど、他の研究所とも協議しないと。それに――) 「こっちから頼むとして、見返りをすぐ返さないといけない、とかは無いですよね?」 「ないでーす。前の話し合いで、まずは信頼して貰わないとダメなのは分かりましたからー。少しでも信頼して貰えるようになればー、こちらとしては十分ですねー」  ハイドとメフィストが話していると、『鏡』を通して、令花が話に加わる。 『あの、ひとつお願いしたいことがあるんですが』 「お願い、ですか?」  身構えるハイドに、令花は言った。 『こちらの世界でお預かりしている【ディンス・レイカー】さんの処遇についてです』  テロを起こし向こうの世界に転移し、向こうの世界の武器工房に侵入して色々と盗んで元の世界に戻ろうとした彼だが、それが発覚して今は向こうの世界で投獄されている。 『まだ協定が決まってませんし、引き渡しについても決定してませんが、こちらとそちらの世界が行き来できるようになった際に、そちらに引き渡すということで良いでしょうか? こちらで処遇についてどうするか、悩んでいるものですから』 「え、いやそれは……」  ハイドとしては、研究出来そうなことはともかく、政治に関わりたくはない。なので―― 「そういうことについては、こちらはどうにもできないので……学園生に参加して貰いましょう」  丸投げすることに決めたハイドだった。  という訳で、再び異世界人との接触をする課題が出されました。  今回は、色々とこちらのお願いを聞いてくれるようです。  この課題、アナタは、どう動きますか?
【メイルストラムの終焉】Red 桂木京介 GM

