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はいはーい! 今日の課題はここで確認してね~……って、こらー!
言うことちゃんときけ~! がおーっ!
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アナタ達の未来は続いていく
春夏秋冬 GM
ジャンル
イベント
タイプ
EX
難易度
普通
報酬
なし
公開日
2022-06-17
予約期間
開始 2022-06-18 00:00
締切 2022-06-19 23:59
出発日
2022-06-26
完成予定
2022-07-06
参加人数
7 / 8
長きに亘る魔王との因縁は、ひとつの結末を得た。 それがこの先、どうなるのか? 知る者はいない。 なぜならそれは、これから作られていく未来なのだから。 それは世界だけでなく、そこに生きる皆も変わらない。 そう、アナタ達も、この先は続いていくのだ。 魔王との決着がついた今、アナタ達は、何をしていますか? これまでと変わらず、授業に出ているだろうか? あるいは、これを機に、新天地を目指すのだろうか? それとも、自身にまつわる因縁を解きほぐしに行くこともあるかもしれない。 仮にアナタ自身は、これまでと変わらず生活しようとしても、アナタと関わる誰かの因縁と向き合っていかなければいけないかもしれない。 それ以外にも、事は起るだろう。 魔王は倒され赤ん坊になってしまったけれど、魔王を信仰していた者達が、そのまま終わるとも限らない。 ひょっとすると、魔王に変わって世界に動乱を起こそうとする者もいるかもしれない。 それに、この世界だけで済むとも限らない。 異世界と繋がってしまった、この世界は、今後も色々な世界と関わることがあるかもしれない。 中には、邪悪の化身のような者が、暗躍し始めているかも? 異世界から、この世界に訪れた学園生ならば、元居た世界との関わりを強めていく橋掛かりになる人物も出て来るかもしれないだろう。 いくつものいくつもの、未知が溢れているのだ。 それがきっと、世界というものだ。 そんな中で、アナタ達は、どう未来を進みますか? 自由に、好きなように、アナタ達の物語を進めてみてください。
はじまりの唄
桂木京介 GM
ジャンル
日常
タイプ
EX
難易度
簡単
報酬
ほんの少し
公開日
2022-06-17
予約期間
開始 2022-06-18 00:00
締切 2022-06-19 23:59
出発日
2022-06-24
完成予定
2022-07-04
参加人数
6 / 6
夜が明けた。 ふだんと変わらぬ朝であっても、いや、ふだんと変わらぬがゆえに、胸に響く朝がある。 世界は魔王の復活をまのあたりにし、それでもこの大厄を乗り越えることができた。 それも、いささか意外なかたちで。 魔王は学園長【メメ・メメル】の双子の兄、二千年以上過去に失われた【ルル・メメル】の姿をとって復活した。 同時に魔王軍は進軍を開始、フトゥールム・スクエアにも魔の手はおよんだ。 魔王は、あらゆる生命がもつ『恐怖』の感情を原動力とする存在である。魔王の復活は恐怖を生み恐怖は世界中に伝播して指数関数的に急増、これが魔王をますます活気づけてついに世界は魔王に屈し滅亡にいたる――これは誰にでも容易に想像のつくストーリーだったろう。 しかし筋書き通りにはいかなかった。 魔王と対峙するものは先手を打って、世界に息づくものたちの大半を異世界に退避させ、魔王から力の源を奪ったのである。 このため魔王は本領を発揮できず、魔王軍先遣隊も、学園を狙った部隊も、そしてついに魔王自身も、魔王に対峙するものたち、つまり君たちの前に敗れ去ったのだった。 だが決着は、一方が一方を滅ぼして凱歌をあげるという結果にはならなかった。 完全ではないかもしれない。しかし戦いは和解と融和に終わったということは書いておきたい。 その象徴が魔王の肉体、すなわちルルその人だ。ルルは赤子にもどり、学園の庇護を受けるにいたった。未来をになう小さな命に。 戦いがもたらしたのは終わりではない。はじまりなのだ。 この掌篇では、魔王復活につづく『その後』を語りたい。 君は戦いを終え、どのような気持ちで日常へと戻っていったのか。 学園生活でつちかった友情や恋を、どのように結実させるのか。 あるいは、どのように新たな旅立ちへと向かったのか。 教えてほしい。
母が鳴く夜
土斑猫 GM
ジャンル
シリアス
タイプ
EX
難易度
難しい
報酬
多い
公開日
2022-05-28
予約期間
開始 2022-05-29 00:00
締切 2022-05-30 23:59
出発日
2022-06-08
完成予定
2022-06-18
参加人数
6 / 8
気づくと、『チセ・エトピリカ』は地獄の中にいた。 赤黒く濁った色の空間。眼下に広がるのは、血の彩に染まった泉。鉄錆の香は馴染みの深いそれよりも、より生々しく滑りつく。 覚えがあった。 故郷で暮らしていた頃。 森の奥で、妊婦が山猫に喰い殺された。 畜牙による死は穢れ。下層の民だったチセに、弔いは任された。 引きずり出された胎児。満ちていた匂い。 忘れられる、筈もない。 果たせず、流れた羊水。 逸らした視線の先。 泉の中央。小島の様な何か。細いモノが絡み合う頂上に、うずくまる影一つ。 人丈程もある、鳥。 ならば、此れは巣だろうか。 違和感に、目を凝らす。 響いた声。 泣き叫ぶ、女性。 鼓膜を裂き、底までつん裂く。鳥の鳴き声と気づくと同時に、羽撃く音。 翼を広げる鳥。飛び立つのだと思った。 更なる音が、鳥の慟哭を塗り潰す。 嬰児の泣き声。 何百何千もの、母を求める声。 鳥がもがく。 飛び立とうとするのに、飛び立てない。 手。 巣の中から伸びた無数の手が、鳥の脚を掴む。 巣を形造るのは、枝などではなく。 骨。 山と積もるは、黒く爛れた嬰児の骨。 カタカタカタと肉も舌も無い口で泣き叫び、鳥の脚を掴んで離さない。 まるで、去る母に行くなとすがる幼児の様に。 「此れは……何……?」 吐き気に抗いながら、呟く。 『『呪い』さ』 聞こえた声。振り向いた先、陽炎の如く揺れる影。覚えがあった。 「『渾沌(こんとん)』様……?」 『やあ、我が巫女の一欠片』 正しく、其は覇王六種が一柱。『滅尽覇道・饕餮』の臣下にして端末。 『三凶・渾沌』。 「此れは……あなたが……?」 『半分当たりで、半分外れだ』 嘲笑う様に、声が揺れる。 三凶の中で最も感情の発露が顕著。故に、最も油断がならぬ相手。 そのつもりであれば、感情の帳その闇に。真実を隠すも容易い筈。 『此処は。此の世界は、ある『呪い』の根源。そしてかの鳥、『姑獲鳥(こかくちょう)』はその呪いの主さ』 「呪い……ですか?」 『ああ、かくも哀しく悍ましい。生物の業が生せし真の『毒』だよ』 曰く、此れは『母』の妄執によって生まれた呪い。 子を成したい。産みたい。育てたい。愛したい。 其を望み、されど叶わなかった母の無念。 余りに強き念は残留し、呪いと化して顕界に干渉を始める。 人の手を媒体とし、女性の身へと根を下ろす。 媒体となった者の望みに従い、望んだ属種、絶対受胎の理を女性の身に刻む。 其れは対価。 己の妄執を達する為の手駒。