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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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仮初のJune bride 白兎 GM

ジャンル ロマンス

タイプ EX

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2020-06-05

予約期間 開始 2020-06-06 00:00
締切 2020-06-07 23:59

出発日 2020-06-15

完成予定 2020-06-25

参加人数 8 / 8
●妖精猫の見る夢は  晴れやかな空の下、広がる花畑の中心で。お嬢様が笑みを零した。  絹糸のような白銀色の髪をきらきらと煌めかせ、澄んだサファイアの色をした両目を細めるお嬢様は、それはもう美しくて、可憐で、麗しくて。 「ねぇ、【レオン】……」  微笑みを湛えたお嬢様が、真っ直ぐにわたくしを見る。  いつもなら魔法式車椅子の上でピクリとも動かない両脚が、しっかりと大地を踏みしめているのを見るだけで、わたくしは泣きそうになってしまう。  そんなわたくしを『見た』――普段なら、盲目であるお嬢様の瞳は、閉じられているのに――【ステラ】様は……、 「私、レオンのことが大好きよ。あなたと出会えて本当によかったって、思っているの」  まるでこの恋心すら許してくださるような、慈愛の眼差しで、わたくしに微笑んでくださる。  だからわたくしは、もうどうしようもなく、耐えられなくてしまって。 「ステラさま~~~っ!!! わたくしも、ステラさまが、だいっ、だいっ、大好きなんです~~~!!!」  ぎゅっと抱き着いて。何度でも、何度でも、口にするのだ。  ――現実世界では、きっと許されないだろう。お嬢様に捧げる、この気持ちを。 ●グリモワール:『ジューン・ブライド』 「はぁ……ステラお嬢様……」  有り余るほどの多幸感や、胸の痛みと共に零れたのは、淡いため息。  明らかなる恋心をその声に宿した、茶トラ柄のケット・シー(ケット・シーとは、祖流族と妖精族の特性を真似て作られた、二足歩行をする大型猫のような魔物である)……レオンは、まあるい猫の両手を器用に使って、その本を閉じた。  時刻は昼、場所はフトゥールム・スクエアの中庭……の隅っこにある、草むらの中。  この日レオンは、最近始めたお仕事――彼の飼い主でもあるお嬢様が入学したその日から、毎日のように学園へ忍び込んでいたレオンは。その度に、この学園で教師をしている金髪の導師に注意され、ついには『いちおう魔物の括りなのですから。うっかり退治されないよう、私の使い魔として、申請しておきましょうか』と苦笑され、そのお礼として手伝いをするようになったのだ――でもらった、初めてのお給金で、あるものを購入していた。  まるで天鵞絨(ビロード)のように艶やかな、赤色の装丁を施されたその本は、グリモワール:『ジューン・ブライド』という名前で知られている、魔生族に向けて造られた魔導書である。  未だに謎の多いカルマという種族は、それが良いか悪いかの話はさておき、『感情』らしきものを発現させない者が殆どであるらしい。  そんなカルマ達が抱く、マスターの『心』をもっと理解したい、という要望に応えた魔導書群の一冊が、この『ジューン・ブライド』なのである。  だが、しかし――。 (まさか、自分が『恋愛小説の主人公』になれる本が存在するなんて。魔法使いってすごいんですね~)  正確に言えば『他者に向ける恋や愛、自身に向けられる愛を擬似的に体感し、学べる本』なのだが、既に感情を知っている生物にとっては、『疑似恋愛が楽しめる本』として扱われ、学園内でも『一度は読んでみたい本』と話題に上がることも多い。  ゆえにレオンが、初めてのお給金を握りしめ。レゼントの街を駆け回り、この本を手にしたのは、必然でもあった。  なぜなら彼は……未だ猫と偽ったままであるお嬢様に、身分違いどころか種族違いの、『恋』をしているからだ。 (でも、この本があれば。擬似的ではありますが、ステラ様とお話ができます~)  しかも回数無制限だなんて、素敵ですね~。  たとえ夢のようなものであるとはいえ、現実にはけして叶えられないことを体感させてくれるこの魔導書は、レオンにとっては間違いなく『幸せな時間をくれる。素晴らしいもの』であった。  ゆえに、そんな彼が。『そうです~、この幸せを、皆さんにもお裾分けしたいです~』と考え、購買を担当する職員に入荷の検討をお願いしにいったのは、言わずもがなであり。  『確かに、カルマの生徒や、愛を与えられない過酷な状況を過ごしていた生徒もいるだろうし。心の癒しとしても、並べてみるのはアリかもしれない』なんて会議の末に、購買部の魔導書コーナーに並んだのも、当然の結果だったのである。 ◆  だからこそ、『きみ』がこの魔導書を手にしたのも、必然だったのかもしれない。  『購買部に入荷されたという話を聞いて』、『そもそもどんな本かは知らず、見たことのない物だから購入した』などなど、理由はそれぞれに、色々とあるのだろうが。  今『きみ』は、自室にて購入したばかりの魔導書……『ジューン・ブライド』の表紙を開こうとしている。  ――そうして始まるのは、『きみ』を主人公として取り込んだ、恋物語だ。  ハッピーエンドも、メリーバッドエンドも。全ては『きみ』の中にある、愛の形次第だろうか。  時間にして1、2時間。けれどその間、確かに恋をし、愛をその胸に抱いていただろう『きみ』は。  いったいどんな表情で、どんな言葉で。『愛しいヒト』との時間を過ごしているのだろう。
あなたのキャラを教えて下さい 夏樹 GM

