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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
コルネ・ワルフルド



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Evil or Holy? SIGINT GM

ジャンル コメディ

タイプ ショート

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2020-12-30

予約期間 開始 2020-12-31 00:00
締切 2021-01-01 23:59

出発日 2021-01-07

完成予定 2021-01-17

参加人数 6 / 6
●教官:ケイ・オ・ス 「むぅ……」  教官用のデスクに行儀悪く足をかけて、唇と鼻の間に鉛筆を挟んでいる男がいた。彼の名は【ケイ・オ・ス】。学園の教官の一人だ。そして、様々なことを学園で学び幾度の戦闘経験を積んで、学園に教官として戻ってきた一人でもある。 「通常授業だけではやはりつまらん!」  やるせなさとストレスによるものか、デスクに置いた足をドン! と音を立てて落とし勢いよく机に向かう。彼は学園に通う愉快な学生たちに対して、カリキュラム通りに行われている授業だけでは物足りなさを感じていた。そこには彼が学園生であった時のような、また彼が様々な魔物と戦ってきたときのような、イレギュラーが足りていないのだ。その思いはついボソッと言葉になる。 「カオスが足りない」  もっとも学園では日々カオスな出来事が起こっている。あるいは今もまさにその最中かもしれない。しかし彼はことごとくその渦中に存在することができていないのだ! ある時は担当している授業中。ある時は非番で知らず。またある時はぎっくり腰――。  フルトゥーム・スクエアには数々の非凡な学生がいる。しかし彼の周りには平凡な日常しか転がっていない。  そんな不満が募った彼は自身の呟きにひらめきを得る。 「そうだ! 俺が、俺自身がそのカオスの中心になればいい!」  その顔は真剣にいたずらに取り組む子どものようだった。彼は挟んでいた鉛筆を手に取ると特別授業の計画書を書き始める。 「待ってろよ……。絶対にカオスな授業をやってやるからな」 ●???  とある人物のもとに1枚の申請書が届いていた。 「なになに~授業計画?」  よほど暇だったのか、彼女は気まぐれにその計画書にさっと目を通す。 「『邪悪』と『神聖』……? いいじゃん! 面白そ~☆」  にやりと笑った彼女はその計画書にすらすらとサインをする。 「でも溜まってるみたいだし、残念だけど今回は観察だけかな!」 ●学内掲示板  学内各所にある、お知らせが貼り出される掲示板にわらわらと人が集まっている。  なにやら物珍しいものがあったのだろうか? 皆が同じ掲示物に注目しているようだ。  皆の視線の先にはこのような掲示がされていた。  ☆課外授業「邪悪と神聖」   特別授業を執り行う。希望者は事前に申請すること。      ◇集合場所:第一校舎「フトゥールム・バレス」の教室。   ◇時間:土曜日の昼休み明けから3時間程度。   ◇人数:6名まで。参加希望者があふれた場合は抽選で決める。   ◇『邪悪』とは?    邪悪なオーラを纏い、闇属性になる状態異常。   ◇『神聖』とは?    聖なるオーラを纏い、光属性になる状態異常。   ◇授業概要    『邪悪』と『神聖』について詳しく学ぶ。   ◇授業形式    前半は座学で『邪悪』と『神聖』について理解を深める。    後半は屋外練習場に移動する。    『邪悪』と『神聖』の2グループに分かれてもらい、    選択したグループの状態異常にかかってもらう。    各グループ最大3人まで。    なるべく均等に分かれるのが望ましいが、各グループ3人を超えないのであれば問題はない。    ※危険な状況になった場合は教官が仲裁に入るので気を付けるよう。   ◇授業目的    『邪悪』や『神聖』は、かかる状況は少ないながらも扱い方を間違えると危険な状態異常。    実際に体験することによって、その危険性を深く理解し、    冷静な付き合い方・対処を行うことができるようになることを目指す。   ◇支給品    選択したグループの状態異常を解除するアイテムを一人一つ支給する。                                      教官ケイ・オ・ス
あなたと私のクリスマス K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2020-12-27