彼に対する、せめてもの。 女性が懐妊し、出産した時。呪いの真の歯車は回り始める。 まず一つ。 生まれた子は、決して母たる女性との絆は保てない。 遅かろうと早かろうと。 離別であろうと死別であろうと。 母子は別れる。 例え、如何に互いを愛していても。 根源は、嫉妬。 己は叶わなかった。なれば、誰にも叶わせない。 全ての母に、己と等しき悲しみを。 苦しみを。 愚かしきも浅ましく。そして空しき嫉妬。 もう一つ。 生まれた子は、死して天に昇れない。 変性し、リバイバルとして顕界に留まる事も出来ない。 不遇の死であっても。天寿を全うしたとしても。 呪いの爪痕を刻まれた子らの魂は、死した瞬間輪廻の理から引き剥がされる。 呪いの根源の元へと引き込まれ、かの者の愛児として囲われる。 悲しみと憎悪をほんの束の間に癒す、永久の愛玩として。 そしてかの者もまた、その対価を払う。 かの者の下に積み上げられた愛児達は、母を求める。求めて泣いて。かの者へと縋り付く。 かの者は飛び立てない。 己が集めた幾多数多の子の妄執に絡められ、終わりも始まりにも至れない。 だから、かの者はまた呪いを散らす。 永久に潰えぬ悲しみと憎悪。 其を束の間癒す為。 延々、延々と子を集める。 子は増える。 すがる手もまた。 飛び立つ術なく。 また集める。 狂々、狂々。 因果を回す。 「……何故ですか?」 震える口で、チセは問う。 「子を生せず亡くなる方も、子と望まぬ別れに至る方も大勢います。わたしも、村で幾つも見ました。悲しい事ですが、どうしても失くせぬ世の理と存じています。ソレが、この様な呪いに至ると言うのであれば、此の世はもっと怨嗟に塗れる筈。そうならぬと言う事は、相応の救いがある筈です。なのに、何故この方は……」 『簡単さ』 嗤う気配。嘲りとも、自嘲とも。 『あの鳥の、母としての在り様を絶った……喰らったのは、饕餮だからさ』 「!」 息を飲むチセを、また哂う。 『何を驚く? 饕餮が君達に誑かされたのは、ついこの間の話だろう? その前の饕餮は知っての通り、単純な剪定システムだ』 また曰く。 かの鳥の前身たる母たる者の種族。過ぎた繁栄と搾取の果てに、饕餮に『対象』と認識された。 産みの痛みも。抱く温もりも。与える愛も。貰う愛も。そして、見送る明日も。 ――その全てを、たった一刻。一口の元に――。 『かつての饕餮はただ『過ぎた』存在を刈り取るだけのモノ。その過程・結果における『副産物』なぞ、まあ』 ――知ったこっちゃないからね――。 含み嗤う声。かつて在った、深淵の理。 そして、ソレは今もきっと。 「何を……」 震える声を、引きずり出す。 「何を、わたしに……?」 『聡明で、結構だね』 見初めた者の察しの良さに、少しだけ。 『先に断言しよう。此の呪いは、『些事』だ』 些事。この地獄を、些事と言うのか。 『完成し、『免疫』となった饕餮はこの呪いを世界に対する『毒』と認識した。程なく、捕食に動く』 ああ、また喰らうのか。喰う事によって生じた地獄。其れを、また。 『けど、その前に君達に『此れ』を任せる』 「え……?」 『饕餮が、知りたがってるのさ。此の地獄を、己を変じさせた君達が如何様に捌くのかを』 絶句するチセに、滅尽の端末は語る。 『選択は自由だよ。饕餮が動く事が確定した時点で、詰みは決定している。介入するかは、君達次第』 感じるのは、その言葉の奥に。 「……お伺いしてもよろしいでしょうか?」 『何だい?』 「わたし達が、拒んだら……?」 『饕餮が、喰らうだけ』 全てを見越した、悦の気配。 『かつての母たるかの鳥も、累々広がる子らの御霊も』 ――回帰叶わぬ、滅尽の奈落に根こそぎ――。 饕餮による剪定。其は、此の世に害悪無用なモノと言う断定。 饕餮の性質が毒を排する免疫抗体となった今、成される決定は更に絶対。 『饕餮は、世界と己の理に準じるのみ』 笑いながら、渾沌は問う。 『さて、君達ならどうする?』 沈黙するチセに、追い打つ様に。 『あまり、悩む時間は無いよ?』 彼は告げる。 『碌でもない、『クソ蟲』が狙ってるから』 その呼称に、今度こそチセは息を飲んだ。 ◆ 「……ウッソでショー……」 妙な胸騒ぎを感じ、その場所を調べていた道化の魔女『メフィスト』。 果てに見つけた存在に、流石に心底呆れた声を漏らす。 ソレは、静かに地を這う黒い霧。 触れた草花を枯らし、逃げる鳥を落として進む。まるで、何かを求める様に。 優れた術者であるメフィストの感覚は、先に在るモノを見通す。 「……『呪い』、デスネ……」 看破するのは、真理の向こうに到達した者の英知。 「あの呪いを取り込んで変性し、饕餮の『特効』を抜けるつもりデスカ……」 悍ましき執念に哀れみまで感じながら、息を吐く。 「そんなにも、『妬ましい』のデスカ……? この世界の、歩み続ける命が……」 かのモノは、すでに生けるモノにあらず。ただ、怨念破滅の衝動のみにて蠢く現象。 「『人形遣い』……」 其は悪意。 かつて負念の赴くままに世界を喰らおうとした悪魔。その、残滓。
【幸便】封じられた魔物とハレの土地
根来言 GM
ジャンル
戦闘
タイプ
EX
難易度
とても難しい
報酬
多い
公開日
2022-05-16
予約期間
開始 2022-05-17 00:00
締切 2022-05-18 23:59
出発日
2022-05-27
完成予定
2022-06-06
参加人数
6 / 8
エルメラルダのとある土地の話。 その場所は遥か昔、大樹海とまで呼ばれた場所であったらしい。 数多の植物で溢れ、土は潤い、泉は常に透き通り、数多くの動物がその恵みを享受していたらしい。 人々も、自然と同化するように木々の上や洞穴で豊かな生活をしていたらしい。 ……『らしい』というのは、それが今では架空の出来事のようなものとなってしまったから。 その地は毒々しい木々が生え、土は枯れ、雨水以外に飲み水は無く、汚染された動植物や魔物以外の生物が存在しない土地。生命は毒を含む果実や虫、あるいは魔物。常人ならば食料だとはとても思えない物ばかり。 ただ、珍奇なことにそのような土地でも、生活する人々は存在したという話もあったそうだが、それもまた『らしい』に過ぎない。 姿は巨大な鳥。 10m以上もある巨大な翼。 炎のように輝く羽とその身体。 人々はその鳥を『神の使い』とし、畏怖し、そして信仰し。 人々はその鳥を『不死鳥』とし、恐怖し、そして討伐していた。 幾度も蘇り、幾度も倒され、そして再び蘇る。 最後に倒されたのは確か……そう、10年前。 〇 かつて程の強大な魔力はまだ蓄えられておらず、復活したばかりといったところか。 倒すならば、今が絶好の機会と言えよう。しかし。 (この距離でワタシの魔力を……。無意識なのでしょうがなかなかきつい) 【ブラッド】は同行する生徒達と共に、不死鳥の行方を探っていた。 魔物が集まる土地、人々が寄り付かない、あるいは殆ど居ないような場所。 あるいは先代達の残した手記や地図、封印の書物を残した場所。 ……手がかりを元にたどり着いた場所が、この地であった。 「……撤退する前に、少しでも手がかりが欲しいところではありますが」 「早く帰ろ!? このままじゃ死んじゃうよぉ!?」 生徒は、かなり大袈裟に(本人にとっては大真面目なのだろうが)泣き喚く。