ジャンル ハートフル

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2020-06-05

予約期間 開始 2020-06-06 00:00
締切 2020-06-07 23:59

出発日 2020-06-14

完成予定 2020-06-24

参加人数 8 / 8
 このたび入学してきたある生徒が、大図書館『ワイズ・クレバー』に入って来た。  課題図書を探しているのだが、なにぶん、つい先月に入学してきたばかりで、不慣れである。  巨大な本棚の間を、物珍しげに行ったり来たり。  そのうち、棚の片隅に置かれていた本に気がついて、手を伸ばしてみる。  それはあまりに無関心な本であった。  どんな装丁で、どんな大きさだったかは、今となっては思い出せない。  彼が、本を取ってページを開いた瞬間、見開きから刹那の光が放たれた。 「え、き、君は……」  愕然とする新入生。  何しろ、そこには、『自分とそっくり』の人間が、無邪気な笑顔でこちらを見つめているのである。 「君の名前は?」 「【ローラン・アンバー】」  やはり、自分の名前が返答された。 「年は?」 「15歳」 「趣味は?」 「読書とジョギング」 「特技は?」 「特にないけど、まあ、料理はうまい方かな」  ……。  …………。  ………………。  君は、しばらく、『自分』の鸚鵡返しを聞いていた。 「それで、最初の冒険はいつだったっけ」  逆に、ローランに対して『ローラン』が話しかけてきた。 「ああ、ぼくの最初の冒険か? それはね、初めてこの学園で出来た仲間のことだったかな。それとも、故郷の昔話だったかな……どっちを聞きたい?」  そしてローランは、『ローラン』と向かい合った。
弱き剣、強き枷 根来言 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2020-06-02

予約期間 開始 2020-06-03 00:00
締切 2020-06-04 23:59

出発日 2020-06-12

完成予定 2020-06-22

参加人数 8 / 8
「だーかーらー! 直ぐにでも村をでるべきって、言ってるじゃないっすか! アンタら、死にたいんすか!?」 「商人風情に何が分かる! 俺たちゃ、何十年も住んでるがなーんも起きやしねぇっつーの!」  息を切らせながら叫ぶ商人と、あざ笑うかのように笑う村人たち。  商業と観光の町『シュターニャ』。その郊外に位置した小さな村の些細な言い合い。  いざこざに巻き込まれたくないとでもいうように。または通り過ぎる人々も同じように。  通り過ぎる人々は皆一様に、冷ややかな視線を向けていた。 「何十年も変わらない!? 森の最奥から、バケモノがわんさか溢れてるのをみてねーんすか!? オレ達は現に、今さっき見てきたところなんっすけど!」  商人の乗っていたであろうキャラバン隊の馬車は、見るからにボロボロだ。馬車を引く馬は何かに怯え、座り込んでしまっている。 「バケモノ? はっ、今更。この村に住む冒険者は多い。それに……、ウチにゃ、最強の戦士様々がいらっしゃるんでな! たかだか商人に心配されることじゃないね……っと、噂をすれば!」  村人の男が指さす先には、1人の男が立っていた。  彼は、この村で最強の戦士と呼ばれた男【ガープス・カーペンター】。  ヒューマンとは思えないほどの巨漢、眉間に刻まれた深い傷跡。歴戦の戦士を思わせる風貌に、睨まれ、商人たちは思わず息をのむ。 