予約期間 開始 2020-12-28 00:00
締切 2020-12-29 23:59

出発日 2021-01-05

完成予定 2021-01-15

参加人数 6 / 8
●【セム・ボルジア】という人について  学園のどこか。生徒の目につきにくい場所。  とんがり帽子にミニスカ姿の少女と、スーツにコートを羽織った女――学園長【メメ・メメル】とセム――フルネームはセム・ボルジア――が相対している。 「――ほう、生徒さんが私のことを疑っていらっしゃると? 心外ですねそれは」  と口にするものの、セムはさして不快そうにしていなかった。むしろ楽しんでいるようでさえある。表情においても言葉においても。 「そーうなのだよセムたん。まあ、オレサマもまだ多少は疑っているがなー。なにしろ評判が評判だしな」  メメもメメでまた、不謹慎なほど愉快そうだ。もっとも彼女はいつ誰に対してもそんな感じだ。 「例えばどういう評判ですかね?」 「策を弄して商売敵を倒産寸前に追い込むとか、困窮してる相手の足元見て、ビタ銭で根こそぎ剥ぎ取っていくとか、有力者に賄賂掴ませて有利に商談を進めるとか、あんまりやり口がきついから、一部で『毒マムシ』と言われているとか」  かわいらしく小首を傾げる相手に、セムは、笑いながら応じる。 「よくお調べになってらっしゃる」  それにおっかぶせる形でメメの口調が、一段とざっくばらんなものになった。 「まあな。なにしろうちの若いモンを妙な仕事に使われたら困るからな」 「なるほどなるほど。で、その評判についてのご感想は?」 「そーだなー、ま、オレサマ的にはその程度のことならそこまで問題視しねーかな。どれもこれも商売人あるあるだからな。つーか、実の話問題にしようがないんだわ。どの例を取ってもセムたん、法の範囲内でやってるから。すげえ黒いんけど黒じゃなくてグレーみたいな?」 「ええ。私、法は順守する立場ですから。後々損になるようなことはしたくありませんのでね」 「おー、それを聞いて安心したぞオレサマ。けど、もひとつ、なんか気になる噂を聞いたんだわ。そこんとこ確認取らせてもらっていいか?」 「ええ、どうぞ。どういう噂ですか?」 「うむ、『セムは全財産を我がものとするために、親兄弟を毒殺した』とゆー物騒な噂だ」  セムは、今度は笑わなかった。だるそうな顔付きで一言、こう返しただけだ。 「それは事実と異なりますね」  それから服の胸元をまさぐり、タバコを一本取り出す。 「吸っても構いませんか?」 「いいぞ。ここは禁煙スペースじゃねーしな」 「そうですか。では遠慮なく」  タバコに火がついた。  セムは吐き出した煙に目を据える。自分の外側でなく内側に向いている眼差しだ。 「親兄弟が全員死んだところと、それによって私が全財産を継いだところだけは本当ですけどね。しかし生徒さんたちを不安がらせるのは、私の本意ではありません。この際ですから学園長、あなたに許可を願いたいのですが――」 ●学園に最も近い場所にある、『ホテル・ボルジア』系列ホテル。  イルミネーションに輝く正面玄関をくぐれば、真っ赤な絨毯が敷かれたロビー。そびえたつツリー。  氷の瀑布と見まごうシャンデリア。着飾った男女が笑いさざめきながらその下を通り、それぞれお目当てのパーティー会場に向かう。  その一角に、フトゥールム・スクエアの制服を着た一団がたむろしていた。彼らはホテル経営者であるセムの招待を受け、ここに来ている。クリスマスパーティーを楽しむために。  タキシードに身を固めた【アマル・カネグラ】は、ロビーの天井近くまで届きそうなツリーを見上げている【ガブ】【ガル】【ガオ】の狼ズに声をかける。 「駄目だよ、そんなところでぼーっとしてちゃあ。歩く人の邪魔になってるよ」  狼ズは『お、おう』と生返事を返し、隅っこに寄った。普段の彼らであれば注意してきたアマルへ悪たれの一つも言ったはずなのだが、絢爛な場の空気に呑まれてしまい、それどころではなかったようだ。  生徒監督として同行している【ドリャエモン】は、困惑したような顔である。光の塔と化したツリーを見上げ、ため息をつく。 「なんともはや、派手なことだのう……」  そこに【ラインフラウ】が声をかけてきた。 「あらー、いらっしゃい皆さん。お待ちしていましたのよ♪」  アマルは即座に鼻の下を延ばした。なにしろ彼女、肌も露なカクテルドレスに身を包んでいる。アクセサリーやメイクと相まって、いつもの数倍色っぽく見える。抜かりなく花束を差し出し、豚しっぽを振ってお辞儀。 「これはラインフラウさん、この度はクリスマスパーティーにご招待ありがとうございます。ところでセムさんは?」 「ああ、セムなら仕事が終わってから来るって。こっちよ」  招かれるまま生徒達は、彼女について言った。そして、会場に足を踏み入れる。  パーティーの用意は、すっかり出来あがっていた。  ビュッフェにはホテルの一流シェフが作った本格的な料理が並ぶ。肉もあれば魚もあり、野菜もあれば果物もある。  対象が学生だからか、酒類はほとんど置いていないが、飲み物もたくさんある。そして目にも美しく食べておいしい宝石のようなスイーツ群……。  ホールの一角には楽隊の席がしつらえてあって、絶え間無く楽しげなメロディーを奏でている。  この豪勢なおもてなしに、生徒達は歓声をあげた。  ラインフラウはワインをグラスに注ぎ、高く持ち上げる。 「まあ、肩肘張らず皆、気楽に楽しんで。そのうちアルチェの有名歌手も来るから」 ●保護施設。  【トマシーナ・マン】は大部屋の中央に飾った小さなツリーの飾り付けを終え、満足そうだ。小ぶりなぬいぐるみ、人形、靴下、色とりどりの真鍮玉、棒キャンディー、金銀モール、綿、それからねえたんたちと一緒に作ったジンジャークッキー。 「さいこうのできばえね、みらたん」  【ミラちゃん】は頷くような動きをし、ツリーの天辺に乗った。どうやら、星の役目をするつもりらしい。  施設の庭先では【ラビーリャ・シェムエリヤ】が、結界の柱に針金を巻きつけ、小さな発光石を取り付けていた。  ここはあくまで保護施設であるから、あまり目立つような物は作るべきではないだろうが、まあ、季節が季節だしちょっとくらいはイルミネーションを……と考えて。  雪の結晶を模した白と青の光が庭のあちこちを彩り照らしていく。 「ラビーリャ先生、ご苦労様です」  【トーマス・マン】が暖かいココアを持ってきた。  ラビーリャはにっこりし、そのココアを受け取る。 「……ありがと」  一口すすって晴れた夜空を見る。ホテルのパーティーに行った生徒達は、今頃何をしているのだろうと思いながら。
去る年、どんな年でしたか? 夜月天音 GM

ジャンル 日常

タイプ マルチ

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2020-12-25

予約期間 開始 2020-12-26 00:00
締切 2020-12-27 23:59

出発日 2021-01-02

完成予定 2021-01-12

参加人数 7 / 16
 快晴の朝、魔法学園『フトゥールム・スクエア』、勇者・英雄コースの授業が行われている教室。 「今年もそろそろ終わりです。今年はどんな年でしたか? やるべき事は出来ましたか? 立てた目標は成す事が出来ましたか? 新しい出会いがありましたか?」  本日最初の授業が始める前に女性教師が、今年最後とあってか神妙な様子で話し始めた。 「という事で、突然ですが、皆さんで年越しを祝えるようにと本日の放課後から夜にかけてファンタ・ブルーム大講堂内の特設スペースで忘年会を開催します。飲んだり食べたり今年起きた事を誰かと語り合ったり新しい出会いを見つけたり今年の失敗をさっぱりと流したり、大いに騒いで下さい」  表情は崩れ、笑顔で学生達にとって予想外なイベントの開催を知らせた。 「強制参加ではありませんので、何か予定があればそちらを優先してくれて問題ありませんからね」  急な催しという事もあり、予定を持つ学生達を気遣うのも忘れない。誰もが騒ぐ事を好むわけではないから。 「さあ、話は以上です! 授業を始めますよ! 年越しを楽しく迎えるためにも頑張りましょう!」  イベントの説明が一段落した所で、女性教師は声に力を込めて、学生達の緩む気持ちを正してから本日の授業を始めた。  丁度、他のコースでも同様の話が行われていた。
宿り木の下に唇を盗んで 桂木京介 GM