名前は【アデル・ミドラ】と言ったか。 よわ……いや、慎重そうな雰囲気がある。学園側はブラッドの生存最優先でこのような生徒を送りつけたのだろう。数分でも目を離せばすぐに死んでしまうのではと思わせるほどに頼りない。 (危険な行動は慎めというメッセージなのでしょう。死なれては学園側とこぎつけた協力関係を壊してしまう) 「……今回はここからの観察のみにしましょう」 もう少し近づいて見てみたかったのだが、と。その姿を目に焼き付けようと観察を再開する。 「……あれは」 不死鳥の身体に違和感を感じ、身を乗り出して凝視した。 違和感の正体は、輝く身体に不釣り合いな、色。 本来の柄や色とは異なり、左右対称でもなければ、均一の大きさでもない。 蛍光色の点が幾つか散らばっているのだ。 「なんでしょうあれ。アナタは分かりますか?」 「んー……蛍光塗料っぽいかなぁ? 悪戯で何回かつけられたことがあるけど―――って、言ってる場合じゃないっ! 魔物が来てる、早く逃げよ!」 「……成程」 (バカ息子様はタダで死んだわけでは無かったワケですね。……これは良い収穫です) 〇 「勿論キミはその不死鳥に挑むんだろ?」 「その通り、【メメ・メメル】。必ず連絡をしろという命令をされましたので、これでよろしいのでしょう? 生徒もワタシも無事帰還です」 「命令なんて、オレサマはお願いしただけだぞ♪ ブラッドたんは何をするか分からないからな! ま、無茶しなかったようでよかったよ」 「……アナタから信頼を勝ち取ることは難しそうですね」 不死鳥の住処は、巨大なクレーター状の土地。 その中心で蔦のような物に身を包む不死鳥。その周囲には魔物が溢れかえっている。 1体1体はそう強くはなく、生徒達ならば撃破はそう難しくない相手だろう。 「一番厄介なのはやはり、不死鳥の存在自体。魔力を枯らすんだっけ?」 「不死鳥を討伐するにしろ、封印するにしろ攻撃を与える必要があります。しかし大抵の傷は一瞬で治ってしまう。……ですが」 僅かに頬を緩ませ、ブラッドは続ける。 「以前挑んだ者が着けたと思われる、傷の痕を確認しました。喉元、羽の付け根に幾つか。いずれも不死鳥の弱点かと。そこを狙い撃ちできればかなりの効果があるかと」 「以前……? あぁ、もしかしてレオナルドたん? キミ達と折り合いが悪そうな事を聞いていたけど、なんだかんだ言いつつ、キミ達の為、人々の為に戦ったって感じだな!」 「……。そういえば、そちらにお世話になっていたようで」 第2のメメ・メメル、あるいは最強の魔法使いを自称していた【レオナルド・ガイギャックス】。 その最後は人々の敵である不死鳥と相打ちとなったということなのだろう。非常に勇者らしいものだったのかもしれない。 「優秀だったぞ。実力はオレサマに遠く及ばないがな」 「かの魔法使いにお褒め頂けるとは。バカ息子様も誉でしょう」 (功績はそこそこのものだったのでしょう。少なくとも10年は魔物を無力化できたわけですから。彼が亡くなったことでもう封印に使える血液はワタシが所有しているものだけになってしまったわけですが) 封印の結界を張るために必要なものは3つ。 1つ目は戦力。倒す、封印するにせよ不可欠だろう。 2つ目は封術。封印の術式を使用するための知識、魔力、が必要だ。 3つ目は血液。術を使用する為の触媒として、無くてはならない物である。 1つ目に関しては、学園側との協力を結び、補う手筈になっている。 2つ目と3つ目に関してはブラッドが補うことができる。 ……逆に言えば、ブラッドにしかできないということなのだが。 協力の見返りはブラッドより学園側への知識の提供。これには封術の扱い方、結界や魔物の使役が含まれている。 血液に関しても、いずれは他の血統でも同じような魔術を行使することができるようになるだろう。……何十年も先になるだろうが。 「大事な魔法貰ってもいいの? あ、オレサマもしかしてかなり信頼されちゃったカンジ?」 「いいえ、アナタは全く。ですがアナタの育てた学園というものは信頼に値しますから」 「それもそうか。んじゃ、作戦決行まで、屋敷の構造、魔物とかの情報。後は罠とかもあれば。暫くは学園で準備をするんだろ?」 「そうですね。遺書代わりとして書き綴っておきましょうか。魔物が徘徊していますから気を付けて」 顔色を変えずに淡々と話すブラッドに、メメルは頬を膨らます。 「もー、遺書なんて! ブラッドたんは悲観的すぎだぞ? 死ぬこと前提で準備し始めてさ! もっと夢のあることを語ってくれてもいいんだぜ?」 「アナタは楽観的です。カルマに夢を語れと?」 「誰であろうと何であろうと、だ。暗い話ばっかじゃ士気がさがっちまうぜ☆」 「……飽きました?」 「そうかもしれん! ま、士気が下がるのは本当だぞ? 色々ブラッドたんの事聞けたなら、守りたいな~みたいな感じでやる気がでるかもしれないし!」 「……ワタシはおしゃべりを目的として作られたわけではないのですが」 メメルの飄々とした様子に感化されてか、変なことをブラッドは考える。 偶にはバカらしく、目的のないお喋りをしてみても、なんて。らしくないことを考えてもみる。 (バカ息子様であれば、喜んでこの誘いを受けたのでしょう。……あの方の感情はよくわかりませんでしたけど、今なら理解できるのでしょうか?) 単なる戯れとはわかっている筈。けれど。 ブラッドは少しだけ、羽目を外してみることとした。 「それでは、旦那様が好んでいた、特製ハーブティーのお話でも」
それから、これから
K GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
とても簡単
報酬
通常
公開日
2022-05-07
予約期間
開始 2022-05-08 00:00
締切 2022-05-09 23:59
出発日
2022-05-16
完成予定
2022-05-26
参加人数
6 / 8
●つかの間のお別れ 初夏の日差しの中、精霊の【ミラ様】はふわりと保護施設の庭に出た。 懐かしい人間が訪れて来た気配を感じたのだ。 その人間はかつて、保護施設にいた。【カサンドラ】と皆から呼ばれていた。 ちょっと前にこの世のくびきから解き放たれ、新しい生に向け旅立った……はずだった。 一体どうしたのかと尋ねるミラ様に、カサンドラは言った。 『少し猶予が貰えましたので、生きているときに行けなかった場所や見られなかったものを見て回っていたんです。ここが最後の訪問先でして……これが終わったら、新しく生まれてこようと思います。どこに生まれるかは分かりませんが、今度は元気に健康に生まれてこられるということでしたので、とても楽しみにしてるんです』 そして、保護施設を見上げた。 建物は彼女が生きていたときと、全く変わっていなかった。でも中からは、そのときにはなかった賑やかな話し声が聞こえる。 『新しい人達が入っているのでしょうか、ミラ様』 その質問にミラ様は、そうだ、と答える。随分ここに入る人も増えたのだと。 『それはよかったです。リフォームを手伝った甲斐がありました……私が生きているときお世話になった方々は、皆様お元気でしょうか?』 もちろん元気だ、とミラ様は答える。皆この保護施設にせわしく出入りしているとも。 