「……出て行ってくれ、話にならない。村人も、冒険者も話を聞く気は無い……そうだ」 「……ッ、また、また来るっす。アンタらが出ていくまで何度でも」  振り返ることなく去っていく後ろ姿に、やっと帰ったと小さく拍手が起こる。 「さっすがガープス様! こうも簡単に追い返してくれるとは!」 「ハーっ、今回の奴は手ごわかったなァ。これで何人目だ?」 「どうせ、村人追い出して採掘場でも作ろうっつー魂胆だろうさ」 「ひょろひょろの商人が半端な冒険者雇ったところで、ガープス様々にぶっ倒されるつーのが目に見えてるさ」 「何かあっても、オレ達には腕の立つ冒険者とガープス様がいるんだ! 必ず守ってくれる! そうだろ? ガープス様!」  期待に満ちたその声に、静かに男は答えた。 「……、あぁ、俺の出来る限りなら」  深夜、明かりの煌々と輝く一軒。  家の家主は村人たちに『最強の戦士』と崇められた男。ガープス。  昼間の威圧的な雰囲気はどこかへ消え、ただ哀愁さえも感じさせるほどに静かだ。 「昼は、追い出して、すまなかった」  そんな彼の晩酌に付き合っている相手は、昼間彼自身が追い出した商人【ピラフ・プリプク】だった。 「いやー、慕われてて羨ましいっすねー。みぃんな妄信してんじゃねーっすか」 宗教でもたてりゃ、かーなーり儲けが出そうっすねー? と、嫌味や皮肉が調子よく口から零れ落ちる。 「……そうだ。妄信されてしまった。期待、されてしまっているんだ」 「アンタも、アンタら村人もみぃんな知ってるんスよね? どんどん魔物の軍隊が村に迫ってることは。そんでもって、自分たちは生き延びれるって確信しちまってる。まぁ、腕の立つ冒険者を幾らか村に留めさせているから対策はできている……と、思い込んでいるんスねー」 「そうだ。それでもダメなら、俺がなんとかしてくれると、確信している。……俺は引退していると言っても、聞かないほどに」 「その根拠のない自信はどこから……。まぁ、アンタなら生き残りそうっすケド」 「俺だけが生き残っても意味がないだろう」  村を捨てたくはない。だから、捨てなくて済むような理由を無理やりにでも作ろうとする。  それでも。自分を慕ってくれる村人たちを見捨てたくはない。 「アンタから言い聞かせる気は」 「出来るならとっくにやってるさ」 『ガープス様がいるなら、それだけで魔物は逃げていきますよ』『村を捨てる? またまた御冗談を! 貴方が来てから、魔物の被害なんてもう無くなった。今更何を恐れる必要が?』。 「皆、皆が。危機感なんてものを持っていない。雲隠れすればとも考えたさ、だがあいつ等はきっと俺の帰りを待つだろうよ。武器を磨くことも、鎧を着ることもなく」 「まー、中途半端にアンタは強いっすからね。学生の時も、戦闘課題ではいっつも優、優、優。あー……、今になって腹が立つ。商人になって後悔はねぇっすけど」 「戦いしかしてこなかったから、こうなってしまったんだ。戦士になって、俺は後悔している」 「そうだ、ピラフ。俺を皆の前で倒してくれないか? そうすれば、きっと皆目が覚めて」 「戦士様、ご冗談を。オレなんて、アンタに勝てるほど強くねぇっすから」 「……そうか、そうだよな。……はぁ、一体どうすれば」 「……それはそれで、なんかムカつくっすけど。オレじゃなくて、もっと屈辱的な相手に負けを認めた方が効果的になるんじゃないっすか?」 「屈辱的な相手?」 「そうそう、手段問わなければっつーなら……。例えば、後輩の見習い戦士達とか」
黒風は、清き乙女と月世に踊る 土斑猫 GM