ジャンル 冒険

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2021-08-17

予約期間 開始 2021-08-18 00:00
締切 2021-08-19 23:59

出発日 2021-08-27

完成予定 2021-09-06

参加人数 8 / 8
 汚れた雑巾のような空色、潮風は生ぬるく、饐(す)えたような匂いが混じっている。波打ちぎわは流木や船の残骸などで埋まり、潮溜まりには青白い海洋生物の死骸が浮き沈みしていた。  ひどく場ちがいな姿が砂を踏んでいた。  少女だ。歳のほどは十四、五か。切れ長の目にやどるのは透きとおった碧い瞳、鼻梁はまっすぐで唇のかたちも小さくととのっている。長い髪は紫がかったプラチナだ。  頭頂にはほぼ三角形の、白くピンと尖った一対の耳が見える。白狐のルネサンスなのだ。ただし普通の狐ではない。尾が九本もある。  服は両肩をさらす真っ赤なドレスである。牡丹が咲き乱れ鶴が舞い、血のような炎とせめぎあっているという異形の図柄だった。針のような高いヒール履きながら颯爽と歩んでいる。  目当てのものをみつけ、ドレスの少女は浜にかがみこんだ。 「ああナソーグ様!」  叫んでひろいあげたのは黒真珠のような丸い宝石である。光を飲み干したかのように照り返しがない。 「こんなお姿になられて……! エスメめは涙の海に溺れてしまいそうです……!」  身をよじり額に手をあて、彼女は半身を弓なりにのけぞらせた。 「エスメラルダ様」  彼女の背後から呼びかける者があった。 「どうかして?」  ポーズをくずすことなく彼女は問いかえす。 「悲劇のヒロインを演じられているところまことに恐縮ですが、残念なおしらせがございます」 「早くおっしゃい。この姿勢、とりつづけるのは楽ではなくてよ」 「現在のナソーグ様は、何も見えず聞こえておりませぬ」  なーんだ、と舌打して【エスメ・アロスティア】は元の姿勢にもどった。 「ナソーグのキモ野郎こんなんなっちまいやんの! ザマーミロだな」 「大変品のあるご発言です。ナソーグ様もさぞ、草葉の陰でお喜びでしょう」 「生きてんだろぉ!?」 「言葉のあやです。驚いていただけたのであれば無上の喜びです」 「おめーのギャグは笑えねえんだよ!」  九本の尾がそれぞれ別方向にわさわさと動いた。 「持っとけ」  エスメは背後に宝石――闇の霊玉を投げる。  受け取ったのは白い手袋をはめた手だ。  いや、手だろうか。  手袋は存在する。  服もある。いわゆる燕尾服、ワイシャツにネクタイも、スラックスも。  だが手袋と、服の袖のあいだに肉体がない。衣装のみぽっかりと浮いている。しかし服も手袋も内側から膨らんでいた。黒いブーツもそろっている。  顔もあるが肌は見えない。頭部は溶接工がつかうような鉄仮面だった。後頭部も覆われた逆三角錐にちかい。そしてやはり、首にあたる部分には何もなかった。顔とシャツの間を風が吹き抜けていったところからして、透明人間というわけではなくそもそも肉体がないものと思われた。  マスクの窓には分厚いガラスがはめこまれているが、くすんでおり中身は見えない。  マスクにはもうひとつ異常な特徴があった。底部から、象の鼻のような蛇腹状の管が長くのびているのである。尖端には漏斗(ろうと)らしきものが取り付けられている。鼻(?)は浮かんでおり背後に垂らされていた。  異形の男はエスメにつかえる執事である。名を【スチュワート・ヌル】という。 「スチュワート」 「ご命令を。聡明でお美しいエスメラルダ様」 「霊玉はシュバルツのところへ運べ。仮面は作り直すしかねーだろうな」 「うけたまわりました。聡明でお美しくて尾籠なエスメラルダ様」 「……なんか悪口言ったか」 「滅相もございません」  真っ赤なドレスをひるがえしエスメは海岸を戻っていく。  黒い流木も砂も、彼女の赤に汚れひとつつけない。  ■ ■ ■   重く濃く、肌にねばりつくような霧をかきわけ森をゆく。いよいよ行き止まりかと思った矢先、ぱっと視界がひろがる場所がある。落雷や倒木により、自然発生的に生じた円形の空間だ。  その一隅には樹齢数百年とおぼしき大木が佇立している。幹に太い縄がかけられていた。鋼を仕込んだ縄だ。幾重にも巻き付けられている。  大木にひとりの男を縛りつけているのだった。  男は瀕死だった。髪は伸び放題で髭も同様、身なりもひどい。 「……!」  男の目に光がやどった。  マジかよ、と男――【ルガル・ラッセル】はつぶやく。  衝動がやんだのだ。彼の内側からルガルを責めたてつづけた破壊と怒りの呪いが。  ルガルは足元に目を落とす。  仮面の残骸があった。聖女をかたどった白い仮面だ。陶器のように砕けちらばっている。  仮面は【ナソーグ・ベルジ】がくれたものだ。仮面をつければルガルの衝動は一時的に収まる。だがその代償として彼は、ナソーグに依存し隷従しなくてはならない。誰かの支配下として生きることがルガルには耐えられなかった。  だからルガルは仮面を砕いた。あり金をはたいてならず者たちを雇い、猟師も近づかぬ森の奥深くに我が身を縛(いまし)めたのである。  呪いとの勝負には勝った。だがルガルの体はほとんど動かない。四肢に食い込んだ縄がこすれ、傷口がまた破れただけだった。 「……それ、自分で縛らせたんだろう……なのに……」  声がした。つぶやくような口調、言葉も不明瞭だ。  「縄を解ところまで……考えてなかったってわけか……アホ?」  ルガルの正面に、ひょろりと手足の長い姿がいつのまにか出現していた。  腰まである長い黒髪、膝より下までのやはり長い白衣、ひどい猫背で前髪が垂れている。 「……アホなの?」  「好きに呼べよ」  かすれ声でルガルは告げた。 「あんた、誰か知らんが縄を切ってくれ」  はぁ……? と白衣黒髪猫背の人物は肩をすくめた。 「切れ? このヒョロい体でできるとでも……?」  次の瞬間、バサリと音がしてロープが切断された。ルガルは木の根元に滑り落ちる。 「……まあ、できるけど」  白衣の人物がにじりよってきた。  女だ。まだ若い。  目には真っ黒な隈、肌はきわめて血色が悪い。唇は赤く、泣きぼくろのせいもあってか異様ななまめかしさがあった。白衣の下はタンクトップとショートパンツだ。胸が大きい。ずっと前屈みだからその特徴がきわだつ。 「切り刻むほうがお好みかい……?」 「結構だ。礼を言う」 「感謝は言葉じゃなく態度で示せ。ルガル・ラッセル」  女が自分の名前を知っていたことにルガルは驚かない。どう見ても尋常の者ではなかったから。 「……お前が呪いから解放されたのは、ナソーグが敗北しその支配力が弱まったからだよ」 「ナソーグが?」 「……信じられないだろうが事実だ。フトゥールム・スクエアがなしとげた」 「あいつらならできるかもしれねぇな。見上げたやつらだ」  どこか誇らしげに言うとルガルは唇をゆがめる。  女は目を細めた。 「だがナソーグは滅びきってはいない。やがて元に戻るだろう……お前の呪いも含めて……」 「で、俺にどうしろと」 「……火の霊玉を取ってくるんだ」  女はニタリとする。 「ナソーグの本体は闇の霊玉と一体化している……対抗する光の霊玉は手の届かない場所にあるが火のほうは手つかずだ……光の霊玉ほどの役には立たないが、少なくともナソーグの再活性化は防げる」  ゆえあって闇の霊玉は手にしている、と女は言った。 「……火の霊玉をよこせばナソーグを押さえておいて……あげるよ。いい取引だろう?」 「そんな与太話、俺が信用するとでも?」 「信じなくてもいい。あの苦しみにまた遭いたいのなら」 「あんたの名を聞かせてもらおうか」 「ドクトラ(博士)だ……【ドクトラ・シュバルツ】」  シュバルツによれば、火の霊玉は【怪獣王女】と名乗る人物の手に落ちようとしているという。
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