それを聞いてカサンドラは大いに安心する。最も気になっている【トーマス・マン】、【トマシーナ・マン】の近況について尋ねる。 『あの二人は、どうしていますか?』 ミラ様は彼女に、リアルタイムな二人の姿を『視せて』やった。 トーマスは、芸能・芸術コースの教室で絵を描いていた。年上の少年――【ロンダル・オーク】と何か言い合いながら。 『よかった、あの子、友達が出来たんですね。気難しい子だから、ちょっと心配してたんです。前と比べて顔付きが穏やかになりましたね、うんと』 トマシーナは、王様・貴族コースの幼年クラスで算数を習っていた。授業参観の日なのか、【ドリャコ】が教室の後ろで多数父兄に交じり、彼女を見守っている。 続けてミラ様はカサンドラに、施設関係者たちの現状を『視せて』やる。 【アマル・カネグラ】は、相変わらず鯛焼きをどっさり買い込んで小道を散歩。学園に入ってきた時と比べて。少し背が伸びたようだ。 【ガブ】【ガル】【ガオ】の3兄弟は、新入生にからんでいる不良たちをいさめている。 「おい止めろお前ら」 「弱いの相手にイキっても格好悪いぜ」 「ケンカがしたいなら、俺たちが買ってやんぞ」 『まあ、あの子達。変われば変わるものですねえ』 カサンドラはおかしそうに笑った。そして、確実に時が流れていることを実感した。 ミラ様は彼女に言う。外に見たいものがあるか? と。 カサンドラはこう答えた。 『見たいものはたくさんなのですけど、もうそろそろ時間ですので』 ミラ様はカサンドラの気配が遠くに去っていくのを感じた。 行ってらっしゃいと餞の言葉を贈る。新しく生まれたら、またここにおいで。待っているから。とも。 カサンドラは大きく頷いた。 『ええ、間違いなくまた、学園にお世話になりたいと思います』 この場所が、いやこの世界が幾久しく平和であるようにと願いながら。 ●一年後…… 世界の片隅、グラヌーゼの一角に新しい命が誕生した。冬のさなか、冷たい空気が満天の星をきらきら光らせる夜に。 若い夫婦とその家族は、うれしそうに嬰児の顔を見下ろしている。 「まあまあ元気な女の子ねえ。なんて大きな泣き声かしら」 「本当だ。これはおてんばになりそうだなあ」 「名前は何にしましょう」 「そうだなあ……カサンドラってどうかな? この地方出身の、有名な画家の名前だよ」
王冠――それから……
K GM
ジャンル
日常
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2022-04-20
予約期間
開始 2022-04-21 00:00
締切 2022-04-22 23:59
出発日
2022-04-29
完成予定
2022-05-09
参加人数
2 / 8
●呪うものと呪われたものとの対話 自分がどこにいるのか【セム・ボルジア】には分からなかった。 ただ『誰か』が近くにいるのは感じる。 その『誰か』が自分に話しかけてくる。 『お前はこれからも生きていこうと思うか。我らとしてはどちらでもいいが』 突き放すような物言いはセムにとって、親しみを感じるものだった。今初めて聞く声なのに。 「生きていこうと思います。私にはどうしても、やりたいことがあるのだから」 『生きている限り呪いは消えぬぞ』 「かまいませんよ。ノアにとってそれが望むことなのかどうかは知りませんがね」 忍び笑いが聞こえた。 『先にも言ったが、我らはどちらでもいいのだ。いずれ呪いは成就する。あるのは早いか、遅いかの違いだけだ。我らは待てる。いつまでも』 随分気の長いことだ。とセムは思った。 「一体あなたがたは、いつまで生きているのですか」 『我らはいついつまでもある。世が続く限り。人の欲望が、思いが、この世に満ちている限り』 「壮大な話ですね。私はただの人だから、とてもそこまで悠長に構えていられない」 『そうであろう。命あるものは皆そうだ。長命と言われる種族もいつかは死ぬ。ただ早いか遅いかだけ』 その言葉はセムの脳裏に、【ラインフラウ】の姿を蘇らせた。 「……ラインフラウはどうしましたか。とんだ無茶をしてくれましたけど――死んでしまったのですか?」 『いいや、あの女は生きている。何故なら、お前が生きているから。お前が生きているのに自分だけが死ぬなど御免だと、あの女は言ったのだ。我らに。死ぬなら同時がいい。それが出来ないなら――まだ出来ないなら、今ここで死にたくはないと』 「……彼女らしい。実に勝手だ。私はそうして欲しいなんて頼んだことないのに」 『だがお前はあの女を遠ざける気はないのだろう。もしそんな気があるのなら。とうの昔にやっているはずだ』 「ええ、そうです。おっしゃるとおり」 『であれば、この先も似たような事が起きるであろうな』 「でしょうね。ラインフラウってそういう人ですから。それでも、私は彼女が嫌いになれない。どうかしているとしか思えないですけどね、自分でも……もう戻ってもいいですかね。こんなところでいつまでも、ぐずぐず話し込んでいる暇は無いんです」 『ああ、かまわない。行くがいい。そして命ある限り、私たちの城を掃き清めるがいい。私たちの城の番人よ』 遠ざかっていく『誰か』に、セムは鋭く言い返す。 「あれはあなたたちの城ではない。私の城です」 また忍び笑いが聞こえた。 『まあ、よかろう。お前がどう考えようと、それが私たちの望む結果を生み出すことは変わらないのだから。では、城に戻るがよい、番人。お前の城に。麗しきサーブル城に』 ●帰還 【アマル・カネグラ】はせかせかした動きで壁時計を見上げた。 時刻は既に正午を過ぎている。セムとラインフラウを城の地下で発見したのが真夜中だから、もう半日以上はたっている計算だ。それなのに、集中治療室の扉は開かない。 城の地下で見つけたとき、二人とも虫の息であった。なんだかよく分からない武器にお互い胸を貫かれて。 発見者全員で可及的速やかに応急処置を施し、本格的な治療のできる場所に運んだ次第。 セムの会社にはこの件を、まだ連絡していない。するべきではないと思うのだ。必ずや大騒ぎになるだろうから。彼女は、シュターニャにおいて知らぬもののない存在だから。事の次第が知れれば新聞や雑誌がそれっとばかりに書き立てるに違いない。それは、きっと、彼女が望んでいないことだ。自分たちとしても。 「一体どうしてあんなことになっちゃったのかなあ……やっぱりこれも、セムさんの持つ指輪の呪いなんでしょうか、ラビーリャ先生」 【ラビーリャ・シェムエリヤ】はアマルの問いかけに否定的な見解を示す。長い沈黙を挟んだ後で。 「……いいや、そうじゃないと思う。ここでセムを死なせたところで、ノアが得することはない……彼女が死んだら、城の再建を指揮する人間がいなくなるわけだし……ラインフラウの感情的暴走なんじゃないかな……」 ラビーリャは心ひそかに考える。 呪いは確かにノアによって作り出されたものであるが、時を経るにつれ、内容が変質してきているのかもしれない、と。呪いによって倒れた人々の意志や、呪いを求める人々の意志によって……。 ――扉が開いた。 医者が出てくる。 アマルはすぐさま首尾を聞いた。相手のまとっている雰囲気から、どうやら手術は成功したようだと察しはしたが、きちんと確認をとりたくて。 「どうですか、先生。