ジャンル ロマンス

タイプ EX

難易度 とても簡単

報酬 ほんの少し

公開日 2020-12-23

予約期間 開始 2020-12-24 00:00
締切 2020-12-25 23:59

出発日 2020-12-30

完成予定 2021-01-09

参加人数 4 / 6
 聖夜近づく真冬の夜に、身を寄せ合うようにして歩くふたつの影。  ひとりはとんがり帽子、もうひとりは毛糸の帽子――ご存じ【メメ・メメル】学園長と教師【コルネ・ワルフルド】だ。  雪こそ降らねどしんしんと冷え、いまにもちらりちらりと白いものが舞い落ちそうな気配、鈴の音のかわりに聞こえるものは、霜柱踏みしだく足音ばかりである。 「なぁ、コルネた~ん」  白い息を吐いてメメルはコルネを見上げた。 「お正月の御年酒買ってくれとか言ってもだめですから。ていうか学校の予算を酒代に使わないでくださいっ」 「まだなんも言っとらんだろーが! オレサマが猫なで声だしたらおねだりとか決めつけるでない!」  えっ、とコルネは意外そうな顔をした。 「じゃあおねだりじゃないんですか?」 「クリスマスのスパークリングワイン買って! ブランデーでもいいけど♪ できれば両方……あはっ☆」 「ぶちますよ」  こわーい、とメメルは両腕をさするようなポーズをした。けれどコルネは愛想笑いのひとつもしない。  歳末ゆえどうも予算関係の話はまずいようだ、と悟ったか、 「いや冗談だよジョーダン、酒の話ではないわいな」  じゃあなんの話で? という目をするコルネに頭上を指して言う。 「見よ。星がきれいだなあ」 「そうですねえ」  コルネも警戒をといたらしい。毛糸の手袋をはめた手で、マフラーを首元に引き上げ空を眺める。 「頭の上の木が見えるかコルネたん? あの葉っぱのあるやつ」 「クリスマスツリーじゃないですよね」 「そうともあれは宿り木(ヤドリギ)といってな、他の木に寄生して緑の葉を茂らせる。寄生っていっても他の木から養分を吸い取っとるわけじゃないぞ。ちゃんとお日様を浴びて自力ですくすく育っていると言われておるのだ☆」 「そういえばあれはブナの樹ですね。ブナの葉はぜんぶ落ちちゃったのに、くっついてるヤドリギのおかげで上の方は青々としてます♪」  勉強になりました~、というコルネに、うんうんとメメルはうなずいた。 「ヤドリギにはキュートな伝統があってな。クリスマスの季節に、ヤドリギの下にいる女性はキスを拒むことができないというのだ☆」 「本当にやったらぶちますよ☆」  にっこりしているがコルネは、手袋の拳をがっちりかためている。 「コルネたんマジこわーい♪」 「これも学園長先生の教育のたまものですよ☆」  コルネの左フックがシュッと風を切った。  ★ ★ ★  あっ、と小さく声を発して【イアン・キタザト】は反転して背を向けた。 「見てませんから!」 「……気にしなくて結構、キタザト先生」  フルフェイスの兜を持ち上げ、【ネビュラロン・アーミット】はかぶり直す。  金具を下ろす冷たい音が冴え冴えと響きわたった。  夜空には銀の月、頭上にはヤドリギの葉、学舎を遠くにのぞむ散歩道だ。他に人影はない。 「眠れなくてつい、散歩していたらですね。ふと姿をお見かけして……」  ごくりとキタザトは唾を飲みこむ。正直、この人は苦手だ。  心臓が高鳴る。  とっさに見てないと口走ったがあれは嘘だった。  見てしまった。  ネビュラロンの兜の下を。真夏の海ですらさらさぬ素顔を。  目撃したのは右側だった。頬にざっくりと深く長い傷跡があった。刀創(かたなきず)だろうか。  髪は栗色、長く伸ばしており目元は隠れていた。ただ一瞬風が吹き、まぶしそうに歪めたまなざしがちらりとあらわれた気がする。  美人というよりは可愛い、って感じかな、意外なんだけども――。  だがこんなこと、片言でも口にすれば即叩き斬られそうな気がする。  ネビュラロンは無言だ。  カチッ、と音が立った。 「もう振り向いてもらって結構」  向き直ったネビュラロンは、全身甲冑に兜、おなじみのあの姿である。 「はい、どうも、こんばんは」 「こんばんは」 「冷えますね。明日あたり雪になりそうだ」 「まったく」  一応世間話してみようと試みるし相手も応じているとはいえ、 (ヤバい、間が持たない――!)  もうキタザトはいっぱいいっぱいだった。  ええい、ままよ!  いざとなればダッシュで逃げる覚悟で息を吸い込む。 「ごめんなさい先生、僕、ちょっとだけですけどお顔を見ちゃいましたー!!」 「ああ」  けれどネビュラロンは落ち着いている。 「傷があったでしょう?」  言いながら彼女は右の手首、手甲(ガントレット)に左手を添えた。  手甲を外す。右手首から先は何もなかった。 「このとき一緒に失いました」 「どこで?」  反射的に言ってしまったことをキタザトは激しく後悔した。間違いなく気分を害するだろう。無言で行ってしまうかもしれない。  だが意外にもネビュラロンは、 「遠い空の彼方で」  素直に答えて顔を、夜空へと向けたのだった。  ★ ★ ★  薄暗い部屋。  まったく似合わないサンタ帽をかぶって、線香みたいにケーキに立てた細長いロウソクを前にして、そのロウソクにも負けないくらい白い顔をした【ゴドワルド・ゴドリー】先生が、クリスマスソングをソロで歌っている。  でもケーキ皿はふたつあるのだ。  あら不思議。  ★ ★ ★  星降る雪降る聖なる夜。  ヤドリギを見上げるは、寄り添うふたつのシルエットだろうか。  それとも待ちぼうけを食わされているシングルガールか。  気になるあの人とすごそう。  一方通行の想いとて、今夜ばかりは伝わるかもしれないから。  あるいは独りで心の静寂を求めるか。  それもまた、佳いものなのだから。
雪と共に落ちゆく 駒米たも GM