ジャンル シリアス

タイプ EX

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2020-05-30

予約期間 開始 2020-05-31 00:00
締切 2020-06-01 23:59

出発日 2020-06-10

完成予定 2020-06-20

参加人数 8 / 8
 時は、草木も眠る丑三つ時。ゆっくりと、けれど確実に移ろいだ季節。あれほど肌寒く、木々が凍えていた夜も、今はすっかり過ごし易くなっていた。  そんな深夜の街路を、一つの人影が歩いている。  深夜の事、人の気は当になく。【ナディア・クローティア】は、ビクビクしながら家路を急いでいた。 「あ~あ、すっかり遅くなっちゃった。あのお客さん、粘るんだもんなぁ……」  ぼやく言の葉が、夜の静寂の中に消えて行く。彼女は酒屋の従業員。今日は最後の客が何か面白くない事でもあったのか大酒をかっくらい、閉店時間を過ぎてもグダグダと管を巻いていた。尻を蹴って追い出す訳にもいかず、愚痴に付き合った結果こんな時間に帰宅の羽目となった。 「まったく、最近、通り魔で物騒だって言うのに……」  そう。この街は、数週間前から起こり始めた不穏な事件に怯えていた。  深夜。街道を歩く者が襲われ、大怪我を負わされる事案。被害者は、全て若い女性。発見された時、彼女達は体中をズタズタに切り裂かれ、血の海の中に倒れていた。  傷は、鋭利な刃物状のモノによるもの。傷の多さは、尋常ではなく。されど、血溜りの中には足跡も髪の毛も。犯人を示す痕跡は一切なく。進まぬ捜査。今の所、死者が出てないのがせめてもの救い。  新聞の一面を飾る、凄惨な見出し。それが、凄惨な現場の光景を容易に妄想させる。背中を這う悪寒は、夜風や薄着のせいだけではないだろう。 「ああ、嫌だ嫌だ! 早く、帰ろう!」  歩く足を速めようとした時、仄かに明るかった世界が闇に沈んだ。空を見ると、それまで顔を出していた上弦が雲に隠れていた。落ちる月影の中、微かにそれが香る。  乾いた獣臭。  そして。  鉄錆の、匂い。 「え……?」  気配に振り向いた瞬間、昏かった視界がさらに深い黒に沈む。  飛び散る鮮血と悲鳴が、薄闇の世界を禍しく染めた。  ◆  世界に誇る勇者育成教育機関、魔法学園フトゥールム・スクエア。  難解な困難災難に見舞われた人々が、在籍する未来の勇者達の力に期待して駆け込む最後の拠り所。  今日、その門を叩いたのはとある地方都市の官憲。迎えた講師に伝えたるは、次なる内容。  現在、件の街にて起きている連続通り魔事件。先頃まで、被害者に共通するは若い女性と言う事だけと思われていた。  しかし、ある者が気付いた。被害者達が発見された位置。それを結ぶと、街を囲む巨大な魔法陣が現れる事を。  直ちに洗い直される、被害者達の身の上。詳細。  彼女達、親族達が了承する範囲。明らかになった事。  生まれ、経歴等、共通点はなし。  種族、職業、バラバラ。  重なる点は、たった一つ。  全員、異性との経験なし。  処女の血にて成される、妖しき法。愉快な代物である可能性は、限りなく低い。  かの魔法陣。複雑怪奇な幾何学。構成する星の内、今だ埋まらぬ角は四つ。残りの事件が、そこで起こる事は明白。  有志を募り、試みられる囮捜査。けれど、目論見は尽く瓦解。囮が襲われる事はなく、犯人が現れる事もまたなく。  次に打たれた手。凶行が、果てに望む法。その正体を、見極める。  当ては、一つ。  魔法陣を使用する術。結果が顕現するは、おおよそ陣の中心部。地図が示す場所。在するは、とある古家の建つ地。住人は、最後の血が絶えて久しく。  荒れた敷地。廃墟と化し古屋の中。入った捜査員達は見た。  屋内の空間に吹き荒れる、漆黒の風。渦巻く中に目を凝らせば、黒風を走る無数の獣影。意を決し、踏み込んだ捜査員が一人。瞬間、ズタズタに咬み裂かれて弾かれる。応急処置を受け、運ばれる途中。彼は告げた。黒い獣風。その群の向こうに見えたモノ。  妖しき気配を発す、一棟の小さな祠。  得られた情報。辿った先に、在りし答え。  かの存在、名を『黒眚(しい)』と言う。  風に化して群れをなし、人畜を襲って血肉を啜る異国の妖魅。  記録によらば、かの古屋の住人。その異国より流れ来る術士の筋。  推測。  かの術士。良からぬ企みを持ちて、祖国よりかの妖を呼びしも制す事叶わず。彼を喰らいし黒眚達は、異国の理に馴染む為、暫し眠りについたモノと。  相応の時が経ち、理を得たる黒眚。喰らいし術士の記憶に沿いて、己らを放つ術を講じる。  其が術こそが、かの陣。完成すれば、枷が解かれる。枷は、かの祠。中に封じられしは、黒眚の王。彼を縛りて、群を律するが術士の叶わぬ本懐。祠が陣の完成により砕ければ、王は放たれ、今に倍する数の黒眚を呼び込む。  そうなれば、自由と威を得た黒眚は災嵐となり、街の全てを喰らい尽くす。そして、街から餌が消えれば、恐らく次は……。  ◆  話終えた官憲が、頭を下げる。  力を、貸して欲しいと。  理由は二つ。  黒眚は、風の位相に在する魔。相応の魔力がなければ、こちらからは干渉すら出来ない。実戦レベルの魔力と、戦闘技術を両立出来る者。それが、多人数必要。  答えは、自ずと限られる。  そして、もう一つ。  警察が用意した囮が、黒眚の食指に触れなかった理由。  つい先日、判明した事実。  陣の完成に必要なのは、処女であるに加え、『ある程度の魔力を有した女性』である事。  その意を察した講師が、目を細める。  懇願と申し訳なさを伝えながら、官憲はただひたすら頭を垂れる。  溜息を、一つ。  拒否すれば、待つのは一つの街の崩壊。その先に待つ、更なる災禍。  どの道、選択支などある筈もなかった。  ◆  かくして、生徒達に出される求人の報。  志願者達に出されたのは、一つの選択。  ――此方に溢れた黒眚を殱滅し、一時なれど確かな平穏をもたらすか――。  ――敢えて王の顕現を誘い、危険なれども災いの根を永遠に絶つか――。  道は、一つ。  時は、僅か。  ◆  月が満ちる。  望月の光。  夜に在するモノ共が、最も存在の威に昂ぶる刻。  警察により、危険区域の住民達は避難済み。  かの場所を徘徊せしは、若き勇者達。  甘き血の気配に、ざわめき始める夜気。  ゆっくりゆっくり。  流れる獣臭。  鉄錆の香。  漆黒の風。儚き月夢。妖しく怖く。  ビョウビョウ、踊る。
いきなり! 素敵 桂木京介 GM