セムさんと、ラインフラウさんの容体は」 「ひとまず峠は越しましたよ。異物は全部取り去りましたのでね。いやいや、何とも大変な手術でしたよ、何しろ至るところに食い込んでましてね」 医者は助手に、患者の体内から取り出したものを持ってこさせた。 それを見てアマルは顔を引きつらせる。 どっぷり血に濡れた刃の至るところに、曲がった刺がついていた。体の内側を食い荒らそうとでもいうように。 「よくこれで死なずにすんだものですよ。特にセムさんの方は、相当危ないと思っていましたけど。なにしろ一般人ですので。でも、たいした運のよさです」 ●それはそれとして別の場所では 【ウルド】一家の住宅リフォームが始まったというので、【トマシーナ・マン】は、手作りのお弁当を携え見学に来た。おじいちゃんである【ドリャエモン】、そして番犬である【黒犬】タロと一緒に。 後で【トーマス・マン】も来てくれるとのことだった。 木の生い茂る郊外。のどかにカッコウが囀る声に合わせ、カンカンクギを打つ音が響いてくる。 彼女は大声を張り上げた。 「うるどたん、あそびにきたのよー!」
雷光斬火
七四六明 GM
ジャンル
戦闘
タイプ
EX
難易度
難しい
報酬
多い
公開日
2022-04-06
予約期間
開始 2022-04-07 00:00
締切 2022-04-08 23:59
出発日
2022-04-16
完成予定
2022-04-26
参加人数
3 / 8
某月某日、魔法学園(フトゥールム・スクエア)に一通の手紙が届く。 ・拝啓――。 何て堅っ苦しい挨拶は抜きにする。【鶯・鳶】(うぐいす とび)だ。先刻の森の化け物退治では、随分と世話になったな。 前置きは無しで、本題に入る。 昨今魔物の活動が活発になってやがる。てめぇらが魔族と呼ぶような薄気味悪い連中の影も、チラホラ見えて来たと聞く。 今後、おまえらが戦ったって言う【驟雨】(しゅうう)や、俺達が森でやり合ったあいつ、【ダンデ・ラ・フォレ】みてぇな怪物が出て来る事も少なくねぇだろう。 そしてその時、毎回精鋭が揃うなんて事もねぇと思う。これだけ魔物が活発に活動してるんだ。手は幾らあっても足りねぇだろう。 そこでだ。お節介だとは思ったが、俺の知るきょうだい弟子連中に、学園への協力を頼む便りを寄越した。全員が全員応えてくれるかは知らねぇが、応じてくれる奴は、学園(そっち)に手紙をくれるはずだ。 まぁ、良くも悪くも癖の強い連中だ。何なら、腕試しくらいして来るかもしれねぇが、そこは祭りだと思って存分に暴れやがれや。 無論、俺も協力出来るならしよう。ただ正直、俺は村を守らなきゃならねぇから、きょうだい弟子が助けてくれるなら、そっちを頼ってくれると助かる。 これからもてめぇらの上げる派手な花火が、人々の笑顔と安寧に繋がる事を祈るぜ――鶯・鳶。 鳶の手紙から五日後。再び学園に手紙が届く。ただし手紙と言うにはあまりにも仰々しい、果たし状のような大きな紙で。 ・弟弟子から手紙を預かった。シュターニャの傭兵組合、シュッツェンで【黄泉夜・涼鶴】(よみや りょうかく)の名を出せ。力を見る。 シュターニャ付近の広原にて、男は風に吹かれていた。 「涼鶴」 筋骨隆々。晒す半身、筋肉の塊。 自身の広い肩幅まで足を広げて立つ姿は、文字通りの仁王立ち。 純粋なヒューマンながら、両腕に施した龍の鱗を思わせる刺青と、生まれ持った鋭い牙のような歯。そして二メートルを超える背丈のせいで、今まで何度、ドラゴニアとの血縁だと間違われた事か。 師曰く、色の弟子の中でも五指の一つ。今までで一、二を争う問題児。 大らかで和やかな黄色を与えられながら、血沸く闘争心に駆られ続ける戦闘狂戦士。 「来たかぁ」 広原にて、狩りで仕留めた獲物に群がり喰らうのけもの達。 群れのボスは先に喰らい終え、周囲を警戒しているが、それは、彼の警戒さえ掻い潜って、瞬足を謳われる速度でも逃げ切れぬ速度で襲い来た。 地中から現れたそれの口に、噛み殺されたボスが垂れ下がる。鎌首をもたげて上を向いた口から、流れるように巨体が丸呑みにされて、丸々と肥え太った腹に収まった。 他ののけものも逃げようとしたが、逃げ遅れた子供の存在がその場に留め、次々と、広原の狩人たる猟獣を喰い殺していくそれは、巨大な蛇だった。 もたげる鎌首は三つ。のけものの群れ一つを呑み込む腹は一つ。 槍の矛先のような形をした尻尾を鞭のように叩き付け、振り回して進む。 稀に振り返って見せる三つの顔に、一つの目玉も無し。空虚の面相を舐め啜る。 「あれが、弟弟子の言っていた、恩讐の、怪物……」 「ふふふははは! 良いぞ! スクエアの小僧共が来る前に、俺が狩るか!」 「落ち着く。それじゃあ、元も子も、ない」 「なら味見だ! おい【レドラッド】! 俺の得物寄越せ!」 「昂るのは、わかる。が、ケンタウロスより、我慢できない……まぁ、だから一緒に行く。決めたん、だけど」 「おいレドラッド! 早く寄越せ!」 「まるで、子供……」 ケンタウロスのレドラッドが、背中に背負った布に包まれた鉾を取る。 布を剥ぎ取り、異形に作られた切っ先を晒した涼鶴は、単身跳び込んで行った。 三つの顔が一斉に向く。目玉のない面相が迎えるのは、嬉々として顔を歪ませる狂戦士。溢れんばかりの殺意(えみ)で笑う男の巨躯を丸呑みにせんと、三つ首の蛇は牙を剥く。 電光石火。 のけものが戦場とする速度の領域で戦う両者の速度は、最早、石を擦り切り火を起こす程度に留まらない。さながら、岩を斬り砕き燃え上がる雷霆。 「雷光斬火(らいこうざんか)!!!」 雷光炸裂。吐かれる毒霧を薙ぎ斬って、硬い鱗に叩き付ける。 雷撃に焼け焦がされながら、斬撃を受けた鱗は鎧の如く弾いて、蛇は尾の先で薙ぎ払う。 鉾同士の衝突が周囲を巻き込み、両者の周囲に生える草花を焼き斬る。周囲が見る影もなく破壊されていく光景を見て、騒ぐケンタウロスの血を収めるレドラッドは、血風荒ぶ空を仰ぐ。 恩讐、疾駆。
どこへもかえらない(メメルの旅路)
桂木京介 GM
ジャンル
ハートフル
タイプ
EX
難易度
普通
報酬
ほんの少し
公開日
2022-04-09
予約期間
開始 2022-04-10 00:00
締切 2022-04-11 23:59
出発日
2022-04-16
完成予定
2022-04-26
参加人数
8 / 8