ジャンル シリアス

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-12-21

予約期間 開始 2020-12-22 00:00
締切 2020-12-23 23:59

出発日 2020-12-29

完成予定 2021-01-08

参加人数 6 / 8
 俺たちは息をしながら死んでいる。  誰かがこの状況を絶望だと言った。  絶望?  資材が無い。金が無い。時間が無い。食べ物が無い。  畑を耕す牛馬が無い。病を治す薬が無い。仕事を見つける学が無い。  村を出るだけの勇気も無ければ、助けを呼ぶだけの気力も無い。  何より、生きる意欲が無い。  もう疲れてしまった。  これは絶望なんかじゃない。  ただの、無だ。 「ようこそ、みなのしゅ〜。デスマーチへ」  いつものように微睡みながら保健室に生息している客員教授【メッチェ・スピッティ】が不吉な言葉を口にした。  いつも慌ただしい保健室だが、今日は輪をかけて忙しない。 「グラヌーゼに行ったことはあるかメェ? ぶっちゃけ貧しくてご飯も医療も人手も足りてない。無い無いづくしの寂しい土地だメェ〜」  運ばれていく木箱の山など気にするなと言わんばかりに、メッチェは仮眠室へと生徒たちを誘導した。  部屋の中央に運びこまれた黒板にはどこかの配置図が貼られている。くすんだ紙の上には所々、大きな赤いバツ印が記されていた。  仮眠室はいつの間にか作戦室に衣替えしていたようだ。 「ただでさえ冬は厳しいのに今年は病が流行しているとの報告があったメェ〜。普段ならグラヌーゼ南部に学園から治療士と応援物資を派遣して、栄養をとって温かくして寝てろ、と言って終わるところだが。……昨日、治療院として使っていた建物近くの防護柵が壊され、魔物の襲撃を受けたとの報告があったメェ」  低くなった声に部屋の温度が下がる。 「病人はこれからも南部に集まってくる。しかし現場は怪我人が増え医療崩壊超えて医療アポカリプスな状態。柵は壊れ、襲ってきた魔物は無傷で去り、今は羊の蹄すら借りたいというありさまだメェ〜」  デスマーチの内容がいま、明確な像を結ぼうとしている。 「今回はあっちが引率する。回復魔法が使える生徒は治療院の手伝いを、索敵や攻撃に長けた生徒は魔物の追跡を、交渉が得意な生徒は混乱した民間人を宥めて情報収集に当たってほしいメェ。薬も食料も不足してるけど、そこは自分で何とかするメェ〜」  じゃあ準備よろしくとメッチェは軽く手を上げフラフラとした足取りで去っていった。  部屋に残った生徒は思った。  メッチェ先生、めっちゃ早口できるじゃん……。
怪獣王女☆見参! 桂木京介 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 通常