ジャンル コメディ

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2020-06-10

予約期間 開始 2020-06-11 00:00
締切 2020-06-12 23:59

出発日 2020-06-17

完成予定 2020-06-27

参加人数 8 / 8
 学食片隅、本来は一人がけであろう狭いテーブルに男性教師ふたりが向かい合って座っている。 「……狭いんだが」  自作手作り弁当を【ゴドワルド・ゴドリー】はぐいと押し出した。静かに食事していたところに押しかけられ迷惑している、と表情で示している。  あきらかに『あっち行け』というメッセージだというのに、【イアン・キタザト】たるやどこ吹く風で、 「そう? 僕は狭くないよ」  自分の皿を中央に寄せたのだった。ハンバーグと唐揚げがこれでもかという勢いで乗せられたカレーだ。ぼこぼこにビーフが入った肉々しい作りだが、野菜の姿はまるで確認できない。強いて言うならつけあわせのコーンくらいだろうか。 「よくそんな子どもみたいなものが食べられるな」  ゴドリーの弁当はとてつもなく地味だった。じゃことごぼうのまぜごはんのおにぎり、ひじきとツナのトマト煮、さらにピーマンの焼きびたし、申し訳程度に入っている魚もイカナゴのくぎ煮だったりする。全体的に茶色い。でもカロリー低めで栄養価は高めだ。 「いいじゃん、僕子どもだし」 「……同い年だろ」 「パルシェくん(※【パルシェ・ドルティーナ】)と? 僕そこまで若くないよ」 「俺と! 同い年だろ!」  これは事実だ。おなじヒューマンだというのに、どこかくたびれた姿で歳相応、いやへたすると実年齢以上の容貌のゴドリーと、学生それも入りたてにしか見えないキタザトの間には大きな隔たりがある。 「やだぁ、ゴドーったらめずらしく『俺』なんて言っちゃって♪ こわーい♪」 「……もういい。少し黙っててくれ」  あと、『ゴドリー先生』と呼べ、とゴドリーは一言つけくわえた。 「ところでさぁ、あのうわさ聞いた?」 「聞いてない」 「即答だねぇ。で、学園777不思議のひとつなんだけど、昔ね、演劇部だかファッションショー部だかが使っていた小さな野外劇場跡があってね。裏山のほうに」  私が興味あるかどうかは無視なのか……と、ぼやくゴドリーをよそにキタザトは続ける。 「そのステージのランウェイ……あ、ランウェイっていうのは、舞台中央に設置されてる、客席にせり出すようになった幅が狭い部分ね」 「……それくらい知ってる」  無視するつもりだったのについ、ゴドリーも話に引き込まれている。 「で、満月の晩そのランウェイを歩くと、どこからともなく『いきなり!』って呼び声がかかるらしいんだ」 「お前それ真面目に言っているのか」 「そこで求められるのは何かを披露すること! それこそ一芸であろうとギャグであろうと、自分の夢を語ることであろうと、好みの女性について熱く叫ぶことであろうと……なにか魂を震えさせるような自分だけの表現を繰り出すんだ」 「意味がわからんのだが」 「最高の栄誉は『素敵』、これを得た人にはこんがり焼いた分厚い牛ヒレ肉にありつけるみたいだね。『素敵』だけにステー……」  駄洒落にしてもベタすぎる、とゴドリーは頭を抱えた。 「それに『素敵』の評価を得られれば、どんな願いもかなうと言うよ」  くだらん、と弁当を平らげてゴドリーは立ち上がった。 「えー、でもゴドー、語ってみたらどう? ほら、脳内奥さんのこととか……ひょっとすると願いだって……」  その話はここまでだ、とぴしゃりとゴドーは言って去る。 「……そもそも『学園777不思議』てなんだ。初耳だぞ」  翌日。やはり学食。 「どしたのゴドー、元気ないね?」  ゴドリー先生だ、とつぶやくように言うゴドリーは、いつもに増して顔色が白く、いつもに増して疲れているように見えた。 「……『いきなり!』につづいて『無駄なあがき』などと言われたぞ……おまけに干し柿が飛んできた……干し柿だと……」  死んだような目でゴドリーは弁当箱のふたを開けた。  少々焦げたトーストが一枚きり入っているだけだった。今朝は弁当を作る時間がなかったのだろう。
強襲、驟雨! 七四六明 GM

ジャンル 戦闘

タイプ EX

難易度 とても難しい

報酬 多い

公開日 2020-05-30

予約期間 開始 2020-05-31 00:00
締切 2020-06-01 23:59

出発日 2020-06-09

完成予定 2020-06-19

参加人数 8 / 8
 斬り払えば黒風白雨。鋭き一撃は篠突く雨。刀剣の動きは流し雨。  梅雨の雨闇、通り雨の如く、冷たき刃を携えて奴が来る。  魔法学園『フトゥールム・スクエア』より徒歩で行ける距離にある、大きな池のある公園。池の両端を繋いで架かる橋に、雨の降る中、帯刀したまま渡ろうとすると現れる。  四つの腕に握り締めた怨刀たる大太刀振るい、一周する頭についた六つの眼にて、捉えた剣士を襲う。鎧兜を被った、三メートル近い巨躯の骸骨武者。  魔法使いは眼中になく、拳闘士は峰にて払う。  執拗に剣士の命だけを狙う怪物の剣撃はにわか雨の如く。  後に驟雨(しゅうう)と名付けられた。今や学園に語り継がれる怪談の一つ。  剣の腕に覚えがある生徒が幾度となく挑んだものの、未だ討伐できた記録なし。  現在、驟雨の握る刀を持ち帰って対抗する武器を作る試みがあるものの、未だ達成出来てない。  そんな驟雨が、猛威を増して降り頻る。  ある日驟雨の剣を持ち帰るため向かった生徒らが、刀剣の持ち帰りに失敗し、敗走。  全員が命を取り留めたものの、重傷の身で命からがら逃げてきたのである。  曰く、これまで魔法攻撃が向かってきただけで消えた驟雨が魔法を斬り裂き、魔法を使った生徒向かって斬りかかったとのこと。  魔法がぶつかると消え去ったが、これまでの戦いで学習したか、更に実力を増しているという。  一般人の被害が出ないうちに驟雨を倒さねば。  そのためにも、驟雨を打倒し得る武器を作らなければ。  打倒、驟雨。  月時雨の繁吹く夜、学園は再び怪物に挑む――。
ドリンクミー! 機百 GM