どうぞー、と言ってドアを開けたのはヒゲの紳士だ。 紳士といっていいだろう。いささか珍妙な紳士ではあるが。 ヒゲといっても頬やあごはつるつるで、生えているのは鼻の下のみ、ところがこれが立派というか立派すぎるというか、細く長く左右に伸びて、バンザイするみたいに斜め上方に飛びあがっているのだ。顔からはみ出ているあたりが実にストレンジである。先日ヒゲは左右に伸びてカールしていた。本日はバンザイスタイルだ。くわえて彼は髪をオールバックにしており、後ろ髪がライオンみたいになびいていた。服はスーツにネクタイである。 この紳士【メフィスト】は、異世界からやってきた貴人にして奇人、しかし飄々としているが、異世界転移門の開発にたずさわり、複数の異世界とこちらの世界の橋渡し役をつとめるなど、最近の情勢をかたるうえで不可欠の存在である。 きみたちが驚いたのは、学園長室の扉のむこうにメフィストがいたことではなかった。 驚いたのはドアの開き方だった。 平常なら『ほれ』だの『入れ』だの、おおよそエレガントとは言えぬ部屋の主からの呼びかけとともに、ドアが内側にすうっとひらくのが基本だった。ノックしようとしたところでドアが急に開いたり、ノックした手からとりこまれて部屋向こうに投げこまれたり、といったイタズラにあった者も少なくない。いずれにせよドアが手動で、しかも部屋の主ならぬ人物の手によって開いた記憶はあまりなかった。 さもあろう。 その人は現在、意識を失った状態で寝かされていたのだから。 執務机は脇に動かしてあり、かわりに大きなベッドが設置されている。 ベッドに横たわる彼女は、微動だにせず人形のようだ。 シーツのように白い長衣で、膝の下まで覆われていた。 両手を組んで胸のうえに置いている。無帽だ。 肌には血の気がない。死んでいるのではと疑いそうになるも、耳を澄ませればかすかな呼吸音が聞こえた。 フトゥールム・スクエア学園長【メメ・メメル】である。 「声を出して大丈夫だよ。学園長はいま、ちょっとやそっとじゃ起きない状態だから」 きみたちの様子に気がつき、【コルネ・ワルフルド】がうなずいてみせた。コルネは笑みを浮かべているが、無理に気丈を装っているようにも見えた。 「メメルさんはいよいよー、初期化技術を受けることになったのですー」 「だからって……」 妙に間延びしたメフィストの口調にいら立ったか、きみたちの一人は彼に詰め寄る。 「オレたちに知らせずに始めなくたっていいだろう!」 ごく単純化して説明すれば、初期化技術とはメメルの能力を引き下げることである。世界最強クラスの魔法使いである彼女を、昨日入学したばかりの新入生同様にリセットしてしまうのだ。言いかえれば、希代の大魔法使いを常人に戻す技術ということである。 魔王復活は自明のことになりつつある。魔王の能力が、世界に存在する魔法力に左右されるのだとすれば、メメルから魔法力を取り去ることは魔王の力を削ぐという意味で有効だ。そればかりではない。ここ数ヶ月のメメルの体調不良は、魔王復活が近づいていることの副作用なのである。死からメメルを遠ざけるにはどうしても必要な処置だった。 だがこの技術は危険をともなう。失敗すれば死、あるいは呪わしき運命がメメルを待ち構えているという。 メフィストに声を荒げたのは彼だけではない。 「私たちは、もう学園長に会えないかもしれない。それなのに……これじゃお別れも言えない!」 「これきり今生の別れになったとしたら、どうしてくれるんですか」 「そ、それはー、ですねー」 眉を八の字にしてメフィストはコルネを見る。 ごめんね、とコルネがきみたちに説明した。 「黙っていたのは、これが学園長の意志だったから。ぎりぎりまで普段通りの学園生活をつづけてほしい、っていうのがあの人の――学園長の考えだったんだ。アタシたちは学園長にしたがっただけ」 「お別れ、なんて寂しいことを言わないでください」 白いローブ姿の魔導師が奥から姿を見せた。かがやく黄金の髪、優雅なアンダーリムの眼鏡、紅茶色の瞳で一同を見回す。【シトリ・イエライ】、魔法の専任教諭である。 「むしろ皆さんは、メメル学園長にお会いいただくことになるかと思います。それも、いますぐ」 「集まってもらったのはそのためだ」 白い顔がぬっとあらわれた。シトリとは対称的に暗い髪色、ローブも炭のように黒い。ずっとそこにいたはずなのに、気配がしなかったため誰もが存在に気がついていなかった。魔法教諭の【ゴドワルド・ゴドリー】だ。 咳払いしてゴドワルドは言う。 「初期化技術の成功率は低い。メフィスト氏の推測では二割程度の成功可能性しかないらしい。私とイエライ先生はメフィスト氏と協力して、これを成功に導く方策を探した」 「問題の原因は被術者――学園長自身の心理的抵抗です。たとえ学園長が技術を受け入れるお考えでも、無意識のうちに学園長はご自分の魔力を守るべく心に壁をつくってしまうでしょう」 「ですのでー」 人差し指を立てるメフィストのかわりに、半歩踏みだしたのはコルネだ。 「アタシから……いいですか?」 「どーぞー」 メフィストはうやうやしく一礼した。コルネが言う。 「そのブロックをなくす、あるいは少なくとも削るため、みんなには今から旅をしてほしいんだ。行き先は、学園長の心にある過去の世界!」 「いきなりの話です。面食らったとしても当然でしょう」 シトリが補足する。 「学園長は現在、ご自身に催眠暗示をかけ過去の回想に入っています。おそらくは幼少期から、勇者のひとりとして魔王を封印したのちフトゥールム・スクエアを創設した時代、それから約二千年の学園運営……」 ゴドリーが引き継いだ。 「ワルフルド先生が加入した時期や、みなが入学した頃もあるかもしれない。ひょっとしたらつい先日の記憶もな。いずれにしても本当の過去ではない。学園長の記憶、『こんな風だった』と覚えておられる過去なのだ。諸君にはそれぞれ、特定の時代の学園長に接触介入して暗示をかけてほしい」 「メッセージだよ。学園長ひとりが重荷を背負う必要はない、優秀な生徒がいるから、ってね☆」 「学園長はんの心に入るため、うちも協力させてもろとる」 意外な声にきみたちはまた驚くことになった。リーベラント公女【マルティナ・シーネフォス】ではないか。 「うちは潜在的に魔法力を打ち消す力があるねん。それも、メメルはんとはむちゃくちゃ相性がいいみたいや。……いや、悪い? ともかく、うちがおったらメメルはんの心に入るためのガードはうんと下がるんや」 メメルの心に入るためには、試す者がマルティナと手をつなぐ。そしてマルティナがメメルにふれれば、一瞬でメメルの回想に入りこむことができるという。 コルネは拳をかためる。 「本当の過去じゃないから、多少の矛盾は大丈夫。でも複数の時代におなじ人が出てきちゃうと、驚いて学園長が目覚めてしまうかもしれないから、一人が選べるのはひとつの時代だけだよ」 きみたちは手分けしてメメルの半生を追体験し、各時代のメメルに同じメッセージを投げかけることになる。メメルが目覚めたとき、心の障壁は消え去っているだろうか。 シトリが言う。 「心の旅、ということになりますね」 「ボン・ボヤージュだな」 なぜかキメ顔でゴドリーが告げた。 「あ、そのセリフちょっと言いたかったですー」 メフィストはちょっと、うらやましげだ。
目指す、世界
土斑猫 GM
ジャンル
シリアス
タイプ
EX
難易度
とても難しい
報酬
多い
公開日
2022-04-01
予約期間
開始 2022-04-02 00:00
締切 2022-04-03 23:59
出発日
2022-04-10
完成予定
2022-04-20
参加人数
8 / 8