公開日 2020-12-19

予約期間 開始 2020-12-20 00:00
締切 2020-12-21 23:59

出発日 2020-12-27

完成予定 2021-01-06

参加人数 5 / 6
 ものすごい顔をして【メメ・メメル】学園長は男にとびつき、両手を彼の肩に乗せて前後に激しくゆさぶった。 「マジでか!?」 「……本当なのよォ~」  小柄な男だ。小柄だがまんまるだ。平らな頭頂ぷくぷくボディ、前後に貼り出していて足も大きい。なにかに似ている。そうだ樽に似ている。ワイン樽のような体型なのだ。整ったあごひげが生え口ひげは豆のつるみたくカールしており、髪まで謎のカールをしているところは、トランプのキングのカードを思わせる。  顔がキングのワイン樽男、彼は名を【マグナム・ワイナリー】という。  このマグナム氏がK(キング)顔を泣き顔にして言うのは、 「メメちゃん助けてェ~」  救援依頼だったりする。 「このままだと今年の新酒、持って来れないのよォ~」 「ノォォォ!」  メメルは銅版画みたいな形相で天を仰いだ。 「よくぞ集まった我が精鋭たちよ☆」  集結した君たちを眺めメメルはマグナムを、ワイン醸造所の事業主だと紹介した。 「氏は広大な葡萄畑と、これまた特大のワイン醸造所を有しておってな。ここで作られるワインが最高なのだよ♪ オレサマのおすすめは白! 豊潤な味わいながら適度なすっきり感、どんな料理にもあいグイグイ飲めるのに後味も最高なのだ。けれど赤ワインも良い! 力強い滋味にパンチの効いたアルコール分、こいつでステーキとか焼肉とかやりだしたらついつい飲み過ぎてしまってなぁ……マグナムのところの赤で酔うとオレサマ、セクシーな気分になっちゃうんだよなぁ……☆」   語りが止まらなくなりヨダレを垂らしそうな表情になってゆくメメルを止めるべく、隣に立つ教師【ゴドワルド・ゴドリー】が軽く咳払いした。 「あー学園長、お話が脱線しておりますが」 「オホン、失礼した。マグナムブランドのワイン新酒は一般的なものよりやや遅くてこの時期でな、毎年オレサマはできたてのボトルを届けてもらっておるのだ♪ 多少だがな」 「多少、って昨年も10ケースほど購入していた気がします。コルネ先生が嘆いていた記憶が……」  ゴドリーの言葉を、メメルはさらりと聞き流す。 「ところがだな諸君! 昨日突然、マグナム・ワイナリー醸造所が正体不明の敵の襲撃をうけ占領されてしまったというのだ! これはゆゆしき事態だぞオイ!」 「そうなのよ~困ったの~」  妙にねちっこい口調でK顔マグナムがなげいた。口調のせいかあんまり困っているように聞こえないが、実際のところ大変困っているらしい。 「なんかねぇ、ちいさい女の子ちゃんがやってきたのよぅ。もこもこのガウン着た子が。10歳くらいかしら?」  こんなことを言ったわ、とマグナムは少女の口まねをして告げた。 「ヘイボーイ! わちきは【怪獣王女】☆ コズミックエッグよこすのじゃ!」  怪獣王女? コズミックエッグ? なんのことかしらぁ? とマグナムが優しく問い返したとたん王女は牙をむいたという。 「なんかねー、卵をたっくさんばらまいたのよう。そこからムクムクって紫色の蛇が出てきて~」  蛇といってもリアルな大蛇ではなかった。なんかぷにぷにしており、つぶらな瞳をもつぬいぐるみのような蛇だったという。大きさは大人一人ぶんくらいだが愛嬌はあった。  で、これがたくさんいた。 「許しがたいことにな! こいつらワイン樽をこじあけてワインを飲みおるという!」  本当に怒っているらしくメメルは顔を真っ赤にしていた。 「酒飲む蛇、要するにうわばみということになるのか!? くっそー! やつらのためのワインじゃないぞ! オレサマのためのものだ!」  白熱するメメルをさえぎるように、黒衣白顔のゴドリー先生が前に出る。 「使命は単純だな。この『うわばみ』たちを倒し怪獣王女なる怪人物を追い払うことが主旨だ。醸造所内は樽が大量に置かれており、鉄製の醸造機器も連なってジャングルのようになっている。敷地面積は8ヘクタールというからかなりのものだろう」 「ウチではワインの付け合わせ用のチーズとかピクルスも作ってるの~。ワインはもちろんのこと、付け合わせの製造場もできるだけ守ってくれたら嬉しいわぁ」 「どうやらその怪人物は『コズミックエッグ』なるものをワイン醸造所に求めているようだが。コズミックエッグとはなんなのか……やはり卵なのか? 見当もつかんな」  ゴドリーは首をかしげマグナムを見る。トランプ風の紳士も首をすくめた。(もっとも、彼は首が短くほとんどないのだが) 「そうなのよ~、ウチは養鶏所じゃないし、ぜんぜん思いつかないわぁ。メメちゃんはわかるぅ?」  マグナムが水を向けるも、メメルは『さっぱり』とお手上げポーズを取っただけである。 「ところで学園長、怪獣王女というこの人物に心当たりはありませんか」 「ないぞ☆」 「学園長のお知り合いだという気がするのですが、なんとなく」 「えーそんなヘンチクリンな子オレサマ知らなーい☆ マジでマジで~」  本当なのかトボけているだけなのか、ひょっとして忘れているだけなのか、そこらあたりは定かではない。 「ともかくだなチミたち! ワインや付け合わせの被害は最小限に! 怪獣ナンチャラとかいう娘にはキツ~いお灸をすえてやってくれたまい☆」  最後にっ、とメメルは力強く言った。 「ゴドリーたん締めの一言を頼むぞ! できるだけ場を和ませるようなのをなっ!」 「いきなりですか! えー……勝利のあかつきにはワイナリーでお祝いナリー!」  しばしの沈黙の後、ハックションとマグナム氏がくしゃみをした。冷えたようだった。
ヒノエ・イン・ザ・シティ 桂木京介 GM