ジャンル ハートフル

タイプ EX

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2020-05-27

予約期間 開始 2020-05-28 00:00
締切 2020-05-29 23:59

出発日 2020-06-06

完成予定 2020-06-16

参加人数 4 / 8
●エプロンドレスの少女の好奇心 「はいはーい。みんなー集まったんだねー今日の課題なんだよー」  魔法薬学の教室に入ってきた【パールラミタ・クルパー】は、教卓の前に自前の大きな薬箱を下ろすと、よいしょとその上に登った。  パールラミタはエリアルのエルフだが、その背丈は一般的なフェアリー種より気持ち高い程度だ。だからこれは、大人と同程度の視界を確保するという、いつもの恒例行事なのだ。  それはとにかく、パールラミタは懐から何かの液体が入ったガラス瓶を取り出して生徒たちに見せつけた。 「これはー体がーちっちゃくなっちゃう薬なんだー。と言ってもー若返るとかじゃーなくてー、全体的にちっちゃくなっちゃってー小人になるというものなんだよー」  これはまた妙な代物を出したものだ。その薬はパールラミタが作ったものなのだろうか。 「ボクがー基本的なものにー色々と改良を加えてーほぼ確実な安全性を添加したものだよー。使用すれば服ごと小さくなるしー効果は1時間で切れるようになっているしー何か危害が及ぶようになったらーすぐに効果が切れて元に戻るしー、とても狭いところで効果が切れてもー近くの開けた場所に転送される優れものなんだねー」  えっへんと意外とある胸を張るパールラミタ。とりあえずは技術的に凄いらしいことは分かった。  つまるところ、その薬を自分たちに使ってくれという事なのだろうか? 「うんーそうー。みんなにはーこの薬を使ってー、体を小さくしてー色々なことをーやってもらいたいんだねー。体がーちっちゃくなるっていうのはー基本的にはー有利な事じゃないんだねー? ゴブリンやー餓鬼とだってーまともに戦えなくなっちゃうからねー」  そう言われると、何だかとても恐ろしいことのように思えてくる。不思議な体験を行うには違いないが、普通に戦えば雑魚になる敵とすらまともに渡り合えなくなるのは確かに尋常ではない。  だが、小人が主人公のおとぎ話や英雄譚だって幾らかある。その小さな体躯を逆に活かし、何もかもが大きな世界で様々な冒険をしたり、自分より大きな怪物を倒すといった物語は語り継がれてきたものだ。  つまり、この課題の目的とは即ち? 「そうだねー。小人になってーこんなことをやってみたんだよーって、来週までにーレポートを作ってきてほしいんだー。例えばークローゼットの裏に落ちてたー小銭を取ってきたーとかーそんな感じでいいんだよー」  大冒険などをしなくても、その程度の内容でもいいらしい。それならあまり難しく考えなくても何とかできそうだ。 「でもー出来る事ならーアイデアを振り絞ってー思いがけない使い方を考えてみてほしいなー?」  パールラミタとしてはいいアイデアを募るようだが、どうしたものだろうか。  ところで、この薬を使うとどの程度の大きさまで小さくなってしまうのだろうか? 「大体ーその人の親指くらいかなー? それだけにー使いどころにはー十分注意してほしいんだねー」 ●悪魔の囁き  学生寮の自室にて、パールラミタに手渡された小人の薬をぼんやり見つめる。  無難に『こうしてみた』というレポートを書くのも悪くはないが、どうせなら変わった使い方をしてみたい。 「ほぅ、面白い薬を持っているなァ?」  褐色肌の女性教師がノックもなしに扉を開け、堂々と部屋に上がり込んできた。いやちょっと待て、鍵はしっかり閉めたはずなのにどうやって入ってきたのだ。  然し女性教師はずかずかと上がり込んで近づくと、例の薬をスッと取り上げ、手のひらで放ってはキャッチして弄び始めた。 「悩んでいるようだから、簡単な助言でもと思ってなァ。簡潔に言おう。悪いことに使おうと考えた方が、いいアイデアが出てくるかもしれんぞ?」  いや、流石にそれはどうなんだろうか。  それにもし悪用してしまったら叱られたり減点されるかもしれないし……。 「その点は安心していい。他の先生なら怒ることでも、彼女は純粋な発想力で公正に評価するからなァ。去年も同じ課題を出していたが、ちょっと悪いことに使っていた生徒を高く評価していたぞ。ついでに言えば彼女が怒るという事は、コルネ先生に干しぶどうを渡して拒否されるくらいあり得ない話だぞ」  ある意味では安心できたが、後半の例え話は何なんだ。凄いのか凄くないのか少し判断しかねる。  それでも悪い方向に使うのはちょっと憚られてしまう。然し、そう言われるとやっちゃってもいいような気もしてくる。  すると女性教師はニタァと笑うと、薬を返して腕を組み、説き伏せるように語り始めた。 「道具や技術に魔法。そういったもの全てが、純粋な善意で生み出され、使われてきたものだと思うか? 私はそうは思わんなァ。例えばそういった体を小さくする薬や魔法は、遥か昔のある国では王侯貴族への恥辱刑に使われたそうだ」  こんな薬で刑罰? 恥辱刑などとは、そんな発想には至らなかった。  その国では一体、どういう使い方をしてきたのだろうか? 「そういった薬で罪人の体を小さくして籠に閉じ込めて、広場など目立つ場所に無造作に置いて衆目の晒し者にしたのだなァ。自分より立場の低い者に虫けらのように見られるというのは、さぞかしプライドをずたずたにされたに違いない。更に死刑が確定した場合には……それはもう、無残な有様だったそうだ」  急に話が血なまぐさくなってきた。その罪人がどんな最期を迎えたか、想像しかけて気分が悪くなった。  然し、そんな気が滅入る話を何故教えたのだろうか? 「悪い方向でのアイデアの一例だ。人の悪意がそんな使い方を生み出したという事を理解してほしくてなァ。後、私は悪い事に使おうとする生徒への見張りを任されている。自由を優先して大目に見たいところだが、あまりにやり過ぎるなら、ちょっとお仕置きしなければならんのでなァ」  そう言うと、左手で何かをキュッと握り潰すような仕草を見せ、くすくすと咽ぶように笑いながら女性教師は扉から部屋を出ていった。鍵をかけていたかなど、とても気にしていられなかった。  何だかとんでもない課題を受けてしまったような気がする。パールラミタに薬を返して課題をやめてもいいが、少し変わった経験を得るのも悪くないような気もする。  さて、どうしよう?
ペアで挑め、本の奥に待つ戦いとお宝 夜月天音 GM