ソレは、此処に来る前。 『彼』によって教えられた事。 「……『悪魔』、ですか……?」 「そうデース」 訊き返した【リスク・ジム】に、【道化の魔女・メフィスト】は自慢の髭を弄りながら説く。 「便宜上、最も適する上にほぼ全ての世界線に共通する概念である『その単語』を使用していマース。ちなみに固有名詞は【人形遣い】デース」 「人形遣い……?」 「そうですネー。創造神が創った者達を人形に見立てて、『君達、折角創られたのに放って置かれてますね? 捨てられました?? ゴミですね??? なら、私が面白可笑しく遣ってあげましょう。感謝しなさい。ゴミを、有効利用してあげるんですから』なんてノリで『人形遣い』なんて自称してるんデスヨあんちくしょうハ」 正味、聞くだけで嫌悪感が酷い。 「聞くからに碌でもないヤツですが、そんなにも危険なのですか?」 「生易しい表現デスネー」 浮かぶ嫌悪を隠しもしない。この何でもおふざけで煙に巻いてしまう道化が。それだけ危険な……否、『どうしようもない』存在と言う事。 曰く、ソレは創造神の成り損ない。 輪廻転生を複数の世界で続け、魂の格を創造神の領域まで高めた存在。されど、ソコから世界創造の高みに至る研鑽を『かったるい』と放った挙句『無から有を創る神』ではなく、『既に存るモノを貪る』事で高みに登るを選択した下卑たる『悪魔』。 単純な力の強さで言えば、『真の創造神』に及ぶ筈はなく。 されど、その概念故に存在力は世界より強大。 本体は神の目を隠れ、過去の自分を分割し数多の世界へ散りばめる。 全ての存在は見下すべきモノ。自分は諦めたから、諦めない存在は妬ましい。だから。 世界を壊したい。 喰い散らしたい。 世界は放って置いても何処かで生まれて滅ぶけど、ソレを拾うだけじゃつまらない。 自分の手で壊すから。 自分の手で縊るから。 楽しいのだ。 破滅を。 滅びを。 絶望を。 あらゆる世界の。あらゆる命。 その怨嗟と断末魔。悲しみの慟哭を。 ただただ、純粋な悪意の澱。 ソレが、『人形遣い』と言う悪魔の真理。 「私達の世界も、アレのお陰で随分と不要な血が流れマシター」 いつかの悪夢を想起して、道化の魔女は深々と息をつく。 「昔に八災を盗み出して撒き散らしたのも、同じ奴でショー。現在【白南風・荊都】として暗躍している個体と。何を企んでかは知りまセンガ」 そうやって、ジワジワと世界を蝕んでいた。 魔王と言う強大な脅威の影で、ヒッソリと。 いつか、世界の寝首を掻っ切る為に。 「……我々の手で、倒せるモノでしょうか?」 リスクの問いに、メフィストは『可能デス』と返す。 「各世界線で暗躍する連中は、あくまで『分身』デス。本体に比べれば弱いデス。実際、私達の世界でも何体か討伐していマス。厄介なのは傷つけても終わりなく再生し、斃しても次が湧いて来る普遍性。そして……」 ――成長する事――。 「ヤツは侵入した世界の物を取り込めば取り込むほど強くなりマス。学習し、レベルを上げる術を知る存在デス。本来、異物であるヤツが力を使えばこの世界が持つ防衛機能で弾き出される筈デスが、ソレをこの世界起源の術を吸収し行使する事ですり抜けているのデス」 『怠惰なクセして、そう言うトコはマメなんデスヨ』とつくづく嫌なヤツだとまた息を吐く。 「些か、時間を与え過ぎマシタ。今のヤツは、相応に危険なレベルに達していると考えるべきデショー」 最後に摘んでいた髭をピンと弾いて、彼は言った。 「恐らく、かの個体はこれまで私達が確認した中でも最強に近い力を得ていマース。どうか、そのつもりで……」 「人形遣い……破滅の、悪魔……」 饕餮の封印領域。通じる門の奥にいる筈の、その存在。 メフィストから伝えられた情報を反芻し、リスクは小さな悪寒に身を震わせた。 ◆ 「……よもや気づかれていたとはな……。些か侮り過ぎていたか……?」 封印領域。 数多の神門と幾多の灯火に縛られた空間に、憎々しげな声が響く。 声の主は、女性。面影はかつて【白南風・荊都】と呼ばれた妖術師のモノ。けれど、怠惰に着崩した着物から覗く肌は病的なまでに生白く、血色に光る呪言の文字が鱗の様に走る。解けた髪は足元まで伸び、時折り青白く輝いて翼の様に広がる。妖しくも美しいソノ様は、正しく人の形をした人ならざるモノ。 ――ソレが本性かい? 人皮を被った擬物より、余程良いじゃないか――。 揶揄する声に、紅く染まった目を向ける。 「気に入ったなら夜の相手でもしてやろうか? 逃してくれるなら、反吐も我慢してやるぞ?」 ――遠慮しておくよ。後が怖い上に、大事な所が爛れて腐れ落ちそうだ。それに――。 ――お前の相手は、『アイツら』だからね――。 その言葉に、荊都だったモノ――人形遣いはククと笑う。 「何故、この期に及んで人なぞに私の始末を任せる? お前達か饕餮が手を下せば良かろうに」 ――饕餮の意思さ――。 「ああ?」 眉毛を潜める人形遣い。 ――饕餮が試したがってるんだ。あの勇者とか宣う連中の『可能性』とやらを――。 どう言う事だ? 怪訝に思う人形遣い。 饕餮はシステム。その思考体系は何処までも機械に近い。あらゆる無駄を省き、最適解のみを選び出す。ソレが、『可能性』などと言う極めて不確定要素の高い概念に興味を示すなど。 ――さあね――。 読み取り、三凶は言う。 ――饕餮がそう判断したなら、僕は――。 ――朕は――。 ――妾は――。 ――それに沿うだけさ――。 ああそうだった、と思い出す。 コイツら『三凶』は饕餮の魔力の分体。端末に過ぎない。個々の思考こそ持つが、饕餮に反する・疑問を抱くと言う機能はない。 まあ、ソレならそれで。 「奴等が此処に来るのなら、私にとっても僥倖だ。奴等を丸め込んで、饕餮を殺してやろう」 ――……――。 「出来ないと思うか? 正直、奴等の地力には私も感嘆している。『可能性』はあるぞ? 饕餮がご執心のな?」 ――……――。 「奴等にとって私は厄介者だが、饕餮とて危険物である事に変わりはない。私が奴等の世代の間は休眠する事を約束すれば、矛先が向くは饕餮だ。当然だな。未来の憂いよりも、目の前にある不安を忌避する。馬鹿な奴等のお約束だ。今も昔も変わらず、な」 ――そしてお前は、『饕餮の力』も盗むのか――? お喋りが、止まる。 ――其がお前が我らの筋に関与した目的だろう? 封印と解放の順を経て、お前は既に八災の力をコピーしている。加えて饕餮。そして、あわよくば魔王……――。 ――いずれ狙うは、お前自身が此の世を燃やす滅尽(メギド)の火と成る事――。 「お見通しか」 もはや隠す事もせず、哂う。 「では、どうする? やはりお前ら直々に私を殺すか?」 ――否――。 「何?」 ――『アイツら』が其を選ぶなら――。 ――『我』は、受けよう――。 ――饕餮は、そう判断した――。 「……どう言う、事だ……?」 ――知らない――。 ――僕は――。 ――朕は――。 ――妾は――。 ――饕餮に、従う――。 困惑する人形遣い。返る声は、もうなかった。 ◆ 澄んだ麗水称える贄の間。 唄い終わった【チセ・エトピリカ】は、ずっと見ていた。 何もない空。 その何処かで、沈黙するその存在。 届いただろうか。 届いた筈。 自分が、そう在れた様に。 ただ、願う。 その旨に、瑠璃の想いを抱き締めながら。 静かに。 確かに。 アップデートは、進んでいく。
異世界移民斡旋します
春夏秋冬 GM
ジャンル
イベント
タイプ
ショート
難易度
普通
報酬
通常
公開日
2022-04-11
予約期間
開始 2022-04-12 00:00
締切 2022-04-13 23:59
出発日
2022-04-18
完成予定
2022-04-28
参加人数
5 / 8