ジャンル 冒険

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 少し

公開日 2020-12-17

予約期間 開始 2020-12-18 00:00
締切 2020-12-19 23:59

出発日 2020-12-24

完成予定 2021-01-03

参加人数 4 / 4
 きらびやかな盛り場もひとつ角を曲がろうものなら、たちまちのうちに黒と灰色の二色に沈む。  夜の黒。  石畳の灰色。  路地裏の色だ。  ときたま駆け抜けていくネズミとて、その二色のいずれかである。  チーズのかけらでも見つけたか、足を止めたネズミが泡を食って壁の穴に飛び込んだ。  漏れる薄明かりに照らされて、赤い姿が歩みきたる。  少女だ。真紅のドレス、炎のような赤毛、履いているヒールすら太陽の舌のよう。不器用ながらメイクをしている。どうやら年齢以上に見せようとしているようだが、その試みは成功しているとは言いがたい。十代、それもせいぜいなかば頃だろう。  「うむ」  少女――【ヒノエ・ゲム】は腕組みする。  そろそろやるか。  空腹で目まいがしそうな気分だが、気力で忘れることにする。  それにしても左腰が寂しい。背中もだ。弓と矢筒、それに矢まで残らず質屋に出したのは失敗だった。森で食料を調達するのもままならない。まあこんな都市(まち)の近辺で、まともな獲物がとれるか疑問ではあるが。  さっと前髪を直してきっと視線をただし、できるだけ内股で歩き出す。レディーというのはそういうものだと父親に聞いたことがある。  建物と建物のあいだから観察して、手頃な相手を物色した。  間もなく見つかった。単独の男、酒に酔っている。  毎回ここでためらう。知らない男に声をかけることにヒノエは慣れていない。ましてや弓も矢もない丸腰では。  それでもおもむろに歩み寄り、 「あー、時間は、あるか。お前」  唐突にもほどがある口上を男に述べた。 「私はいま、とても暇だ。よかったら、あー、遊ばないか?」  視線が平泳ぎからクロールへと転身を遂げる。我ながらアホかと思う言葉だが、これが案外効果があるらしい。  男は、ちょっと一杯引っかけて帰るところといった風体だ。あまり頭髪は豊かではない。腹も出ている。激安っぽいジャケットが悲しいくらいよく似合っていた。 「うんぁ?」  男は湿り気のある視線でヒノエを見た。ニワトリの品定めをするような視線だ。  なんだガキじゃねぇか、という気持ちがないわけではなかった。きゅっとした猫目、眉は長い。鼻は低いものの顔はまあまあ可愛いほうだろう。でも衣装は全然似合っていない。野育ちといった感じでどうにも垢抜けない。  しかし――だがそれがいい、という気持ちのほうが勝った。男の鼻の下がにょきにょきと伸びた。  田舎うまれの家出小娘が背伸びしているのだろう。もしかしたら今夜の宿もないのかもしれない。連れ込んであれやこれや……想像がむくむくと育っていった。 「よし、おじさんが遊んであげよう」 「そうか。こっちだ」  ヒノエが先導し男を裏道に連れ込んだ。  数分せぬうちにグエという声がした。  ヒノエは男を見おろし、手にした財布を調べている。男は白目をむいており、麻の紐で丁寧に縛られ転がっていた。 「これだけか!?」  機嫌の悪い牛みたいにヒノエはうなった。男の所持金はあきれるほど少ないのだった。これでは借金返済など千里の先だ。今夜の食費だってまかなえるかどうか。 「こんなのでよく……」  あきれ果てる。  この街に来てわかったのは、男というのはどうしようもなく馬鹿だということだった。ちょっと誘えばホイホイついてくる。どう考えても怪しいというのに、まるで疑ってもみないらしい。男は後先を考えることができないのだろうか。  もっとも父様は別だが――とは言い切れないか。  彼女の父親は事業に失敗し、さる筋にかなりの借金を作ってしまったのだ。絶対成功すると信じて大きく借りすぎたのがまずかった。なんとか猶予はしてもらえたものの、現在父は某所にて監視下にある。ストレートに言えば人質だ。  無計画すぎたんだ。  事業の失敗は一種の事故によるものだったが、悔やんだところで仕方がない。  それでもヒノエにとって父は唯一の肉親である。助け出すつもりだ。絶対に。  待ってて、父様。  あと二三人物色してみよう――ヒノエは黒と灰色のなかに姿を消した。  えへえへと愛想笑いする男に、【ルガル・ラッセル】は本能的な嫌悪感を抱いている。  どうも好かない、この手の手合いは。  男はいわゆる優男だ。女にはもてるだろう。もっとも、頭に包帯を巻き右目に青あざを作っていなければ、という話になるが。 「それでですね先生」  揉み手しながら優男【ジェリー・バームクーヘン】は言った。 「凶悪な小娘でしてね。おぼこい見た目ながらとんだ美人局(つつもたせ)だ。男を誘っておいていきなりこれですよ」  目と頭の傷を示した。 「ということはお前、小娘にのされたってのか」 「え……? 違う違う、これはきっと、そう、共犯者でさ。後ろからバキっとやられたんですよ。そうでないとこのジェリー・バームクーヘン、おいそれとやられはしません」  どうも疑わしい。けれどルガルは追求はやめておいた。 「わかった。で、その娘と共犯者か? そいつらをブチのめせばいいんだな」  そういうことです、とジェリーはニヤニヤと笑った。 「前金はこちらです。あとは成功報酬ということで」  かなりの額だった。  無造作に受け取って、ルガルは手を左右に払った。 「わかったからテメエは消えろ。終わったら娘を連れて行く」 「任せましたよ」 「カネの分はやってやるさ」 「加減なしでお願いしますよ」  返事の代わりにルガルはジェリーに視線を向けた。  炎であぶられた刃のような目つきだ。ジェリーは肝を冷やして退散した。  ジェリーがいなくなると、ルガルは壁に背中をあずけて荒い息を吐き出した。心臓が早鐘のように打っている。必死で隠してきたがもう限界だ。  白い聖女の仮面を貌に押し当て、ルガルは深く深呼吸した。
打倒!ゴブリンジェネラル 橘真斗 GM

ジャンル 戦闘

タイプ ショート

難易度 難しい

報酬 多い

公開日 2020-11-27

予約期間 開始 2020-11-28 00:00
締切 2020-11-29 23:59

出発日 2020-12-05

完成予定 2020-12-15

参加人数 6 / 8
●懸念を晴らすために ―某村―  住民20名ほどの小さな村は冬が始まろうとしているこの時期に家の立て直しなどを進めていた。  ゴブリンジェネラルに襲撃され、麦畑や家畜がなくなり冬ごもりをわびしく過ごすことになったのだが、  全員生きていたという事だけが救いでもある。 「皆さん、炊き出しの準備ができましたよ」  この村の教会を一人で切り盛りしているシスターが鐘を鳴らしてお昼を告げた。  自分の家が壊れて食べれない人が多い中、備蓄してあった食料を削ってふるまってくれるシスターも村人達の救いである。 「早いところ立て直さねば冬がきちまうべな……」 「そったらこともあるけども、また奴らが来ねぇとも限らねぇべさ」  炊き出しを口にしながら村人達は再建を早くしたいという事と、また襲われるのではないかという2つのことに頭を悩ませていた。 「まずは、ご飯を食べてゆっくり眠れる場所を作りましょう」  暗い話をしている二人に近寄り、慈愛あふれる笑顔を向けたシスターは心の中で思う。 (ゆうしゃにこちらからお願いしなければいけませんね……) ●逆襲のシナリオ 「ゴブリン退治はないの!」  【アスカ・レイドラゴ】は教室の掲示板に食いつくようにみるが先日出発したばかりだった。 「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。ちょうど来たんだよ~。そのゴブリン退治依頼」  息まくアスカを落ち着かせた【コルネ・ワルフルド】はシスターからの依頼内容を説明していく。 「今回はゴブリンジェネラルの住処の討伐のお願いになるね。相手の根城へ行くのだから普通は任せられないんだ」  確かに、前回は少数で向かってなんとか2体の副官を倒すだけで精一杯だった。  今度はその根城をたたくとなれば勇者の数だって相当数必要になる。 「けれども、傭兵組合とも話がついて合同作戦という形をとることになったんだよ」  にぃとコルネは曇り顔のアスカに笑いかけた。 「ゴブリンジェネラルの根城についてはユリ先生が調査済み、他の村を襲いに行く前にこちらから攻めていくんだよ!」  ぐっと握った握りこぶしを頭上に掲げてオーとコルネは腕を振り上げる。  ゴブリンジェネラルの話を聞いていた生徒達からは同じように手を上げるものは少なかった。 「報酬についても今回は組合も動くということで、しっかりと出るから気合入れて参加して欲しいんだよ。でも、命だけは大事にね!」 「わかっているわ、簡単に死ぬ気はないもの。必ず引導を渡してやるわ」  アスカは闘志を燃やしゴブリンジェネラル討伐への準備を整えにその場から離れる。  三度目の雪辱戦、今度こそと気合は人一倍高かった。
ミラちゃん家――ノア一族の絵 K GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 普通