ジャンル 冒険

タイプ マルチ

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-05-29

予約期間 開始 2020-05-30 00:00
締切 2020-05-31 23:59

出発日 2020-06-06

完成予定 2020-06-16

参加人数 16 / 16
 放課後、魔法学園フトゥールム・スクエア、第一校舎『フトゥールム・パレス』、大図書館『ワイズ・クレバー』。 「新刊が入りましたよ。中でも魔法仕掛け絵本シリーズの『雨の館』がおススメです」  入館した学生達を迎えるのは、17歳のローレライ女性図書委員だった。 「本を開くと魔法の仕掛けが発動して、読者を招き入れて、主人公として本の世界を五感たっぷりに楽しむ事が出来ます」  彼女は、楽しそうに魔法が存在する世界ならではの仕掛けを説明した。 「この本の内容は、雨降る夜に二人の冒険者が雨宿りに訪れた古ぼけた館を雨が止む夜明けまで蝋燭一つを手に探検するものです。魔物が棲みついていたり宝石や骨董品などがあったり踏んだり触ったりしたら炎や水が飛んできたり体が石化したりする魔法の罠があったり危険な屋敷です」  それから簡単に本の内容を説明した。 「主人公は二人組ですので、行動は二人一組でお願いしますね。外に出るには物語が最後まで進むか、蝋燭の火を消す必要があります。そうすれば、二人一緒に現実に戻る事が出来ます。ちなみに蝋燭の火は吹き消さない限り消えませんし、一人では本を開く事が出来ません」  読むのに大事な事を伝えてからにっこり。 「一読、してみませんか?」  例の絵本を見せながら誘った。
未確定を象って 瀧音 静 GM

ジャンル コメディ

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2020-05-29

予約期間 開始 2020-05-30 00:00
締切 2020-05-31 23:59

出発日 2020-06-05

完成予定 2020-06-15

参加人数 8 / 8
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』内、研究棟。  その名の通り、様々な研究が行われているその場所……から地下に潜ることしばし。  秘密裏……とまではいかないが、結構隠されて研究を続けている人物がいた。  白衣を身に纏った薄紫髪のドラゴニア。頭には小さな羽根と、その羽根から生えた角が覗き。  腰からはさらに羽が生えていて、けれども元気がなさそうに羽根は下を向いていた。  そんな羽根を持つ本人は、何やらテーブルの上の物を見ながら頭を掻いて、いくつか資料にメモを取って脇へ。  順調ではない事を示す大きなため息を吐き、煙草を咥えて火をつける。  どこか虚空を見つめて煙草を吸っていたその研究員は、ボソッと、 「メンドくせーからモルモットでも募っかぁ……」  と、呟いた。  *  突然掲示物展示場所に張り出された一枚の掲示物。  その内容の珍しさに、生徒達は歩みを止める。  『求む被験者。即席物質生成魔法薬のサンプル収集に協力を』という見出しのその掲示物は、どうやら学園の研究者の貼ったものらしい。  とはいえ字面だけでは頭に疑問符を浮かべる生徒が多数。だからこそ、歩みを止めて説明の部分を読んでいたのだろう。  説明の部分には、  ・刺激を与えると物質へと変化する魔法薬の開発に成功したこと。  ・その魔法薬を服へと変化させる実験をしていたこと。  ・実験では、服にはなるが形状も種類もバラバラで、何の法則性も見いだせないこと。  ・研究者だけでなく、もっと多くの人数や種族数のデータが欲しいこと。  が書かれていた。  研究が終了し服が思い通りに形成出来るようになれば、普段使いする服はもちろん、戦闘用の服や孤児用、妊婦用などにも幅広く対応が出来る。   だからこそ手を貸してくれと、生徒達へと頼んでいるのだ。  時間指定は今日の放課後、場所は研究棟一階、第一実技ルーム。  未来のため、その研究を手伝うことを決めた生徒達は、日時と場所を、忘れないように心に刻むのだった。
今日は惚れ惚れ 宇波 GM