荒涼たる地に1人、奇妙な紳士が佇んでいた。 服装に奇異な点は無い。 ひろげれば雨傘にもなる長いステッキを携え、蝶ネクタイに燕尾服で整えている。 靴は光沢のある本革で、高級感のあるボーラーハットも頭に乗せていた。 公の場に出ても可怪しくない風体であり、それだけに彼自身の奇妙さを際立たせている。 何しろ彼には、肉体が無い。 手袋、燕尾服にスラックス、靴、いずれも中身はあるように見えるが、袖口と手袋の間、あるいはシャツと顔の間、いずれの空間も無なのである。 顔も、溶接工が被るような鉄面なのだ。フルフェイスで両眼は黒い窓、口の部分から蛇腹状の管が垂れている。 そんな奇妙な彼の名は、【スチュワート・ヌル】。 魔王軍幹部の1人、【エスメ・アロスティア】に仕える執事だ。 「さて」 1人この場に訪れた彼は、独りごちるように呟いたあと、呼び声を上げた。 「有用な話があるそうですね。約束通り、私独りで来ましたよ」 「どーもでーす」 ヌルに返したのは、異世界人である【メフィスト】。 今までどこにも居ないように見えて、魔法で姿を隠していたらしい。 にょいっと現れた彼は手土産を渡す。 「とりあえずー、どうぞー」 メフィストは、小さなクリスタルを取り出しヌルに渡す。 「貴方がハッキングしていた船の管理キーでーす」 「……本物のようですね」 確かめたヌルはメフィストに尋ねる。 「私と取引がしたい、とのことですが、その前に幾つか質問をしても構いませんね?」 「どうぞー」 質問を待つメフィストに、ヌルは尋ねる。 「何故私の居場所が分かったんです?」 少し前、飛空船団のある異世界に訪れたヌルだったが、そこで学園生達と一悶着を起こした後、こちらの世界に戻って来た。 その後しばらくして、ヌルにのみ伝わる連絡法――電子通信を用い、メフィストが取引をしたいと持ちかけて来たのだ。 「探知機器の類は付けられてない筈ですが」 「貴方の魔力の波長を捕えただけでーす」 メフィストは、板状の道具を取り出し説明する。 「飛空船団の世界にー、貴方のデータがありましたからねー。それを参考にして調べられるようにしたんでーす」 「それはユートピアの管理電子脳にハッキングしないと無理……あぁ、したんですね。それで、この管理キーを作ったというわけだ」 ヌルは管理キーを見詰めた後、いつでも攻撃できる準備をしながら言った。 「それで、私に何をさせたいんです?」 力を解放しようとした所に―― 「ユートピアに移民して欲しいんでーす」 メフィストの申し出は意外な物だった。 「……どういうことです? 私独りで、あんな場所に行けと?」 「違いまーす。貴方が連れて行きたかった人達も連れて行って下さーい」 「それも知って……あぁ、管理電子脳にハッキングした時に、私が『人間』だった頃のデータも見たということですか」 「そうでーす。貴方あちらの世界の出身なのですよねー? アビスとかいうヤッベー物をどうにかするためにー、その体になったみたいですがー」 「ええ。滅びを、少しでも避けるために。その時の実験で、どういうわけか、この世界に来ることになりましたが」 ヌルは用心深く尋ねる。 「貴方の申し出に間違えが無いなら、私だけでなくエスメラルダ様――魔王軍幹部と、その旗下にある魔族も移民させるということですか?」 「そうでーす」 「何故?」 「殺し合いしたくないからですよー」 さらっとメフィストは言った。 「殺し合いしなくて済むんならー、空挺都市のひとつぐらい安いもんでーす」 「……ずいぶんと勝手なことを。あの都市は無人ですが、他の空挺都市が受け入れるとでも――」 「それをどうにかするのに今まで掛かったんですよー」 「どういう――」 ヌルが問い掛けようとした時だった。 「空挺都市間での協議は、すでに終わらせている。スチュワート少尉」 「――!」 突然聞こえてきた懐かしい声に、思わずヌルは押し黙り凝視する。 混乱する心を治める間を空けて、ヌルは彼を呼んだ。 「【ガウラス・ガウリール】少佐」 「最終的な階級は特佐になったよ、スチュワート少尉。だが今では軍を離れているのでね。だからガウラスで構わない。私も、君のことはヌルと呼ばせて貰う」 既に老年の域に達しているガウラスだったが、かくしゃくとした態度でかつての部下の名を呼んだ。 「積もる話はあるが、それは向こうに君達が来てからのことだ。今は、空挺都市同盟の決定を伝えよう」 特使として、ガウラスは言った。 「無人空挺都市ユートピアの居住権を進呈する。見返りとして、魔力の取り引き相手としての窓口を希望する」 「要はー、魔力をくれるなら空挺都市あげるってことでーす。こちらの物品をてきとうに持って行けばー、それは成立しますよー」 「それで、いいのですか……?」 不安を滲ませるヌルに、ガウラスは言った。 「むしろこちらは、魔力の補給が急務なのでな。学園との取引も考えているが、取引相手は多い方が良い。正直、今まで存在したこと自体知られていなかった船ひとつで、魔力の供給先が増えるなら、こちらとしても願ったりだ」 「……随分と、物分かりの良い時代になったようですね、そちらは」 「なに、色々と苦労した者が多かったというだけだ。サンタクロース運送も苦労してくれたが」 どこか苦笑するような表情を見せた後、ガウラスは言った。 「とにかく我々としては、君達を取引相手として望んでいる。こちらの世界では色々とあるようだが、我々としては関与しない。お互い中立を保ちつつ、利益を探り合いたい」 「ウィンウィンになりましょーってことですよー」 「……なるほど」 状況を理解したヌルは言った。 「それが事実なら、こちらも取引の用意はあります。ですが、それを学園は受け入れるのですか?」 「受け入れてもらいましょー。向こうも魔王との戦いを前にー、余計な戦力は使いたくないでしょうしー」 「魔王との戦いに集中したいと? ですが、そのあとにこちらを襲撃することは無いのですか?」 慎重に尋ねるヌルに、メフィストとガウラスは応える。 「向こうの世界に行っちゃったらー、こちらの世界から転移できないようにすればいいだけですよー。貴方達が住む船に転移できないようにするぐらいならー、船の機能を使えば出来る筈でーす」 「他の船に転移して、そこから君達の船に侵攻する手段はあるだろうが、それはこちらが断固として拒否する。我々としても、余計な争いは望まないのでね」 「……分かりました。貴方達、この世界に属さない方達の意見は、そういうことなのですね。ですが、それだけでは足らない」 先のことも見通し、ヌルは交渉する。 「学園との盟約を結びたい。私達がユートピアに移住する邪魔をせず、今後危害を加えないという確約を望みます」 これをメフィストは予想していたのか、すぐに返した。 「分かりましたー。学園の代表者の人達にー、盟約を結んで貰いましょー。もし破ろうとしたならー、盟約を記した書が壊れてー、知らせるような魔法を組み込みまーす。それなら不意を突かれることも無いですしー、いいんじゃないですかー?」 「いいでしょう。では、またこの場で。盟約を結ぶとしましょう」 かくして魔王軍幹部と、不可侵の盟約を交わすことになりました。 その代表者として、貴方達は参加することになります。 そこでアナタ達は、何を喋り、どうするのか? ひとつの行く末が、アナタ達に掛かっています。 頑張ってください。
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