報酬 通常

公開日 2020-12-12

予約期間 開始 2020-12-13 00:00
締切 2020-12-14 23:59

出発日 2020-12-21

完成予定 2020-12-31

参加人数 5 / 8
●接触すれば火花散る  施設関係者の監督下【カサンドラ】との会談を終えた【黒犬】は山奥のアジトに戻り、これからどうすべきかを考えた。  そして『やはり、どうにかしてノア一族の肖像画を、カサンドラに見せなければならない』という結論を得た。呪いについての記憶をいち早く取り戻させるためには、確実にあの絵が必要なのだ。  だがしかし、絵がある場所はサーブル城。そのサーブル城には現在【赤猫】が居座っている。 (くそ、面倒な……)  極力近寄りたくないというのが本音だが、そう言ってばかりもいられない。多少は無理を通さねばならぬ。他ならぬ自分自身の身に関わることなのだから。  ということで彼は、城の偵察に赴くとした。天気がよく、気温が高めな日を選んで。そういう日であれば、赤猫が城の外へ浮かれ出ている可能性が大なので。  人目につかぬよう通常マスチフの大きさにまで身を縮め、群れを引き連れ城を目指す。うんと大回りに、『幻惑の森』を経由して。 (果て無き井戸は避けるべきだな……奴はあそこから出入りするから)  枯れた木立や茂みに身を潜めつつ、城方面の気配を探る。  ……赤猫の魔力は感じない。 (うまいぞ、どこかに出ているな)  黒犬は男の姿に変じ、城に入る。  彼自身は意識していないが、それは、かつての習慣の名残だった。ノア一族はバスカビルを、城に入るときは基本人化するように躾けていたのだ。城内を土足で汚さないように。  手下の犬たちはそのまま黒犬について行く。どうもいい気持ちがしない場所であるが、ボスがいるなら大丈夫だろうと心得て。  ちなみに彼らのあずかり知らぬことであるが、城の中に住みついている有象無象な魔物たちは、黒犬の訪問に迷惑顔をしていた。赤猫が留守にしている間息抜きしていたのに、と。  とにもかくにも城の中は荒れていた。  廊下の壁や柱はあちこち爪とぎの傷だらけ、カーテンも同様、シャンデリアは落ちて粉々、という有様。明らかに赤猫とその一味の仕業だ。  黒犬は苦々しい顔をする。 (あのどら猫……こんなにあちこち汚しやがって)  彼は自分を今の状態に陥れたノア一族を恨んでいるし憎んでいる。だが城には古巣としての愛着を持つ。だから、荒らされると腹が立つ。  その腹立ちが頂点に達したのは、ホールに入ったときだった。  本来そこにはノア一族の肖像画が、壁一面を占領する形で掲げられていた。  しかし今その絵は、床に落ちている。粉々と称して差し支えない状態で。  黒犬は怒りの咆哮が吐き出し、絵の残骸を探り回る。カサンドラが言っていた箇所――男女のノアを描いた部分が残っていないかと。  そのとき、強烈なアルコール臭が彼の鼻の中に入ってきた。  振り向けば少女の姿をした【赤猫】が、柱にもたれ掛かっている……どうやら黒犬が来た気配を察知して、出先から戻ってきたらしい。 「なんだ、ポンコツ元気そうじゃない。ぞろぞろ汚い野良犬引き連れてさ」  そう言って彼女は凶暴な笑いを浮かべ、雷を放った。  手下の犬が数匹、一瞬で感電死する。残りは悲鳴を上げる。 「あんた、なんだか最近また人間とつるんでるんだって? 本当に犬っころなんて、徒党組まなきゃ何も出来ない連中よね。今更そんなものに鼻突っ込んでかき回してさ、飼い主が恋しい?」  あからさまな侮辱に黒犬はいきり立ち、赤猫を殴りつける。  赤猫は即座に殴り返す。  ――結論から言えばこの場における戦いは、黒犬側が圧倒的に不利だった。  何故なら彼は古巣を荒らすことに抵抗感を持っている。そのため屋内で万全に力を振るうことが出来ない。  だが赤猫は違う。彼女にとって城は愛着の対象ではない。建物内の何をどう傷つけても平気だ。だから力を万全に振るえる。  両者の強さはほぼ拮抗し、甲乙付けがたい。  であればこの場合、無分別な方が勝つに決まっている。 ●野を超え山超え届け物  ここのところ【ドリャエモン】は本業の合間を縫って、【トーマス・マン】に勉強を教えている。職員見習いとしての肩書きを得たからには、読み書き計算の能力をしっかり身に着けなくてはならない。と考えて。  トーマスは利口な子だが、教育の面では幾分立ち遅れている。親が存命のうちは学校へ通ったこともあったそうだが、孤児となって妹ともども親戚の家に引き取られて後は、そういったこととは一切縁が切れていたのだ。農作業の手伝いばかりに追われて。 「あ、おじいちゃん、いらっしゃーい」  施設門のところまで来た途端ドリャエモンは、【トマシーナ・マン】に飛びつかれた。 「おお、トマシーナ。今日も元気で何よりじゃの」  ひょいと抱き上げられ肩に乗せてもらったトマシーナは、うれしくてきゃっきゃと笑う。その声を聞きつけたのか、【ミラちゃん】がどこからともなく飛んできて、トマシーナの肩に乗った。 「トーマスはおるかの?」 「うん、いる。カサンドラせんせいと、えをかいてるの」 「おお、そうか。ではそれが終わるまで、少し待とうか」 「おじいちゃん、おじいちゃん、おそらとんでー」 「おお、よいぞ。少しだけな」  ドリャエモンは翼に力をいれ、ばさばさ動かした。大きな体がふわっと浮き上がる。そんなに高くは飛ばない。せいぜい施設の屋根あたりまで。でもトマシーナにとっては、まるで大空の中を飛んでいるように感じられる。両手を広げ、胸いっぱいに風を吸い込み、目を輝かせる。 「わー、たかいたかーい」  そこでミラちゃんが、トマシーナの肩から離れた。あやしむようにその場で一回転し、地上へ降りていく。  一体どうしたのだろうと、ドリャエモン、そしてトマシーナは、そちらへ顔を向けた。  そして見つける。山道を登ってくる犬の群れを。  トマシーナは大声で、建物内にいる兄を呼んだ。 「にいたん、にいたん、わんちゃんがいっぱいおともだちつれてきたー!」  ほどなくしてトーマスとカサンドラが、外へ出てきた。  伝令犬はあちこちミミズ腫れ状の火傷を負っていた。  トーマスの姿を見るや情けなそうに鼻を鳴らし、尻尾を振る。 「どうしたんだ? 何があった?」  そう言いながら伝令犬を引き寄せたトーマスは、急いでベストを探った。  そこには、黒犬からの短い手紙が入っていた。 『例の絵だ。カサンドラに必ず見せろ。何か思い出したらようなら、すぐ手紙で伝えろ。俺はしばらく動きが取れない』  トーマスは心配した。手紙に茶色い染みがいくつもついていたから――もしかしてこれは、血ではないだろうか。  伝令犬の後ろからぞろぞろと、似たような状態の犬が15匹ばかり現れる。  皆、大きなボロ布を咥えていた。  カサンドラには一目で分かった。それが油絵のキャンバス地であると――散々引きずってきたせいで泥だらけになり、何が描いてあるのかも判別しづらくなっているが。
嘘つきロビン 海無鈴河 GM