ジャンル ハートフル

タイプ EX

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2020-05-25

予約期間 開始 2020-05-26 00:00
締切 2020-05-27 23:59

出発日 2020-06-03

完成予定 2020-06-13

参加人数 8 / 8
「はっ……はぁっ!」  学園の廊下を走る。  当てもなく、ただひたすら走る。  少しでも離れるために。  うっかり目を合わせないために。 「どうしてこんなことに……!」  息も絶え絶えに、逃げ切れたと思った恐怖が目の前に迫るのを見て、絶望に染まった表情を浮かべる。 「わたしに近付かないでください!」  そして彼らは、目が合った。  事の発端は数時間前。  本日、職員の朝礼が始まる直前のこと。  朝礼に遅刻することが稀である勤勉な職員たちが集う職員室に突如転がり込んでくる、歓喜の雄叫び。 「できた……! できたんだよぉ! 聞いてくれよ、できたんだよぉ!」  無精ひげを生やし、長い間手入れしていないのが分かる脂ぎった髪をアフロのように爆発させた男性。  彼の胸元には【ウツ・ケ】と書かれたネームプレートが斜めに下がり、羽織っている白衣は皺だらけになっている。  心なしか、少し臭う。  そんな彼の手にあるのは、大きめの瓶。  中身は白い錠剤がいくつも入っている。 「できたって……それ、なんです?」  比較的勤続年数を重ねている女性職員が顔を顰めながらも彼に話しかけている傍ら、新人として入ってきた後輩職員は、書類を確認しながらコーヒーに舌鼓を打つ【ウケツ・ケ】へ囁く。 「先輩……。あの人、誰ですか?」  ウケツはほんのわずかな時間だけ、ウツに視線を遣る。  その視線はすぐに書類へと戻っていく。 「ああ、この学園に在籍している研究職のひとりで……金食い虫のような男ですよ」  苦々しく吐き出したウケツの言葉に、後輩は思わずウケツの顔を二度見する。  普段穏やかな表情に、一瞬だけ現れた眉間の皺。  すぐに消えたそれが、見間違いかと瞬きを繰り返す後輩の髪がウケツの鼻腔を擽る。 「ところで香水でも変えました?」 「え? 香水なんて付けてませんけど……」 「おかしいですね。いい匂いがすると思ったのですが」  しきりに匂いを嗅ぐウケツの姿は、大型犬を彷彿とさせる。  ややくすぐったく感じている後輩の鼓膜を劈く、女性職員の声。 「ウケツ先輩! コーヒー飲んじゃダメ!」 「え?」  呆けたように呟くウケツ。  その手元にあるマグカップの中身は、既に半分以上、その姿を消している。  顔面蒼白になる女性職員。  訳も分からずマグカップを握りしめているだけのウケツ。  そして、愉快な見世物でも見ているかのように、厭らしく笑むウツ。  マグカップの中のコーヒーが、丸い波紋を浮かべる。 「ウケツ先輩。よーく聞いてくださいね」  女性職員は意を決した様子で、やや早口で伝える。 「この研究職が作ったのは、いわゆる『惚れ薬』です」 「は、はい」 「そしてこの人は、それをウケツ先輩のコーヒーに入れました」  ウケツは条件反射で吐き出そうとする。  無論、吐くものなど何もない。  空咳だけが苦し気に響く。 「先輩、飲んでしまったものはしょうがありません。聞いてください」  女性職員がウケツの肩を掴み揺さぶる。  それは女性職員さえも冷静さを欠いているかのような、やや乱暴な揺すり方。  しかしその視線は泳ぎ、ウケツと目を合わせようとしない。 「それは飲んでから時間を経るごとに効果を増していきます。初めの数分間はまるで出会いたてでまだ恋を知らない少年少女のような甘く初々しい気持ちが芽生えます。そう、目が合った人誰もにその気持ちを抱いてしまうのです」  ウケツは思わず先ほどまで会話をしていた後輩に顔を向ける。  後輩は勢いよく顔を背けた。 「続けて第二段階。薬を飲んでから十分、あるいは十数分の間に起こる症状です。それは思いが通じなくてもどかしくなる、苦しい時期……。そう、片思い期に突入するのです。片思い期では、出会い期に目が合った人限定で苦しい片思いのような気持ちを抱きます」  ウケツは後輩の方向を勢いよく見た。  後輩は筋を傷めないだろうかと心配するほど勢いよく顔を背けたままでいる。 「そして効果はクライマックス。薬を飲んできっかり三十分で起こる症状、熱愛期。片思い期で片思いを抱いた人の内、三十分経ってから初めて目を合わせた人に、狂おしいほどの愛情を抱きます。……厄介なことに、異性だけでなく、同性とそうなる可能性もあるそうで……」  ウケツは以下略。  後輩は以下略。 「惚れ薬の効果で惚れた相手と一緒になれるのなら、別に元に戻さなくても支障はないそうなのですが……」 「至急、元に戻る方法を」  語気を強めた声で、ウケツはウツの方を睨む。  ウツはウケツの視線を受け、興奮に頬を染め、身を震わせながら高らかに叫ぶ。 「なぜ愛情を否定するんだい? それは素晴らしいものであるのに! ああ、それともウケツ。君は人を愛することを恐れているのかい?」 「あなたの一人芝居に付き合っている暇などありません。元に戻る方法を教えなさい、ウツ」  ウツは眉を下げ、つまらなそうに口角を上げる。 「しょうがない。他ならないウケツのために教えてあげようじゃぁ、ないか」  ウツは白衣の裾を翻し、窓際へと歩いていく。 「ひとつ。この薬を飲んだ別の者と、ハグ、オア、キス。段階は互いに関係ないよぉ。薬さえ飲んでいれば、キスで目覚める姫の如く互いに目が覚めるであろう。……ふ、ふふっ」  ウツの含み笑いに、ウケツは眉を顰める。 「他にも方法があるのでしょう。……あなたが人を食うような笑い声を発するときは、大抵他の手を隠して人をおちょくっている時だ」 「ん、んー。昔の純真なウケツはどこに行ってしまったんだろうねぇ? ……まあ、いいさ。そうとも、手はもうひとつある。それは……」 「それは?」  ウツは瓶の中身を窓の外へとぶちまける。 「惚れ薬をもう一錠飲むことさ! さすれば呪いは解かれるであろう!」 口を大きく開き、驚きを表現するウケツたち。 「ああ、安心して? これは偽物だからさぁ。本物はね……」  遠くの方から、騒がしい音が聞こえてくる気がする。  嫌な予感に耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。  ウツは手を薄っぺらく振り、軽薄な笑みを浮かべた。 「学園内にばら撒いてきたからさぁ。食堂とか、購買とか? だからねウケツぅ」  ウツは、ただひたすら睨むウケツを余裕な笑みで流した。 「元に戻れるといいねぇ?」 「……っ! みなさん、今すぐ食堂と購買に連絡を! 至急、流通を止めてください! わたしは今から校内放送で呼びかけます!」  ウケツが再び睨んだ窓際には、ウツの姿はもうなかった。
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