ジャンル 日常

タイプ ショート

難易度 簡単

報酬 少し

公開日 2020-12-07

予約期間 開始 2020-12-08 00:00
締切 2020-12-09 23:59

出発日 2020-12-18

完成予定 2020-12-28

参加人数 2 / 5
「どこにいるの! 返事をして!」  昼下がりのとある町。人の多く行き交う大通りで、若い女性が叫んでいた。  その表情は必死で、周囲の目など気にもしていないようだった。  あまりにも切羽詰まったその様子に、花を売る屋台を出していた夫人が彼女に声をかけた。 「あんた、誰か探してるのかい?」  声をかけられた女性は、はっとした表情で屋台の方に視線を移す。そして、こくりとうなずいた。 「ええ。息子が昨晩から見当たらなくて……」 「昨晩から!? そりゃ大変だ。名前は? 年はいくつだい? 服装は?」 「名前は【ロビン・ムーア】。年は6歳です。昨日はお気に入りの青いシャツを着て、膝までのズボンをはいていました」  夫人は周囲の住民たちに声をかけた。 「だれか見かけなかったかい?」  すると、広場で楽器を弾いていた若い男が声をあげた。 「なんかガキが1人で泣いてたから声をかけたんだ。どうしたんだ、って。そうしたら、『お母さんと仲良くなったんだ』って言って走っていっちまった。なんだかあべこべだったが……ありゃ、なんだったんだ?」  男が首をかしげる。それを聞いて母親はそれは、と事情を話し始めた。 「ロビンはちょっと不思議なところがあって……あの子が話すことは全部嘘なんです。例えばあの子が『東に行く』と言ったら本当は西に行く。『おいしい』っていえば、本当は不味いと思っている……という風に」 「ってことは、あれは『お母さんと喧嘩しちゃったんだ』ってことか」  男の解釈に母親が頷いた。 「最近、あの子が言うことを聞かないので叱っちゃって……そうしたら『お母さんなんて大好きだ!』って言って飛び出しちゃったんです……。ああ、何かあったらどうしよう……」  言っていることはあべこべだが、今にも泣きだしそうな母親の表情に、夫人は彼女の肩をそっと抱いて慰めた。 「大丈夫だよ。もう少し町で話を聞いてみたら、何かわかるかもしれないよ」 「はい……」  2人は大通りを中心に聞き込みを続けた。 「その子なら昨日の夜見たわ。重たそうな本を抱えていたけど……」 「今朝早くに走っていくのを見かけたから声をかけたの。そうしたら『北に行くんだ』って言ってたわ」  1人で出歩く小さな子供の姿は目立っていたらしく、いくつか目撃情報が集まった。 「とはいえ決定打に欠けるねえ。もう少し聞いてみようか?」 「そうですね……っ!!」  突然、母親が地面に崩れ落ちた。額から汗が噴き出て、顔は苦痛に歪んでいる。  夫人は慌てて彼女の様子をみて、はっと気がついた。  膨らんだ腹部。 「子供がいるのは分かってたけど、あんた、もしかしてもうすぐ……」  こくこく、と母親は頷いた。 「安静にしてないとだよ」 「でもロビンが!」  母親は這ってでも息子を探しに行きそうな勢いである。夫人は周囲を見回し、最近町でよく目にする制服姿を見つけて声をかけた。 「そこのあんた! 迷子の子供を探してくれないかい!?」
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